2019年10月9日水曜日

中国より日本のほうがマシなことに気づいたロシア―【私の論評】日米にはいずれ中露にくさびを打ち込める時が訪れる(゚д゚)!


岡崎研究所

 ロシアの独立系評論家イノゼムツェフが、4月24日付 Moskovsky Komsomolets紙掲載の論説で、ロシアにとって中国は頼りにならず日本の方がましであるとして、これまでの対中関係の見直しを提唱しています。論説の要旨は次の通りです。

イノゼムツェフ氏

 これまで、ロシアは中国との提携を重視して米国に対抗してきた。しかし、今回の米中首脳会談では、中国にとってはロシアより米国の方がはるかに重要であることが明白となった。中国は、対米経済関係を守るためなら、米国の言うことでも聞くのだ。

 中国はロシアを資源供給国と見下げ、製造業に投資しない。ロシアの企業の株を買い占めるだけである。

 カラガーノフとその一派(代表的オピニオン・リーダー。政権に近い)は中ロの蜜月は不変だと繰り返しているが、中国はロシアを支えることに対して、いつも恩着せがましく対価を要求する。

 日本はサハリンの石油ガス資源を開発してくれたし、トヨタ、日産は工場も建てた。日本は経済成長を支えている海洋諸国家への出口でもある。また「東」でありながら、西側の一部でもある。

出典:Vladislav Inozemtsev,‘Pundit sees Japan as better bet for Russia than China’(Moskovsky Komsomolets, April 24, 2017)

中ロ間に走った亀裂

 この1、2カ月、中ロ間にかすかな亀裂が走った感があります。それは、この論調が指摘するように、3月の米中首脳会談以後、中国が米国に協力的な態度を目立たせていることに起因します。国連安保理では、シリアの化学兵器、北朝鮮非難の双方で、中国が米国寄り、あるいは棄権の態度を取り、米国のイニシアチブをつぶそうとするロシアを孤立させました。

 これはおそらくプーチンの反発を呼んだのでしょう。習近平は4月26日に自らの最側近、共産党中央弁公庁主任の栗戦書に自分のメッセージを持たせて訪ロさせ、プーチンはこれと会談しています。クレムリンのホームページには、栗が「中国のロシアに対する関係には何の変化もない」ことを習近平のメッセージとして繰り返した旨、記載されています。中国は5月14、15日に北京で「シルクロード首脳会議」を開きましたが、プーチンに欠席されるようなことがあれば、面子丸つぶれになっていたところです。

 プーチンは、そのような中国を尻目に、ロシアの国際的立場維持のための措置を立て続けにとりました。5月初め、メルケル・ドイツ首相、エルドアン・トルコ大統領と相次いで会談、トランプ大統領に電話して同大統領との関係を維持、シリア情勢平定化に向けて立場をすり合わせると同時に、北朝鮮については話し合いによる解決を慫慂するなど、ロシアを世界政治の舞台にしっかりと位置付けて見せました。

 この10年余、中ロは提携を強めて米国による干渉を防ぎ、2008年金融危機以降は「米国の時代は去った。これからは多極化世界の時代だ」との宣伝を行ってきましたが、上記の経緯が示すように、最近、ものごとは再び米国を軸に動き始めた感があります。そして、中ロの間では、以前から指摘されてきた摩擦要因が頭をもたげてくる可能性があります。北朝鮮情勢で中国が陸軍の重要性を再認識し、これまで海軍・空軍に重点配布してきた国防費を陸軍に回すようになれば、中国の関心はこれまでの海洋から内陸部に向き、それはロシアとの摩擦を大きくするでしょう。

 本件論調は日本にとって歓迎するべきものではありますが、筆者のイノゼムツェフは政権側の人物ではありません。論調がどこまで政権内部の動きを反映したものかは分かりません。

【私の論評】日米にはいずれ中露にくさびを打ち込める時が訪れる(゚д゚)!
中国を支配したモンゴル帝国による13世紀のロシア支配(いわゆる「タタールのくびき」)や、19世紀のロシアによる清朝からの領土(現在の露極東沿海地方)の強引な割譲など、長大な国境線を有する両国には歴史上、侵略や領土紛争が絶えませんでした。

