2016年3月18日金曜日

【お金は知っている】消費増税の災厄もたらす御用学者と無責任議員 自身の「誤り」にダンマリ ―【私の論評】増税推進派の似非論評に騙されない方法(゚д゚)!

【お金は知っている】消費増税の災厄もたらす御用学者と無責任議員 自身の「誤り」にダンマリ 

衆院第1委員室に到着し、質問者の民主・野田佳彦前首相(左)とあいさつ
しながら着席する安倍晋三首相=国会内で2016年2月19日午後0時58分

来年4月に予定されている消費税率10%への引き上げの中止は既成事実化しつつあるが、小欄や産経新聞などで消費税増税中止を主張してきた拙論はそれでよしとするつもりはない。デフレ下の増税・緊縮財政という国際的に見れば非常識きわまりない判断を繰り返す日本の経済知性の貧困さは解消しそうにないのだ。

たとえば、消費税増税を首相に勧めてきた日本の経済学者・エコノミストの財務省寄りの主流派多数が、自らの「誤診」についてダンマリを決め込んでいる。かれらは、増税による景気への打撃の深刻さやデフレ圧力の大きさを軽視し、2014年4月からの消費税率5%から8%への引き上げばかりか、民主党・野田佳彦政権時代の3党合意通り税率10%への再引き上げを15年10月から実施せよと安倍晋三首相に進言したのだった。

首相はそれを押し返し、17年4月に先送りしたのだが、景気条項を外してしまった。景気が悪かろうと、再延期はしないと約束させられたわけである。

8%への増税後、家計消費は低迷を続け、実質経済成長率は14年度に続き15年度もマイナスに陥りそうな情勢だ。この状況は橋本龍太郎政権による1997年度の消費税増税・緊縮財政後と重なる。国内総生産(GDP)の6割を占める家計が増税で痛めつけられる。さらに、アジア通貨危機という外部からのショックの追い打ちをかけられて企業の設備投資意欲が冷え込み、慢性デフレが始まり、現在に至る。

12年12月に発足した第2次安倍政権が打ち出したアベノミクスによって景気は浮揚しかけたが、またもや消費税増税と緊縮財政で失速させてしまった。

東大教授を中心とする主流派学者たちにはふんだんに国家予算をあてがわれている。財務官僚が仕切る政府の諮問機関のメンバーとして経済・財政政策に少なくない影響力を持っている。I教授は8%増税時には「増税しなければ国債相場が暴落する」と騒いだ。

財務官僚上がりの黒田東彦(はるひこ)日銀総裁はそれに唱和して国債相場暴落時には、日銀として対応できない、と首相に警告した。首相は専門家の見解を無視できず、前述したように17年増税に向け「不退転の決意」を示さざるをえなかった。

御用学者以上に責任が重いのは、政権と与野党を含む政治家である。日本経済再生不能の最大の犠牲者は現役、さらに次世代であるからだ。

ところが野党第1党の民主党執行部は野田前政権の増税法案という失政にほおかむりしたい。だから増税中止を言い出せないただの烏合(うごう)の衆である。内閣官房参与の浜田宏一エール大学名誉教授は10%への税率引き上げについて、「今の政権ではない人が主に決めたこと。増税したら船がガクっとくることがわかっている時に、3年前の船長と約束したのだからやりましょう、とは言えない」と語った(14日付ロイター)。

安倍首相は増税凍結を宣言すればよいだけだが、それだけでよいはずはない。 (産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】増税推進派の似非論評に騙されない方法(゚д゚)!

上の記事で、"日本の経済学者・エコノミストの財務省寄りの主流派多数"といわれる人たちのうちでも、より罪の重いと思われる、経済学者のリストについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。そのリストを再度以下に掲載します。

「震災復興にむけて」
共同提言者・賛同者(2011年6月15日10:00現在)(敬称略)

伊藤 隆敏 (東京大学)
伊藤 元重 (東京大学)
浦田 秀次郎 (早稲田大学)
大竹 文雄 (大阪大学) 
齊藤 誠 (一橋大学)
塩路 悦朗 (一橋大学) コメント土居 丈朗 (慶応義塾大学)
樋口 美雄 (慶応義塾大学)
深尾 光洋 (慶応義塾大学)
八代 尚宏 (国際基督教大学)
吉川 洋 (東京大学)

(★印のついた方は「第3提言の賛成は留保」)
青木 浩介 (東京大学)
青木 玲子 (一橋大学)★ コメント赤林 英夫 (慶應義塾大学)
安藤 光代 (慶應義塾大学)
井伊 雅子 (一橋大学)
飯塚 敏晃 (東京大学)
池尾 和人 (慶應義塾大学)
生藤 昌子 (大阪大学) コメント石川 城太 (一橋大学)
市村 英彦 (東京大学)★ コメント伊藤 恵子 (専修大学)
岩井 克人 (国際基督教大学)
祝迫 得夫 (一橋大学)
岩壷 健太郎 (神戸大学)
宇南山 卓 (神戸大学)
大来 洋一 (政策研究大学院大学) コメント大野 泉 (政策研究大学院大学) コメント大橋 和彦 (一橋大学) コメント大橋 弘 (東京大学) コメント岡崎 哲二 (東京大学) コメント小川 英治 (一橋大学)
小川 一夫 (大阪大学)
小川 直宏 (日本大学)
翁 邦雄 (京都大学)★ コメント翁 百合 (日本総合研究所)
奥平 寛子 (岡山大学)
奥野 正寛 (流通経済大学)
小塩 隆士 (一橋大学)
小幡 績 (慶應義塾大学)
嘉治 佐保子 (慶應義塾大学) コメント勝 悦子 (明治大学) コメント金本 良嗣 (政策研究大学院大学)
川口 大司 (一橋大学) コメント川﨑 健太郎 (東洋大学) コメント川西 諭 (上智大学) コメント北村 行伸 (一橋大学)
木村 福成 (慶應義塾大学)
清田 耕造 (横浜国立大学)
清滝 信宏 (プリンストン大学)
國枝 繁樹 (一橋大学)
久原 正治 (九州大学)
グレーヴァ 香子 (慶應義塾大学) コメント黒崎 卓 (一橋大学)
黒田 祥子 (早稲田大学)
玄田 有史 (東京大学)
鯉渕 賢 (中央大学)
小林 慶一郎 (一橋大学) コメント小峰 隆夫 (法政大学)
近藤 春生 (西南学院大学)
西條 辰義 (大阪大学) コメント櫻川 幸恵 (跡見学園女子大学)
櫻川 昌哉 (慶應義塾大学) コメント佐々木 百合 (明治学院大学) コメント佐藤 清隆 (横浜国立大学)
佐藤 泰裕 (大阪大学)
澤田 康幸 (東京大学)
清水 順子 (専修大学) コメント新海 尚子 (名古屋大学) コメント鈴村 興太郎 (早稲田大学 / ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ) コメント清家 篤 (慶應義塾大学)
瀬古 美喜 (慶應義塾大学)
高木 信二 (大阪大学)
高山 憲之 (一橋大学)
武田 史子 (東京大学)
田近 栄治 (一橋大学) コメント田渕 隆俊 (東京大学)
田村 晶子 (法政大学)
田谷 禎三 (立教大学)
中条 潮 (慶應義塾大学) コメント筒井 義郎 (大阪大学)
常木 淳 (大阪大学)
釣 雅雄 (岡山大学)
中田 大悟 (経済産業研究所)
中村 洋 (慶應義塾大学) コメント長倉 大輔 (慶應義塾大学)
畠田 敬 神戸大学
林 文夫 (一橋大学)
原田 喜美枝 (中央大学)
深川 由起子 (早稲田大学) コメント福田 慎一 (東京大学)★
藤井 眞理子 (東京大学)
藤田 昌久 (経済産業研究所)
星 岳雄 (UCSD)
細田 衛士 (慶應義塾大学)
細野 薫 (学習院大学) コメント堀 宣昭 (九州大学)
本多 佑三 (関西大学) コメント本間 正義 (東京大学)
前原 康宏 (一橋大学)
松井 彰彦 (東京大学)★
三浦 功 (九州大学)
三重野 文晴 (神戸大学)
三野 和雄 (京都大学)
森棟 公夫 (椙山女学園)★ コメント柳川 範之 (東京大学)
藪 友良 (慶應義塾大学)
山上 秀文 (近畿大学) コメント家森 信善 (名古屋大学)
吉野 直行 (慶應義塾大学)
若杉 隆平 (京都大学)
和田 賢治 (慶應義塾大学)
渡辺 智之 (一橋大学)

以 上
なお、このリストは、このブログに掲載した、高橋洋一氏の記事から引用したものです。
その記事のURLを以下に掲載します。
増税勢力はこうして東日本大震災を「利用」した~あの非情なやり方を忘れてはいけない―【私の論評】財務省、政治家、メディアの総力を結集した悪辣ショック・ドクトリンに幻惑されるな(゚д゚)!
被災地にかがみこむ若い女性
このリストそのものは、東日本震災の復興のために、復興税を用いるべきであると、積極的に提言したか、そこまでいかなくても、賛同した人たちです。このリストには、無論、上の記事で田村秀男氏が、I教授とした方も実名で含まれています。

そうして、このリストに含まれている人々は、その後8%増税を積極的に導入せよと提言した人々や、そこまでしなくても、賛同しました。

このリストを見て、自分の母校の教授などの名前が含まれていません。本当に良かったと思います。まあ、母校の経済学の先生たちは、単に経済学では主流派ではないということだけなのかもしれませんが、少なくとも、復興税などという、非常識で古今東西に例を見ない、愚かな提言などしていなかったことを知り、何やら誇らしい気持ちになりました。

さて、以下には、一昨年の8%増税のに関する意見を聴いた有識者会議に参加した人々のリストです。賛成、反対、条件付き賛成、賛否の表明なしの項目で分類してあります。



一昨年の消費税が8%に引き上げられた事は記憶に新しいです。その増税によって景気が非常に悪化した事は、現在では周知の事実です。

平成14年には、一時統計上では、「東日本大震災以上、リーマンショックに次ぐ」景気悪化がありました。下げ幅だけ見れば、あの悲惨なリーマンショック以上の景気悪化に見舞われたのです。

しかし、これは未だ序の口でしかありませんでした。結局今年度も10月-12月期はマイナスで、通年でもマイナスになりそうな状況です。今後さらに景気が悪くなりそうです。これは、消費税が5%に引き上げられた時もそうでした

