2022年4月4日月曜日

ロシア軍「ジェノサイド」確実 耳切り取り歯を抜かれ…子供にも拷問か 西側諸国による制裁長期化 「ロシアはICCで裁かれる」識者―【私の論評】プーチンとロシアの戦争犯罪は、裁かれてしかるべき(゚д゚)!

ロシア軍「ジェノサイド」確実 耳切り取り歯を抜かれ…子供にも拷問か 西側諸国による制裁長期化 「ロシアはICCで裁かれる」識者


 ウクライナ国防省は、首都のあるキーウ(キエフ)州全域を奪還したと発表した。ただ、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍による攻撃は、一般市民までも巻き込んだ大虐殺と化しており、血の気が引くような殺害が繰り返されている。「ジェノサイド(民族大量虐殺)」は確実といえ、西側諸国によるロシアへの制裁が長期化するものとみられる。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3日放送の米CBSテレビで、キーウ周辺の被害を「ジェノサイドだ」と非難した。拷問にあった子供もいるとみられ、ロシア軍が地雷を設置していることから住民にはすぐに帰宅しないよう呼び掛けている。

 犠牲になった一般市民の遺体は至る所で放置されている状況だ。

 英紙サンデー・タイムズによると、領土防衛隊としてキーウ近郊の警備に当たる庭師のトロビクさん(53)が、別荘地の地下室で18人の遺体を目にしたと証言した。「(ロシア軍は)拷問していたんだ。一部は耳が切り取られ、ほかは歯が抜かれていた。14歳くらいの子供の遺体もあった」という。

 これらの蛮行に対し、英国のボリス・ジョンソン首相は3日の声明で、「ロシアのプーチン大統領や軍が戦争犯罪を重ねていることのさらなる証拠だ」と非難した。英国は国際刑事裁判所(ICC)が進める捜査を全面的に支持するとの立場を示した。

 国連のアントニオ・グテーレス事務総長も、自身のツイッターで調査の必要性を訴え、「ウクライナのブチャで殺害された民間人の画像に深いショックを受けた」と投稿した。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領や、米国のアントニー・ブリンケン国務長官らも、ロシアの責任を追及する構えを見せた。

 米情報当局は、ロシア側が5月初めまでにウクライナ東部での勝利宣言をする可能性があるとも伝えるが、「戦争犯罪」から免れるはずもない。

福井県立大学の島田洋一教授は「ロシアの行為はICCで裁かれることになる。プーチン政権である以上、ロシアにはさらなる制裁強化も予想される。露骨な蜜月ぶりを披露してきた中国が賢明であるならば、積極的には動きづらい状況である。今後、勝利宣言に向けて戦火が広がれば、戦争犯罪も増えることが予想される」と指摘した。

【私の論評】プーチンとロシアの戦争犯罪は、裁かれてしかるべき(゚д゚)!

国際社会は、プーチンを「露骨に国際法を破った無法者」と非難しています。国際法とは、法律のように誰かに強制される法ではありません。国際社会の合意として成立している慣習です。この慣習は掟でもあり、従えない国は文明国として扱われないのが普通です。

国際法には、大きく二種類あります。一つがユスアドベルム(戦争のための法)、戦いの正当性に関する掟です。もう一つがユスインベロ(戦争における法)、戦い方の正当性に関する掟です。


ユスアドベルムには、以下の5つの条件があります。
  1. 正しい理由(攻撃に対する防衛・攻撃者に対する処罰・攻撃者によって不正に奪われた財産の回復)の存在
  2. 正統な政治的権威による戦争の発動
  3. 正統な意図や目的の存在
  4. 最後の手段としての軍事力の行使
  5. 達成すべき目的や除去すべき悪との釣り合い
ユスインベロには、以下に条件があります
  1. 戦闘員と非戦闘員の区別(差別原則)
  2. 戦争手段と目標との釣り合い(釣り合い原則=不必要な暴力の禁止)
テレビ、特にワイドショーなどでは、このあたりを曖昧にして論議をしていて、結果として米国批判、ロシア擁護のようになっている論調が見受けられることには驚くことがあります。

国際法ついては、詳細は以下の記事をご覧下さい。非常にわかりやす行く解説されています。
敵基地攻撃の装備を検討 脅威高まり「専守防衛」拡大
プーチンはユスアドベルムとユスインベロの双方に違反しています。プーチンとその支持者は「NATOが東方拡大の約束を破ったから」とウクライナの領土を戦車で踏みにじりました。

この「他国の領土を許可なく戦車で通る」は、ユスインベロです。ユスアドベルムにおける正当性が証明される限り、まったくの正当な戦い方です。ただし、仮にユスアドベルムの正当性が証明されなかったとしても、違法ではありますが犯罪ではありません。ましてやプーチンの命令に従って戦ったロシアの軍人個人に責任はありません。

またプーチンは、「ウクライナがロシア人を虐殺している」と自らを正当化していますが、開戦事由にはならないです。それが一国の判断で許されるなら、侵略戦争はやりたい放題になります。仮にユスインベロに関してウクライナに非があったとて、ロシアをユスアドベルムで正当化できないです。

そもそも。人の世に殺し合いはなくならないです。事実、現在のウクライナとロシアは敵同士です。しかし、お互いが敵になったのですが、人間でなくなったわけではないです。だから、戦いの正当性如何にかかわらず、戦い方には掟があると考えるのが国際法です。

ウクライナ国防省は3月2日(現地時間)、フェイスブックに「捕虜になった息子があなたを待っている」というタイトルで投稿し、母親たちがウクライナに息子を連れに来れば捕虜を返すことにしたと明らかにした。[ウクライナ国防省のフェイスブック]

だからこそ許されない戦い方があるのです。民間人への無差別攻撃、病院への攻撃、原発への砲撃、核兵器の先制使用による威嚇、などなど。他にプーチンは、非武装地帯を設定して、そこを通る者を虐殺する常習犯です。これは違法ではなく、明確な犯罪です。

違法と犯罪は違います。浮気と殺人の違いくらい違います。

ユスアドベルム=ロシアのウクライナ侵攻に正当性があるか?
ユスインベロ =ロシアがウクライナでやっていることに正当性があるか?

プーチンとそのプロパガンダを垂れ流す論者の主張を、これに当てはめてみます。

■ユスアドベルム(jus ad bellum)に関するプーチン及び擁護者の主張
①NATOが約束を破って東方拡大した。
②ウクライナはロシア人を虐殺している。
③ウクライナはネオナチだ。
④ウクライナはディープステートだ。
①~④の後に「だから自衛行動をとる」と続きます。

①は1945年にロシア自身が禁止した「予防戦争」です。1914年までなら問題ないですが、現在は違法です。

②であれば、国連に訴え、その調査を待てばよいです。満洲事変でこれを実施した日本を批判していたのは、どこの国だったでしょう。

なお、「ウクライナ人がモスクワで無差別テロをやった」という主張があり、国連決議を採れれば、9.11テロでアフガンのタリバン政権を破壊した米国と同じです。

仮にウクライナ政府がロシア人を虐殺しているとしても、手続き上の正当性はありません。満洲事変の時の日本政府でさえ、中華民国に何度も抗議をしています。


これは事実だとしてもユスインベロであり、ユスアドベルムではない。ここをごちゃまぜにしていることを、プーチン擁護論者はわかっているのでしょうか。

③これは、ロシアの外交官が主張しています。これが開戦事由なら、日本の右翼が北方領土に上陸したら、東京にミサイルを撃ち込んで占領して良いという理屈になります。尖閣諸島に、中国が民兵を上陸させたら、日本は香港にミサイルを打ち込んで占領して良いという理屈になります。この程度のレベルですから、ロシアは今や同盟国にすら笑い者にされているのです。

④は、さすのプーチンすら言っていません。これを語る日本人は、アタマは大丈夫なのでしょうか?もちろん、開戦事由にならないのは③と同じことです。

国際紛争において、正当性が無い相手だからと何をやっても良い訳ではありませんし、正当性があるからと何をやっても良い訳ではありません。

たとえば、「相手がネオナチだから」とか、「ディープステートだから」それだけの理由で虐殺してよい訳ではありません。無論これは立場を変えて、相手がプーチンの侵略戦争に加担しているロシア人だからと、何をやってもよいというわけではありません。

国際法は「お互いに敵になっても人間でなくなったわけではない」を大原則とします。これを認めないと、戦いは無限大に悲惨となります。だから、「殺し合いにおいても守らねばならない掟がある」と説いたのが、フーゴ―・グロティウスです。

以上を踏まえた上でユスインベロ、プーチンの行動は正当化されるるかどうか検討してみます。

■ユスインベロjus in bello

①正規軍隊による国境突破。→ユスアドベルムが証明される限り正当。
②民間人への殺人→原則違法。あるいは犯罪。
ただし、正当な理由がある限り、正当。誤認の場合は、謝罪・賠償・責任者処罰・再発防止を自分で行う。復仇として認められる場合もありますが、著しい過剰防衛は許されないです。正当性の証明は一義的に加害者が行う。
③核兵器の先制使用による恫喝
これは、意味不明です。少なくとも、非核国のウクライナ相手に行う理由はありえないです。
④原発への先制砲撃。
人類史上初の行為なので確立した国際法はなく、今回が先例となるでしょうが、確実に人道に対する罪。つまり、ヒトラーと同ですじ。ロシア政府公式見解「ウクライナが挑発してきた」ならばですが、この時点で100%の犯罪です。ロシア側は「やってない!」と国連で主張しています。
⑤正規軍隊による占領、領土の一部ないし全部の割譲。
講和条約の条件となるので、ユスアドベルムに戻ります。ユスインベロに著しく反している場合、国際社会が認めない場合が多いです。ちなみに、プーチン擁護論者は、ここまで「違法(行為)」と「犯罪」を区別して使ったの、理解しているのでしょうか。わからなければ、身近な外交官にでも質問すべきです。
ユスアドベルム(戦争のための法)において、その戦いの正当性が証明されなかった場合は、単なる違法です。負ければ、国が領土や賠償金を払って償わなければならないです。逆にユスインベロ(戦争における法)を犯した者は、戦争犯罪人として牢屋行きです。

スロボダン・ミロシェビッチやサダム・フセインは容疑の証明が曖昧だったにもかかわらず、牢屋に送られて死にました。 日本人はプーチンを甘やかしてきましたが、奴は日本とって味方でも何でもないことを認識すべきでしょう。

上の記事では、ロシアの行為はICCで裁かれることになるとされていますが、それは可能なのでしょうか。

ICCにおいては、戦争犯罪行為を実行した兵士の法的責任を追及する「侵略戦争を引き起こした」罪でも起訴することができます。

これは、正当化できない侵略や紛争、正当化できる自衛の範囲を超えた軍事行動などに適用さます。

こうした行為が犯罪と見なされるのも、ニュルンベルク国際軍事裁判が発端です。当時のソヴィエト連邦政府が派遣した判事が連合国に対し、ナチスの指導者を「平和に対する罪」で裁判にかけるべきだと説得したのがきっかけです。

しかし、これには問題があります。英ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドンのフィリップ・サンズ教授(国際法)によると、ロシアはICCの締約国ではないため、その指導者を平和に対する罪では裁けないといいます。

理論的には、国連安保理が平和に対する罪についてICCにで捜査を依頼することもできます。しかし常任理事国のひとつとして、ロシアはこれにもやはり拒否権を発動するでしょう。

ICCや国際法が現実でどのような効力を発揮するのかは、条約そのものだけでなく、政治や外交にも左右されます。

サンズ教授をはじめとする専門家らは、今回のロシアのウクライナ侵攻の処理はニュルンベルク裁判のように、外交と国際的な合意に委ねられるとみています。

サンズ教授は各国首脳に対し、ウクライナ侵攻における犯罪を裁く特別法廷を設けるよう働きかけています。いずれにせよ、どのような形式であれ、これは裁かれるべきでしょう。

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2022年4月3日日曜日

物価上昇緊急対策 “補正予算含め大規模な対策を” 菅前首相―【私の論評】岸田政権の最善の経済政策は、安倍・菅政権の政策を忠実に継承すること(゚д゚)!

