2019年11月8日金曜日

米国は変わった、とうとう高官が共産主義中国を「寄生虫」呼ばわり―【私の論評】昨年米国では中国批判は一巡し、今年からは逐次対抗策を長期にわたって実施し続ける段階に移行した(゚д゚)!

米国は変わった、とうとう高官が共産主義中国を「寄生虫」呼ばわり



NBAのバスケット・ボールの試合中にフリー・チベットの活動をする他人事

民主党さえも中国の実態を暴き始めた

 ホワイトハウス国家通商会議ディレクターのピーター・ナヴァロ氏は、米国のTV番組の中で、共産主義中国による知的財産権の侵害を激しく非難。その存在を寄生虫と呼んだ。

米中貿易戦争のウラで、いま中国で起きている「ヤバすぎる現実」

 ナヴァロ氏は全般的に媚中派と考えられてきた民主党に所属する。同氏は、経済学者・公共政策学者であり、ハーバード大学を卒業している。現在、カリフォルニア大学アーバイン校ポールミラージュ・ビジネススクール教授でもある。

 2017年1月20日にトランプ次期大統領から指名を受け、新設された国家通商会議(=当時、現在は通商製造政策局)のトップに就任している。

 2016年に、ナヴァロ氏はトランプ氏の大統領選キャンペーン政策アドバイザーに就任したのだが、彼が筋金入りの中国脅威論者であることが大きく影響したのではないかと思われる。

 例えば、「中国経済と市場主導の米国経済のモデルは『地球と火星のように離れてる』」と述べ、人工知能やロボット工学などでも脅威になりつつある中国の知的財産権問題など不公正な貿易慣行への対処を主張している。また、軍用ドローンでも中国は市場を奪っているとして米国の輸出規制緩和を推し進めている。

 トランプ政権の通商政策を担う重要部署に、民主党員、かつ破天荒なビジネスマンのトランプ氏とは相性の悪そうな学者が起用されているのは意外かもしれないが、まったく正反対なキャラクターだけに、人生経験豊富なトランプ氏にはかえって扱いやすいのかもしれない。

民主党の共産主義中国離れ

 ウクライナ疑惑は、共産主義中国に忖度(または指示があった? )した民主党のこれまでの主流派が大きく関わっている可能性が高いことは、10月15日の記事「『ウクライナ疑惑』で、トランプの大統領再選は確実になりそうだ」で述べた。

 その民主党の投げたブーメランで、ジョー・バイデン前副大統領が政治的に極めて厳しい状況に追い込まれ、それまで泡沫候補扱いであったエリザベス・ウォーレン氏が民主党大統領候補のトップに躍り出るという事態となった。
エリザベス・ローレン

 ウォーレン氏も、テキサス大学法学部、ペンシルベニア大学法学部、ハーバード・ロー・スクールで教鞭をとったことがある、連邦倒産法を専門とする著名な学者である。さらに、訪問先の中国で、現地の記者団に対して「米国の対中政策は数十年にわたって方向性が間違っており、政策立案者が関係を現在修正している」と述ベている。

 これまで、媚中派が主流であった民主党の中でも、共産主義中国を「寄生虫」と呼ぶかどうかはともかく、「いつかは民主主義国家になる」という甘い幻想は消え去りつつある。

 特に香港騒乱が大きな影響を与えている。

 「自由と民主主義」こそが、建国以来の「米国の核心的利益」であり、左右どちらの政治思想であってもこの「核心的利益」を犯すことはできない。

 したがって、香港騒乱で「共産主義中国が人民を抑圧している」ことがあからさまになってしまったからには、民主党と言えども露骨な媚中行動はできない(10月16日の記事「現代版『ベルリンの壁』…香港の騒乱は『中国崩壊』の序曲か」参照)。

 「ベルリンの壁」ならぬ「香港の壁」の後ろに控える、「共産主義独裁国家」は共和党だけではなく、民主党からも「新・悪の帝国」と糾弾されつつある。

不公正取引で先進諸国に「寄生」した新・悪の帝国

 現在、中国はWTOに加盟して自由貿易の恩恵を最大限に受けているのにもかかわらず、国営企業を優遇し、海外のSNSをシャットダウンして国内の言論だけではなく、社会活動や経済活動にも多大な制限を加えている。

 また、知財を盗むコピペ経済でもある。さらには、中国大陸に進出する外資系企業に、厳しい規制を加えるだけではなく、その優越的地位を乱用して「最先端技術を渡せ」などという無理難題を吹っ掛ける。

