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2020年5月11日月曜日

先行き不透明なプーチンの任期延長―【私の論評】今こそ、北方領土を取り戻す最大の好機、日本は過去の過ちを繰り返すな(゚д゚)!


岡崎研究所

 ロシアでは3月に、プーチンの大統領任期を2024年から後12年間延長する憲法改正案が議会で可決されている。プーチンはそれを憲法の規定に従って国民投票にかけなければならない。この国民投票は本年4月22日に行われる予定であったが、新型コロナウイルス感染者が増えている状況の中で、プーチンは国民投票を延期する決定をした。いつ行うかは決まっていない。


 憲法改正案が国民投票で承認されるためには、投票率が50%以上、かつ、賛成票が投票の50%以上である必要がある。ロシア国民が、このプーチン任期を延長するための投票に行き、投票率50%を超えられるか、投票者の50%が賛成票を投じるか、予断を許さないように思われる。

 これについて、ロシアの民主活動家ウラジーミル・カラムーザがワシントン・ポストに4月14日付で‘Vladimir Putin has a popularity problem — and the Kremlin knows it’(プーチンは人気の問題を抱えており、かつクレムリンはそのことを知っている)と題する論説を寄稿しており、参考になる。カラムーザは、プーチンの任期延長、大統領の年齢制限についての最近のレバダ社による世論調査の結果を紹介している。それによれば、プーチンの任期延長については、賛成48%、反対47%、大統領の年齢上限については58%が「元首は70歳より高齢であるべきではない」と回答した由である。カラムーザは、権威主義国家では世論調査で政権寄りの結果が出る傾向にある、いわゆる「権威主義バイアス」がある中でこういう結果が出たことは驚きである、と指摘する。

 カラムーザは、さらに、ロシア政府は正規の国民投票ではなく超法規的な「人民投票」を目指しているようだが、問題はその後で、ロシアの社会の大部分は、プーチンが任期延長はないと繰り返し約束したにもかかわらず任期を延長しようとしていることを信頼の裏切りとみなしているとして、プーチンの前途が明るくないことを示唆している。

 カラムーザはロシアの民主化を願望している人であり、ネムツォフ関係財団に関与している人であるので、上記の分析は、彼の希望的観測である可能性があるが、彼の言うような結果になる可能性も十分にあるように思われる。

 ロシアの経済は、原油価格の低下で苦境にあることに加え、新型コロナウイルス感染拡大によってさらに下押しされることはほぼ確実である。サウジアラビアとロシアが減産合意に失敗した後、原油価格が急激に下がり、サウジもロシアも苦境に陥り、減産合意に改めて合意したが、新型コロナウイルスで世界経済は不況入りしており、需要が減産以上に減っている。プーチンが最初減産を拒否したのは間違いであったと言える。経済困難は国民の不満につながり、プーチンの人気は当然下降する。

 プーチンは2024年から12年間大統領に留まることを目指しているが、そうなると引退時には83歳になる。ロシアでは男性の平均寿命が70歳にもならない中で、83歳というのは大変な高齢者との印象がロシア人にはあるだろう。

 投票率、開票の操作などは当然予測できるが、プーチン政権が今後も盤石であるとの前提で対応することは難しいと思われる。

【私の論評】今こそ、北方領土を取り戻す最大の好機、日本は過去の過ちを繰り返すな(゚д゚)!

ロシアのプーチン大統領が2000年5月に最初に就任してから20年が過ぎました。

ソ連崩壊後の混乱が続くロシアを引き継いで時に強引な手法で安定を回復させ、異例の長期政権を敷いてきました。

ところが今や、強権の弊害が際立ちます。プーチン氏自身が提起した憲法改正を巡る政治劇はその象徴に見えます。

ロシア議会の上下両院は3月、2040年で大統領任期が切れるプーチン氏が1月に提案した憲法改正をきっかけに、任期をさらに2期12年延ばし、最長で36年まで大統領職にとどまれる改正案を採択しました。

改憲が実現すれば、現在通算4期目のプーチン氏の5選へ道を開き、旧ソ連の独裁者スターリンの約30年をしのぐ長期支配が可能になります。

当初は任期切れ後、改憲案で権限を強化する国家評議会議長や上下両院の議長に就き、院政を敷く狙いとみられていました。

しかし、下院での論議で「私はカモメ」で有名な女性宇宙飛行士テレシコワ議員が、現職を含む大統領経験者はこれまでの任期数を問わずに大統領選に出馬できるとする条文の追加を突如提案しました。

ソ連初の女性宇宙飛行士テレシコワ

これを受けて、プーチン氏は急きょ下院で演説。憲法裁が合法と認め、4月の全国投票で国民の承認が得られれば修正案に問題はないとの立場を示しました。

4月に予定されていた全国投票は新型コロナウイルスの感染拡大で中止されましたが、ロシアメディアによると、テレシコワ、プーチン両氏の演説は通算5選に道を開くために政権中枢が筋書きを描いた政治劇といいます。

プーチン氏には、自らの「レームダック(死に体)化」を防ぎ、権威を維持しつつ後継体制づくりを進めたい思惑があるとみられるますが、どうなるでしょうか。

ソ連崩壊後は米欧と同じ民主国家を目指しましたが、再び対決する世界観に回帰したロシアは「力による現状変更」でクリミア半島を併合し、米欧は経済制裁を科しました。

政権長期化で人気に陰りも見え、新型ウイルスの感染拡大が止まらず、それに伴う原油価格低下による経済低迷という難題も横たわります。

感染者は膨らみ続け、首相ら政権幹部も含まれます。輸出の6割を占める石油や天然ガスなどエネルギー部門は、原油安で経済の打撃は深刻です。

経済が停滞し、内政・外交とも不安定化しかねない状況です。国内から政権への不満が噴出し、政権基盤が揺らぐ恐れもあります。

懸念されるのは、新憲法案の北方領土交渉への影響です。「ロシア領の割譲禁止」という条文が盛り込まれています。クリミアを念頭に置いたのでしょうが、北方領土の不法占拠の正当化に利用されないか心配です。

北方領土問題が解決するチャンスは過去に1度だけありました。それは旧ソ連のゴルバチョフ政権の末期、91年12月のソ連崩壊の直前でした。

当時、ソ連の経済状態は最悪で、ゴルバチョフ大統領は北朝鮮の猛反発を押し切り、韓国との国交正常化に踏み切りました。両国の国交正常化は1990年3月、世界経済国際関係研究所(IMEMO)の招待でモスクワを訪れた金永三民自党代表最高委員(当時)とゴルバチョフ氏の会談が実現し、国交樹立に向けた新たな局面を迎えました。そうして、同年9月、両国は共同声明に署名し、国交を結んだのです。

       1990年 12月 14日に韓国のノテウ (廬泰愚) (前列左)大統領ソ連
                               ゴルバチョフ大統領(前列右)の間でかわされた共同宣言の調印式

どうしても、韓国マネーが欲しかったからです。このようなことからも、日本もジャパンマネーの力を上手く利用して、北方領土を取り戻せる可能性が十分ありました。

実際、91年4月にゴルバチョフが来日し、もしかすると4島が日本に返ってくるのではないかとの機運が高まったのは間違いありません。

しかし、ゴルバチョフサイドからソ連崩壊の予兆を伝えられていたにも拘(かかわ)らず、私もそうでしたが、外務省も眉唾ものとして信じることをせず、交渉の準備を怠ってしまったのです。

私自身は、当時ドラッカー氏が「20世紀中に、必ずソ連は崩潰すると」いくつかの根拠を示しながら、主張していましたが、この時にはソ連は必ず崩潰すると信じていました。ところが、それを周りの人に話してみても、だれもそれは「あり得ない」と語っていたことを思いだします。

そんななかでも、ゴルバチョフが北方領土で譲る気配を見せたことに、敏感に反応した日本の政治家がいました。当時の自民党幹事長、小沢一郎氏です。機を見るに敏なところまでは良かったのですが、ところが、91年の1月と3月、小沢氏は通産省(当時)ルートでソ連と交渉した際に、280億ドルとも言われる金額を提示。

小沢一郎氏

露骨に金で島を買いたいという態度を示し、札束でゴルバチョフの頬を叩くようなことをしました。ソ連崩壊の危機に直面し、弱体化していたとはいえ、向こうにも面子があります。さすがに、あまりに直截的な日本の交渉姿勢にゴルバチョフもムカッときたのでしょう。話は流れてしまいました。

国内政局だけでなく、外交の場においても、壊し屋が「本領」を発揮していたのです。

それにしても、小沢氏以外の政治家がこれを強力にすすめなかったのは、かえすがえすも残念です。

先日もこのブログで述べたように、北方領土交渉の先行きがかなり見通せるようになった現在、安倍晋三首相はプーチン氏と対話を重ね、領土問題解決の機運を一層確実にできるよう、明確なメッセージを送り続けなければならないです。

ロシアの経済は、原油価格の低下で苦境にあることに加え、新型コロナウイルス感染拡大によってさらに下押しされることはほぼ確実です。

これは、従来なら本格的な戦争、それも総力戦でもなければ、あり得なかったことです。これは、間違いなく、日本に残された最後のチャンスです。

現在は、ロシアが中国からの属国的地位から決別して、独自の道を歩み、民主化をすすめ、日米欧などの国々とともに、中国の体制を変えるまたとないチャンスです。

米国が中国に対して、中共幹部の資産の凍結などをするような制裁に出るか、出るようそぶりでもみせれば、この動きは一挙に加速化します。もしそうなれば、習近平は中共幹部全員の敵になります。

日本は、このチャンスを過去のように逃すべきではありません。

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2019年10月3日木曜日

プーチンの国ロシアの「ざんねんな」正体―【私の論評】将来の北方領土交渉を有利に進めるためにも、日本人はもっとロシアの実体を知るべき(゚д゚)!

