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2018年3月13日火曜日

日米露中まで頭痛のタネ 世界に広がる「韓国疲れ」―【私の論評】南北統一で、主体思想に染まった経済的にはロシアより大きな、核武装した軍事独裁政権ができあがる(゚д゚)!

日米露中まで頭痛のタネ 世界に広がる「韓国疲れ」

文大統領は御満悦だが・・・・

平昌五輪を“利用”して北朝鮮との対話を始めた韓国。五輪後に訪朝した特使団は10年ぶりとなる南北首脳会談まで取り付け、あれよあれよという間に南北が大接近。一方で金正恩朝鮮労働党書記長はトランプ大統領に会談を申し入れ、5月までに実現する見込みとなった。見守るしかない世界の国々は“この先”の難儀を察して頭を痛めている--。

韓国の特使派遣は、朝鮮半島の平和実現に向けた大きな前進--というのが世界の表向きの評価である。4月末の南北首脳会談の開催に加え、北朝鮮が非核化に向けた米朝協議の用意があると表明したことを受け、米国のトランプ大統領も、「前向きだ」と評価した。

だが、韓国の“単独行動”に、各国は内心ヒヤヒヤしている。

「文在寅大統領の判断は、国連決議も含めて、世界各国が取り組んできた北朝鮮への圧力路線を壊すもの。各国はリップサービスのコメントを出していますが、本音では“韓国のおかげでこれまで続けてきた制裁や圧力がすべて無駄になった”と嘆いている」

こう指摘するのは、元在韓国特命全権大使で外交経済評論家の武藤正敏氏だ。

「今回、特使が伝えた合意内容は非常に曖昧で、『北朝鮮に対する軍事的脅威が解消されて体制の安全が保障されれば、核を保有する理由がない』というのは、米国が求める非核化とは程遠い。米国の情報関係者は揃って南北対話に懐疑的だし、日本はもちろん、欧州やアジア各国も同様です。韓国はあまりにも北朝鮮側に妥協、譲歩しすぎている」

慰安婦問題でさんざん「ゴールポスト」を動かされてきた日本にとっては、またも韓国の行動に翻弄される事態だ。2014年1月には米スタンフォード大学アジア太平洋研究センターのダニエル・スナイダー研究副主幹が、日本の政治指導者が「韓国疲労症」にかかっていると指摘したこともある。

だが、日本だけでなく、「コリア・ファティーグ(韓国疲れ)」は米国でも流行語になった。きっかけは執拗な“反日”だ。最初にこの言葉が、使われたのは6年ほど前のこと。

2012年4月、米国歴史教科書の「日本海」表記を「東海」に修正させようと、ホワイトハウスの公式サイトに「東海」支持の韓国人と見られる書き込みが殺到。サーバーが一時パンクする騒ぎになった。2015年4月には安倍首相の米国議会でのスピーチ阻止のため、在米韓国人が「訪米反対声明」を発表し妨害工作を展開。米国政府を激怒させた。

◆トランプは「弱腰」と指摘

今回の特使派遣についても、米外交専門メディア『ザ・ディプロマット』はこう書いている。

〈五輪後の金正恩の友好ムード演出は、文在寅の気前の良さと統一への情熱を食い物にして、食糧援助と制裁解除を獲得するための試みだ。ソウルと国際社会は、太陽政策を再試行しても、国民を無視し国防費を優先させる北朝鮮を変えることができないことを自覚するべきだ〉(3月6日配信)

産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が言う。

「米国は北朝鮮が韓国のすり寄りを利用して、核開発のための時間を稼ぎ、自分たちに都合のいい形での米朝対話を画策する可能性を懸念しています。トランプ大統領の文大統領に対する不信感は根強い。象徴的なのが、文大統領を『appeasement』と批判した昨年9月のツイート。これは直訳すると『宥和』で、相手に不必要な妥協や譲歩をしてすり寄る姿勢を批判する時などに使われ、“弱腰”という強い意味が込められている。同盟国のトップに使うのは極めて異例です」

◆中国も「面白くない」

文大統領は政権発足以来、歴史問題で足並みを揃えようと中国に接近してきたが、その中国からも嫌われているという。中国に詳しいジャーナリストで拓殖大学教授の富坂聰氏が言う。

「朝鮮半島が平和へと向かうことに中国は賛成していますが、中国自らが主導して、北朝鮮が核とミサイル開発をやめる一方、米韓も大規模な合同軍事演習を当面中止する『ダブル・フリーズ』で非核化への交渉再開の条件を作り出そうとしていた。昨年7月にはロシアも合意して、それに乗る形になった。

中国は北朝鮮に特使を派遣していたが、今回の件で、韓国に主導権を持っていかれてしまった形です」

ちなみに中国の特使は金正恩氏に会えなかったというから、メンツを重んじる中国が怒らないはずがない。加えて、その中国に乗ったロシアも、韓国にハシゴをはずされた形だ。元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏が言う。

金正恩も御満悦・・・・?

「南北首脳会談が、そのまま非核化に繋がるとは考えにくい。それどころか会談の中で“米国の干渉排除”や“経済制裁の中断”が議題にのぼり、その時に決裂を恐れる文大統領が強く否定できない展開もあり得る。

金正恩氏の狙いは日米韓の分断です。いずれ韓国はこの宥和策から降りなければいけない。そうなった時、米国や日本が対応することになる」

18年前に訪朝した金大中大統領(当時)はノーベル平和賞まで受賞したが、核放棄に繋がらず、逆に北朝鮮に開発の猶予を与える結果になった。だが、韓国の『中央日報』はこう書く。

「平昌でまいたタネを平和の巨木に育てることは、文大統領にとって重い歴史的荷物であると同時にノーベル平和賞までいける千載一遇の機会だ」

振り回される世界が疲れるのも無理はない。

※週刊ポスト2018年3月23・30日号

【私の論評】南北統一で、主体思想に染まった経済的にはロシアより大きな、核武装した軍事独裁政権ができあがる(゚д゚)!

韓国と北朝鮮の歩み寄りは、いずれ南北統一につながる可能性が高いです、そうして統一朝鮮が朝鮮半島に出来上がることには、日米中ロの四つの国にとっては脅威です。

これは、以前もこのブログで指摘してきたことです。統一朝鮮が出来上がった場合どのようなことになるかといえば、北朝鮮と韓国が一緒になるということですから、半島全体が核武装をした(あるいはいつでも核武装できる)一つの国になることを意味します。さらに、韓国の進んだ工業力と北の核が結びつけば、朝鮮に核大国が出来上がる可能性も否定できません。

さらに、韓国のGDPは東京都なみであり、日本人からみればたいしたものではないと感じられるかもしれませんが、ロシアと同等以上であり、これが北朝鮮と結びつけば、ロシアより完璧に大きな経済になります。

これは、核武装をしたロシアよりも経済の大きい国家の誕生を意味します。この統一朝鮮が、独裁軍事国家になり、さらなる軍拡をする可能性は、かなり大きいです。そうなれば、将来的には核武装したロシアなみの独裁軍事国家が半島にできあがる可能性も否定できません。

そのような国が半島にできあがることは、日米中ロにとっては望ましいことではありません。

そうして、統一朝鮮が、北に近いような政治風土の国になった場合、「韓国疲れ」どころではなく「北朝鮮疲れ」のような状況どころか、大きな脅威が世界各国を悩ませることになるでしょう。

なぜそうなるかといえば、北朝鮮は主体(チェチュ)思想なるものがあるからです。

この思想は、中ソ対立のはざまで、自国の自主性維持に腐心する金日成が、「我々式の社会主義(ウリ式社会主義)」に言及する中で登場し、金正日によって体系的に叙述された。

この過程で、モスクワ国立大学哲学博士である黄長燁が哲学的緻密化に貢献したといわれる。後に金日成により性格づけられ、1972年の憲法で「マルクス・レーニン主義を我が国の現実に創造的に適用した朝鮮労働党の主体思想」と記載されました。朝鮮人民が国家開発の主人であり、国家には強力な軍事的姿勢と国家的資源が必要、とするものです。

「主体(チュチェ)」は、哲学およびマルクス主義の用語「主体」を朝鮮語に変換したもので、また「主体」とは、北朝鮮では「自主独立」や「自立精神」を意味する場合も多いです。主体思想は「常に朝鮮の事を最初に置く」との意味でも使われています。金日成は、主体思想は「人間が全ての事の主人であり、全てを決める」という信念を基礎としている、としました。

簡単にいうと、 人間は自己の運命の主人であり、大衆を革命・建設の主人公としながら、民族の自主性を維持するために人民は絶対的権威を持つ指導者に服従しなければならないと唱える思想です。

チュチェ思想は、人間に譬えるなら「首領」は「頭」であり、「党」は「胴体」であり、「人民大衆」は「手足」であると北では説明しています。胴体と手足は頭が考えた通りに動く必要があります。また頭がなければ生命が失われてしまいます。故に首領の権威は絶対的で、あらゆる人民大衆は無条件に首領に従わなければならない。云々、云々・・・。

書きながら頭が痛くなってきそうな内容ですが、これがどうやって導かれるのか、私には全く理解することができません。ちなみに「主体思想」は序論として「哲学的原理」なるものを掲げており
*人間は世界と自分の運命の主人で、これを開拓する力をもつ 
*人間は自主性、創造性、意識性をもつ社会的存在である 
*人間の自主性、創造性、意識性の高まりが社会により強く影響する方向に社会は発展する
と、これだけ取り出せば、悪くなさそうにも見えるお題目が並ぶのですが、このあと「故に」として「必ず首領の指導を受けねばならない」と来るのです。いったい何が「故に」なのか理解不能です。

相手が「首領」であれなんであれ、「絶対的な服従」というのは人間の自主性、創造性、意識性の否定以外の何ものでもなく、世界と自分の運命の「主人」たることを放棄させることとしか、論理的には読みようがないものです。

「主体思想」の「主体性」とは首領様への絶対服従が原点であり到達点になっている。理屈では通りません。

この思想に染まっている人間に対しては、理屈などの通りません。宗教の一種と考えると、話がすっきり通るかもしれません。指導者を政治的に見るとピンと来ないことが「生き神様」と考えれば「個人崇拝」の構造が別の様相を見せるようになります。主体思想でのそもそもの首領とは金日成国家主席個人を指したわけで、この「生き神様」を祭り上げる、一種の擬似宗教として、これを見ることができるかもしれません。

この主体思想に染まったのが、北朝鮮であり、北と南が統一された、統一朝鮮にもこの主体思想が受け継がれ、生き神様である「金王朝」の出身者を首領とするような国家になったとすれば、これはまともな理屈も何も通じないような、経済的には先進国なみの、核武装した軍事独裁政権ができあがるかもしれません。

文在寅はこのチェチュ思想の恐ろしさを認識しているとはとても思えません。仮に文在寅が、南北統一を推進するということになれば、文はどうあがいても、チェチュ思想による狡猾さには太刀打ちできないでしょう。

統一すれば、元韓国の大統領や政権の幹部など、すぐに暗殺されるか幽閉されるでしょう。チェチュ思想に染まった連中にとっては、このくらいのことは朝飯前の所業でしょう。

そうして、核武装した軍事独裁政権が主体思想という宗教を信奉することになれば、それはとんでもないことになります。

主体思想については、以前のこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
朝鮮大学校元幹部逮捕 「スパイ天国・日本」狙い撃ち 北朝鮮の指示役、韓国大統領選でも暗躍―【私の論評】日本人は、事件の裏にある主体思想の精神破壊力に目覚めよ(゚д゚)!
この記事は、2016年2月3日のものです。以下に主体思想の破滅的な破壊力について解説した部分を引用します。

"
この主体思想の破滅的な破壊力については、2005年4月のNHKスペシャル、「ドキュメント北朝鮮・第1集 個人崇拝への道」という三夜連続のドキュメンタリーで報道されていました。これは、当時のNHKとしては、かなりまともな報道でした。

