2018年8月28日火曜日

米中は「貿易戦争」から「経済冷戦」へ―【私の論評】日本は米中新冷戦の影響なし!だが間抜け官僚の誤謬で甚大被害も(゚д゚)!

米中は「貿易戦争」から「経済冷戦」へ


激しさを増している貿易戦争が、トランプ大統領の強硬姿勢と中国の手詰まり感から早期の解決も見通せないでいる。だが、注意すべきは事態がトランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」へと深刻化している点だ。

米中関係は貿易戦争から経済冷戦へ

米中の関税の応酬による貿易戦争は第2幕を迎えた。8月23日に双方が160億ドル相当の輸入品に25%の追加関税を発動した。9月にはさらに米国は2000億ドル相当、中国は600億ドル相当の輸入品に追加関税を課す構えだ。

 貿易戦争は激しさを増しており、トランプ大統領の強硬姿勢と中国の手詰まり感から早期の解決も見通せないでいる。

進展がなかった、事務レベル協議の裏側

 8月22日、ワシントンで行われた事務レベル協議も何ら進展がないまま終わった。これは協議前から当然予想されていた結果だ。元々、この協議は中国商務次官が米国の財務次官と協議を行うという変則の形となった。中国側の発表では「米国の要請で訪米する」とのことだったが、これは中国特有のメンツを守るための発表で、実情は違う。米中双方の思惑はこうだ。
<米国側>  トランプ大統領としては中間選挙まではこの対中強硬姿勢を続けている方が国内的に支持される。今、何ら譲歩に動く必要がない。しかも、米国は戦後最長の景気拡大で、余裕綽々で強気に出られる。
<中国側>  習近平政権としては、対米強硬路線が招いた今日の結果に国内から批判の声も出始めており、それが政権基盤の揺らぎにつながることは避けたい。対米交渉の努力を続けている姿勢は国内の批判を抑えるためにも必要だろう。
また、貿易戦争による米国経済へのマイナス影響で米国国内から批判が出て来るのを待ちたいものの、時間がかかりそうだ。しかも、中国経済の減速は明確で、人民元安、株安が懸念される。金融緩和、インフラ投資での景気てこ入れも必要になっている。米中貿易摩擦の経済への悪影響はできれば避けたい。

 このように、事態打開へ動く動機は米国にはなく、中国にある。

 ただし、そこに中国のメンツという要素を考えると、取りあえず次官級で落としどころに向けての探りを入れるというのが今回の目的だ。

 トランプ政権としては、この時点で本気で協議を進展させるつもりは毛頭ない。本来の交渉者である米通商代表部(USTR)はメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)協議のヤマ場でそれどころではない。所管外でも対中強硬論者の財務次官に、人民元問題も持ち出すことを口実に、協議の相手をさせた、というのが実態だ。

「11月、APEC(アジア太平洋経済協力)、G20(20カ国・地域)の際、米中首脳会談か」といった米紙報道も、そうした一環の中国側の観測気球だろう。

 中国としては落としどころへの瀬踏みをしていき、ある程度見通しが立った段階で、切り札の王岐山副主席が事態収拾に乗り出す、とのシナリオを描きたいのが本音だろう。

米議会主導の「国防権限法2019」に透ける対中警戒の高まり

 ただし、こうした米中双方の追加関税の応酬という貿易戦争にばかり目を奪われていてはいけない。米国議会が主導する、対中警戒を反映した動きにも注目すべきだ。

 8月13日にトランプ大統領が署名した「国防権限法2019」がそれだ。

 かつて私は、「米国」という主語をトランプ氏とワシントンの政策コミュニティを分けて考えるべきで、後者が“経済冷戦”へと突き進んでいることを指摘した。(参照:関税合戦は序の口、深刻度増す“米中経済戦争”)。

 まさに後者の動きがこれだ。

 これは米国議会の超党派によるコンセンサスで、現在のワシントンの深刻な対中警戒感の高まりを反映したものだ。トランプ大統領は短期で「ディール(取引)」をするために、その手段として追加関税という「こん棒」を振りかざすが、それとは持つ意味が違う。

 中国の構造的懸念を念頭に、貿易以外の分野も広く規制する。昨年12月に発表された「国家安全保障戦略」で明らかになった、現在の米国の対中観を政策に落とし込んだものだ。

 議会の原案に対してトランプ政権はむしろ緩和のための調整を行って、大統領署名に至った。

 メディアで特に報道されているのは、そのうちの対米投資規制の部分で、中国を念頭に置いて、対米外国投資委員会(CFIUS)による外資の対米投資を厳格化する。先端技術が海外、とりわけ中国に流出することを防ぐためだ。

 このCFIUSによる対米投資の審査は、既に2年前から権限強化を議会の諮問機関から提言されている。実態的にもトランプ政権になってからこれまでに11件の対米投資が認められなかったが、そのうち9件が中国企業によるものであった。これをきちっと制度化するものだ。

 そのほかこの法案には、中国の通信大手ZTEとファーウェイのサービス・機器を米国の行政機関とその取引企業が使用することを禁止する内容も入っている。

 また国防分野では、国防予算の総額を過去9年間で最大規模の79兆円にする、環太平洋合同演習(リムパック)への中国の参加を認めない、台湾への武器供与の増加などの方針が示された。

 ここまでは日本のメディアでも報道されているが、今後日本企業にも直接的に影響する大事な問題を見逃している。それが対中輸出管理の強化だ。
メディアが見落とす「対中輸出管理の強化」

 輸出管理については、これまで国際的には多国間のレジーム(枠組み・取り決め)があった。これに参加する先進諸国は、大量破壊兵器や通常兵器に使われる可能性のあるハイテク製品の輸出については規制品目を決めて各国が審査する仕組みだ。こうしたこれまでの仕組みが中国の懸念に十分対応できていないというのだ。

 キーワードが「エマージング・テクノロジー」である。

 「事業化されていない技術」という意味であろう。例えば、AI(人工知能)や量子コンピューターなどの技術がそうだ。

 こうした技術は未だ製品として事業化されていないので、現状では規制対象にはなっていない。しかし、そういう段階から規制しなければ、将来、中国に押さえられて、軍事力の高度化につながるとの警戒感から、規制対象にしようというものだ。今後、具体的にどういう技術を規制すべきか、商務省、国防省などで特定化されることになっている。

 問題はこの規制が米国だけにとどまらないということだ。

 当初、米国は独自にこの規制を実施する。しかし米国だけでは効果がない。そこで、本来ならば国際レジームで提案して合意すべきではあるが、それは困難で時間がかかる。そこで当面、有志国と連携して実施すべきだとしている。その有志国には当然、日本も入るのだ。

 今後、日米欧の政府間で水面下での調整がなされるだろうが、日本企業にも当然影響することを頭に置いておく必要がある。

 またこの法案とは別に、商務省は中国の人民解放軍系の国有企業の系列会社44社をリストアップして、ハイテク技術の輸出管理を厳しく運用しようとしている。中国の巨大企業のトップ10には、この人民解放軍系の国有企業である「11大軍工集団」が占めており、民間ビジネスを広範に展開している。米国の目が厳しくなっていることも念頭に、日本企業も軍事用途に使われることのないよう、取引には慎重に対応したい。

 かつて東西冷戦の時代には「対共産圏輸出統制委員会」による輸出管理(ココム規制)があった。一部に「対中ココム」と称する人もいるが、そこまで言うのは明らかに言い過ぎであることは指摘したとおりだ(ちなみに、かつてあった「対中ココム」とは、共産圏のうち、中国に対してだけ緩和するための制度である。従って「対中ココムの復活」というのは明らかに間違い)。

 ただ一歩ずつそうした「冷戦」の色合いが濃くなっているのは確かである。「冷戦」とは長期にわたる持久戦の世界である。目先の動きだけを追い求めていてはいけない。

日本が向き合うべき本質がそこにある

 こうした対中警戒感は、ワシントンの政策コミュニティの間ではトランプ政権以前からあった根深い懸念であった。しかし、習近平政権が打ち出した「中国製造2025」が「軍民融合」を公然とうたって、軍事力の高度化に直結する懸念がより高まったのだ。従って、こうした動きは、追加関税のような中国と「取引」をするような短期的なものではなく、構造的なものだと言える。

 トランプ大統領による関税合戦よりも、もっと根深い本質がある、米国議会主導の動きにこそ目を向けるべきだろう。日本がそれにどう向き合うかも問われている。

個別事件に引き続き要注意

 最後に、前出の7月11日のコラムにおいて、「今後、個別事件に要注意」と指摘したところ、その後、FBI(米連邦捜査局)による摘発が相次いでいる。7月中旬には元アップルの中国人エンジニアが自動運転に関する企業機密を中国に持ち出そうとした事件、8月初旬には元ゼネラル・エレクトリック(GE)の中国国籍のエンジニアが発電タービンに関する企業秘密を窃取した事件などだ。

 悪い予想が的中して複雑な気持ちではあるが、ハイテクの世界では、ある意味、日常的に起こっていてもおかしくない。それを捜査当局が摘発するモードになってきていることは今後も要注意だ。

 トランプ氏の言動にばかり目を奪われていてはいけない。米国議会、情報機関、捜査機関など、「オール・アメリカ」の動きが重要になってくる。それが米国だ。

【私の論評】日本は米中新冷戦の影響なし!だが間抜け官僚の誤謬で甚大被害も(゚д゚)!

私は、ブログ冒頭の記事で、トランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」へと深刻化しているという点は、ほぼ賛成です。

なぜ「ほぼ」かといえば、「深刻化」というキーワードからもうかがえるように、何やら米国の中国に対する制裁が、悪いことのような響きがあるからです。

しかし、日本にとっては、中国は尖閣諸島付近で挑発を繰り返し、多数の核兵器を所有し、それらが今も日本の主要都市に狙いをつけていますし、それに、中共の統治の正当性が脆弱であるがゆえに、日本を悪魔化することによりこれを強化するため、歴史を修正するなどして、日本を貶めるような行動を繰り返しています。いわば、日本にとっては敵です。

さらに、中国は、民主化、政治と経済の分離、法治国家化もされておらず、日米のみではなく、世界の主要先進国とも全く価値観が異なります。

その敵が経済的に弱まることは日本の安全保障にとっては良いことです。たとえ、それが日本の経済に多少悪影響があったにしても、それで中国の経済が弱体化するなら日本にとって良いことです。

さらに、米国大統領の任期は8年と憲法で定められており、トランプ政権が10年以上も続く長期政権になることはないので、ポストトランプでたとえ中国に親和的な大統領になったとしても米国議会により中国に対する制裁が長期間にわたって続くことは日本にとって望ましいことだからです。

今後米国は、トランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」に移行していくという見方そのものは正しいと思いますし、私としては望ましいことだと思います。

今後米国は、トランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」に移行していく

そうして、この新冷戦により、かつてソ連が冷戦で崩壊したように、中国の現体制が崩壊すれば、それこそ日本だけではなく、世界にとって良いことだと思います。なぜなら、ソ連や中国のような体制が世界に敷衍されるととんでもないことになるからです。

その他、上の記事では、「トランプ大統領による関税合戦よりも、もっと根深い本質がある、米国議会主導の動きにこそ目を向けるべきだろう。日本がそれにどう向き合うかも問われている」としていて、それへの対応法としては、個別事件について引き続き要注意すべきであることが掲載されていますが、肝心なことが述べられてないように思います。

それは、主に2つあります。

まず一つ目は、現在の世界は供給過多となっており、であればたとえ中国が崩壊したとしても世界経済にはほとんど影響がないという可能性が高いということです。

それについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米中貿易戦争 衝撃分析! 貿易戦争で「中国崩壊」でも心配無用? 世界経済はむしろ好転か…―【私の論評】中国崩壊の影響は軽微。それより日銀・財務官僚の誤謬のほうが脅威(゚д゚)!
中国経済が変調すれば、習近平主席の地位も危うくなるが、他国にとっては歓迎すべき事態か