プーチンの国ロシアの「ざんねんな」正体

外交官の万華鏡河東哲夫


こわもてで鳴らすプーチンだが、実は「愉快な」人かも

<独裁者が君臨するこわもてロシアの素顔は実は「ずっこけ」――この国に振り回されず、うまく付き合う方法は?>

ロシアと言うとすぐ「おそロシア」とか、もろ肌脱いだこわもてのウラジーミル・プーチン大統領といった話になるが、まじめくさった議論はもう飽きた。実はこの国の人たちはかなりずっこけた「ざんねんな」存在。ロシアを知る者には、それがまたたまらない味なのだ。

世界を席巻する人工知能(AI)やロボット技術について、プーチンの腹心である元財務相アレクセイ・クドリンは、「この開発に遅れれば、ロシアは永遠に遅れることになる」と決まり文句のように言う。奇想天外なことを考えるのが好きなロシア人だから、AIやロボットの開発には向いている。だが経営・技術要員の致命的な不足や製造技術、品質管理、サプライチェーンの遅れによって、多くはアイデア倒れに終わってしまう。

2013年には角速度センサーを逆向きに付けたため、ロケットが発射直後に反転して地上に激突した。開発中のロボットが研究所から迷い出て、大通りの真ん中でバッテリー切れになったこともあった。プーチンは「原子力で長期間、空中待機する巡航ミサイル」を造ると豪語していたが(簡単に撃墜されると思うのだが)、今年8月にはそれが開発中に爆発して技術者を5人も殺し、放射能をまき散らした。

プーチンはじめロシア政府のお歴々は口をそろえて、「いつまでも経済・財政を石油に依存していてはいけない。製造業を何とかしないとロシアはやっていけない」と言うのだが、製造業はロシアのアキレス腱であり続ける。数年前、プーチンは友人の実業家が開発した国産乗用車の試乗会に招待された。ハンドルを握る友人の隣に乗り込むプーチンは冗談半分、「おい、君。大丈夫だよね。この車バラバラにならないよね」と聞いたのだった。

プーチンは独裁者にあらず

ロシア人は契約や規則より、まず自分の都合を優先する。きちんと仕事をしてもらいたかったら、いつも電話で友情を確認し、月に1度は飲みに行くくらいでないといけない。

知識層の地金は西欧のリベラリズムだが、人間の常でロシア人も汚いところは、どうしようもなく汚い。例えばモスクワの墓地は利権の塊だ。「いい場所」は、顧客から袖の下を巻き上げる黄金の小づちでもある。今年6月には、警察幹部が絡む墓地利権の調査をしていた新聞記者が警官からポケットに麻薬を突っ込まれ、麻薬密売未遂の容疑で逮捕される事件があった。非難の声が巻き起こり、事件を仕組んだ警察幹部2人が懲戒免職になっている。

12年前のある日、ビクトル・ズプコフ首相は閣議で部下を叱り飛ばした。「サハリンの地震復興予算は既に送金したはずなのに、現地からはまだ届いていないと言ってくる。調査して是正しろ」。ところが、2カ月たっても問題は解決されなかった。どうも予算は送金の途中で、何者かによって「運用に回されて」しまうらしい。

この国では悪い意味での「個人主義」がはびこっていて、国や国民、会社や社員全体のことまで考える幹部は数えるほどもいない。多くの者にとって公共物は、自分の生活を良くするために悪用・流用するものだ。

そんなわけだから、14年3月、介入開始からわずか2週間ほどでクリミア併合の手続きが完了したとき、プーチンは冗談半分で部下に言った。「本当かい、君たち。これ本当に、われわれがやったのかね?」

プーチンはこのようなロシアにまたがる騎手のような存在だ。公安機関という強力な手綱はあるが、馬が暴れだせば簡単に放り出される。「独裁者」とは違うのだ。ドナルド・トランプ米大統領と同じく、(まがいものの)ニンジンで馬をなだめているポピュリストの指導者なのだ。

そして18年10月、年金支給年齢を5年も引き上げる法案に署名したことで、プーチンは国民の信頼を裏切った。男性の平均寿命が67歳のロシアで、年金支給を65歳から(女性は60歳から)にするというのだから無理もない。

それから1年がたち、プーチンの顔色は冴えない。老いの疲れも見える。ロシアの国威を回復しようと、家庭も犠牲にして20年間頑張ってきたのに、できたことはボリス・エリツィン時代の大混乱を収拾し、ソ連時代のようなけだるい安定を取り戻しただけ。プーチンが政権を握った00年当時に比べると、モスクワは見違えるほど美しく清潔になり、スマートフォンを活用した利便性は東京を上回るほどだ。だが、ロシアに上向きの勢いはない。24年にプーチン時代は終わるので、彼の周辺は利権と地位の確保を狙ってうごめき始めている。

2つの「ソ連」を生きる人々

プーチンはロシアを復活させるに当たって、西側の影響を受けたいわゆる「リベラル」分子を政権から遠ざけた。そのため彼の時代には、エリツィン時代に冷や飯を食わされたソ連的なエリートが復活した。彼らは昔の共産党さながらの万年与党「統一ロシア」に糾合され、その硬直した官僚主義と腐敗は国民の反発を買っている。

政権の柱である公安機関と軍も利権あさりが目に余る。今年4月には、連邦保安局(FSB)の銀行担当の複数の幹部が拘束された。銀行から賄賂を受け取って、中央銀行による免許停止措置を免れさせていたためだ。

7月にモスクワで起きた民主化要求デモをきっかけに、プーチンは公安機関への依存を強めている。約1カ月半の間に全国で3000人が一時拘束され、首謀者の自宅には深夜に公安が踏み込んで逮捕する。まるでスターリン時代のような取り締まりだ。


ロシアは高齢者が少なく、35歳以下の若い世代が人口の約半数を占める。彼らの多くは自由な西側文化に染まり、強い権利意識と上層部の汚職に対する厳しい意見を持ち、SNSの呼び掛けで集会・デモを繰り広げる。何ともちぐはぐだが、現在のロシアでは上層部と政府依存体質の大衆が「ネオ・ソ連時代」を、知識人層は「ネオ・ペレストロイカ時代」を生きている。

ロシアの歴史は繰り返す。支配と富の分配構造が固まって70年もたつと、ひずみと不満が増大して暴力的な革命が起きる。1917年のロシア革命、そして1991年のソ連崩壊がそれだ。ソ連崩壊の結果生まれた現在の構造は、今また破断する定めなのかもしれない。ただロシアの場合、革命は進歩をもたらさない。特権階級が交代するだけだ。

このような国とは、「適当」に付き合うべきだ。極東ロシアは政治・経済両面で日本にとって大きな意味を持たない。極東ロシア軍は人員、装備とも手薄で、日本の脅威ではない。北方領土は当面返さないだろうから、この問題でこちらから譲歩することは避ける。諦めて平和条約を結んでも、見返りに得られるものはない。

ロシアに反日感情はない。むしろ自らの対極とも言える日本文化、日本人に憧れている面もある。きちんとしていないロシア人に振り回されないように気を付けさえすれば、ロシアは「愉快な」相手なのだ。

<ニューズウィーク日本版2019年10月01日号:特集「2020サバイバル日本戦略」より>

【私の論評】将来の北方領土交渉を有利に進めるためにも日本人はもっとロシアの実体を知るべき(゚д゚)!

日本では、ロシアを未だにに超大国と見るむきも少なくないですが、やはり等身大にみるべきでしょう。このブログでは過去に、ロシアの実体を何度か掲載してきたことがあります。

ロシアの経済力は、現状では韓国と同程度です。韓国と同程度とは、どのくらいなのかということになりますが、詳しくはGDPを調べていただくもとして、大体東京都と同じくらいです。

東京都のGDPは日本全体の1/3くらいです。ロシアの経済の現状はこの程度です。この程度の国ができることは、経済的にも軍事的にも限られています。

さらに、人口は1億4千万人程度と、あの広大な領土に比較すると、人口では日本よりもわずかに2千万人しか多くないのです。人口密度がいかに低いのか、よく理解できると思います。

中国と国境を接する極東では、さらに人口密度が低いので、中露国境をまたいで、著しい人口密度の差があります。

この人口密度の極端な違いから、多くの中国人が国境を越境して、物販はもとより様々なビジネスを行い、まるで国境がなきがごとくの状態になっています。これを国境溶解と呼ぶ人もいるくらいです。

ただし、最近では変化も見られます。最近では、ロシア人も中国に出稼ぎにでかけるといいます。情勢は驚くほどに変化しているのです。ただ、国境溶解がより鮮明になっていることは確かです。

このように、現在のロシアは、中国ともまともに対峙できる状況ではありません。かつての中ソ国境紛争など信じられないくらいです。

とはいいながら、ロシアはソ連の核兵器と、軍事技術の直接の継承者であり、あなどることはできません。

特にICBM、SLBMなど、これは軍事技術的にはすでに米露では、数十年前から、成熟した技術であり、両国とも40年も前の核兵器が今でも現役です。

たとえば、米国防総省によると初期のフロッピーディスク規格となる8インチフロッピーディスクが未だに現役だといいます。大陸間弾道ミサイル、戦略爆撃機、空中給油・支援機など一連の核兵器を運用、調整する指揮統制系統だとしており、現場では今から40年前に発売された1976年「IBMシリーズ/1」や当時普及し始めていた8インチフロッピーディスクが運用に用いられているといいます(2017年現在)。

弾道ミサイル発射管制センターで撮影された写真。8インチフロッピーディスクが使用されている

ロシアでも同じ状況です。ソ連時代に開発された、核兵器が未だに現役なのです。それを考えると、確かに軍事的には未だにロシアは侮れない相手であるのは確かです。

とは、いいながら、ICBMやSLBMなどは、実際にはなかなか使用できない兵器であるのも確かです。しかし、ソ連時代の軍事技術を継承したロシアはいまでも、軍事的には侮れないことは確かですが、経済的には見る影もありません。

