2022年3月18日金曜日

中国〝豹変〟プーチン氏を見限り!? 「漁夫の利」ない…本音は「重荷」 ロシアの敗色が濃厚、軍事支援なら米欧を完全に敵に回す―【私の論評】ウクライナと結びつきが深い中国には、ロシアにだけに一方的に肩入れできない事情が(゚д゚)!

ニュースの核心

習主席(右)は、プーチン大統領とともに「世界の敵」になるのか

 ジョー・バイデン大統領は18日、中国の習近平国家主席と電話会談する。ロシアによる国際法違反の暴挙であるウクライナ侵攻などについて話し合う。欧米メディアは、ロシアが中国に対し、地対空ミサイルやドローン(無人機)、装甲車両などの供与を要請したと報じている。バイデン氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「戦争犯罪人」「人殺しの独裁者」などと糾弾しており、電話会談では「中国がロシアを支援すれば高い代償を払う」と警告することになりそうだ。ロシア軍の残虐非道な無差別攻撃が続くなか、習氏はプーチン氏と手を組むのか。ジャーナリストの長谷川幸洋氏が、中国の動向に迫った。


 ロシアのウクライナ侵攻で、中国はどう動くのか。私は「ロシアを応援したいのはやまやまだろうが、当面は時間稼ぎで様子見」とみる。それで、中国は最終的に「漁夫の利」を得るのか。ご心配なく。そうはならない。

 中国は開戦前、ロシアとの連帯を声高に唱えていた。北京冬季五輪の開幕に合わせて開いた2月4日の中露首脳会談では、ロシアが訴えてきた米国とNATO(北大西洋条約機構)の脅威に理解を示し、「無制限の友好関係」を強調したほどだ。

 ところが、いざ戦争が始まり、ウクライナの目を見張るような抵抗で、戦況が膠着(こうちゃく)状態に陥ると、微妙にスタンスを修正し始めた。

 国連の安全保障理事会と総会では、ロシア非難と即時停戦を求める決議に反対せず、棄権した。王毅国務委員兼外相は3月1日、ウクライナのドミトロ・クレバ外相との電話会談で、現状に「深い悲しみ」と、民間人の被害に「強い懸念」を表明し、7日には「必要なら、仲介に向けて国際社会と協力する用意がある」とまで表明した。

 なぜ、中国は態度を変えてきたのか。理由は明白だ。「ロシアの敗色」が濃厚になる一方、厳しい西側の経済制裁がロシアに予想以上の大打撃を与えているからだ。

 ロシアは当初もくろんだ電撃戦による短期決戦で勝利を得られず、開戦から3週間を過ぎたいまも、首都キエフを陥落させられずにいる。国内では、外資企業が続々と事業を停止し、ボーイングやエアバスの民間航空機も運行できなくなった。メンテナンス部品が手に入らないからだ。猛烈なインフレに襲われるのも、時間の問題である。

 そんななか、ロシアは中国に対し、地対空ミサイルやドローンなど軍事物資の提供と経済支援を求めた。中国は否定しているが、米国はメディアにロシアの支援要請をリークするとともに、NATOとアジアの同盟国に外交公電で情報を通知した。

 支援要請自体が、ロシアの苦境を物語っている。戦争の行方を世界に示唆するとともに、中国も牽制(けんせい)する「一石二鳥」の作戦だ。

 中国は、そんなロシアに手を差し伸べるのだろうか。

 もし、ロシアの要請に応じれば、これまで激しく対立してきた米国に加えて、欧州も完全に敵に回してしまう。欧州こそが、ロシアの脅威を肌身で感じているからだ。中国自身が経済制裁を受けるのも避けられなくなる。

 それだけではない。

 ロシアのタス通信によれば、セルゲイ・ラブロフ外相が16日、RBCテレビ(独立系)で、「ウクライナの中立化問題が安全の確約とともに、真剣に議論されている。私の見立てでは、合意に近づいている」と語り、停戦合意の可能性に言及した。ロシアが停戦に合意すれば、中国ははしごを外されてしまうのだ。

 かといって、いまさらロシアのプーチン大統領を切るのも簡単ではない。中国の習主席は同じ独裁者同士として、個人的にもプーチン氏に入れ込んできた。両国にとって「米国は共通の敵」という戦略構造は、ウクライナ戦争後も変わらない。

 結局、中国は身動きがとれないまま、当面は様子見するしかないだろう。だからといって、戦後に「漁夫の利」は得られない。戦争に負けたロシアを抱えていくのは重荷でしかなく、中国の下心と本音は、冒頭に紹介した首脳会談で明白であるからだ。

 追い詰められているのは、ロシアだけではない。いまや中国も同じである。

【私の論評】ウクライナと結びつきが深い中国には、ロシアにだけに一方的に肩入れできない事情が(゚д゚)!