物価上昇緊急対策 “補正予算含め大規模な対策を” 菅前首相


物価の上昇を踏まえた緊急対策をめぐり、自民党の菅前総理大臣は、今年度の補正予算案の編成も含めて、大規模な対策を講じるべきだという考えを示しました。

ウクライナ情勢に伴う物価の上昇を踏まえた緊急対策について、政府は、今年度予算の新型コロナ対応などの予備費で財源をまかなう方針ですが、公明党は、補正予算案を編成し、今の国会で成立させるべきだと主張しています。

自民党の菅前総理大臣は、フジテレビの番組「日曜報道 THE PRIME」に出演し「経済を活性化させる対応が極めて大事で予備費で数兆円規模などと言われているが少ないと思う。補正予算も含めて、全力で取り組むべきだ」と述べ大規模な対策を講じるべきだという考えを示しました。

一方、アメリカの核兵器を同盟国で共有する「核共有」をめぐる議論について菅氏は「時代と情勢に合わせて議論することは避けるべきではない」と述べました。

【私の論評】岸田政権の最善の経済政策は、安倍・菅政権の政策を忠実に継承すること(゚д゚)!

菅前総理はけさ、民放の番組に出演し、政府が今月末までにとりまとめる緊急経済対策について「補正予算案の編成も含め経済対策に全力で取り組むべき」だと主張しました。

岸田総理はおよそ5.5兆円の新年度予算の予備費を活用し、迅速な対応を優先する方針ですが、菅前総理は新年度予算の予備費だけでは「少ない」と指摘。予備費5.5兆円の倍は必要かと問われたことに対し「思い切ってやった方がいい」と答えました。

緊急経済対策の財源をめぐっては公明党も補正予算案の編成を主張していて、政府・与党内で意見が割れています。

「思い切ってやった方がいい」とは具体的にどの程度を意味するのか、わかりませんが、方向性としては正しいです。安倍、菅政権においては、20年から21年にかけて、大規模な財政政策を実行しました。補正としては両政権期間中でコロナが感染し始めてから、菅政権が終了するまでの全期間あわせて、おおよそ真水で100兆円の補整予算を組み、実行しました。


コロナで痛めつけらていた日本経済は、約100兆円のGDPギャップがあり、需要不足を補うにはぎりぎりの対策であったといえます。巨額の対策であるようにも見えましたが、それでも、経済をコロナ以前に戻すだけの効果しか期待できないものでした。

それでも、迅速な対応日本のコロナ経済対策は、他国と比較してもかなり進んでいるといえた状況になりました。特に、コロナ禍による雇用の落ち込みは、世界で最低であり、これは両政権の経済対策は十分に奏効していたといえます。

安倍・菅両政権の経済政策が失敗したかのように思い込んでいる人も多いようですが、それはテレビのワイドショーによる刷り込みに過ぎません。数ある景気指数の中で、もっとも重要なのは雇用です。雇用が良ければ、他の指標が多少悪くても、経済政策は及第点といえます。

逆に雇用が悪ければ、他の指標がいくら良くても、経済政策は失敗といえます。その点からいっても、安倍・菅両政権の経済政策は、及第であったのは間違いありません。これを失敗とする方は、明確な根拠をあげて下さい。根拠なしに、そのようなことを主張するのは、単なるフェイクです。


岸田内閣はどうかといえば、安倍・菅内閣とは違います。たとえば、今回補整予算を組まずに、5.5兆円の予備費で済ませようとしているのは、あり得ないことです。

内閣府による3月の月例経済報告において、昨年7~9月期のGDPギャップはマイナス4・8%とみています。10~12月期は新型コロナが落ち着いており、GDPは前期比1・3%伸びたので、GDPギャップはマイナス3%台半ばでしょう。しかし、今年1月から蔓延(まんえん)防止等重点措置をとったので、今のGDPギャップはマイナス5%程度ではないでしょうか。

このGDPギャップの数字はあくまで内閣府のものであり、完全雇用にするためには5%の穴埋めでは不十分で、7%程度でないと達成できないことに留意すべきです。

高橋洋一氏が昨年11月に予測した需給ギャップの推移

となると、補正予算は真水ベースで30兆~40兆円程度が必要ということになります。経済対策として何をやるのが最も効果的なのかについては、諸説ありますが、それにしても最初から30兆円未満の対策しかやらないというのであれば、ほとんど効果はありません。

このままだと、せっかく安倍・菅両政権において、他国のように失業率が跳ね上がることを防いできたのに、岸田政権では失業率が跳ね上がることになります。

安倍・菅両政権においては、少なくともGDPギャップに着目して、需要刺激策をとり、景気の落ち込みを防いだり、回復しようとしました。菅政権が現在でも継続していれば、間違いなくGDPギャップを埋めるための補正予算を組むことでしょう。だからこそ、菅前総理は、上の記事のような発言をしたのでしょう。

岸田政権には、そのような考えはないようです。マクロ経済音痴なら、自分で考えたり、緊縮にしか興味のない財務官僚、金融引締が信条の日銀官僚の言うことを聴くのではなく、安倍元総理や、菅前総理のいうことを聞くべきです。

18歳以下への10万円給付でさえ、グダグダの岸田政権。分配を声高に主張するにもかかわらず、成長戦略はありません。自らの派閥、宏池会のオリジナルの所得倍増計画さえ、言わなくなってしまった岸田総理です。

いつの間にか岸田政権で一番まともな経済政策を言わなくなってしまった岸田首相

米英など素早くコロナ禍による経済の落ち込みから脱却して、はっきりとインフレ加熱状況となり、現在は利上げなどに踏み切っています。現在は次の段階でロシアに対する経済制裁への対応に果敢に挑戦しようとしています。日本は周回遅れで、未だデフレ気味で、この有様です。物価目標2%すら達成していないうちから、「悪い円安」「悪いインフレ」などと言い出す、ド馬鹿な識者まで登場する始末です。

このままでは、昨日も述べたように、ロシアが経済制裁による悪影響から立ち直った後でも、日本だけが落ち込み、再びリーマンショック後に震源地であって米英等の国々が立ち直った後でもなお、一人負けの状態に陥ったように、世界唯一の経済敗戦国になりかねません。

一番良いのは、岸田首相は自分自身には経済センスがないとあきらめて、今は安倍・菅両政権の経済政策を忠実に踏襲することです。財務官僚や日銀官僚のいうことを十分に聴いた上で、自分の頭で考えて異なる経済政策を実行すれば、負けです。

何度か、安倍・菅政権の政策を忠実に再現して、なぜ大きな失敗をしないのかを検証した上で、次につなげていくべきです。その上で、次は自分の頭で考えてより良い政策を実施すべきです。自分が何を理解できていないのかを知ることは、誰にとっても思いの外難しいことです。安倍元首相でさえ、第一次安倍政権が崩壊した後に、それを理解するのにある程度の時間を要しました。

ただ、自分の理解しないことを、身近な人間の話を聴いただけで、実行すれば破滅的結果を招くことになります。このようなときに一番頼りになるのは、真に保守的な態度です。すでに、実行されているものの中で、成功したものだけを受け入れることです。失敗したものは、排除することです。

財務省官僚や日銀官僚の走狗と化した識者の語る、物価目標すら達していないのに、緊縮財政や金融引締政策の実施するなどの超ウルトラCは実行しないことです。そのような超ウルトラCは他国では一度も実施していません。日本だけが実施したものです。その結果30年間も日本人の賃金は上がらなかったのです。

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2022年4月2日土曜日

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日本の解き方

岸田首相

 日銀が長期金利を抑制するための「指し値オペ」を連続で実施したことを受けて、為替市場で一時、1ドル=125円台まで円安ドル高が進む場面があった。「物価上昇に拍車」「家計に負担」といった報道も見られるが、問題はどこにあるのだろうか。

 岸田文雄政権は「原油高、原材料高、物価高」が生じているとの認識だ。このうち個別の原油高と原材料高はその通りだ。しかし、供給が需要を上回るGDPギャップが30兆~40兆円程度あるので、物価全体の上昇にはそう簡単にならない。コストプッシュという要因はあるが、需要不足のために価格転嫁ができるところは限られてくるためだ。

 原油や原材料高への対応策も、マクロでGDPギャップを埋める有効需要策と、ミクロで個別価格高に対応するガソリン税の減税、消費税の軽減税率適用拡大を実施すればいい。

 だが、岸田政権は物価高を強調し、マスコミもそれに同調している。原油高、原材料高に加えて円安なので、物価高になるとあおっているわけだ。さらに、円安を悪いものと決めつけ、円安是正のための金利引き上げまで主張する人もいる。そこまでくると、さすがに経済の基本原則を分かっていないと言わざるを得ない。

 先進国は変動相場制だ。国際金融のトリレンマ(三すくみ)があり、①資本移動の自由②金融政策の独立性③固定相場制―の3つのうち2つしか選べないから、③を諦めた結果だ。ということは、為替のために金融政策を使うことは基本的に間違っている。

 そして、ここで金利を上げれば、再びデフレになってしまう。はっきりいえば、現段階で円安是正のために金利引き上げを主張する人はデフレ指向者だ。結果として、それは国内雇用を考慮しないこととなる。

 一方、岸田政権が物価高を強調するのは、いうまでもなく、今後の補正予算の金額を渋りたいからだ。GDPギャップを埋めるという観点からは、財政支出を真水で30兆~40兆円の規模にしなければいけない。しかし、今のところ、第1段階で当初予算の予備費5兆円、第2段階で10兆円規模しか聞こえてこない。これではGDPギャップを埋めるまでにはならない。

 そもそも今の円安が日本経済に悪いかといえば、そうでもない。あくまで為替は金融政策の結果であり、国内の雇用は確保されている。

 為替は二国間の金融政策の差で長期的に決まる。米国ではGDPギャップがなく物価高であるので金融引き締めになるが、日本はGDPギャップがまだあり物価高になっていないため、金融緩和しなければならない。ある程度の円安になるのは当然で、日本経済全体にとっては悪くない。ほとんどの国で自国通貨安はGDPを増加させる。

 為替に対する見解は、国内雇用に配慮したものではなく、自分に都合が良い「ポジショントーク」であることがしばしばだ。金融業者の金儲けの話とマクロ経済運営は別にする必要があるが、今のマスコミ報道は、金融業者の話ばかりだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】警戒せよ!岸田政権の経済政策で、ロシアが経済制裁から立ち直った後でも低迷し続ける日本(゚д゚)!

