2016年9月13日火曜日

朝日新聞が戸惑う「改憲賛成」圧倒多数―【私の論評】どうして朝日新聞独自の調査では全く逆の結果がでるのか?

朝日新聞が戸惑う「改憲賛成」圧倒多数

Japan In-depth 9月10日(土)18時0分配信

改正を求める人たちの最も多くが憲法9条を問題にしている
という結果も朝日新聞の社論を否定することとなった。
朝日新聞が9月7日朝刊で報じた自社の世論調査で憲法改正の賛成が反対の2倍近く、つまり圧倒的に上回るという結果が出た。

しかも改正を求める人たちの最も多くが憲法9条を問題にしているという結果も朝日新聞の社論を否定することとなった。だが肝心のこの調査結果を報じる朝日新聞の記事の見出しはまったくそんな事実を隠す形となっていた。

朝日新聞の長年の読者としての私にとってもこの世論調査結果はショッキングだった。

朝日新聞が東京大学の特定の研究室と合同で定期的に実施する日本の国内政治に関する世論調査である。私の記憶では、かなりの年月、続いてきたこの調査でも、また朝日新聞が実施した他の世論調査でも、憲法改正に関して賛成が反対をこれほどの大差で上回るという実例は皆無なのだ。こんな結果だった。

≪憲法改正への賛否について聞いたところ、「賛成」「どちらかと言えば賛成」の賛成派が42%、「どちらとも言えない」の中立派が33%、「どちらかと言えば反対」「反対」の反対派が25%だった≫

要するに、憲法改正に賛成が42%、反対が25%と、改憲派が2倍近い大差で多かったのである。この数字は改憲絶対反対のキャンペーンを長年、必死で続けてきた朝日新聞にとっても衝撃的なはずだ。

しかも同じ世論調査で改憲賛成派の多くがまず第一に憲法9条の改正を求めるという結果が出ていたのだ。この点は朝日新聞の年来の主張とは正反対である。朝日新聞は憲法の改正をたとえ考えても、9条だけは絶対に変えるな、というスタンスできたのだ。改憲を求める安倍晋三首相でさえ、9条改正を迂回して進もうという姿勢をみせている。なのにこんな結果が出てしまったのだ。この点の朝日新聞の報道結果は以下のようだった。

≪改憲賛成派に改憲すべき項目を選んでもらったところ、最も多かったのは「自衛隊または国防軍の保持を明記」で57%、次いで「集団的自衛権の保持を明記」が49%≫

国防軍の保持の明記も、集団的自衛権の保持の明記も9条の範疇である。朝日新聞としてはなんとも不都合な世論調査結果だったのだ。

さてでは朝日新聞はこの結果をどう報じたのか。以下がその記事の見出しだった。

≪7月参院選の投票先 憲法重視層は民進 経済分野自民強み≫

上記のような見出しからはこの世論調査の対象者たちの圧倒的多数が憲法改正を求めていた、という最大のニュース要因は想像もできない。つまり朝日新聞はこの結果を矮小化し、隠蔽に近い見出しの表現を選んだのだ。よほど困ってしまったのだろう。

古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

古森義久氏

【私の論評】どうして朝日新聞独自の調査では全く逆の結果がでるのか?

さて、朝日新聞の元記事はどうなっているか、残念ながら私は朝日新聞を購読してないので、以下に朝日新聞デジタルのそれらの記事のリンクを掲載します。
「憲法」は民進、「経済」は自民 有権者が重視した政策
笹川翔平

2016年9月6日21時49分

ブログ冒頭の記事で、古森氏が掲載していた9月7日の朝日新聞の記事のタイトル「7月参院選の投票先 憲法重視層は民進 経済分野自民強み」とは若干異なりますが、おそらくWEB版の記事をそのままか、若干加筆して朝日新聞に掲載したのでしょう。この記事には、確かに世論調査の詳細は掲載されいません。

詳細が掲載されているのは、この記事の中でリンクを貼ってある以下の記事です。

特集:朝日・東大谷口研究室共同調査
この特集では、確かにアンケートの詳細が記されています。そうして、アンケート解説は以下の3つの柱で構成されています。
改憲、有権者の関心は9条 
消費増税、当選者の見解と差 
民進・共産、互いの好感度低調
WEB版で見ている限り、元記事からは、ブログ冒頭の記事で古森が指摘しているような、重大な結果が掲載されているとはとても思えません。この記事を読んだ人の大半は、アンケートの内容に重大な結果があるとはまず思わないでしょう。

第1の柱に付随している、チャートを以下に掲載します。



この結果から確かに、憲法改正に賛成が42%、反対が25%と、改憲派が2倍近い大差で多かったことがわかります。

そうして、同じ世論調査で改憲賛成派の多くがまず第一に憲法9条の改正を求めるという結果が出ていたこともはっきりしています。

これは、確かに朝日新聞の社論からは、かけ離れた結果です。しかし、朝日新聞としては、この結果を読者にはっきりとわかる形で掲載し、世論が変わったことの潮目であったことをはっきり認識すべきです。

去年のこの調査の結果はわかりませんが、古森氏上の記事で分かる通り、憲法改正派がこのように多かったのです。

古森氏の繰り返しになりますが、なんとも意外な結果です。2012年の総裁選で強く改憲を訴えた安倍総理でも、最近は国民的理解が深まっていないと明言し、9条改正を急がない姿勢を見せています。それもこれも、これまでの各種世論調査の結果がそれを求めているからでした。

ではここで、過去のアンケートを振り返ってみます。、この春に朝日新聞が憲法記念日を前に実施した世論調査ではどんな結果だっただろうか。
改憲不要55%、必要37% 朝日新聞世論調査
朝日新聞デジタル 2016年5月2日22時41分