中国には、ウクライナをないがしろにできない理由があります。なぜなら、米国を脅かすほどの軍事強国に成長した中国。その軍事力を作り上げるうえで「第一功臣」であると中国で呼ばれてきたのがウクライナなのです。

中国はソ連崩壊によるウクライナ独立後の1992年に世界で最も早く国交をウクライナと結んだ国の一つです。

ウクライナはソ連の「兵器庫」と呼ばれるほど軍需産業が集中したところで、冷戦後の独立後もソ連の35%の軍事産業を引きつぎました。ところが、ウクライナ軍単体に需要があるわけではなく、ウクライナ政府に軍需産業をとことん守る力もありませんでし。

問題は軍事関係の技術者や専門家と最新の技術でした。当然、ウクライナは世界の草刈り場となりました。経済力のある米国、イスラエル、ドイツ、シンガポールなども動きましたが、中国にはほかの国にはない優位性がありました。

ソ連時代からの社会主義国同士の交流で積み上げた人的ネットワークでした。中国はソ連との間で科学技術や工業技術の交流があり、中国の研究者とウクライナの研究者との間で分厚い個人的関係がありました。そうした人脈が、中国政府の要望でフルに動員され、ウクライナの人材獲得競争に乗り出したのです。

キーパーソンは当時の首相李鵬でした。天安門事件で悪名を響かせたが、李鵬はエネルギーや軍事に強い政治家で、「10年かけても育成できない優秀な人材を確保できることはわが国にとって千載一遇のチャンスである。決して逃してはならない」と号令しました。

立ち上がったのが「双引工程」と呼ばれるプロジェクトです。

ウクライナを中心に、旧ソ連圏の人材と技術という「双子の遺産」を引き込むことを目指しました。狙いはウクライナに向けられました。李鵬は、中国・ウクライナ関係において最大の功労者であると中国で今日広く認められています。

ウクライナの科学技術は、ロケット、宇宙航空産業、軍用艦船産業、燃料動力など、当時の中国が立ち遅れていた部門をことごとくカバーしていました。1994年にウクライナが国際圧力で核放棄を受け入れると、さらに核技術関連の人材が行き場を失いました。多くの軍事企業が倒産し、失業した技術者たちを中国は厚遇しました。

ウクライナの国営企業ユージュマシュは、安定した実績を誇ってきた

 2020年時点の中国メディアの報道では、この「双引工程」で合計2000項目の協力が行われ、その中で最も成功したものはウクライナ関係であり、ウクライナの専門家が招聘された人数は2000人に及んだといいます。
 
 中国がウクライナから手に入れた軍事技術でよく知られているのが、中国初の空母である遼寧です。ソ連がウクライナ(当時は連邦の一部)の企業に発注し、完成間際にソ連解体となって宙に浮いた船体を、マカオでカジノ船にするという口実で解放軍系のカバー企業が間に入って中国は手に入れました。

それをもとに中国は空母研究を続け、ワリャークは練習船を兼ねて遼寧号として就航し、さらに自主空母を作り上げるまでになっています。

遼寧

中国がウクライナから軍事技術を得たのは1990年代から2010年ごろまでです。以後は中国の技術が進歩し、ウクライナから学ぶものは少なくなりました。ところが、それ以後も友好関係は続いている。次のターゲットは交通と食糧でした。

12年に政権についた習近平が打ち出した「一帯一路」で、ウクライナを重要なパートナーとして位置付けたのです。13年には友好条約を締結しました。

ウクライナでは、親欧州連合(EU)と親ロシアの指導者による政権交代が相次ぎ、14年のマイダン革命やロシアのクリミア併合など、政治的に不安定になったが、中国は「我関せず」でウクライナとの関係を固め続けました。

その象徴は、中欧列班(トランス=ユーラシア・ロジスティックス)と呼ばれる中国・欧州を結ぶ貨物列車です。20年7月には中国・湖北省武漢市からウクライナの首都キエフが結ばれ、「シルクロード経済ベルト」のための重要拠点となっていました。地理的にウクライナはアジアと欧州を結ぶ位置にあります。鉄道網もソ連時代の遺産でしっかり整備されています。