この番組の後ろのほうで、元旧ソ連共産党中央委員会委員のワディム・トカチェンコ(ロシア科学アカデミー極東研究所朝鮮研究センター長)がしみじみ語った言葉こそ、今日本人が最も重要なキーワードとして胸に刻まなければならない言葉です。トカチェンコは苦々しい顔をしてこう回想しました。
「北朝鮮はソビエトにとって常に頭痛の種でした。彼らは主体思想を教え込まれ、目的達成のためならどんな手段を用いてもかまわないと考えています。国家のためならば何をしても許されるのです。 
私は時折思いますます。このような人々と全く関わり合いをもたないほうがいいと。不用意に関わるとこちらが病気になり、傷つくことになるのです。」

この動画、以前はYouTubeにも掲載されていたのですが、現在は削除されています。ただし、ニコニコ動画のほうには未だ掲載されています。ご覧になっていない方は、是非視聴していただければ、北朝鮮の本質に迫ることができると思います。

元旧ソ連共産党中央委員会委員のワディム・トカチェンコをして、ここまで言わせた、恐るべきチュチェ思想です。あまりこのような、思想に慣れていない日本人など、この思想に触れてしまえば、あっという間に北朝鮮側に籠絡されると思います。

このチュチェ思想は、北朝鮮では、主体思想塔(チュチェササンタプ、しゅたいしそうとう、韓国語: 주체사상탑)として目に見える形に体現されています。この塔は、朝鮮民主主義人民共和国の平壌市中区域にあります。高さ170メートル。金日成の70歳の誕生日を記念して建てられ、1982年に完成しました。

主体思想塔

こんな思想に基づいて動く国ですから、拉致問題も平気で起こすし、人民が食うや食わずでも、核開発は行うし、他の国のことなどおかまいなしに、全く自分のペースで動くのです。あの中国ですら、主体思想にはかなり悩まされているのではないかと思います。
"

南北統一によって、このような思想に染まった、軍事独裁政権が半島に出来上がる可能性があるのです。そうして、統一朝鮮は、習近平の独裁体制となった中国よりもさらに厄介な存在になるでしょう。朝鮮族の多い、中国の東北地方(満州)に領土的野心を抱くようになるかもしれません。日本の竹島は永遠に日本に戻らなくなるかもしれません。それどころか、中国と同じように尖閣付近で問題を起こすかもしれません。

金正恩ももちろんこの思想に染まっていることでしょうから、トランプ氏と会談したにしても、その場では何か、トランプ氏の意向に沿ったような話をしたとしても、都合が悪くなれば、すぐに裏切ることに関しては何の躊躇もしないことでしょう。

ただし、トランプ氏は高齢であり、長い間自由主義経済の中で商売をしてきて、その時々で失敗したり、成功したりした経験もあるでしょうし、金正恩に匹敵するような狡猾な人物と取引してきた経験もあるでしょう。さらに、年齢も70歳台ですから、若い世代よりは簡単に主体思想に巻き込まれるということないとは思います。

しかし、金正恩などとまともに話ができるなどと考えていては、「韓国疲れ」どころか、深刻な「主体思想疲れ」に見舞われることでしょう。

私自身は、従来のように段階を踏んだり、戦略的忍耐などをしていると、「主体思想」に破れて、南北統一朝鮮が成立してしまうと思います。

その前に、当面は南北統一の動きを見せた場合や、核開発を始めた場合は、米国はためらうことなく即座に軍事的行動をとることを金正恩に納得させ時間稼ぎをして、主体思想なる宗教を破壊することが最善の策だと思います。さらに、実際に北が不穏な動きを見せれれば、すぐに軍事行動に打ってでるべきです。これに関しては、日米中ロで合意することはさして難しいことではないと思います。あるいは、すでに条件付きで合意に達している可能性もあります。

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2017年11月15日水曜日

トランプ氏、正恩氏に亡命促す? 異例ツイートで“真意”注目、識者「行き着く先はロシアのプーチン大統領」―【私の論評】金ファミリーの亡命も選択肢の一つ(゚д゚)!

トランプ氏、正恩氏に亡命促す? 異例ツイートで“真意”注目、識者「行き着く先はロシアのプーチン大統領」

トランプ氏と正恩氏は水面下で「ディール」を続けているのか? 写真はブログ管理人挿入以下同じ
 ドナルド・トランプ米大統領の“真意”が注目されている。国際社会の警告を無視して「核・ミサイル開発」を強行する北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に、原子力空母3隻を集結させる「最大限の圧力」をかける一方で、ツイッターに「友人になれるよう懸命に努力する」と投稿したのだ。米朝による水面下接触のサインなのか、軍事行動前に外交努力をした実績づくりなのか…。関係者の中には、正恩氏の「亡命」を推察する声もあり、具体的国名まで指摘されている。

トランプ大統領のツイート

 日米中露など18カ国が参加する東アジアサミット(EAS)を含む、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議が14日、フィリピン・マニラで開かれた。「核・ミサイル開発」で暴走する北朝鮮をめぐる情勢や、南シナ海問題への対処が主な議題となる。

 ASEAN首脳会議の議長声明案では、北朝鮮の「核・ミサイル開発」について「挑発的で脅迫的な行動」と批判。北朝鮮に一連の行動をやめるよう求め、「完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化」への支持を再確認している。

 議長声明では、北朝鮮の行動について「重大な懸念」を表明する見通し。

 軍事的圧力も強まっている。

 世界最強の米軍が誇る原子力空母3隻が11日から、日本海で合同軍事演習を実施した。トランプ氏の「北朝鮮の核・ミサイル保有は許さない」という強い決意の表れに他ならない。

 こうした朝鮮半島の緊張状態と、トランプ氏が12日に投稿したツイッターの内容は相反している。これまで正恩氏を「リトル・ロケットマン」と嘲笑し、強く非難してきたが突然、友人関係を求めたのだ。

 北朝鮮にも変化が見られる。9月15日に北海道上空を通過した弾道ミサイル発射以降、軍事的威嚇を行っていない。

 日米情報当局関係者は「北朝鮮の『核・ミサイル』実験などの中止は、正恩氏が『いま動いたら殺される』『軍事行動の大義にされる』と確信したからだろう。米国としては、北朝鮮が米本土を狙う核ミサイルを持つことは認められない。甚大な被害が出かねない第2次朝鮮戦争も、できれば避けたい」と話した。

 こうしたなか、注目されるのが、米国と中国が8月、「事実上の往復書簡」で交わしたとされる“暗黙の了解”だ。

 往復書簡とは、中国共産党機関紙・人民日報系の「環球時報」の社説と、米紙「ウォールストリート・ジャーナル」に、レックス・ティラーソン国務長官とジェームズ・マティス国防長官の連名寄稿を指したもの。

 前出の日米情報当局関係者は「米中は『北朝鮮という国家は(緩衝地帯として)残す』『正恩氏は排除し、核・ミサイルを放棄させる』『米中戦争にはさせない』という暗黙の了解をしたと受け止められている。トランプ氏は中国訪問(8~10日)で、これを確認したのではないか」と語る。

 北朝鮮を残したままでの「正恩氏の排除」となれば、「暗殺」か「亡命」が考えられる。この延長線上で、トランプ氏の異例のツイートが注目されるのだ。

 日米情報当局関係者は「外交の駆け引きは字面だけで判断できない。ツイートの背景としては、(1)米朝の水面下接触が進んでいる(2)軍事行動前に『外交努力をしたが、北朝鮮が蹴った』という実績づくりのため(3)正恩氏に亡命を促すメッセージ-などが考えられる」と分析する。

 現実として、正恩氏が亡命するような事態が起こり得るのか。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「金王朝が滅びることになれば亡命せざるを得なくなるだろう。例えば、米軍機に北朝鮮がミサイルを撃ち、米朝の緊張が高まり、中国人民解放軍が北朝鮮に入ってくるような大混乱となれば、正恩氏は国内を統制できなくなるかもしれない。中国共産党の息のかかった連中がクーデターをやる可能性もある。北朝鮮が体制崩壊となった場合、正恩氏が一番頼りにしているのは、ロシアのプーチン大統領だ。正恩氏の亡命先はロシアしかないだろう」と語る。

 朝鮮半島情勢は、どう展開していくのか。

【私の論評】金ファミリーの亡命も選択肢の一つ(゚д゚)!

いまの北朝鮮は、言ってみれば「プーチンランド」と化しています。ディズニーランドに行けばミッキーマウスに会えますが、北朝鮮に行けば、随所にロシアの「痕跡」が見られます。もはや金正恩政権は、ロシアの傀儡政権と言っても過言ではありません。

北朝鮮のロシア人ツアー客。ロシアでは7月1日から、「オールインクルーシブ」プラン
での5日間の観光ツアーで北朝鮮を訪れることができるようになった
解放記念日(8月15日)の『労働新聞』に、金正恩委員長がプーチン大統領を称えた書簡が大きく掲載されていました。

ロシアの有力紙『モスコフスキー・コムソモーレツ』(9月7日付)には、17kmあるロ朝国境近くに位置するハサン村のルポが掲載されており、村の事務所には、金日成・金正日・プーチンの3人の写真が、並んで掲げられていたのです。

これは、平壌最大の目抜き通り「栄光通り」が、「スターリン大通り」と呼ばれていた時代を髣髴させます。そもそもソ連極東軍88旅団所属の金成柱を、ソ連が「金日成将軍」に仕立て上げて平壌に連れてきたのが、北朝鮮の始まりでした。

現在の北朝鮮は、それから70年近く経て、またもとに戻りつつあるようです。ロシアの最新の世論調査によれば、米朝対立の原因が北朝鮮にあるという回答は、わずか12%。ロシアは北朝鮮の味方です。

9月3日の北朝鮮による水爆実験にも、プーチン政権の影を感じられます。なぜなら5日前の8月29日に、ロシア政府がハサン村の住人約1500人に突然、避難命令を出していたのです。

羅先とウラジオストクを結ぶ北朝鮮の貨客船『万景峰号』も、8月24日に突然、運航中止となりました。

日本のメディアは、「北朝鮮がウラジオストクの港湾使用料を未払いだったため、ロシア側が停泊を拒否した」と報じていましたが、これはとんでもない誤解です。あれも水爆実験の被害を避けようとした措置であるとみられています。

ちなみに実験場所からわずか100kmしか離れていない中国には、事前通告さえなかったそうです。だからこそ、あの水爆実験は、北朝鮮とロシアによる「合作」であるとみなすべきなのです。

そもそも、広島型原爆の10倍規模の威力もある高度な水爆技術を、北朝鮮がこれほど短期間で独自に持てるはずはないです。

カギを握るのは、ウラジオストクに本社がある「ロシア極東山岳建設」という会社です。元はソ連の国土交通省の一組織で、プーチンが大統領になって平壌を訪問した2000年に民営化された「プーチン系」企業です。

ウラジオストックのメインストリート・スヴェトランスカヤ通り
この会社が、北朝鮮のインフラ整備にフル稼働しています。中でも、最も得意とするのが山岳地帯のトンネル建設であり、豊渓里の核実験場の工事を請け負ったのではないかとされています。

これは、坑道を800mも掘ったり、人間の大腸のような複雑な構造にしたりして、放射能漏れを防いでいます。とても北朝鮮の技術とは思えません。

このロシア極東山岳建設は、坑道建設ばかりか、羅先-ハサン間54kmのロ朝間の鉄道建設も請け負っています。

この鉄路建設は、先代の金正日総書記が、'01年から'02年にかけて2年連続でロシアを訪問する中で決めたものです。

その後、建設が延期され、'08年に、ロシアが羅津港を49年間、租借することと引き換えに着工。'13年9月に、羅津港で開通式が行われました。

ロシア極東沿海地方のハサンと北朝鮮北東部・羅先経済特区の羅津港を結ぶ
鉄道区間の改修に伴って実施された列車の試験運行。(2011年10月12日)
開通式には、ロシア鉄道のヤクーニン社長も、モスクワから駆け付けました。その際、一つ不可解なことがありました。計画から着工まで7年もかかったのは、北朝鮮側が建設費用の負担を渋ったからでした。かつて100億ドルも北朝鮮に債務不履行されたロシアが、二の足を踏んだようです。