考えてみてください、仮に東京都が日本から独立して、軍事国家に豹変したとして、世界に向かってどの程度のことができるでしょうか。米国あたりが本気になれば、あっという間に潰されます。さらに、将来的にも経済が伸びる要素はほとんどありません。今のロシアはまさにそのような状況なのです。

経済的にみても、プーチンの国ロシアは、まさに「ざんねんな」国なのです。この、ずっこけた「ざんねんな」ロシアと付き合うには、たしかにもっと鷹揚に構えたほうが良いのかもしれません。

日本では目を疑う熊の散歩もロシアでは日常風景の一つ

北方領土交渉についても、このブログにも過去に掲載しているように、現在帰ってこないからといって、慌てる必要は全くないと思います。

中国が経済的に弱体化してくれば、今は表面化していない、ロシアの中国に対する不満が爆発します。そうなると、過去の中ソ対立のように、中露対決が再現することになります。

経済的に弱体化した中露が激しく対立すれば、ますますロシアの経済力は落ち込みます。そのときこそ、日本は北方領土交渉を強力に推し進めるべきなのです。今は鷹揚にかまえるべきです。とはいいながら、北方領土に関しては、ロシアに一切譲歩すべきではありません。

日本としては対ロシアでは、北方領土が最重要ですが、その他では、経済的にも技術的にもロシアに頼ることはないです。北方領土以外はもっと鷹揚に構えてつきあって行くべきと思います。

ただし、ロシアというと、日本人は強面の「おそロシア」を思い浮かべたり、ロシアマフイアの凄惨さを思い浮かべたり、第二次世界大戦末期や、その後の日本に対する卑劣極まる振る舞いが忘れられない面もあります。確かに、ロシアにはそういう一面はあります。かといつて、それが全部というわけでもありません。

北方領土交渉を将来日本に有利にすすめるためにも、日本人はもっとロシアの実体を知るべきと思います。少なくとも、かつてのソ連時代の超大国のイメージは早々に捨て去るべきです。

北方領土は、一昔前なら戦争して取り返すしかありませんでした。しかし、現在では戦争に変わる方法もありますが、一昔前の戦争と同じくらいの、気構えと機知がないと到底叶うものではありません。それを実行するためにも、現在のロシアを熟知する必要があるのです。

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2019年7月12日金曜日

レームダック化するプーチン―【私の論評】日本は韓国で練習し、ロシアに本格的"Economic Statecraft"を実行し北方領土を奪い返せ(゚д゚)!


 盤石のように見られがちなプーチン大統領ではあるが、同氏への支持の低下は、かなり目立つようになってきている。特に、青年層のプーチンへ離れが著しいという指摘がある。ワシントンに本部を置き、海外のロシア人達にリベラルな情報を伝達している、Free Russia Foundationによれば、プーチンの全国平均支持率は60%以上だが、この10年間で青年層(17-25歳)における支持率は急激に低下して19年1月現在32%となっている。

プーチン大統領

 一般の理解に反して、ロシアは実は「若い国」である。平均寿命が低い(男性では67歳強)ために、34才以下の者が実に人口の43%を占めている。うち3000万は20歳以上の世代Yと呼ばれ(米国のミレニアルに相当)、1500万が10代の世代Z、そして1800万が10歳以下である 。彼らは一般的に政党等、既存の制度を信じておらず、65%はマスコミも信じていない。そして反米主義に染まっておらず、世代Yの者の70%強は物質的豊かさを重視して、49%の者が「西側の先進国のようになりたい」と考えている 。

 青年層は多くの国で、高年齢層よりリベラルな傾向を有するが、ロシアでは選挙における若年層の投票率は低く、他方プーチンに傾倒する高年齢層の投票率は高いので、これまでプーチンは安泰であった。またロシアでは労働人口の実に3分の1以上が公務員・準公務員であるので、安楽なポストを求める青年は、「青年親衛隊」等、当局の組織する保守的青年運動に加わってきた。

 しかし、プーチン離れを見せるのは、今や青年層に限らない。2018年6月、政府が年金受給年齢を5年「後倒し」にする法律を採択、プーチンがこれに署名したことで、彼のトータルの支持率は20%程度落ちて60%台前半を低迷することとなっている。そして2000年以降、世界原油価格の高騰を背景に「世界的指導者」と標榜されるまでに上がったプーチンの星も、2008年以降は原油価格低迷を背景に迷走を始めようとしている。実質可処分所得は既に6年続けて下降している。

 これまでロシア政治の流れを言い当てたことで有名なモスクワ国際関係大学のヴァレリー・ソロヴェイ教授は最近、マスコミで「1990年のように、国民は官僚達に苛立ちを感じている。自分たちの所得が上がっている時には見逃してきたのだが、今では官僚達の上から目線の発言、腐敗の全てが怒りの対象となる。問題発言はSNSで直ちに拡散される」 、あるいは「年金改革等で、国民の堪忍袋の緒は切れ、国民はプーチンに怒りを感じて攻撃的になり始めている。1989年と同様、何かを根本的に変えないと駄目なのだ、今の体制は必然ではない、変えていいのだ、という意識が広がっている・・・変化が始まった」 と言っている。つまり1989年のゴルバチョフ末期、国民が共産党の統治に不信感を抱き、「国の富を牛耳る共産党を倒せば自分達の生活は良くなるだろう」と思い始めた時期を思わせる、というのである。

 また、プーチンの力が衰えているために、「利権確保をめざして『万人の万人に対する仁義なき闘争』が始まろうとしている。大衆の不満を利用する者が増えるので、集会、デモの類が増えるだろう」と予測する向きもあり、事実諸方でライバルを陥れての逮捕が起きている他、集会の類が増えている。

 こうした中、クレムリンによる社会統制力は落ちている。6月7日には、警察幹部の汚職を摘発した記者が、当局に「麻薬所持」をでっちあげられて逮捕されたが、6月10日には大手三紙を筆頭に(1面トップに同じ仕様の記事を掲載)全国の多数メディアが彼の釈放を要求、遂にはプーチン自身が介入して記者は釈放され、彼の逮捕を仕組んだ警察幹部2名は解任された。これは、ペレストロイカ末期、マスコミが世直しに向けて大きな発言権を持っていた時期を想起させるものである。

 そして9月には統一地方選が行われるが、与党の「統一」は党員の腐敗、無能、保守体質で社会の支持を失っているため、16の改選知事のうち6個所では当局の候補は無所属で立候補する 。既に地方の市レベルでは、無所属新人が選ばれる例が増えている。

 つまり、青年のプーチン離れや新思考は、問題の一角でしかない。「プーチンのレームダック化」こそ、今の最大の問題であるように思われる。

【私の論評】日本は韓国で練習し、ロシアに本格的"Economic Statecraft"を実行し北方領土を奪い返せ(゚д゚)!

第二次世界大戦のあと、ソビエト連邦(ソ連)は米国と競合する世界の超大国となりました。

しかし、1990年代初めにソ連が崩壊し、ロシアは経済改革を迫られました。その後、数十年にわたってさまざまな経済的苦労を経験してきました。

現在のロシアはもはや超大国とはいえなくなりました、通貨の変動、人口の減少、原油や天然ガスにさまざまな面で依存する経済に直面しています。これでは、プーチンがレームダック化するのも無理はないです。

ロシア経済に関するショッキングな事実を紹介します。

1.ロシアのGDPは東京都を若干下回る

東京のロシア人によるメイドカフェ
現在のロシアのGDPは、東京都を若干下回る程度であり、韓国と東京都はほぼ同じですから、韓国を若干下回る程度です。これに関してはこのブログで何度か解説してきましたが、あの大国とみられるロシアのGDPはこの程度であり、米中はもとより、日本にもはるかに及びません。
人口に関しては、1億4千万人程度であり、あの広い国土からするとかなり少ないです。ちなみに、日本は1億2千万人程度です。ちなみに、中国は14億に近づきつつあります。
2.ロシアでは、人口が毎日700人ずつ減っている
アメリカのジェームズタウン財団の「ユーラシア・デイリー・モニター」によると、ロシアの人口は1日あたり約700人、1年に25万人以上減っています。 
ムルマンスクといった一部の都市ではソ連崩壊以来、人口が30%以上減少しています。
3.ロシアの対外債務は国内総生産の29%
ロシアには4600億ドル(約51兆5000億円)以上の外貨準備があるものの、その対外債務は国内総生産(GDP)の29%にも及びます、輸入カバー率は15.9カ月だ。ちなみに、日本の対外純資産額は世界一です。無論、対外債務などありません。
4. ソ連崩壊の前後10年間で、ロシアの経済生産は45%減少
1989年から1998年の間にロシアの経済生産は45%減少しました。2000年まで、ロシアのGDP(国内総生産)はソ連崩壊前の水準の30%から50%の間で推移していました。
5. 原油と天然ガスがロシアの輸出の59%を占める
ロシア経済は天然資源に大きく依存しています。ロイターによると、2018年のロシアの原油生産量(バレル/日量)は史上最高の1116万バレルでした。 
世界銀行によると2017年、原油と天然ガスはロシアの輸出の59%、財政収入の25%を占めました。天然資源に大きく経済が依存すると、天然資源の価格のその時々の上下に、財政収入がかなり左右されることになります。
6. ロシア人の13%以上が貧困状態にある
プーチン大統領は2018年の年次教書演説の中で、現在、人口の13%以上を占めるロシアの貧困層を半減させると誓いました。 
アイリッシュ・タイムズ(Irish Times)によると、ロシアの公的な統計は1930万人以上が貧困線以下の生活を送っていることを示しています。
それでも、ロシアの貧困率はソ連崩壊直後の約35%から大きく低下しています。
7.ロシアには、ビリオネアが70人以上いる
ロシアの経済格差は大きいです。 首都モスクワはたびたび世界で最も多くのビリオネアが住む都市に名を連ねていて、ロシア全体では70人以上のビリオネアがいます。その多くは1990年代にその財を築きました。
新興財閥「オリガルヒ」はロシア政府に対して大きな影響力を持ち、西側諸国にも投資し始めています。ビリオネアで、NBAのブルックリン・ネッツのオーナーでもあるミハイル・プロホロフ(Mikhail Prokhorov)氏もその1人です。
先にも述べたようにロシアのGDPは現状では韓国と同程度ですが、ビリオネアの数では、ロシアは70人台、韓国は30人台です。 圧倒的にロシアのほうが多いです。
8.ロシアの通貨ルーブルの価値は、この10年で半分になった
ロシア経済は2014年から2017年の経済危機で大きな打撃を受け、ルーブルの価値は半分になりました。
9. ロシアの平均月給は670ドル
日米などの先進国に比較するとGDPの低いロシアだが、その平均月給は4万2413ルーブル、つまり670ドル(約7万5000円)です。 
2016年の437ドルから50%近く増えています。
10. ロシアの家具市場の20%をイケアが占めている
スウェーデン発のイケア(Ikea)がロシア1号店を首都モスクワにオープンしたのは2000年でした。その後、同社モスクワにもう2店舗出店し、ロシア全体では14店舗を展開しています。
イケアは現在、ロシアの家具市場の20%を占めています
11.ロシアのクリミア併合から5年、膨らみ続けるコスト
プーチン大統領がウクライナのクリミアを併合して5年たつが、ロシアが支払うコストは膨らみ続けています