税収増をお題目に8%へ引き上げられた消費税ですが、このままだと、日本経済が縮小して、税収は自然減を迎えるこになるでしょう。

賛成者は経済界の大物、国際資本関係者など、利権を食い漁って来た連中が多いです。彼らは己が利益の為に増税に賛成をし、なおかつ増税されても自分自身は、痛くも痒くもない人間達なのでしょう。

しかし、いわゆる民間エコノミストの中には、嘘を付き、過ちを謝罪せず、のうのう居座っている連中もいます。以下のような連中です。
熊谷亮丸(大和総研チーフエコノミスト)
武田洋子(三菱総研チーフエコノミスト)
菅野雅明(JPモルガンチーフエコノミスト)
高田創(みずほ総合研究所チーフエコノミスト)
熊谷亮丸

彼らが何をいい、何を間違ったか。そしてこの景気悪化を目前にしつつも、未だに増税に賛成という許すべからざる行為を行っているエコノミストがいるという事。

そもそも民間エコノミストとは、国が富むことにより、顧客にも富んでもらうため、に正しい政策提言を行い、間違った政策があれば批判を加える事が本来の使命だと思います。

経済予測だけエコノミストの仕事ではないはずです。とはいいながら、彼らの場合は、経済予測すら外しているので、全く論外です。しかも、あまりにも常識からかけ離れているということで、箸にも棒にもかかりません。こんな連中が、したり顔で、日々日本経済や金融について語っている事自体が全く信じられません。

国を貧しくし、顧客や潜在顧客等に対しても貧しくなるような道筋を作った人間達は、しかるべき批判を加えなければなりません。

有識者会議にて増税に反対したのは、片岡剛士氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員)等、たったの六人です。

今の日本では、経済に関してはこのような非常にお粗末な状況です。大学・大学院の教授や民間エコノミストがこの体たらくです。

このような状況だからこそ、過去の日本は失われた20年というとんでもない停滞状況を迎えてしまったのです。そうして、愚かな消費税増税や、愚かな金融引き締めさえしなければ、日本はあのようなひどい停滞をしなかったはずです。

このようなことになってしまっのか、昨日のこのブログでは、以下のように掲載しました
最近の日本では、「体系知」を体得していない人々が増えたのだと思います。そのためでしょうか、過去の日本は、失われた20年というとんでもない状況に見まわれ、停滞しつづけました。
その記事のリンクを以下に掲載します。この記事をまだ読まれていない方は、是非ご覧になってください。
二度の世界大戦で敗れたドイツが、それでもヨーロッパの「頂点」に君臨し続ける本当の理由
ドイツのメルケル首相(左)は理系、フランスのオランド大統領は文系
 詳細は、 この記事をご覧いただくものとして、体系知とは、ドイツの大学の改革を行った、シュライエルマッハーによる概念です。体系知についてのみ以下にコピペしておきます。
シュライエルマッハーの考え方は、「知は体系知でなければ意味がない」というものです。オタクのように、断片的な知識を山ほど持っていても意味はない。それらの知識がどう関係しているのか。そうした「体系知」を体得しないと、知は完成しないという考え方です。
 8%増税など、平気で推進した人々のうち、本来指導的立場にある人たちは、それなりに頭もよく、優秀なはずなのに、なぜこのような誤りをおかしてしまったかといえば、彼らはそれなりに専門知識などは持っているのでしょうが、残念ながら、「体系知」を持っていないのだと思います。だから、平気あのような酷いことをしでかすのです。

上の記事で、私は「このリストを見て、自分の母校の教授などの名前が含まれていません。本当に良かったと思います」と掲載しました。

これは、おそらく偶然ではないと思います。私は大学を受験するときには、意図的に理系を選択しました。理系でも、理系中の理系である、理学部を選びました。

なぜそのようなことをしたかといえば、文系の大学や、総合大学の文系には、とんでもない教授がいることがおうおうにしてあるからです。はっきりいえば、いわゆる、反日的であるとか、左翼思想にどっぷりつかった連中です。

大学自体もなるべく、文化系に学部にもなるべくそういう人がいない大学を選びました。そうして、理系に進んだのは、こういう連中の感化を受けるのは絶対嫌だったからです。そうはいいながら、教養課程においては、文系の科目も履修しなければなりません。ですから、文系の科目を選択するときには、徹底的に担当教授の実績や、思考傾向など調べあげました。

その結果、自分の水準で、偏りがないと思われる人の科目しか履修しませんでした。そのせいですか、大学生活を日々清々しく過ごすことができました。

私の出身大学の経済学部の教授の名前が、先のリストに掲載されていないのには、そのようなことも関係しているのかもしれません。無論、私が学生だった頃は、随分昔なので、このリストに掲載されている人たちに習うなどということはないでしょうが、それにしてものリストに掲載させている人たちの、先生に習う可能性は十分あったと思います。

いずにせよ、習うべき先生をこのように選ぶということを真剣に行えば、多少とも「体系知」に近づくことができるのかもしれません。私の「体系知」など、非常に範囲も狭くて、お恥ずかしいものなのですが、それにしても、社会人になってから、大学で習ったことも随分役立ちました。

少なくとも、私のように、大学などで、受動的に学ぶだけではなく、習う先生を出来る限り、選ぶということで、体系知に近づくことはできるのだと思います。

ただし、どうしても入りたい大学に、とんでもない教授がいて、その教授の科目を履修しなければならない場合など、本当に辛いことだと思います。しかし、そん場合でも、きっと体系知を身に付ける方法はあるのだと思います。

たとえば、とんでもない教授の授業を受けざるをえなくても、ただ単に、受動的に授業を受けるのではなく、その教授の授業を鵜呑みにするのではなく、いわゆるクリティカル・シンキング(批判的思考)を持って受けるということが考えられます。


そうすることにより、批判的思考ながら、その教授の思考を徹底的に学び、試験や小論文では、無論、満点が取れるように頑張り、しかし、結果として、面従腹背で、クリティカル・シンキングの方法を徹底的に身に付けるなどのことが考えられます。

そうして、その他にも、昨日も示したように、体系的な読書をして、これはと思う人と、書籍の内容について話し合いをするなどのことをすれば、きっと、体系知の真髄を体得でき、それこそ、増税派の人々が一見まともなことを言っていたとしても、それに惑わされようなこともなくなると思います。

特に、体系的な読書をして、良い人に巡り合えれば、大学や大学院に行かなくても、「体系知」を体得し、知を完成できる機会を得ることができると思います。

たとえば、あのYouTuberとして有名な、Kazuyaさんなど、そうかもしれません。彼は、高卒だそうですが、それこそ、並の大学院卒の人などよりも、はるかに優れているところがあります。おそらく、読書など結構されているのだと思いますし、それに倉山満氏という人物に巡り会えたことが、彼をして「体系知」を体得させることにつながっているのだと思います。

倉山満氏(左)、Kazuya氏(右)
安倍総理は、長期政権を築くことができれば、増税を推進した財務省の高級官僚や政治家、増税推進一色だったマスコミ、上記の2つのリストに掲載されている人や、このリストから漏れている人でも、増税を推進したり、それに賛同した人たちをその罪の重さに準じてそれ相当の処断を何らかの方法でしていただきたいものです。

これを曖昧にしてしまい、そのようなことをしなければ、いつまたとんでもない経済政策が実行されて、日本が再び停滞することになってしまいかねないと思います。そうしてて、私たち自身も、ありとあらゆる方法をとって、似非論評には騙されないようにすべきものと思います。

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2016年3月17日木曜日

二度の世界大戦で敗れたドイツが、それでもヨーロッパの「頂点」に君臨し続ける本当の理由―【私の論評】「知覚」に鋭敏な日本人がドイツ流「体系知」を身につけたら世界最強になる?

二度の世界大戦で敗れたドイツが、それでもヨーロッパの「頂点」に君臨し続ける本当の理由


佐藤優直伝・社会人のための「教養」講座 現代ビジネス


ドイツのメルケル首相(左)は理系、フランスのオランド大統領は文系

20世紀は「ドイツの時代」

今、日本では大学教育改革が話題になっています。文部科学省は、「人文系を軽視しているわけではない」と言いながら、ごく一部の超エリート校だけを文理両方を教える総合大学とし、あとは○○大学という名前だけ残して、事実上の専門学校として再編しようと考えているようです。

しかし、本当に人文系の知識は役に立たず、経済学や工学などの「実学」といわれる学問だけが重要なのでしょうか。この講座には「役に立つ教養」という言葉が入っています。今回は、国際社会の中で教養が果たす役割について考えてみましょう。

近現代史の第一人者である、イギリスの歴史家エリック・ホブズボームは、「20世紀はドイツの時代だ」と述べています。

ドイツは、19世紀末から後発の工業国として急速に国力を増してきました。20世紀に入り、この新興国をどうやって取り込むかという問題に直面した世界は、2度の世界大戦を経て、どうにか軟着陸に至った。これが20世紀最大の事件であり、歴史の主役はドイツだったということです。

今、ミュンヘンのレストランで、ビールとシュニッツェル(カツレツ)を注文するとしましょう。

おそらく、その店の経営者はドイツ人で、清掃係はかなりの確率でチェコ人かハンガリー人です。カツに使われている豚肉はハンガリーから輸入されていて、そのハンガリーの養豚場で働いているのはウクライナ人が中心。豚のエサもウクライナから来ているはずです。

つまりドイツは、2度の世界大戦に敗れたにもかかわらず、ヨーロッパの中でドイツ人を頂点としたシステムを作り上げた。EUの統合通貨ユーロも、ドイツの通貨マルクを拡大させたものとみることができます。

では、なぜドイツは勝者になれたのか。見逃せないのが、大学教育です。ドイツの大学教育は、ヨーロッパにおけるライバル・フランスの教育とは対照的でした。

フランスでは19世紀初頭、ナポレオンによって学校改革が行われ、大学は徹底した実学重視になりました。神学や文学なんて教えるのはやめて、工学・経済学・軍事学などの実学だけにせよ、と。今も、フランスの国立大学のほとんどには神学部がありません。

ナポレオン 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
一方、ドイツでは今でも、神学部がないと総合大学を名乗ることができない。ドイツがなぜ神学を重視するかというと、「目に見える世界だけでなく、目に見えない世界を学んでこそ、知はバランスを保てる」という考え方があるからです。こうした考え方をドイツに定着させたのが、18世紀から19世紀にかけて活躍した、フリードリヒ・シュライエルマッハーという神学者でした。

シュライエルマッハーの考え方は、「知は体系知でなければ意味がない」というものです。オタクのように、断片的な知識を山ほど持っていても意味はない。それらの知識がどう関係しているのか。そうした「体系知」を体得しないと、知は完成しないという考え方です。