ところが、着工から竣工までも、丸5年もかかっているのです。もともと植民地時代に日本が敷いた鉄路があり、しかもわずか54kmにもかかわらず、この工事期間は、あまりに長いです。

ロシア極東山岳建設の最も得意な分野は、地下トンネルの建設です。おそらくこの鉄路の地下に、有事の際、金正恩一族が亡命するためのトンネルを建設したのではないかと推察されます。

加えて、両国を結ぶ鉄道建設という名目なので、アメリカのスパイ衛星も警戒心を抱かないです。この鉄路によってロシアとの貿易が急増すると同時に、トップの身の安全も図れるのです。北朝鮮にとっては、まさに一石二鳥です。

これも金正日総書記時代の話ですが、ある高位の亡命者が有事の際の金ファミリーの亡命ルートを告白したということがありました。

その亡命者によれば、平壌の金正日官邸の地下から、黄海の南浦まで、60km近く秘密の地下道が繋がっているそうです。南浦からは空路か海路で中国に亡命すると聞きました。

しかし、いまや習近平政権は、犬猿の仲の金正恩ファミリーを受け入れるはずもないので、このルートは使えません。それでロシアルートを作ったのでしょう。

アメリカから攻撃されて、金ファミリーが、羅先から地下トンネルを伝ってハサンまで逃げたとします。そこから一路、軍港があるウラジオストクまで行くに違いないです。

しかし極東にいたのでは、いつアメリカ軍に襲われるか気が気でないはずです。ロシアとしても、独裁者を匿っていると国際社会から非難を浴びることになります。

実は中国政府も、かつて金正日ファミリーの亡命について、密かに内部で検討したことがありました。'02年にブッシュJr.大統領が、北朝鮮を「悪の枢軸」と非難して、米朝関係が悪化した頃です。

その時の結論は、「ファン・ジャンヨプ方式にする」というものでした。北朝鮮の序列26位だったファン・ジャンヨプ書記が、'97年に北京の韓国領事館に亡命を申請した時、中国政府は、3ヵ月以内に出国することと、米韓以外の第三国に向かうことを条件に、身の安全を保障しました。

同様に金正日ファミリーに対しても「3ヵ月以内の滞在」しか認めないようです。ロシアもそのあたりは熟考したはずです。

それでロシアの結論は、金正恩ファミリーを、ウラジオストクから北極海に面したムルマンスク軍港まで軍用機で運び、そこから約1000km離れたスヴァールバル諸島に、亡命先を用意することです。

この任務を担うロシア保安庁(旧KGB)の特殊部隊RSBが、すでに金ファミリーのボディガードを務めています。

スヴァールバル諸島とは、北極海に浮かぶ群島です。第一次世界大戦の頃、ロシア、ノルウェーなど、多くの国が領有権を争ったため、大戦終結後のパリ講和会議で、スヴァールバル諸島を、永久非武装地帯としました。以下にその位置を地図で示します。


このスヴァールバル条約には、ロシアやアメリカなど40ヵ国以上が加盟していますが、島内にはロシア人居住地区があり、ロシアの法律が適用されています。ここには、世界でもっとも北端に位置するレーニン像があります。

スヴァールバル諸島の面積は、ちょうど九州と四国を足し上げたくらいの大きさです。夏は4〜6度くらいまで気温が上がりますが、冬は-12〜-16度にもなる極寒の島です。

大部分の島が永久凍土に閉ざされ、人が住める島は1つのみ。植物はほとんど生えていません。

「スヴァールバル条約」を批准している国の国民であれば、スヴァールバル諸島に「ビザなし」で住め、しかも「外国人の戸籍のまま商売」ができます。ちなみに、日本もこの条約を批准しています。

2012年時点で、2642人が島で暮らしています。大部分がノルウェー人ですが外国人も暮らしていて、439人のロシア人、10人のポーランド人、その他タイ、デンマーク、スウェーデンの人が暮らしています。

この条約は、今から100年近く前の条約ですが、1920年代から'30年代にかけて各国が加盟しました。ところが昨年になって突然、このスヴァールバル条約に、ロシアの後押しを受けて、北極海になど、何の縁もない北朝鮮が加盟したのです。これは朝鮮人労働者の受け入れの他は、金ファミリーの亡命目的以外には考えにくいです。

しかも現在、島内のロシア人居住地区で、大邸宅の建設が始まっていることまで分かっています。

スヴァールバルはスピッツベルゲン島という名前でも知られている。
今でもロシア人が生活している唯一のバレンツブルクという集落
これを知れば、なぜ金正恩委員長があそこまで強気でいられるのか、その理由が理解できます。いざとなればロシアが逃がしてくれるという「保険」があるのです。

プーチン政権は、核の技術もミサイルの技術も提供したあげく、亡命先まで用意したのです。金正恩にとってこれほど頼もしい庇護者はいません。

しかもプーチン政権には、シリアがあれほど激烈な内戦のさなかにあっても、6年半にわたってアサド政権を守り続けてきたという実績があります。

プーチン政権がそこまで金正恩政権に肩入れする理由としては、やはり極東におけるアメリカと中国という両大国への剥き出しの牽制だと考えられます。

米中露「3大国」とは言うものの、ロシアの経済力は米中に較べて圧倒的に脆弱です。ロシアの現在のGDPは日本の1/5程度です。ロシアの人口は日本よりわずかに多い、1億4千万人、そうして極東には600万人くらいしかロシア人が住んでおらず、強い危機意識を抱いています。だから「東アジアのシリア」を作りたいのです。

もう一つは、天然ガスのパイプラインを、韓国まで引きたいという野望があります。9月6日、7日にウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムに、プーチン大統領と韓国の文在寅大統領が揃って参加し、この話を詰めています。気をよくした文在寅大統領は、北朝鮮に800万ドルの人道支援を表明しました。

これも、人道支援を大義名分にしてシリアを支配したプーチン大統領の入れ知恵でしょう。

プーチンロシア大統領
ロシアから韓国に天然ガスのパイプラインを引く計画は、'08年に李明博大統領がロシアを訪問した際に盛り上がった話です。ロシアのハバロフスク、ハサンから北朝鮮の元山を経て、韓国の仁川まで約2000kmを結ぶ壮大な計画です。

北朝鮮にはパイプラインの通行料として年間1億ドルを支払う予定でしたが、韓国の命脈を北朝鮮に握られるという懸念からご破算になりました。


2011年10月3日のボイスオブロシアによれば、ロシアのウラジーミル・プーチン首相は、ロシアの半国営の天然ガス:PNG独占企業であるガスプロム Gazpromに対して、日本、韓国と中国などとの協力発展についての拡大的な提案を準備するよう指示したとあります。

つまり、プーチンの頭の中には、日本、韓国、中国を巻き込んだ「国家成長プログラム」が出来上がったと言う事でした。

東北の大震災直後、当時民主党政権だった、日本政府は将来のエネルギー不足を見越してロシアの天然ガス取得に対して積極策に出ることをロシアに伝え、ロシアはこれを受け、一連の開発を前倒しにし、同時に韓国、中国への供給も早める対応を取りました。

これには、当時次期大統領を着々と狙う、プーチン首相の思惑が働いたとみるべきでしょう。恐らく彼は、日本の大震災を好機と取ったはずです。

すでに、サハリン州の天然ガス田から日本海側の港湾都市ウラジオストクを結ぶ全長約1820キロのパイプラインの完成式典が2011年9月8日ウラジオストクVladivostokで行われ、プーチン氏も参加しました。

次はこれを北朝鮮経由で韓国に送り込む事(2017年稼動予定で、その際には経由する北朝鮮内700kmに1億ドルの収入が見込まれる)の実現で、2011年8月、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が9年ぶりに訪露し、協議の場でロシアは、北朝鮮の協力に対し食糧援助を約束し、これをロシアは2011年9月末に完了しました。

全ては着々と進行し、全てが完成したときに、ロシアは日中韓の経済を握るとの目論見だったのでしょう。しかし、この計画は日本では、民主党政権の崩壊とともに潰え、韓国でも、命脈を北朝鮮に握られるという懸念からご破算となりました。

その計画を、9年ぶりにロシアと韓国、北朝鮮で復活させようというわけです。そんな「密談」が進んでいるところに、安倍首相が出かけて行って、プーチン大統領に「北朝鮮への圧力」を説いたのです。

これを考えると、文在寅の最近の不可解な動きも理解できます。米国は朝鮮半島周辺海域に、原子力空母3隻を集め、11~14日に米日韓3カ国の合同軍事演習を行い、北朝鮮に圧力をかける予定でした。ところが、韓国が突然『日本とやるのは嫌だ』と言い出し、米日、米韓とバラバラになったのです。北朝鮮やロシアは大喜びでしょう。

文在寅は、中国に踊らされただけではなく、裏ではロシアにも踊らされたというわけです。最近、米国のWSJ紙が韓国に対して痛烈な批判を行いましたが、背景にはこのようなこともあったのです。

文在寅とプーチン
さて、いざとなれば、ロシアが金ファミリーを亡命させるという選択肢があるということは、我々も認識しておくべきです。

これに関しては、当然のことながら、トランプ大統領、安倍総理、習近平も知っていることでしょう。その上で、ポスト北朝鮮危機後の世界をなるべく自分たちに有利になるように立ち回っているというのが、実体でしょう。

ブログ冒頭の記事にある、トランプ大統領のツイートは、やはり金ファミリーの亡命を示唆したものであると考えられます。トランプ大統領としては、金ファミリーが亡命し、北朝鮮の体制が変わることを望んているのだと思います。そうなれば、金ファミリーの命は、助けるという意思表示であると考えられます。

【私の論評】

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2017年8月29日火曜日

【北ミサイル発射】日本列島通過 北海道襟裳岬沖の東1200キロに落下 「これまでにない深刻かつ重大な脅威」 安倍晋三首相 日米電話首脳会談開催 国連安保理に緊急会合を要請―【私の論評】北朝鮮を放置すれば中国、ロシアのアジアでの覇権を強めることに(゚д゚)!



 菅義偉官房長官は29日午前、緊急記者会見し、北朝鮮が同日午前5時58分ごろ、北朝鮮西岸から弾道ミサイル1発を北東方向に向けて発射し、北海道・襟裳岬上空を通過した後、6時12分ごろ、襟裳岬東方約1180キロメートルの太平洋上に落下したと推定されると発表した。落下地点は日本の排他的経済水域(EEZ)の外側で、日本の領域内での落下物や付近を航行する航空機や船舶などへの被害は確認されていない。政府はミサイルの破壊措置は実施しなかった。

 飛行距離は2700キロ、最高高度は約550キロと推定され、日本海上空で3つに分離した可能性があるという。

 小野寺五典防衛相は防衛省で記者団に対し、今回のミサイルの飛行時間が約14分間だったと明らかにした上で、5月14日に発射された中距離弾道ミサイル「火星12」の可能性があるとの見方を示した。

 菅氏は緊急記者会見で「繰り返される北朝鮮の度を超した挑発行動を断じて容認できない」と北朝鮮を強く批判。外交ルートを通じて厳重に抗議し、もっとも強い表現で非難したことを明らかにした。

 政府は午前7時過ぎから、首相官邸で国家安全保障会議(NSC)の関係閣僚会合を開き、対応を協議した。

 会合後、安倍晋三首相は記者団に対し「わが国を飛び越えるミサイル発射という暴挙は、これまでにない深刻かつ重大な脅威であり、地域の平和と安全を著しく損なうものだ」と述べ、国連安全保障理事会に対し緊急会合の開催を要請する考えを示した。

 首相は「政府としてはミサイル発射直後から、ミサイルの動きを完全に把握しており、国民の生命を守るために万全の態勢をとってきた」とも語った。

 さらに安倍首相は午前9時20分過ぎから米国のトランプ大統領と会談し、北朝鮮への対応をめぐって協議した。

 日米韓の3カ国はミサイル発射を受け、国連安全保障理事会の議長国エジプトに、緊急会合の開催を要請した。安保理は米ニューヨークの国連本部で29日午後(現地時間)に開催する方向で調整している。 

 北朝鮮による弾道ミサイルの発射は今年13回目。北朝鮮が発射したミサイルが日本の上空を通過したのは、昨年2月の沖縄県上空通過を含め5回目となる。

【私の論評】北朝鮮を放置すれば中国、ロシアのアジアでの覇権を強めることに(゚д゚)!