ロシアのクリミア併合は依然として大半の国が認めず、ロシアを処罰するため米欧が主導して制裁など幅広い措置を打ち出しています。一方、ロシアは新たな発電所や本土とクリミアを結ぶ大橋への巨額の投資など、クリミアを自国経済に統合しようと躍起です。ところが、主要輸出品である原油の価格低下ですでに打撃を被っていたロシアと同国市民は、外国投資の落ち込みと上がらない賃金という痛みも強いられています。最近の調査によると、クリミア併合への市民の強い支持は失われつつあります。
ロシア経済には良いことがほとんどないようです。これはどうしてかといえば、やはりプーチノミクスの大失敗によるものです。

91年のソ連崩壊以来、ロシアが恐れてきたのは、NATOが旧ソ連諸国をのみ込み国境に迫ること。そして欧米がロシア国内の格差につけ込んで、反政府運動をあおることでした。それがウクライナやシリア、今度はベネズエラで攻勢に出た背景にあります。

その様は「俺様をなめんじゃねえ」と酔って管を巻くロシア人にそっくのようです。口ではすごんでも、経済力という足元が危ないからです。いまプーチン政権の頭には、2つの相反する方針がせめぎ合っているようです。

ロシアの酔っ払い

プーチンはこの2年ほど、折に触れて「第4次産業革命」に言及。IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)といった技術革新による産業構造の変化から脱落すれば、「ロシアは後進国たることを運命付けられる」と語っています。

しかし役人が実行する政策は、ソ連さながらの締め付けやアフリカへの傭兵派遣といった対外進出ばかりが目立ちます。第4次産業革命の基盤となるネットには、中国並みの規制を目指す始末です。3月10日には首都モスクワで、ネット規制法案に反対する市民約1万人が抗議の声を上げました。

最近では汚職摘発を名目とした国会議員や元大臣の拘束が相次いでいます。検事総長が議場に踏み込み、議員の不逮捕特権剝奪をその場で強要したり、深夜に公安当局が元大臣の自宅に踏み込んだり、エリートの間では疑念と恐怖が芽生えています。

24年のプーチン退陣を前に、検察や公安を利用しての権力・利権闘争が既に始まっているのではないでしょうか。自分から仕掛けないとやられてしまうのではないか、という懸念です。こうしてロシアは頭で「先に進まなければ」と分かっていても、ソ連の記憶が染み付いた手足は後ろに進んでしまう「統合失調」にあるわようです。

プーチン時代は当初、政権発足時から最大で5倍に跳ね上がった原油価格に助けられ、GDPが6倍以上にもなる驚異の成長を達成。ところが08年の世界金融危機で原油価格が暴落して以降、成長力も息が切れました。

プーチンの経済政策「プーチノミクス」は、「天然資源収益を国家の手に集中し、計画的に投資に向ける」という、彼の97年の博士論文そのものです。大統領就任後は石油・天然ガス部門を国家の手に集中したのですが、肝心の投資について青写真が描き切れていません。ビジネスを運営できるスタッフが不足するなど、近代化の条件を欠いているからです。

GDPは14年のクリミア併合で欧米の制裁を招いて以降、実質マイナス成長が続きました。17年にやっとプラスに回復しましたが、統計操作が疑われるなど、停滞は明らかです。政府は中国に倣って、地方の道路網整備などインフラ投資で成長を実現しようとしています。しかし独占体質の強いロシア経済では、資材価格の高騰とインフレを招くだけでしょう。

プーチノミクスは賞味期限が来たようです。遠いベネズエラで、米国と子供じみた力比べをしている余裕はないです。4月21日のウクライナ大統領選の決選投票で政権が代わったたクリミア問題で落としどころを探る好機ともなるでしょう。

現在のロシアは今のままではますます疲弊するだけで、将来的には、日本との北方領土問題も含めて欧米との関係を改善し、第4次産業革命に邁進しなければならないはずです。

現在の状況は、米国は対中冷戦を継続中であり、中国もロシアのように弱体化しつつあります。これがある点を超えると、ロシアにとって中国は現在とは違い与し易い相手になるはずです。

現状は、プーチンはなるべく中国を刺激しないようにしていますが、中国が弱れば、中露の仲は以前のように悪化することになるでしょう。

そのときは、中露国境紛争が再燃するでしょう。現状のロシアは経済は弱体化していますが、そうはいっても旧ソ連の核兵器や軍事技術を警鐘しており、決して侮れないです。

そのロシアが、弱体化した中国と再び戦火をまみえるようになったときこそ、日本のチャンスです。その時こそ、北方領土交渉を有利にすすめることができるのです。

日本としては、何らかのメリットを提供した上で、今度はそれを取り下げるようなことを繰り替し、"Economic Statecraft(経済的な国策)"の手法を駆使してロシアと交渉すべきです。

"Ecomomic Statecraft(経済的な国策)"とは、経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求するものです。これは、武器は用いないものの、実質的な戦争です。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」―【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!
核弾頭を搭載可能な新型原子力魚雷「ポセイドン」
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事にも掲載したように、日本は核兵器などとは異なり"Economic Statecraft (以下ESと略す)"は日常的に使える手段であることを念頭におき、これを使う前提で外交を考えるべきです。

幸いなことに、この記事を書いた時点では、実施されていないかった、日本による対韓“輸出管理強化”が発動され、韓国経済に大打撃を与えそうです。そうして、すでにこの元凶となった文政権へ韓国内から不満が噴出しています。

これは、まさにESが実際に功を奏する事例となりそうです。この記事でも、主張したように、日本は対露外交を視野に入れ、韓国でESの練習を行うべきと思います。これにより、韓国を屈服させることができなければ、対ロシアに対してもとてもうまくいくとは思えません。

再び中露国境紛争などで、中露の対立が深まったときに、日本がロシアに対してESを発動すれば、ロシアは弱り目に祟り目という状況に追い込まれます。

その時に、日本の要求は通りやすくなります。さらに、制裁するだけではなく、ロシア経済にとって良いような項目でディールをすれば、ロシアが北方領土を返還する可能性は高まります。返還しなければ、ますます制裁を強くするようにすれば良いです。

日本としては、ESだけではなく、軍事力も強化すべきでしょう。また、米国など同盟国、順同盟国との関係も強化すべきでしょう。

このようにしてから、ESを本格的に発動するのと、そうではないのとでは雲泥の差があります。ESをうまく使いこなす国には、当然のことながらまずは経済力が強くなければならないとともに、ある程度の軍事力もなければなりません。

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2018年3月19日月曜日

「事実上の皇帝」習近平とプーチンに、トランプは対抗できるのか―【私の論評】19世紀の皇帝たちの無謀な試みを阻止せよ(゚д゚)!