ベルリン大学の神学部長だったシュライエルマッハーは、専門科目を教える教授にも教養科目を受け持たせた。そうしてさまざまな学問の交流をはかり、生きた「体系知」を生み出してこそ、初めて大学の存在意義があると彼は考えたわけです。

これが19世紀ドイツの大学教育をつらぬく方針になったのですが、実は21世紀の現在も、これと同じような考え方にもとづいて教育を実践している国があります。そう、アメリカです。

例えば、ハーバード大学の学部では教養重視の授業が行われていて、専門的なことは基本的に大学院で学びます。昔のドイツの大学と同じようなシステムです。ちなみにハーバード大学の授業料は年間7万ドル。日本円にするとおよそ800万円で、当然、ここで学べるのは富裕層の子供たちだけです。

日本が目指すべきもの

フランスのような実学志向ではなく、教養を中心とした「体系知」を重んじたドイツは、20世紀の主役となった。21世紀の今も、ヨーロッパでは「ドイツの世紀」が続いていると言っても過言ではないでしょう。

この実例から分かることは、すぐに役に立つ「実学」は、短期的に、あるいは狭い範囲でしか役に立たず、一見すると役に立たなそうに見える「教養」こそが、案外役に立つことがあるということです。

私たちは普段、無意識のうちに、合理主義や近代的なものの見方にもとづいて行動しています。国と国の関係においても、国際法や国家の主権があることが、自明の前提になっている。

ところが世界には、この前提が通用しない地域も珍しくありません。例えば、中東で起きているイスラム教シーア派とスンニ派の紛争の背景には、近代以前の世界観が横たわっているといえます。

今年1月、サウジアラビアとイランが国交を断絶しました。きっかけとなったのは、昨年、サウジアラビアのメッカ近郊で起きた巡礼者の将棋倒し事故です。

日本ではあまり報じられていませんが、この事故で2000人以上が亡くなり、うち400人以上がイラン人でした。激怒したイラン最高指導者のハメネイ師は、「サウジに責任を取らせる」と言っています。

ところが、イランとサウジが国同士のレベルでは国交断絶しても、サウジはイランからの巡礼者を受け入れ続けています。ということは今後、メッカでイランとサウジの巡礼者がいつ大規模な衝突を起こしてもおかしくないわけです。

しかし「聖地巡礼」となると、その瞬間に、イスラム教徒の中では近代、すなわち国家という枠組みとは全く異なるスイッチが入ってしまうのです。

近代合理主義だけでは捉えきれない、この世界の成り立ちと、どう向きあっていけばよいのか。少なくとも、日本人がちやほやする「実学」だけでは、とうてい太刀打ちできません。「実学」には、限界があるのです。

【私の論評】「知覚」に鋭敏な日本人がドイツ流「体系知」を身につけたら世界最強になる?

確かに、「実学」だけではどうにもならないことがあります。特に、企業の中で働くにしても、作業や仕事レベルまでは「実学」だけでどうとでもなるのですが、本当の意味で顧客を知る、顧客の変化を知る、自分たちの顧客は誰かという根源的な問題を考える上では、「実学」だけではあまり役に立ちません。

いくら、昔ならとても扱えないような巨大なデータを集めて、これまた一昔前までは、考えられないような高度な処理能力を持つコンピュータで解析しても、自分たちの顧客を知ることはできない場合もおうおうにしてあります。

特にイノベーションを起こすときには、そのようなことが言えます。今までの延長線上で物事を考え、それを改善するというのなら、巨大データを集めて、コンピュータで解析すれば、答えは出るかもしれません。しかし、今までの延長線上にはないイノベーションを起こそうとするときには、それだけではどうにもなりません。

イノベーションのための7つの機会
出典:P.F.ドラッカー著『イノベーションと企業家精神』を基に藤田 勝利 氏が作成
その時には、知覚がものをいいます。イノベーションは分析だけで行なうことはできません。そもそもイノベーションに対する社会のニーズは分析では知ることはできません。

イノベーションの成果が、やがてそれを使うことになる人たちの期待、価値、ニーズにマッチしうるかは知覚によってしか知ることはできません。

そうして、知覚とは、 思慮分別をもって知ること。「物の道理を知覚する」という時の知覚と、目、耳、鼻、皮膚などの感覚器官を通して外界の事物や身体内部の状態を知る働きの両方を意味します。

そうしてそれを知覚することによって、初めて、それを使うことになる人たちが利益を見出すには何が必要かを考えられるようになります。これを考えられなければ、せっかくのイノベーションも間違ったかたちで世に出てしまうことになります。

イノベーションに成功する人は、右脳と左脳の両方を使うのです。数字を見るとともに人を見るのです、人の集まりである社会を見るのです。どのような、イノベーションが必要かを分析をもって知った後、実際に外に出て、知覚をもって顧客や利用者を知るのです。知覚をもって彼らの期待、価値、ニーズを知るのです。そうして、はじめて、イノベーションに成功するのです。

このようなことをするときに、「実学」だけでは、知覚もって顧客や利用者を知ることはできません。

ブログ冒頭の記事で示されていた、シュライエルマッハーの考え方は、「知は体系知でなければ意味がない」というものでした。断片的な知識を山ほど持っていても意味はないのです。それらの知識がどう関係しているのか、そうした「体系知」を体得しないと、知は完成しないというものです。

フリードリヒ・シュライアマハー

知識は、高度化するほど専門化します。そうして、ある専門知識は、他の専門知識と結合するとき爆発してとてつもない力を発揮します。そのため、多様な専門知識への理解が不可欠です。このよらうに、自分の専門外の知識を持つ人こそ、知識社会における教養ある者人と呼ぶことができます。

ただし、専門知識のすべてに精通する必要はありません。しかし、それらのものが何についてのものか、何をしようとするものか、中心的な関心事は何か、中心的な理論、問題、課題が何かは知っておくべきです。だからこそ、幅広い本当の意味での教養が必要なのです。

しかし、専門知識を一般知識へと統合できない教養課程や一般教養は、教養ではありません。本当の意味での、教養は相互理解をもたらすこと、文明が存在しうるための条件である対話の世界を造り出すことができるものです。そうして、はじめて、知識は「体系知」となり、完成するのです。

確かに、今の日本の大学で行われている教養課程は、専門知識を一般知識へと統合できない部分があり、そのため、「体系知」を体得できず、知を完成させていない学生も多いのかもしれません。

最近の日本では、「体系知」を体得していない人々が増えたのだと思います。そのためでしょうか、過去の日本は、失われた20年というとんでもない状況に見まわれ、停滞しつづけました。

その主たる原因は、あまりにも長い間、デフレを放置してきたことです。そうして、このデフレの根本原因は、バブル期には土地や株式などの資産価格はあがっていたものの、一般物価はさほどでもなかったものを、日本銀行が金融引き締めに転じたことが、最初のきっかけでした。

その後も、日銀は長い間、金融引き締めを続け、さらに消費税の増税を二度にわたって、行い、日本はデフレスパイラルの泥沼に沈むとともに、超円高に苦しむことになりました。

日銀が、金融緩和に転じたのは、2013年からでした。しかし、それもつかの間、その後には、平成14年4月からは、8%増税が実施され、ご存知のように経済は停滞しています。愚かなエコノミストなどは、この経済の停滞を増税以外のせいにしています。まったく、愚かな連中です。こういう連中が、それこそ、日本の失われた20年の原因を創りだしたのです。彼らは、真の意味での教養のある人間ではないのです。

このようなことは、日本で多くの人、その中でも特に大学以上の学歴を持つ人々の多くが、「体系知」を体得していれば、起こらなかったものと思います。

そもそも、マクロ経済に関して多少の知識があれば、不景気のときには、金融緩和と積極財政を行うべきことは基本中の基本です。間違っても、金融引き締め、緊縮財政などすべきでないことはすぐに理解できます。

仮に、マクロ経済を勉強なかったにしても、過去の歴史を紐解けば、日本が世界恐慌(日本では、昭和恐慌と呼ばれ、その原因は1990年代の研究でデフレが原因であったことが明らかにされている)から金融緩和策、積極財政で世界で一番はやく脱却したことからも、理解できるはずです。

さらに、この歴史的事実を知らなくても、江戸時代の経済対策を遡れば、経済対策として、いわゆる節約令を出したものはのきなみ全部失敗しています。

成功した事例としては、「元文の改鋳」があります。江戸時代中期に徳川吉宗が行った緊縮財政(享保の改革)により日本経済はデフレーションに陥いりました。そこで町奉行の大岡忠相、荻生徂徠の提案を受け入れ政策転換し、元文元年(1736年)5月に元文の改鋳を行いました。改鋳は差益を得る目的ではなく、純粋に通貨供給量を増やすことが目的でした。現在でいえば、日銀による増刷に相当するものです。

元文の改鋳で鋳造された金貨
元文の改鋳は現在では、幕府初のリフレーション政策と位置づけられ、日本経済に好影響をもたらした数少ない改鋳であると積極的に評価されています。元文の通貨は以後80年間安定し続けました。江戸の経済対策というと、なにかといえば儒教思想にもとづく倹約道徳にもとづく、吉宗が行ったような緊縮財政であり、いわゆるこの事例のような、金融緩和策は数少ない成功事例の一つです。

たとえ、これを知らなくても、日本が増税を決める直前のEUをみれば、イギリス、スペイン、イタリア、ポルトガルなどの国々が景気が悪い中で、増税で失敗していました。


それに、現在でなくても、過去を調べれば、古今東西を通じて、デフレや不景気のときに、増税して、成功した国などありません。

これらのことを知っていれば、あるいは知らなくても調べれば、増税などすべきなどという考えにはならないはずです。さらに、金融政策についても同じことです。景気の悪いときに、金融引き締めを行って成功した国など古今東西存在しません。

にもかかわらず、いわゆる財務省の官僚や、いわゆる経済アナリスト、経済学者などで、増税や金融引き締めをすべきとした人たちは、軒並み無教養の謗りをうけても仕方ないです。そういう無教養な人が日本には、大勢います。

なぜ、そのようなことになってしまったのかといえば、やはり、高校や大学での教育の仕方にも問題があったものと思います。

そもそも、最近の金融政策や、財政政策の有り様を知るためには、過去のそれがどうなっているのか知らなければならないですが、高校ではそれを知る機会は、日本史や、世界史の現代史の部分にあたるのでしょうが、その部分は教科書の後ろのほうにあるし、それに、試験にはあまり出ないといいうことで、しっかりとは教えられていないようです。

実際に、金融アナリスやエコノミストと呼ばれる人でも、過去の経済対策に関する知識を持っている人は驚くほど少ないです。これらの人の多くは、せいぜい数ヶ月か、半年くらいの状況をみて判断していて、短期では予想が的中することもありますが、長期の予想はことごとく外してしまいます。とくに、増税の判断ではそうでした。

