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2016年12月30日金曜日

【メガプレミアム】「奪われた領土」極東ロシアに流れ込む中国人…“スーツケースで侵略”は危険な火ダネ―【私の論評】日米がロシアに歩み寄りの姿勢をみせる理由はこれだ(゚д゚)!

【メガプレミアム】「奪われた領土」極東ロシアに流れ込む中国人…“スーツケースで侵略”は危険な火ダネ

ロシア人女性が中露国境の街で、長い冬に向けた生活必需品の買い出しに熱を入れている。写真は
黒河市の露店市場。国境のロシア人にとっては中国の物資はなくてはならないものになっている。
人口が希薄なロシア極東に中国人が流入し、ロシア人を心理的に圧迫している。ロシアの調査機関は今世紀半ばを待たず、中国人がロシア人を抜いて極東地域で最大の民族になると予測する。中国人には19世紀の不平等条約でウラジオストクなど極東の一部を奪われたとの思いがあり、ロシア人には不気味だ。欧米に対抗して蜜月ぶりを演出する両国首脳の足元で、紛争の火だねが広がっている。(坂本英彰)

  中国人150万人が違法流入

 「中国人がロシアを侵略する-戦車ではなくスーツケースで」

 米ABCニュースは7月、ロシア専門家による分析記事を電子版に掲載した。露メディアによると、国境管理を担当する政府高官の話として、過去1年半で150万人の中国人が極東に違法流入したという。数字は誇張ぎみだとしつつも、「国境を越える大きな流れがあることは確かだ」と記す。

 カーネギー財団モスクワ・センターによると在ロシアの中国人は1977年には25万人にすぎなかったが、いまでは巨大都市に匹敵する200万人に増加した。移民担当の政府機関は、極東では20~30年で中国人がロシア人を抜いて最大の民族グループになるとしている。

 インドの2倍近い広さがある極東連邦管区の人口は、兵庫県を少し上回る630万人ほど。これに対し、国境の南側に接する中国東北部の遼寧、吉林、黒竜江省はあわせて約1億人を抱える。

国境を流れるアムール川(黒竜江)をはさんだブラゴベシチェンスクと黒竜江省黒河は、両地域の発展の差を象徴するような光景だ。人口約20万人の地方都市の対岸には、近代的な高層ビルが立ち並ぶ人口約200万人の大都市が向き合う。

 ABCの記事は「メキシコが過剰な人口を米国にはき出すように、ロシア極東は中国の人口安全弁のようになってきている」と指摘した。ただし流入を防ぐために「壁」を築くと米大統領選の候補が宣言するような米・メキシコ関係と中露関係は逆だ。中露間では人を送り出す中国の方が、ロシアに対して優位に立つ。

  20年後の知事は中国人!?
 ソ連崩壊後に過疎化が進行した極東で、労働力不足は深刻だ。耕作放棄地が増え、地元住民だけでは到底、維持しきれない。

 米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿したロヨラ大シカゴ校のコダルコフスキー教授によると、過去10年で日本の面積の2倍超の約80万平方キロの農地が中国人に安価にリースされた。そこでは大豆やトウモロコシ、養豚など大規模な農業ビジネスが展開されている。

 中国と接する極東のザバイカル地方は今年、東京都の半分にあたる1150平方キロの土地を中国企業に49年間長期リースすることで基本合意した。1ヘクタールあたり年500円余という格安だ。これに対しては「20年後には知事が中国人になりかねない」などと、ロシア国内で猛反発も起きた。

ロシア政府はロシア人の移住や定着を促すため土地を無償貸与する法律を制定したが、ソ連崩壊後の二の舞になる可能性も指摘されている。1990年代、分配された国有企業の株は瞬く間に買収され、政府とつながる一部特権層が私腹を肥やす結果となった。

 極東は中国なしでは立ちゆかず、結果として中国人の流入を招く。コダルコフスキー教授は「中国はアムール川沿いのロシア領を事実上の植民地にしてしまった」と指摘した。

  「未回復の領土」

 中国人が大量流入する状況で「領土回復運動」に火がつくと、ロシアにとっては取り返しのつかない結果となりかねない。

 欧米列強のひとつだったロシア帝国は1858年と1860年、弱体著しい清帝国との間で愛琿条約、北京条約をそれぞれ締結し極東地域を獲得した。沿海州などを含む日本の数倍に匹敵する広大な領域で、これにより清帝国は北東部で海への開口部を失った。アヘン戦争後に英国領になった香港同様、清にとって屈辱的な不平等条約だ。