 たまりかねた米国企業の直訴が、トランプ政権に影響を与えた可能性は高いし、他の国の企業の「積年の恨み」も無視できない。

 それでも彼らが儲かっているうちはまだいいが、利益が薄くなったり、赤字が出るようになれば、これらの企業も共産主義中国の手ごわい敵になる。

 そもそも、中国のWTO加盟交渉は、極めて特殊であった。

 実は、第2次世界大戦の戦勝国である民主主義中国(中華民国、台湾)が、WTOの前身であった関税貿易一般協定(GATT)の原締約国であった。しかし、1949年の共産主義中国の建国とともに中華民国が中国大陸から追放され台湾に移ったことから、1950年にGATTからの脱退を通告している。

 共産主義中国は、「台湾の1950年の脱退は無効である」との立場をとり続けていたが、1986年、「GATT締約国としての地位の回復」を申請した。

 その後、1989年の天安門事件の影響などにより、加盟交渉は難航し、結局GATTには参加できなかった。

 やっと、2001年に、中東・カタールのドーハで開かれたWTO(GATTの流れを継承)第4回閣僚会議において中国の加盟が認められることになったのだから、15年間も交渉したことになる。

 この交渉では、「いつかは共産主義中国も民主主義国家になる」という甘い期待を持っていた米国の後押しも受けた。

 だが、その後の中国共産党の後押しを受けた国営企業などによる不公正貿易の拡大や、知財だけでなく大量の軍事機密を盗み取る行為に米国民の堪忍袋の尾が切れたことを敏感に察知して、誕生したのがトランプ政権である。

 米国の識者たちの多くは、共産主義中国に対して「恩をあだで返された」と感じているであろう。

 したがって、貿易戦争・第2次冷戦など「共産主義中国にやさしくない」政策は、トランプ氏の政治信条というよりも「米国の民意」であり、トランプ氏は民意を先読みし、素早くかつ大胆に行動しているだけに過ぎない。したがって、ビジネスマンのトランプ大統領は、利害関係さえ一致すれば、共産主義中国とも「ディ―ル」を行うことができる。

 ところが、冒頭で述べたナヴァロ氏や、ウォーレン氏の「反中国」は政治信条である。したがって、相手が全面降伏するまで徹底的に戦うはずだ。

 もし、共産主義中国がウクライナ疑惑を仕掛けたとしたのならば、大失敗だ。妥協の余地のない、強烈な反中国派を台頭させたからである。

米国の世論は極端から極端に振れることがある

 別に米国に限ったことではないのだが、世論はしばしば極端から極端に振れる。

 独裁主義国家であれば、国民の世論がどうであろうと、力で押さえつけるであろうし、共産主義中国がその典型だ。

 しかし、米国は民主主義国家であり、世論が政治・社会に与える影響は極めて大きい。

 そこで思い出されるのが、第2次世界大戦をはさんだ、ナチス・ドイツへの米国の態度の変化である。

 今でこそ、ユダヤ人が支配するハリウッドで反ナチ映画がうんざりするほど量産され、「米国にとってナチス・ドイツは『巨悪』とされている」が、少なくともナチス・ドイツがポーランドに侵攻するまでは、米国でも親ナチス派が一般的で多くの実業家がナチスと取引をしていた。

 大空の英雄として有名な、大西洋を初めて単独飛行したチャールズ・リンドバーグもナチスを賛美していた。

 さらには、IBMの実質創業者ワトソン氏(彼の名前がAI〈エキスパートシステム〉につけられている)も、IBMの製品がナチスに貢献したことなどから、叙勲された(後に返還している)。

 別に彼らが特殊であったわけではない。英国も第2次世界大戦が始まる前には、ナチスに融和的なネヴィル・チェンバレンが首相を務めており、そのおかげもあってヒットラーが勢力を拡大した。

 第2次世界大戦が終結し米軍が踏み込むまで、アウシュビッツの状況は、世界には知られていなかったので、米国でもナチスの支持者はそれなりにいた。

 現在、日本企業ではESGが声高に叫ばれ、まったくと言っていいほど根拠がない「人類の排出する二酸化炭素による地球温暖化対策」に、信じられないほど巨額のムダ金が使われているのは、10月9日の記事「『地球温暖化騒動』の『不都合な真実』に目を向けよう」や、10月22日の記事「日本人が知らない『温暖化対策』巨額すぎる無駄なコスト」で述べたとおりである。