それに、今の日本の大学の教育で、それぞれの先生たちは、努力して教えたにしても、システム的に専門知識を一般知識へと統合できない教養課程になってしまっています。

そうして、大学生のほうも、結構厳しい受験勉強が終わって、緊張から開放され、教養の過程は、あまり勉強せず、高校生のときに蓄えた知識にブラスアルフアで、留年しない程度にしか勉強しません。学部に入ってから専門知識は、ある程度は勉強するようですが、教養過程はないがしろにされがちです。

この状況では、日本はいずれドイツの後塵を拝するようになりそうです。やはり、日本でも、真の教養というものを身につけさせるため、専門知識を一般知識へと統合できるようにして、多くの学生たちに「体系知」を体得させ、知を完成させるか、その端緒を築けるようにすべきものと思います。

さて、ここまではドイツの優れたところを掲載してきましたが、以下には、日本の優れたところを掲載します。

先に、イノベーションにおいては、知覚が重要であるということを掲載しました。実は、日本人の強みは、この「知覚」なのです。経済学の大家ドラッカー氏は、日本の近代社会の成立と経済活動の発展の根底には“知覚”の能力があるとしています。

ドラッカー氏
ドラッカー氏は、「分析に対置するものとしての知覚こそ、実に一〇世紀以降の日本画における継続的な特性である」と語っています。(『すでに起こった未来』)

日本の歴史と社会についての第一人者、エドウィン・O・ライシャワー元駐日大使が、その著『ザ・ジャパニーズ』において、日本は第一級の思想家を生み出していないと言ったとき、ドラッカー氏は、日本の特質は“分析”ではなく、“知覚”にあると言ってくれました。

ドラッカー氏は、中世における西洋最大の偉業、トマス・アクィナスの『神学大全』に対置するべきは、宮中の愛と病と死の描写からなる世界最高の小説、紫式部の『源氏物語』だといいます。

近松門左衛門の文楽と歌舞伎は、カメラとスクリーンこそ使いませんでしたが、高度に映画的だともいわれます。登場人物は、何を言うかよりも、どう見えるかによって性格づけされます。誰も台詞は引用しないのですが、場面は忘れません。

近松は、映画のための道具はなに一つ使わずに、映画の技法を先取りしていました。役者が不動の形を取る見得は、まさに映画のクローズアップそのものです。

歌舞伎の見得(みえ)
ドラッカー氏の洞察は、日本の近代社会の成立と経済活動の発展の根底には、その伝統における知覚の能力があると看破しました。これによって日本は西洋の制度と製品の本質を把握し、再構成することができたといいます。日本の真価はこの知覚の能力にあるのです。

ドラッカー氏は、以下のようにも語っています。「日本について言える最も重要なことは、日本は知覚的であるということである」(『すでに起こった未来』)

日本人には、このように知覚に優れているからこそ、失われた20年を経たあとでも、なんとか国を維持して来れたのだと思います。他の国であれば、20年近くも、緊縮財政、金融引き締めを続けていれば、完璧に破綻しています。

日本人である多くの人は、自らの知覚能力があまりに当たり前になっていて、その高さを意識していないようですが、外国人と比較すると日本人の知覚能力は高いようです。ただし、それが最近では悪い方面にもでているようです。

知覚に頼りすぎて、分析をせず、それこそ、先に述べた増税せよ、金融引締せよなどとのたまっていたエコノミストのような人々もいます。

私自身は、日本人の多くは、外国人と比較すれば、知覚に優れていると思います。たとえば、日本人なら、虫の鳴き声を聴いて、元気な声とか、うら寂しいなどと感じますが、多くの外国人にとっては、虫の声は単なる雑音に過ぎないようです。

それに、現在世界でトレンドになってる、和食など、知覚に鋭敏な日本人だからこそ、できたものです。ドイツの食べ物は、日本と比較すると、味付けも大雑把で、季節感にも乏しく、本当に食べ物であって、和食のように見たり、香りを楽しんだり、出汁などの微妙な味付けを楽しむようなものではありません。

典型的なドイツ料理 日々このような食事では確かに知覚は研ぎ澄まされない?
それに、対人関係に関しても、日本人からすると、かなり大雑把で、あまり相手の感情など知覚できないようです。そのためですか、何でも細かなとこまで話し合いをしようとします。

ドイツ人などと話していると、あまり知覚に鋭敏でないようで、日本人ならば話さなくてもわかりそうなところも、合理的な判断にもとづく話し合いをするので、彼らの合理性にはほんとうに辟易とするところがあります。

これに対して、日本人は、もともと知覚が優れた日本人の子孫として生まれたので、子供の頃からそのような環境に育ち、自然と知覚が研ぎ澄まされていったものだと思います。

日本人として生まれた私たちは、知覚に優れているという生来の能力を最大限に活かすべきものと思います。そうして、ドイツ人のように、専門知識を一般知識へと統合し、「体系知」を体得し、知を完成するか、完成のための端緒をつかむには、何も大学でそのような教育を受けられなかったからといって、悲観する必要はありません。その方法は、あります。それは、「読書」です。読書の習慣をつけることです。それも、できたら体系的な読書をすべきです。

そうして、ドイツ人の「体系知」を体得できた日本人は世界最強になれるかもしれません。

それについては、ここで述べだすと長くなりますので、また機会があれば、改めて掲載したいと思います。

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2016年3月16日水曜日

【動画付き】アルゼンチン沿岸警備隊が中国漁船を撃沈 違法操業で「警告無視」―【私の論評】トランプ米大統領が誕生すれば、日本は安保でアルゼンチンなみの国になれる(゚д゚)!

【動画付き】アルゼンチン沿岸警備隊が中国漁船を撃沈 違法操業で「警告無視」



15日のAP通信などによると、南米アルゼンチン沖の南大西洋で、同国の沿岸警備隊が排他的経済水域(EEZ)内で違法操業中の中国船とみられる大型漁船を発見した。同船は停船命令に従わず、抵抗するなどしたため、沿岸警備隊は警告の上で発砲、漁船は沈没した。

船長ら乗組員全員は保護され、身柄を拘束された。沿岸警備隊を管轄するアルゼンチン海軍の発表では、違法操業をみつけたのは14日。沿岸警備隊の警告に対して、漁船は無視して船体を巡視船に衝突させようとしたほか、公海への逃亡を図った。

拘束されているのは船長を含め4、5人という。船員らは今後アルゼンチン当局から取り調べを受ける。アルゼンチン海軍が外国船籍の船艇を沈めたのは15年ぶり。現場は同国中部のプエルト・マドリン沖という。

沈没した漁船には、「魯煙遠漁10」の船名が表示されていた。この船名は、中国・山東省の煙台にある漁業会社に所属するものと同一。同社のホームページでは、所属漁船がアルゼンチン沖ではイカ漁などを行っているとしている。

アルゼンチン沖ではこれまでにも外国漁船の違法操業が問題となっていた。

【私の論評】トランプ米大統領が誕生すれば、日本は安保でアルゼンチンなみの国になれる(゚д゚)!

下にさらに、別の動画を掲載しておきます。アルゼンチン側としては、ここで見逃せば、また同じことの繰り返しになると判断し、撃沈に踏み切ったものと思います。


撃沈した場所は、以下の地図の赤丸印の地点です。


上の地図の赤丸付近を拡大したのが、以下の地図です。

アルゼンチン側は、200海里領海内で、中国漁船を撃沈しています。今頃、船員らはアルゼンチン当局から取り調べを受けていることでしょう。そうして、アルゼンチンの法律に基づき裁判が行われ、それ相当の刑罰に処せられることでしょう。

今回は、アルゼンチン側は、中国漁船を撃沈はしたものの、乗組員は全員生存の模様です。これは、当然のことながら、ある程度手加減したのでしょう。

それに当然のことですが、ブログ冒頭の動画では、アルゼンチンの沿岸警備隊が警告射撃をしているのが、映されています。最初は警告し、次に警告射撃をして、それでも言うことを聞くどころか、漁船は無視して船体を巡視船に衝突させようとしたほか、公海への逃亡を図ったので撃沈に踏み切ったということです。

アルゼンチンがこのような行動をとるのは、国際常識です。日本でもこれに近いことはありました。以下の動画を御覧ください。


日本海上保安庁広報用の国籍不明(北朝鮮)の工作船の追跡ビデオです。平成13年(2001年)映像です。海上保安庁の巡視船は、不審船に向けて威嚇射撃を行いましたが、最終的に国籍不明船は、自爆して沈没しましたもし自爆していなければ、撃沈もありえたものと思います。

このようなことは、国際的にはよくあることです。2009年2月には中国の貨物船がロシアの軍艦の銃撃を受け、ウラジオストック付近で沈没し、8人の乗員が行方不明となり、船長はロシア国内で起訴されました。しかし、この事件に関して北京は、ただ低級レベルでの『交渉』を行っただけでした。その動画を以下に掲載します。


ロシア極東海域で2009年2月、中国の貨物船「New Star」がロシア軍沿岸警備隊の銃撃を受け複数の船員が死亡する事件が起き、ロシア­政府は同年2月19日、責任は貨物船の船長にあると非難しました。

これに先立って中国政府は同日、ロシア側に対し、事件の徹底調査と行方不明者の捜索を­求めていました。

露インタファクス通信(Interfax)によると、「New Star」は中国船籍で、中国人10人、インドネシア人6人が乗り組み、シエラレオネ­国旗を掲げていました。ロシアの報道によれば、「New Star」はナホトカ(Nakhodka)に寄港した際に密輸の容疑で出航を認められ­ず、強引に出航したといいます。事件で乗組員8人が死亡したとされますが、中露両当局は確認­してませんでした。

ロシア外務省はロシア通信(RIA Novosti)に対し、威嚇射撃などあらゆる手段を取ったにもかかわらず、貨物船が­指示に従わず航行を続けたと説明。「悲惨な結末を遺憾に思う。しかし、責任は、全く無­責任な行動を取った貨物船の船長にある」と述べました。

インターネット上で公開された事件の様子を映したとされる映像には、ロシア沿岸警備隊­の隊員とみられる男の声が繰り返し「New Star」に停止を呼びかける声が録音されています。また、中国国営紙「環球時報(Gl­obal Times)」は、沿岸警備隊は貨物船に対し、500回以上も発砲したと報じています。