「事実上の皇帝」習近平とプーチンに、トランプは対抗できるのか

ドクターZ

いくらでも任期が延ばせる国

二人の皇帝とトランプ米大統領
トランプ政権が誕生してから1年以上が経過したいま、米中露それぞれが首脳の強権体制を強める動きに出てきた。
中国共産党は国家主席の任期を無制限にすることを検討中。これが実現すれば「習近平皇帝」誕生といったところだが、対抗するかのように、ロシアのプーチン大統領も「世界全土を射程範囲に収める」という新型巡航ミサイルを発表し、通算4選についての意気込みまで明らかにしている。
中露がトランプ大統領の再選まで視野に入れて中央集権体制を整えているとすれば、今後三国の関係はどのような変化を遂げていくのだろうか。
まず、米中露の社会体制のおさらいをしておこう。
イギリスのエコノミスト・インテリジェンス・ユニットが'17年に発表した世界167ヵ国・地域が対象の「民主主義指数」を見ると、アメリカは21位、ロシアは135位、中国は139位となっている。中国は共産党の実質的な一党独裁であり、憲法より共産党の決定のほうが優位になっている。そのため、国家主席の任期を無制限にするのは難しいことではない。
共和制の体をとるロシアも実際のところは独裁体制だが、大統領の任期の上限は2期12年と決められている。プーチン大統領は'12年から通算3期目だが、一度大統領を退いて再び当選するという裏技でこのルールを回避している。しかも、メドベージェフ氏が大統領を務めていた間もプーチン氏は大きな影響力を持っていたとされているから、実質的には10年以上覇権を握っていることになる。
アメリカの2期8年という大統領任期は比較的厳格に守られていて、歴代大統領のうちグロバー・クリーブランドだけが連続ではなく、一度退いてから再び同職を務めている。憲法をあっさり改正して任期を撤廃する中国、裏技でいくらでも任期を延ばせるロシアに比べれば、ずっと民主的なほうだ。
では、中露で元首の「皇帝化」が進むとなにが起こるのか。
まず、外交政策や安全保障において「強権国家化」が進むだろう。実際、中国の習近平主席は「海洋強国」を掲げており、ロシアの新型ミサイル開発も覇権主義を明確にするものだ。
中露の強権国家化が進むと、アメリカでもトランプ大統領の再選への後押しの動きは強くなる可能性がある。トランプ大統領の主張は、かつてレーガン大統領が冷戦中の'80年代に訴えた「強いアメリカ」の再来であり、強国化が進む二国を意識してのものだ。
それでは、米中露三大国の歩む道はどうなるかといえば、その他の諸国がどこに付くのかが問題になってくる。政治体制からすれば、欧州はアメリカ、アフリカは中国、ロシアはその隙間をついて協調関係を結ぶことになるだろう。
しかし、トランプ大統領は目下関税強化を進めていて、長期的には本来味方とするべき民主主義国の多くを敵に回すかもしれない。仮にトランプ大統領が再選しても、任期はあと6年。長く感じるかもしれないが、中露の指導者の任期は実質無限だ。徐々に20世紀以前のような帝国体制を整える二大国に対して、アメリカは民主主義のよさを訴えながら、互角に渡り合えるだろうか。
『週刊現代』2018年3月24日号より
【私の論評】19世紀の皇帝たちの無謀な試みを阻止せよ(゚д゚)!
中国とロシアという2つの帝国の登場により、世界に国際秩序の崩壊と地域戦争の勃発という2つの重大な危機が迫っていることについては、このブログでも以前掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序―【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!
ロバート・ケイガン氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 ケーガン氏(ブログ管理人注:昨年)1月24日に「自由主義的世界秩序の衰退」と題する同論文を発表した。同氏はこの論文で、第2次大戦以降の70余年の間、米国主導で構築し運営してきた自由主義の世界秩序は、崩壊に向かう最大の危機を迎えたと指摘する。 
 危機の原因となっているのは、支那とロシアという反自由主義の二大国家の挑戦だ。1991年のソ連崩壊以後の米国の歴代政権が「唯一の超大国」の座に安住し、とくにオバマ政権が軍事力を縮小して「全世界から撤退」したことがその状況を招いたという。 
支那、ロシアの軍事力行使の危険性が高まる 
 ケーガン氏の論文の要点をまとめると以下の通りである。 
・世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきた。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきた。 
・しかしこの世界秩序は、ソ連崩壊から25年経った今、支那とロシアという二大強国の挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたった。 
・支那は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしている。ロシアはクリミア併合に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっている。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れている。 
・支那とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止だった。 
・だが、近年は米国の抑止力が弱くなってきた。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまった。 
・その結果、いまの世界は支那やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきた。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかない。
トランプ政権は米軍の再増強や「力による平和」策を宣言しながらも、世界における超大国としての指導的立場や、安全保障面での中心的役割を復活させることには難色をみせている。

しかし、ケーガン氏は、世界の危機への対策としては、米国が世界におけるリーダーシップを再び発揮することだといいます。


日本の保守層は、「戦後レジーム」からの脱却ということを主張してきました。私も、当然のことながらこれには賛成です。

ただし、私たちは現在中国、ロシアが「戦後レジーム」を崩壊させるほうに動いていることを理解すべきです。そうして、その崩壊の方法は、日米などとは全く関係なく、自分たちの都合の良い方向に曲げようとしています。

習近平支那皇帝とプーチン露西亜皇帝
そうして、彼らの望む新たな秩序は、民主化、政治と経済の分離、法治国家があまりなされていなかった、19世紀の体制です。そもそも、中国もロシアも軍隊などは近代化を推し進めながら、国の体制としては元々遅れているので、世界に新たな秩序を作り出すとすれば、19世紀の帝国のような体制を目指さざるを得ません。

シンガポールのような独裁政権の国家であれば、これに対してあまり違和感はないかもしれません。しかし、世界には民主的な体制に移行したり、移行しようと努力している国々も多いです。

ただし、現在中国にもロシアにも誤算があります。ロシアについては、現状ではGDPが韓国なみであり、日本の東京都と同じくらいの規模しかありません。

プーチンは資源国としての成長を目指しましたが、現在石油などの価格は低迷しています。そのため、いくら頑張ったとしても、世界規模の新秩序の樹立には取り組みたくてもできません。せいぜい、周辺諸国に対してこれをかろうじて実現できるくらいのことで終わってしまう可能性のほうが大きいです。

中国に関しては、過去においては、国内の大規模なインフラ整備によって経済成長をしてきましたが、国内ではもうすでに投資案件が一巡してしまったので、習近平は一帯一路なるブロジェクトを推進しています。これは、中国主導で世界各地にインフラ整備をして新たな交易路をつくりだそうというものです。

しかし、この構想は最初から頓挫することが運命づけられたようなブロジェクトです。これは、失敗に終わり、中国はしばらく中進国の地位から抜け出すことができない可能性が大きいです。そうなると、中国も世界に中国にとって都合の良い新秩序を樹立するのはかなり難しいかもれません。

さらに、ロシアは、中国とは仲良くならないでしょう。プーチンは、シベリアなどに侵食してくる中国を脅威だとみているからです。むしろ、ロシアは中国をにらみ、本当は日米と協力を広げたいはずです。

とはいいながら、ロシアはクリミア侵攻などで、米国などから制裁を受けている真っ最中でもあります。だから、おいそれと日米接近というわけにもいきません。

2014年3月4日、ベルベク空軍基地を占拠するロシア軍に対して
歌を歌いながら行進し、基地の返還を求めるウクライナ軍兵士

このようなことから、中露が「戦後レジューム」を壊して、新たな世界の秩序を樹立するためには、現実には様々な一筋縄ではいかない、状況にあります。私は、これは失敗する確率のほうが高いと思います。しかし、失敗するまでの過程で、中露両国が世界中で様々な軋轢を生み出す可能性は十分あります。

そうして、最悪のシナリオでは米・中・露三つ巴の戦争が起こる可能性さえあり得るということを銘記すべきでしょう。さらに、このことは日本を含めた世界中の国々に大きな影響を与えます。日本は、遅ればせながら今からでもそれに備える必要があります。

戦後体制が崩れれば、そのときには我が国は、北朝鮮のICBMにも、中国の海洋進出にも、あらゆる安全保障に関する課題について日本は米国に全面的に頼ることはできないと考えて臨むべきです。

日本の背後には、いつでも、アメリカが存在していて、必ず助けるてくれるとは限らないと、覚悟するよりないのです。少なくとも、尖閣は自分で守らなければならないことなるでしょう。

自分の国のことを他国に憚らず自分で決め、自分で守るのは、トランプ大統領に言われることもなく、自明の理屈なのです。無論その時に、米国との対等同盟関係を築くことも選択肢の一つです。

しかし、アメリカに頼りきって、アメリカに守られながら生きる日本の時代、日本にとっての「戦後レジーム」は、間もなく終了するとみなすべきなのです。そもそも、これは当然のことです。どんなに強固な体制であっても同じ体制が永遠に続くことなどあり得ないのです。時代の変化にあわせて変わっていくのが自明の理です。


戦後レジームが終わりを迎え、新たなレジームができあがったとき、それを中露の思い通りのものにするわけにはいかないのです。日米、EU、その他多くの国々も、19世紀の遅れた体制に戻るわけにはいかないのです。これだけは、何としても防がなればならないのです。

それには、ケーガン氏が主張するように、米国は世界でのリーダーシップを取り戻し、日本もアジアでのリーダーシップをとりもどさなけばならないです。先程、中露が世界で「戦後レジーム」に変わって新たな秩序を樹立するのは非常に難しいということをあげました。この事実に加えて米国などの軍事力には到底かなわないことを悟らせれば、これから両国が世界で軋轢を起こすこともなくなるでしょう。

そのためには、日本は軍事的には普通の国に生まれ変わらなければなりません。そうして、昨年は実質上の日英同盟が復活しましたが、いずれ日米英豪印同盟なども構築して、中露に対抗していかなければならないのです。それ以外に世界の平和と安定を維持することはできません。

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2017年8月18日金曜日

半島緊迫ウラで権力闘争 習氏と正恩氏“絶縁”にプーチン氏、米中手玉の“漁夫の利” 河添恵子氏緊急リポート―【私の論評】半島情勢を左右するロシアの動き(゚д゚)!