 中国と旧ソ連は1960年代の国境紛争で武力衝突まで起こしたが、冷戦終結後に国境画定交渉を加速し、2008年に最終確定した。現在、公式には両国に領土問題は存在しない。

 にもかかわらず中国のインターネット上には「ロシアに奪われた未回復の領土」といったコメントが頻出する。

ニューヨーク・タイムズは7月、近年、中国人観光客が急増しているウラジオストクをリポートした。海辺の荒れ地を極東の拠点として開発し、「東方を支配する」と命名した欧風の町だ。吉林省から来た男性は「ここは明らかにわれわれの領土だった。急いで取り戻そうと思っているわけではないが」と話す。同市にある歴史研究機関の幹部は「学者や官僚がウラジオストクの領有権について持ち出すことはないが、不平等条約について教えられてきた多くの一般中国人はいつか取り返すべきだと信じている」と話した。

  アイスで“蜜月”演出も

 台湾やチベット、尖閣諸島や南シナ海などをめぐって歴代政権があおってきた領土ナショナリズムは、政権の思惑を超えロシアにも矛先が向かう。極東も「奪われた領土」だとの認識を多くの中国人が共有する。

 9月に中国・杭州で行われた首脳会談でプーチン大統領は、習近平国家主席が好物というロシア製アイスクリームを贈ってまさに蜜月を演出した。中露はそれぞれクリミア半島や南シナ海などをめぐって欧米と対立し、対抗軸として連携を強める。

 しかし極東の領土問題というパンドラの箱は何とか封印されている状況だ。ナショナリズムに火がつけば、アイスクリームなどいとも簡単に溶かしてしまうだろう。(2016年10月4日掲載)


【私の論評】日米がロシアに歩み寄りの姿勢をみせる理由はこれだ(゚д゚)!

中国とロシア、両方とも広大な領土を持つ国ですが、その内容はかなり違います。まず人口は、中国が14億人弱、一方ロシアは1億4千万であり、これは日本の1億2千万よりわずかに多いだけです。

GDPはといえば、中国11,181.56(単位10億ドル)、ロシア1,326.02(単位10億ドル)であり、実に中国のGDPはロシアの8倍以上です。(2015年の数字、以下同じ)

1人あたりのGDPは、ロシア9,243.31ドル、中国8,140.98ドルロシアは、中国の1.1倍です。ちなみに、日本の1人あたのGDPは、32,478.90ドルです。

そうして、ロシアは中国と世界で一番長く国境線を接している国です。これを考えれば、上記のような問題が起こるのは当然といえば、当然です。

これについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
上念司「中国包囲網の決定打はモンゴル・トルコのランドパワー強化に在り!」―【私の論評】ソ連崩壊後、小国ロシアになってから国境溶解が顕著になり中国にとって軍事的脅威はなくなった!日本は経済援助を通じて中国と国境を接する国々のランドパワーを強化すべき(゚д゚)!
かつての中ソ国境紛争の係争地だった黒瞎子島は今では観光地になっている
この記事は、2014年5月13日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事ではロシアと中国の国境があいまいになっている「国境溶解」という現象について解説しました。

この記事より、国境溶解に関わる部分を以下に引用します。
国境の溶解現象とは、中ロ国境を中国人が多数超えてロシア領内に入り、様々経済活動をしているため国境そのものが曖昧になっていることをさします。 
黒竜江とウスリー江を挟んだ対岸は、中国有数の農業地帯であり、 渤海、金以来のさまざまな民族の興亡の地として歴史に残る遺跡も多いです。 わずかに川ひとつ隔てただけで、一方は衣食を外からの供給に仰ぎつつ資源を略奪しつづけ、 年々人口を減らしつづけているシベリアであり、一方は年々人口を急増させつつある 黒龍江省です。 
ロシア側の、全シベリアの人口を総和しても、数十分の一の面積しかない黒龍江省の半分にしかならないのです。この救いがたい落差は、 つまるところ社会的な圧力になります。ソ連政府はだからこそ国境地帯に厳しい軍事的な緊張を 作り出すことによって、中国からの圧力に対抗していたといえるでしょう。 
国境を挟んだ中国側の吉林省、遼寧省と北朝鮮、 内モンゴル自治区とモンゴル、新彊とカザフスタンおよびウズベキスタン、中国の雲南省とミャンマー、 中国の広東省とベトナムなどを比較してみると、常に面積の少ない中国側の各省が人口ではるかに勝っていることがわかります。 
この明白な不均衡こそが、国境を超えて大量の中国人が流出あるいは進出しつつある 根本的な原因です。この点から言えば、シベリアも例外ではないばかりではなく、 最も典型的なものです。ソ連の軍事的圧力が解消し、 国境貿易が開始されたことは、この過程を一気に促進させました。

