2013年4月23日火曜日

経済産業省の「現役官僚が提言!」らしいんですが、何を言いたいのか良く分かりません―【私の論評】マクロ的視点がない?「何を言いたいのか良く分かりません」が良く分かりません!!

経済産業省の「現役官僚が提言!」らしいんですが、何を言いたいのか良く分かりません

山本一郎氏

山本一郎です。今日はひたすら家族サービスをしていました。

賛同されたり馬鹿にされたり毀誉褒貶が激しい記事ではありますが、FACEBOOKを中心にそこそこ盛り上がっていたようなので、軽く石を投げてみたいと思います。お題はこちら。

現役官僚が提言!日本のモノづくり衰退の真因は組織的うつ病による「公私混同人材」の死蔵である

「組織的うつ病」とは穏やかではありませんが… 掻い摘んで言えば、日本の製造業がマズい理由は公私混同人材なる独創的な社員に仕事を任せないからであって、そこを改善していけば製造業は復活するんだっていうような話であります。

この記事の続きは、こちらから!!


【私の論評】マクロ的視点がない?「何を言いたいのか良く分かりません」が良く分かりません!!

いとう・しんすけ
上の記事は、左の方が書かれた、ダイヤモンド・オンラインの記事に関して、批判をしているわけです。私は、この官僚の方が書いた記事に関しても、そうして、その記事を批判する記事を読んでみましたが、両方とも何やら読んでしっくりきません。

まずは、官僚の方の記事を読んでみましたが、何やらしっくりしません。そうして、批判記事の方を読んでますます、しっくりきませんでした。かといって、両方共完全に間違いではありませんし、元の記事も、それを批判する記事も、それなりに良い分析をしているのですが、やはりすっきりしません。

どうして、こんな印象を受けるのかと考えてみました。そうして、理解できたのが、このお二方とも、過去20年間にわたって、日本が異常ともいえる、デフレ状況にあったことを全く考慮してないということです。

そもそも、官僚の方の書いた記事にマクロ的観点、特に、マクロ経済、マクロ金融的な観点が全くなく、すべからく、ミクロ的視点から書かれているということです。それに、お二方も、日本の国家経済について何も述べていません。まるで企業は、国際的に完璧に同じ土俵の上にあるような論考で、日本の国家経済に関する考察が欠けています。これが欠けていては、他の論考がいかに優れて的をいても、バランスを欠きます。

私自身は、過去は別にして、現在は企業活動に密接に関わっているのは、自分の所属する企業だけであり、その他の企業のことは、このお二方のように詳しくは知りません。しかし、自分の会社の過去の20年のことを考えた場合、深く影おとしてることは、はっきりと認識しています。

この異常なデフレがなければ、弊社もかなり業容を伸ばせたはずですし、未だ未上場企業ですが、上場できた可能性も十分あったと思います。これから、アベノミクスで景気が回復すれば、再チャレンジできるものと期待しています

にもかかわらず、これらお二方には、その観点が全くありません。まるで、古今東西に見なかったほどの異常な長期のデフレの観点が全くありません。あくまで、企業の内部のミクロ的な観点だけに終始しています。無論多少は、外部環境に関するものもないというわけではありませんが、これでは、バランスを欠いています。あれだけのデフレ、あれだけの円高の環境の中では、多く企業が、手枷足枷をされて勝負に挑んでいたようなものです。企業分析には、いわゆるすSWOT分析という手法がありますが、これは、企業を分析する際に、外部環境(機会と脅威)内部環境(強みと弱み)を調べるものですが、この方の論考だと、デフレ・円高という外部環境の最大の脅威を全く無視しています。

企業分析の一手法 SWOT分析


ミクロ的な観点だけからみると、確かにこの官僚の方が書かれていることは正しいのかもしれません。そうして、これを批判している山本氏の論考も的を射ているのかもしれません。しかし、過去の異常なデフレ無視していいては、まともな論考はできないのではないかと思います。日本から比べれば、経済の変動はあったものの、日本ほど長くデフレが続いた国はありません。そんな日本と、他国の企業活動を並列に並べて論考するということ自体が間違いなのではないかと思います。

