2024年5月22日水曜日

【裏でロシアが手を引いている?】ジョージア新法案へ大規模デモ、プーチンがEU加盟阻止を図る地政学的理由―【私の論評】米国とジョージアの「外国代理人法」の違いとその地政学的影響

【裏でロシアが手を引いている?】ジョージア新法案へ大規模デモ、プーチンがEU加盟阻止を図る地政学的理由

岡崎研究所

まとめ
  • ジョージアが「外国の代理人」法案を可決し、大規模な抗議デモが発生
  • この法案はロシア式で、NGO・メディアなどに「外国の代理人」登録を義務付ける
  • 法案の背後にロシアの影響力があり、ジョージアのEU加盟を阻止する狙いとの指摘
  • 与党「ジョージアの夢」のロシア寄りの路線を反映しているとの見方
  • 10月の総選挙控え、野党・市民社会の監視勢力への対抗策との危惧

 ジョージアは5月14日、ロシアと同様の「外国の代理人」法案を可決し、首都トビリシでは大規模な抗議デモが起きている。この法案は、資金の20%以上を外国から得ているNGO、活動家団体、メディアなどに「外国の代理人」として登録することを義務付けるものである。

 法案が審議入りした際、ワシントン・ポストは、ジョージアの欧州連合(EU)加盟を阻害する可能性があると指摘した。ジョージア大統領も法案を非難し、ロシアが法案の背後にいて、ジョージアをEUから遠ざけようとしているのではないかと批判した。

 ジョージアは、かつてロシアと戦争を経験し、一方ではEU・NATO加盟を目指す一方で、ロシアとの関係修復も重視してきた。今回の法案をめぐっては、与党「ジョージアの夢」の実質的な指導者であるビジナ・イヴァニシヴィリの影響が指摘されている。同党は、ロシアへの宥和的姿勢と共にEU加盟計画を潰そうとしているのではないかと懸念されている。

 10月の総選挙を控え、NGOやメディアなどの監視勢力への対抗策という狙いも指摘されており、この法案がジョージアの民主主義の行方に大きな影響を及ぼすと見られている。ジョージアは、ロシアと欧米の板挟みとなり、外交的に難しい舵取りを迫られている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】米国とジョージアの「外国代理人法」の違いとその地政学的影響

まとめ
  • 米国の「外国代理人登録法(FARA)」は透明性を目的に1938年に制定されたが、ジョージアの提案された「外国代理人」法案はメディアやNGOを対象にし、政治的抑圧の手段として使われる恐れがあると批判されている。
  • ジョージアの法案は、その範囲の曖昧さや民主主義への影響に焦点を当てた批判を受けており、ロシア式の手法として見られている。
  • ジョージアは地政学的に重要な位置にあり、東ヨーロッパと西アジアの間に位置し、黒海に面しており、ロシアとの緊張関係がある。
  • ジョージアは1991年にソビエト連邦から独立し、その後、民主化と経済改革を進めてきたが、ロシアの影響力は依然強く、欧米とロシアの板挟み状態にある。
  • ジョージアの「外国代理人」法案とNATO加盟問題は、ロシアがジョージアの民主化や西側との関係強化を阻止しようとしていることに関連している可能性がある。

実は「外国の代理人法」の類似法は、米国などにも存在し、これは妥当なものとされていますが、ジョージアのそれはなぜ問題とされるのでしょうか。

米国の「外国代理人登録法(FARA)」は1938年に制定され、外国政府や外国政治組織の代理として行動する個人や組織がその関係を公開し、透明性を保つことを目的としています。一方、ジョージアで提案された「外国代理人」法案は、外国から資金を受け取るメディアや非政府組織(NGO)を対象にしており、その内容と背景が異なります。

米国特許出願における現地代理人と国内代理人

このジョージアの法案は、ロシア式の手法として批判されており、政治的抑圧の手段として使用される可能性があるという懸念があります。批判は、法の範囲の曖昧さや民主主義への影響などに焦点を当てています。