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
相対的にモノが不足していた、旧来の世界とは異なり、現代の世界は貯蓄が過剰であり、その結果供給が過剰なのです。 
このような世界ではよほど世界需要が急激に拡大しない限り、供給の天井には達しない(ブログ管理人注:要するに、需要が高まり、供給能力が追いつかなるようなことはない)のです。その結果として、高インフレや高金利が近年の先進国では生じなくなったのです。
このような世界においては、確かに中国が崩壊したとしても、日本や米国のようにGDPに占める内需の割合が多い国では、ほとんど影響を受けないでしょうし、輸出などの外需の多い国々では、たとえ中国向け輸出が減ったにしても、中国になりかわり、中国が輸出して国々に輸出できるチャンスが増えるということもあり、長期的にはあまり影響を受けないことが十分にあり得ます。
要するに、中国が崩壊しても、供給過多の現在の世界ではほとんど影響がないということです。そうして、この記事でも強調したのですが、日本では、中国が崩壊することよりも、日本の官僚の誤謬のほうがよほど大きな脅威です。

何しろ、大蔵・財務官僚は過去においては、財務的には、BS(貸借対照表)レベルでは元々日本は全く何の心配ないにもかかわらず、財政破綻するなどといいふらし、過去に消費増税を推し進めた結果、日本経済は現状でもデフレすれすれの状況にあります。現在不況に陥っている韓国よりGDPの伸び率は低いです。

彼らは、あの8%増税がはっきりと大失敗だったとわかった現在でも、日銀と政府を一つにまとめた統合政府ベース(民間企業では連結決算に相当)ではすでに昨年時点で財政再建は終わっているにもかかわらず、無意味な消費増税をしなければならないと政治家やマスコミを煽っている始末です。

日銀官僚も、2013年4月より前までは、何かといえば、金融引締めを繰り返しました。特に、リーマンショックは日本にはほとんど関係なかったにもかかわらず、リーマン破綻後、他国が一斉に大規模な金融緩和をはじめたにもかかわらず、金融引締め基調を崩さなかったため、震源地の米国やEUなどの諸国がショックから立ち直ったあとも、長い間日本だけが一人負け状態デフレと超円高に苦しみました。

私は、個人的にはリーマンショックとは呼称せずに、日銀ショックとこのブログに記載しているくらいです。このようなことから、日本では中国が崩壊したり、米国による制裁よりも官僚の誤謬のほうが、はるかに脅威です。

二つ目は日本の産業構造そのものがここ数十年で変わってしまったため、日本の産業が米議会によりやり玉にあげられる可能性はかなり低下したことです。
【瀕死の習中国】中国国有企業の「負債はケタ違い」 衝撃の欧米リポート―【私の論評】米中貿易戦争にほとんど悪影響を受けない現在の日本の構造上の強み(゚д゚)!
トヨタの米国ケンタッキー工場
これも詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部分のみ引用します。
円高下で実現した日本のグローバル・サプライチェーンにより、日本は海外で著しく雇用を生む国になっており、それが所得収支の大幅黒字に現れています。故に日本はもはや貿易摩擦の対象にはなりえない国といえます。日本が貿易摩擦フリー化、為替変動フリー化していることがうかがえます。 
・・・・・・・〈中略〉・・・・・・・・ 
では日本の企業は一体どこで生き延び収益を上げているのかといえば、それはハイテク分野の周辺と基盤の分野です。 
デジタルが機能するには半導体など中枢分野だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサーそこで下された結論をアクションに繋げる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になります。 
また中枢分野の製造工程を支えるには、素材、部品、装置などの基盤が必要不可欠です。日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では負けたものの、周辺と基盤で見事に生きのびています。 
要するに、日本産業は超円高下で実現したグローバル・サプライチェーンにより、海外で著しく雇用を生む国になったので、米国の経済制裁の対象にはなりにくいということです。

さらに、日本の産業構造は、ハイテクを支える、素材、部品、装置などの基盤や周辺部分で必要不可欠とされる部分に特化しているため、米国の経済制裁の対象とはなりにくい体質になっているのです。

わかりやすく言うと、たとえばアップルがこれから、奇抜でみたこともないような、ガジェットを生み出そうとした場合、日本の素材、部品、装置などが必要不可欠であるということです。

もう一度簡単にまとめると、供給過剰の現在の世界はたとえ中国が崩壊したとしても、ほとんと影響なく、さらに日本の産業構造は米国の経済対象の対象とはなりにくい体質になっているというとです。

ということは、今後の日本は米中経済戦争には全く影響されることなく、繁栄の道を歩むことになるということです。ただし、唯一の脅威は、間抜け官僚の誤謬だということです。

いくら、産業構造が米中経済冷戦の影響を受けないからといって、日本の輸出がGDPに占める割合はたかだか10%台にすぎません、個人消費が60%台を占めているのです。

官僚の誤謬でマクロ経済政策である金融・財政政策を間違えれば、この60%がかなり減少して、とんでもないことになります。

日本では、米中新冷戦が苛烈になっても影響は受けませんが、また間抜け官僚の誤謬で国民全体が大打撃を受けるという脅威は捨てきれません。

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2018年8月27日月曜日

平和ボケと批判された人民解放軍のビジネス活動が全面禁止へ―【私の論評】統治の正当性が不確かな中共がまともな軍隊を持つことを強引に進めれば、自身が滅びる(゚д゚)!

平和ボケと批判された人民解放軍のビジネス活動が全面禁止へ

人民解放軍を視察した習近平

中国の習近平国家主席は7月末、中国共産党の最高意思決定機関である党政治局常務委員会を開催し、現在、中国人民解放軍が行っているビジネス活動を年内いっぱいで全面的禁止することを決めた。

 習氏は「軍の本分は戦うことであり、商売ではない。商売をする時間があれば、軍事演習を行うべきだ」などと檄を飛ばした。軍機関紙「解放軍報」は7月初め、社説で「中国軍は平和ボケ」などと指摘し、軍の怠惰な雰囲気に強い警戒感を示していた。

 中国国営新華社電によると、軍による「有償服務(ビジネス)」は10万6000件以上に上っており、この決定を受けて、年内にすべて禁止する措置を軍内の各部門に通達。「これに抵触すれば、重大な処分を受けることになる」としている。

 軍のビジネスとしては、軍傘下の病院での政府関係者を中心とする診察や治療、軍の学校での研修、軍所属研究機関での委託研究、倉庫や埠頭の使用のほか、軍の出版、映像、音響などの事業の代行など。

 習氏は2015年3月の中央軍事委工作会議で、軍のビジネス活動を全面的に禁止する考えを明らかにしたほか、2016年3月には具体的に「3年以内」との期限を提示している。今回の党政治局常務委での決定は、この3年以内の禁止期限を3カ月間前倒しすることになる。

 日本人の感覚からすれば、軍が内職ともいえる10万件以上ものビジネスを行っていること自体が驚きだが、中国人民解放軍はもともと野戦軍で、しっかりとした軍規や組織があったわけではない。志願兵中心の自然発生的な軍隊であり、食糧や武器なども「自給自足」する風潮が強かった。このため、軍本体が野菜を作ったり、鶏や豚や牛を育てるほか、副業で資金を得るという伝統が残っていた。

 1980年代に改革・開放路線が導入されると、このような軍内に残る伝統の影響もあって、軍本体がビジネスに手を染めるケースが増え、それとともに、腐敗問題が深刻になってきた。

 軍内の地位を得るために、汚職が蔓延。軍内に保管されていた戦闘機、戦車、装甲車、小銃、戦略用燃料、大量の野戦ベッド、軍靴などの軍需物資が、忽然と「消えて」転売されていた事実も明るみになっている。

 『習近平の正体』(小学館刊)などの著作もあり、中国問題に詳しいジャーナリストの相馬勝氏は習氏の実質的な『内職禁止令』について、次のように指摘している。

 「習氏が最高指導者に就任するや、『反腐敗運動』が本格化し、多数の党・政府・軍の幹部が逮捕されているが、解放軍報は最近、「軍は『平和病』にかかっている」などとして軍の体質を鋭く批判している。これは習氏が米国との対立激化や悲願である台湾統一などを控え、軍の戦闘力に大きな不安を抱いていることも影響しているだろう。そして、今回の軍のビジネス全面禁止命令は習氏の焦りを如実に現しているといえよう」

【私の論評】統治の正当性が不確かな中共がまともな軍隊を持つことを強引に進めれば、自身が滅びる(゚д゚)!

中国共産党は経済政策ですら権力闘争の道具にしてしまう恐ろしい集団です。それは激しい利権の奪い合いであり、日本で例えるなら、反社会的勢力や裏社会における仁義なき戦いそのものでする。

中国においては、あらゆる法律、規制が派閥闘争の妥協の産物であり、実際にその法律、規制が守られるかどうかさえ、現場を仕切るさまざまな暴力装置(軍、警察)の気分次第で決められてしまいます。

中国の城管


たとえば、中国では「城管(じようかん)」と呼ばれる、都市管理局に相当する部局の公務員が路上秩序を維持するという名目で露天商を次々に暴行しています。

日本では違法駐車の取締員のような立場の「城管」がなぜそんなことをするか理由はよくわかりません。一説によれば露天商がいわゆる「ショバ代(賄賂)」を払わなかったからとか、たんに威張り散らして街をわが物顔で支配しているなどといわれています。

また、全国各地で大暴れする「城管」は、時として人民解放軍と「戦闘状態」に陥ることもあるといいます。

たとえば、2013年9月4日午後5時、山東省青島市石老人村で、城管(都市管理官)と、解放軍の大乱闘が発生しました。軍の高級幹部用マンションに付属する邸宅管理棟がその敷地をはみ出て建てられた違法建築物であることから、現地の城管が自治体の指示で管理棟を取り壊しに行ったところ、これに反対する解放軍兵士が解体を妨害、乱闘となりました。

人数的に勝ち目もなくボコボコにされた軍兵士は銃を持ち出そうとしたそうですが、事前の申し入れから経済格差で豪華なマンションがこれ以上注目を引くことを恐れた軍幹部が青年兵士たちを押しとどめ、なんとか殺傷沙汰にはならなかったとのことでした。

さて、この記事を読んで多くの人が疑問に思ったことでしょう。なぜ、人民解放軍の高級幹部は豪華な邸宅に住んでいるのか。それは、日本のために日夜活躍する自衛官たちが一般の公営住宅と同程度の官舎で暮らしているのとは対照的です。

そもそも、人民解放軍がアメリカ軍や日本の自衛隊と同じく軍隊だと思ったらトンデモない勘違いです。人民解放軍とは「武装する総合商社」であって、われわれ日本人が考えるところの軍隊ではありません。

しかも、人民解放軍は、共産党の配下であり、言ってしまえば共産党の私兵です。国民の生命と財産を守ることら主要任務とする国民国家の軍隊とは全く異なる組織です。

人民解放軍は国境地帯で故意緊張を誘発しては中央政府に予算を要求し、不動産開発、ホテルやバーの経営、資源貿易などさまざまなビジネスに投資する立派な「産業」なのです。

よって高級幹部が豪華なマンションに住んでいたり、軍の経営するホテルで毎晩幹部たちが宴会をしていたり、直営バーにロシア人の売春婦がたくさんいたりすることに驚いてはいけないのです。

解放軍の腐敗は、幹部だけのことではありません。一般の兵士からその親まで巻き込んだ、腐敗の嵐が吹き荒れているといっても過言ではありません。

中国では現実はどうかは別にして、軍隊は、安定した就職先と捉えられています。実際、ある程度上級の階級になれれば、そうだったのでしょう。軍隊への入隊は『待遇、福利がよく一生を保障される』という意味で、鉄で作ったおわんのように割れずに安定している『鉄飯碗』になぞらえられています。多くの親たちはわが子を入隊させるために軍幹部にこぞって賄賂を贈るのです。