2021年後半あたりから日本の経済メディア目立っているのは、1ドル115円に接近する円安が進むなかで、「悪い円安」が起きているとの主張です。「良い」「悪い」というのは、何らかの価値判断に使われる言葉ですが、その判断は何なのかわからないまま、「悪い」と語られています。今の日本の状況をうけて、「悪い円安」が起きているとの議論の多くは的外れです。


一例をあげると、インフレ率の変動などを調整した実質実効ベースで通貨円が、1970年代以来の水準まで低下していることをうけて、「行きすぎた円安」が起きているとされています。実質実効ベースの円が大きく低下しているのは事実ですが、この動きと合わせて、ガソリンの価格上昇で家計の負担が増えていることが強調され、円安が貧しい日本の象徴であり、「悪い円安」と庶民感情に訴えるかのような議論は全く無意味です。

仮に、現在の円安が望ましくないとすれば、通貨価値に決定的に影響を及ぼす金融緩和政策が妥当ではないことになります。そもそも、このあたりから議論が噛み合わないことが多いです。米国のように、金融緩和がかなりすすみ、高インフレになった場合は、金利を上げたりして、抑制策をとるのは当然のことです。日本においてはコロナ後の経済復調が芳しくないため、かなり低いインフレのままですから、金融緩和策を取り続けるのは当然です。

米国が金融抑制策をとり、日本が金融緩和策をとれば、相対的に米国のドルが高くなり、日本の円が安くなるのは当然のことです。そもそも、このことがわかっていない人が多いようです。為替は、金融緩和の状況によってほぼ決まるものであり、ある国が緩和をし、米国が引き締めをすれば、緩和を継続している国の通貨は安くなります。

これは、物価と同じようなところがあります。市場において、ある商品が生産されなく少なく希少であれば、その商品の価値は上がり値段は上がります。逆に、ある商品が大量に生産されれば、その商品の価値は下がり値段は下がります。ある商品の値段が上がったり、下がったりすること自体は、良いとも悪いともいえません。この商品というところを貨幣と置き換え、生産というところを発行と置き替えていただけば、御理解いただけると思います。

量的にも質的にも、より大規模な緩和をしている国の通貨がそうではない国の通貨より安くなるのは当たり前のことです。だから「円安」や「円高」そのものを良いとか悪いなどと評価するのは間違いです。その時々で、「円安」や「円高」が日本経済に悪い影響を及ぼしていると判断された場合、はじめて「現状において円安は悪い、円高は悪い」などと評価すべきなのです。

これで、理解できない方は、残念ながら、高校の「政治経済」の教科書などを読み返していただきたいと思います。高校の教科書等馬鹿にできないです。特に財政政策や金融政策については、理解しやすいように懇切丁寧にわかりやすく説明されています。

すくなくとも、この位の知識がなければ、「悪い円安」などと言われても、そもそも判断ができないと思います。その状態でテレビの「ワイドショー」などで、識者が「悪い円高」などと語ったことを鵜呑みにすべきではないです。そのことが、あとで回り回って、あなた自身、あなたの会社、あなたのお子さんや、あなたの孫を窮地に陥れることになるかもしれません。


それに円安は悪いことばかりではありません。円高だと海外投資が増える傾向になりますが、円安だと、海外投資は割高になり、日本国内に投資が向くことになります。実際、上のグラフをごらんいただくと、おわかりいただけるように、円ドル相場と民間企業設備投資には正のの相関関係があり、円安だと国内投資が進み景気も良くなります。

日本では、金融緩和政策はもっと強化される余地が十分ありますし、金融緩和を後押しする拡張的な財政政策が必要です。にもかかわらず、2021年から、税収が大きくに伸びる一方で財政支出が減少したとみられ、財政政策はかなり緊縮方向に転じたと言えます。

今後日本において妥当な金融財政政策が続くなら、更に円安が進んでも不思議でありません。そうして、それを「悪い円安」と評価することはできません。ただ、緩和が進み金融緩和策を継続しても、物価目標を超えインフレが加速するだけで、雇用の改善が継続しなければ、それ以上の緩和は無意味であるどころか、良くない状況です。このときに、円安になっていれば、それこそ「悪い円安」と呼んでも良いかもしれません。

ただ、現在日本経済はそのような状況にはなく、金融緩和を継続すべきですし、積極財政も実行すべきです。原油価格等が高騰している現在においては、仮に2%の物価目標を達成したとしても、さらに金融緩和、積極財政を継続すべきです。少なくとも、3%とか4%になってから、どうすべきかを精査すべきと思います。その時に最も重要な指標は雇用です。

雇用こそ数ある経済政策で最も重要な指標であり、これさえ良ければ、他の指標が悪くても経済政策は奏効しているといえます。他の指標がのきなみ良くても、雇用が悪ければ、経済政策は失敗です。雇用が改善されつつあるなら、5%になっても金融緩和、積極財政を継続すべきです。

1990年代前半までは、日本は一人当たりGDPで比較して先進国の中でも最も豊かな国に属していたが、1990年代後半から経済が停滞期に入り、2000年代以降は普通の先進国程度まで経済的な豊かさは低下しました。賃金も30年間も伸びていません。

ただこれは、1990年代半ば以降に緊縮的な金融財政政策が続き、超円高が長引きデフレに陥るとともに、実質GDP成長率が長期にわたり停滞し続けたことが引き起こしたものです。要するに、金融財政政策を間違えたのです。他の生産性がどうの、社会構造がどうのという議論は、根本的に間違えています。

金融財政政策が間違えているさなかに、生産性をあげようとしたり、社会構造を変えてみても、経済が良くなることはありません。まともな金融財政政策が行われている最中であれば、だまっていても生産性が上がり、社会構造の変化もすすみます、さらに努力を重ねれば、さらに進む可能性もあります。その逆はありません。順番を間違えるべきではないのです。

第2次安倍政権発足と同時に起きた金融政策の方向転換によって、財政政策そのものは二度の増税によって転換はしなかったものの、デフレ圧力が後退して雇用が生まれ、2012年から2017年頃まで、主要な欧州諸国と遜色ない程度には日本でも一人当たりGDPが伸びました。

ただ、コロナ後の復調局面で再びスムーズに経済成長を遂げた米国と比べると、日本は「置いてけぼり」とも言える状況となり、再び大きな差が開きつつあります。

日本のコロナ後の政策の多くが機能不全となっていることが一因ですが、最近の的外れな「悪い円安論」が目立つことには、今後も日本の経済政策が妥当に行われない可能性が出てきました。米英などインフレが加速していた経済とはと大きく日本の経済の状況が異なるにもかかわらず、「船に乗り遅れるな」という薄弱な理由で、緊縮的なマクロ安定化政策に転じる予兆に見えるからです。

1月中旬には、「2%インフレを実現する前に日銀が利上げを行う」との一部メディアの観測報道が話題になりました。この観測報道の出所は、1990年代後半から長年にわたりデフレを放置してきた日本銀行OBなのではないかと考えられます。

彼らはね、元々緊縮的政策志向が極めて強いのですが、現行の日本銀行の体制では本音を隠す官僚組織の代弁者としてOBが振る舞っているのではないでしょうか。

実際に、黒田日銀総裁は1月18日の会見において、早期利上げの議論について否定しました。ただ、岸田政権が発足したことで、極めて保守的な経済官僚が今後のマクロ安定化政策の舵をとる可能性が高まっているようにみえます。

本来であれば米英で現在起きているインフレ上昇は、金融財政政策をしっかり行えば日本のデフレは克服することができる、ことを示す格好の事例のはずです。大規模な金融緩和を実施して、インフレ率が8%にもなった後に利上げなどして抑制策をとっているにもかかわらず、ただ、日本では、保守的な経済官僚が緊縮的な政策に転じる理由として使われるのかもしれないです。

日本銀行の早期利上げの観測、それと親和性が強い「悪い円安論」の議論が目立ちますが、それは岸田政権下においてコロナ後の日本経済が再び長期停滞期に舞い戻るリスクが大きいことを意味するかもしれません。その後も似たようなスタンスの政権が続けば、日本はとんでもないことになるかもしれません。

だとすれば、日本ではロシアが経済制裁から立ち直った後も、経済は落ち込み、リーマン・ショック後の日本のように、世界で一人負けの状況に陥り、「失われた30年どころか」「失われた50年」を迎えることになるかもしれません。

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2022年4月1日金曜日

露プーチン政権への“クーデター”を恐れる習近平。絵空事ではない中国大崩壊―【私の論評】中国にロシアとウクライナの仲介を絶対にさせてはいけない理由(゚д゚)!

露プーチン政権への“クーデター”を恐れる習近平。絵空事ではない中国大崩壊

プーチンと習近平

3月30日に行われた外相会談で協力関係の強化を確認した中ロですが、習近平政権サイドが抱えるジレンマは相当に深刻なもののようです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、ロシアの政変が中国崩壊に直結しかねない理由を解説。それ故に習近平国家主席は、ロシアとプーチン大統領を支援せざるを得ない苦しい立場に追い込まれていると指摘しています。

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2022年3月30日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)

1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【中国】ロシアでクーデターが起これば習近平政権も中国も大崩壊

中国資産巡る警戒感、強まるばかり-中ロ首脳の結束で政治リスク

ロシアのウクライナ侵略以降、中国に対する投資家の警戒感が高まりつつあります。ブルームバーグによれば、外国投資家が中国投資の際に参照するMSCI中国指数が、他国の株価指数に対して、過去20年余りで最大に近い定位で推移しているということで、外国投資家が中国株から逃避していることがわかります。

習近平もプーチン同様に全体主義国家の独裁者であり、何をしでかすかわからないという不気味さがあるからです。ロシアへの軍事協力により西側諸国の制裁対象になる可能性もあり、また、台湾侵略を強行するかもしれないという懸念があるため、外国人投資家は手を出しにくくなっているのです。

中国政府は株式市場の安定や経済成長を支える政策を打ち出し、また、これまで行ってきた巨大IT企業などへの締め付けを早期に終わらせるとアナウンスすることで、外国人投資家の懸念を払拭しようとしています。

中国は株式市場を安定維持へ、国外上場も支持-本土・香港株急騰

これにより一時的に株価は上昇に向かったようですが、冒頭の記事によれば、外国人投資家は利益を確定するための準備に入っており、持ち直しは長くは続かないと予測しています。

いずれにせよ、習近平政権のリスクについて、投資面でも世界は気づき始めたということなのです。つい数年前まで、外国企業も外国政府も中国にどっぷり浸かっていたことから考えると、隔世の感があります。

そしてもうひとつ、世界が懸念しているのは中国の「ゼロコロナ政策」です。これについては1月のメルマガでも書きましたが、中国はこれまで新型コロナに対して完全に封じ込めていると「勝利宣言」をしてきました。

ところがオミクロン株という感染力の強い変種が出てきたため、中国国内で感染者が激増してきています。ただしオミクロン株は感染力は強くても重症化率や死亡率が低いのはご承知のとおりです。

そのため、多くの国々では「ウィズコロナ政策」へと転換しているのですが、中国共産党は絶対に誤りを犯さないという無謬の存在ですから、ゼロコロナ政策から転換したくても、出来ないのです。

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3月28日から、中国最大の経済都市である上海がロックダウンされました。ユニクロもテスラも休業や工場停止に追い込まれています。

上海ロックダウンで「ユニクロ」休業、テスラも工場停止…コロナ新規感染は最多更新

今年の秋に最高指導者として異例の3期目を目指す習近平にとって、コロナ対策で失敗することは命取りとなります。いまさら「ゼロコロナ政策は失敗でした」などとは、口が裂けても言えないでしょう。

そのため、無理をしてもゼロコロナ政策を続けているというのが現在の中国なのです。現在では、クラスター感染を起こした地域では、感染対策を怠ったとして、地方幹部がどんどん処罰されており、3月だけで150人以上が免職や停職などの処分を受けたそうです。

「ゼロコロナ」の中国、大学クラスターで市長免職…3月だけで地方政府幹部ら150人超処分

こうなると、幹部は感染者数をごまかそうとするでしょうし、それによって感染者が爆発的に増え、そしていずれロックダウンをせざるを得なくなるという負の連鎖が始まります。外国投資家も、怖くて中国に投資できるはずがありません。これも独裁国家であるがゆえの負の部分です。

新型コロナが世界的流行を見せた初期の頃、決定が遅い民主主義国家よりも、トップダウンで物事が決まる独裁国家のほうが、パンデミックに対しては有利なのではないかという意見がありました。しかし、ロシアのウクライナ侵略から完全に潮目は変わりました。全体主義、独裁国家の危うさがはっきりと露見したのです。

そして世界は、中ロなどに対して備えるようになりました。台湾ではウクライナ情勢を踏まえて、自衛力強化を図る動きを強めており、2018年に事実上廃止された徴兵制の復活を検討し始めていると報じられています。

徴兵制を事実上廃止した台湾、ウクライナ戦争で4年ぶりに回帰か

中国にとって最悪なのは、ロシアで政変が起こることでしょう。プーチン政権内部では、高官の辞任や国防相が表に出てこないといったことが続き、国民の不満の高まりもあって、クーデター説が絶えません。

プーチン政権に不満渦巻く くすぶるクーデター説 ロシア高官辞任、国防相は雲隠れ

もしもロシアでクーデターが起これば、中国でも失脚させられた高官や弾圧されてきた民主派、あるいは反習近平派の逆襲が始まる可能性が高まります。西側諸国からロシアと同一視されることを回避したい習近平政権としては、本来はプーチン政権と距離を起きたいはずですが、とはいえプーチン政権が倒れれば、その余波は自分にも向かいかねません。だからプーチン政権を支えざるをえないというジレンマに陥っているのです。

かつてソ連が崩壊しても中国は崩壊しませんでした。その理由としては、鄧小平が毛沢東路線を捨てて改革開放路線に舵を切って西側に近づき、個人の独裁体制から集団指導体制に変わったことも大きな要因だったと思われます。

しかし習近平は現在、毛沢東路線へ回帰し、個人崇拝の独裁体制を強化しています。プーチン独裁が終わりロシアに政変が起これば、それは中国でも個人独裁の弊害が意識され、習近平下ろしの権力闘争が始まるかもしれません。それどころか、ロシア崩壊が中国崩壊に直結して共産党独裁体制が終わる可能性すらあります。

習近平は、そのような厳しい状況にあるため、ロシアとプーチンを支援せざるをえないのです。

【私の論評】中国にロシアとウクライナの仲介を絶対にさせてはいけない理由(゚д゚)!