米国のFARAとジョージアの提案されている法案は、表面上似ているかもしれませんが、適用方法、目的、そして特に政治的文脈において大きな違いがあり、ジョージアの法案に対しては、政治的抑圧のツールとして使用される恐れがあるという強い批判が寄せられています。

ジョージアは地政学的に極めて重要な位置にあり、その重要性は複数の要因によって強調されています。

ジョージアは、東ヨーロッパと西アジアの境界に位置する国で、黒海に面しています。首都はトビリシで、面積は約69,700平方キロメートル、人口は約370万人です。ジョージアは多様な文化と歴史を持ち、古くからシルクロードの一部として重要な役割を果たしてきました。

ジョージアは1991年にソビエト連邦から独立し、その後、民主化と経済改革を進めてきました。現在は議会制共和国であり、ヨーロッパとの関係強化を目指しています。主要産業には農業、観光業、ワイン生産などがあります。地理的には山岳地帯が多く、自然景観が豊かな国です。また、多くの民族が共存し、多様な宗教と文化が共存しています。

ジョージアは南コーカサス地域に位置し、ロシアの最南西部に接しています。この地域は、歴史的にも戦略的にも重要な交差点であり、ジョージアはロシア、トルコ、アゼルバイジャン、アルメニアと国境を接しています。さらに、ジョージアは黒海に面しているため、その海上交通の要衝ともなっています。この地理的な位置は、ロシアとの軍事的緊張関係にも寄与しています。

ジョージアは旧ソ連の一部であり、1991年のソ連崩壊後、独立国家として再出発しました。しかし、独立後もロシアの影響力は強く残り、ジョージアは欧米勢力とロシア勢力の板挟み状態にあります。

特に2008年には、南オセチアとアブハジアを巡る紛争が原因でロシアとの戦争が勃発しました。この戦争の結果、南オセチアとアブハジアは事実上の独立状態にあり、ロシアの支持を受けています。このような国内の分離独立地域は、ジョージアの安定にとって大きな課題となっています。


一方で、ジョージアは欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)への加盟を目指しており、欧米との関係強化を図っています。しかしながら、ロシアとの関係修復も無視できない重要な課題です。

ロシアとの経済的・政治的なつながりは依然として強く、完全に切り離すことは現実的ではありません。このように、ジョージアはロシアと欧米の狭間に位置する地政学的要衝であり、両陣営から常に影響を受けやすい状況下にあります。

総じて言えば、ジョージアの地政学的重要性はその地理的位置、歴史的背景、そして国際関係における微妙なバランスに由来しています。これにより、ジョージアは地域の安定と安全保障において重要な役割を果たしており、その動向は国際社会にとっても大きな関心事となっています。

ロシア政府がジョージアのNATO加盟に強く反対しているのは確かであり、これは上でも述べたようなジョージアの地政学的な位置やロシアの安全保障上の懸念から来ています。ジョージアがNATOに加盟することは、ロシアにとって大きな脅威とみなされるためです。

ジョージアで提案されている「外国代理人」法案についても、ロシアの影響力が関係している可能性があります。ロシアは、かつて自国で類似の法律(「外国エージェント」法)を導入し、非政府組織(NGO)やメディアに対する統制を強化しました。このような法律は、政府に批判的な団体や個人を抑圧する手段として使用されることが多いです。


ジョージアの「外国代理人」法案がロシア式と批判されるのは、まさにこの点にあります。ロシアがジョージアに対して影響力を行使し、同様の法律を導入させることで、ジョージア国内の欧米寄りの動きを抑制しようとしているのではないかとの見方があります。

したがって、ジョージアの「外国代理人」法案の成立とジョージアのNATO加盟問題は、広い意味で関係している可能性があります。ロシアはこの法案を通じて、ジョージアの民主化や西側との関係強化を阻止しようとしていると考えられるからです。

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