ソ連の崩壊によってシベリアのロシア人社会は、直ちに危機に陥いりました。 政府は給与を支払うことができず、多くの労働者が引き上げていきました。 シベリアに市場はなく、シベリア鉄道もいたるところで寸断されようとしていました。 だから、中国からの輸入が不可欠のものとなりましたが、一方で中国に売り渡すものを シベリアのロシア人社会は何も持っていませんでした。その結果、 中国人がシベリアに入り込んできて、役に立つものを探し出し、作り出してゆくしかなくなりました。 
こうして、国境溶解が進んていきました。この国境溶解は、無論中国にとっては、軍事的脅威がなくなったことを意味します。 
特に現在のロシアは、ご存知のようにウクラナイ問題を抱えており、中ロ国境にソ連時代のように大規模な軍隊を駐留させておけるような余裕はありません。 
かつてのソ連の脅威がなくなったどころか、国境溶解でロシア領内にまで浸透できるようになった中国は、この方面での軍事的脅威は全くなくなったということです。 
各地で軍事的な脅威がなくなった中国は、これら国境地帯にかつのように大規模な軍隊を派遣する必要もなくなり、従来から比較すると経済的にも恵まれてきたため、海洋進出を開始刷るだけの余裕を持ち、実際に海洋進出を始めました。
 ブログ冒頭の記事は、この「国境溶解」がますます酷くなっている現状を示したものです。このような状況にある中露両国です。この二国が、同盟関係にあるように見えても、そう装っているだけでしょう。

ロシアは、この「国境溶解」にかなり頭を悩ましていることでしょう。冷戦終結後に国境画定交渉を加速し、2008年に最終確定した。現在、公式には両国に領土問題は存在しない。

さて、このブログでは、何度か中露関係に関する、米国の戦略家ルトワック氏の見方を紹介してきました。その典型的な記事のリンクを以下に掲載します。
【日露首脳会談】中国、日露連携を警戒「包囲網」強化に対抗―【私の論評】会談のもう一つの目的は、ロシアを安全保障のダイヤモンドの一角に据えること(゚д゚)!
米国の戦略家エドワード・ルトワック氏
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、ルトワック氏の中露関係に関する分析に関する部分を以下に一部引用します。
ウクライナ危機をきっかけに中ロはさらに接近し、日米へのけん制を強める……。世界ではこんな見方が多いが、ルトワック氏の予想はちがった。 
ロシアは、中国とは仲良くならない。シベリアなどに侵食してくる中国を脅威だとみているからだ。むしろ、ロシアは中国をにらみ、本当は日米と協力を広げたいはずだ――。ルトワック氏はこんな趣旨の予測を披露したという。
「いまの中国は共産党体制だったときのソ連と同じだ。何を考えているのか、外からは分からない。しばしば、唐突な行動にも出る」。公式な場では決して中国を批判しないロシアの政府関係者からも、こんなささやきが聞かれる。
では、日本はどうすればよいのか。中ロの結束が弱まれば、日本の選択肢は広がる。それでもロシアが対中外交で協力したり、領土交渉で譲ったりすると期待するのは禁物だ。 
米政府当局者は「ロシアに過剰な期待を抱かないほうがいい。日本には戦中の経験もある」と語る。第2次大戦末期、日本の降伏が確実とみるや、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄し、攻め込んできた。 
ユーラシアの両雄はどこに向かうのか。日本は歴史の教訓をひもときながら、冷徹に次の一手を練るときである。
トランプ次期米大統領も、安倍首相も、「国境溶解」のことやルトワック氏の分析に関しては、当然のことながら頭に入っているものと思われます。