この2つの銃撃は、無論何の問題にもなりませんでした。日本の海上保安庁が銃撃した、北朝鮮籍とみられる不審船に関しては、日本側が、北朝鮮のものと見られるなどと公表しても、北朝鮮側は、何の反応も示しませんでした。国際的に何も問題になりませんでした。

ロシア軍に撃沈された中国船に関しても、中国側がロシア側に抗議をするということもなく、無論国際問題になることも、戦争になることもなく、今日に至っています。

このような例は、探せばまだまだあります。ある国が、領海内で不審船や、不審な行動をする外国艦船を見つけた場合、前もって、呼びかけたり、臨検しようとしてもさせないで逃亡したり、それどころか中国線のように体当たりしようとしたりした場合、警告射撃などしても、逃亡したりする場合、警告射撃した後に、射撃などで撃沈されても、外国船の乗組員はもとより、その船の所属する国からも何ら非難される筋合いはありません。

尖閣付近で日本の海上保安庁の船が中国船に体当たりされたときにも、アルゼンチンの沿岸警備艇のように、日本の巡視船も、銃撃すれば良かったのです。それで、死者が出ても、それは中国船の船長の責任です。

そうして、これは、軍事的にも同じことです。日本の領海に中国の軍艦などが、侵犯をした場合など、警告するなどのきちんと国際的に認めらた手続きにしたがって、しかる後に撃沈すれば、国際的に非難されることも、中国と戦争になるなどということもありません。

なぜなら、それが国際常識だからです。中国がそれに従わないというのなら、何隻でも沈めれば良いだけです。

アメリカも、南シナ海で、そのような行動をとれば良いのです。周辺諸国の、特に領海を主張する国の了解をとって、実際に撃沈したり、爆撃したりすれば良いのです。そうされたら、中国にはなすすべはありません。

トランプ氏が大統領になれば、このような主張をして、実際に行動を起こすかもしれません。

昨日は、トランプ氏が大統領になった場合、最も大きな影響を受けるのは、米国でも、中国でなく、日本であるということをこのブログに掲載しました。

トランプ氏
そうして、日本が最も大きな影響を受けるのは、日米安保条約であることも述べました。詳細は、昨日の記事をご覧いただくものとして、ここでは、詳細は説明しませんが、これは日本が普通の国なること、少なくとも、ドイツなみの国になるためのチャンスかもしれません。

実際、これは本当なのかどうか、確かめられないのですが、日本国内のサイトを見ていると、トランプ氏が、討論会で、「中国が日本の船を撃沈させても関与しない」と語ったそうです。これが事実かどうか別にして、トランプ氏ならいかにも言いそうな台詞です。

保守論壇の方々からは、そのような論評は全くみられませんが、それはトランプ氏がまともではないとの風評によるものでしょうか。

私自身は、トランプ氏は、いたってまともだと思います。ただし、彼は当然のことながら、普通の政治家とは異なります。彼は、実業家として、1兆円もの資産を築いた人間です。

彼は、巧みに、ごくほんの一部のエスタブリッシュメントの都合の良いように、作られたアメリカに怒る、エスタブリッシュメント以外の人々のこの不満を利用して、したたかに、大統領選を有利に戦っています。実業家として、鍛えぬかれた、抜群の交渉力により、他の候補を翻弄しています。

支持者に向かって演説するドナルド・トランプ氏。会場では「サイレント・マジョリティーは、
トランプとともに立つ」というプラカードが目立つ昨年10月31日、米バージニア州ノーフォーク
アメリカのエスタブリッシュメントには、中国がいずれ民主化するとみなし、中国をアメリカの重要な将来のパートナーであるとみなす人が多いです。また、アメリカでは、大統領ですら、エスタブリッシュの操り人形に過ぎないとする人も多いです。このようなことと、オバマの外交オンチの及び腰が積み重なり、最近では、中国、北朝鮮、ロシアなどを増長させてしまいました。これも、エスタブリッシュメント以外の人々に不興を買っています。

トランプ氏は、エスタブリッシュメントはアメリカでもごく少数であるという事実を逆手にとり、エスタブリッシュメント以外の人々の支持を獲得するための巧みな戦略を実行しています。実際、エスタブリッシュメントだけの支持を得るより、経済的中間層の人々を含むエスタブリッシュ以外の人々の大きな支持を得られたら、かなりの力になります。

日本では、保守派の方々はもとより、それ以外の方々も、何やら、トランプ氏のことを色眼鏡で見ているような気がします。

しかし、トランプ氏が大統領になった場合、昨日このブログで述べたように、日本に対して、日米安全保障条約の改定を迫る可能性は非常に高く、もしそうなった場合、これは、ひよっとして、日本がまともな国になる千載一遇のチャンスかもしれないと、みなすべきと思います。

特に、保守派の人々はそうみなすべきです。トランプ氏が大統領になれば、まずは憲法解釈を変えて、日本がドイツなみの普通の国になれる可能性が高まります。そうして、それを橋頭堡として、改憲も視野に入れることができるようになると思います。

トランプ米大統領が誕生すれば、日本が安保でアルゼンチンなみの国になれるかもしれません。アルゼンチンといえが、かつてフォークランド紛争であの大英帝国と、戦った国です。このブロクにも述べたように、世界には、先進国と日本とアルゼンチンと、発展途上国しかありません。


この意味するところは、世界には、先進国と発展途上国しかないが、例外があるということです。その例外とは、日本とアルゼンチンです。日本は、かつて発展途上国だったのが、先進国に仲間入りしました。アルゼンチンはこれとは、逆にかつて先進国だったのが、後に発展途上国に仲間入りしています。

今の日本は、アルゼンチンと比較すると、経済的には比べ物にならないほど豊かになりましたが、安全保障の面では、世界有数の軍事力を持っていながら、発展途上国のアルゼンチンよりも、劣る、自国を満足に防衛もできないような国になってしまいました。

トランプ大統領の誕生は、日本に大きな転機をもたらすかもしれません。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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2016年3月15日火曜日

中国で湧き上がる“反中トランプ”待望論 多くの人民が習体制崩壊を望んでいる ―【私の論評】トランプ大統領が実現したら、最も大きな影響を受けるのは米国でも中国でもなく日本だ(゚д゚)!

中国で湧き上がる“反中トランプ”待望論 多くの人民が習体制崩壊を望んでいる 

中国市民からも“ラブコール”を受けるトランプ氏
国会に相当する全国人民代表大会(全人代)中の中国で、あの“暴言王”への待望論が起きている。今年11月に予定されている米大統領選で、共和党の有力指名候補に躍り出た実業家、ドナルド・トランプ氏(69)を「大統領に」と望む声が高まっているというのだ。背景には、言論統制を強め、独裁体制を固める習近平政権への反発があるとみられる。大統領にトランプ氏がなれば中国への圧力が強まり習政権が崩壊するきっかけになるという思惑だ。

熾烈さを極めている米大統領選の候補者選び。とりわけ注目を集めているのが共和党の指名争いで台風の目となっているトランプ氏だ。

過激な言動を繰り返し、欧米メディアから「大統領としての資質に欠ける」などと批判を受けながらも各地で快進撃を続けている。

共和党では、党主流派が「反トランプ」の立場を鮮明にしており、対立候補の一本化を急いでいるが、当のトランプ氏は今月8日、逆風をものともせずに中西部ミシガン州と南部ミシシッピ州などで勝利。勢いを維持したまま、南部フロリダなど重要州の予備選が集中するヤマ場の15日に臨む。

この情勢を中国人民の、“ある層”は興味深く見つめている。

現地事情に詳しい中国人実業家は、「中国の一部市民の間で『トランプ待望論』が出ている。中国最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)『微信』や中国版ツイッター『微博』では、『トランプを米大統領に』と投稿するケースもあるようだ」と明かす。

トランプ氏と言えば1月、米テレビ局CNNの取材で、国際社会の非難を無視して核開発を繰り返す北朝鮮を糾弾した上で、「北朝鮮問題を解決しないならば、中国を潰してしまえ」と発言。「貿易関税を引き上げるか、貿易そのものを中止してしまえば、2分以内に中国は崩壊する」などとぶち上げて物議を醸した。

昨年8月にも中国の習国家主席が訪米する直前、トランプ氏は、オバマ大統領が「国賓」として厚遇することを批判し、「私ならば晩餐(ばんさん)会は開かず、ハンバーガーでも出す」と言い放つなど、「反中」ぶりは際立っている。

なぜ、そんな人物が中国で支持を得ているのか。

先の実業家は「それほど、習体制への反発が強いということだ。昨年から人権派弁護士や民主活動家を大量に拘束したり、ネットの規制を強化したりするなど言論弾圧を強めている。『微信』や『微博』でも反政府的な書き込みはすぐに削除され、自由にものを言えなくなっている」と指摘する。

「多くの中国人が現在の習体制に不満を抱えており、その崩壊を望んでいる。民主党の有力候補であるヒラリー(クリントン)前国務長官は、オバマ米大統領の外交路線を踏襲する見込みで中国に強硬な姿勢で臨むとは考えにくい。それに対して『中国を潰せ』とまで言い放つ『反中』のトランプ氏なら、『習政権と対峙(たいじ)して現状を打破してくれる』と期待を寄せているようだ」(実業家)

 毒をもって毒を制す-の心境か。

【私の論評】トランプ大統領が実現したら、最も大きな影響を受けるのは米国でも中国でもなく日本だ(゚д゚)!

