ロシアは「長期的な敗戦」の可能性が高い
■岡崎研究所
ロシアは2月24日、ウクライナに対する軍事侵攻を開始した。ウクライナ戦争は、ウクライナ人の抵抗がどの程度強いか、ロシアにおけるプーチン批判がどのくらい出てくるか、西側の対応がどれくらいのものになるかなど、条件によって帰趨が決まる。
ウクライナ人の防衛意識は高いようであるし、国際金融システムSWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシア排除をはじめとする対露経済制裁が迅速に決まったり、ウクライナへの西側の武器支援が強まるなど、ロシアへの圧力は急速に強まっている。しかし、まだ確定的なことは言えない。
侵攻については、多くの社説、論説が各紙に出されているが、2月24日付でニューヨーク・タイムズ紙に掲載された、米外交評議会のリチャード・ハース会長の論説‘The West Must Show Putin How Wrong He Is to Choose War’が納得できる。ハースの言う通り、西側はプーチンに如何に戦争を選択したことが間違っているかを示さなければならない。
今度のプーチンのやり方は到底許されるものではなく、国連憲章にも乱暴に違反したことであり、プーチンの狙い通りになることは阻止する必要がある。そのためには、長期戦も覚悟してやるべきことをやっていくということだろう。
国際秩序や平和維持に責任を有する国連常任理事国であるロシアが武力侵攻という蛮行を行ったのは極めて重大なことである。国際連盟が第2次大戦の発生を防げず崩壊したように、国際連合も崩壊の瀬戸際に立たされているように思える。いずれにせよ、ロシアには国際連合安全保障理事会の常任理事国たる資格はない。こういう政治面でのロシア排除も考えていくべきであろう。
今回の侵攻は、ロシア自身にとって、長期的に大きなマイナスになり得る。侵攻前に書かれた記事だが、エコノミスト誌2月19日号の社説‘Whether he invades Ukraine or backs down, Putin has harmed Russia’は参考になる。
同社説によれば、プーチンは戦術的利益を得たとしても、長期的、戦略的には負けている、と指摘する。具体的には、「(西側の制裁を補うため)中国への依存を強めれば、ロシアを中国のジュニア・パートナーにしてしまうだろう。中露の専制主義者の同盟はロシア国内に心理的コストをもたらす」、「プーチンは治安当局者への依存を深め、ロシア国家の他の柱である自由な資本家とテクノクラートの敗北になるだろう」、「停滞と憤激が反対派に蓄積され、それに対しより残酷な弾圧が加えられるだろう」などと指摘する。
そして、「西側は活性化し、ロシアのガスに背を向ける決心をするだろう。ウクライナはロシアにとってお金と人命を費やす問題になり、プーチンはパリア(のけ者)になろう。ロシア自身は短期的には制裁で、その後はアウタルキー(自給自足経済)と弾圧で損なわれるだろう」と予測する。
現実となりつつある「長期的なマイナス」
西側、特に北大西洋条約機構(NATO)、先進7カ国(G7)の団結、ウクライナ人の反発、スウェーデンやフィンランドのNATO接近などの動き、煮え切らなかったドイツの国防政策転換などをみれば、エコノミスト誌の社説の言う通りであろう。ロシアは核兵器保有国であるが、核兵器はそう簡単に使える兵器ではない。ロシアの経済は国際通貨基金(IMF)統計の国内総生産(GDP)では韓国以下である。
カール・ビルト元スウェーデン首相は、プーチンは「insane(気違い沙汰)」なことをやっていると言っている。プーチンが戦略的に考え、今の自分のアプローチは色々な欠点があることに気づき、現実的に力関係を冷静に考え、適切な判断に至ることが望まれる。
なお、ロシア人がウクライナとの戦争を支持する気持ちはほとんどなく、ウクライナ戦争では、クリミア奪回後のプーチン支持率の急上昇のようなことにはならないと大方の人が考えている模様である。
【私の論評】最終的にプーチンは失脚か、地位の禅譲のいずれしかなくなる(゚д゚)!英国軍の国防参謀総長は「ウクライナに侵攻しているロシア軍の主要戦力が打撃を受けていることから、ウラジーミル・プーチン ロシア大統領がウクライナ戦争で敗北する可能性もある」と分析しました。
6日(現地時間)
英国日刊紙“ザ・タイムズ”などによると、英国のトニー・ラダキン国防参謀総長はこの日、英国BBC放送に出演し「計画通りに進んでいないウクライナへの侵攻により、(プーチン大統領は)自らロシアを混乱の中へと追い込んだ」とし「ロシアの主要戦力がすでにウクライナから深刻なダメージを受けていることから、ウクライナを制圧するのはもう必然だとは言えない状況になった」と説明しました。