習近平は厳しい状況にあるのですが、一方で中国にウクライナとロシアの仲介をさせよという声もあります。しかし、これだけは避けるべきですし、それにウクライナ侵攻の原因にもなったバイデン政権にその反省も意味も含めて大きな役割を果たさせるべきです。

ロシアがウクライナに侵攻する直前、バイデン政権には、CIAをはじめ複数の情報機関から「プーチンはウクライナ侵攻を既に決断した」との確報が次々に寄せられていました。ところが、バイデンは信じ難いミスを犯しました。


極秘にすべきインテリジェンスを敢えて公表しながら、「侵攻には大規模な経済制裁で応じる」と言うだけで、軍事上の措置は取らなかったのです。 

NATOに加盟していないウクライナに米軍を派遣する条約上の義務はないと明言して、プーチンの軍事侵攻を後押ししてしまったのです。米大統領の机上には「宝刀が載っていない」と手の内を晒す戦略的誤りを犯してしまいました。 

その結果プーチンは安んじてロシア軍にウクライナへの全面侵攻を命じています。その後もバイデンは「攻撃が東部地区に限られるなら制裁も小振りになる」と述べ、「ミグ戦闘機をドイツの米軍基地を経由してウクライナに送る」とのポーランドの要請も断わってしまいました。バイデンは迷走に次ぐ迷走を重ねていきました。

 「想定できない事態をこそ想定し備えておけ」。安全保障に携わる者の大切な心構えです。ところが、米国の外交・安全保障当局者たちにとって「プーチンの戦争」は、彼らの予想を遥かに超えるものとなりました。ロシア軍の侵攻は、東部の国境地帯に限定されるはずと楽観的だったが、いまや戦火は全土に広がっています。 

最大の誤算は、原子力施設への攻撃でした。チェルノブイリ原発はすでに廃炉で、ベラルーシから首都キエフを衝く途上のため占拠したにすぎないと軽く見たようですが、こうした見立ては惨めなほどに間違っていました。

ロシア軍は、欧州最大のザポリージャ原発をはじめとする原子力施設を制圧しました。プーチンは“神の火”たる原子力は我が掌中にありと誇示、右手に原子炉、左手に核ミサイルをかざし、西側世界への脅しました。 


プーチンは国連憲章や国際法など歯牙にもかけない旧ソ連の復興を願うソ連人であり“現代ロシアの皇帝”でもあります。そうして小児病院や産院まで標的にし、正義の戦いだと主張することすらやめ、戦争犯罪者になろうとしています。「プーチンの戦争」は最後の一線すら越えたのです。

イラクやシリアでも、隣国の主権を踏みにじり、自国民に化学兵器を使う指導者が現われましたが、超大国米国は時に武力を行使して国際秩序を守ってきました。ところが、「バイデンのアメリカ」は、民主主義の守護神としての役割を果たそうとしていません。 

米国が介入したら第三次世界大戦になる、ロシアが核を使うなどと言われていますが、最初からエスカレーションしていきなり核の使用まで行くというよりは、それまでにいろいろな階段があると考えられます。

その階段を全否定するような介入論は、抑止を危うくするだけであるにもかかわず、米国がウクライナに軍事介入すれば、第三次世界大戦となり、核戦争の恐れすらあると慎重な姿勢を崩しません。それゆえ、プーチンは、そんなバイデンの弱腰につけ込み、いまも侵攻を続けています。

キューバ危機に際して、ケネディ大統領は、核のボタンに手をかけることも辞さないと決意を固めたことでクレムリンの譲歩を引き出し米ソ核戦争は回避されました。これが核の時代の究極のジレンマなのです。 

「キューバ危機」当時、キューバから離れるソ連船と警戒する米軍。1962年11月10日

プーチンの戦争を止めるには、主要国の調停が必要です。キーワードは「中立化」です。ウクライナは、いまはNATOに加盟しておらず、妥協の余地はあるはずです。一方のロシア側もウクライナのNATO加盟を断念するよう求めています。

問題は非武装化の主張ですが、戦局が不利になれば、プーチンも態度を軟化させる可能性があるはずです。 

日本も各国と連携して調停に動くべきでしょう。中国に調停させようという声もありますが、先にも述べたように、それだけは絶対に避けるべきです。それは、上にあるような習近平の窮地を救うことになりかねません。

ウクライナ人とロシア人は「一つの民族」であり、ウクライナは不条理な形でロシアから奪われたと主張するプーチン氏の論文は昨年7月に発表されていました。ボリシェビキ革命によって、不当に奪われたウクライナを取り戻すのがロシアの役割だという主張を、21世紀の現代の価値観への信頼から、人類が過去に戻るはずはないと楽観的にとらえ、プーチン氏の言葉を重視しなかったのが西側です。

プーチン氏が隠すことなくその意志を公開してきたのと同様に、習氏もその考えを公開してきました。習氏は2017年10月、第19回中国共産党大会で、中華人民共和国建国100年に当たる2049年には、中華民族は世界諸民族の中にそびえ立つと決意表明しました。そのとき世界秩序の基礎となるのは中国共産党の価値観だと明言しましたた。

そのような中国が調停に成功すれば、習近平はノーベル賞を受賞して、意気揚々と台湾の併合に乗り出すでしょう。そのときも、バイデン政権であれば、やはり核戦争になる、第三次世界大戦になるからいって、これに米国は介入しないかもしれません。それは日本にとっては最悪のシナリオとなります。

中露の違いは、その狡猾さの度合いです。中国はロシアよりはるかに巧みで手強い国です。しかも、経済力はロシアの10倍、人口もロシアの10倍の14億人です。

ウイグル人のケースにみられるように、中国によるジェノサイドは国際社会の目が届かない閉ざされた空間で行われています。チベット人、モンゴル人も、民主化を求める中国人も、同様に弾圧されてきました。中国を国際平和実現の仲介者に仕立てるほど危ういことはないです。むしろ中国の脅威に備えるべきです。

バイデン政権は今からでも遅くありません。ロシアが戦争をエスカレートさせるなら、段階的に軍事介入することも厭わない姿勢をみせるべきです。また、返り血を浴びてもロシアを徹底的に経済制裁すべきです。

ロシアのウクライナ侵攻は大失敗だったと思わせることにより、中国に武力による現状変更は割に合わないことを思い知らせるべきです。この点は絶対に譲るべきではないです。

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2022年3月31日木曜日

ウクライナ戦争で迎えるポスト・アメリカ時代―【私の論評】ウクライナ戦争はいずれ終わり、第二次世界の戦後も終わり、本格的な新冷戦が勃発する(゚д゚)!

ウクライナ戦争で迎えるポスト・アメリカ時代

岡崎研究所

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのファリード・ザカリアが、3月10日付の同紙で、プーチンのウクライナ侵略は新たなポスト・アメリカ時代の始まりを告げるものであり、それがどのような時代となるかを論じている。


 ザカリアは、ロシアのウクライナ侵略により時代が変わり、新たな時代がどのような時代となるかを論じている。重要なことは、冷戦終了後の時代を特徴付けていた経済合理性に基づく経済成長や市場経済の原則に代わり、安全保障を始めとする政治的考慮が優先する時代となると指摘している。具体的には、当面の間、ロシアと西側諸国の間での第二次冷戦構造が復活するのであろう。

 その結果、国際社会が相互依存関係に頼らず不効率な国内生産を重視するため、世界的に慢性的なインフレ状態となる可能性があり、特に、エネルギー価格が高止まりすることから、炭化水素生産国に富が集中することとなると論じている。

 次に、ザカリアは、新時代の決定的な特徴の1つとして、パックス・アメリカーナの終焉を指摘している。オバマ元大統領が既に米国は世界の警察官ではないと述べたが、中東では、イスラエルとの同盟や湾岸産油国の保護者としての米国の存在感は継続していた。ところが、ウクライナ危機で米露が対立する中で、アラブ首長国連邦は安保理決議案に棄権し、サウジアラビア、イスラエル、ブラジルといった従来の親米諸国が対ロシア制裁に参加せず、経済関係を継続するとしている。

 国連緊急総会でのロシア非難決議には、141カ国が賛成し、ロシアの孤立が顕著であったとメディアは報じたが、3月8日に、ロシアが非友好国と指定した国、即ち、対ロシア制裁に参加したのは48の国に過ぎない。その内訳は、米国、欧州連合(EU)諸国、英国、カナダ、豪州、日本、韓国、台湾など先進国を除けば、あとは欧州の小国、シンガポール、ミクロネシアだけである。中南米、アフリカおよび大半のアジア諸国、アラブ諸国は参加していない。

 ザカリアの論説の最後には、もう1つのあり得る大きな変化として、欧州が結集して戦略的な役割を担うようになり、米国との同盟関係が強化される可能性を挙げ、その為にはウクライナでの成功、即ちプーチンの野望を挫くことが必須の条件だと結んでいる。しかし、逆に、ウクライナ問題でプーチンの主張が実現すれば、ロシアの脅威が前線諸国におよび、EUや北大西洋条約機構(NATO)が分裂しかねない恐れもある。

 いずれにしてもウクライナ戦争後の地政学的国際秩序がどうなるかには不確定要素が多い。プーチンが勝利し、或いは、膠着状態となれば、その過程で欧州の安定が脅かされ、アジアでの中国の力による現状変更への道を開く恐れがある。逆に、対露経済制裁とウクライナ間接支援によりプーチンが妥協しウクライナが生き延びれば、西側諸国の経済制裁の抑止力が評価され、アジアにおける力による現状変更の試みに対しても歯止めとなろう。

司法権など国際秩序の礎も重要

 バイデンは、ロシアとの直接軍事衝突が第三次世界大戦になりかねないことを恐れ、条約上の防衛義務がない限り、ロシアに侵略された国に対し集団的自衛権は行使しないとの原則を明確にした。この原則は、今後万が一ロシアがモルドバやジョージア、或いは、フィンランドなどに侵攻したとしても当てはまるのであろうか。そうであれば、是が非でもウクライナについて経済制裁や間接軍事支援だけでプーチンを挫折させなければならず、中国に対する牽制も重要であり、日本企業も有事に備える必要があろう。

 第三次世界大戦を避けたいとの考慮が、米国とロシアの指導者に非対称的に作用するとプーチンが思い込めば、今後もロシア、中国、更には北朝鮮が、その要求を実現するために武力や核を威嚇手段として用いる可能性も排除できない。また、これまでの相互確証破壊理論や核の傘による拡大抑止の考え方がどう影響を受けるのかもポスト・アメリカ時代において極めて深刻な問題になると考えられる。

 ポスト・アメリカ時代を前に、領土や独立の不可侵、武力や核による威嚇禁止、国際人道法の遵守、核不拡散、更に表現・報道の自由等の人権の尊重、公正で独立した司法権などの国際法や国際人権法の原則を国連総会の場で再確認する決議を採択するといったことも意味があるのではないか。ロシアや中国はともかく、国連緊急総会の対ロシア非難決議に賛成した国々の間で、これらの原則を改めて共有することは、新たな国際的秩序の枠組みを模索する基礎となるのではないか。

【私の論評】ウクライナ戦争はいずれ終わり、第二次世界の戦後も終わり、本格的な新冷戦が勃発する(゚д゚)!