今朝は皆さん、結構早起きしたのではないかと思います。私も、携帯電話でJアラートの警告音が聴こえたので、こちらは札幌ということもあるので、もしもに備えてすぐに起き地下に非難しました。本当に腹立たしいことです。

北朝鮮にこれだけ挑発されたのだから、米国はもう実力行使すべきでしょう。なぜ、先制攻撃しないのか不思議です。

トランプ大統領は、「もしグアムになにかあったら、北朝鮮に大変な惨事が起きる」「北朝鮮がグアムやアメリカの領土、同盟国に対して事を起こせば、真に後悔することになる。ただちに後悔するだろう」などと語っていますが、はたしてこれは本気なのでしょうか。

今回のミサイル発射も、もし本当に北がグアム周辺にミサイルを撃ったとしたら、トランプ氏は、北に本気で軍事行動を起こす気があったのでしょうか。

安倍総理はアメリカのトランプ大統領とおよそ40分間電話で
会談し、北朝鮮にさらなる圧力をかけていく方針で一致した 
もし、このままアメリカが北の核・ミサイル開発を無視し続け、オバマ政権の時のように、威勢よく非難はするものの、その他に何もしないとしたら何が起こるのでしょう。そうして、北朝鮮に対する軍事行動を永遠にためらい続け、ついに北がワシントンに届くICBMを完成させ、実戦配備したらどうなるのでしょうか。

それは2年以内になるといわれていますが、本当にそうなったときは、完全に手遅れです。北がいくらSLBMと戦略爆撃機を持っていないないとしても、ある程度の「相互確証破壊」は成立してしまうことになります。

ちなみに「相互確証破壊」とは、核戦略に関する概念・理論・戦略のことです。 核兵器を保有して対立する2か国のどちらか一方が、相手に対し核兵器を使用した場合、もう一方の国が先制核攻撃を受けても核戦力を生残させ核攻撃による報復を行うことです。

そうなると、その先は、何が起ころうとアメリカは北と戦争がかなりしにくくなります。

そうなれば、アメリカの権威は完全に失墜します。アメリカの世界覇権に穴が空き、パックスアメリカーナは消滅。世界中の反米国国はもとより普通の国家まで、北朝鮮がやったことを「学習」することになります。

多くの国が、「この世界は結局力だ。核を持った者が勝つ」と認識することになります。こうして、現在でも有名無実になっているNPT(核兵器の不拡散に関する条約)体制は完全崩壊します。

そうなってしまえば、世界は、まさに弱肉強食の世界になってしまいます。 核保有国の天下となり、世界から「公正」「正義」「自由」「人権」などという価値観はなくなり、「法と秩序」は消滅します。

トランプ大統領には、こうしたことに対する自覚や、これを本気で防ごうという責任感は、あるのでしょうか。

北朝鮮とアメリカに相互確証破壊が成立すると、アメリカは北の核を事実上容認してしまうことになり、日本に対するアメリカの核の傘は自動的に消滅することになります。なにしろ北が核で日本を脅かしても、アメリカはいままで以上に手出しができなくなります。日米同盟は無力化する可能性もあります。

そうなれば、金正恩のやりたい放題です。日本は北朝鮮に土下座外交をするしかなくなります。経済制裁などとんでもないことになります。脅かされてもバックにアメリカがいないのですから、従うしかなくなります。韓国も同じです。

そうなると、中国も北朝鮮と同じ態度をとることになります。尖閣など、あっと言う間に中国領になるでしょう。日本は、尖閣どころか、沖縄本島さらには西日本まで、中国の脅威にさらされることになります。

沖縄本島を中国が手にしてしまえば、さっそく弾圧が始まります。とくに、沖縄基地運動に反対してきた連中は、権力に反逆するものとして、真っ先に弾圧され、拘束されることになります。そうして、沖縄では永遠に反基地運動などやりたくてもできなくなります。沖縄地方二紙もあっという間に廃刊です。

金正恩と習近平は、韓国からのアメリカ軍の撤退を要求することになるでしょう。韓国は、北の支配下に入ると見て間違いないです。そうして、次の段階では、北と中国が、日本から米軍が撤退することを要求することになります。

北と中国の覇権がアジアに全域に及ぶ状況が予想されることになれば、ロシアも黙ってはいないでしょう。ロシアも何らかの形で、アジアに進出してくる可能性もあります。朝鮮半島は、中国、ロシア、北朝鮮によって分割統治されることになるでしょう。日本は北方領土どころか、ロシアに道東を実行支配されることになるかもしれません。

満州国の版図
まさに、大東亜戦争においては、日本は満州国を設立して、当時のソ連と対峙していたのですが、なぜか米国と戦争をすることになってしまい、戦争に負け、日本はソ連との対峙の拠点である満州を手放す以外に選択肢はありませんでした。

マッカーサーは、朝鮮戦争のときに、自ら現地を調査し、日本がなぜあのようなことをしていたのかを理解し、後に米国の公聴会で「彼らの戦争は防衛戦争だった」と証言しています。第二次世界大戦後当時のソ連はさらに覇権を強めようとして、米国と対立して世界は冷戦に突入しました。

アメリカ上院軍事外交合同委員会の公聴会にて~1951年5月3日 ダグラス・マッカーサー~
その冷戦に勝利して、ソ連は崩壊しました。そうして、ソ連は現在のロシアにとってかわりました。しかし、このロシアも未だにソ連的な力の均衡理論によりプーチンに統治されています。ただし、現在のロシアは経済的にはかなり小さくなり、軍事的にもソ連時代には全く及びません。だからこそ、圧倒的に強い米国が存在しているうちは、さほど問題にはなりませんでした。

しかし、米国がアジアから撤退すれば、状況は違ってきます。ロシアは、アジアで中国が思うかがままに、覇権を追求することを黙って見過ごすことはありません。ソ連最盛期と比較すれば、小さくはなりましたが、軍事力ではまだまだ、中国にはひけを取りません。

朝鮮半島おいても、日本に対しても覇権を強め、なるべく実行支配できる地域を広げることになるでしょう。そうして、中国・ロシアが日本を実行支配下におき日本の進んだ、技術力を手にいれれば、それこそ、アメリカを追い越すような経済力や、軍事力を手に入れることになるかもしれません。そうして、日本人は彼らに高度な技術を駆使して働かされる一方富を簒奪されて、とてつもなく貧乏になります。

そうして、いずれ米国はアジアから確実に、全面撤退を余儀なくされることでしょう。そうして、アジアは日本も含めて、中国・ロシアが支配することになります。北朝鮮はその先兵になることでしょう。南シナ海、東シナ海は当然のことながら、中国の内海になります。オホーツク海、北極は完全にロシアの支配下となります。

そんな状況を、私たちは断じて容認できません。

北や中国、ロシアの要求がいくら理不尽であろうと、従う以外の選択肢はなくなるのです。それが嫌なら、私たちも核武装して、北・中国・ソ連との間で相互確証破壊を独自で成立させるほかなくなります。これをアメリカが止めることなどできなくなります。なにしろ、アメリカは、時間切れで、北の核を事実上容認してしまったのですから。

というわけで、このようなことを防ぐためにも、一刻も早く、アメリカに北朝鮮攻撃に踏み切ってほしいです。これが、日本の国益にもっともかなうことです。現状を見る限り、もう対話は意味がないです。たとえ、日本が北の攻撃を受けたとしても、それで将来中国・ロシア・北朝鮮のいいなりになることを防ぐことができれば、それで良しとしなければならないでしょう。いまの状況であれば、主戦論こそが正しいです。

サウスカロライナ選出のリンゼー・グラム共和党上院議員は言っています。

「北朝鮮の核ミサイル開発を阻止するために戦争が起きるとすれば、現地で起きる。何千人死んだとしても向こうで死ぬわけで、こちらで死者は出ない」

リンゼー・グラム共和党上院議員
また、

「北朝鮮の核計画と北朝鮮そのものを崩壊させる軍事的選択肢は存在する」と主張。その上で、「北朝鮮が(行動を)変更しなければ(軍事的選択肢は)避けられない。北朝鮮は、大統領に地域の安定と米本土の安定のどちらを選ぶのか選択を迫っている」と強調していました。

彼が言う「向こう」には、日本も含まれるかもしれないのですが、その犠牲を覚悟しなければ、私たちの未来は悪夢意外の何者でもなくなってしまうのは必定です。

米国が、結局北朝鮮を攻撃しないというのなら、日本がそれをできる体制を整えるべきです。核兵器が無理というのなら、先日もこのブログに掲載したように、強力なレーザー兵器を開発し、デス・スターのような人工衛星に積んで、打ち上げるべきです。

東京にある世界最強のレーザー施設
それも、一つではなく、最低2つを打ち上げ地球を完全カパーして、何か日本やアジアにとって危機が迫った場合、外科手術のようにその脅威をすぐに取り除ける体制をとるべきです。

座したまま、北朝鮮、中国、ロシアの軍門に下るよりは、このようなことを実行に移すべく今から計画を立案し、実行すべきです。これが実現する前は、核武装も視野にいれるべきです。

北朝鮮を今のまま放置しておくということは、これほど危険なことであるということだけは、日本人たるものは自覚すべきです。

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2017年5月22日月曜日

落合信彦氏 「プーチンは戦争したくて仕方がない男だ」―【私の論評】ロシアによる小さな戦争はこれからも起こる(゚д゚)!

落合信彦氏 「プーチンは戦争したくて仕方がない男だ」


アメリカと北朝鮮による武力衝突が懸念されているが、「朝鮮有事とともに脅威となっているのは、米ロの衝突が起きること」と指摘するのは、ジャーナリストの落合信彦氏だ。

                 * * *

 昨年秋に上梓した『そして、アメリカは消える』で指摘したように、プーチンは戦争したくて仕方がない男だ。

 プーチンは2014年にクリミア半島を略奪し、ウクライナと戦争を起こした。さらに、アサドをIS(イスラム国)の攻撃から防ぐという口実をつけて、シリアに介入した。あの男は、自分が世界の覇者だと考えているのだ。

 米軍のミサイル攻撃は、シリアでの米ロ衝突につながる可能性がある。トランプとプーチンというまともではない指導者のことだから、それが全面的な戦争に発展することさえ懸念される。


 クリントン政権で国防長官を務めたウィリアム・ペリー氏も一昨年の講演で、「アメリカとロシアの間で核戦争が起きる可能性が大きい」と語っている。ペリー氏の主張が、信憑性を増してきたのだ。

 プーチン自身も、ISによるテロの脅威に晒され始めた。4月3日にサンクトペテルブルクの地下鉄で起きた爆弾テロに、プーチンは大きな衝撃を受けたはずだ。テロはプーチンのサンクトペテルブルク訪問中に起きた。容疑者はキルギス出身で、ISとの関係が取り沙汰されている。

 ロシアでは今、多くの若者がISの影響を受け、シリアなどでISと接触してテロの方法などを訓練された後、帰国していると言われる。爆弾を持った不満分子が多数いるという状況だ。サンクトペテルブルクで起きたようなテロは、ロシア国内で今後も繰り返されるだろう。

 経済が落ち込み、国民がテロに怯える中で、プーチンが批判の矛先をずらすために戦争を始める可能性は、十分ある。いま世界は、あちこちで戦争に向かう動きが加速しているのだ。

 ※SAPIO2017年6月号

【私の論評】ロシアによる小さな戦争はこれからも起こる(゚д゚)!