 それに対して、香港、チベット、ウイグルなどで「人権侵害」を繰り返す中国共産党の息のかかった企業とは平気で取引をしている。

 ESGの観点から言えば、「人権侵害国家」の企業と取引をしてそれらの国家を結果的にサポートすることは「極めて不適当な行為」であり、行うべきではない。

 もし、何らかの形で、天井の無いアウシュビッツと呼ばれるウイグルやチベットの惨状が赤裸々に暴かれた場合、共産主義中国と取引をしている日本企業は極めて難しい立場に立たされるはずだ。

 ましてや、ウイグルの強制収容所で日本のコンピュータやIT製品・技術などが使われていた場合、致命的な打撃を受けるであろう。

 10月23日には、マイク・ペンス副大統領が「NBAやナイキが自社の利益を追求するために、中国政府の要求に屈服した」と激しく非難している。

 特にNBAに対しては「中国共産党の側に付き、言論の自由を押しとどめ、中国政府直属の支局のように振る舞っている」とまで言っている。

 今や中国に媚びているなどと思われたら、巨大なリスクなのだ。

 米国の世論、さらには政府が明らかに変わりつつある。日本企業はその事実にもっと敏感になるべきである。

大原 浩

【私の論評】昨年米国では中国批判は一巡し、今年からは逐次対抗策を長期にわたって実施し続ける段階に移行した(゚д゚)!

ドナルド・トランプ政権の米国で、中国をみる視線はすでに昨年からかなり厳しさを増していました。

それは、関税応酬を引き起こしている多額の対中貿易赤字のみに起因するものではありません。または米朝首脳会談の前後に存在感を増してきた中国の朝鮮半島政策から生まれたものでもありません。

より大きな、対中認識の地殻変動が今、米国でうごめきつつあるのです。

米国政府の政策に、中国への厳しい視線は反映されつつあります。たとえば一昨年末に発表された『国家安全保障戦略』は、中国、ロシアとの競争という世界観が色濃く反映されています。

米国は、中露両国が国際社会に統合されることを前提にした(冷戦終結後の関与政策的な)アプローチから脱却すべきであり、中国はインド太平洋地域から米国を閉め出そうとしていることを認めた上で政策的対応を採るべきとしました。

ヘルシンキ・サミットにもみられたように、トランプ大統領の対ロ認識は混乱しており、また政権内外にはロシアとの接近を対中国のカードとして使う発想もあると言われます。少なくとも、中国に対する警戒心が極めて高まっていることは事実です。

昨年、閣僚の「インド太平洋」をめぐる発言からも、その傾向は確認できました。たとえば、同年6月にシンガポールで行われたシャングリラ・ダイアローグ(第17回IISSアジア安全保障会議)において、ジム・マティス国防長官(当時)は、中国が南シナ海に建設した人工島の軍事拠点化を進めていることを強い言葉で非難しました。

太平洋軍(PACOM)がインド太平洋軍(INDOPACOM)に改名されることも直前に発表されていjましたが、マティス前長官は「自由で開かれたインド太平洋」の重要性をここでも訴えていました。

マイケル・ポンペオ国務長官も続く、同年7月30日、全米商工会議所主催のフォーラムで演説し、米国がアジアのインフラ整備のために資金を用意して積極的に関わると明言しました。

これは「一帯一路」構想をはじめ、経済外交を強める中国政府の動きを牽制するため、代替的な資金調達先を提案するものと考えられています(2017年10月にレックス・ティラーソン前国務長官もそのアイディアには触れていました)。

中国の経済外交は自由民主主義に向かう各国の流れを逆行させ、さらに不透明で、国際基準を満たさない援助と批判されることが多いです。財政の健全性を損なわせるだけでなく、中国による介入を招くこともあるため「債務の罠」と称されています。スリランカやパキスタンなどが例としてあげられています。

そこでポンペオ長官は、「自由」には他国による強制からの保護、良き統治、基本的人権が含まれ、「開放」には海空路のアクセスや紛争の平和的解決、公正で互恵的な貿易、投資、透明性、連結性が含まれると、中国の動きを十分に念頭に置いて「自由で開放的な」インド太平洋構想を描いているのです。

2017年秋のトランプのアジア歴訪では、「自由で開かれたインド太平洋」は言及されたものの煮詰まったものではありませんでした。もちろん現時点でも政策の姿が見え始めたに過ぎないが、「国家安全保障戦略」を経て中国を念頭に置いたアジア政策は徐々に形にされています。