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英国のトニー・ラダキン国防参謀総長 |
ラダキン総長のこのような内容は、ロシア空軍所属の航空機8機が最近ウクライナ軍より撃墜された中、発言されたものです。 ラダキン総長は「現在のロシアは、苦痛を受けている孤立した強大国だ」とし「全面侵攻直前の時より、現在のロシア軍の戦力は顕著に弱まっているとみることができる」と語りました。
つづけて「ロシアは第2次世界大戦以降、今回のような大規模軍事作戦を実施した経験はない」とし「このことにより、軍隊の維持と補給など複雑な部分で問題が生じている」と説明しました。 実際ロシア軍は、全世界の主要国たちの予想とは異なり、ウクライナ軍による決死の抗戦に遭い、開戦11日が過ぎようとしている中、ウクライナで完全な勝機を掴めず苦戦している。
ただ、ラダキン総長は「目標達成に向かって遅々として進んでいないことから、プーチン大統領がウクライナに対して今よりもさらに残酷な攻撃に乗り出す恐れがある」と懸念しました。
ラダキン総長は「今後ウクライナに対するロシアの暴力は加重され、これにより血生臭いおぞましい状況をより多く目撃することになるだろう」とし「民間人を対象にした無差別砲撃はもちろん、原子力発電所を攻撃するなどのとんでもない攻撃につながることだろう」と強調しました。
最後にラダキン総長は「この戦争を終えることのできる人は、プーチン大統領だけだ」とし「全世界は『ロシアとプーチン大統領に対する圧力を続ける』という決心を維持しなければならない」と力説しました。
今後、ロシアが進む道を考えた場合、国際的な孤立しか考えられません。今は中国と蜜月関係ということになっていますが、今後ますます制裁が強くなれば、その余波を受けて、中国ですら離れていく可能性もあります。
仮に軍事的に勝利したとしても、国際政治的にロシアの勝利はありません。もはやプーチン大統領の体制転換以外に、ロシアが生き残る道はないでしょう。
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プーチン露大統領 |
ロシアのウクライナ侵略には以下のようなシナリオが考えられます。
一つは、短期決戦でロシアが勝利するというものです。しかし、これは今の段階でも見込み薄になりました。
2つ目は、長期戦になることです。ただ、米国がアフガンに20年駐留したようなことにはならないと思います。ロシアのGDPは現状では、韓国を若干下回る程度です。現在のロシアに長期にわたってウクライナにとどまり続ける力はありません。長くても、1年でしょう。
3つ目は、ウクライナ戦争が、欧州戦争にまで発展する可能性です。自分の地位を保つにはそれしか方法がないとプーチン氏が考えたなら、この危険を冒すかもしれないです。ウクライナで敗北に直面した場合、プーチン氏はエスカレーションを選ぶかもしれないです。
4つ目は、外交的解決です。プーチン氏が戦争を終える屈辱よりも、戦争を続ける方が自分の立場が危ういと判断した場合これは、あり得ます。
最後にプーチン氏の失脚です。プーチン大統領が壊滅的な戦争に突き進んだせいで、何千人、何万ものロシア兵が死ぬかもしれません。経済制裁が響き、プーチン氏は国民の支持を失うでしょう。
市民が革命を起こす恐れが出てくるかもしれないです。大統領は、国内治安部隊を使って反対勢力を弾圧するでしょうが、それで事態はさらに悪化し、ロシアの軍部、政界、経済界から相当数の幹部やエリート層が、プーチン氏と対立するようになるでしょう。
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ウクライナ領土防衛軍の民兵によって捕虜となったロシア兵 |
欧米は、プーチン氏が政権を去り、穏健な指導者に代われば、対ロ制裁の一部を解除し、正常な外交関係を回復する用意があると、態度を明示するかもしれません。そうなると、流血のクーデターが起こり、プーチン氏は失脚することになるでしょう。
この展開はま現時点ではあり得ないことに思えるかもしれないですが、プーチン氏から利益を得てきた人たちが、もはやこのままでは自分たちの利益は守られないと思うようになれば、可能性がゼロということはないでしょう。
ただ、今後5年くらいのスパンで物事を考えれば、最終的にはプーチン氏は失脚させられるか、そうでなければ、先に述べたようにプーチン大統領自身による体制転換ということにならざるを得ないでしょう。体制転換により、誰かに自らの地位を禅譲するしかなくなるでしょう。
ロシアによるウクライナ侵攻は、勝ち負け以前にブーチンの大失敗だったのです。
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