最近では、中国への対抗軸の一環として、ロシアも仲間に引き入れるべきという意見も聴かれます。私自身も、それに関してこのブログに掲載したこともあります。しかしながら、ロシアという国は一筋縄ではいかないことも十分認識すべきです。

それについては、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
安倍首相と米露のバトル口火 TPPは“トランプ版”に衣替え、北方領土はプーチン氏と論戦に―【私の論評】日米は、中国の現体制と、ロシアの中のソ連を叩き潰せ(゚д゚)!
この記事は、昨年の11月10日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事からロシアという国を示した部分を引用します。
現代ロシアを理解するうえで大切なことは、ロシアとソ連は宿敵だということです。ロシアを乗っ取ってできた国がソ連なのですから、両者を一緒くたに考えるべきではありません。

エリツィンは現在では単なる酔っ払いとしか評価されていないのですが、間違いなくロシアの愛国者でした。そのエリツィンから大統領の地位を禅譲されたプーチンがやっていることは、ソ連邦の復活であり、ロシアに対する独裁です。
ロシアの愛国者エリツィン氏
プーチンが日本文化に詳しいから交渉しやすいなどという甘い幻想は捨て去るべきです。ロシアはそれほど単純な国ではありません。例えば、2002年にアレクサンダー・レベジというロシアの政治家が死にました。

彼はロシアの自由化を進め、チェチェン紛争の凍結にも尽力した人物です。NATOや日米同盟にも融和的でした。何より、近代文明とは何かを理解し、実行しようとしました。

ロシア史のなかでも、一番の真人間と言っていい存在です。しかし、彼の末路はヘリコプター事故死です。ロシアではなぜか、プーチンの政敵が『謎の事故死』を繰り返します。このレベジについてなんら言及せず、『プーチンは親日家だから』などと平気で言っているような輩は、間違いなく馬鹿かロシアスパイです。
アレクサンダー・レベジ
しかし、無論プーチンに限らず誰にも様々な面があります。どんな物事にも良い面もあれば悪い面もあります。『誰が善玉で誰が悪玉か』という子どものような区別の仕方はすべきではありません。 
ロシアを支配しているのは、徹底した『力の論理』です。自分より強い相手とはケンカをせず、また、自分より弱い相手の話は聞かないというものです。

日本からの投資などで、ロシア側の姿勢を軟化させ北方領土問題を一歩でも進めよう、などという声もあるようですが、話を進める気のない相手に交渉を持ち込んだところで、条件を吊り上げられるのがオチです。

そもそも、戦争で取られたものは戦争で取り返すしかない、というのが国際社会の常識です。力の裏づけもないまま、話し合いで返してもらおうなどと考えている時点で、日本は甘すぎます。これは、それこそ子どもの論理と謗られてもしかたありません。 
これは、プーチンとメドヴェージェフの役回りを考えてもわかります。子分が大袈裟に騒ぎ立てたところへ、親分が『まあまあ』と薄ら笑いで入ってくるのは、弱肉強食のマフィア社会などでは常套手段です。にもかかわらず子どものままの日本は、プーチンの薄ら笑いを友好的なスマイルだと勘違いしてしまっています。要するに、マフィアの社交辞令を真に受けているわけです。
プーチンとメドベージェフ
そもそも、多くの日本人はロシアを知らなさすぎます。ウクライナの問題にしても、ロシアの歴史を知っていれば『またやってるよ』で終了です。『アメリカの影響力の低下』を論じる向きもありますが、そもそも、旧ソ連邦であるウクライナ、とくにクリミア半島に欧米が手出しできるわけがありません。メキシコにロシアが介入できないのと一緒です。

これは、世界の通史を知れば国際社会の定跡が学べ、おのずと理解できることです。そうして、文明国として、日本が強くなるべき理由やその方法も理解できるはずです。

プーチン大統領にとって、ウクライナはあくまで自分たちの持ち物です。元KGBである彼の故郷はロシアではなくソ連邦なのです。ウクライナを狙うのは、彼が旧ソ連を取り戻そうとする行為の一環なのです。

プーチンは故郷であるソ連邦の歴史をムダにしたくないし、ソ連の崩壊が敗北だったとは決して認めたくないのです。例えばプーチンは、ガスプロムという天然ガスの企業を使って、ロシア人から搾取を続けています。

かつてイギリスが東インド会社でやっていたような植民地化を自国で行っているわけです。この事実だけ見ても、彼がロシアの愛国者ではなく、ソ連への忠誠心が高いと見ていいです。
ソ連の愛国者プーチン
北方領土へのミサイル配備や担当大臣拘束という一連の動きは、北方領土・日露平和条約交渉を妨害しようというプーチンの意図の表れです。 
日本としては、米国と貿易交渉で徹底的にケンカをして、ロシアのプーチン幻想など捨て去り、米国と共同しつつ、何十年かけてもロシアの中のソ連をぶっ潰す、中国の現体制をぶっ潰すことを念頭においた外交を展開すべきです。 
さて、ロシアという国の実情がおぼろげながらでもご理解いただけたものと思います。さて、次にプーチンの人柄を以下に説明しようと思います。

プーチンの人柄を知る上で、絶対に忘れてはならないことが1つあります。それは、奴は自分にとって脅威となる政敵はことごとく暗殺する性癖があるということです。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
邪魔者は殺す プーチン大統領のデスノート―【私の論評】プーチンは、生かさず殺さず利用することが我が国の目指すべき道(゚д゚)!
ウラジーミル・プーチン
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に過去のプーチンによるものとみられる暗殺に関して引用します。
 超大国ロシア復権を目指すプーチン大統領は、政権に批判的な者を露骨に排除してきた。ロシア・旧ソ連圏の安全保障に詳しい軍事アナリストの小泉悠氏は、「ロシアの恐怖政治は今後も続く」と見ている。  
 * * * 
 2015年2月27日、ある男がモスクワ中心部の橋で4発の銃弾を浴びて死亡した。男はロシアの野党指導者ネムツォフ。反プーチンを掲げて大規模デモを開催する2日前の暗殺だった。後に当局は5人を逮捕したが「黒幕」は不明のままだ。
暗殺されたとみられる野党指導者ネムツォフ氏
 プーチンという男を批判する者の不可解な死は今に始まったことではない。
 有名な例が、プーチン政権誕生の鍵を握る事件を追及していたジャーナリストのポリトコフスカヤだ。 
 1999年、ロシア3都市のアパートが連続爆破され、約300人が死亡した。当時、ロシア首相のプーチンはチェチェン独立派武装勢力のテロと断定して報復攻撃を開始した。決断は国民に広く支持され、大統領に上り詰める基盤となった。 
 だが、後に同型の爆弾を仕掛けた不審者がロシアの諜報機関と関係していた事実が発覚。ポリトコフスカヤは、アパート爆破はチェチェン侵攻の口実が欲しいプーチンの「自作自演」ではないかと追及した。
暗殺されたとみられるポリストフスカヤ氏の葬儀
 そして彼女は標的となる。2004年のチェチェン武装勢力による中学校占拠事件を取材する際、現場に向かう機内で提供された一杯の紅茶を飲んで意識を失った。彼女は紅茶に毒を盛られたとして、「ロシア当局による毒殺未遂」だと主張した。 
 奇跡的に一命を取り止めたが、2006年10月7日、モスクワ市内にある自宅アパートのエレベーター内で射殺された。全容は不明だが、この日はプーチン54歳の誕生日であり、暗殺は「最大の贈り物」とされた。 
 3週間後、彼女と同様にロシア政府の関与を追及していた元KGB(ソ連国家保安委員会)のリトビネンコが亡命先のロンドンで体調不良を訴える。髪の毛が抜け、嘔吐を繰り返した彼は、やつれ果てた姿で死亡した。
病気の治療を受けていたリトビネンコ氏
 死体からはロシアで独占的に製造される放射性物質のポロニウム210が検出された。後に英国の調査委員会は、暗殺にロシア政府が関与しており、少なくともプーチンの承認を得ていたと結論づけた。 
 KGBには「チェキスト(情報機関員)は死ぬまでチェキストだ」との鉄則がある。KGB出身のプーチンにとって、西側に魂を売ったリトビネンコは、「許されざる裏切り者」だった。
これらの暗殺は、無論プーチンは認めてはいません。しかし、これだけ都合よく政敵が倒れるのですから、これは推して知るべき筋合いのものです。

しかしながら、そもそもプーチン氏とはどんな人物なのでしょうか。氏を動かす要因とは何なのでしょうか。氏が信じる価値とは何か。こうした事柄について、北海道大学名誉教授の木村汎氏の著書『プーチン人間的考察』『プーチン内政的考察』(いずれも藤原書店)は、合わせて1200頁余、木村氏のロシア及びプーチン分析では他の追随を許しません。


プーチン像を、木村氏は「人誑(ひとたら)し」という言葉で鮮やかに表現しました。プーチン氏は父親同様、ソ連(ロシア)の情報要員、つまりスパイとして働くべく、KGB(旧ソ連国家保安委員会)に勤めたのですが、チェキストと総称される彼らに叩き込まれるのは、「人間関係のプロフェッショナル」になることだと、これはプーチン氏自身が語っています。
 
ロシアの名門紙「コメルサント」の女性記者、エレーナ・トレーグボワは、プーチン氏とは「絶対的に対立し合う立場」だったが、プーチン氏は、「彼と私があたかも同一グループに属し、同一利益を共有しているかのような気分に」させてしまうと振り返っています。
把瑠都(右から二番目)とエレナ・トレクボワ(右)
木村氏はさらにジョージ・ブッシュ前米大統領が如何に「めろめろ」にされたかも描いきました。反ソ、反露主義のブッシュ氏は、大統領就任後、なかなかプーチン氏に会おうとしなかったのですが、2001年6月16日、とうとう会談しました。そのときプーチン氏は、幼いときに母親から貰った十字架を見せて、マルクス主義の下でロシア正教の信仰が禁止されていた少年時代に、母親の計いで洗礼を受けた体験を、ブッシュ氏に静かに語ったそうです。
 
ブッシュ氏は明らかに心を動かされ、次の言葉を残している。「私はこの男(プーチン)の眼をじっと見た。彼が実にストレートで信頼に足る人物であることが判った」。

プーチン(左)とブッシュ(右) 
英国人ジャーナリストのロックスバフ氏は、「ブッシュは、プーチンの釣針に見事に引っ掛った」と評しましたが、木村氏はこの人誑しイメージとは異なる別のプーチン評も紹介しています。

「プーチンは自己(および家族)のサバイバルやセキュリティを何よりも重視し、この目的達成を人生の第一義にみなして行動する人間」(プーチンの公式伝記『第一人者から』の執筆者)であり、プーチンの胸深くには、「己が何が何でも・サバイバル・せねばならないという欲望が、一本の赤い糸のようになって貫いている」と、断じています。
 
上半身裸で馬を駆ったり、釣りをする姿を、プーチン氏は好んで映像にとらせます。そこから連想されるマッチョなイメージとは正反対に、彼は「臆病すぎるほどの慎重居士」だと木村氏は見ています。


従ってプーチン氏はいかなる人間をも絶対的に信頼することはありません。常に複数の人間に保険をかけます。状況が動いているときにはとりわけそうです。
 
そのプーチン氏が権力保持のために注意深くコントロールしてきたのが、➀ロシア国民、➁反対派諸勢力、➂プーチン側近のエリート勢です。
 
➀は新聞・テレビなどのメディアを国営化し、人事をプーチン派で固め、自分に好都合な情報だけを報じることでコントロール可能です。ちなみに、2014年段階でロシア人の情報源は60%がテレビ、インターネットは23%にとどまります。
 