上の記事にあるように、今後もロシア、中国、更には北朝鮮が、その要求を実現するために武力や核を威嚇手段として用いる可能性も排除できないです。

日本は、この3カ国と、近い距離にあることを忘れてはならないです。ロシアが、ウクライナで核や化学兵器を使いかねないと懸念されているわけですから、日本でも将来中露北がそれを使う可能性は、これを全く否定することはできません。

米国は、核攻撃できる国へ軍事介入しないといわれています。逆にいえば、核を持たなければ米国に潰されるのです。北朝鮮は、この米国事情をよく承知していたので、経済を犠牲にしてでも必死になって核とミサイルの開発をしてきました。

その結果、北朝鮮はある程度この地位を獲得したともいえ、米国はへたに手出しができないかもしれないです。北朝鮮がこれを利用するとかなり厄介なことになります。

仮に北朝鮮が日本に核攻撃しても、米国が北朝鮮からの反撃を恐れて北朝鮮への核の使用を控える可能性があります。

 北朝鮮は24日、巨大な新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射実験を行った。
 写真は、新型とされるICBMの前を歩く金正恩朝鮮労働党総書記。KCNAが24日に公開


また、日本が北朝鮮に独自制裁をした場合、北朝鮮が反発して核をちらつかせるとどうなるてでしょうか。

このような恫喝は実際にはあり得ないという人もいるでしょうが、今年1月、ロシア、米国、中国、英国とフランスの核保有5カ国は、「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」とする共同声明を出したにもかかわらず、今回ロシアはウクライナを侵攻し、プーチン大統領が核兵器の使用も示唆しているのは、その趣旨に反しており、ロシアの核の恫喝は現実に行われています。

そのため、米国は核の恫喝を恐れ、やはりロシアのウクライナへの侵攻に手をこまねいています。

米国のバイデン大統領は20年の大統領選の際に、新たな核戦略のガイドラインで核の役割を限定すると宣言していました。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、北大西洋条約機構(NATO)同盟国から抑止力低下への懸念が起きている。そこで、バイデン氏は方針転換し、核兵器の根本的な役割は抑止力とするようです。


NATO同盟国が米国に意向を伝えられるのは、NATOでは核シェアリングしており核は共同運用だからです。翻って、日本では核シェアリングの議論すらできにくいですが、北朝鮮の核が米国本土も射程にしている中、それでいいのでしょうか。

やはり、日本は米国との核シェアリングも視野にいれるべきです。この論議をもともにしただけでも、北などには抑止力になります。核シェアリングを実現すれば、これは中露に対しての強力な抑止力になります。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ(Sergei Lavrov)外相は30日、同国がウクライナに侵攻して以降、初めて中国を訪問しました。多極化する新たな世界秩序への移行に向け、中国などの友好国と共に取り組む意向を表明しました。

ラブロフ氏は王毅(Wang Yi)外相と会談。事前に公表された動画でラブロフ外相は「われわれはあなた方や支持者と共に、多極的で公正、民主的な世界秩序に向けて歩んでいく」と語りました。

中国外務省が出した公式声明によると、王外相は、中ロ関係は国際情勢の変化という試練に耐えたなどと述べました。
 
ラブロフ外相は、アフガニスタンの将来に関する一連の会合に出席するため、中国東部の黄山(Huangshan)を訪れました。

中国は、ロシアのウクライナ侵攻を非難しておらず、国際社会で孤立を深めるロシアに対し、外交面では一定の支持を示しています。

中露はすでに、新冷戦に入ることを覚悟しているようです。全体主義と民主主義は元々相容れないのです。

それを第二次世界大戦の勝利に大きく貢献したり、多くの犠牲者を出したことを根拠に、中華民国、ソビエト連邦を国連の常任理事国としてしてしまったことが、そもそもの間違いです。

中華民国は現在の台湾ですが、現在の台湾と、当時の中華民国は別物であり、この中華民国の統治のもと、戦後まもなくから80年代まで、台湾では戒厳令が続くという異常な状態でした。李登輝が体制転換を行い、台湾は民主化の道を歩むことになりました。それ以前の台湾は、全体主義国家といっても良い状況でした。

その後中華民国は、台湾に退き大陸中国には中共が統治する中華人民共和国が成立しました。1971年中華民国(台湾)は国連安保理常任理事国の座を失い、中華人民共和国が国連安保理常任理事国と見なされるようになりました。ただ、国連憲章では、未だに中華民国が常任理事国として記載されいています。

本来、中共やロシアが常任理事国の座を継承するとされたときに、世界秩序は大きく変わっていたのですから、国連のシステムも大きく変えるべきだったのを、世界はそのまま放置しました。

これが、その後の様々な紛争や今回のウクライナ問題の遠因ともなっていると考えられます。

第二次世界大戦中の"United Nations"のポスター

今回のロシアによるウクライナ侵攻により、第2次世界大戦で、旧ソ連が2000万人を超す犠牲者を出すことによって得られた国連安全保障理事会常任理事国のステータスは消滅するでしょう。今回の侵攻で、ロシアは権利を自ら放棄したとも言えます。これはロシア・ウクライナ戦争はいずれ決着を迎えることになるでしょうがその枠を超えて『第二次世界大戦の戦後の終わり』を迎えるということになるでしょう。

そもそも、国連の常任理事国の拒否権は戦争を止めることができない珍奇な制度です。ウクライナもロシアも多くの死者を出しています。平和のための新たな仕組み作りに向けた機運が高まることになるでしょう。

ただ、いずれにせよ、国連緊急総会の対ロシア非難決議に賛成した国々とそうではない国々との対立がはじまることになるでしょう。両陣営とも本格的な戦争には発展しないようにはするでしょうが、第2次世界大戦中の連合国と枢軸国との関係のようになるでしょう。ただ、今回のウクライナ戦争よりもさらに深刻な事態になる可能性については、覚悟すべきかもしれません。

第二次世界大戦の連合国(United Nations)が作ったのが、国債連合です。日本では国際連合などといわれていますが、その実、国連連合は、連合国(United Nations)なのです。

国連憲章における敵国条項においては、未だに日本とドイツは敵国のままです。これも、戦後の国際社会の大きな変貌を全く無視しています。要するに国連は、全く形骸化した、機能しない組織であり、今後新たな冷戦に入る世界は、中露北、イラン等の枢軸側と、米国を中止とした連合国側に別れて戦うことになり、現在の国連の枠組みは崩れることになるでしょう。

これは、おそらく連合国側が勝つことになるとは思います。なぜなら、民主主義と全体主義を比較した場合、民主主義体制のほうが、より自由であり、しかも経済的に恵まれる可能性が高く、多くの人は全体主義よりは、民主主義体制のほうが受け入れやすいからです。全体主義を指向する人は、自らの権力欲や富の最大化を希求し、他人を思いやる気持ちに欠けた少数派であることがほとんどだからです。

こういう人も必要なこともありますが、それは危機に瀕したわずかの期間だけであり、この種の人が長い間権力座にとどまると、変化に柔軟に対応できなくなり、いかなる組織も長い間に機能不全に陥ることになります。

新しい秩序ができるあがるまでにはある程度の時間がかかり、様々な紆余曲折があることが予想されます。そうして、新冷戦終了後に新たな秩序が形成されることになります。新冷戦がどの程度続くのか今はまだ見えません。

日本も将来を見越しながら行動するべきであり、安全保障をはじめ食糧、エネルギーなどあらゆる問題を率直に議論していかなければならないです。今までの枠組で考えていては、冷戦後の新秩序においても、第二次世界大戦後のように敗戦国になるということすらあり得ます。

ただし、将来を見越して、連合国に貢献し、新たな世界の新秩序づくりに参画して、リーダーシップを発揮すれば、日本は世界でその存在価値を飛躍的に増大することができます。

そうして、敗戦国になるのか、戦勝国になるのかは、日本の決意次第だと思います。政府も頑張り国民の理解と支持があれば、日本は冷戦に続く新冷戦においても戦勝国になるでしょう。そうして、新たな国際組織は、世界の変化に応じて靭やかに、変化できるものとすべきです。

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2022年3月30日水曜日

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米国の情報収集に穴か、ロシア軍の能力を過大評価 米欧州軍司令官

米欧州郡ウォルターズ司令官

米欧州軍のウォルターズ司令官は29日、米国の情報収集に穴があり、それが侵攻開始前にロシアの能力を過大評価する一方、ウクライナの防衛能力を過小評価することにつながった可能性があるとの見解を示した。

ロシアが先月ウクライナ侵攻を開始したとき、米情報機関はキエフが数日で陥落する可能性があると分析していた。だが、戦争が2カ月目に入るなか、ロシア軍はキエフ周辺で停滞。維持可能性や兵たんの問題に悩まされ、ウクライナ人戦闘員の予想外に強固な抵抗にも遭っている。

上院軍事委員会で証言したウォルターズ氏は共和党のウィッカー議員から、米国がロシアの強さを過大評価し、ウクライナの防衛力を過小評価した原因として、情報収集の穴があったのではないかと質問された。

ウォルターズ氏は「その可能性はある」と返答。これまでと同様、危機が終わった段階で全領域・部門の包括的な事後検証を行い、自分たちの弱点を突き止め、改善方法を発見できるようにすると表明した。

米情報機関はロシアがウクライナ侵攻を計画していることを的確に予想していたが、ロシア軍のつたない戦いぶりに関しては分析できていなかった。

開戦当初、ロシア軍がキエフに迫るなか、米当局者はウクライナのゼレンスキー大統領に国外退避の支援を打診。ゼレンスキー氏はこれを拒否し、防衛の助けとなる兵器を要求した。

米国や北大西洋条約機構(NATO)はこれまで、ウクライナ軍に対するジャベリン対戦車ミサイルやスティンガー対空ミサイルなどの供与を支援してきた。ロシア軍の死者数に関する推計には大きなばらつきがあるものの、事情に詳しい情報筋は数千人が死亡したと指摘している。

【私の論評】ロシア軍の弱さは、兵站を著しく軽視し、戦闘能力が著しく低下したことが原因(゚д゚)!