半島緊迫ウラで権力闘争 習氏と正恩氏“絶縁”にプーチン氏、米中手玉の“漁夫の利” 河添恵子氏緊急リポート

習近平
朝鮮半島危機の裏で、中国とロシア、北朝鮮が狡猾に動いている。中国の習近平国家主席は、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と“絶縁状態”で北朝鮮への影響力はゼロに近いが、米国と北朝鮮の緊張を権力闘争に利用しようとたくらむ。ロシアのプーチン大統領は、北朝鮮を抱き込み、米国と中国を手玉に取る。正恩氏は、米国と中国、ロシアの間でしたたかに立ち回っている。ドナルド・トランプ米大統領は、彼らの計略に気付いているのか。東アジア情勢に精通するノンフィクション作家、河添恵子氏が緊急リポートする。

 中国共産党幹部にとって、今年夏はとりわけ暑い。最高指導部が大幅に入れ替わる5年に一度の党大会を秋に控え、引退した大物長老も含めた幹部が河北省の避暑地、北戴河に集まり、非公開の会議で人事を固める重要な時期だからだ。

 一部の中国語メディアは、習氏が宿泊する豪華別荘「ゼロ号」には、暗殺防止のために防弾ガラスが設置され、習氏が海水浴をする際には、厳格な審査を経て選抜された200人以上の水上警察官が警護にあたっている-と報じた。

ロシア人のリゾート地にもなっている北戴河
 習体制が船出して5年、習氏は権力掌握と勢力拡大を目指し、盟友の王岐山・党中央規律検査委員会書記(序列6位)とタッグを組み、「トラもハエもたたく」の掛け声で、宿敵・江沢民元国家主席派の大物を次々と刑務所や鬼籍へ送り込む“死闘”を繰り広げてきた。

 昨年10月の党中央委員会総会で、習氏は、トウ小平氏や江氏と並ぶ「核心」の地位を得たが、依然として「権力の掌握ができない」というジレンマを抱えている。習政権が掲げた夢は「中華民族の偉大なる復興」だが、習氏の夢は「江一派の無力化」であり、いまだ道半ばだからだ。

 習氏の不安・焦燥はそれだけではない。

 4月の米中首脳会談で、習氏は、北朝鮮の「核・ミサイル」対応をめぐり、トランプ氏から「100日間の猶予」を取り付けたが、7月中旬までに“宿題”をこなせなかった。北朝鮮と直結するのは江一派であり、習氏は北朝鮮に何ら力を持たないのだ。

 北朝鮮は5月、「中国が中朝関係を害している」と初めて名指しで批判した。これは建国以来の「兄弟国」中国に対してではなく、習氏や習一派への罵倒と読み取るべきだ。正恩氏は強硬姿勢を崩さず、ミサイル発射を繰り返している。こうしたなか、プーチン氏の存在感が際立っている。

 中国共産党最高指導部「チャイナセブン」(中央政治局常務委員7人)のうち、4月に、江一派の張徳江・全人代常務委員(序列3位)と、張高麗副首相(同7位)が訪露し、プーチン氏と会談した。

 習氏(同1位)も7月、2泊3日でモスクワ入りし、プーチン氏と複数回会談した。これほど短期間に「プーチン詣で」が続いた背景は、北朝鮮問題である。

 北朝鮮の金王朝は1961年、旧ソ連と軍事同盟の性格を持つ「ソ朝友好協力相互援助条約」を締結するなど、古くから特別な関係にあった。プーチン氏は大統領就任直後の2000年、ロシアの最高指導者として初めて平壌(ピョンヤン)を訪れ、正恩氏の父、金正日(キム・ジョンイル)総書記から熱烈な歓迎を受けた。

 この2年前、北朝鮮は「人工衛星の打ち上げ」と称して、事実上の中距離弾道ミサイルを発射した。北朝鮮のミサイルは旧ソ連の技術が基盤とされる。

 プーチン氏の訪朝後、ロシア下院は「露朝友好善隣協力条約」を批准する。正日氏は2001年以降、公式・非公式で何度も訪露をするなど「プーチン氏との関係強化に邁進(まいしん)した。

 北朝鮮は一方、江一派の息がかかる瀋陽軍区(現北部戦区)ともつながってきた。瀋陽軍区は、米国や日本の最先端技術を盗み、金王朝と連携して「核・ミサイル開発」を進め、資源や武器、麻薬など北朝鮮利権を掌握したとされる。

 江一派と敵対する習氏としては、北朝鮮のミサイルの矛先が北京・中南海(中国共産党中枢)に向かないよう、プーチン氏との「特別な関係」に注目しながら、江一派の“無力化工作”に心血を注いでいる。

 習氏がモスクワ訪問中の7月4日、北朝鮮はICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射した。訪露にあたり、習氏は「110億ドル(約1兆2170億円)規模の経済支援」という手土産を持参した。北朝鮮をコントロールできない苦境を物語っているようだ。

 これに対し、プーチン氏はロシア最高位の「聖アンドレイ勲章」を習氏に授与した。習氏を手下にしたつもりだろうか? ロシアはすでに、北朝鮮を抱き込んでいると考えられる。

 北朝鮮の貨客船「万景峰(マンギョンボン)号」は、北朝鮮北東部・羅津(ラジン)と、ロシア極東ウラジオストク間を定期運航している。真偽は定かでないが、プーチン氏が送り込んだ旧KGBの精鋭部隊が、正恩氏の警護や、北朝鮮人民軍の訓練にあたっているという情報もある。

 一連の危機で“漁夫の利”を得るのは、間違いなくプーチン氏である。

 ■河添恵子(かわそえ・けいこ) ノンフィクション作家。1963年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学卒業後、86年より北京外国語学院、遼寧師範大学へ留学。著書・共著に『豹変した中国人がアメリカをボロボロにした』(産経新聞出版)、『「歴史戦」はオンナの闘い』(PHP研究所)、『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)など。

【私の論評】半島情勢を左右するロシアの動き(゚д゚)!

結局、今回の朝鮮半島情勢も、ロシアが漁夫の利を得るだけなのかもしれません。これは、第二次世界大戦における真の勝者は誰だったのかを考えることが、参考になります。

さて、戦争の勝敗は何によって決まるでしょうか。もちろん死傷者も重要です。領土や財産を奪ったか奪われたかも重要です。しかし、本質は「目的を達成したか」どうかです。

当時のソ連の、戦争目的は、まず東欧の赤化です。これには完璧に大成功しました。次の目的は、満州の獲得です。これも成功です。それどころか、北朝鮮まで手中に収めました。ちなみに、現在の中ロ関係は良いとはいえないですが、スターリンが存命中には、毛沢東は忠実な手下です。

米国は結局ほとんど何も得られませんでした。英国は、失うものばかりが多く、本当にソ連の一人勝ちです。

ウェデマイヤーレポートの日本語版のタイトルは『第二次大戦に勝者なし』との題名なのですが、内容は「第二次大戦の勝者はソ連だけだ」です。


そうして、今日ロシアを支配しているのは、徹底した『力の論理』です。自分より強い相手とはケンカをせず、また、自分より弱い相手の話は聞かないというものです。

日本からの投資などで、ロシア側の姿勢を軟化させ北方領土問題を一歩でも進めよう、などという声もあるようですが、話を進める気のない相手に交渉を持ち込んだところで、条件を吊り上げられるのがオチです。

そもそも、戦争で取られたものは戦争で取り返すしかない、というのが国際社会の常識です。力の裏づけもないまま、話し合いで返してもらおうなどと考えている時点で、日本は甘すぎます。これは、それこそ子どもの論理と謗られてもしかたありません。
 
これは、プーチンとメドヴェージェフの役回りを考えてもわかります。子分が大袈裟に騒ぎ立てたところへ、親分が『まあまあ』と薄ら笑いで入ってくるのは、弱肉強食のマフィア社会などでは常套手段です。にもかかわらず子どものままの日本は、プーチンの薄ら笑いを友好的なスマイルだと勘違いしてしまっています。要するに、マフィアの社交辞令を真に受けているわけです。

プーチンとメドベージェフ
そもそも、多くの日本人はロシアを知らなさすぎます。ウクライナの問題にしても、ロシアの歴史を知っていれば『またやってるよ』で終了です。『アメリカの影響力の低下』を論じる向きもありますが、そもそも、旧ソ連邦であるウクライナ、とくにクリミア半島に欧米が手出しできるわけがありません。メキシコにロシアが介入できないのと一緒です。

これは、世界の通史を知れば国際社会の定石が学べ、おのずと理解できることです。そうして、文明国として、日本が強くなるべき理由やその方法も理解できるはずです。

プーチン大統領にとって、ウクライナはあくまで自分たちの持ち物です。元KGBである彼の故郷はロシアではなくソ連邦なのです。ウクライナを狙うのは、彼が旧ソ連を取り戻そうとする行為の一環なのです。

プーチンは故郷であるソ連邦の歴史をムダにしたくないし、ソ連の崩壊が敗北だったとは決して認めたくないのです。例えばプーチンは、ガスプロムという天然ガスの企業を使って、ロシア人から搾取を続けています。

かつてイギリスが東インド会社でやっていたような植民地化を自国で行っているわけです。この事実だけ見ても、彼がロシアの愛国者ではなく、ソ連への忠誠心が高いと見ていいです。

ソ連の愛国者プーチン
このやり口を理解しなければ、トランプ大統領もプーチンにしてやられるだけです。

日本では、半島情勢というと、米朝の二国間だけに注目しがちであるし、マスコミもこの側面ばかり報道します。

しかし、これらの背後にあるロシアの動きも注目しなければならないということです。

ロシアが対北朝鮮で融和政策を取る最大の理由は、北朝鮮の振る舞いに対し、アメリカやその同盟国と非常に異なった解釈をしているからです。長年ロシアは、北朝鮮とわずかに国境を接しているにも関わらず、金一族に対してアメリカよりはるかに楽観的な見方をしてきました。冷戦初期、北朝鮮とソ連は共産主義の価値観を共有していましたが、そうしたイデオロギー上の連帯感はとうの昔に消え去りました。

ロシアは金一族は奇妙だが、合理的だとも考えているようです。金正恩が核兵器を手にしたのは本当です。しかし、ロシアのアナリストは、北朝鮮が核兵器で先制攻撃すれば、アメリカによる核の報復を受けて金も北朝鮮も破滅することを、金は承知しているとみています。

冷戦時代に米ソに核兵器の使用を思いとどまらせた核抑止の論理が、北朝鮮の攻撃を回避するうえでも役に立つというのです。そのため多くのロシアのアナリストは、北朝鮮が国家の安全保障に自信をもてて、アメリカによる軍事攻撃を抑止できるという点で、北朝鮮の核開発は朝鮮半島情勢の安定化に役立つと主張しています。

ロシア政府が北朝鮮問題でアメリカと一線を画すのには、他にも理由があります。ロシアは中国と同じく、朝鮮半島が統一されて北朝鮮の政権がアメリカの同盟国に取って代わられる事態をまったく望んでいません。

