2022年4月17日日曜日

日本の軍事・安全保障研究を長年阻んできた「考えずの壁」 事前審査は科学者の意欲を削ぐ―【私の論評】問題の本質は、学術会議理事会メンバーの多くが、一般社会常識に欠けること(゚д゚)!

日本の解き方

昨年4月に行われた日本学術会議の総会


 ロシアのウクライナ侵攻を受けて、軍事や安全保障研究の重要性が改めて意識されている。日本の学術界でこうした研究が忌避されてきた背景や、今後どのように改革すべきかを考えてみたい。

 日本の「非核三原則」は、しばしば「非核五原則」といわれる。①持たず②作らず③持ち込ませず―のほかに、④言わず⑤考えず―もあると揶揄されているのだ。④は言論の自由、⑤は学問の自由に反するが、筆者が役人当時は「非核五原則だから、言葉に気をつけろ」と言われていた。

 日本の安全保障研究はまさに、「考えずの壁」に阻まれてきた。日本学術会議のホームページをみると、「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明(1950年)、「軍事目的のための科学研究を行わない声明」(67年)、「軍事的安全保障研究に関する声明」(2017年3月24日)がしっかりと書かれている。

 学問の自由を守るべき日本学術会議が「考えず」を科学者に強いてきたのではないか。

 ちなみに、憲法23条で「学問の自由は、これを保障する」と定めている。一方、非核三原則は法律の根拠もない、首相の国会答弁に基づく政府の指針である。さらに、④言わず⑤考えずは、誰かが言い出したのかも明確でなく、単なる雰囲気でしかないが、⑤については日本学術会議が研究者に影響を与えているといえそうだ。

 海外において、安全保障研究を制限する動きを学会が行うかといえば、筆者は寡聞にして聞いたことがない。世界で普遍的な学問の自由に抵触するからだ。一部の人がそうした声を上げることはあっても、個々の学者の良心に委ねられており、学会全体で決定することはまずないだろう。

 そもそも科学技術の多くはは、軍事的にも民生的にも使えるものだ。ノーベル賞は、ダイナマイトを発明し巨額の富を得たノーベルの遺産に基づくものだが、そのダイナマイトはそもそも軍民両用だ。ダイナマイトに限らず、およそ全ての科学技術が軍民両用だとの見方もできる。

 一方、日本学術会議はデュアルユース(軍民両用)の研究を認めないとの指摘もある。「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである」との見解を示しているが、研究者は本能的に興味があるものを研究する人たちなので、事前審査があるだけで研究意欲はなくなるものだ。

 実際のところ、研究段階では軍事用なのか民生用なのか識別困難だ。科学技術全体に多くの研究資金を用意し、研究者には一所懸命研究してもらう。民生用ならばそれでいいし、仮にその一部が軍事用になっても、実際の行使の段階で政治判断に委ねたほうがいい。

 全ての科学者が軍事研究しなければいいというのでは、科学技術研究を否定してしまう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】問題の本質は、学術会議理事会メンバーの多くが、一般社会常識に欠けること(゚д゚)!

2020年当時の菅総理は、日本学術会議の会員候補6人を任命しませんでした。これについては、当時も様々な論議がされていましたが、一部を除いてほとんどがピンボケというか、そもそも人事とは何のためにあるかも理解していないような議論が多く、それは現在に至るまで同じです。


そのため、当時も人事の本質について掲載したのですが、本日はそれをさらに補足した形で再掲したいと思います。

人事の本質については、ドラッカー氏は以下のように語っています。
貢献させたいのならば、貢献する人たちに報いなければならない。つまるところ、企業の精神は、どのような人たちを昇進させるかによって決まる。(『創造する経営者』)
上では「企業の精神」という言葉を使っていますが、これは民間企業ではなく、あらゆる組織にあてはまります。実際、ドラッカーは他の著書では「組織の精神」という言葉を使っています。ドラッカーは、組織において真に力のあるコントロール手段は、人事の意思決定、特に昇進の決定だといいます。

コントロール手段としては、様々なものがありますが、真に力のあるコントロールとは人事の意思決定です。

それは組織が信じているもの、望んでいるもの、大事にしているものを明らかにします。

人事は、いかなる言葉よりも雄弁に語り、いかなる数字よりも明確に真意を明らかにします。

組織内の全員が、息を潜めて人事を見ているのです。小さな人事の意味まで理解しています。意味のないものにまで意味を付けます。この組織では、気に入られることが大事なのか、あるいはそうでないのか、探ろうとします。

“業績への貢献”を企業の精神とするためには、誤ると致命的になりかねない“重要な昇進”の決定において、真摯さとともに、経済的な業績を上げる能力を重視しなければなりません。

これは、無論民間企業のことですが、非営利組織の場合は、経済的な業績というところを「組織の使命を追求する」と言い換えるとわかりやすいです。実際、ドラッカーは非営利企業組織については、そのような言い方をしています。ですから、この原理は、もちろん「日本学術会議」の人事にもあてはまることです。

致命的になりかねない“重要な昇進”とは、明日のトップマネジメントが選び出される母集団への昇進のことです。それは、組織のピラミッドが急激に狭くなる段階への昇進の決定です。このトップマネジメンに関しては、民間企業で良く用いられる言葉ではありますがこれも同じことであり、非営組織であれぱ、意思決定機関である理事会メンバーなどを指します。