昨年6月には、最先端の技術・知的財産を窃取・侵害したり、合弁企業設置を強制して差し出させたりする振る舞いを厳しく糾弾する報告書もホワイトハウスより公表されています。対応するように、中国の対米投資規制の新たな枠組みも設けられました。

対中貿易赤字削減などで強硬姿勢をとるナバロ大統領補佐官の部局より出されているため経済ナショナリズムの一環ともみられているのですが、他方で投資規制や留学生規制につながるこれらの問題意識は、より広いサークルで共有されています。

中国への警戒心の強さは、日本はじめ本来アメリカの対中政策が手ぬるいのではないかと、オバマ政権以来批判を繰り返してきた同盟国の政策担当者や研究者にも驚きを与えるほどです。

それはトランプ政権に留まりません。

オバマ政権期に国務省でアジア外交を担った元高官2名は昨年春、中国がやがて国際社会にとって望ましい存在になるという前提を捨て去ることが必要だと、自省にも聞こえる一文をフォーリン・アフェアーズ誌に寄稿しました。

「あらゆる立場からの政策論争が間違っていた。中国が段階的に開放へと向かっていくことを必然とみなした自由貿易論者や金融家、国際コミュニティへのさらなる統合によって北京の野望も穏健化すると主張した(国際システムへの)統合論者、そしてアメリカの揺るぎない優位によって中国のパワーも相対的に弱体化すると信じたタカ派など、 あらゆる立場からのすべての主張が間違っていた。」(カート・キャンベル、イーライ・ラトナー「対中幻想に決別した新アプローチを」『フォーリン・アフェアーズ・レポート』2018年4月号)

カート・キャンベル元東アジア・太平洋担当国務次官補

中国を外から変化させることはできず、むしろ中国は独自の秩序構想に語勢を強め、権威主義的な統治モデルを輸出しようともしています。民主党の政治任用者がその点を正面から認めたことは重要です。

なお、共和党系では、ブッシュJr.政権のホワイトハウスに勤務した経験のあるアーロン・フリードバーグ教授(プリンストン大学)が、そのように中国台頭の本質を分析し、競争を全面に押し出した戦略の必要性を長きにわたり訴えています。

これまでに大きく関心を集めてきたとはいえないテーマに関しても議論は広がっています。例えば、昨年3月の議会下院の公聴会では、気鋭のメディア研究者が、アメリカの映画産業が中国政府を刺激するような表現を自己規制していること、さらに中国の関係者が「望ましい」映画コンテンツのあり方をロサンゼルスでレクチャーしているという生々しい現実を証言しました。

人気を博すエンターテイメント映画では、中国市場での収益がアメリカ市場に並ぶほど大きいという事実が、この背景にあります。(Aynne Kokas, “U.S. Responses to China’s Influence Operations, Testimony at House Foreign Affairs Committee, Subcommittee on Asia and the Pacific, March 21, 2018.)

    2016年配給の「オデッセイ」などハリウッドの大作映画で、中国の
    キャストや風景などの“中国色”が目立つ作品が増えてきた。

さらに、中国が協力者を募り、民主主義社会の内側に入り込もうとしていると、政治ツールへの警戒もありました。一昨年末に公表された全米民主主義基金(NED)の報告書を皮切りに、中国、ロシアが民主主義社会のなかに多様なチャンネルで入り込み、政治家・政党から学者、メディア関係者まで多くの人物が特定国に忖度した発言や行動をとる「シャープ・パワー」という概念も、少なくともワシントンでは人口に膾炙するようになりました。(『中央公論』2018年7月号の特集を参照)

このように例を挙げてみても、中国が投げかける挑戦に、実に多面的に懐疑の目が向けられていることに気づくでしょう。

過去40年にわたるアメリカ・対中関与政策の背景にあった中国への期待は薄れつつあり、中国との来たるべき本格的な競争に、党派を問わず、立場を問わず、多くの米国政府関係者、有識者が備えを本格化させています。

まさに米国の対中政策が2018年を転機に、対決一色になることは、予め予想できたのです。昨年米国では中国に対する批判は一巡し、中国に対抗するのは、米国の意思であるとの確認がされたのです。今年からは実際に逐次中国に対する対抗策を長期にわたって実行し続ける段階に移行したとみるべきです。

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