ロシア政府は中国に同調し、米軍による韓国への最新鋭迎撃ミサイル「THAAD(終末高高度防衛ミサイル)」配備に強く反発しています。アメリカが東アジア地域に重点を置く限り、ロシアが今も最優先に掲げるソ連崩壊後の地域をめぐる争いにアメリカの目は行き届きにくいです。そのうえ、金が譲歩しないことでアメリカが怒りの矛先を向けるのは中国だから、ロシアがアメリカに同調しないでいることは簡単です。

実際ロシアの見方では、朝鮮半島を緊張させた責任は、北朝鮮だけでなく同じくらいアメリカにあります。そうした見方からすると、そもそも金一族がミサイルや核を開発するのは自己防衛のためだといいます。「北朝鮮は通常、自分から仕掛けるよりやられたらやり返すタイプだ」と、ロシアの外交政策分析の第一人者で政治学者のフョードル・ルキヤノフは述べました。

「北朝鮮は、強がるのは賢明でないことをイラクのサダム・フセイン元大統領やリビアのムアマル・カダフィ元大佐の末路から学んだ上で、ミサイルや核を開発している。ミサイルや核の存在が、他国による介入の代償を許容できないほど押し上げている」。ロシアのアナリストの多くは、アメリカが北朝鮮を体制転換させると言って脅しさえしなければ、そもそも北は核兵器開発の必要性を感じなかっただろうと主張しています。

悲惨な末路を遂げたサダム・フセイン(左)とカダフィ(右)
アメリカは北朝鮮に対して核開発をやめるよう圧力をかける意思も能力もない中国に苛立ち、新たな選択肢を模索しています。アメリカとしては、このまま北朝鮮に米本土を射程に収めるミサイルの開発や実験を続けさせる事態は避けたいです。

トランプが今年1月、北朝鮮が核弾頭を搭載したICBMで米本土を攻撃する能力を持つ可能性はないと約束した手前もあります。米軍が北朝鮮の核関連施設を攻撃すれば、韓国や日本を巻き込む大規模な戦争に発展する危険性があります。

もしアメリカが北朝鮮の核開発を容認し体制存続に保障を与えるなど、北朝鮮政策を穏健なものにしていたら、ロシアも他国と足並みを揃え、北朝鮮に核・ミサイルの開発や実験をやめさせるよう圧力をかけたかもしれません。しかしアメリカが北朝鮮への軍事攻撃や体制転覆を選択肢として残している限り、ロシアは金正恩だけでなくトランプにも責任を負わせ続けるでしょう。

米国としては、中途半端はもうするべきではないのです。道は2つしかありません。北朝鮮の核開発を容認し体制存続に保障を与えるか、北朝鮮を攻撃し核の脅威を取り除きいずれ、北朝鮮に民主的な政権を根付けるかです。

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2017年5月22日月曜日

落合信彦氏 「プーチンは戦争したくて仕方がない男だ」―【私の論評】ロシアによる小さな戦争はこれからも起こる(゚д゚)!

落合信彦氏 「プーチンは戦争したくて仕方がない男だ」


アメリカと北朝鮮による武力衝突が懸念されているが、「朝鮮有事とともに脅威となっているのは、米ロの衝突が起きること」と指摘するのは、ジャーナリストの落合信彦氏だ。

                 * * *

 昨年秋に上梓した『そして、アメリカは消える』で指摘したように、プーチンは戦争したくて仕方がない男だ。

 プーチンは2014年にクリミア半島を略奪し、ウクライナと戦争を起こした。さらに、アサドをIS(イスラム国)の攻撃から防ぐという口実をつけて、シリアに介入した。あの男は、自分が世界の覇者だと考えているのだ。

 米軍のミサイル攻撃は、シリアでの米ロ衝突につながる可能性がある。トランプとプーチンというまともではない指導者のことだから、それが全面的な戦争に発展することさえ懸念される。


 クリントン政権で国防長官を務めたウィリアム・ペリー氏も一昨年の講演で、「アメリカとロシアの間で核戦争が起きる可能性が大きい」と語っている。ペリー氏の主張が、信憑性を増してきたのだ。

 プーチン自身も、ISによるテロの脅威に晒され始めた。4月3日にサンクトペテルブルクの地下鉄で起きた爆弾テロに、プーチンは大きな衝撃を受けたはずだ。テロはプーチンのサンクトペテルブルク訪問中に起きた。容疑者はキルギス出身で、ISとの関係が取り沙汰されている。

 ロシアでは今、多くの若者がISの影響を受け、シリアなどでISと接触してテロの方法などを訓練された後、帰国していると言われる。爆弾を持った不満分子が多数いるという状況だ。サンクトペテルブルクで起きたようなテロは、ロシア国内で今後も繰り返されるだろう。

 経済が落ち込み、国民がテロに怯える中で、プーチンが批判の矛先をずらすために戦争を始める可能性は、十分ある。いま世界は、あちこちで戦争に向かう動きが加速しているのだ。

 ※SAPIO2017年6月号

【私の論評】ロシアによる小さな戦争はこれからも起こる(゚д゚)!

最近では、中国への対抗軸の一環として、ロシアも仲間に引き入れるべきという意見も聴かれます。私自身も、それに関してこのブログに掲載したこともあります。しかしながら、ロシアという国は一筋縄ではいかないことも十分認識すべきです。

それについては、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
安倍首相と米露のバトル口火 TPPは“トランプ版”に衣替え、北方領土はプーチン氏と論戦に―【私の論評】日米は、中国の現体制と、ロシアの中のソ連を叩き潰せ(゚д゚)!
この記事は、昨年の11月10日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事からロシアという国を示した部分を引用します。
現代ロシアを理解するうえで大切なことは、ロシアとソ連は宿敵だということです。ロシアを乗っ取ってできた国がソ連なのですから、両者を一緒くたに考えるべきではありません。

エリツィンは現在では単なる酔っ払いとしか評価されていないのですが、間違いなくロシアの愛国者でした。そのエリツィンから大統領の地位を禅譲されたプーチンがやっていることは、ソ連邦の復活であり、ロシアに対する独裁です。
ロシアの愛国者エリツィン氏
プーチンが日本文化に詳しいから交渉しやすいなどという甘い幻想は捨て去るべきです。ロシアはそれほど単純な国ではありません。例えば、2002年にアレクサンダー・レベジというロシアの政治家が死にました。

彼はロシアの自由化を進め、チェチェン紛争の凍結にも尽力した人物です。NATOや日米同盟にも融和的でした。何より、近代文明とは何かを理解し、実行しようとしました。

ロシア史のなかでも、一番の真人間と言っていい存在です。しかし、彼の末路はヘリコプター事故死です。ロシアではなぜか、プーチンの政敵が『謎の事故死』を繰り返します。このレベジについてなんら言及せず、『プーチンは親日家だから』などと平気で言っているような輩は、間違いなく馬鹿かロシアスパイです。
アレクサンダー・レベジ
しかし、無論プーチンに限らず誰にも様々な面があります。どんな物事にも良い面もあれば悪い面もあります。『誰が善玉で誰が悪玉か』という子どものような区別の仕方はすべきではありません。 
ロシアを支配しているのは、徹底した『力の論理』です。自分より強い相手とはケンカをせず、また、自分より弱い相手の話は聞かないというものです。

日本からの投資などで、ロシア側の姿勢を軟化させ北方領土問題を一歩でも進めよう、などという声もあるようですが、話を進める気のない相手に交渉を持ち込んだところで、条件を吊り上げられるのがオチです。

そもそも、戦争で取られたものは戦争で取り返すしかない、というのが国際社会の常識です。力の裏づけもないまま、話し合いで返してもらおうなどと考えている時点で、日本は甘すぎます。これは、それこそ子どもの論理と謗られてもしかたありません。 
これは、プーチンとメドヴェージェフの役回りを考えてもわかります。子分が大袈裟に騒ぎ立てたところへ、親分が『まあまあ』と薄ら笑いで入ってくるのは、弱肉強食のマフィア社会などでは常套手段です。にもかかわらず子どものままの日本は、プーチンの薄ら笑いを友好的なスマイルだと勘違いしてしまっています。要するに、マフィアの社交辞令を真に受けているわけです。
プーチンとメドベージェフ
そもそも、多くの日本人はロシアを知らなさすぎます。ウクライナの問題にしても、ロシアの歴史を知っていれば『またやってるよ』で終了です。『アメリカの影響力の低下』を論じる向きもありますが、そもそも、旧ソ連邦であるウクライナ、とくにクリミア半島に欧米が手出しできるわけがありません。メキシコにロシアが介入できないのと一緒です。

これは、世界の通史を知れば国際社会の定跡が学べ、おのずと理解できることです。そうして、文明国として、日本が強くなるべき理由やその方法も理解できるはずです。

プーチン大統領にとって、ウクライナはあくまで自分たちの持ち物です。元KGBである彼の故郷はロシアではなくソ連邦なのです。ウクライナを狙うのは、彼が旧ソ連を取り戻そうとする行為の一環なのです。

プーチンは故郷であるソ連邦の歴史をムダにしたくないし、ソ連の崩壊が敗北だったとは決して認めたくないのです。例えばプーチンは、ガスプロムという天然ガスの企業を使って、ロシア人から搾取を続けています。

かつてイギリスが東インド会社でやっていたような植民地化を自国で行っているわけです。この事実だけ見ても、彼がロシアの愛国者ではなく、ソ連への忠誠心が高いと見ていいです。
ソ連の愛国者プーチン
北方領土へのミサイル配備や担当大臣拘束という一連の動きは、北方領土・日露平和条約交渉を妨害しようというプーチンの意図の表れです。 
日本としては、米国と貿易交渉で徹底的にケンカをして、ロシアのプーチン幻想など捨て去り、米国と共同しつつ、何十年かけてもロシアの中のソ連をぶっ潰す、中国の現体制をぶっ潰すことを念頭においた外交を展開すべきです。 
さて、ロシアという国の実情がおぼろげながらでもご理解いただけたものと思います。さて、次にプーチンの人柄を以下に説明しようと思います。