そこから先の人事は状況が決定していきます。しかし、そこへの人事は、もっぱら組織としての価値観に基づいて行なわれます。
重要な地位を補充するにあたっては、目標と成果に対する貢献の実績、証明済みの能力、全体のために働く意欲を重視し、報いなければならない。(『創造する経営者』)
そうして、真に力のあるコントロールとは人事の意思決定であることには、確かに人事的な措置としては、その時々で状況に左右される度合いは大きいですが、採用であろうが、ミドル・トップマネジメンの人事であろうが、その本質は変わりはありません。

『創造する経営者』表紙

そうして、これは社会常識でもあります。この社会常識が覆されれば、多くの組織が成り立たなくなります。無論、ここでいう組織が、反社であったり、プラック企業であったりすれば、これはそもそも組織そのものが議論の対象にならず、まともではなく、そのような組織は一刻もはやく潰すべきです。

反社でも、ブラック企業ではない組織ではないまともな組織においてこれは成り立つ原理です。無論、人事とはいえど、その手法が法律に違反していれば、別の話です。たとえば、違法な報復人事は、そのわかりやすい事例です。しかし、法律や社会一般通念に反しない限り、これもどの組織にもあてはまります。

これはいずれの組織にも当てはまるので、大学のような組織でも、大学の価値観にもとづいて、学生を選抜します。学業成績を重視するのか、他の要素を重視するのか、それはもっぱら個々の大学のマネジメントが最終的に決めるものです。

そうして、選抜試験の結果が判断基準は詳細に説明されることはありません。選抜されるか、選抜されないかによって、それを示すのみです。選抜されなければ、学業成績も含む、当該大学理事会の価値観に合わなかったということです。

会社の人事でも同じことです。昇進、降格、昇給、左遷など様々な人事的措置は、当該組織の価値観を示すのであって、その中身まで詳細に伝えられることはありません。それが、社会一般常識です。

ここで、大学の選抜試験に落ちたらといって、その理由を大学側に説明させようとしたり、反対したり、会社の人事が気に食わないというのであれば、それを個々人が直接組織に訴えたとしても、それは叶えられないのが普通です。

それを言い張る個々人は社会常識に欠けるとされます。どうしても不服があるなら、そもそもそのような組織に属さないという選択肢もあります、裁判で訴えるという手段もあります。

無論、これは学術会議にもあてはまります。学術会議の人事の最終・最高決定権を有するのは、内閣総理大臣です。であれば、内閣総理大臣が日本学術会議の会員候補6人を任命しなかったとしても、それは人事権を行使しただけです。

それに意義を唱えるというならば、先にあげたように学術組織が反社やブラック企業のような組織であるか、人事の発令が報復人事のように違法であったような場合に限られます。

ヤクザや暴力団が関係する職場は辞めるべきブラック企業の特徴


現在の政府はどの観点からみても、反社とはいえないですし、当時の菅総理の人事は報復人事とは言えないと思います。ただ、特に当時から学術会議に関しては、何やら非常に問題のある組織であることがいわれています。

さらに「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである」との問題のありそうな、見解も示しています。

当時の人事に関して、問題があるというなら、学術会議には、高名な憲法学者も所属しているはずですから、裁判に訴えたらとも思うのですが、それは未だに行われていません。そうして、組織として重要な意思決定でもある「軍事的安全保障を事前審査すべきなどの」の提言も、学術会議として提言はできるかもしれませんが、それを実行すべき否かの最終判断は総理大臣によるものです。

学術会議のメンバーでどうしても、総理大臣による人事や意思決定が気に食わないのであれば、何も学術会議に属している必要はありません、学術会議を出て、別の組織を作れば良いのです。会社の人事や、経営者の意思決定がどうしても気に入らないという社員は、会社を飛び出して自らの理念を体現する会社を創業するということもできます。実際、そのようなことをして、大成功している経営者も大勢います。

小林科学技術相は15日の閣議後の記者会見で、政府が夏頃までに方針を示す日本学術会議のあり方について「学術会議の自己改革の進展状況などを総合的に考慮して検討する」と述べました。

学術会議は18日から始まる総会で、会員選考方法の見直しを行います。政府は、こうした自己改革の中身も判断材料にして、設置形態を含めたあり方の見直しを検討するとしています。

学術会議を巡っては、自民党プロジェクトチームが「政府から独立した法人格への移行」「第三者機関による会員推薦の実現」などを政府に提言しています。

政府がそうするというならそうしたら良いとも思いますが、学術会議の組織上の大きな問題は、学術会議のトップマネジメント(理事会)が、人事の本質が真のコントロールであるということを理解していないことにあるのは間違いないです。

これを批判する野党やマスコミなど、野党は野党内人事では、当然のことながら、党内人事の内容を詳細に公表したり、そこまでしなくても、要求すれば公表されたり、問題があればトップ・マネジメントを追求しているのでしょうか。マスコミの所属する会社組織でもそのようなことが行われているのでしょうか。

もし、そのようなことが行われていない、行うつもりもないというのなら、総理大臣にだけそのような要求をするというのは筋が通らず、完璧なダブルスタンダード(二重基準)です。

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