賄賂の相場は、2万元(約34万6000円)から30万元(約519万円)といいます。軍隊内では、官位を“商品”として売買する「売官買官」なる行為も横行しています。

こうした腐敗によって解放軍全体の質は史上最低レベルにまで低下しています。遊び好きな将校の中には、自分の部下をお抱えのコンピューターゲームのアップグレード係にする傍若無人な『配属』までやっている始末です。

党指導部は、以前からこうした兵士たちの劣化に危機感を抱き、綱紀粛正に躍起でした。2013年11月に行われた第18期中央委員会第3回総会(3中総会)では、「反腐運動」と銘打った軍部の腐敗撲滅運動を展開しました。これに先立つ、同3月には前代未聞の軍紀も発布していました。

『軍人違反職責罪案件立案標準規定』では、主に防衛戦における将校・兵士の逃亡・投降行為について規定しています。党指導部は、外国と戦争が起きたとき、解放軍の将校・兵士が敵前逃亡してしまうことを恐れているのでしょう。しかし、党指導部が軍紀で定めるのも無理はないです。敵前逃亡の例が実際にあるからです。

「東京を爆撃する」とほざいた羅援少将

中越戦争開戦直前の1979年、解放軍少将で中国戦略文化促進会の常務副会長を務める羅援氏、つまり冒頭で「日本は火の海」と挑発したその本人が、党高級幹部だった父親の口利きで前線勤務を免れています。彼はあちこちで『日本、米国と戦争する』と息巻く解放軍きってのタカ派です。しかし、そう吹聴する本人が戦争逃亡兵だったのだから笑えないです。

口先だけの見かけ倒しは、まだあります。2009年1月にはこんなことも起きました。中国の大型貨物船がソマリアの海域で海賊に襲われ、船員が人質として拿捕(だほ)されました。中国世論は「貨物船を武力で救出すべきだ」と沸き立ち、これを受け、中国艦隊がソマリア海域に派遣されました。とこめが、武力奪還はならなかったのです。

中国政府はソマリアの海賊におとなしく400万米ドル(当時で約3億6000万円)の身代金を差し出して、商船と船員を取り戻したのです。単なる威嚇のために艦隊を派遣したに過ぎなかったのです。

アデン湾で警備に当たる中国人民解放軍海軍の艦艇

これは、人民解放軍の常套(じょうとう)手段である『孫子兵法』の『戦わずして屈服させる兵法』です。日本に対しても同じハッタリ戦術を使っているに過ぎません。心理戦を仕掛けているだけで、実戦となれば、解放軍は何もできないでしょう。1894年の日清戦争の結末を再演することになるだけです。すなわち、敗北です。

ましてや、いずれの先進国の軍隊にも同じような条件で戦えば、勝つことはないでしょう。勝つのは、一般市民を弾圧したり、自分たちより圧倒的に不利な状況で戦う弱小国の軍隊を相手にしたときだけでしょう。

このような、腐敗まみれの人民解放軍は実際に米軍は無論のこと日本の自衛隊にでさえ対峙したときに、全く勝ち目はないでしょう。解放軍の腐敗は、幹部から下士官まで浸透しています。賄賂の実体をみれば、それは誰の目にも明らかです。誰が腐敗まみれの上官のために本気で戦うことができるでしょうか。

だからこそ、習近平は人民解放軍のビジネス活動を全面禁止しようとしているのでしょうが、それくらいのことで、人民解放軍がまともになるとは考えられません。

本来ならば、ある程度時間をかけて、人民解放軍とは全く別の軍隊組織をつくり、それこそヒトラーが突撃隊幹部を暗殺して、有名無実にしてしまったように、人民解放軍の幹部を情け容赦なく粛清するなどの過激なことをしない限り、習近平はまともな軍隊すら手にすることはできないでしょう。

突撃隊地用エルンスト・レーム(左)とヒトラー
ヒトラーは、レームを粛清した

このような手段を避け、先進国からみてまともな方法で、新たなに軍隊を創設するということになれば、それこそ国民国家の軍隊を創設しなければならず、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめる必要があり、そうなれば中国共産党による統治を根本から改めなければならず、その時は現体制は崩れることになります。

人民解放軍の腐敗などといいますが、統治の正当性が不確かな中国共産党中央政府がまともな軍隊を持つことを強引に進めれば、自身が滅びることになります。

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2018年8月26日日曜日

中国通信機器2社を入札から除外 日本政府方針 安全保障で米豪などと足並み―【私の論評】中国は体制を変えるか、内に篭もるしか生き残る術はなくなった(゚д゚)!

中国通信機器2社を入札から除外 日本政府方針 安全保障で米豪などと足並み


 政府が、安全保障上の観点から米国やオーストラリアが問題視する中国通信機器大手2社について、情報システム導入時の入札から除外する方針を固めたことが25日、分かった。機密情報漏洩(ろうえい)やサイバー攻撃への対策に関し、各国と足並みをそろえる狙いがある。

 対象となるのは、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)。両社に対しては、米政府が全政府機関での製品使用を禁じているほか、オーストラリア政府が第5世代(5G)移動通信整備事業への参入を禁止するなど、除外する動きが広がっている。

華為技術(ファーウェイ=上)と中興通訊(ZTE)のロゴ
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 背景にあるのは安全保障上の根深い危機感だ。米下院情報特別委員会は2012年の報告書で、両社が中国共産党や人民解放軍と密接につながり、スパイ工作にもかかわると指摘した。

 実際、米国防総省は今年5月、両社の携帯電話などを米軍基地内で販売することを禁止すると発表している。中国当局が携帯電話を盗聴器として使ったり機器を通じて情報を盗み出したりすることを防ぐためだ。

 こうした状況を踏まえ、日本政府は、各国と共同歩調をとって対処すべきだと判断し、具体的な方策の検討に入った。情報セキュリティーを担当する政府関係者は「規制は絶対にやるべきだ。公的調達からの除外の方針は、民間部門の指針にもなる」と強調する。

 政府内では、入札参加資格に情報セキュリティーの厳格な基準を設け、条件を満たさない企業の参加を認めないようにする案などが検討されている。政府の統一基準にあるセキュリティー機能確保規定を適用するなどし、入札時に両社を除外する案も浮上している。

 一方で、10月に予定される安倍晋三首相の訪中に向け、日中関係の改善ムードに悪影響が及ぶことを危ぶむ声もある。除外の方針が、世界貿易機関(WTO)の内外無差別原則に抵触すると解釈される余地も否定できない。

 日本政府関係者は「統一基準の中に『中国』の国名や企業名を盛り込むところまでは踏み込めないだろう」と話した。

【私の論評】中国は体制を変えるか、内に篭もるしか生き残る術はなくなった(゚д゚)!



米ホワイトハウスは23日、米国で22日から行っていた事務レベルの米中貿易協議が終了したと明らかにしました。

米側は2日間の協議で「公正で均衡が取れた互恵的な経済関係の実現方法について意見を交換した」と説明しました。中国による米先端企業の技術移転強要といった「構造的な問題」も含まれたといい、米中間の隔たりは依然大きいです。

米国による制裁関税の対象額は第2弾発動で計500億ドル(約5兆5000億円)となり、第3弾も合わせれば中国からのモノの輸入額のほぼ半分となる2500億ドル(約27兆5000億円)となります。

米国が第3弾制裁を発動しても、中国の対抗措置は600億ドル分の米製品への報復関税にとどまるなど弾切れ状態です。さらにトランプ大統領は全輸入品への制裁も辞さない構えをみせています。

攻勢の手を緩めないトランプ大統領に、習近平主席((写真)、AP)はなすすべもないのか
トランプ大統領としては、米国製品の購入を拡大させるなど、雇用増につながる譲歩を中国側から引き出すことができれば、11月の中間選挙に向けた支持層へのアピールになるのは事実です。

一方で、米国が中国を敵視する背景には、ハイテク技術や知的財産、安全保障も絡む覇権争いが存在しています。

米中貿易戦争は、このブログでも掲載してきたように、ビジネスだけの問題ではありません。米国は腰をすえて中国を追い詰め、経済の骨抜きを図ろうとしています。

中国封じ込めの動きも具体化してきました。ブログ冒頭の記事にもあるように、米豪英が問題視する中国通信機器大手2社について、日本も情報システム導入時の入札から除外する方針を固めました。

世界最大の市場を抱える中国ではありますが、見切りを付けようとする企業も出てきました。自動車大手のスズキは、中国での自動車生産について、撤退も視野に現地の合弁相手と協議を進めていることが分かりました。中国企業との合弁解消で合意し、中国事業から撤退するとの報道もあります。


スズキの子会社、マルチ・スズキはインドの乗用車市場で約50%と圧倒的なシェアを握っています。中国を追う巨大市場に成長しつつあるインド市場を軸に海外展開を拡大することになりそうです。

ロイター通信は、米国の医療機器や農業用具などのメーカーが、中国から米国への生産移転比率を高めたり、中国以外の国からの調達に切り替えたり、雇用を米国に再移転するなどの動きを検討していると報じました。

このような動きは企業レベルにとどまるものではありません。マレーシアのマハティール首相は21日、訪問中の北京で記者団に、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に関連する鉄道建設などの大型事業を中止すると述べました。

マハティール氏は20日に中国の習近平(シージンピン)国家主席、李克強(リークォーチャン)首相とそれぞれ会談した際にも中止の意思を伝え、中国側も「理解し受け入れた」といいます。

マハティール氏は将来的な事業再開の可能性は否定しなかったものの、「マレーシアの現在の焦点は債務削減にある」と述べました。中止により補償金が発生すれば支払う意思も示しました。

中国外務省の陸慷(ルーカン)報道局長は21日の定例記者会見で、「どんな2国間でも協力を進める上であれこれ問題が出るのは避けられない。友好的な話し合いで適切に解決すべきだ」と交渉を続ける考えを示しました。

中国の習近平国家主席(右側手前)と会談する
マハティール・マレーシア首相(左側手前から2人目)=20日

中国では人件費が上昇し、電気代や土地代が米国を上回っているうえ、外資系企業に共産党組織の設置を義務付けられるという問題もあります。外資系企業が中国を捨てる時期は、今回の米中貿易戦争によって早まることになるでしょう。

追い詰められつつある中国。米中貿易協議での展望が開けないどころか、中国が人民元を割安に保っている為替操作問題が指摘される恐れもあり、かえってヤブ蛇になりかねないです。

米国向け輸出品の関税が引き上げられるうえ、人民元高が進めば、輸出品の競争力はダブルで打撃を受けることなってしまうでしょう。

この貿易戦争は、米中間の覇権争いの次元になっています。この覇権争いは、19世紀末からのドイツの台頭を大英帝国が退けた覇権争いや17世紀に英国がオランダの経済的繁栄に嫉妬して英蘭戦争でオランダを蹴落とした際に見られた典型的な覇権国と挑戦国との間の争いの場合と本質は同じです。

ドイツと大英帝国の覇権争いは、別の複雑な要因も絡みあい第一次世界大戦になってしまいました。

第一次世界大戦の発端は、ドイツと大英帝国の覇権争いだった

ただし、米中間の覇権争いは基本的に地域経済的なもので、軍事的なものに至る可能性は当面は極めて低いです。

英国は、ロシアと仏と手を結ぶことによりドイツの挑戦を退けました。なぜもともと英国の一番のライバルだったフランスと思想的に相いれないロシアが対ドイツ戦で英国に協力したかといえば、仏ロ含め周囲の国はドイツの急激な台頭に警戒心を募らせていたからです。