➁は上に掲載したように、苛酷で執拗で非情な手段を用いて、命まで奪いとることで押さえます。
 
最も手強いのが➂の側近による反乱、宮廷クーデターです。そのような事態が起きるとすれば、中心勢力は旧KGB関係者を含む「シロビキ」です。万が一にも反乱の可能性があれば、プーチン氏はその芽を摘みとります。それが昨年4月、関係者を驚かせた一大決定でした。プーチン氏が命じたのは国家親衛隊の創設でした。新組織は生半可なものではありません。そこに配置転換された人数は40万人、ロシア正規軍の約半分に相当する規模です。新組織の長にはプーチン氏の長年の柔道仲間で、「プーチン氏に最も献身的に尽くす人物」と評されるゾロトフという人物が選ばれました。

プーチン(前)とゾロトフ(後)
こうした中、昨年3月に行われた世論調査では、ロシア人の82%がプーチン大統領を支持し、同じく82%がロシアは深刻な経済危機に直面していると答えました。深刻な経済危機は為政者への批判につながるのが世界の常識だが、ロシアではそうなっていない。なぜなのでしょうか。
 
ロシア人は今日の食事に困っても、ロシアという「偉大な国家」が国際社会で存在感を示し、大国の栄光を回復するなら、精神的に満足するからだと解説されています。加えて、プーチン氏は経済的困難を外敵の所為にして、対外強硬路線を取って求心力を高め、自身への支持率上昇につなげています。クリミア、シリアなどとの「小さな戦争」は、ロシア国民のナショナリズムを呼び醒ます効果を生みます。米欧諸国はそれに対して対露制裁を強化します。するとプーチン氏は新たな小さな戦争を始めて国民のナショナリズムに訴えるのです。
 
完全な悪循環の中にあるのがプーチン大統領なのです。ブログ冒頭の記事では、落合氏は、「プーチンは戦争したくて仕方がない男だ」と評していますが、というよりは「小さな戦争をせざるを得ない、悪循環におちいつている」とみるべきなのでしょう。

現在のロシアは、最盛期の頃のソ連と比較すれば、国力は衰えました。現在では、米国と戦争などとてもできるような状況ではありません。米国抜きのNATO軍と戦ったとしても、今や勝ち負けを論じるようなレベルではありません。とても戦争を遂行できるだけの、軍事力も経済力もありません。

しかしながら、小さな戦争をする力はあります。これからも、クリミア、シリアなどとの「小さな戦争」を仕掛ける可能性は十分にあります。

中国・ロシア・北朝鮮の国境が接する、中国の琿春市。展望台にはロシア・中国・北朝鮮の国旗。
しかし、世界情勢はこれからもどうなるかわかりません。朝鮮半島においても、当然のことながら、プーチンは、機会をうかがっていることでしょう。多くの日本人は、意識していませんが、ロシアと北朝鮮は国境を接しています。

無論、ロシアが北朝鮮に攻め入るなどという単純な図式ではないと思いますが、現在の緊張がロシアにとって少しでも有利になるように、チャンスをうかがっているであろうことは、確かです。

世界は、プーチンの頭の中に、ソ連的なものがよぎるのを阻止し、そうして日本は何十年かけてでも、ロシアの中のソ連的なものを破滅させるべきなのです。

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2017年2月7日火曜日

支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序―【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!

支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序

孤立主義ではいられないトランプ政権

ロバート・ケーガン氏
 世界に国際秩序の崩壊と地域戦争の勃発という2つの重大な危機が迫っている。

 米国は、第2次大戦後の70余年で最大と言えるこれらの危機を招いた責任と指導力を問われている。米国民がドナルド・トランプ氏という異端の人物を大統領に選んだ背景には、こうした世界の危機への認識があった──。

 このような危機感に満ちた国際情勢の分析を米国の戦略専門家が発表し、ワシントンの政策担当者や研究者の間で論議の波紋を広げている。

 自由主義の世界秩序が崩壊へ向かう

 この警告を発したのは、ワシントンの民主党系の大手研究機関「ブルッキングス研究所」上級研究員のロバート・ケーガン氏である。

 ケーガン氏は米国学界でも有数の国際戦略研究の権威とされ、歴代政権の国務省や国家情報会議などに政策担当の高官として登用されてきた。従来は保守派の論客とされてきたが、近年ではオバマ政権でも政府の諮問機関に招かれ、国際戦略情勢に関する政策などを提言してきた。昨年の大統領選ではヒラリー・クリントン候補の政策顧問を務めている。

 ケーガン氏は1月24日に「自由主義的世界秩序の衰退」と題する同論文を発表した。同氏はこの論文で、第2次大戦以降の70余年の間、米国主導で構築し運営してきた自由主義の世界秩序は、崩壊に向かう最大の危機を迎えたと指摘する。

 危機の原因となっているのは、支那とロシアという反自由主義の二大国家の挑戦だ。1991年のソ連崩壊以後の米国の歴代政権が「唯一の超大国」の座に安住し、とくにオバマ政権が軍事力を縮小して「全世界から撤退」したことがその状況を招いたという。

 支那、ロシアの軍事力行使の危険性が高まる

 ケーガン氏の論文の要点をまとめると以下の通りである。

・世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきた。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきた。

・しかしこの世界秩序は、ソ連崩壊から25年経った今、支那とロシアという二大強国の挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたった。

・支那は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしている。ロシアはクリミア併合に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっている。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れている。

・支那とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止だった。

・だが、近年は米国の抑止力が弱くなってきた。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまった。

・その結果、いまの世界は支那やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきた。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかない。

 米国はリーダーシップを取り戻すべき

 ケーガン氏は論文で以上のように、いまの世界では支那とロシアの軍事行動による地域的な戦争の危機が高まっており、その結果、自由主義的な世界秩序の崩壊がありうると警告していた。

 トランプ政権は米軍の再増強や「力による平和」策を宣言しながらも、世界における超大国としての指導的立場や、安全保障面での中心的役割を復活させることには難色をみせている。

 だがケーガン氏は、世界の危機への対策としては、米国が世界におけるリーダーシップを再び発揮することだという。

 ケーガン氏は、今回の大統領選で米国民がトランプ氏を選んだのは、オバマ政権の消極的政策のために世界の危機が高まったという認識を抱き、オバマ路線とは異なる政治家を求めたからだとみる。トランプ大統領は、まさに非常事態だからこそ生まれた大統領だということだろうか。

【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!

世界の危機が高まっていると、警告するのは、ロバート・ケーガン氏だけではありません。たとえば、ジョセフ・ナイ氏も警告しています。ジョセフ・サミュエル・ナイ・ジュニア(Joseph Samuel Nye, Jr.、1937年1月19日 - )は、アメリカ合衆国の国際政治学者。ハーバード大学特別功労教授。アメリカ民主党政権でしばしば政府高官を務め、知日派としても知られます。

この、ジョセフ・ナイ氏が、「キンドルバーグの罠」という論文を先月9日に発表しています。この論文なかなかの優れものなので、以下にナイ氏の写真ととも、この記事の要約を掲載します。

ジョセフ・ナイ氏
キンドルバーグの罠 
トランプ次期大統領が対中政策の方針を準備するにあたって、歴史の教える注意すべき二つの大きな「罠」がある。 
一つ目は、習近平主席も引用した「ツキュディデスの罠」(Thucydides Trap)である。これは古代ギリシャの歴史家が発したとされる「既存の大国(例:米国)が台頭しつつある大国(例:支那)を恐れて破壊的な大戦争が起こる」という警告だ。 
ところがトランプ氏が気をつけなければならない、もう一つの警告がある。それは「キンドルバーガーの罠」(Kindleberger Trap)であり、これは支那が見た目よりも弱い場合に発生するものだ。 
チャールズ・キンドルバーガー
 チャールズ・キンドルバーガー(Charles Kindleberger)は「マーシャル・プラン」の知的貢献者の一人であり、後にマサチューセッツ工科大学で教えた人物だ。 
彼は破滅的な1930年代が発生した原因として、アメリカが世界大国の座をイギリスから譲り受けたにもかかわらず、グローバルな「公共財」(public goods)を提供する役割を担うことに失敗したことにあると指摘している。 
その結果が景気後退であり、民族虐殺であり、世界大戦へとつらなる、国際的なシステムの崩壊だというのだ。 
では力を台頭させている今日の支那は、グローバルな「公共財」を提供できるのだろうか? 
一般的な国内政治において、政府は国民全員の利益となる「公共財」、つまり警察による治安維持やクリーンな環境を生み出している。 
ところがグローバルなレベルになると、安定した気候や金融・財政、航行の自由のような「公共財」というのは、世界で最も強力な国が率いる同盟関係によって提供されるのだ。 
もちろん小国はそのようなグローバルな「公共財」のために貢献するインセンティブをほとんどもたない。彼らの小さな貢献は、そこから得られる利益の差を生むことはないため、彼らにとっても「タダ乗り」が合理的なものとなるからである。 
ところが最も強力な国は、小国たちの貢献の効果や差を感じることができる。だからこそ最も強力な国々にとって「自ら主導する」のは合理的なことになるのだ。もし彼らが貢献しないとなると「公共財」の生産は落ちてしまう。 
この一例がイギリスである。第一次世界大戦後に彼らがその役割を果たせないほど弱体化した後、孤立主義的なアメリカはそのまま「タダ乗り」を続けたために、破滅的な結果を生んだのだ。 
何人かの専門家は、支那は十分な力をつけても(自分たちが創設したわけではない)その国際秩序に貢献せずに、「タダ乗り」を続けると見ている。 
これまでの経過は微妙なところだ。支那は国連体制から利益を受けており、たとえば安保理では拒否権を持っている。平和維持軍では第二の勢力となっており、エボラ熱や気候変動の対処のような国連の計画にも参加している。 
また、支那は世界貿易機関(WTO)や世界銀行、そしてIMFのような多国的経済制度からも大きな恩恵を得ている。

2015年にはAIIBを創設し、これを世銀の対抗馬にすると見る人もいたが、実際は世銀と協力しながら国際的なルールを遵守している。 
その一方で、去年の南シナ海の領土問題におけるハーグの判決の拒否は、支那に対する大きな疑問を投げかけることになった。 
それでもこれまでの支那の行動は、自らが恩恵を受けているリベラルな世界秩序をつくりかえようとするものではなく、むしろその中で影響力を増そうというものだ。 
ただしトランプ政権の政策によって追い込まれると、支那は世界を「キンドルバーガーの罠」に落とす、破滅的な「タダ乗り」をする国になる可能性が出てくる。 
同時に、トランプはより有名な「ツキュディデスの罠」にも警戒すべきである。つまり弱すぎる支那よりも、強すぎる支那である。 
もちろんこの「罠」は、不可避であるわけではないし、その効果も誇張されることが多い。 
たとえば、政治学者のグレアム・アリソン(Graham Allison)は、1500年以降の既存の大国が台頭する大国に直面した16のケースのうち、12回が大戦争につながったと論じている。 
グレアム・アリソン氏
ところがこの数は不正確である。なぜならどれがその「ケース」に該当するのかが不明確だからだ。 
その一例として、イギリスは19世紀なかばに世界大国であったが、それでもヨーロッパ大陸の中心部に新たなドイツ帝国が誕生するのを見逃している点などが挙げられる。 
当然ながら、イギリスはそのおよそ50年後となる1914年にドイツと戦うことになったのだが、これは一つのケース、もしくは二つのケースとしてカウントされるのか微妙なのだ。 
第一次世界大戦は、単に台頭するドイツに直面した既存の大国であるイギリスというケースではなく、それに加えてドイツ国内におけるロシアの台頭に対する恐怖が原因であるし、衰退しつつあったオーストリア=ハンガリーにおけるスラブ系のナショナリズムの盛り上がりに対する恐怖のように、古代ギリシャの例とは違う無数の要因によるものであった。 
現在のアナロジーに関していえば、今日の米中間のパワー・ギャップは、1914年当時におけるドイツとイギリスの間よりもはるかに大きい。注意を促すという点ではたしかに比喩というのは有用だが、歴史的に不可避なような感覚を醸し出しはじめると危険なものになってくる。 
さらに古代ギリシャのケースでも、ツキュディデスが解説したようなシンプルなものではない。 
彼は第二次ペロポネソス戦争の原因はアテナイの力の台頭がスパルタの恐怖を起こしたことにあると主張しているが、イエール大学の歴史家であるドナルド・ケーガン(ブログ管理人注:ブログ冒頭の記事にでてくるロバート・ケーガンの父)の研究によれば、アテナイの国力は実際は台頭しておらず、紀元前431年に戦争が勃発した時のバランス・オブ・パワーは安定化し始めていたのだ。 
ドナルド・ケーガン氏
むしろスパルタに「リスクを冒しても戦争をすべきだ」と思わせたのは、アテナイの政策面での間違いだった。 
アテネの台頭は同世紀初期の第一次ペロポネソス戦争のほうの原因となったのだが、その後の30年間は停戦が続いた。ケーガンによれば、より破壊的なものとなった第二次ペロポネソス戦争が発生するためには、まだ消えさっていない火種を再び点火する火花と、それをマズい政策の選択を選び続けることによって煽ることが必要だったのだ。 
これをいいかえれば、この戦争は「非人間的な力」ではなく、難しい状況におけるマズい決断によって発生したのだ。 
これこそが、支那の台頭に直面する現在のトランプにとっての課題だ。彼は「強すぎる支那」と「弱すぎる支那」に同時に対処しなければならないからだ。つまり彼は「キンドルバーガーの罠」と「ツキュディデスの罠」の両方を避けなければならないのである。 
究極的にいえば、彼が避けるべきなのは、人類の歴史をむしばんでいる「計算違い」や「思い違い」、そして「早とちりの判断」なのである。
結論をリーダーの失策というところに求めているのは実務経験のあるナイ氏だからでしょうか。