そうした対立は、両国が共産主義体制を敷いた現代に入っても続きました。旧ソ連時代には、共産陣営内での主導権争いや領土をめぐって大規模戦争が起きる寸前に至ったこともありました

しかし冷戦終結やソ連崩壊などを経て、互いの技術や資本を欲した両国の関係は改善。2001年には両国間で善隣友好協力条約が締結されました。その後もアムール川(中国名・黒竜江)の中州の領有権をめぐる長年の紛争が解決され、両国の国境が画定されました。

さらに現在は、両国にとって“共通の敵”である米国の存在もあり、ロシアと中国の関係は一般的に良好とされています。実際、昨今の中露両国は共同歩調が目立ちます。

習近平・中国国家主席による今年6月5~7日のロシア訪問は、5月下旬のトランプ米大統領の訪日を思わせる手厚い歓待でした。

サンクトペテルブルク大学名誉博士号を授与される習近平

中露は昨年、露極東で大規模な合同軍事演習を行うなど、軍事面でも関係を深めています。プーチン氏は首脳会談で「両国の戦略的パートナーシップは、かつてないほどの高水準に達している」と強調しました。

両首脳は、イランや北朝鮮といった問題はもちろん、第5世代(5G)移動通信システムの分野でも連携することで合意。プーチン氏は、米国が排除に動く中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)について、「前代未聞のやり方で世界市場から排除されようとしている」と中国の肩を持ちました。

中露首脳は、14日にキルギスで行われた上海協力機構(SCO)首脳会議のほか、大阪で行われた20カ国・地域(G20)首脳会議でも顔を合わせました。

中露両国についてはこれまで、米国に対抗するための「政略結婚」にすぎず、「蜜月」は長続きしない-との見方が語られてきました。

しかし、米中対立の深まりとともに、中国はロシアを自陣営に抱き込む動きを強めています。中国にとって、豊富な地下資源と軍事力を擁する隣国はありがたい存在です。ロシアも、米国の「一極支配」を打破し、国際舞台での影響力を高める上で中国と組むのが得策だと考えているようです。

ただし、ロシアには、4千キロもの国境を接する中国に対して潜在的な警戒心があります。

ロシア極東で中国と4千キロもの国境を接する

ソ連時代とは立場が逆転し、今や中国の経済規模はロシアの8倍以上もあります。対して、現在のロシアの経済は韓国並です。

広大なロシア極東部の人口が600万人にすぎないのに対し、隣接する東北3省には1億3千万人が住む。うかうかしていれば、中国の人とカネに国土を席巻されかねないのです。

だからこそロシアにとって、中国との関係は死活的に重要なのです。ウクライナ介入で米欧に対露制裁を科されている状況では、なおさら中国に依存せざるを得ないです。ロシアとしては、自国の「裏庭」と考える中央アジア諸国が、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」にのみこまれるのを抑制する必要もあります。

ロシアは、国際政治の「極」の一つでありたいと望んでおり、中国の弟分として埋没したくはないようです。将来的に、ロシアが対中関係を改める可能性は十分にあります。しかし、その機はまだ全く熟しておらず、日本が中露にくさびを打ち込めると考えるのは楽観的にすぎるでしょう。

最近、インドのモディ政権が日露両国に対し、経済を中心に3カ国で協力する枠組みを提案していることが判明しました。関係国の複数の外交筋が明かしました。


米国と中露との対立が先鋭化する中、インドはこの対立軸とは異なる新たな枠組みを持つことで両陣営の間でバランスを保ち、外交や経済活動の選択肢を広げる狙いがあります。ロシアは提案を前向きに受け止めていますが、日本は対米関係にも配慮し慎重に検討していく構えです。

以前からこのブログに掲載しているように、米国がさらに対中国冷戦を継続しつつ強化すれば、中国経済は弱体化し、そのときにはロシアの中国に対する不満が爆発し、ロシアが中国との関係を改めることは十分にありえます。

さらに、中露の対立が激化したときには、日米が中露にくさびを打ち込み、ロシアを対中国冷戦の一角に据えることも可能になるかもしれません。

さらに、中露対決が激化すれば、その時こそ日本にとつて、北方領土交渉かかなり有利なるのは間違いありません。

現在日本は、そのことも考え合わせ、対中冷戦に加担すべきなのです。来年、習近平を国賓待遇で迎えいれるなど、とんでもないです。

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