プーチンの人柄を知る上で、絶対に忘れてはならないことが1つあります。それは、奴は自分にとって脅威となる政敵はことごとく暗殺する性癖があるということです。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
邪魔者は殺す プーチン大統領のデスノート―【私の論評】プーチンは、生かさず殺さず利用することが我が国の目指すべき道(゚д゚)!
ウラジーミル・プーチン
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に過去のプーチンによるものとみられる暗殺に関して引用します。
 超大国ロシア復権を目指すプーチン大統領は、政権に批判的な者を露骨に排除してきた。ロシア・旧ソ連圏の安全保障に詳しい軍事アナリストの小泉悠氏は、「ロシアの恐怖政治は今後も続く」と見ている。  
 * * * 
 2015年2月27日、ある男がモスクワ中心部の橋で4発の銃弾を浴びて死亡した。男はロシアの野党指導者ネムツォフ。反プーチンを掲げて大規模デモを開催する2日前の暗殺だった。後に当局は5人を逮捕したが「黒幕」は不明のままだ。
暗殺されたとみられる野党指導者ネムツォフ氏
 プーチンという男を批判する者の不可解な死は今に始まったことではない。
 有名な例が、プーチン政権誕生の鍵を握る事件を追及していたジャーナリストのポリトコフスカヤだ。 
 1999年、ロシア3都市のアパートが連続爆破され、約300人が死亡した。当時、ロシア首相のプーチンはチェチェン独立派武装勢力のテロと断定して報復攻撃を開始した。決断は国民に広く支持され、大統領に上り詰める基盤となった。 
 だが、後に同型の爆弾を仕掛けた不審者がロシアの諜報機関と関係していた事実が発覚。ポリトコフスカヤは、アパート爆破はチェチェン侵攻の口実が欲しいプーチンの「自作自演」ではないかと追及した。
暗殺されたとみられるポリストフスカヤ氏の葬儀
 そして彼女は標的となる。2004年のチェチェン武装勢力による中学校占拠事件を取材する際、現場に向かう機内で提供された一杯の紅茶を飲んで意識を失った。彼女は紅茶に毒を盛られたとして、「ロシア当局による毒殺未遂」だと主張した。 
 奇跡的に一命を取り止めたが、2006年10月7日、モスクワ市内にある自宅アパートのエレベーター内で射殺された。全容は不明だが、この日はプーチン54歳の誕生日であり、暗殺は「最大の贈り物」とされた。 
 3週間後、彼女と同様にロシア政府の関与を追及していた元KGB(ソ連国家保安委員会)のリトビネンコが亡命先のロンドンで体調不良を訴える。髪の毛が抜け、嘔吐を繰り返した彼は、やつれ果てた姿で死亡した。
病気の治療を受けていたリトビネンコ氏
 死体からはロシアで独占的に製造される放射性物質のポロニウム210が検出された。後に英国の調査委員会は、暗殺にロシア政府が関与しており、少なくともプーチンの承認を得ていたと結論づけた。 
 KGBには「チェキスト(情報機関員)は死ぬまでチェキストだ」との鉄則がある。KGB出身のプーチンにとって、西側に魂を売ったリトビネンコは、「許されざる裏切り者」だった。
これらの暗殺は、無論プーチンは認めてはいません。しかし、これだけ都合よく政敵が倒れるのですから、これは推して知るべき筋合いのものです。

しかしながら、そもそもプーチン氏とはどんな人物なのでしょうか。氏を動かす要因とは何なのでしょうか。氏が信じる価値とは何か。こうした事柄について、北海道大学名誉教授の木村汎氏の著書『プーチン人間的考察』『プーチン内政的考察』(いずれも藤原書店)は、合わせて1200頁余、木村氏のロシア及びプーチン分析では他の追随を許しません。


プーチン像を、木村氏は「人誑(ひとたら)し」という言葉で鮮やかに表現しました。プーチン氏は父親同様、ソ連(ロシア)の情報要員、つまりスパイとして働くべく、KGB(旧ソ連国家保安委員会)に勤めたのですが、チェキストと総称される彼らに叩き込まれるのは、「人間関係のプロフェッショナル」になることだと、これはプーチン氏自身が語っています。
 
ロシアの名門紙「コメルサント」の女性記者、エレーナ・トレーグボワは、プーチン氏とは「絶対的に対立し合う立場」だったが、プーチン氏は、「彼と私があたかも同一グループに属し、同一利益を共有しているかのような気分に」させてしまうと振り返っています。
把瑠都(右から二番目)とエレナ・トレクボワ(右)
木村氏はさらにジョージ・ブッシュ前米大統領が如何に「めろめろ」にされたかも描いきました。反ソ、反露主義のブッシュ氏は、大統領就任後、なかなかプーチン氏に会おうとしなかったのですが、2001年6月16日、とうとう会談しました。そのときプーチン氏は、幼いときに母親から貰った十字架を見せて、マルクス主義の下でロシア正教の信仰が禁止されていた少年時代に、母親の計いで洗礼を受けた体験を、ブッシュ氏に静かに語ったそうです。
 
ブッシュ氏は明らかに心を動かされ、次の言葉を残している。「私はこの男(プーチン)の眼をじっと見た。彼が実にストレートで信頼に足る人物であることが判った」。

プーチン(左)とブッシュ(右) 
英国人ジャーナリストのロックスバフ氏は、「ブッシュは、プーチンの釣針に見事に引っ掛った」と評しましたが、木村氏はこの人誑しイメージとは異なる別のプーチン評も紹介しています。

「プーチンは自己(および家族)のサバイバルやセキュリティを何よりも重視し、この目的達成を人生の第一義にみなして行動する人間」(プーチンの公式伝記『第一人者から』の執筆者)であり、プーチンの胸深くには、「己が何が何でも・サバイバル・せねばならないという欲望が、一本の赤い糸のようになって貫いている」と、断じています。
 
上半身裸で馬を駆ったり、釣りをする姿を、プーチン氏は好んで映像にとらせます。そこから連想されるマッチョなイメージとは正反対に、彼は「臆病すぎるほどの慎重居士」だと木村氏は見ています。


従ってプーチン氏はいかなる人間をも絶対的に信頼することはありません。常に複数の人間に保険をかけます。状況が動いているときにはとりわけそうです。
 
そのプーチン氏が権力保持のために注意深くコントロールしてきたのが、➀ロシア国民、➁反対派諸勢力、➂プーチン側近のエリート勢です。
 
➀は新聞・テレビなどのメディアを国営化し、人事をプーチン派で固め、自分に好都合な情報だけを報じることでコントロール可能です。ちなみに、2014年段階でロシア人の情報源は60%がテレビ、インターネットは23%にとどまります。
 
➁は上に掲載したように、苛酷で執拗で非情な手段を用いて、命まで奪いとることで押さえます。
 
最も手強いのが➂の側近による反乱、宮廷クーデターです。そのような事態が起きるとすれば、中心勢力は旧KGB関係者を含む「シロビキ」です。万が一にも反乱の可能性があれば、プーチン氏はその芽を摘みとります。それが昨年4月、関係者を驚かせた一大決定でした。プーチン氏が命じたのは国家親衛隊の創設でした。新組織は生半可なものではありません。そこに配置転換された人数は40万人、ロシア正規軍の約半分に相当する規模です。新組織の長にはプーチン氏の長年の柔道仲間で、「プーチン氏に最も献身的に尽くす人物」と評されるゾロトフという人物が選ばれました。

プーチン(前)とゾロトフ(後)
こうした中、昨年3月に行われた世論調査では、ロシア人の82%がプーチン大統領を支持し、同じく82%がロシアは深刻な経済危機に直面していると答えました。深刻な経済危機は為政者への批判につながるのが世界の常識だが、ロシアではそうなっていない。なぜなのでしょうか。
 
ロシア人は今日の食事に困っても、ロシアという「偉大な国家」が国際社会で存在感を示し、大国の栄光を回復するなら、精神的に満足するからだと解説されています。加えて、プーチン氏は経済的困難を外敵の所為にして、対外強硬路線を取って求心力を高め、自身への支持率上昇につなげています。クリミア、シリアなどとの「小さな戦争」は、ロシア国民のナショナリズムを呼び醒ます効果を生みます。米欧諸国はそれに対して対露制裁を強化します。するとプーチン氏は新たな小さな戦争を始めて国民のナショナリズムに訴えるのです。
 
完全な悪循環の中にあるのがプーチン大統領なのです。ブログ冒頭の記事では、落合氏は、「プーチンは戦争したくて仕方がない男だ」と評していますが、というよりは「小さな戦争をせざるを得ない、悪循環におちいつている」とみるべきなのでしょう。

現在のロシアは、最盛期の頃のソ連と比較すれば、国力は衰えました。現在では、米国と戦争などとてもできるような状況ではありません。米国抜きのNATO軍と戦ったとしても、今や勝ち負けを論じるようなレベルではありません。とても戦争を遂行できるだけの、軍事力も経済力もありません。

しかしながら、小さな戦争をする力はあります。これからも、クリミア、シリアなどとの「小さな戦争」を仕掛ける可能性は十分にあります。

中国・ロシア・北朝鮮の国境が接する、中国の琿春市。展望台にはロシア・中国・北朝鮮の国旗。
しかし、世界情勢はこれからもどうなるかわかりません。朝鮮半島においても、当然のことながら、プーチンは、機会をうかがっていることでしょう。多くの日本人は、意識していませんが、ロシアと北朝鮮は国境を接しています。

無論、ロシアが北朝鮮に攻め入るなどという単純な図式ではないと思いますが、現在の緊張がロシアにとって少しでも有利になるように、チャンスをうかがっているであろうことは、確かです。

世界は、プーチンの頭の中に、ソ連的なものがよぎるのを阻止し、そうして日本は何十年かけてでも、ロシアの中のソ連的なものを破滅させるべきなのです。

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