その意図に関わらず、ある国が急激に経済的、軍事的に台頭してくれば、その「事実」が周辺国の警戒心を招くものです。ジャパン・アズ・ナンバーワンなどと言われていた時の日本(同盟国なのに!)がいかに米国の警戒感を呼んだか思い出してみればわかることです。

中国の経済的、軍事的台頭は、これらの過去の歴史の例の比にならないぐらい急激で大きく、単に、GDPで2030年までに米国を凌駕するかもしれないといわれただけでなく、米国からの知財盗用も踏み台にしてAI、ビッグデータ時代のテクノロジーにおいて米国を凌駕しかねないところまで来ました。

しかも、胡錦涛政権以前までは、上手く強大化しながらも国際社会の警戒心を呼び起こさないように韜光養晦(とうこうようかい)で上手くやってきたのに何と、習近平国家主席は昨年の共産党大会において、中国型統治モデルは(欧米型民主主義より)優れているとした上で、科学技術テクノロジーに精力を傾注しつつ、2049年までに米国を凌駕する世界覇権国になるという意図を宣言してしまいました。

だから、中国とのテクノロジー競争において米国が負けない状況を作り出すまで中国をやり込めなければならないという1点については、トランプ大統領は、米国の支配層に相当のコンセンサスがあります。

だからそう簡単に収束しないのです。そして、過去の歴史でもそうだったように、自分も損をするが相手の方がより大きなダメージを被るならそれで構わないのです。目的は相手を倒すことであり、自分が利益を得ることではないのです。

習近平が共産党大会で強国化宣言をしたのは、もはや、米国が中国の意図に気づいたとしても中国の優勢を変えることはできないぐらい中国は強大になったと過信したからなのでしょうか。

あるいは、国内ばかり見ていてChina2049宣言が国際社会にどういう反応を引き起こすか無関心だったのでしようか、両方でしょうが、おそらく国内ばかりみていたというほうが大きいでしょう。

そもそも、中国は巨大国家であるがゆえの「内向き」な思考を持っており、しかも古代からの漢民族の「戦略の知恵」を優れたものであると勘違いしており、それを漢民族の「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することによってかなり信頼を失っています。

そうして、その後の展開を見れば、この宣言は中国にとっては得策ではなかったことは明らかです。

現状では、まだ米国の方がはるかに強いです。習近平は明らかに、やりすぎました。米国との間で平穏な状況を続けることができれば、時間は中国に味方したかもしれないのに、自ら、最大のライバルからの攻撃を招き、中国の天下への道を険しく困難にしてしまいました。習近平は、軌道修正を図ってはいるようですが、今更、どの程度修正できるのか、疑問です。

そうして、トランプ大統領はブログ冒頭の記事にもあるように、米英豪で協調して、中国に対抗しようとしています。

そうして、この動きはさらに大きなものになりそうです。以前このブログでは、最近トランプ大統領はロシアのプーチン大統領と首脳会談を開催したりして、ロシアと接近し、いずれは、日米英露と他の国々が協調して中国に対抗しようという動きを見せています。

これに関しては、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
トランプ氏、ハイテク分野から中国を締め出し…国防権限法で中国製品の政府機関での使用禁止 島田教授「日本でも対応が必要」―【私の論評】世界は日米英露が協調して中国を叩く体制に入りつつあり(゚д゚)!
国防権限法に署名したトランプ大統領
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
今年の7月を皮切りに、国際関係において明らかに構造的変化が起こりました。7月6日米国は支那(中国のこと、以下同じ)に対して貿易戦争を発動しました。これにより、本格的な米中対立の時代が幕開けしました。 
ブログ冒頭の記事の国防権限法関連による支那への対応もその一環です。 
日本の政財界人のほとんどはこのことをほとんど理解していないようですが、米トランプ政権は、世界の経済ルールを公然と破ってきた支那を徹底的に叩く腹です。
今後は、支那に対して味方をするような経済活動は、米国から反米行動とみなされることになります。 
そうして、7月に起きたもう一つの大きな出来事は、米露協調時代が始まったことです。7月16日にはフィランドの首都ヘルシンキで米露首脳会談が開催され、その路線が確定しました。
フィランドの首都ヘルシンキで米露首脳会談で握手するトランプとプーチン

トランプ氏もプーチン氏も、公式にそのような発言はしていませんが、ロシアは米国に協調して世界秩序を再構築する方向に大きく舵をきったものとみられます。

7月には、この大きな2つの出来事が起こったのです。この2つの出来事が、今後の世界情勢を大きく方向づけることになるのです。
・・・・・・・・〈中略〉・・・・・・・・
いずれにせよ、今後日米英露が協調して中国を叩く体制に入りつつあるとみるべきです。日米の経済力、米露の軍事力、それに加えて英国など有力な他国の協力があれば、支那を叩きのめすことは十分可能です。

こうした動きは、安倍総理が全方位外交で、その動きをトランプ大統領に先んじてみせていました。安倍総理は、その意図をトランプ大統領に伝えたでしょうし、政治家としての外交権の乏しいトランプ大統領も、これをかなり参考にしたと思います。

ブログ冒頭の、米英豪の動き、さらには米露の動きなどもあわせて、いずれ世界は多くの国々が中国の覇権に協調して対抗する時代に入るでしょう。

世界の先進国のほとんどは、中国の「内向き」思考、漢民族の「戦略の知恵」を「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することにも耐えられなくなっています。

現在の中国は、体制を変えるか、内に篭もるしか生き残る術はなくなりました。

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2018年8月25日土曜日

アヘン戦争ふたたび 中国製の合成薬物が米社会を破壊=米専門家―【私の論評】日本にも新たな危機はひたひたと忍び寄っている(゚д゚)!



4月、ニューハンプシャー州でヘロイン摂取により意識を失った男性を救護する消防士たち

「戦争の一種だ」「中国では大手の製薬会社がゴミを作り、人々を殺している」ー。米国のトランプ大統領は8月16日の閣僚会議で、依存性の高い鎮痛剤の合成薬物の被害について語った。専門家は、中国からの危険な合成薬物は米国社会を崩壊させていると分析する。

米国が、中国産の薬物輸出を戦争の一形態とみなしたのは、今回が初めてではない。2014年の米軍国防白書には、中国から「薬物戦」や「文化戦」など従来の攻撃方法でない戦略があると記している。

8月に米国の疾病管理予防センターの公表資料によると、2017年に7万人以上が薬物の過剰摂取(オーバードース)で死亡した。そのうち68%が麻薬性・合成鎮痛剤であるオピオイドに関連する。

米国では一般的に、このオピオイドはフェンタニルと呼ばれる成分から合成される。フェンタニルはヘロインの50倍、モルヒネの100倍の鎮静作用がある。

近年、米国では処方箋によるフェンタニルの過剰摂取で中毒死するという問題が表ざたになった。2017年10月、大統領は薬物需要とオピオイド危機について公衆衛生の非常事態宣言の検討を保健福祉長官に指示した。

トランプ大統領は最近の閣僚会議で、ジェフ・セッションズ検事総長に「中国とメキシコから出てくるフェンタニルを調べて欲しい、いかなる法的処置を取ってしても(流入を)止めて欲しい」と述べた。

米国におけるフェンタニルの輸入元は大半が中国だ。ロサンゼルスの保健当局者は、中毒性薬物が街でより常態化しており、他のオピオイドよりも多くはフェンタニルに起因する事故で死亡しているという。

専門家は、悪質なフェンタニルの蔓延(まんえん)は、米国に向けられた「アヘン戦争」であると表現する。フェンタニルは死に至る高い中毒性により、軍事目的の化学兵器とみなされている。

米軍特殊作戦司令部は、2014年9月26日に戦略白書「非慣習的戦争への対応」を発表した。そこには「薬物戦」も一種の戦闘形態であると記されている。

白書は、中国軍少将で国家安全政策研究委員会副秘書長・喬良氏が自ら提唱する「超限戦」について、「まさにルールがない戦争だ」と主張していることを明記し、「いかなる手段を用いてでも戦争に勝つという姿勢を意味する」と分析している。

国家安全政策研究委員会副秘書長・喬良少将
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

「宣言されない戦争」
英文の大紀元コメンテーターで共産主義に詳しいトレヴォー・ルドン(Trevor Loudon)氏は5月10日のインタビューで、米国での中国発の薬物の蔓延(まんえん)は、中国共産党政府による戦略の一つと見ている。「専制体制の国なら、この薬物中毒問題を知っているはずだ。政府が裏で手を引き、資金も支えていると考えられる」

ルドン氏は「これは、宣言されていない西側諸国に対する戦争の一種だ」と指摘した。
米国を襲う薬物乱用の影響の1つには、過剰摂取のほか、労働力の衰退がある。プリンストン大学の経済学者アラン・クルーガー氏によれば、米国では労働力人口が近年低下している。また、労働人口から離脱した20%はオピオイド中毒によるもので、主に25〜54歳の青年~壮年期といった働く人口の中核をなす層だ。

元中央情報局副局長ジョセフ・ドグラス氏の1990年の著書『赤いコカイン』には中国共産党がいかにヘロインとアヘンを貿易で推し進めてきたかを記している。「世界の麻薬物流の裏に共産主義国がいる」「この政権は薬物を武器に西側諸国を攻撃している」。

かつて毛沢東は、軍を増強し、必要な兵器や資金を調達するために、アヘンを育てて販売していたことが知られている。

司法省は2017年、中国のフェンタニルとアヘン類の違法な製造業者2人を起訴した。ロッド・ローゼンスタイン副検事総長は、米国から中国への薬物輸入はインターネットを通じた個人輸入だと述べた。

ミシシッピ州の厳小兵容疑者は、中国で2つ以上のフェンタニルと類似化合成薬物を製造する化学工場を運営しており、少なくとも6年間、専用販売サイトで米国の複数の都市の顧客に送っていた。

ノース・ダコタでは、4つの工場でフェンタニルを製造した張健容疑者は、闇サイトと暗号通貨ビットコインを使って、薬物の取引をしていた。

2016年10月のBBCの報道によると、多くの中国企業がフェンタニルよりも100倍強力で、米国や日本で指定薬物扱いのカルフェンタニルを輸出していることが明らかになった。米国は早期に中国に規制を求めていたが、2017年2月に規制されるまで、公然とインターネットなどで販売され、大量に流通していたといわれる。

大紀元コメンテーターのルドン氏は、フェンタニルで中国は荒稼ぎしていると批判する。「薬物では罪や混乱を引き起こし、社会のモラル基盤、公務員、ビジネスマンたちの腐敗堕落を生み出す」と述べた。

「年に何千人ものアメリカ人を殺している。それは戦争だとは思わないか?直ちに制裁が与えられ、中止されるべきではないのか?」ルドン氏は、今までの政権は中国のリーダーを怒らせまいと、及び腰だったとみている。「彼らは中国政府に働きかけることを避けていた。アメリカ人が死ぬこととさえも容認してきた」と述べた。

【私の論評】日本にも新たな危機はひたひたと忍び寄っている(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にもあるように、トランプ米大統領は、近年爆発的に拡大しているオピオイド系鎮痛剤の乱用について「国家の非常事態だ」と発言しました。オピオイドは麻薬性鎮痛薬の一種でいくつかの種類がありますが、なかでも毒性と依存性が極めて強いものが合成麻薬「フェンタニル」。このフェンタニルの過剰摂取により、全米で“薬物死”が続出しているのです。

特に深刻なのが、没落した工業地帯「ラストベルト」に住む貧困白人層です。まともな医療を受けるための経済力を持たない人々にとっては、とりあえず痛みを和らげる鎮痛薬が必要でした。そこを狙った製薬会社がロビー活動を仕掛けて規制緩和を実現し、フェンタニルを市場に大量供給。