それにしても、最近もトランプ政権のカオスぶりが目立ちます。

ドナルド・トランプ(Donald Trump)次期米大統領が国防長官への起用を発表しているジェームズ・マティス(James Mattis)元中央軍司令官(66)は先月12日、上院軍事委員会で開かれた指名承認公聴会の場で、ロシアが北大西洋条約機構(NATO)を破壊しようとしていると非難し、米国はかつての敵国ロシアに立ち向かう必要があるとの考えを示しました。

狂犬との異名を持つジェームズ・マティス氏
元海兵隊大将のマティス氏によるこの痛烈なロシア批判は、近く上司となるトランプ氏の対ロシア観とは懸け離れています。トランプ氏はこれまで、「非常に頭が切れる」などとウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の指導者としての手腕を繰り返し称賛し、両国間の関係改善を訴えてきました。

公聴会でマティス氏は、現在の世界秩序が直面している緊迫した状態をどのように認識しているかという質問に対して、第2次世界大戦(World War II)以後で最も大きな攻撃にさらされていると回答。「(その攻撃は)ロシアやテロ集団によるものであり、南シナ海(South China Sea)で支那が行っていることもそうだ」と指摘しました。

さらにマティス氏は、トランプ氏同様、ロシアとの関わり合いを深めることは受け入れるとしながらも「プーチン氏との協力の範囲については、ごく控えめな期待」しか抱いていないと強調しました。

ということで、アメリカという超大国も、政権中枢が混乱すると余計で無駄な戦争を起こす可能性もなきにしもあらずです。

ただし、ジョセフ・ナイ氏は、もっぱらトランプ大統領が「計算違い」や「思い違い」、そして「早とちりの判断」をする可能性を述べていますが、私としては、習近平やプーチンのそれのほうが、可能性は大きいと思います。

習近平やプーチンは、オバマ政権が軍事力を縮小して「全世界から撤退」したことを受けて、支那は海洋進出し周辺諸国の隷属化する道を歩み、ロシアはクリミア併合に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっています。

そうして、支那はもともと、建国以来ウイグル、チベット、内蒙古、満州などに侵略して版図を広げました。旧ソ連は、建国から崩壊まで、毎年平均するとオランダと同程度版図を拡大してきました。

これを考えると、ロバート・ケーガンが主張するように、支那、ロシアの軍事力行使の危険性があることを前提に、自由主義的な世界秩序の崩壊を防ぐために、米国はリーダーシップを取り戻すべきです。

米国がリーダーシップを取り戻すことにより、支那・ロシアが今後軍事力の行使を諦めればそれで良いですが、もし行使すれば、米国としてもこれに対抗するため行使する他ないでしょう。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は先月25日、米当局者の話として、トランプ政権が国連などへの拠出金の削減や、一部の多国間条約からの離脱を目指す二つの大統領令署名を検討していると報じました。国連への関与を大幅に見直し、政権が掲げる「米国第一」主義を推進する狙いがあるとみられます。

ご存知のように、国連とは英語では"United Nations"であり、これは直訳すれば、「連合国」です。国連とは、第二次世界大戦の戦勝国のための組織です。米国がここへの関与を大幅に見直し、関与をあまりしないようにするということは、米国が戦後体制から離脱することを意味します。

トランプ氏は大統領選で、支那の対米輸出拡大を批判して「45%の関税をかける」と繰り返していました。また、支那が通貨安誘導によって輸出を促進していると訴えていました。

しかし、これは事実上WTO加盟国に対してはできない措置です。どうしても、米国が支那に対して「45%」の関税をかけるということになれば、WTOを脱退しなければなりません。これも、戦後体制からの脱却を意味します。

ここまでしないとしても、米国としては、支那に対して金融制裁措置をとることもあり得ます。

戦後体制を概要を決定したヤルタ会談(前列左よりチャーチル、ルーズベルト、スターリン)
日本の保守層は、「戦後レジーム」からの脱却ということを主張してきました。私も、当然のことながらこれには賛成です。

ただし、私たちは現在米支露が「戦後レジーム」を崩壊させるほうに動いていることを理解すべきです。そうして、最悪のシナリオでは米・支・露三つ巴の戦争が起こる可能性さえあり得るということを銘記すべきでしょう。さらに、このことは日本を含めた世界中の国々に大きな影響を与えます。日本は、遅ればせながら今からでもそれに備える必要があります。

戦後体制が崩れれば、そのときには、北朝鮮のミサイル発射にも、支那の海洋進出にも、あらゆる外交課題について日本はアメリカに全面的に頼ることはできないと考えて臨むべきです。

日本の後ろにもうどのような場合でも、アメリカが存在していて、必ず助けるてくれるとは限らないと、覚悟するよりないのです。もう与野党で馬鹿な議論、誹謗合戦をしている暇はないのです。

しかしこれは、当たり前のことなのです。自分の国のことを他国に憚らず自分で決め、自分で守るのは、トランプ(大統領)に言われることなく、自明の理屈なのである。無論その時に、米国との対等同盟関係を築くことも選択肢の一つです。

しかし、アメリカに頼りきって、アメリカに守られながら生きる日本の時代、日本にとっての「戦後レジーム」は、間もなく終了するとみなすべきなのです。そもそも、これは当然のことです。どんなに強固な体制であっても同じ体制が永遠に続くことなどあり得ないのです。時代の変化にあわせて変わっていくのが自明の理です。

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2016年12月30日金曜日

【メガプレミアム】「奪われた領土」極東ロシアに流れ込む中国人…“スーツケースで侵略”は危険な火ダネ―【私の論評】日米がロシアに歩み寄りの姿勢をみせる理由はこれだ(゚д゚)!

【メガプレミアム】「奪われた領土」極東ロシアに流れ込む中国人…“スーツケースで侵略”は危険な火ダネ

ロシア人女性が中露国境の街で、長い冬に向けた生活必需品の買い出しに熱を入れている。写真は
黒河市の露店市場。国境のロシア人にとっては中国の物資はなくてはならないものになっている。
人口が希薄なロシア極東に中国人が流入し、ロシア人を心理的に圧迫している。ロシアの調査機関は今世紀半ばを待たず、中国人がロシア人を抜いて極東地域で最大の民族になると予測する。中国人には19世紀の不平等条約でウラジオストクなど極東の一部を奪われたとの思いがあり、ロシア人には不気味だ。欧米に対抗して蜜月ぶりを演出する両国首脳の足元で、紛争の火だねが広がっている。(坂本英彰)

  中国人150万人が違法流入

 「中国人がロシアを侵略する-戦車ではなくスーツケースで」

 米ABCニュースは7月、ロシア専門家による分析記事を電子版に掲載した。露メディアによると、国境管理を担当する政府高官の話として、過去1年半で150万人の中国人が極東に違法流入したという。数字は誇張ぎみだとしつつも、「国境を越える大きな流れがあることは確かだ」と記す。

 カーネギー財団モスクワ・センターによると在ロシアの中国人は1977年には25万人にすぎなかったが、いまでは巨大都市に匹敵する200万人に増加した。移民担当の政府機関は、極東では20~30年で中国人がロシア人を抜いて最大の民族グループになるとしている。

 インドの2倍近い広さがある極東連邦管区の人口は、兵庫県を少し上回る630万人ほど。これに対し、国境の南側に接する中国東北部の遼寧、吉林、黒竜江省はあわせて約1億人を抱える。

国境を流れるアムール川(黒竜江)をはさんだブラゴベシチェンスクと黒竜江省黒河は、両地域の発展の差を象徴するような光景だ。人口約20万人の地方都市の対岸には、近代的な高層ビルが立ち並ぶ人口約200万人の大都市が向き合う。

 ABCの記事は「メキシコが過剰な人口を米国にはき出すように、ロシア極東は中国の人口安全弁のようになってきている」と指摘した。ただし流入を防ぐために「壁」を築くと米大統領選の候補が宣言するような米・メキシコ関係と中露関係は逆だ。中露間では人を送り出す中国の方が、ロシアに対して優位に立つ。

  20年後の知事は中国人!?
 ソ連崩壊後に過疎化が進行した極東で、労働力不足は深刻だ。耕作放棄地が増え、地元住民だけでは到底、維持しきれない。

 米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿したロヨラ大シカゴ校のコダルコフスキー教授によると、過去10年で日本の面積の2倍超の約80万平方キロの農地が中国人に安価にリースされた。そこでは大豆やトウモロコシ、養豚など大規模な農業ビジネスが展開されている。

 中国と接する極東のザバイカル地方は今年、東京都の半分にあたる1150平方キロの土地を中国企業に49年間長期リースすることで基本合意した。1ヘクタールあたり年500円余という格安だ。これに対しては「20年後には知事が中国人になりかねない」などと、ロシア国内で猛反発も起きた。

ロシア政府はロシア人の移住や定着を促すため土地を無償貸与する法律を制定したが、ソ連崩壊後の二の舞になる可能性も指摘されている。1990年代、分配された国有企業の株は瞬く間に買収され、政府とつながる一部特権層が私腹を肥やす結果となった。

 極東は中国なしでは立ちゆかず、結果として中国人の流入を招く。コダルコフスキー教授は「中国はアムール川沿いのロシア領を事実上の植民地にしてしまった」と指摘した。

  「未回復の領土」

 中国人が大量流入する状況で「領土回復運動」に火がつくと、ロシアにとっては取り返しのつかない結果となりかねない。

 欧米列強のひとつだったロシア帝国は1858年と1860年、弱体著しい清帝国との間で愛琿条約、北京条約をそれぞれ締結し極東地域を獲得した。沿海州などを含む日本の数倍に匹敵する広大な領域で、これにより清帝国は北東部で海への開口部を失った。アヘン戦争後に英国領になった香港同様、清にとって屈辱的な不平等条約だ。

 中国と旧ソ連は1960年代の国境紛争で武力衝突まで起こしたが、冷戦終結後に国境画定交渉を加速し、2008年に最終確定した。現在、公式には両国に領土問題は存在しない。

 にもかかわらず中国のインターネット上には「ロシアに奪われた未回復の領土」といったコメントが頻出する。

ニューヨーク・タイムズは7月、近年、中国人観光客が急増しているウラジオストクをリポートした。海辺の荒れ地を極東の拠点として開発し、「東方を支配する」と命名した欧風の町だ。吉林省から来た男性は「ここは明らかにわれわれの領土だった。急いで取り戻そうと思っているわけではないが」と話す。同市にある歴史研究機関の幹部は「学者や官僚がウラジオストクの領有権について持ち出すことはないが、不平等条約について教えられてきた多くの一般中国人はいつか取り返すべきだと信じている」と話した。

  アイスで“蜜月”演出も

 台湾やチベット、尖閣諸島や南シナ海などをめぐって歴代政権があおってきた領土ナショナリズムは、政権の思惑を超えロシアにも矛先が向かう。極東も「奪われた領土」だとの認識を多くの中国人が共有する。

 9月に中国・杭州で行われた首脳会談でプーチン大統領は、習近平国家主席が好物というロシア製アイスクリームを贈ってまさに蜜月を演出した。中露はそれぞれクリミア半島や南シナ海などをめぐって欧米と対立し、対抗軸として連携を強める。

 しかし極東の領土問題というパンドラの箱は何とか封印されている状況だ。ナショナリズムに火がつけば、アイスクリームなどいとも簡単に溶かしてしまうだろう。(2016年10月4日掲載)


【私の論評】日米がロシアに歩み寄りの姿勢をみせる理由はこれだ(゚д゚)!

