2022年4月2日土曜日

〝円安悪者論〟の先にあるデフレと国内雇用の悪化 自分に都合が良い「ポジショントーク」に要注意―【私の論評】警戒せよ!岸田政権の経済政策で、ロシアが経済制裁から立ち直った後でも低迷し続ける日本(゚д゚)!

日本の解き方

岸田首相

 日銀が長期金利を抑制するための「指し値オペ」を連続で実施したことを受けて、為替市場で一時、1ドル=125円台まで円安ドル高が進む場面があった。「物価上昇に拍車」「家計に負担」といった報道も見られるが、問題はどこにあるのだろうか。

 岸田文雄政権は「原油高、原材料高、物価高」が生じているとの認識だ。このうち個別の原油高と原材料高はその通りだ。しかし、供給が需要を上回るGDPギャップが30兆~40兆円程度あるので、物価全体の上昇にはそう簡単にならない。コストプッシュという要因はあるが、需要不足のために価格転嫁ができるところは限られてくるためだ。

 原油や原材料高への対応策も、マクロでGDPギャップを埋める有効需要策と、ミクロで個別価格高に対応するガソリン税の減税、消費税の軽減税率適用拡大を実施すればいい。

 だが、岸田政権は物価高を強調し、マスコミもそれに同調している。原油高、原材料高に加えて円安なので、物価高になるとあおっているわけだ。さらに、円安を悪いものと決めつけ、円安是正のための金利引き上げまで主張する人もいる。そこまでくると、さすがに経済の基本原則を分かっていないと言わざるを得ない。

 先進国は変動相場制だ。国際金融のトリレンマ(三すくみ)があり、①資本移動の自由②金融政策の独立性③固定相場制―の3つのうち2つしか選べないから、③を諦めた結果だ。ということは、為替のために金融政策を使うことは基本的に間違っている。

 そして、ここで金利を上げれば、再びデフレになってしまう。はっきりいえば、現段階で円安是正のために金利引き上げを主張する人はデフレ指向者だ。結果として、それは国内雇用を考慮しないこととなる。

 一方、岸田政権が物価高を強調するのは、いうまでもなく、今後の補正予算の金額を渋りたいからだ。GDPギャップを埋めるという観点からは、財政支出を真水で30兆~40兆円の規模にしなければいけない。しかし、今のところ、第1段階で当初予算の予備費5兆円、第2段階で10兆円規模しか聞こえてこない。これではGDPギャップを埋めるまでにはならない。

 そもそも今の円安が日本経済に悪いかといえば、そうでもない。あくまで為替は金融政策の結果であり、国内の雇用は確保されている。

 為替は二国間の金融政策の差で長期的に決まる。米国ではGDPギャップがなく物価高であるので金融引き締めになるが、日本はGDPギャップがまだあり物価高になっていないため、金融緩和しなければならない。ある程度の円安になるのは当然で、日本経済全体にとっては悪くない。ほとんどの国で自国通貨安はGDPを増加させる。

 為替に対する見解は、国内雇用に配慮したものではなく、自分に都合が良い「ポジショントーク」であることがしばしばだ。金融業者の金儲けの話とマクロ経済運営は別にする必要があるが、今のマスコミ報道は、金融業者の話ばかりだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】警戒せよ!岸田政権の経済政策で、ロシアが経済制裁から立ち直った後でも低迷し続ける日本(゚д゚)!