今回のロシア軍のウクライナ侵攻には最初から無理がありました。こうした大規模な侵攻作戦は、初期段階で数日間に渡る航空攻撃や砲撃などを行い、相手の対空警戒網や通信網を破壊し、さらには軍事拠点などを攻撃して相手の反撃を最低限に抑え込む行動を取ります。しかし、プーチン大統領は十分な航空攻撃を行わず、侵攻当日に早々と地上軍を繰り出しました。

この愚策ともいえる行動。これはこのブログでも何回か述べてきたように、ロシアはウクライナをすぐに掌握することができると考え、勢いでなんとかしようとしたのでしょう。

東部だけではなく、キエフ、ハリコフにも進撃し、南のほうでも攻勢を加えるという大胆な作戦で、ウクライナは浮足立ち、ほとんど戦うこともなく、ゼレンスキー政権は崩壊し、首脳陣は海外に脱出し、ロシア軍は各地で、ほとんど戦うこともなく、要衝をすぐにおさえることができると踏んでいたに違いありません。

そのため、長期の戦闘を考慮しない“短期決戦”計画を立てたと思われるのですが、案の定、そこには大きな落とし穴がありました。

ロシア軍の正規軍人はウクライナ軍の約8倍となる約90万人います。そのうち、約15万人がウクライナに侵攻したと考えられていますが、この15万人という数字、実は陸上自衛隊の定員数と同じです。その後19万〜20万という数字もありますが、これは後から増派したものと考えられます。

これだけの大規模な部隊を一度に投入できることはロシア軍の強みとも見られるようですが、ただ、ウクライナを制圧するつもりなら、最初から少なすぎる兵力でした。ウクライナを制圧するつもりなら、最低50万は必要だろうということは以前にもこのブログで述べました。

ただ、軍事費やロシアの経済力からいってそれは全く無理なので、電撃作戦で脅して、ゼレンスキー政権をすぐに崩壊させることが、この作戦の目標だったのでしょう。

その一方で、ロシア軍が「兵站」を軽視したことは致命的ともいえます。15万の兵力なら、いかに経済力が衰えたロシアといえどもなんとかなりそうですが、やはり電撃戦を意識したためか、「兵站」をあまり重要と考えていなかったようです。

ウクライナ領内に乗り捨てられていたロシア軍の燃料タンク車(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

ロシア軍が想定していた以上にウクライナ軍の反撃が激しかったことも誤算のひとつではありますが、兵站に関してはそれを上回る大誤算といっても良いでしょう。

「兵站」とは、英語では「logistics(ロジスティクス)」といい、食料、燃料、弾薬、通信、整備、医療などの各機能を集約した言葉です。ゆえに、陸上自衛隊では後方支援と呼ばれるもので、活動するうえで欠かすことのできない分野としてそれぞれを担当する専任の部隊を用意しているほどです。

自衛隊に限らず世界中の軍隊で、この兵站能力は部隊の行動を維持するために必要不可欠なものとみなしており、特に作戦行動が長期化すればするほど、この兵站能力の差がモノをいうようになってきます。

逆に、兵站能力をある程度無視できる場合もあります。ただ、それは長くても1週間程度の短期決戦に限られます。つまり、それ以上の長期に渡る行動には兵站の充実が部隊を円滑に動かす秘訣になるといえます。

なお、この兵站は前線に進出する部隊との距離感も大切になります。世界の軍隊でひとつの目安として語られているのは、兵站拠点から300km程度離れると十分なサービスを供給しにくくなるといわれています。

理由は単純、補給線が伸びれば伸びるほど、輸送部隊や衛生部隊が前線へたどり着くまで時間がかかるからです。たとえ高速道路などがあったとしても、高速道路は遠くからでも視認しやすいことから常に狙われているといっても過言ではありません。そのため、輸送部隊は高い緊張を強いられながら移動しなければならないのです。

さらに、移動速度も平素の高速道路のように素早く走れるわけではありません。道路には瓦礫などの障害物があったり、場合によっては寸断されていたり、狙撃や地雷など含めた敵の攻撃による脅威もあったりするでしょう。こうした危険から部隊を守るため、補給線の安全を確保しなければならないのですが、補給線が延伸すればするだけ安全確保は難しくなります。

こうした点を考えると、十分なサービスを行きわたらせるためには、前線から兵站拠点までの距離は、概ね100km以内が理想だといえるでしょう。

弾薬を積載したまま遺棄されていたロシア軍のトラック(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

実際には、大規模な兵站拠点を300km先に設けたとしたら、中継地点となる中規模な拠点を100kmごとに設置して、さらに末端の部隊にサービスするための小規模な兵站拠点を前線から50km以内に設けることが理想です。こうすれば、部隊は効率的に動き続けることができると考えられます。

ただ、このブログにも掲載したように、ロシア軍は兵站を鉄道に頼るところが大きいです。トラック輸送は十分ではありません。鉄道から近いところでは、このようなことはロシア軍にとってもやりやすいのでしょうが、鉄道から離れた地域が前線であれば、これは難しいです。

ロシア軍は自らの領域外への作戦行動が不得意であるといわれています。その理由のひとつは、ロシアの鉄道の線路幅がいわゆる標準軌(1435mm)よりも幅の広い独自の広軌(1520mmまたは1524mm)であり、旧ソ連圏とフィンランドでしか使われていないからです。例えば、ポーランドには、ロシアからウクライナのキエフを経由して南部のクラクフまで、1本だけ広軌の鉄道が通っているが、ほかは標準軌であり兵站線を接続できないのです。

線路幅規格の共通性が旧ソ連圏に限られているのは、帝政ロシア時代の鉄道規格を引き継いだためです。敷設が始まった1830年代当時は広軌優位論が盛んであり、他国との連結はあまり考慮されておらず、広大なロシアでは標準軌より広軌の方が、輸送力が大きく有利と当時、考えられたのが理由のようです。

今回のロシア軍のウクライナ侵攻に関しては、短期決戦による全土制圧を前提とした多方面からの侵攻を行ったのに、ウクライナ側からの予想外に強い反攻を受け、十分な制空権も得られず戦況が膠着。そんななかで、食料や燃料、弾薬の補給といった兵站に問題が生じていると言われています。

これは推測ですが、当初予定していた鉄路でつながれているウクライナ国内への鉄道輸送による兵站が困難となったためなのではないでしょうか。道路輸送が不得意なロシア軍の体質が弱点となっている可能性があります。

ただ、鉄道を巡っては、一つ不思議なことがあります。ウクライナ側も、ロシア側も大規模な鉄道の破壊をしているという報道がないことです。日本でも、大東亜戦争のときに米軍は日本中の鉄道網を破壊しました。これは、軍事的には当然といえば当然です。ドイツでもかなり鉄道の被害がありました。

ベラルーシの反乱軍が、同国とウクライナを結ぶ鉄道の一部を破壊したことは報道されていますが、ウクライナ国内の鉄道網や、列車が破壊されたことは未だ報道されていません。

これは、私の推測ですが、ロシア軍もウクライナ軍も兵站は鉄道に頼るところが多く、ウクライナは民生用の物資も鉄道輸送の割合が高いので、これを破壊したり、破壊されてしまうと、双方とも物資輸送や、兵站に支障をきたすので、両方とも攻撃することを控えているのかもしれません。ただ、橋が破壊されたなどのことは一部報道されていますが、ウクライナ、ロシアの双方とも大規模な鉄道攻撃をしたというニユースはありません。

このあたりのところ、ご存知の方はぜひ教えて下さい。私の考えが正しかったとすると、現在ウクライナの鉄道は、全部とはいいませんが、一部は、ある時はウクライナの物資を運び、あるときはロシアの物資を運ぶというようなことをしているのかもしれません。

しかし、今回のロシア軍は鉄道以外の輸送なども考慮した十分な兵站機能を設けずに部隊をウクライナへと送り込んだようです。そのためでしょうか、前線の兵士らはまともな食事を摂ることもできず、戦車などは燃料切れで立ち往生しています。

以前も述べたように、プーチンはウクライナに侵攻することにより世界秩序に挑戦したといえますが、同時にいかに精強な軍隊であろうと、兵站にみあった戦闘しかできないという、軍事上の常識も捨て去ったとみられます。標準的な兵士は、多数の弾丸と、一日3000Kカロリーの食事を必要とするのです。残念ながら、人間は食いだめができません。日々、相当数のカロリーと栄養素を必要とするのです。

ウクライナ軍の戦闘糧食(一日分)

ウクライナとロシアは、依然として一進一退の攻防を繰り広げていますが、このままロシア軍の部隊再編がうまくいかなければ、軍事弱小国家ともいえるウクライナにも勝機が見えてきます。広大な領土を持つロシアは、ウクライナ正面だけに部隊を集中させることができません。そのため、ロシア軍が現状以上の部隊をウクライナに投入することは非常に難しいと考えられます。

また、ロシアが受けている世界規模の経済制裁に、ロシア国民がいつまでも我慢できるとも考えられません。両国ともにこれ以上の犠牲や損害を増やす前に、プーチン大統領は自身の独断で始めたであろう“短期(短気)決戦”を終結させるべきです。

そうして、米軍はロシア軍の兵站を研究すべきです。私自身は、米軍がロシア軍の兵站の脆弱さを認識していなかったからこそ、ロシア軍を過大評価してしまったのだと思います。

米軍の軍事常識からすれば、戦略などの前に、兵站を考えるのが当たり前で、それなしに戦争はできないというのが軍事上常識中の常識ですから、少なくともロシア軍はウクライナ侵攻前に、半年から1年もかけて、兵站の準備を行ってから、戦争を開始するだろうと見ていたと思います。

ただ、経済が低迷するロシア側とすれば、そのような贅沢な作戦はできないのかもしれません。これ以上戦争が長引き、餓死するロシア兵がてできたり、武器不足、弾薬不足で、自分の身も守れないロシア兵が犠牲になるようなことだけは避けてもらいたいものです。プーチンはすぐに戦争を終了させるべきです。

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2022年3月29日火曜日

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米、ロシアより中国対応優先 新国家防衛戦略の概要発表

米国防総省(通称ペンタゴン)

 米国防総省は28日、バイデン政権で初となる国家防衛戦略(NDS)の概要を発表した。戦域としてまずインド太平洋における中国への対応を優先し、続いてウクライナに侵攻したロシアの挑戦に対処する姿勢を明確にした。必要に迫られた紛争で勝利する備えをしつつも、米国や同盟国への戦略的攻撃や侵略行為の抑止を最重視するとした。

 国防総省は同日、機密扱いの国家防衛戦略を議会に送達した。今回初めて「核態勢見直し」(NPR)と「ミサイル防衛見直し」(MDR)を組み込む形で戦略見直しを総合的に実施。機密扱いではない国家防衛戦略は近く公表する。

 戦略は、中国が軍事・経済・科学技術など複数の領域で突きつける脅威に対処し、国土を防衛することを最優先事項とした。

 一方、ロシアも「重大な脅威」とし、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国と協力して頑強な抑止を敷く。北朝鮮、イラン、他の過激派組織を含む脅威に対処する能力も維持するとしている。

  トランプ前政権の2018年国家防衛戦略では、中露2大国との紛争に同時に対処する従来の「二正面作戦」から、各地における脅威を抑止しつつ一大国の侵略に打ち勝つ構想へと修正したが、ヒックス国防副長官は同日の記者会見で、この路線を「本質的に継続する」と語った。

【私の論評】米国がロシアよりも中国への対峙を優先するのは、正しい(゚д゚)!

ロシアより中国対応優先というバイデン政権の姿勢については、すでに予兆がありました。それは、このブログでも何度か述べたように、バイデン政権初の「アジア太平洋戦略」においてはっきりしていました。それについては、このブログにも述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
ロシア艦艇24隻を確認 日本海・オホーツク海―【私の論評】バイデン政権に完璧に無視されたロシア太平洋艦隊(゚д゚)!