「世界の食糧庫」と呼ばれる農業大国であるウクライナからは、飼料用のトウモロコシや小麦・大麦などを中国は買い付けており、中欧列班の中国への復路便に満載されていました。中国税関の資料によれば、ウクライナから輸入したトウモロコシは820万トンで、中国の全トウモロコシ輸入の3割を占めています。飼料は食糧生産に不可欠です。中国14億人の胃袋を満たすうえで、ウクライナは大切な飼料の供給源となったのです。

国交樹立30周年にあたる現在、強化されているのは経済関係で、ウクライナにとって中国は19年からロシアを抜き去り、輸出入とも最大の貿易相手国となりました。中国企業はウクライナの港湾、キエフの地下鉄、風力発電などに協力しています。ファーウェイ(華為技術)もウクライナで4Gのネットワーク施設に参加しています。

また、在ウクライナの中国人留学生数も常時5000人ほどいると言われ、欧州のなかで「最貧国」と言われるだけあって物価は安いですが、国民全体の知的水準や科学技術のレベルも高いウクライナは、中国人にとって人気の留学先でした。

甘粛省蘭州市の中川国際空港に着いた、ウクライナから退避した中国人留学生(2022年3月9日)

中国はロシアを戦略パートナーと位置づけ、侵略前にプーチン大統領と習近平国家主席が「無制限」の協力をうたったが、東欧という地政学的にも重要な地域への楔となるウクライナとの関係も中国にとって高い価値を有していました。

仮にロシアとウクライナの仲介を中国が果たすことができれば外交的に大きな得点となり、新しい超大国として国際社会に大きな存在感を示すことになります。

中国もその機をうかがっているでしょうが、現段階では火中の栗を拾うことになり、容易ではありません。ウクライナの破壊を惜しみながら、国際社会で悪者になる一方のロシアにあまりにも近づきすぎないよう配慮もしなくてはならないでしょう。

中国がロシアに味方すれば、欧州は厳しい目で見るでしょう。ウクライナ情勢の悪化を受けて、今後中国は確実に「一帯一路」を含めた欧州戦略の練り直しが求められるはずです。ロシアに与すれば、その代償の大きさはとてつもないことになるでしょう。

ロシアとウクライナの停戦協議について、フィナンシャル・タイムズ(FT)は16日、ウクライナの中立宣言を条件に、ロシア軍が撤退し、停戦する内容を含んだ15項目の暫定的平和協定に向けて「大きな進展があった」と報じました。

タス通信によれば、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は16日、独立系のRBCテレビで「安全の確約とともに、ウクライナの中立化を真剣に議論している。これはまさに、ウラジーミル・プーチン大統領が2月に言った内容だ。私の見立てでは、合意に近づいている。具体的な文言もある」と語りました。 

英スカイニュースによれば、プーチン氏も「我々は協議の用意がある」と語った、といいます。詳しい協議の中身は明らかになっていませんが、FTによれば「オーストリアやスウェーデンのように、中立化を条件に、ウクライナに一定の武装化を認め、米英トルコなどが安全を保障する」といった内容のようです。 

これまでの「中立化+非武装化要求」と比べれば、ロシアはあきらかに譲歩してきました。なぜかと言えば「戦場での戦いが行き詰まっているから」でしょう。

ノーベル賞を受賞した経済学者のポール・クルーグマン氏(ニューヨーク市立大学教授)は、3月7日付ニューヨーク・タイムズのコラムで「中国はロシアを救えない」と書きました。「中国はロシアが求める高性能半導体や航空機部品などを提供できない」「中国は制裁を恐れている」「両国は地理的に遠い」「ロシアは中国の従属国に成り下がってしまう。プーチンはそれを認めない」という4つの理由からです。

ポール・クルーグマン氏

 中国がロシアに味方するなら、今度は中国の「戦略的失敗」ということになるでしょう。結局、ロシアは必ず敗北するからです。たとえ、これからキーフなどの都市部に侵攻したとしても、人口288万の都市を一部でも制圧するのは、総勢20万程度のロシア軍には到底不可能です。

キーフを破壊して瓦礫の山としても、そこに立てこもるウクライナ軍を根絶やしにすることはできません。市街戦ということになれば、ロシア軍も大被害を被ることになります。

負けたロシアを抱きかかえていくのは、中国にとって大変な重荷になるに違いないです。

ここは、中国にウクライナ支持を鮮明に打ち出してほしいところです。

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