2021年後半あたりから日本の経済メディア目立っているのは、1ドル115円に接近する円安が進むなかで、「悪い円安」が起きているとの主張です。「良い」「悪い」というのは、何らかの価値判断に使われる言葉ですが、その判断は何なのかわからないまま、「悪い」と語られています。今の日本の状況をうけて、「悪い円安」が起きているとの議論の多くは的外れです。


一例をあげると、インフレ率の変動などを調整した実質実効ベースで通貨円が、1970年代以来の水準まで低下していることをうけて、「行きすぎた円安」が起きているとされています。実質実効ベースの円が大きく低下しているのは事実ですが、この動きと合わせて、ガソリンの価格上昇で家計の負担が増えていることが強調され、円安が貧しい日本の象徴であり、「悪い円安」と庶民感情に訴えるかのような議論は全く無意味です。

仮に、現在の円安が望ましくないとすれば、通貨価値に決定的に影響を及ぼす金融緩和政策が妥当ではないことになります。そもそも、このあたりから議論が噛み合わないことが多いです。米国のように、金融緩和がかなりすすみ、高インフレになった場合は、金利を上げたりして、抑制策をとるのは当然のことです。日本においてはコロナ後の経済復調が芳しくないため、かなり低いインフレのままですから、金融緩和策を取り続けるのは当然です。

米国が金融抑制策をとり、日本が金融緩和策をとれば、相対的に米国のドルが高くなり、日本の円が安くなるのは当然のことです。そもそも、このことがわかっていない人が多いようです。為替は、金融緩和の状況によってほぼ決まるものであり、ある国が緩和をし、米国が引き締めをすれば、緩和を継続している国の通貨は安くなります。

これは、物価と同じようなところがあります。市場において、ある商品が生産されなく少なく希少であれば、その商品の価値は上がり値段は上がります。逆に、ある商品が大量に生産されれば、その商品の価値は下がり値段は下がります。ある商品の値段が上がったり、下がったりすること自体は、良いとも悪いともいえません。この商品というところを貨幣と置き換え、生産というところを発行と置き替えていただけば、御理解いただけると思います。

量的にも質的にも、より大規模な緩和をしている国の通貨がそうではない国の通貨より安くなるのは当たり前のことです。だから「円安」や「円高」そのものを良いとか悪いなどと評価するのは間違いです。その時々で、「円安」や「円高」が日本経済に悪い影響を及ぼしていると判断された場合、はじめて「現状において円安は悪い、円高は悪い」などと評価すべきなのです。

これで、理解できない方は、残念ながら、高校の「政治経済」の教科書などを読み返していただきたいと思います。高校の教科書等馬鹿にできないです。特に財政政策や金融政策については、理解しやすいように懇切丁寧にわかりやすく説明されています。

すくなくとも、この位の知識がなければ、「悪い円安」などと言われても、そもそも判断ができないと思います。その状態でテレビの「ワイドショー」などで、識者が「悪い円高」などと語ったことを鵜呑みにすべきではないです。そのことが、あとで回り回って、あなた自身、あなたの会社、あなたのお子さんや、あなたの孫を窮地に陥れることになるかもしれません。


それに円安は悪いことばかりではありません。円高だと海外投資が増える傾向になりますが、円安だと、海外投資は割高になり、日本国内に投資が向くことになります。実際、上のグラフをごらんいただくと、おわかりいただけるように、円ドル相場と民間企業設備投資には正のの相関関係があり、円安だと国内投資が進み景気も良くなります。

日本では、金融緩和政策はもっと強化される余地が十分ありますし、金融緩和を後押しする拡張的な財政政策が必要です。にもかかわらず、2021年から、税収が大きくに伸びる一方で財政支出が減少したとみられ、財政政策はかなり緊縮方向に転じたと言えます。

今後日本において妥当な金融財政政策が続くなら、更に円安が進んでも不思議でありません。そうして、それを「悪い円安」と評価することはできません。ただ、緩和が進み金融緩和策を継続しても、物価目標を超えインフレが加速するだけで、雇用の改善が継続しなければ、それ以上の緩和は無意味であるどころか、良くない状況です。このときに、円安になっていれば、それこそ「悪い円安」と呼んでも良いかもしれません。

ただ、現在日本経済はそのような状況にはなく、金融緩和を継続すべきですし、積極財政も実行すべきです。原油価格等が高騰している現在においては、仮に2%の物価目標を達成したとしても、さらに金融緩和、積極財政を継続すべきです。少なくとも、3%とか4%になってから、どうすべきかを精査すべきと思います。その時に最も重要な指標は雇用です。