極東に新しく配属されたボレイ型原子力潜水艦「ウラジーミル・モノマフ

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみを引用します。

最新の「インド太平洋戦略」にロシアという文言が一言もないというのが、現在のバイデン政権の考えを雄弁に語っていると思います。いくらプーチンが去勢をはってみたところで、いまや一人あたりのGDPが韓国に大幅に下回るロシアにできることは限られています。インド太平洋地域におけるバイデン政権の最優先課題はやはり、中国なのです。

そうして、この戦略には「日本」という言葉は2度でてきます。以下にその部分だけを引用します。
  • オーストラリア、日本、韓国、フィリピン、およびタイとの 5 つの地域条約同盟をさらに深める。
  • 拡大抑止と韓国・日本の同盟国との連携の強化、朝鮮半島の完全な非核化の追求 
バイデン政権としては、日本をはじめとする同盟国等も米国が中国と対峙するための支援を惜しまないでほしいと願っているのでしょう。

こうした中で、ロシアを囲い込みに協力している日本は、米国に対してかなり貢献しているといえるでしょう。その安心感もあって、戦略のなかに「ロシア」という文言は一言も出さなかったのでしょう。冷戦時と比べれば、隔世の感があります。 

ロシア囲い込みとは、日本の対潜哨戒等によるロシア原潜の実質上の囲い込みです。潜水艦の行動は昔から、各国とも公表しないのが通例であり、海自もこれをあまり公表しないので、日本国内でもあまり知られていないようです。

日本は、冷戦中に米国の要請を受け、対潜哨戒機を大量に購入して、オホーツク海におけるロシア原潜の行動の監視を強化しました。これで、実質的にロシア原潜の囲い込みに成功し、米国の冷戦勝利に大きく貢献したとともに、日本の対潜哨戒能力は米国と並び世界のトップクラスへと飛躍的に向上しました。

この哨戒活動は今でも続いています。これは、さらに強化され、日本は現在潜水艦22隻体制をを構築し、オホーツク海方面での、ロシア原潜の動きに目を光らせいることでしょう。

バイデン政権初の「アジア太平洋戦略」は2月11日に公表されています。2月22日、バイデン大統領は、プーチンがウクライナ東部への派兵の意向を表明したことを受け、「これはロシアのウクライナ侵攻の始まりだ」と述べ、ロシアに対する制裁を発表しています。

2月11日にはすでにロシアがウクライナに侵攻する兆候を掴んでいたと思います。にもかかわらず、「アジア太平洋戦略」には、「ロシア」という文言が一つもないのです。

これは、バイデン政権の中国への対峙を優先するという意思の現れであり、それは妥当であると考えられます。

名目GDPを見ると、10年時点で中国は6兆338億ドル、ロシアは1兆6331億ドル。その後、中国は右肩上がりで成長線を歩んでいますが、ロシアは停滞し、成長さえ果たしていません。

 20年には中国が14兆8867億ドル、ロシアは1兆4785億ドルと、その差は4倍から10倍にまで膨らんでいます。コロナ禍の20年には1人当たりGDPでもロシアは中国にとうとう抜かれてしまい、どちらがシニアパートナーで、どちらがジュニアパートナーかは火を見るより明らかだからです。

ちなみに、現在一人あたりのGDPは中国がロシアを追い越したとはいえ、さほど変わりはありません。そうして、人口はロシアは1億4千万人、中国は14億人であり、丁度ロシアの10倍です。人口比で10倍であり、GDPも10倍ということなのです。それを考えると、中国も人口が多いだけで、経済的に恵まれているとは言い難いです。


ロシアの経済規模は約150兆円で世界10位前後に位置しますが、中国の10分の1、日本の3分の1。国民1人当たりGDPは約120万円で、中国やマレーシアと同水準です。また、経済制裁により、今後のロシア経済は2桁以上のマイナス成長は避けられないとみられます。

ただ、中国共産党はそれでも軍事や他国に介入するなどの資金は、ロシア政府に比較すれは潤沢に得ることができます。

両国ともランドパワー国であり、中露の海軍力は一般に考えられているよりも、はるかに能力が低いです。特に、ASW(対潜戦)においては、日米をかなり下回り、海戦においては勝つことはできません。

しかし、だからといって安心できるわけではありません。特に、中国は豊富な資金力をもって、貧しい国や市民社会が不安定な社会に対して介入することができます。これと軍事力やその他をあわせたハイブリッド戦を展開することができます。これは、現在のロシアにはあまりできないことです。

ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアとウクライナの関係だけの問題ではありません。これは、ロシアによる戦後秩序の破壊行為の一環とみるべきなのです。

世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきました。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきました。

ところが、この世界秩序は、ソ連崩壊から30年経った今、中国とロシアの挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたったのです。

中国は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしています。ロシアはクリミア併合に続くウクライナ侵攻に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっています。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れています。

中国とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止でした。

ところが、近年は米国の抑止力が弱くなってきました。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまいました。それが、米国の降参ともいえるような、アフガン撤退や、今回のロシア軍によるウクライナ侵攻に結びついた面は否めません。

犬を抱くウクライナ女性兵士

その結果、いまの世界は中国やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきたといえます。そうして現実にロシアのウクライナ侵攻が起こってしまったのです。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかないのです。

そうして、ロシアより中国のほうがはるかに強大であり、ロシアを制裁して、経済を弱らせて何もできないようにしたとしても、中国が今のままであれば、何も問題は解決しません。中国との対峙こそが、最優先課題なのです。

これは、米国にとってもそうですが、日本にとってもそうです。その意味では、米国がロシアより中国対応優先するのは正しいです。優先順位を間違えるべきではありません。日本も優先順位を間違えるべきではありません。

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2022年3月28日月曜日

プーチン・ショックでさらなる価格高騰の懸念 「5〜8%の消費減税を」専門家提言 「見せかけのインフレ」に注意! 田中秀臣氏「経済実勢はデフレだ」―【私の論評】「みせかけのインフレ」に煽られるな!今必要なのは、財政・金融政策のフル稼働(゚д゚)!

プーチン・ショックでさらなる価格高騰の懸念 「5〜8%の消費減税を」専門家提言 「見せかけのインフレ」に注意! 田中秀臣氏「経済実勢はデフレだ」

蔓延防止等重点措置は解除されたが、消費回復に向けた取り組みが求められる

 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)防止等重点措置解除から1週間が経過したが、「プーチン・ショック」で原油や食品価格のさらなる高騰が懸念される。政府は追加経済対策を策定する方針だが、年金受給者らへの5000円給付といった小手先の策ではなく、抜本的な景気刺激策が必要だ。専門家は「5~8%の消費減税」を提言する。

 岸田文雄首相は29日にも新型コロナ対応を含む追加経済対策を関係閣僚に指示する方向で調整。自民党も30日から党内議論を始める。

 新たな景気悪化要因となったのがロシアのウクライナ侵攻だ。経済協力開発機構(OECD)は、ウクライナ侵攻以降の1年間で、世界の実質経済成長率を1ポイント超押し下げ、物価上昇率は2・5ポイント超押し上げるとの見通しを発表した。

 すでに国民生活に直結するエネルギーや食料品の値上がりは顕著だ。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は4月以降に2%の物価目標に上昇する可能性があるとするが、「見せかけのインフレだ」と指摘する上武大の田中秀臣教授(日本経済論、経済思想史)。

 「菅義偉政権が一昨年実施した携帯電話料金値下げの影響が物価統計の処理上消えてしまうことで、エネルギーや生鮮食品を含めた全ての価格が反映される『総合指標』がインフレにみえるだけだ。エネルギーや食品の価格は経済の実勢と離れやすく、日本経済の実勢はいまだにデフレだ」

 米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを実施したことから、為替が一時、1ドル=122円に乗せるなど円安ドル高が進み、一部では日銀が進めてきた金融緩和を縮小すべきだとの主張も出ている。だが、田中氏は「もし縮小すると賃金が下がり雇用が悪化することになる」と警告する。

 夏の参院選をにらみ、ガソリン税の一部を減税するトリガー条項の凍結解除や、年金受給者らへの5000円給付などの対策も浮上するが、需要を喚起するには不十分だという。

 「ガソリン税と消費税の二重課税になっている中で、トリガー条項はガソリン税の減税に過ぎない。給付金も少額で、そもそも年金生活者を支える現役世代の負担軽減を考えていない」と田中氏は批判する。

 蔓延防止等重点措置が解除されたなかで、消費を拡大させるために求められる対策は何か。

【私の論評】「みせかけのインフレ」に煽られるな!今必要なのは、財政・金融政策のフル稼働(゚д゚)!

新型コロナウイルス不況からの景気回復にウクライナ侵略の産油国ロシアへの経済制裁が重なって、エネルギー価格が高騰しています。世界的にはインフレ局面ですが、上記事にもあるように、日本だけは違います。逆に物価が下がり、所得が減り続けるデフレ不況が深刻化しています。

にもかかわらず、あろうことが岸田文雄政権は財務官僚の均衡財政主義に引きずられ、日銀審議委員人事では反金融緩和派を指名する有様です。

デフレとは物価の継続的な下落を指します。世界共通のインフレ指標はコア消費者物価と呼ばれます。天候に左右される生鮮食料品や国際情勢の変動に左右されるエネルギーを除き、需要と供給の関係が決める経済法則を反映します。

日本のコア物価上昇率は2020年8月以降、ゼロ%以下で推移しています。1990年代後半以来の慢性デフレに日本がどっぷりつかったまま抜け出せずにいます。

デフレは国民経済全体の収縮を引き起こします。経済力が衰退する国の通貨は、外国為替市場で絶好の投機売り対象になります。現局面の円安がそうです。

この円安を巡って、一部のマスコミが牽引している「悪い円安」や「悪いインフレ」報道があります。円安とは、金融緩和スタンスの言いかえすぎません。国内的にはインフレに作用します。これから4月になると菅政権で行った携帯料金引き下げの効果が、統計処理上、無視されることになります。そのため公表される物価が一気に上昇するでしょう。


予想されるのは、ワイドショーなどで盛んに「物価が高い」ことを過剰に喧伝されることです。それは日銀の金融緩和姿勢への批判になるでしょう。4月以降の物価をみると、携帯料金引き下げ効果の剥落によって、生鮮食品やエネルギーを含んだ総合指数は対前年度比2%(現状は0.9%)を上回る可能性があります。

「日銀は2%のインフレ目標を立てているのでこれで目標達成だ」とかいう皮相な意見も出てくるでしょう。しかし、これは日本経済の実勢を表していません。

価格の変動の激しい生鮮食品やエネルギー関連を除いたものの方が、経済の実勢をよく反映しています。携帯料金効果の剥落は、1%程度の物価高を統計上もたらすことになるでしょう。

生鮮食品を除く物価指数(コアCPI)は対前年比1.6%(現状は0.6%)、生鮮食品とエネルギーを除く物価指数(コアコアCPI)は対前年比0.9%(現状はマイナス0.1%)です。ウクライナ戦争の影響などで多少まだ上がる可能性はあります。しかし日本実体経はいまだデフレ体質のままです。米国は7.9%、英国は5.5%、ユーロ圏は5.9%です。まったく日本と欧米ではインフレをめぐる事情が異なるのです。

「悪い円安」や「インフレ急増!」というマスコミに報道には、煽られるべきではないのです。

財務省の政権に対する影響力は絶大です。2012年12月に発足した第2次安倍晋三政権は脱デフレを目指したアベノミクスを打ち出し、異次元の金融緩和と機動的な財政出動を組み合わせたのですが、消費税増税と緊縮財政に追い込まれました。


もとより財務省の影響が強い宏池会代表の岸田首相は昨年12月の国会所信表明、今年1月の国会施政方針演説で「デフレ」の一言も発しませんでした。

現在まで続いているのは金融緩和ですが、日銀の伝統的な金融政策の考え方は、金融政策では物価を押し上げられない、中央銀行の主要な役割は民間金融機関の経営の安定だというものです。

日銀は2014年1月当時、安倍政権の強い要請を受けて、消費者物価上昇率2%の物価安定目標の下、金融緩和を推進すると約束しましたが、2%目標は達成されないままで、日銀とその周辺では日銀理論派が再び勢いづいています。

安倍元政権時に就任した金融緩和積極論者の片岡剛士氏ら2人の日銀審議委員が7月に任期満了になります。岸田政権が片岡氏の後任に指名したのがみずほ銀行出身の岡三証券エコノミストの高田創氏です。

高田氏は金融緩和が銀行収益を圧迫するなどの副作用を重視し、2%の物価目標を見直すべきだと主張してきました。高田氏の考えはデフレをもたらす緊縮財政によって国債相場の安定をめざす財務省の意向にも沿うものです。


来春には黒田東彦日銀総裁が任期を終えます。岸田首相は次期総裁に誰を選ぶのでしょうか。日銀理論と財政均衡主義の双方に目配りする人物を指名するようなら、日本再生の見込みは完全に失せ、国家と国民はデフレの泥沼に沈んで行くでしょう。国会はぼやぼやすべき時ではないです。

最近は「円安がガソリン高をまねいてる!」とか「円安なので日本は不利だ!」とマスコミは大騒ぎですが、これは明らかに消費減税などの減税政策から国民の関心をそらす目的があるようにしか思えません。国民を愚弄もいいかげんにすべきです。いまこそ財政政策と金融政策をフル稼働すべきです。そうして、財政政策では消費税減税をすぐに実施すべきです。

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2022年3月27日日曜日

「ウクライナ占領」でもロシアを待ち受ける泥沼―【私の論評】「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」という軍事常識を今更ながら思い知らされたロシア軍(゚д゚)!

