2022年3月29日火曜日

米、ロシアより中国対応優先 新国家防衛戦略の概要発表―【私の論評】米国がロシアよりも中国への対峙を優先するのは、正しい(゚д゚)!

米、ロシアより中国対応優先 新国家防衛戦略の概要発表

米国防総省(通称ペンタゴン)

 米国防総省は28日、バイデン政権で初となる国家防衛戦略(NDS)の概要を発表した。戦域としてまずインド太平洋における中国への対応を優先し、続いてウクライナに侵攻したロシアの挑戦に対処する姿勢を明確にした。必要に迫られた紛争で勝利する備えをしつつも、米国や同盟国への戦略的攻撃や侵略行為の抑止を最重視するとした。

 国防総省は同日、機密扱いの国家防衛戦略を議会に送達した。今回初めて「核態勢見直し」(NPR)と「ミサイル防衛見直し」(MDR)を組み込む形で戦略見直しを総合的に実施。機密扱いではない国家防衛戦略は近く公表する。

 戦略は、中国が軍事・経済・科学技術など複数の領域で突きつける脅威に対処し、国土を防衛することを最優先事項とした。

 一方、ロシアも「重大な脅威」とし、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国と協力して頑強な抑止を敷く。北朝鮮、イラン、他の過激派組織を含む脅威に対処する能力も維持するとしている。

  トランプ前政権の2018年国家防衛戦略では、中露2大国との紛争に同時に対処する従来の「二正面作戦」から、各地における脅威を抑止しつつ一大国の侵略に打ち勝つ構想へと修正したが、ヒックス国防副長官は同日の記者会見で、この路線を「本質的に継続する」と語った。

【私の論評】米国がロシアよりも中国への対峙を優先するのは、正しい(゚д゚)!

ロシアより中国対応優先というバイデン政権の姿勢については、すでに予兆がありました。それは、このブログでも何度か述べたように、バイデン政権初の「アジア太平洋戦略」においてはっきりしていました。それについては、このブログにも述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
ロシア艦艇24隻を確認 日本海・オホーツク海―【私の論評】バイデン政権に完璧に無視されたロシア太平洋艦隊(゚д゚)!

極東に新しく配属されたボレイ型原子力潜水艦「ウラジーミル・モノマフ

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみを引用します。

最新の「インド太平洋戦略」にロシアという文言が一言もないというのが、現在のバイデン政権の考えを雄弁に語っていると思います。いくらプーチンが去勢をはってみたところで、いまや一人あたりのGDPが韓国に大幅に下回るロシアにできることは限られています。インド太平洋地域におけるバイデン政権の最優先課題はやはり、中国なのです。

そうして、この戦略には「日本」という言葉は2度でてきます。以下にその部分だけを引用します。
  • オーストラリア、日本、韓国、フィリピン、およびタイとの 5 つの地域条約同盟をさらに深める。
  • 拡大抑止と韓国・日本の同盟国との連携の強化、朝鮮半島の完全な非核化の追求 
バイデン政権としては、日本をはじめとする同盟国等も米国が中国と対峙するための支援を惜しまないでほしいと願っているのでしょう。

こうした中で、ロシアを囲い込みに協力している日本は、米国に対してかなり貢献しているといえるでしょう。その安心感もあって、戦略のなかに「ロシア」という文言は一言も出さなかったのでしょう。冷戦時と比べれば、隔世の感があります。 

ロシア囲い込みとは、日本の対潜哨戒等によるロシア原潜の実質上の囲い込みです。潜水艦の行動は昔から、各国とも公表しないのが通例であり、海自もこれをあまり公表しないので、日本国内でもあまり知られていないようです。

日本は、冷戦中に米国の要請を受け、対潜哨戒機を大量に購入して、オホーツク海におけるロシア原潜の行動の監視を強化しました。これで、実質的にロシア原潜の囲い込みに成功し、米国の冷戦勝利に大きく貢献したとともに、日本の対潜哨戒能力は米国と並び世界のトップクラスへと飛躍的に向上しました。