雇用こそ数ある経済政策で最も重要な指標であり、これさえ良ければ、他の指標が悪くても経済政策は奏効しているといえます。他の指標がのきなみ良くても、雇用が悪ければ、経済政策は失敗です。雇用が改善されつつあるなら、5%になっても金融緩和、積極財政を継続すべきです。

1990年代前半までは、日本は一人当たりGDPで比較して先進国の中でも最も豊かな国に属していたが、1990年代後半から経済が停滞期に入り、2000年代以降は普通の先進国程度まで経済的な豊かさは低下しました。賃金も30年間も伸びていません。

ただこれは、1990年代半ば以降に緊縮的な金融財政政策が続き、超円高が長引きデフレに陥るとともに、実質GDP成長率が長期にわたり停滞し続けたことが引き起こしたものです。要するに、金融財政政策を間違えたのです。他の生産性がどうの、社会構造がどうのという議論は、根本的に間違えています。

金融財政政策が間違えているさなかに、生産性をあげようとしたり、社会構造を変えてみても、経済が良くなることはありません。まともな金融財政政策が行われている最中であれば、だまっていても生産性が上がり、社会構造の変化もすすみます、さらに努力を重ねれば、さらに進む可能性もあります。その逆はありません。順番を間違えるべきではないのです。

第2次安倍政権発足と同時に起きた金融政策の方向転換によって、財政政策そのものは二度の増税によって転換はしなかったものの、デフレ圧力が後退して雇用が生まれ、2012年から2017年頃まで、主要な欧州諸国と遜色ない程度には日本でも一人当たりGDPが伸びました。

ただ、コロナ後の復調局面で再びスムーズに経済成長を遂げた米国と比べると、日本は「置いてけぼり」とも言える状況となり、再び大きな差が開きつつあります。

日本のコロナ後の政策の多くが機能不全となっていることが一因ですが、最近の的外れな「悪い円安論」が目立つことには、今後も日本の経済政策が妥当に行われない可能性が出てきました。米英などインフレが加速していた経済とはと大きく日本の経済の状況が異なるにもかかわらず、「船に乗り遅れるな」という薄弱な理由で、緊縮的なマクロ安定化政策に転じる予兆に見えるからです。

1月中旬には、「2%インフレを実現する前に日銀が利上げを行う」との一部メディアの観測報道が話題になりました。この観測報道の出所は、1990年代後半から長年にわたりデフレを放置してきた日本銀行OBなのではないかと考えられます。

彼らはね、元々緊縮的政策志向が極めて強いのですが、現行の日本銀行の体制では本音を隠す官僚組織の代弁者としてOBが振る舞っているのではないでしょうか。

実際に、黒田日銀総裁は1月18日の会見において、早期利上げの議論について否定しました。ただ、岸田政権が発足したことで、極めて保守的な経済官僚が今後のマクロ安定化政策の舵をとる可能性が高まっているようにみえます。

本来であれば米英で現在起きているインフレ上昇は、金融財政政策をしっかり行えば日本のデフレは克服することができる、ことを示す格好の事例のはずです。大規模な金融緩和を実施して、インフレ率が8%にもなった後に利上げなどして抑制策をとっているにもかかわらず、ただ、日本では、保守的な経済官僚が緊縮的な政策に転じる理由として使われるのかもしれないです。

日本銀行の早期利上げの観測、それと親和性が強い「悪い円安論」の議論が目立ちますが、それは岸田政権下においてコロナ後の日本経済が再び長期停滞期に舞い戻るリスクが大きいことを意味するかもしれません。その後も似たようなスタンスの政権が続けば、日本はとんでもないことになるかもしれません。

だとすれば、日本ではロシアが経済制裁から立ち直った後も、経済は落ち込み、リーマン・ショック後の日本のように、世界で一人負けの状況に陥り、「失われた30年どころか」「失われた50年」を迎えることになるかもしれません。

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