医師も安易に処方し続けたため、中毒患者が急増してしまったのです。問題が表面化した後は処方に関するガイドラインが導入されたものの、すでに依存症となった人々は不正にフェンタニルを入手するようになってしまっています。

フェンタニル汚染問題には複合的な要素が絡み合っており、簡単なソリューションはありません。以前からアメリカには嗜好のためのドラッグ文化があったことも蔓延(まんえん)にひと役買ったでしょうし、医療保険制度の問題も大いに影響しています。

さらに、「最強の麻薬」「死のオピオイド」といわれるカルフェンタニルが、2016年あたりから、米国の乱用市場に出回り、オーバードーズ(過剰摂取)による死亡事故が多発しています。米麻薬取締局(DEA)は、2016年9月22日に全米に向けて警戒情報を出し、注意を呼びかけています。

カルフェンタニル(4-カルボメトキシフェンタニル)は、強力な作用を持つ合成麻酔薬フェンタニルの構造類似体(アナログ)で、その作用の強さはモルヒネの1万倍、フェンタニルと比べても100倍といわれます。

強い効き目から大型動物の全身麻酔用に使われることもありますが、人への使用は想定されていないので、正確な1回使用量は分かりません。もしも、人に使うとすれば、1回の使用量はマイクログラム(1グラムの100万分の1)単位になるでしょう。DEAによれば、わずか2ミリグラムが致死量になりうるということです。


左から、ヘロイン、フェンタニル、かるフェンタニルの致死量
そうして、この薬物汚染の背景にはこの記事の冒頭の記事にもあるように、中国の存在があります。フェンタニルのようないわゆる「合成麻薬」の原料は、中国から密輸されたものが圧倒的に多いからです。

それなのに、ラストベルトのフェンタニル漬けの人々が中国に怒りの矛先を向けることはほとんどありません。今後は新たな鎮痛剤としての医療大麻の普及がオピオイド問題解決の一助になるかもしれませんが、実は中国はそちらの市場にも先手を打っています。

報道によると、中国ではすでに民間企業と人民解放軍が合同で医療大麻の研究・開発を行ない、関連パテント(特許権)の取得も進めているとのこと。欧米をはじめ各国で医療大麻の合法化が進めば進むほど、中国はかなりの優位性を持つことになります。

民主主義国家にはまねできないトップダウン体制の強みを生かし、「キレイな薬」と「ヤバい薬」を同時に世界へ“出荷”するのです。したたかとしか言いようがありません。

また最近では、「カンナビノイド」と呼ばれる大麻そっくりの効果をもたらす合成薬物も、中国からひそかに“出荷”されているようです。スプレー状にして、食用の葉ものにかけて食べるとぶっ飛ぶという“食べるドラッグ”なのですが、ナチュラルな大麻とは違って毒性が高く死亡例もあります。

このカンナビノイドも、いずれフェンタニルのように社会問題化するのかもしれません。

そうして、この合成麻薬は他ならぬ中国でもかなり問題になっています。共産党政権下で撲滅されたはずの薬物犯罪は、市場経済の中で復活。

薬物中毒は昨年5月時点で222万人にのぼる。東南アジアの「黄金の三角地帯」や北朝鮮などからの密輸品のほか、広東省などでの密造品が流れています。

中国の裁判所は昨年だけで、薬物犯罪で10万人近くに死刑を含む有罪判決を下しました。50グラム以上の所持で死刑が適用され、日本人も中国で処刑されています。

中国では麻薬のことを“毒品”といいます。青少年への麻薬汚染の広がりは、もう10年以上も前から中国社会に重くのしかかる課題となっています。なかでも、地方における麻薬汚染の浸透は深刻の一言に尽きるようです。

注意 ! 毒品新包裝 中国ででまわるお菓子のような包装の麻薬

麻薬に溺れる者には二種類あるとされ、一つは金持ちの道楽として麻薬に手を伸ばすパターンであり、もう一つは貧困者が溺れるパターンです。いずれも若年化が心配されてきたのですが、昨今の問題は、販売と製造に若年化の波が押し寄せ、同時にアンダーグラウンドの傾向が消えつつあります。

分かりやすく言い換えれば、普通の人々が簡単に製造や販売に関わる時代が訪れているということです。昨年末、それを象徴するニュースが中国を騒がせました。

発信元は『中国新聞ネット』です。タイトルは、〈1990年以降に生まれた女子、SNSグループで覚せい剤のつくり方を学ぶ グループのなかにはミャンマーへ行って研修を受けた者まで〉です。

まさに世も末です。山西省呂梁市の公安が昨夏に摘発したグループを取り調べる中で明らかになってきた事実だといいます。

この犯罪グループは麻薬の製造・販売のほか、公文書や印章の偽造、わいせつ物の違法販売、ニセ薬の製造・販売、ネット賭博犯罪、個人情報への不正アクセス、密入国の手引きまでありとあらゆる犯罪に関与していたことがわかっています。

グループには資金提供者がいて、その援助の下で麻薬製造を学んでいたといいます。アンダーグラウンドの世界にも留学制度ができつつあるのでしょうか。

強調しておきたいのは、中国が“出荷元”である以上、距離的に近く人もモノも大量に中国と行き来する日本にとって、これは「今そこにある問題」だということです。まだ日本のドラッグ市場は決して大きくありませんが、新たな危機はひたひたと忍び寄っています。

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2018年8月24日金曜日

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【米中貿易摩擦】手詰まり中国 時間稼ぎ トップ会談で「休戦」狙う 


 米中両国は23日、160億ドル(約1兆8千億円)相当の追加関税第2弾を発動した。中国の習近平政権は「米中貿易戦争を望まないが、恐れてはいない」(外務省)と強気の姿勢を示すが、米国の2千億ドル規模となる第3弾の制裁にまともには太刀打ちできないのが実情だ。トランプ米大統領との首脳会談に持ち込み、北朝鮮問題などを取引材料に“休戦”を狙う。

 マルパス米財務次官、中国の王受文商務次官らが米首都ワシントンで開催中の貿易協議では、通商に加えて為替問題も議論されているもようだ。米側は、中国当局が貿易摩擦の悪影響を補うため、通貨・人民元を対ドルで安く誘導しているとみているが、中国側は「為替操作はしていない」との立場だ。対米輸出品の関税が引き上げられる中、元高ドル安になれば輸出品の価格競争力はますます損なわれてしまう。

 中国紙の環球時報は23日、「米中とも対話の意思があることを内外に示す必要に迫られている」として協議継続への期待を示した。背景には貿易摩擦による景気減速への懸念がある。中国株は下落傾向が続き、経済が悪化すれば社会不安を招きかねない。

米国の対米貿易戦争で追い詰められる習近平

 中国は当初、160億ドル相当の報復関税の対象に原油を含んでいたが、最終的に外した。原油価格上昇による中国経済へのダメージを懸念した可能性も指摘されている。

 今月中旬に終わったとみられる中国共産党の重要会議「北戴河(ほくたいたいが)会議」は米中問題が主要テーマになり、緊張した雰囲気だったと伝えられている。

 習国家主席への個人崇拝を批判する動きもある中、「党内対立の激化は米国を利するだけだ」として、習指導部は事態収拾を図ったもようだ。

 11月6日の米中間選挙後に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)や20カ国・地域(G20)首脳会議の場で米中首脳会談を開催し、北朝鮮問題での協力強化などをちらつかせながら、休戦への道筋をつける戦略とみられる。

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中国国内金融学者の賀江兵氏

中国国内金融学者の賀江兵氏はこのほど、アメリカにある中国語メディア「新唐人テレビ」の取材で、米中貿易戦を今後2カ月以内に解決しなければ、中国経済が「崩壊モード」に突入するとあらためて警告しました。

賀氏はかつて、中国メディア「華夏時報」金融部の主任を務めていました。現在相次ぐ破綻する個人間で投資を仲介する融通事業、「P2P(ピア・ツー・ピア)金融」サイトのリスクについて、4年前にすでに警告していました。中国で近年、その発言が注目されています。

米中貿易戦の激化で中国株式市場が低迷し、対ドルでの人民元相場が急落しました。賀江兵氏は、2カ月後に控える米国の中間選挙後、中国経済が崩壊モードに進むとみています。

「与野両党のどちらが勝っても、トランプ政権が引き続き対中貿易制裁を進めていく」としています。

民主党が勝つ場合、党内の親中派がトランプ政権の対中政策にブレーキをかけるよう、中国は働きかけるとみられます。しかし、対中問題において、与野党は歩調を合わせています。同氏は「民主党も中国に対して警戒感を強めている。米国では、今や親中派議員には票が集まらない」と指摘しています。

「選挙後、貿易戦による票への影響などの懸念材料がなくなる。トランプ氏は中国にこれまで以上の圧力をかけていくだろう」と中国がこの2カ月の間に貿易摩擦を解決する必要があると述べました。

今年6月、賀江兵氏は米ラジオ・フリー・アジア(RFA)を通じて、中国経済のミンスキー・モーメントを警告する評論を発表しました。同氏は「ミンスキーモーメントがやってきた。(株安・元安という)市場の激しい反応から見れば、中国経済のバブル崩壊はすでに始まった」と警鐘を鳴らしました。

ミンスキー・モーメント(ミンスキーの瞬間)とは、信用循環または景気循環において、投資家が投機によって生じた債務スパイラルによりキャッシュフロー問題を抱えるポイントのことです。

経済成長は一般に債務の増加を伴います。企業部門は設備投資、家計は住宅投資など固定資本形成を行い、その多くは債務(クレジット)で賄われるからです(金融レバレッジ)。債務との見合いで有効な資産が増え、所得の増加や資産からの収益で債務が返済可能である限り問題はありません。

しかし、経済成長に伴う社会の楽観的な雰囲気は時に行き過ぎ、過剰な固定資本形成と資産価格の高騰が起こります。これが資産バブルです。たとえバブルであっても、旺盛な固定資本形成が行われている限り、それ自体が需要を生み出すので、国内総生産(GDP)で計測された経済成長率は高まります。

もっとも、明らかに過剰な固定資本形成は、最終的には生産設備の稼働率の大幅な低下、あるいは投資のインカム(配当や賃料などの)リターンの低下を招き、資産価格が下落に転じる局面が到来します。

時価評価した資産価値が低下する一方、債務はキャッシュで返済しない限り減少しないので、企業や家計の時価ベース自己資本(純資産)の減少が始まることになります。つまり評価損失の発生です。

その損失増加を食い止めるために資産の売却が始まれば、同様の状態にある他の債務者も売り急ぐので、売りが売りを呼んで資産価格の急落となり、債務超過となった企業や家計は債務の返済が不能となります。その結果、銀行をはじめ信用供与者の不良債権が急増し、信用収縮、債務者の破綻、失業者の増加というバブル崩壊過程に特有の現象が続くことになります。

住宅ローン形態での家計債務の膨張を中心とした2000年代の米国のバブルでは、07年前後がミンスキーモーメントだった。これが、日本ではリーマンショックにつながっていきました。企業部門の不動産関連投資と債務膨張を主とした日本のバブルでは、1990年代初頭がミンスキーモーメントだったと言えるでしょう。

賀氏は、2カ月以内に貿易戦の打開策がなく、米政府がより強力な制裁措置を行えば、中国経済のバブルが崩壊モードに突入するとの見解を示しました。

米政府は7月と今月23日に、合計500億ドル相当の中国輸入品に対して追加関税を課しました。

「この影響で、バブルがほとんど見られない中国株式市場まで下落した。貿易戦が続くと、深刻な住宅バブル、債務問題、人民元の過剰供給による金融バブルが次々と崩壊する」

賀氏は、中間選挙後、米政府による対中貿易制裁の強化で、中国国内のインフレ圧力が一段と強まると懸念しています。同氏は、インフレ圧力が「中国経済が崩壊モードに進む」要因の1つだとしました。