この哨戒活動は今でも続いています。これは、さらに強化され、日本は現在潜水艦22隻体制をを構築し、オホーツク海方面での、ロシア原潜の動きに目を光らせいることでしょう。

バイデン政権初の「アジア太平洋戦略」は2月11日に公表されています。2月22日、バイデン大統領は、プーチンがウクライナ東部への派兵の意向を表明したことを受け、「これはロシアのウクライナ侵攻の始まりだ」と述べ、ロシアに対する制裁を発表しています。

2月11日にはすでにロシアがウクライナに侵攻する兆候を掴んでいたと思います。にもかかわらず、「アジア太平洋戦略」には、「ロシア」という文言が一つもないのです。

これは、バイデン政権の中国への対峙を優先するという意思の現れであり、それは妥当であると考えられます。

名目GDPを見ると、10年時点で中国は6兆338億ドル、ロシアは1兆6331億ドル。その後、中国は右肩上がりで成長線を歩んでいますが、ロシアは停滞し、成長さえ果たしていません。

 20年には中国が14兆8867億ドル、ロシアは1兆4785億ドルと、その差は4倍から10倍にまで膨らんでいます。コロナ禍の20年には1人当たりGDPでもロシアは中国にとうとう抜かれてしまい、どちらがシニアパートナーで、どちらがジュニアパートナーかは火を見るより明らかだからです。

ちなみに、現在一人あたりのGDPは中国がロシアを追い越したとはいえ、さほど変わりはありません。そうして、人口はロシアは1億4千万人、中国は14億人であり、丁度ロシアの10倍です。人口比で10倍であり、GDPも10倍ということなのです。それを考えると、中国も人口が多いだけで、経済的に恵まれているとは言い難いです。


ロシアの経済規模は約150兆円で世界10位前後に位置しますが、中国の10分の1、日本の3分の1。国民1人当たりGDPは約120万円で、中国やマレーシアと同水準です。また、経済制裁により、今後のロシア経済は2桁以上のマイナス成長は避けられないとみられます。

ただ、中国共産党はそれでも軍事や他国に介入するなどの資金は、ロシア政府に比較すれは潤沢に得ることができます。

両国ともランドパワー国であり、中露の海軍力は一般に考えられているよりも、はるかに能力が低いです。特に、ASW(対潜戦)においては、日米をかなり下回り、海戦においては勝つことはできません。

しかし、だからといって安心できるわけではありません。特に、中国は豊富な資金力をもって、貧しい国や市民社会が不安定な社会に対して介入することができます。これと軍事力やその他をあわせたハイブリッド戦を展開することができます。これは、現在のロシアにはあまりできないことです。

ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアとウクライナの関係だけの問題ではありません。これは、ロシアによる戦後秩序の破壊行為の一環とみるべきなのです。

世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきました。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきました。

ところが、この世界秩序は、ソ連崩壊から30年経った今、中国とロシアの挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたったのです。

中国は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしています。ロシアはクリミア併合に続くウクライナ侵攻に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっています。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れています。

中国とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止でした。

ところが、近年は米国の抑止力が弱くなってきました。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまいました。それが、米国の降参ともいえるような、アフガン撤退や、今回のロシア軍によるウクライナ侵攻に結びついた面は否めません。

犬を抱くウクライナ女性兵士

その結果、いまの世界は中国やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきたといえます。そうして現実にロシアのウクライナ侵攻が起こってしまったのです。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかないのです。

そうして、ロシアより中国のほうがはるかに強大であり、ロシアを制裁して、経済を弱らせて何もできないようにしたとしても、中国が今のままであれば、何も問題は解決しません。中国との対峙こそが、最優先課題なのです。

これは、米国にとってもそうですが、日本にとってもそうです。その意味では、米国がロシアより中国対応優先するのは正しいです。優先順位を間違えるべきではありません。日本も優先順位を間違えるべきではありません。

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