中国においては、習近平は国内を掌握できおらず、未だ激烈な権力闘争にあるというのが実体です。習政権が続けている反腐敗運動は、党官僚の汚職腐敗体質をただすというのは名ばかりで、本来の目的は政敵を倒す権力闘争です。

なぜそのようなことをはっきり言えるかといえば、そもそも習近平自身が「一族が巨額資産を保有」と米紙に暴露されています。というより、中国では共産党幹部ともなれば、ぼぼ全員が汚職をしているのが当たり前だからです。そうして、その金額も、それこそ日本の官僚の汚職など、無垢な天使の戯れ言程度とでもいいたくなる程の天文学的数字であることがほとんどです。

習近平に関しては、他にもスキャンダルがあります。それは、習氏が推し進める「反腐敗運動」で、腐敗官僚たちを次々と血祭りに上げている「党中央規律検査委員会」。その書記を務める王岐山氏のものです。反腐敗運動を、政敵潰しと国民の人気集めに利用してきた習氏にとって、政権の屋台骨を支えるキーマンともいえる人物です。

その王氏に関する不穏な情報が出回っていました。

これは、郭文貴氏という中国人実業家が、亡命先の米国で受けた米国メディアでのインタビューが発端でした。このなかで郭氏が、王氏自身も過去に汚職に関与していた…とほのめかしたのです。事実なら、『反腐敗運動』の取り締まり側のトップが腐敗していたことになり、運動そのもの、ひいては習政権の正当性が問われることになります。

さらに、最近では『習近平とその愛人たち』というスキャンダル本を出版しようとしていた、書店主などを拘束しています。

そうして、習近平の権力闘争の相手は、2012年の党大会で習近平党指導部が成立するのを阻もうとした反対派、薄熙来(はく・きらい、前党中央政治局委員、服役中)、周永康(前党中央政治局常務委員、服役中)、徐才厚(前党中央軍事委員会副主席、公判前の3月に病死)と、胡錦濤政権で党中央弁公庁主任という権力中枢にいた令計画の4人、通称「新四人組」とされています。



この4人組にかかわらず、習近平の反腐敗運動の対象となる人々は、習近平も腐敗にまみれていることは先刻承知です。中国の権力闘争はすざまじいですから、検挙されればとんでもないことになり、財産を剥奪されたり、拘束されたり、場合によっは命も保証の限りではありません。

自分たちと同じように腐敗にまみれている習近平に、このようにされることなど、誰も潔しとしないでしょう。

だからこそ、習近平派以外の中枢の人々や、それに連なる人々は、ブログ冒頭の記事のように、習体制への反発を強めているのです。

そうして、上の記事を理解するためには、中国は他国と比較すると驚くほど、内向きの国であることを理解しなければなりません。

多くの中国人にとって、世界は中国が中心であって、対外関係もほとんどが中国国内の都合により動いていることが多いのです。

尖閣問題が習近平が主席になってから、大きくなったもの、国内事情が大きく影響しています。これも、中国内部の権力抗争の一環であり、より先鋭的な示威行動を尖閣で行わせることにより、反習近平派に力の誇示をすることも大きな目的の一つでした。

南シナ海での暴虐ぶりが、ひどくなったのも、この方面で守勢に回れば、反習近平派につけいる隙を与えないようにするという目的もありました。

中国は、このように国内の権力闘争と、対外政策が表裏一体になっている部分があります。

だからこそ、特に反習近平派は、トランプが大統領になれば、習政権と対峙(たいじ)して現状を打破してくれるかもしれないと期待を寄せるのです。こんなことは、他国ではありえない中国に特有のことだと思います。

さて、この期待は実際にトランプが大統領になれば、実現するのでしょうか。

この話をする前に、まず、皆さんは、権力分立とか、三権分立という言葉をご存知でしょうか。

権力分立(けんりょくぶんりつ、けんりょくぶんりゅう、英:separation of powers)とは、権力が単一の機関に集中することによる権利の濫用を抑止し、権力の区別・分離と各権力相互間の抑制・均衡を図ることで、国民の権利・自由の確保を保障しようとするシステムです。対義語は権力集中(権力集中制)です。

権力分立の典型例としては立法・行政・司法の三権分立(さんけんぶんりつ、さんけんぶんりゅう)が挙げられますが、地方自治制など他の政治制度にも権力分立原理はみられます。権力分立は国家全体についてみると、まず、中央と地方との権限分配がなされ(垂直的分立)、ついで中央・地方でそれぞれ水平的に分配されることになり(水平的分立)、中央では立法・行政・司法の三権に水平的に分配されていることになるとされています。

ただし、三権分立とは、モンテスキューというフランスの哲学者が、ジョージ3世(在位1760~1820年)時代のイギリスを「おお、三権分立だ、すばらしい!」と勘違いして「発明」してしまった概念です。

本人は大発見したと思い込んでいたようですが、これは、モンテスキューの頭の中で作り上げられた妄想に過ぎませんでした。

現在、三権分立をまともに実行してしまっている国は、世界の文明国の中でアメリカ合衆国ただ1国です。いつまでたっても他の文明国がアメリカの真似をしないのは、三権分立が欠陥制度だからです。



そして、アメリカ大統領はこの完全な三権分立のせいもあって、「世界“最弱”の権力者」と言われています。そうして、アメリカ大統領が最弱であることは世界の比較憲法学の常識です。

日本で「アメリカ大統領のような強いリーダーを作るために首相公選制をやろう」などと言っている人がいますが、単なる思い違いです。

このような完全三権分立制をとっているアメリカで、たとえトランプ氏が大統領になったとしても、何もかも思い通りに、できるかといえば、そんなことはありません。

ちなみに、アメリカでは、完全な三権分立となっていますが、そうはいっても、平時においては司法が最も強いといわれています。

ただし、戦時になると違います、戦争を遂行するために、いきなり大統領に権力が集中します。戦時になると、アメリカ大統領は強いリーダーシップを発揮することができるようになるのです。

しかし、戦争するにしても、大統領一人の判断ではできません。あくまで、議会の承認が必要です。

となれば、トランプ氏が大統領になったにしても、余程のことがない限り、何もかもトランプ大統領の思い通りということにはなることはありません。

さらに、アメリカは二大政党の政治体制です。この二大政党制を長らく維持してきた国ですから、それなりの慣習があります。それは政治の継続性を保証するため、政権交代しても、6割から7割は、それ以前の政権のやりかたを踏襲し、それ以外の4割から3割を政権交代をした党のカラーを出します。


今回共和党のトランプ氏が大統領になったからといって、何もかも変えるということはできず、せいぜい3割から4割を共和党のカラーを出すことになるでしょう。さらに、その中で、トランプ氏が自分のカラーを出せるのも、数割に過ぎないでしょう。

そうなると、トランプ氏が仮に大統領になったとしても、あれもこれも実施などということはできず、本当に重点的なものをいくつかできるかできないかという程度だと思います。

ただし、戦争になれば別です。中国が南シナ海などでの暴虐を続けるのを阻止するため、議会が中国との戦争を決議すれば、トランプ氏はかなりのことができます。

こう考えると、実際にトランプ氏が大統領になったとしたら、最も大きく影響を受けるのは、アメリカや中国でもなく、日本かもしれません。

そうして、日本が最も影響を受けるのは、日米安保条約です。

トランプ氏は、日本に対しては、集団的自衛権の片務性に関して、強く非難しています。要するに、日本が攻撃を受けた場合、米国は助っ人するのですが、米国が攻撃を受けても、日本は助っ人をしないということに対してトランプ氏は非難しています。

しかし、これはもともと米国が日本が二度と戦争をしないようにするため、日本を軍事的にも弱体化する変わりに、米国が日本の防衛を担うという形で決まったものであり、トランプ氏のように一方的に日本を指弾するのは、適当ではないと思います。

ただし、このブログでも以前掲載したように、何年も前から、「日本は憲法改正せよ」が米国議会では、多数派になっています。

そうなると、これも以前のブログに掲載したことなのですが、やはりトランプ氏はこれは議会の承認を得たのも同じですから、非常にやりやすいということで、これを最優先事項として取り組み、早期に実現するかもしれません。

そうして、日本に憲法改正を迫る理由は、原則として日本は自国の防衛は、自国で行うことです。そうなると、米軍は全部ではないにしても、かなり大きな部分が撤退することになると思います。

ただし、新たな日米安全保障条約の枠組みが設定され、フイリピンでは米軍が撤退した途端に、中国の南シナ海への進出が加速されたという苦い経験もありますから、すぐに米軍が日本から撤退ということではなく、何年かの猶予期間を置いて実施されることになるかもしれません。

私自身は、憲法を変えなくても、憲法解釈を変えれば、日本は自衛のための武力を持ち、自衛のための戦争はできると思っています。日本の主流派の憲法学者の解釈だけが唯一無二で、絶対に正しいなどということはありません。実際、世界には日本以外にも平和憲法がありますが、それらの国々では軍隊があり、無論自衛戦争はできます。

日本は憲法改正のハードルは高い

しかし、米軍が一部でも撤退ということにでもなれば、中国の脅威はさら増します。今のままでは絶対に駄目です。憲法解釈を変えるか、憲法を改正して、日本も防衛戦争ができる普通の国に転換しなければならなくなります。

国会では、最近でも日々平時のことばかり論議されていますが、トランプ氏が大統領になったときに備えて、こうした論議もある程進めておくべきものと思います。

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2016年3月14日月曜日

増税勢力はこうして東日本大震災を「利用」した~あの非情なやり方を忘れてはいけない―【私の論評】財務省、政治家、メディアの総力を結集した悪辣ショック・ドクトリンに幻惑されるな(゚д゚)!

増税勢力はこうして東日本大震災を「利用」した~あの非情なやり方を忘れてはいけない
増税勢力は、震災後すぐ稼働した

東日本大震災から5年がたった。3月11日のテレビではこれまでの5年を振り返った放送が多かった。

大震災の状況は大いに気になったが、その過程で、当時の菅政権が野党の自民党・谷垣禎一総裁と組んで「復興増税を企んでいる」という情報が入ってきた。

これは経済学を学んだ人なら、すぐ間違いとわかる政策だ。課税の平準化理論というものがあり、例えば百年の一度の災害であれば、100年債を発行して、毎年100分の一ずつ負担するのが正しい政策である。その当時、大震災という重大事に何を考えているのかと大いに憤った記憶がある。

そこで大震災直後、2011年3月14日付けの本コラムで「「震災増税」ではなく、「寄付金税額控除」、「復興国債の日銀直接引受」で本当の被災地復興支援を 菅・谷垣『臨時増税』検討に異議あり」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2254)を書いた。

このときの増税勢力は勢いがよかった。大震災で、多くの人が被災者を助けたいという「善意」を悪用して、復興増税は結果として行われた。

経済学者も情けなかった。そのとき、経済セオリーを主張する者はほとんどおらず、逆にセオリー無視の復興増税を推進した人たちのリスト http://www3.grips.ac.jp/~t-ito/j_fukkou2011_list.htm)は以下の通りだ。

「震災復興にむけて」
共同提言者・賛同者(2011年6月15日10:00現在)(敬称略)

伊藤 隆敏 (東京大学)
伊藤 元重 (東京大学)
浦田 秀次郎 (早稲田大学)
大竹 文雄 (大阪大学) 
齊藤 誠 (一橋大学)
塩路 悦朗 (一橋大学) コメント土居 丈朗 (慶応義塾大学)
樋口 美雄 (慶応義塾大学)
深尾 光洋 (慶応義塾大学)
八代 尚宏 (国際基督教大学)
吉川 洋 (東京大学)