世界最大の食糧輸入国である中国では、大豆価格が急騰すれば、家畜の飼料価格や大豆関連製品の値上がりを招く。他の輸入農産品、燃料についても同じです。
インフレの対策は、中央銀行による利上げ実施などです。賀氏によると、景気鈍化が進む中国で利上げを実施すると、すでに高い法人税に頭を抱える企業は次々と経営破綻に追い込まれ、実体経済は現状より一層冷え込むことになります。一方で、「当局は、企業を救済する資金力がないうえ、膨大な地方政府の債務を抱えている」といいます。

賀氏は取材中、自身について「中国経済崩壊論を主張する者ではなかった」とし、過去2年間中国経済の実態を考察して「悲観的になった」と述べました。

中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁

ミンスキー・モーメントの脅威を主張するのは、無論賀江兵氏だけではありません。中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は19日、過度の楽観主義が資産価格の突然の大幅下落を引き起こしかねないと警告しました。

周総裁は「ミンスキー・モーメント」として知られる概念を使って脅威を指摘しました。

周総裁は第19回共産党大会に合わせて行われたイベントで質問に答え、「景気循環を増幅する要素が経済にあまりに多く存在すれば、景気変動のぶれが大きくなる」と発言。

「物事が円滑に進んでいるときに過度に楽観的であれば緊張が高まり、それが急激な調整につながる可能性がある。ミンスキー・モーメントと呼ばれる状況で、われわれは特にこれを防がなければならない」と述べました。

同総裁は価格が急落する可能性のある資産クラスを具体的に挙げることはありませんでした。企業と家計の債務リスクを広く警告した上で、一部企業の資本効率の低さと不適切な直接ファイナンスなどを背景に企業の借り入れは「非常に高水準」だと指摘。

家計の債務については非常に大きいとは言えないが急増しているとの認識を示し、「家計部門のレバレッジ縮小を進めるわけではないが、レバレッジの質を注視する必要がある」と述べました。

中国経済がミンスキー・モーメントを迎えることは、実は貿易戦争の前にもいわれていたことです。これはいず起こったのでしょうが、貿易戦争がそのきっかけをつくるかもしれないことは確かなようです。

習近平氏は当初、米中貿易戦争を楽観していた節が窺えるます。これを反映して、5~7月にかけ非金融貸出(社債+影の銀行貸出)を急速に絞った結果、企業の資金繰りに大きな影響を及ぼしています。デフォルトの多発がそれを物語っています。

中国銀行保険監督管理委員会(注:日本の金融庁)の当局者は23日、「中国の銀行セクターが新たに大規模な不良資産へのエクスポージャーにさらされていると警告した。また、銀行セクターは現在のところ、より大きな規模で融資の拡大を実施することに困難を抱えているとの認識を示した」(『ロイター』8月23日付)。

金融当局者が、「新たに大規模な不良資産へのエクスポージャー(リスク)にさらされている」と発言するのは、相当な危機レベルに達している証拠です。通常なら、このような重大な事実は隠すものです。だが、もはや隠しきれなくなった、とも読めます。

これを反映して、中国政府は各地方政府に調査団を派遣して地方経済の実態調査に乗り出している。「中国国務院(内閣に相当)は、主要政策の実施状況を調べるために国内各地に31の調査団を派遣した。調査団は各省で10~12日間にわたり、面談や事前連絡なしでの企業訪問などを通じた調査を行う予定」(『ロイター』8月22日付)という緊迫した雰囲気を伝えています。

中国経済はいずれ、かなり深刻な「ミンスキー・モーメント」を迎えるのは確かなようです。

こうしたこともあるので、習近平としては、トランプ大統領とのトップ会談で「休戦」っているのでしょうが、トランプ大統領はその手にはのらないでしょう。

なぜなら、トランプ大統領の貿易戦争の狙いはまさに、中国経済に甚大な被害を与えることが目的であり、このような事態がおこることは織り込み済みというか、これを起こすことがトランプの狙いだかです。

トランプ大統領

過去の、中国はまだ借り入れが増えている段階でした。しかし、ミンスキー・モーメント以降は、不良債権を処理せざるを得なくなり、実体経済が悪化し、企業が倒産、大量の解雇者が出て、失業者が急増、個人破産も急増し、自殺・暴動が起き、そうなると中国は軍事力でこれを抑えつけるしかなくなるでしょう。

軍事力で押さえつけなければならないとなると、必然的に軍隊が力を持つことになり、7つの大軍区は分裂してしまう可能性もあります。

2017年4月27日に行った外交演説でドナルド・トランプ大統領は、以下のように述べています。
我々は最早グローバリズムという誤ったイデオロギーによって国家を破壊し、米国の国民をその犠牲者としてはならない。国民国家こそ幸福と調和の真の基礎を成すものである。私は国際的組織というものを信用していない。
これはナショナリズムという言葉こそ使わなかったものの、まさしくアンチ・グローバリズムであり、国家の再建を意味するものです。また、米・英・中・露は、タックスヘイブンを潰そうとしていることも、猛威を振る舞った金融グローバリズムを崩壊させるものとなるでしょう。

これからは、世界の国々は自由貿易をしつつも、ナショナリズムの時代になっていくことでしょう。勿論、急に何もかもが変わっていくわけではないはずですが、徐々に変わっていくことになるでしょう。

私は、中国のポスト・ミンスキー・モーメントがその先鞭をつけるものではないかと思います。

トランプの戦いは、まさに悪い面でのグローバリズムの申し子でもある中国を潰しナショナリズムに復帰した世界を再構築することなのです。

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2018年8月23日木曜日

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【主張】台湾に断交圧力 地域の安定損なう動きだ

中米全図 地図はブログ管理人挿入 以下同じ

 中国が、中米エルサルバドルとの国交を樹立した。これに伴いエルサルバドルは、外交関係のあった台湾と断交した。

 台湾の孤立化を狙う中国が仕掛けた、露骨な圧力外交の結果だ。

 台湾を外交承認する国は17カ国と過去最少を更新した。蔡英文政権下での断交は5カ国にのぼる。今年はすでに3カ国という異常なペースだ。世界2位の経済力を外交カードに台湾の外交関係を奪う戦術といえる。

 蔡総統が談話で「両岸(中台)の平和への脅威だけでなく、世界的な不安定を生み出している」と反発したのは当然である。地域の安定を損ないかねない中国の行動を強く懸念する。

 日本と台湾に正式な外交関係はない。ただ、民主主義の価値観を共有する台湾への圧力に日本は無関心であってはならない。中国に自制的に振る舞うよう働きかけるべきである。

 エルサルバドルの場合、台湾はラ・ウニオン港の開発に多額の資金援助を要請されていた。だが台湾は同国の債務状況を勘案し、要請を断ったという。

 これに対して中国の王毅国務委員兼外相は、同国との国交樹立について「いかなる(経済的な)前提もない」と述べた。だが、果たしてそうなのか。

 習近平政権の広域経済圏「一帯一路」構想の対象国の中には、中国の援助でインフラ整備を進めた結果、過大な債務負担を強いられる例が後を絶たない。採算を度外視した援助をテコに勢力圏を拡大する。同様の手法で台湾との断交を促すのなら問題が大きい。

 とりわけ最近の中国の強引な外交は目に余る。

 台中で来年開催する予定だった東アジアユース競技大会が、北京での臨時理事会で取り消された背景にも中国の意向がちらつく。外国航空会社に台湾の名称表記変更を求めた問題もあった。

 今回の断交は、蔡総統が中南米歴訪から戻った直後に起きた。蔡氏のメンツを潰す狙いがあったのは明白ではないか。

 台湾に閉塞(へいそく)感を与えて政権与党の民主進歩党に打撃を与えるのが目的だ。11月に実施される台湾の統一地方選への揺さぶりもあろう。だが、露骨な圧力で、台湾の民心が中国になびくわけではあるまい。むしろ対中感情を悪化させる現実を認識すべきである。

【私の論評】これからは、国や企業や個人であろうと、中国を利することになると米政府が判断すれば、牽制・制裁の対象になる(゚д゚)!

トランプ政権は8日、自然災害の被災者を対象とする「一時保護資格(TPS)」制度に基づき少なくとも2001年以降米国に在留しているエルサルバドル人約20万人について、出国しなければ来年から強制送還の対象になり得ると発表しました。

ちなみに、現地時間2001年1月13日11時33分頃、中米のエルサルバドル共和国沖約50kmの太平洋を震源とする、マグニチュード7.6の地震が発生しました。死者944人、負傷者5,000人以上、液状化や土砂災害などで約108,000棟に達する家屋倒壊の被害が出ました。

2001年のエルサルバドル大地震 首都サンサルバドル西部で発生した大規模な地すべり

首都サンサルバドル西部で大規模な地すべりが発生し、ここだけで500人以上が死亡しました。また、中米を縦断する主要道路の一つであるパンアメリカンハイウェイも、斜面崩壊により寸断されました。

私は、この措置は、台湾と国交を絶ち中国との国交を樹立しようとするエルサルバドルに対する牽制であるとみています。

エルサルバドルは南米の中でも一番面積が小さく一番人口密度が多い国です。マヤの遺跡を始め見所はあり、観光客も多い中、エルサルバドルの治安はあまり良くありません。約12年間続いた内戦終結後、内戦中に流出した武器が国内に大量に存在、経済状況の停滞、犯罪集団マラスやバンダが多く大都市での犯罪が増えています。

政権当局者2人が匿名を条件に記者団に語ったところによると、01年にエルサルバドルで起きた大地震の後に米国に避難し生活と就労を認められているエルサルバドル人は19年9月9日までに出国しない場合、強制送還の対象になり得るといいます。

議会調査局によると、TPSで米国在留が認められている外国人は約32万人で、エルサルバドル人は大部分を占めています。

トランプ米大統領の決定は、一部の中米人に1990年代後半以降、TPSを適用・再認可してきた以前の米政府の立場とは距離を置くものです。1人の高官によると、トランプ政権は19年まで発効日を遅らせることにより、議会がTPS対象者への恒久的な法的解決策を策定する時間を確保するといいます。

エルサルバドルの人口は、2016年時点で、634.5万 と推計されています。TPSにもとづく在米エルサルバドル人は20万人に達するといわていますが、これは、現在の全人口の3%くらいをしめるほどの数です。

この人数が、短期間に大量にエルサルバドルに戻ってくればとんでもないことになりそうです。そもそも、地震の被害を回避するために米国に渡った人たちですから、経済的に恵まれた人々とはいえず、難民とはいいませんが、感覚としては大勢の難民が押し寄せてくるようなものかもしれません。これは、地震被害から回復しつつあるエルサルバドルにとっては大きな負担になるのは間違いありません。

米国トランプ政権としては、このような牽制をしておき、もしエルサルバドルが過度に中国に接近したり、中国に利するような行動をした場合、TPSで在留しているエルサルバドル人の本国への強制送還に踏み切る腹づもりであると考えられます。このような弱小国にまで、牽制の対象とするトランプ政権です。その決意の強さがうかがわれます。

米国にとって、イスラム国(IS)を壊滅した後、一番の敵は中国となったのです。一方、中国が『軍=外向型』に方針転換したのは、堂々と『帝国主義的、膨張主義的、軍国主義的な政策を取る』と宣言したに等しいです。

事実上崩壊したIS

米国は、中国を「脅威の本丸」とみなし、南シナ海での「航行の自由」作戦を継続しています。6月には台湾の大使館に相当する「米国在台湾協会」(AIT)の新事務所をオープンし、開所式典には国務省代表も列席しました。さらに、事務所警護のため、国務省は海兵隊に要員派遣を要請しました。