中国とロシア、両方とも広大な領土を持つ国ですが、その内容はかなり違います。まず人口は、中国が14億人弱、一方ロシアは1億4千万であり、これは日本の1億2千万よりわずかに多いだけです。

GDPはといえば、中国11,181.56(単位10億ドル)、ロシア1,326.02(単位10億ドル)であり、実に中国のGDPはロシアの8倍以上です。(2015年の数字、以下同じ)

1人あたりのGDPは、ロシア9,243.31ドル、中国8,140.98ドルロシアは、中国の1.1倍です。ちなみに、日本の1人あたのGDPは、32,478.90ドルです。

そうして、ロシアは中国と世界で一番長く国境線を接している国です。これを考えれば、上記のような問題が起こるのは当然といえば、当然です。

これについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
上念司「中国包囲網の決定打はモンゴル・トルコのランドパワー強化に在り!」―【私の論評】ソ連崩壊後、小国ロシアになってから国境溶解が顕著になり中国にとって軍事的脅威はなくなった!日本は経済援助を通じて中国と国境を接する国々のランドパワーを強化すべき(゚д゚)!
かつての中ソ国境紛争の係争地だった黒瞎子島は今では観光地になっている
この記事は、2014年5月13日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事ではロシアと中国の国境があいまいになっている「国境溶解」という現象について解説しました。

この記事より、国境溶解に関わる部分を以下に引用します。
国境の溶解現象とは、中ロ国境を中国人が多数超えてロシア領内に入り、様々経済活動をしているため国境そのものが曖昧になっていることをさします。 
黒竜江とウスリー江を挟んだ対岸は、中国有数の農業地帯であり、 渤海、金以来のさまざまな民族の興亡の地として歴史に残る遺跡も多いです。 わずかに川ひとつ隔てただけで、一方は衣食を外からの供給に仰ぎつつ資源を略奪しつづけ、 年々人口を減らしつづけているシベリアであり、一方は年々人口を急増させつつある 黒龍江省です。 
ロシア側の、全シベリアの人口を総和しても、数十分の一の面積しかない黒龍江省の半分にしかならないのです。この救いがたい落差は、 つまるところ社会的な圧力になります。ソ連政府はだからこそ国境地帯に厳しい軍事的な緊張を 作り出すことによって、中国からの圧力に対抗していたといえるでしょう。 
国境を挟んだ中国側の吉林省、遼寧省と北朝鮮、 内モンゴル自治区とモンゴル、新彊とカザフスタンおよびウズベキスタン、中国の雲南省とミャンマー、 中国の広東省とベトナムなどを比較してみると、常に面積の少ない中国側の各省が人口ではるかに勝っていることがわかります。 
この明白な不均衡こそが、国境を超えて大量の中国人が流出あるいは進出しつつある 根本的な原因です。この点から言えば、シベリアも例外ではないばかりではなく、 最も典型的なものです。ソ連の軍事的圧力が解消し、 国境貿易が開始されたことは、この過程を一気に促進させました。

ソ連の崩壊によってシベリアのロシア人社会は、直ちに危機に陥いりました。 政府は給与を支払うことができず、多くの労働者が引き上げていきました。 シベリアに市場はなく、シベリア鉄道もいたるところで寸断されようとしていました。 だから、中国からの輸入が不可欠のものとなりましたが、一方で中国に売り渡すものを シベリアのロシア人社会は何も持っていませんでした。その結果、 中国人がシベリアに入り込んできて、役に立つものを探し出し、作り出してゆくしかなくなりました。 
こうして、国境溶解が進んていきました。この国境溶解は、無論中国にとっては、軍事的脅威がなくなったことを意味します。 
特に現在のロシアは、ご存知のようにウクラナイ問題を抱えており、中ロ国境にソ連時代のように大規模な軍隊を駐留させておけるような余裕はありません。 
かつてのソ連の脅威がなくなったどころか、国境溶解でロシア領内にまで浸透できるようになった中国は、この方面での軍事的脅威は全くなくなったということです。 
各地で軍事的な脅威がなくなった中国は、これら国境地帯にかつのように大規模な軍隊を派遣する必要もなくなり、従来から比較すると経済的にも恵まれてきたため、海洋進出を開始刷るだけの余裕を持ち、実際に海洋進出を始めました。
 ブログ冒頭の記事は、この「国境溶解」がますます酷くなっている現状を示したものです。このような状況にある中露両国です。この二国が、同盟関係にあるように見えても、そう装っているだけでしょう。

ロシアは、この「国境溶解」にかなり頭を悩ましていることでしょう。冷戦終結後に国境画定交渉を加速し、2008年に最終確定した。現在、公式には両国に領土問題は存在しない。

さて、このブログでは、何度か中露関係に関する、米国の戦略家ルトワック氏の見方を紹介してきました。その典型的な記事のリンクを以下に掲載します。
【日露首脳会談】中国、日露連携を警戒「包囲網」強化に対抗―【私の論評】会談のもう一つの目的は、ロシアを安全保障のダイヤモンドの一角に据えること(゚д゚)!
米国の戦略家エドワード・ルトワック氏
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、ルトワック氏の中露関係に関する分析に関する部分を以下に一部引用します。
ウクライナ危機をきっかけに中ロはさらに接近し、日米へのけん制を強める……。世界ではこんな見方が多いが、ルトワック氏の予想はちがった。 
ロシアは、中国とは仲良くならない。シベリアなどに侵食してくる中国を脅威だとみているからだ。むしろ、ロシアは中国をにらみ、本当は日米と協力を広げたいはずだ――。ルトワック氏はこんな趣旨の予測を披露したという。
「いまの中国は共産党体制だったときのソ連と同じだ。何を考えているのか、外からは分からない。しばしば、唐突な行動にも出る」。公式な場では決して中国を批判しないロシアの政府関係者からも、こんなささやきが聞かれる。
では、日本はどうすればよいのか。中ロの結束が弱まれば、日本の選択肢は広がる。それでもロシアが対中外交で協力したり、領土交渉で譲ったりすると期待するのは禁物だ。 
米政府当局者は「ロシアに過剰な期待を抱かないほうがいい。日本には戦中の経験もある」と語る。第2次大戦末期、日本の降伏が確実とみるや、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄し、攻め込んできた。 
ユーラシアの両雄はどこに向かうのか。日本は歴史の教訓をひもときながら、冷徹に次の一手を練るときである。
トランプ次期米大統領も、安倍首相も、「国境溶解」のことやルトワック氏の分析に関しては、当然のことながら頭に入っているものと思われます。

だかこそ、トランプ氏はロシアに接近する姿勢を見せているのだと思います、安倍首相もそうでしょう。だからこそ、敢えて日露首脳会談を日本で開催したのです。

トランプ氏は、ロシアに歩み寄りの姿勢をみせることによって、ロシアが関与するウクライナ問題や、シリア問題などがすぐに解消するとは思っていないでしょう。

安倍首相も、ロシアに歩み寄りの姿勢をみせたからといって、領土問題がすぐに解決するなどとは思っていないでしょう。

しかしながら、中国を牽制するための一つの手段として、ロシアを利用する価値があるものと信じているものと思います。

現在のところ、中露国境は「国境溶解」が深刻になっているというだけで、深刻な問題とはなっていません。しかし、中国が領土的野心をむき出しにして、極東地域に進出したとしたら、これはロシアのみならず、日本にとっても、米国にとっても大きな脅威です。

たとえ、中国が極東地域を領土にはしなかったにしても、この地に覇権を及ぼすことができるようになれば、北極海や、オホーツク海に中国が、戦略原潜を航行させるようになるかもしれません。

中国の戦略原潜
北極海では今、温暖化に伴う氷の融解により船舶の航行が容易になりつつあり、北極海を経由して既存の航路より短時間でアジアと欧州をつなぐ「北極海航路」に注目が集まっています。ロシアにとり、自国の領海を船舶が多く行き来する状況は、航路周辺の基地での商業の活性化や、万が一船舶が氷に閉じ込められないよう、護衛サービスを提供できるメリットがあります。

ただし、同海域の氷が溶けることは、その海域を各国の海軍の艦船が容易に航行できることも意味します。国際法で非軍事化が定められた南極と異なり、北極海はその多くの海域で軍事演習などを各国が行うことが可能で、各国の軍事プレゼンスが高まることはロシアにとり懸念すべき状況なのです。

中国は、北方海域でも存在感を高めています。2012(平成24)年以降、砕氷船「雪龍」がほぼ毎年、北極海航路を航行しています。昨年9月には海軍艦艇5隻が、北極海の玄関口となる米アラスカ州沖のベーリング海を初めて航行しました。

中国の砕氷船「雪龍」
ロシアにとってオホーツク海は戦略原潜を展開する「聖域」だけに中国の動きに神経をとがらせています。11年と14年には、雪龍の航路上でミサイル演習を行い威嚇しました。昨年12月に策定したロシアの国家安全保障戦略では、極東と北極圏をつなぐ沿岸防衛システムを構築する方針を決定しました。千島列島と北方領土への地対艦ミサイル配備も対中牽制(けんせい)の意味合いがあります。

南シナ海での中国の行動は、南シナ海を中国の戦略原潜の聖域にするという目論見があります。中国の覇権が、極東地域、北極海にまでおよべば、中国はロシアに変わって、北極海とオホーツク海を中国の戦略原潜の聖域にするかもしれません。

そうなれば、中国はロシア、日米はもとより、世界中の国々特に北半球の国々にとって、かなりの脅威になります。北極海や、オホーツク海なども第二の南シナ海になりかねません。

そんなことは、当然のことながら、ロシアは避けたいでしょう。そのロシアに対して、日本や米国が、歩み寄りの姿勢を見せておくことは、中国を牽制するということで非常に重要な意味があります。

トランプは外交の素人だとか、日露首脳会談は、北方領土問題が進展しなかったので、全く意味がないというような見方は、まだ物事を表面的にしかみられない子どものような見方に過ぎません。

日米のロシアへの歩み姿勢は、当然のことながら、プーチンの頭にも「いざというときには、中国を牽制するために、日米に力を借りることができる」とインプットされていることでしょう。

しかし、日米に力を借りれば、当然のことながら、日米に対して何らかの譲歩をしなければならなくなります。しかし、中国がこれからも、軍事力を強化させていけば、そんな悠長なことも言っておられなくなります。

北方領土問題が、解決の緒を見出すことができるのは、その時かもしれません。しかし、そのときに、日本が安全保障の面で、ロシアにどの程度助けることができるかによって、これはかなり左右されると思います。

いずれにせよ、私たちは、大人の見方でこれを見守り支援すべきです。

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