(★印のついた方は「第3提言の賛成は留保」)
青木 浩介 (東京大学)
青木 玲子 (一橋大学)★ コメント赤林 英夫 (慶應義塾大学)
安藤 光代 (慶應義塾大学)
井伊 雅子 (一橋大学)
飯塚 敏晃 (東京大学)
池尾 和人 (慶應義塾大学)
生藤 昌子 (大阪大学) コメント石川 城太 (一橋大学)
市村 英彦 (東京大学)★ コメント伊藤 恵子 (専修大学)
岩井 克人 (国際基督教大学)
祝迫 得夫 (一橋大学)
岩壷 健太郎 (神戸大学)
宇南山 卓 (神戸大学)
大来 洋一 (政策研究大学院大学) コメント大野 泉 (政策研究大学院大学) コメント大橋 和彦 (一橋大学) コメント大橋 弘 (東京大学) コメント岡崎 哲二 (東京大学) コメント小川 英治 (一橋大学)
小川 一夫 (大阪大学)
小川 直宏 (日本大学)
翁 邦雄 (京都大学)★ コメント翁 百合 (日本総合研究所)
奥平 寛子 (岡山大学)
奥野 正寛 (流通経済大学)
小塩 隆士 (一橋大学)
小幡 績 (慶應義塾大学)
嘉治 佐保子 (慶應義塾大学) コメント勝 悦子 (明治大学) コメント金本 良嗣 (政策研究大学院大学)
川口 大司 (一橋大学) コメント川﨑 健太郎 (東洋大学) コメント川西 諭 (上智大学) コメント北村 行伸 (一橋大学)
木村 福成 (慶應義塾大学)
清田 耕造 (横浜国立大学)
清滝 信宏 (プリンストン大学)
國枝 繁樹 (一橋大学)
久原 正治 (九州大学)
グレーヴァ 香子 (慶應義塾大学) コメント黒崎 卓 (一橋大学)
黒田 祥子 (早稲田大学)
玄田 有史 (東京大学)
鯉渕 賢 (中央大学)
小林 慶一郎 (一橋大学) コメント小峰 隆夫 (法政大学)
近藤 春生 (西南学院大学)
西條 辰義 (大阪大学) コメント櫻川 幸恵 (跡見学園女子大学)
櫻川 昌哉 (慶應義塾大学) コメント佐々木 百合 (明治学院大学) コメント佐藤 清隆 (横浜国立大学)
佐藤 泰裕 (大阪大学)
澤田 康幸 (東京大学)
清水 順子 (専修大学) コメント新海 尚子 (名古屋大学) コメント鈴村 興太郎 (早稲田大学 / ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ) コメント清家 篤 (慶應義塾大学)
瀬古 美喜 (慶應義塾大学)
高木 信二 (大阪大学)
高山 憲之 (一橋大学)
武田 史子 (東京大学)
田近 栄治 (一橋大学) コメント田渕 隆俊 (東京大学)
田村 晶子 (法政大学)
田谷 禎三 (立教大学)
中条 潮 (慶應義塾大学) コメント筒井 義郎 (大阪大学)
常木 淳 (大阪大学)
釣 雅雄 (岡山大学)
中田 大悟 (経済産業研究所)
中村 洋 (慶應義塾大学) コメント長倉 大輔 (慶應義塾大学)
畠田 敬 神戸大学
林 文夫 (一橋大学)
原田 喜美枝 (中央大学)
深川 由起子 (早稲田大学) コメント福田 慎一 (東京大学)★
藤井 眞理子 (東京大学)
藤田 昌久 (経済産業研究所)
星 岳雄 (UCSD)
細田 衛士 (慶應義塾大学)
細野 薫 (学習院大学) コメント堀 宣昭 (九州大学)
本多 佑三 (関西大学) コメント本間 正義 (東京大学)
前原 康宏 (一橋大学)
松井 彰彦 (東京大学)★
三浦 功 (九州大学)
三重野 文晴 (神戸大学)
三野 和雄 (京都大学)
森棟 公夫 (椙山女学園)★ コメント柳川 範之 (東京大学)
藪 友良 (慶應義塾大学)
山上 秀文 (近畿大学) コメント家森 信善 (名古屋大学)
吉野 直行 (慶應義塾大学)
若杉 隆平 (京都大学)
和田 賢治 (慶應義塾大学)
渡辺 智之 (一橋大学)

以 上
増税派の責任は重い

大震災直後の増税勢力は、1ヶ月後の4月14日、復興会議の五百旗頭真(いおきべまこと)議長の挨拶のなかに「増税」を盛り込ませている(2011年4月18日付け本コラム「あらためていう。「震災増税」で日本は二度死ぬ 本当の国民負担は増税ではない」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2463)。

5年たった現在、そのことがどう評価されているのか。今年3月12日に放映されたNHKスペシャル『“26兆円” 復興はどこまで進んだか』は興味深かった(http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20160312)。インタビューに応じた五百旗頭氏が、開口一番「復興増税がよかった」といったのだ。これにはかなり驚いた。

政府としては復興予算を確保すればいいので、その財源を一時的な税にするか国債発行で長期的な税にするかは、財務省が気にする話でしかない。一時的な税で賄おうとすれば、当面の復興予算が少なくなる可能性がある。復興会議は人々の不安をぬぐうような復興予算を確保するのが仕事なのに、財務省の走狗のような増税に荷担した責任は重い。

こうした「常識」は、数少ない識者の間では共有されていた。特に、筆者の近くにいた故・加藤寛先生は明確に意識していた。加藤先生は実は岩手県出身である。その関係で、大震災後、復興構想会議のメンバーになってほしい、という打診があったという。しかし会議の目的が「増税のため」と知った加藤先生は、「復興のための増税など絶対に賛成できない」と断った、と筆者に語ってくれた。

この復興増税は、震災復興をホップとして、次の消費増税をステップ、さらなる消費増税をジャンプとして、大増税を画策していた。これについては、2011年6月20日付け本コラム「「復興」「社会保障」「財政再建」の三段階増税を許すな 新聞が報じない増税反対に集まった 超党派議員211人」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/9228)を参照してもらいたい。

このとき、この増税に反対した211人の中で、自民党で「増税によらない復興財源を求める会」会長をしていたのが、今の安倍首相である。先の8%から10%への消費増税を見送った背景には、こうした野党時代の活動もあるわけだ。

増税勢力は、今のところホップは成し遂げたが、ステップの途中段階で止まっている。もし民主党政権が続いていたら、今頃ステップ段階に突入し、日本経済は大変なことになっただろう。

復興が進まない理由

先のNHKスペシャル『“26兆円” 復興はどこまで進んだか』を見て、興味深かったのは、いろいろな地域でそれぞれ工夫をして復興を進めているが、そのやり方の差が大きいことだった。例えば、高台移転を進めるにしても、大規模増税で大型予算を組んで進めるよりも、土地利用をうまくやって、安く早くできた地域もあった。

これを見て思ったのが、国が主導するのは資金集めだけで十分であり、その執行は地方任せにした方がいいということだ。

筆者は、2011年3月28日付け本コラムで「財務省主導の「復旧」ではダメ!「復興」は新設する「東北州」に任せ、 福島に国会と霞ヶ関を移転せよ 円高に苦しんだ阪神大震災の過ちを繰り返すな」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2330)を書いた。

被災した3県(岩手県、宮城県、福島県)が集まれば、「道州制」ができるという道州特区法(道州制特別区域における広域行政の推進に関する法律)を活用して、復興を進めるというアイディアだ。

残念ながら、民主党政権は地方分権の考え方がなく、代わりに中央集権の象徴といえる復興庁が作られた。中央主導の復興が予定通り進んでいないのは、NHKスペシャルを見てもわかる。

また、復興庁のホームページでも確認できる。復興施策の工程表(2015年7月作成)があり、公共インフラのところをみると、①海岸対策、②河川対策、③水道施設、④下水道対策、⑤交通網(道路、鉄道、空港、港湾)、⑥農地・農業用施設、⑦海岸防災林の再生、⑧漁港・漁場・養殖施設・定置網、⑨復興住宅(災害公営住宅等)、⑩復興まちづくり、⑪土砂災害対策、⑫地盤沈下・液状化対策、⑬災害廃棄物の処理、⑭都市公園の各項目について、現状と今後の予定が書かれている。

その中で、「完了」とされているものは少ない。⑤交通網のうち高速道路、仙台空港、八戸港、久慈港、茨城港、鹿島港、木更津港、千葉港、⑩復興まちづくりのうち、医療施設、公立社会教育施設にみられるだけだ。

ほとんどの項目は、2018年度以降に完了とされている。ほぼすべての項目の完了年度が同じであることはかえって不自然であり、あくまで「目標」であることを示唆している。

『報ステ』にはまたガッカリ

最後に、3月11日の『報道ステーション』はまたやらかした。学者のいう「福島の甲状腺がんの発生は、原発事故前の日本全体に比べて事故後は20~50倍」と報じて、「甲状腺がんと原発事故 専門家で割れる関連性」という見出しを付けながらも、甲状腺がんが原発事故で多発したというイメージを植え付けている。

この問題は、かなりはっきりしている。ごくわずか(おそらく1名)の学者が「原発事故で甲状腺がんの発生が多くなった」といっているだけで、その学者の論文には不適切な統計処理があることも指摘されている。

きちんとした取材をしたマスコミであれば、甲状腺がんが福島で多くなっていることについて、原発事故が影響しているという「被曝影響説」をとっている人はほぼ一人で、残りの学者は過剰診断説である、と分かるはずだ。

過剰診断説とは、他の地域では「何か症状が出ている人」が診察を受けて、その結果ガンの割合がでてくるが、福島県の場合すべての人を対象に診察するため、ガンの割合が高めにでる、ということだ。他の地域で、福島県と同様な方法で調査したら、福島県よりも数値が高かったというデータもある。

マスコミは、二つの意見があるときに公平に扱うべきということを逆手にとって、甲状腺ガンについて「被曝影響説」にバイアスをかけている報道している。何が原因かはっきりしないときであれば、こうした両論を平等に扱うのはかまわないが、5年間のデータが蓄積していると、こうした形式的平等主義は妥当とはいえない。

そういえば、増税については、それが経済を痛めつけることになるのはデータから明らかであるが、この点もマスコミには「増税が必要」とのバイアスが残っているためか、増税礼賛記事が多い。勝手な思い込みでの報道は社会に有害である。


【追記】おかげさまで2月に発売された私の本の重版が決まった。この場を借りて御礼申し上げたい。 高橋洋一

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【私の論評】財務省、政治家、メディアの総力を結集した悪辣ショック・ドクトリンに幻惑されるな(゚д゚)!