「ウクライナ占領」でもロシアを待ち受ける泥沼



2月末にウクライナに侵攻したロシア軍の進軍ペースは、観測筋が想定していたよりも遅くなっている。ロシア軍は病院のような民間施設も標的にしているとみられ、その残虐さによって国際社会から広範な非難も浴びている。

ウクライナ軍は欧米諸国からの武器などを供与されているが、仮にロシアがこの侵攻に「成功」してウクライナを事実上の占領下に置いたとしても、ソ連やロシアの占領者としての過去の実績からみて、そうした占領状態を維持できるかは疑問視されている。

ロシアがこの戦争に勝っても、ウクライナ軍は「抵抗軍」として戦闘を続けると専門家は予想している。占領者ロシアはウクライナ国内に、反抗する武装勢力を抱え込むことになるということだ。こうした武装勢力は正規軍に比べ縛られるルールが少なく、機敏で、ゲリラ戦法をとることが多い。そのため、伝統的な軍部隊が見つけ出して抑え込むのも難しくなる。

こうした反抗勢力の鎮圧を目的とする「対反乱作戦(COIN)」で、ソ連やロシアの軍隊が過去に散々な結果だったことは、よく引用されるランド研究所の論文でも示されている。たとえば1992年のアフガニスタン占領失敗は、対反乱作戦の専門家であるアンソニー・ジェームズ・ジョーズによって「大国がどうしてゲリラとの戦争に勝てないかを示す教科書的な研究事例」に挙げられているほどだ。

ロシアが対反乱作戦に繰り返し失敗している要因のひとつとして、ランド研究所は「鉄拳(iron fist)」アプローチとも言われる軍事力頼みのやり方を挙げている。1994年にチェチェン共和国の独立派武装勢力をつぶそうとした際も、ロシアの軍隊は戦略や装備、士気の問題に直面しただけでなく、地元住民の支持もまったく得られず、鎮圧に失敗した。ロシア側はそもそも、武装勢力から民心が離れるように住民の不満点を改善することなどに関心を払っていなかった。

ランド研究所の研究によれば、軍事力だけに頼った対反乱作戦が成功した事例は過去にほとんどなく、通常は非軍事手段も用いたほうがはるかに効果的だった。脅迫や集団的懲罰、汚職、略奪なども対反乱作戦の成功を妨げる要因として挙げられており、もちろん外国からの反抗勢力への支援が戦いを複雑にすることもある。

1960年代から70年代にかけて南ベトナム、カンボジア、ラオスの政権とともに現地の共産勢力と戦った米軍は、対反乱作戦の手際はロシア以上にまずかったと評価されている。世界でもっとも高い能力をもつ米軍ですら、東南アジアのゲリラに対応して制圧することはできず、1975年に敗退した。

歴史的に、対反乱作戦のやり方が巧みだったとされるのは英国だ。大英帝国の植民地だった国に関係したものだけでなく、北アイルランドでの紛争でもその手並みは比較的すぐれていたとみられている。

英国も大半のケースで武力に訴えているが、少なくとも1948年に当時のマラヤ連邦(現マレーシア)で起きた共産主義者の蜂起や、1969年から99年まで北アイルランドでアイルランド共和軍(IRA)が繰り広げた反政府活動では、戦闘手段と非軍事手段を組み合わせ、最終的により望ましい結果をもたらしている。

ランド研究所は武力行使のほか民衆の支持や政府改革なども考慮して過去59件の対反乱作戦の巧拙を評価し、点数化したランキングを発表している。一部を紹介しておこう(最高は15点、最低はマイナス11点)。

米国
・南ベトナム(1960〜75年):マイナス11点
・カンボジア(1967〜75年):マイナス7点
・ラオス(1959〜75年):マイナス5点

ロシア/ソ連
・チェチェン(1994〜96年):マイナス6点
・アフガニスタン(1978〜92年):マイナス3点

英国
・オマーン(1957〜59年):3点
・北アイルランド(1969〜99年):8点
・ギリシャ(1945〜49年):10点
・マラヤ連邦(1948〜55年):11点

【私の論評】「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」という軍事常識を今更ながら思い知らされたロシア軍(゚д゚)!

このブログでは、ロシアがウクライナに侵攻する前から、ロシアがウクライナに侵攻するなど分不相応であることを指摘してきました。その根拠は、まずはロシアのGDPは韓国若干下回る程度であり、東京都のGDPと同じくらいであるということです。

その程度の経済力で、一国としては最大版図を守備しなければならず、ウクライナに回せる戦力も少なくならざるを得なくなるからです。

さらには、ロシアの兵站は伝統的に鉄道に頼るところが大きく、これでは鉄道輸送に頼れる国境付近では、ロシア地上軍は高いパフォーマンスを発揮できるものの、ウクライナ奥地に入り込むにつれてパフォーマンスが落ちることになるからです。

だから、このブログでは、ロシア軍はウクライナ侵攻は無理であり、できるのは、ルガンスク州、ドネツク州の2州の一部もしくは全部くらいだろうと予想していました。

そのため、ロシア軍がキエフ、ハリコフ両市に進軍を開始したと聴いたときには、正直驚愕しました。そうして、当初の予想は外れたと思いました。

3月27になった今日でも、この地図の状況はほとんど変わっていない

しかし、時がたつにつれて、最初の予測は的中しつつあると考えるようになりました。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ軍事侵攻の開始から1カ月たった25日、ロシア軍のセルゲイ・ルドスコイ第1参謀次長はモスクワで記者会見し、作戦の「第一段階」はほぼ完了したと発表しました。

ルドスコイ将軍は、ロシア軍は今後「ドンバスの完全解放」に注力していくと述べた。ドンバスとは、ウクライナ東部でロシアが後押しする分離派が実効支配する地域のことです。

ロシア軍は、一方的な独立宣言をロシア政府が承認した「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」と、ドンバス地域内でもウクライナが支配する地域との境界線を、さらに西へ移動させようとするものとみられます。

ウクライナの他地域でロシア軍は、遅々として進んでいません。これは、先にも述べたようにロシア軍の兵站が脆弱であることに起因していると考えられます。

首都キーウ(ロシア語でキエフ)周辺では、ウクライナ軍の抵抗に遭い後退させられており、これ以上の被害を防ぐために、あるいは何らかの小休止のため、塹壕(ざんごう)を掘るなどして防衛の足場を固めているという情報もあります。

ロシアが首都制圧を諦めたと結論するのは、まだあまりに早すぎるかもしれません。しかし、ロシア軍は失点に次ぐ失点を重ねていると、西側当局は語っています。キーウ付近で、ロシア軍が塹壕を掘って守備を固めているという情報か本当であれば、ロシア軍はドンパス地域での戦闘を有利に運ぶために、ウクライナ軍を分断するために、キーウ近くに軍を配置したままにするつもりなのかもしれません。

西側当局筋は25日、ロシア軍が7人目の将軍を失ったと明らかにしました。一部の部隊では、士気はこれ以上下がりようのないところまで下がっているとも話しました。

ルドスコイ将軍の今回の発表は、開戦前にロシアが計画していた野心的な戦略は失敗したと、ロシアが承知していることの表れのように見えます。

複数の軸で同時に作戦展開するのは無理だと、ロシアは認識し始めているようです。

現在最大10の大隊戦術群が新たに編成され、ドンバスへ向かっているといいます。

ロシア軍の新たな展開では、ドネツクとルハンスク両地方の未制圧地域まで入り込もうとするかもしれないです。ハルキウやイジウムから南下する部隊との合流を目指す可能性もあります。

そしてついにロシアがアゾフ海に面した南東部の港湾都市マリウポリを完全制圧したあかつきには、他の部隊は北上してJFOの包囲を完了する可能性もあります。

ただ、マリウポリの防衛部隊はすさまじい徹底抗戦を繰り広げている、そのため、ドンバスからクリミア半島までの陸路を確保するという開戦前のロシアの目標は実現していません。

しかし、仮にロシア政府が、少なくとも当面は、個々の目的をひとつずつ実現することに集中した方が賢明だと結論したなら、おそらく攻撃力を集約してくるでしょう。特に空からの爆撃はそうでしょう。

もし今後数日の間に、ロシア軍がドンバスに注力し始めたとしても、だからといってロシア政府が大きな野望を諦めたことにはならないです。

実際ロシアは、侵略作戦全体の再評価をしている様子は見られません。

ただ、ロシア軍が個々の目的を人ずつ実現するようにしたとしても、ロシアのGDPが突如増えるわけではないどころか、制裁によってさらに低迷することになりますし、兵站が脆弱であることには変わりはなく、結局最後にはやはり当初の予想通りになるのではないかと私は、思います。

以前にも述べたように、戦史家のマーチン・ファン・クレフェルトは、その著作『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(中央公論新社)の中で、「戦争という仕事の10分の9までは兵站だ」と言い切っています。

第2次世界大戦よりもはるか昔から、戦争のあり方を規定し、その勝敗を分けてきたのは、戦略よりもむしろ兵站だったというのです。端的に言えば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧をどれだけ前線に送り込めるかという補給の限界が、戦争の形を規定してきたというのです。


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エリート中のエリートたちがその優秀な頭脳を使って立案した壮大な作戦計画も、多くは机上の空論に過ぎないのです。

現実の戦いは常に不確実であり、作戦計画通りになど行かないです。計画の実行を阻む予測不可能な障害や過失、偶発的出来事に充ち満ちています。

史上最高の戦略家とされるカール・フォン・クラウゼビッツはそれを「摩擦」と呼び、その対応いかんによって最終的な勝敗まで逆転することもあると指摘しています。

そのことを身を持って知る軍人や戦史家たちの多くは、「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」と口にします。文字通り、「腹が減っては戦はできぬ」なのです。

キーフやハリコフを目指して進軍した部隊の司令官たちは、これを今更ながら思い知らされたことでしょう。いや、知っていながら、上の命令には従わざるを得なかったのかもしれません。

プーチンは戦後の世界秩序に挑戦し、これを打ち砕こうとしたのでしょうが、同時に軍事常識も忘れ去ったようです。

いかに精強な軍隊といえども、兵站能力にみあった戦争しかできないのです。ただロシア軍が部分的にでも、兵站を強化し、今後の戦闘に備える可能性もあり、結論を出すにはまだ早すぎると思います。ただ、厳しい経済制裁を受けているロシアは、兵站を見直す余力もなくなるものと思います。結論を出すにはまだ早すぎます。推移を見極めたいと思います。

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