米国としては、中国の軍事力を押さえ込むため、軍事力の基礎となる経済力を叩くために対中国貿易戦争を仕掛けたのです。これは『中国包囲網』強化の一環で、当然のことながら、『航行の自由』作戦も『台湾重視』政策も、エルサルバドルへの牽制も絡んでいるのです。

今後、貿易戦争が本格化し、米中対立が激化すれば、軍事衝突の可能性も否定できないです。

トランプ大統領の貿易アドバイザーであるピーター・ナバロ通商製造政策局長は著書『米中もし戦わば-戦争の地政学』(文芸春秋)の中で、以下のように記しています。
世界史を概観すると、一五〇〇年以降、中国のような新興勢力がアメリカのような既存の大国に対峙した一五例のうち一一例において(すなわち、七〇%以上の確率で)戦争が起きている。
中国が南シナ海で、米国の船を止めたり、航行の自由作戦を妨害、米航空機の飛行を邪魔するようなことがあれば、軍事衝突に発展する可能性は十分あります。習近平は米国が抵抗しなければ、南シナ海全体を領海化するつもりです。

前国務長官だったレックス・ティラーソン氏は、南シナ海で中国の人工島を海上封鎖することもあり得ると示唆していました。

この海上封鎖案は、ティラーソン氏が2017年1月11日に上院外交委員会で開かれた自身の指名承認に関する公聴会で言及したものです。トランプ氏の発言や米軍タカ派の意見よりもはるかに強硬なものでした。

ティラーソン氏はこの公聴会で、中国の人工島の建設・軍事化は「2014年のロシアのクリミア併合と似ている」と指摘し、米国の反応が鈍かったため「中国にごり押しさせてしまった」と、オバマ政権の対応を批判しました。

同氏はさらに、米国が対応を強めることを支持するかとの質問に対し、「我々はまず人工島建設を停止するよう求め、さらに中国の人工島へのアクセスを認めない措置をとるとの明確なシグナルを送らざるを得なくなろう」と述べました。

このティラーソン発言は、あまりに時期尚早だったのだと思います。しかし、長期的に見た場合、南シナ海で米中軍事衝突は避けられないかもしれません。ただし、現状のまま、米国が中国と軍事衝突をしてしまえば、米国も多大なコストと犠牲を強いられることになるのは明らかですから、やはり当初は中国の経済を弱体化させることを中心に当面対中国戦略を進めることになるでしょう。

中国を経済的にかなり弱体化できれば、そもそも中国自身が、海洋進出をあきらめるかもしれません。あきらめなかったとしても、経済がそれを許さなくなります。

経済が弱体化しても、中国が海洋進出を諦めない場合は、米軍による中国の人工島の海上封鎖ということは大いに有り得ることです。その時には、無論米軍と衝突することもできず、たとえ衝突してもすぐに打ち負かされて中国は自ら人工島を放棄せざるを得ない状況に追い込まれるでしょう。

米トランプ政権は、ここまで見据えた上で、現在中国に対して貿易戦争を挑んでいるのです。

中国を経済的に弱体化するためには何でもありのトランプ政権

このような状況のなか、これからの米国の行動は一見全く関係ないように見えても、エルサルバドルの事例のように、対中国戦略に何らかの関係があるとみるべきです。また、これから米国は、国際緊急経済権限法(IEEPA)の発動をはじめとして、中国や中国を利する国や企業個人に対する制裁をどんどん強めていくことになると考えられます。

これからは、国や企業や個人であろうと、中国を利することになると米政権に判断されれば、エルサルバドルのような弱小国ですら、牽制・制裁の対象になり得るということです。

そのことを意識しているマスコミや財界人はまだ少ないようで、未だ無意味な親中・媚中派から転身できていない人が多いようです。

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2018年8月22日水曜日

韓国・文政権“大恐慌”リーマン級の「雇用惨事」で失業率が大幅悪化 緊急会議開くも無策…―【私の論評】金融政策の大失敗が韓国の危機的な人口減と高齢者の割合の急増をもたらす(゚д゚)!

韓国・文政権“大恐慌”リーマン級の「雇用惨事」で失業率が大幅悪化 緊急会議開くも無策…

文大統領の経済失政で韓国の雇用は深刻な危機に

 「雇用拡大」を掲げる韓国・文在寅(ムン・ジェイン)政権が、大恐慌に陥っている。リーマン・ショックの影響下にあった2010年以来という雇用危機を迎えたからだ。青瓦台(大統領府)などは日曜に緊急会議を開いて対応を協議したが、改善に向けた明るい材料はない。韓国メディアでは、さらなる惨事の到来を危惧する見方すら浮上している。

 その衝撃的な数字は、17日に発表された。

 7月の就業者数は前年比5000人増で、6月の10万6000人増から大幅に減ったのだ。失業率も悪化し、聯合ニュースは《7月の失業率3・7%に悪化 就業者増加数はリーマン以来最低》との見出しで報じた。

 「雇用惨事」と伝えるメディアもある今回の危機は、文政権自身が招いたとの見方が強い。強引な最低賃金の引き上げとともに、雇用の増加幅が減ったからだ。

 韓国統計庁の発表によると、今年1月の就業者数は33万4000人増だったが、同月に最低賃金が16・4%引き上げられると、2月は10万4000人増と20万人以上急減した。

 その揚げ句、7月には「5000人増」まで落ち込み、青瓦台は慌てたようだ。

 ハンギョレ新聞(日本語版)によると、日曜の19日に、与党・政府・大統領府の「雇用状況に関する緊急会議」が開かれた。だが、「来年の雇用予算を大幅に増やす」という方針のほかに具体的な政策手段が示されなかったという。

 東亜日報(日本語版)は《金融危機以来最悪の雇用情勢に大統領府も戸惑い隠せず》との見出しの記事で、文氏が大統領就任以来、雇用に力を注いできた様子を紹介し、「衝撃は大きくならざるをえない」と指摘。最大野党「自由韓国党」が大統領政策室長の更迭を求めたことも伝えた。

 政府の危機感は強いが、雇用状況が好転する兆しはない。むしろ、来年1月に最低賃金がさらに10・9%引き上げられて人件費が高騰するため、人減らしが進む可能性が高いとみられている。

 《雇用惨事の悲鳴、まだ聞こえないのか》と題する社説で、中央日報(日本語版)は次のように危惧した。

 「このような雇用惨事に歯止めをかけなければ韓国の共同体全体が危機を迎えるかもしれない」 韓国の将来は暗い。

【私の論評】金融政策の大失敗が韓国の危機的な人口減と高齢者の割合の急増をもたらす(゚д゚)!

「雇用拡大」を掲げるなら、まずは金融緩和をしなければどうしょうもないのに、緩和はせずに最低賃金だけをあげた結果がこの有様です。

文政権の失敗の原因は、核心は文政権のマクロ経済政策の失敗、特に、金融政策に失敗したことです。
韓国の最低賃金の推移(ウォン/時間)

韓国の中央銀行はインフレ目標を採用していて、消費者物価上昇率の目標値は2%です。現状は前年同月比で1・5%だが、確かに朴政権時代の実質的なデフレ状態に比べれば、かなり改善しているのは事実です。

ところが、それでも韓国の金融緩和は極めて抑制されています。それが経済全体の拡大を抑えているのです。実際、韓国銀行の政策金利は据え置かれたままです。

韓国は朴政権から今の文政権にかけて、それ以前まで採用していた高めのインフレ目標を断念しています。その背景には、韓国の資産・負債の構造があるようです。

対外債務残高が前政権時代から現在にかけて増加基調にあり、現時点では約4千億ドルに膨らんでいます。この対外債務の実質額が拡大することを、政府と中央銀行が恐れているため、より一層の踏み込んだ緩和ができないというのが表向きの理由のようではあります。そうして、対外債務が膨らめば、キャピタルフライトをまねき兼ねないというのが、表向きの理由なのでしょう。

ところが、実際には同じような資産・負債構造であっても、朴政権以前は、リーマンショック以後と比べて、今より高いインフレ率と失業率の低下傾向(就業者の増加傾向)が「同居」していました。ちなみに、2012年まではインフレ目標の中央値は3%であり、上限は4%(下限は2%)でした。

さらに、キャピタルフライトの危険など、以前このブログにも掲載したように、実際にフライトを起こしたアイスランドなどと比較すると、政府は財政黒字ながら、膨大な民間の借金が存在していたのと比較すれば、まだかなり低い状況です。

キャピタルフライトを起こした頃のアイスランドはGDP比で700%もの外貨建ての借金をしていました。しかし、当時のアイスランドの政府債務対GDP比は29%しかありませんでした。この700%もの債務は一体誰が負っていたのでしょうか。

アイスランド政府の借金でないのであれば、あとは民間しかありません。この膨大な対外の外貨建て債務は国内の金融機関が負っていた負債でした。

このような国であれば、当然のことながらキャピタルフライとは起こりえます。そうして、実際アイスランドではそれが起こったのです。

韓国銀行は2月22日、韓国の対外債権が前年比638億ドル増の7843億ドルとなったのに対し、対外債務は151億ドル減の3809億ドルだったと発表しました。

対外債務では長期対外債務が160億ドル減少し、短期対外債務は8億ドル増えました。外貨準備高(3711億ドル)に占める短期対外債務(1052億ドル)の割合は28.3%で前年と同じでした。同割合は2013年の32.3%、14年の32.0%、15年の28.3%と年々低下してきました。1997年の通貨危機当時(283.1%)、2008年の金融危機当時(79.3%)に比べるとはるかに低い水準です。

さて、13年以降は韓国では物価目標が2%へ引き下げされてから、急激に低インフレ化し、むしろ実質的にデフレ経済に陥っています。見方を変えれば、物価抑制という目標に絞れば、金融政策は「成功」しているのかもしれないです。

つまり、政府と中央銀行は、韓国の大企業の対外債務の実質増を警戒しすぎるあまり、それによって雇用を犠牲にしているのである。その大きなしわ寄せの対象が、若年雇用の悲惨な実態という状況なのです。

韓国だけ若者の失業率が悪化、日米欧は一斉に改善

どの国の中央銀行の金融政策も、インフレ目標はあくまでも中間的なものにすぎません。日本ももちろんそうです。あくまで、インフレ目標の実現を通じて、雇用全体の改善や経済の安定化を目指すことが、各国中央銀行の政策目標です。

こうした意味では、韓国政府と韓国銀行は金融政策の目的を、銀行や大企業に対してあまりにも「忖度(そんたく)」しすぎて、その半面、肝心要の雇用を犠牲にしていることになります。経済・雇用の全体的な状況が改善しないままに、最低賃金の引き上げなどすばば、雇用が激減することは最初からわかりきっています。

韓国の金融政策は、緩和基調ではないために、むしろ雇用を全体として縮小させてしまっているというのが現在の姿なのです。つまり、パイの大きさが前よりも小さくなってしまっているのです。そのとき、パイの切り分けを変えることをしたらどうなるでしょうか。きっと最も力の強い人たちに、より多くのパイが配られることになるだけです。

小さくなってしまったパイでも、すでに働いている正社員たちに、より多くの配分が与えられるのです。他方で、非正規社員や新卒の人たちは割を食うことになります。最低賃金の引き上げはこの状況をさらに悪化させたのです。

巨大アップルパイを切り分けているところ。パイそのものを大きく
しなれれば、いくら分配を正確にしようにも、割をくう人がでてくるのは当然

日本では、アベノミクスの採用以降、雇用が増加し、最低賃金も6年連続で引き上げられました。これはパイが拡大している中で、最低賃金の引き上げが若年層などの雇用を悪化することなく行われたことを意味しています。パイの配分の変更をスムーズにするには、パイの拡大が必要だということです。これを誤ると、特に若年雇用が悪化してしまうことになります。これがまさに、今の韓国の状況なのです。