あれだけの未曾有の異常なデフレが長期間続けば、海外拠点がほんどで国内拠点が少ないような例外的な企業は別として、ほとんどの企業が、組織的うつ病になるのは、当然の理だと思います。この方、組織の病理については適切に指摘しているとは思うのですが、その病理の原因が何であったのか、的確に指摘しているとはとても思えません。

組織の病理を指摘するのなら、病理だけでなく、その原因も指摘していただきたいものです。そうして、原因の中には、無論のこと長期間のデフレも入っていてしかるべきものと思います。

考えてみれば、この現役官僚の方 1973年生まれで、京都大学大学院工学研究科電気工学専攻を卒業後、99年4月に通商産業省(現経済産業省)に入省されています。 ということは、日本経済が完璧にデフレに突入してから、社会人になっているわけで、とにかく社会人になってからデフレが常態であって、一度も好景気を経験されていないということになります。山本一郎氏も、調べてみたところ、1973年生まれであり、この方と同年代ですから、社会人になってから、一度も好景気を経験されていないといことです。だから、デフレの観点がないというのも仕方ないのかもしれません。

上念司氏と倉山満氏

しかし、年齢ということになれば、このブログでも何度か紹介させていただいた、上念司氏は1969年(昭和44年)生まれですし、三橋貴明氏は、上念氏と同年代です。それから、これもこのブログで、何回か紹介させていただいてる倉山満氏は、 1973年(昭和48年)です。倉山氏は、この現役官僚と同年代です。活躍している分野は異なるとはいえ、上念氏や倉山氏、三橋貴明氏であれば、日本の企業を語るにしても、歴史的観点、特に過去20年間もデフレであったことを抜きに語るというようなことはないでしよう。

三橋貴明氏と倉山満氏

企業について語るにしても、過去の歴史とか、デフレという観点を欠いて論考を展開するのは大きな間違いですし、大きなミスリードです。このような論考は、雇用の問題を日銀の金融政策とは全く関係ないとして述べるのと同じくらいのミスリードです。これに関しては、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のURLを掲載します。

若者雇用戦略のウソ―【私の論評】雇用と中央銀行の金融政策の間には密接な関係があることを知らない日本人?!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、日本で一般に言われている、雇用戦略なるものは、雇用のミスマッチに関するものであって、日銀の金融政策が、雇用枠を左右するということを全く無視しているというものです。日銀が、金融引締めをやっていれば、雇用枠は縮む一方であり、そんな最中に雇用のミスマッチ対策をしても何ら根本的解決にならないという事実を多くの人が知らないということを掲載しました。

企業活動について述べるときも、同じです。デフレ・円高などの外部環境を無視して、語ることはできません。

それにしても、現役官僚の方はそれなりに優秀な方だと思います。これに対して批判されている方も、企業経営者であり、それなりに優秀な方だと思います。そうして、働き盛りでもある、こういう人たちの中に、企業経営を論じる上で、デフレ・円高などの環境を全く無視して論考する姿勢があるということです。そうして、これは、何もこの二人に限ったことなのではないと思います。

本当の悪者は誰だったか?これを無視する人も多い!!

他にも多くの人々が、未だデフレを無視して、企業活動を語っているようです。アベノミクスの第一の矢が放たれる今になっても、こういう論考があるというのは、信じられないないことです。しかし、これが現実です。これですから、デフレが続いても日銀が責められたり、政府が責められたりすることもなかったという事なのだと思います。 だかこそ、未曾有のデフレが長期間にわたって続いてしまったという点は否めない面があると思います。

私たちは、企業活動を考えるにしても、それ以外のことを考えるにしても、内部環境だけではなく、外部環境もセットで考えるべきです。そうでないと、本質を見失ってしまいます。そう思うのは、私だけでしょうか?皆さんは、どうお考えになりますか?

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