大震災の復興を増税で賄うなど、まともな国家では絶対にやらない、禁忌ともいうべき政策です。近代以降、震災や自然災害の復興のため、増税した国など、東日本大震災の復興における日本だけです。復興税制はそれほど異常なことです。通常は建設国債などで賄うものです。

これは、いわゆるショック・ドクトリンとも呼ぶべき、とんでもない蛮行としか言いようがありません。

ショック・ドクトリンとは、カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインが2007年に著した書籍です。マイケル・ウィンターボトムによって2009年にドキュメンタリー映画化されました。

ナオミ・クライン
クラインは、2007年9月に The Shock Doctrine: the Rise of Disaster Capitalism ; Metropolitan Books, 2007, ISBN 0805079831 を出版。同書は三十数か国語に翻訳され、日本語版は2011年9月に刊行されました。

彼女は、ケインズ主義に反対して「真の変革は、危機状況によってのみ可能となる」と述べるなど徹底した市場原理主義を主張したシカゴ学派 (経済学) のミルトン・フリードマンを批判、こうした主張を「ショック・ドクトリン」と呼び、現代の最も危険な思想とみなしている。そして、近年の悪名高い人権侵害は、反民主主義的な体制による残虐行為と見るばかりでなく、民衆を震え上がらせて抵抗力を奪うために綿密に計画され、急進的な市場主義改革を強行するために利用されてきた側面に注目すべきと説く。

「ショック・ドクトリン」の最初の応用例は、1973年の軍事クーデターによるアウグスト・ピノチェト政権下のチリであるとしています。シカゴ学派は投資家の利益を代弁、「大きな政府」や「福祉国家」をさかんに攻撃し、国家の役割は警察と契約強制のみであるべきで、他はすべて民営化し市場の決定に委ねよと説いていましたが、そのような政策は有権者の大多数から拒絶され自国で推進することができず、独裁体制下のチリで実行に移されたと述べています。


チリでは無実の一般市民の逮捕・拷問・処刑が相次ぐばかりでなく、「惨事便乗型資本主義」がはびこって、「小さな政府」主義が金科玉条となり、公共部門の民営化、福祉・医療・教育などの社会的支出の削減が断行され、多くの国民が窮地に追い込まれました。

以後、天安門事件(1989年)、ソ連崩壊(1991年)、アメリカ同時多発テロ事件(2001年)、イラク戦争(2003年)、スマトラ島沖地震 (2004年)による津波被害、ハリケーン・カトリーナ(2005年)といった、政変・戦争・災害などの危機的状態を挙げ、「惨事便乗型資本主義」(「惨事活用資本主義」、「災害資本主義」、「火事場泥棒資本主義」)はこれにつけこんで、人々がショック状態や茫然自失状態から自分を取り戻し社会・生活を復興させる前に、過激なまでの市場原理主義を導入し、経済改革や利益追求に猛進してきた、といいます。

ミルトン・フリードマン
この書籍は、当時一世を風靡して、一時日本でも多くの人々がミルトン・フリードマン氏を悪者のように思っていました。この書籍を読んだり、他の書籍などを読んだ結果、私もなんとなくそのような感想を持っていました。

しかしながら、フリードマン氏の考えを、その後きちんと学ぶ機会にめぐまたことがあり、ナオミ・クライン氏のフリードマン氏に対する見方は、極端にすぎることが理解できました。

フリードマン氏に関する、正当な評価を知りたい方は、是非とも以下の動画を御覧ください。ちなみにこの動画のシリーズ、マクロ経済に関して、てつとり早く知りたいと思っている方々にはうってつけです。平易にわかりやすく説明しています。



しかしながら、政変・戦争・災害などの危機的状態を挙げ、「惨事便乗型資本主義」(「惨事活用資本主義」、「災害資本主義」、「火事場泥棒資本主義」)はこれにつけこんで、人々がショック状態や茫然自失状態から自分を取り戻し社会・生活を復興させる前に、過激なまでの市場原理主義を導入し、経済改革や利益追求に猛進してきたという下りは、まさに、東日本大震災につけこんで、復興税制というとんでもない制度を導入してしまったこととダブります。

いかに、日本の増税派の力が強よかったにしても、復興税制などのとんでもない、制度を導入するには、それこそショック・ドクトリンのように、このような災厄がなければ、とてもできなかったことでしょう。本当にとんでもない連中です。

財務省と、その走狗に成り果てた、ブログ冒頭の記事のリストに掲載されている経済学者の連中が、普段ではとても通用しない理論で、政治家、マスコミをたぶらかして、まるで火事場泥棒のように無理やり復興増税制を導入してしまったのです。以下に当時の復興税の内容をまとめたチャートを掲載しておきます。


上の動画をご覧いただければ、よくご理解いただけると思いますが、フリードマン氏は決して悪人ではないですが、この復興税制を導入を推進した、財務省やその走狗の経済学者どもは、はっきりと悪人と言って良いです。これらに、騙された与野党政治家もまともではないですし、マスコミもはっきりいって愚鈍です。

この時に「増税反対に集まった 超党派議員211人」はまともです。そうして、このとき、この増税に反対した211人の中で、自民党で「増税によらない復興財源を求める会」会長をしていたのが、今の安倍首相ということで、やはり、安倍総理は当時からまともだったということです。

財務省やそれらの走狗となった経済学者どもは、増税の理由を社会保障と税の一体改革とか、財政赤字の解消などとしていますが、それは表向きであり、その本当の理由は財務省の省益のためです。まずは、財務省の税金の配賦の権限を強くするためですが、さらになんのためにそれをするかといえば、財務高級官僚のハッピー・リタイヤメント等のためです。

ハッピー・リタイアメント (幻冬舎文庫)


こんなもののために、復興税制など導入されてはたまったものではありません。こんなことですから、財務省主導による復興などうまく行くはずがありません。国は金の工面をして、復興は地元に任せるのが一番です。無論、資金の遣い方など、監査するのは国が実施すべきかとは思いますが、政府が直接復興を手掛けるとなると、うまくできるはずもありません。

それに、このようなからくりにも気付かず、古今東西に見ない、摩訶不思議、奇妙奇天烈な復興税制を批判することもしないマスコミも、本当に程度が低いというか、愚鈍極まりないです。

こんな復興税制を無理やり導入した、増税勢力はその後も、勢いを増し、どう考えてもデフレから完全に脱却していなかった、平成14年の4月から、8%増税を導入してしまいました。これには、財務省やブログ冒頭のリストに掲載されている経済学者、新聞なども加担して、日本経済に与える影響は軽微であること、増税しなければとてつもない事態に追い込まれるなどの理由を並べ立て、強力な増税キャンペーンを展開しました。

特に2013年の新聞報道には、ひどいものがありました。2013年の9月には、大手新聞がこぞって、安倍首相は増税を決断したと報じました。報道に間違いがなければ、安倍首相は11日から20日にかけて、少なくとも4度(11日、12日、18日、20日)にわたり「決断」を繰り返したことになります。

しかし、総理は、10月1日の発表の前までは、自らの肉声で「決断」の意思を表示したわけではありません。仮に会見等の場で表明していれば「~を表明した」と報じられるし、一部の関係者に伝達していれば「決断したことを~に伝えた」と報じられるのが普通です。しかし、昨年はどのメディアも「表明」「伝達」いずれの事実も報じておらず、「意向を固めた」「決断した」といった表現で報じていました。

 安倍総理は2013年10月1日に8%増税の決断を公表したが、新聞報道が正しいとすれば、安倍総理は
9月11日から20日かけて少なくとも4度にわたり「増税の決断」を繰り返したことになる


それと、テレビも、ブログ冒頭の記事で高橋洋一氏が、「報ステ」を批判しているようにとんでもない報道を繰り返していました。このような報道ぶり、とんでもないことです。このブログでは、以前福島の高校生たちが、独自の調査をして、福島県内の被ばく量は、「国内外と差はない」と結論づけていました。そうして、このレポートが、英学術誌に論文として掲載される運びになったことを掲載しました。

メディアは報道するならこの高校生たちのように感情ではなく、エビデンス(証拠・根拠、証言、形跡)に基づき行えと言いたいです。

マスコミが、まともな報道をせずに、とんでもない報道を繰り返せば、多くの人々が幻惑され、間違った観念を持ったり、間違った道を選択してしまいます。

これらも、今から考えると、これらは、ことごとくショツクドクトリンのようなものと思います。ジャーナリストのナオミ・クラインは、この状況を「ショック・ドクトリン再び」というような書籍にでもまとめると良いと思います。


これは、ジャーナリストとしては、格好の素晴らしい材料だと思います。今度は、ミルトン・フリードマンを悪者にしたてるというようなことはやめ、日本のような国でも、まともな経済理論のまるで反対の復興税制など導入し、その後も8%増税などという愚かな政策が導入されたことを書籍にまとめるべきです。

日本では、TPPをショック・ドクトリンとみなす人もいますが、そんなことはないと思います。私自身は、ショック・ドクトリンのようなことは実際にこの世の中に存在するとは思いますが、ミルトン・フリードマンらを悪者に仕立てるのは間違いだと思います。フリードマン氏の理論は悪者たちに、悪用されたということです。

誰が、悪者かといえば、それは無論、日本の増税勢力のような連中です。震災などを機に、とんでもない経済政策を導入するような連中こそ悪人です。自分たちの考えを通すために、無理やりに様々な経済理論を逆手に利用するような連中こそ大悪人です。


そうして、その書籍には、最近の中国の南シナ海での、暴虐ぶりにより、現状変更を試みる中国に関しても、ショック・ドクトリンとして取り上げるべきと思います。そのほかにも、災厄や戦争などを背景に現状変更を実行したりしようとする、日本の財務省、経済学者、メディアの仲間は世界中に多く存在すると思います。

このような財務省をはじめとする多くの官僚や、政治家、マスコミによる苛烈なショック・ドクトリンに8%増税では負けてしまった安倍総理も、15年秋の10%増税ではさすがに、その手には乗らず、衆院を解散して、10%増税見送りも公約として総選挙に打って出ました。そうして、選挙に大勝利して、増税は見送られました。

そうして、来年4月からの、10%増税に関しては、安倍総理は周到な準備をして、見送りをするようです。それに関しては、このブログにも以前掲載したことがあります。以下の【関連記事】の項目に加えておきますので、まだご存知のない方はぜひご覧になってください。

今後安倍総理は無論のこと、私達も、悪辣ショック・ドクトリンになど幻惑されないように、物事を正しく理解していくべきものと思います。特に、重要なことに関しては、識者、マスコミ、政治家、官僚の語っていることを鵜呑みにせずに、自分の頭で考えて、結論を出すべきものと思います。特に、不安を煽る連中のほとんどは、裏に魂胆があり、それこそ、ショック・ドクトリンのように、恐怖を与えて、自分の思う方向に操作しようとしているかもしれないと疑うべきです。

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