わが国でも過去の民主党政権や現在の立憲民主党は、パイの拡大に極めて消極的であるにもかかわらず、パイの配分には積極的です。その結果どうなるかといえば、民主党政権時代の状況が如実に示しています。

ところが、未だこれだけの雇用改善を目の前にしても「アベノミクスは失敗で、民主党政権の方がよかった」というトンデモ意見が絶えないようです。このようなことをいう人たちには現在の韓国の状況を理解することはできないでしょう。

ところで、韓国内の経済政策論争を見てみると、最低賃金引き上げや残業時間規制などの是非ばかりに目が行っていて、日本的なアベノミクス、つまり金融政策による雇用最大化を主張する意見は皆無です。米エール大の浜田宏一名誉教授が韓国銀行でスピーチしたとき、出席者すべてが金融緩和政策による雇用創出、つまりリフレ政策に否定的だったといいます。

韓国には日本でいうリフレ政策を唱える人がいないとしか思えないです。政策のアイデアを助言する人が韓国にいなければ、そもそもその政策が採用される可能性も低いです。これがまさに現代韓国の不幸です。

ブログ冒頭の記事を読むと、いくら韓国内の話とはいえ、雇用の話を論じているのに、金融緩和は全くスルーしています。この記事を書いた人の頭の中には、雇用と金融緩和が密接に関連しているという観念が全く無いのだと思います。

日本も以前は韓国と似た状況でしたが、それにしても少数派ながらリフレ派が存在し、その人々が事あるごとに政府や野党に対して提言など行ってきました。韓国でも、マクロ経済を学んだ人は少なからず、存在すると思います。こういう人たちが、金融緩和策や積極財政を提言しないのはなぜなのか本当に不思議です。

そうして、事はさらに深刻です。韓国の若年失業率の高止まりが続くことで、すでに若年から中年に移行した人たちの経済状況が低迷しているのです。非正規雇用の割合も極めて高く、その人たちの所得水準は不安定です。

現在の韓国の30代の未婚率は日本をかなり上回っています。この事態を放っておけば、未婚率が経済的な要因でさらに上昇していくことでしょう。韓国でも未婚率と合計特殊出生率はかなり強い関係にあります。金融政策の失敗が、将来的な韓国の大幅な人口減と高齢者の割合の急増をもたらす可能性が大いにあります。

しかも、そのスピードは日本よりも早いです。韓国が「消滅」するかどうか、その方が巷でよく目にする「韓国崩壊」論よりもよほど深刻な事態です。

文政権は、一刻もはやく、マクロ経済の政策転換を行い、金融緩和、積極財政に転ずるべきです。

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2018年8月21日火曜日

米中貿易戦争 衝撃分析! 貿易戦争で「中国崩壊」でも心配無用? 世界経済はむしろ好転か…―【私の論評】中国崩壊の影響は軽微。それより日銀・財務官僚の誤謬のほうが脅威(゚д゚)!

米中貿易戦争 衝撃分析! 貿易戦争で「中国崩壊」でも心配無用? 世界経済はむしろ好転か… 国際投資アナリスト・大原浩氏「世界にとってプラス」

中国経済が変調すれば、習近平主席の地位も危うくなるが、他国にとっては歓迎すべき事態か

 トランプ米政権に貿易戦争を仕掛けられた中国が大揺れだ。世界第2位の経済大国が「経済敗戦」となった場合、習近平政権に大打撃となるのは確実だが、世界経済も大混乱しないのか。中国経済や市場に詳しい国際投資アナリストの大原浩氏は、むしろ「世界経済は好転する」とみる。その理由について緊急寄稿した。

 「米国との貿易戦争で中国の負けは確定している」というのが筆者の持論だが、中国が崩壊でもしたら世界経済はどうなるのか? と心配する読者も多いかもしれない。しかし、結論から言えばごく短期的な負の影響はあっても、長期的に考えて中国崩壊は世界経済にプラスに働く。

 そもそも、現在の世界経済の最大の問題は「供給過剰」である。1979年からトウ小平氏によって始められた「改革・開放路線」は、89年のベルリンの壁崩壊、91年のソ連邦崩壊の後、92年ごろから加速した。80年代ぐらいまでは「鉄のカーテン」や「竹のカーテン」で西側先進諸国と隔絶されていた共産主義諸国が、大挙して世界の貿易市場に乗り出してきたという構図だ。

 東南アジアや南米などの新興国も供給者として名乗りを上げた。それまで日本と欧米先進諸国以外にはシンガポール、香港、タイ、台湾、韓国程度しかプレーヤーがいなかった市場環境は大きく様変わりした。

 日本のバブル崩壊は90年ごろだが、世界的な供給過剰が始まる時期と重なったのが不幸であった。今後、もし中国が崩壊し莫大(ばくだい)な供給がストップすれば、日銀が目標に掲げる物価上昇率2%もやすやすと達成でき、日本経済は短期的な波乱を乗り越えながら力強い発展を続けるだろう。

 忘れてならないのは生産性の向上である。経営学者のピーター・ドラッカー氏によれば、「科学的分析」が生産に取り入れられて以降、工業製品の生産性は50倍以上になっている。つまり50分の1の人手で足りるというわけだ。

経営学の大家ピーター・ドラッカー氏
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 20~30年前にはハードディスク50メガバイトのパソコンが30万円ほどしたが、今やそれは数千円のUSBレベルであるし、1本1万円ほどした映画のDVDは、月額1000円ほどで見放題である。

 だから、中国1国が“消滅”したくらいでは世界、そして日本への商品供給は途絶しない。生産性の向上ですぐにカバーできる。

 このような供給過剰の世界で、いくら資金を供給しても物価が上昇しないのはある意味当然かもしれない。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が金利引き上げを2019年で打ち止めにする意向を表明した後、トランプ大統領が「金利引き上げは望ましくない」と述べたが、供給過剰社会で金利の引き上げは困難だ。これは欧州においても同様だ。

 歴史的には、世界大戦級の大規模な戦争が供給過剰を解消してきたが、今回は中国の崩壊によって世界経済が好転するかもしれない。その方が、はるかに世界にとってプラスだといえる。トランプ氏がそこまで考えて中国を経済的に「攻撃」しているのならあっぱれだといえる。

 国防・セキュリティー問題での中国企業への厳しい制裁、中国製品への貿易関税、さらには「北朝鮮」問題も実は中国を押さえ込む導火線の役割を果たしていたのかもしれない。今回の一連の動きは「中国外し戦略」といっても良いだろう。

 いずれにせよ、今のトランプ氏の言動を見ている限り「米国という偉大な国にたて突く中国など無くなってもかまわない」という気迫を感じる。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

大原浩氏

【私の論評】中国崩壊の影響は軽微。それより日銀・財務官僚の誤謬のほうが脅威(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事、結構納得できるところが多いです。まずはソ連が崩壊した時のことを考えると、確かソ連崩壊後のロシア国内は酷い有様となりましたが、ではそれによって日本をはじめとする他国がそれによって甚大な影響を被ったかどうかいといえば、まず日本についてはほとんど影響はなかったと思います。

これは、経済統計をみたとかそういうことではなく、その当時にリアルタイムで生きて経験したということからいうと、その影響についてはほとんど記憶にないです。さらに、「ソ連崩壊の世界への影響」「ソ連崩壊の日本への影響」などというキーワードでGoogleで検索してみましたが、これに該当する内容はありませんでした。試みに、この時代を生きていた私以外の他の複数の人々にも聞いてみましたが、誰も記憶している人はいませんでした。

これから類推するに、ソ連崩壊の影響は少なくとも、日本経済に及ぼす影響は軽微もしくは、ほとんどなかったのだと思います。もし、大きな影響があれば、誰かが記憶しているとか、少なくともGoogleで検索すれば何かの記録が出てくるはずです。どなたかこの方面に詳しいかたがいらっしゃいましたら是非教えていただきたいです。

直感的には、ソ連が崩壊しても、ほとんど影響がなかったというのであれば、たとえ中国が崩壊したとしても、世界経済に悪影響はほとんどないのではとの考えは間違いではないと思われます。

さらに、日本のことを考えると、そもそも、中国への輸出はGDP(国内総生産)比3%未満であり、投資は1%強でしかありません。この程度だと、無論中国に多大に投資をしていた企業は悪影響を受けるかもしれませんが、日本という国単位では、他国への輸出や投資で代替がきくので、日本経済にはほとんど影響がないといえそうです。

米国では、輸出そのものがGDPに占める割合は10%を切っています。さらにその中の中国といえば、数%にすぎません。これも、他国への輸出で十分に代替えがきくものと思われます。

さて、ブログ冒頭の記事では、生産性の向上による、供給過剰ということが掲載されてました。これは実際そうです。

それについては、以前のこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!
野口旭氏
この記事の元記事は野口旭氏のものですが、野口氏はやはり現在の世界は供給過剰になっていることを指摘しています。その部分を以下に引用します。
ところが、近年の世界経済においては、状況はまったく異なる。「景気過熱による高インフレ」なるものは、少なくとも先進諸国の間では、1990年代以降はほぼ存在していない。リマーン・ショック以降は逆に、日本のようなデフレにはならないにしても、多くの国が「低すぎるインフレ率」に悩まされるようになった。また、異例の金融緩和を実行しても景気が過熱する徴候はまったく現れず、逆に早まった財政緊縮は必ず深刻な経済低迷というしっぺ返しをもたらした。世界経済にはこの間、いったい何が起こったのであろうか。 
一つの仮説は、筆者が秘かに「世界的貯蓄過剰2.0」と名付けているものである。世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。 
この「長期需要不足」の世界は、ローレンス・サマーズが「長期停滞論」で描き出した世界にきわめて近い。その世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくい。というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができない。ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうからである。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由なのである。
相対的にモノが不足していた、旧来の世界とは異なり、現代の世界は貯蓄が過剰であり、その結果供給が過剰なのです。

このような世界ではよほど世界需要が急激に拡大しない限り、供給の天井には達しないのです。その結果として、高インフレや高金利が近年の先進国では生じなくなったのです。

このような世界においては、確かに中国が崩壊したとしても、日本や米国のようにGDPに占める内需の割合が多い国では、ほとんど影響を受けないでしょうし、輸出などの外需の多い国々では、たとえ中国向け輸出が減ったにしても、中国になりかわり、中国が輸出して国々に輸出できるチャンスが増えるということもあり、長期的にはあまり影響を受けないことが十分にあり得ます。

日本や米国が貿易戦争で甚大な悪影響を被ると考える人々は、両国のGDPに中国向け輸出が占める割合など全く考えていないか、あるいは過大に評価しているのではないかと思います。

今でも一部の人の中には、「日本は貿易立国」と単純に信じ込んでいる人もいます。こういう人たちは、過去の日本は、輸出がGDPに占める割合が、50%とかそれより多いくらいと思っているかもしれません。それは全くの間違いです。20年前は、8%に過ぎませんでした。これは、統計資料など閲覧すれば、すぐにわかります。

ただし、日本で一番心配なのは、過去に日銀官僚や大蔵・財務官僚らが、数字を読めずに、なにかといえば金融引締めと、緊縮財政を実施してきたという経緯があることから、彼らは世界が需要過多の時代から、供給過剰の時代に変わったといことを理解せずに、またまたやってはならないときに金融引締めと緊縮財政を実施してしまい、再度「失われた20年」を招いてしまうという危険です。

実際、2019年10月より、10%増税の実施が予定されていますが、自民党政権がこれに抗えず、これが実行されれば、日本経済は再び甚大な悪影響を受けるのは間違いないです。これに加えて、物価目標が達成されないうちに、日銀が金融引締めに転ずることになれば、今度は失われた20年どころか、「失われた40年」になりかねません。とんでもないことになります。

現実には、中国がどうのこうのなどという問題よりはこちらの問題ほうがはるかに大きいです。

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