だかこそ、トランプ氏はロシアに接近する姿勢を見せているのだと思います、安倍首相もそうでしょう。だからこそ、敢えて日露首脳会談を日本で開催したのです。

トランプ氏は、ロシアに歩み寄りの姿勢をみせることによって、ロシアが関与するウクライナ問題や、シリア問題などがすぐに解消するとは思っていないでしょう。

安倍首相も、ロシアに歩み寄りの姿勢をみせたからといって、領土問題がすぐに解決するなどとは思っていないでしょう。

しかしながら、中国を牽制するための一つの手段として、ロシアを利用する価値があるものと信じているものと思います。

現在のところ、中露国境は「国境溶解」が深刻になっているというだけで、深刻な問題とはなっていません。しかし、中国が領土的野心をむき出しにして、極東地域に進出したとしたら、これはロシアのみならず、日本にとっても、米国にとっても大きな脅威です。

たとえ、中国が極東地域を領土にはしなかったにしても、この地に覇権を及ぼすことができるようになれば、北極海や、オホーツク海に中国が、戦略原潜を航行させるようになるかもしれません。

中国の戦略原潜
北極海では今、温暖化に伴う氷の融解により船舶の航行が容易になりつつあり、北極海を経由して既存の航路より短時間でアジアと欧州をつなぐ「北極海航路」に注目が集まっています。ロシアにとり、自国の領海を船舶が多く行き来する状況は、航路周辺の基地での商業の活性化や、万が一船舶が氷に閉じ込められないよう、護衛サービスを提供できるメリットがあります。

ただし、同海域の氷が溶けることは、その海域を各国の海軍の艦船が容易に航行できることも意味します。国際法で非軍事化が定められた南極と異なり、北極海はその多くの海域で軍事演習などを各国が行うことが可能で、各国の軍事プレゼンスが高まることはロシアにとり懸念すべき状況なのです。

中国は、北方海域でも存在感を高めています。2012(平成24)年以降、砕氷船「雪龍」がほぼ毎年、北極海航路を航行しています。昨年9月には海軍艦艇5隻が、北極海の玄関口となる米アラスカ州沖のベーリング海を初めて航行しました。

中国の砕氷船「雪龍」
ロシアにとってオホーツク海は戦略原潜を展開する「聖域」だけに中国の動きに神経をとがらせています。11年と14年には、雪龍の航路上でミサイル演習を行い威嚇しました。昨年12月に策定したロシアの国家安全保障戦略では、極東と北極圏をつなぐ沿岸防衛システムを構築する方針を決定しました。千島列島と北方領土への地対艦ミサイル配備も対中牽制(けんせい)の意味合いがあります。

南シナ海での中国の行動は、南シナ海を中国の戦略原潜の聖域にするという目論見があります。中国の覇権が、極東地域、北極海にまでおよべば、中国はロシアに変わって、北極海とオホーツク海を中国の戦略原潜の聖域にするかもしれません。

そうなれば、中国はロシア、日米はもとより、世界中の国々特に北半球の国々にとって、かなりの脅威になります。北極海や、オホーツク海なども第二の南シナ海になりかねません。

そんなことは、当然のことながら、ロシアは避けたいでしょう。そのロシアに対して、日本や米国が、歩み寄りの姿勢を見せておくことは、中国を牽制するということで非常に重要な意味があります。

トランプは外交の素人だとか、日露首脳会談は、北方領土問題が進展しなかったので、全く意味がないというような見方は、まだ物事を表面的にしかみられない子どものような見方に過ぎません。

日米のロシアへの歩み姿勢は、当然のことながら、プーチンの頭にも「いざというときには、中国を牽制するために、日米に力を借りることができる」とインプットされていることでしょう。

しかし、日米に力を借りれば、当然のことながら、日米に対して何らかの譲歩をしなければならなくなります。しかし、中国がこれからも、軍事力を強化させていけば、そんな悠長なことも言っておられなくなります。

北方領土問題が、解決の緒を見出すことができるのは、その時かもしれません。しかし、そのときに、日本が安全保障の面で、ロシアにどの程度助けることができるかによって、これはかなり左右されると思います。

いずれにせよ、私たちは、大人の見方でこれを見守り支援すべきです。

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