 憲法記念日を前に朝日新聞社は3月中旬から4月下旬にかけ、憲法に関する全国世論調査(郵送)を実施し、有権者の意識を探った。それによると、憲法を「変える必要はない」が昨年の調査の48%から55%に増え、「変える必要がある」は昨年の43%から37%に減った。大災害などの際に政府の権限を強める「緊急事態条項」を憲法に加えることに「賛成」は33%で、「反対」の52%が上回った。

   憲法改正については、2014年の郵送調査から「必要はない」が「必要がある」を上回っており、その差は今回さらに開いた。
(以下略)
もう一つの、アンケート結果を掲載します。
世論調査―質問と回答〈3・4月実施〉
2016年5月2日22時39
〈調査方法〉 全国の有権者から3千人を選び、郵送法で実施した。対象者の選び方は、層化無作為2段抽出法。全国の縮図になるように338の投票区を選び、各投票区の選挙人名簿から平均9人を選んだ。3月16日に調査票を発送し、4月25日までに届いた返送総数は2077。無記入の多いものや対象者以外の人が回答したと明記されたものを除いた有効回答は2010で、回収率は67%。 
 有効回答の男女比は男47%、女52%、無記入1%。年代別では20代8%、30代14%、40代18%、50代16%、60代21%、70代16%、80歳以上7%。
この調査で興味深いのは、以前は電話調査だったのが安倍政権に変わった2013年3月の調査から郵送方式に変わったことです。そして、安倍政権になってから『変える必要がない』が急に増え始め、逆転しています。

方式変更の影響は不明ですが、特定秘密保護法や安全保障法制にからむ朝日をはじめとするネガティブキャンペーンが影響を与えていることは間違いないようです。この問題で国会で紛糾するたびに内閣支持率は低下し、憲法改正賛成の数字は下がっていきました。

TVジャーナリストらによる「特定秘密保護法案」反対会見
特に昨年の集団的自衛権を含む安保法案の審議過程においては、朝日新聞に限らず、他の新聞や、テレビそうして野党も加わって大ネガティブキャンペーンが繰り広げられました。

では、なぜ今回の調査では逆の結果となったのでしょうか。逆の結果となった原因には2つあると思います。

まず一つ目は、質問方法の違いです。今回の東大との共同調査の質問内容(文言、質問の順番など)は不明ですが、朝日新聞が春に行った調査では、「◆いまの憲法を変える必要があると思いますか。変える必要はないと思いますか」の質問の前に以下のような多くの質問をしていました。
◆今度の参議院選挙で一番大きな争点は、憲法だと思いますか。ほかに重要な問題があると思いますか。
一番大きな争点は憲法だ32
ほかに重要な問題がある60

◆憲法を変えるには、衆議院と参議院でそれぞれ3分の2以上の議員が賛成して提案し、国民投票で過半数が賛成することが必要です。今度の参議院選挙の結果、憲法改正に賛成する政党の議員が参議院全体で3分の2以上を占めたほうがよいと思いますか。それとも、占めないほうがよいと思いますか。
占めたほうがよい39
占めないほうがよい51

◆以下は、憲法第9条の条文です。(憲法9条条文は省略)憲法第9条を変えるほうがよいと思いますか。変えないほうがよいと思いますか。
変えるほうがよい27
変えないほうがよい68

◆集団的自衛権を使えるようにしたり、自衛隊の海外活動を広げたりする安全保障関連法に、賛成ですか。反対ですか。
賛成 34  反対 53

◆安全保障関連法が、憲法に違反していると思いますか。憲法に違反していないと思いますか。
違反している50
違反していない38

◆いまの自衛隊は、憲法に違反していると思いますか。違反していないと思いますか。
違反している21
違反していない69

◆憲法第9条を変えて、自衛隊を正式な軍隊である国防軍にすることに賛成ですか。反対ですか。
賛成 22  反対 71

◆テロや大災害などに対応するため、政府の権限を強める「緊急事態条項」をいまの憲法に加えるべきだ、という意見があります。一方で、法律を充実すればいまの憲法でも十分対応できる、という意見もあります。いまの憲法に「緊急事態条項」を加えることに、賛成ですか。反対ですか。
賛成 33  反対 52

◆憲法で国家権力の濫用を防ぎ、国民の権利を保障する「立憲主義」という考え方があります。「立憲主義」に共感しますか。共感しませんか。
共感する77
共感しない13

◆憲法は、簡単に変えないほうがよいと思いますか。それとも、柔軟に変えるほうがよいと思いますか。あなたの気持ちに近い方を選んでください。
簡単に変えないほうがよい62
柔軟に変えるほうがよい31


◆いまの日本の憲法は、全体として、よい憲法だと思いますか。そうは思いませんか。
よい憲法67
そうは思わない23


◆いまの憲法を変える必要があると思いますか。変える必要はないと思いますか。
変える必要がある37
変える必要はない55

この質問の繰り返しが最後の質問に対する回答に影響を与えた可能性があると私は考えます。尚、さらにそう答えた理由を聞く質問もあるのですが、それは割愛しました。
(詳細はこちらから→http://www.asahi.com/articles/ASJ4N63MMJ4NUZPS00F.html

以上のような憲法に関する様々な質問をしたうえで、最後に憲法を変える必要があるかないかの二択に答えさせています。

例えば、自衛隊は憲法違反かどうかで「違反ではない」と7割の人が答えているのですが、そう答えた人は「変える必要がない」と答える可能性が高いです。

また、直前に「いまの日本の憲法は、全体として、よい憲法だと思いますか。そうは思いませんか。」と聞いているのも「変える必要がない」に誘導しようとする意図が見え隠れします。

これらの質問のなかに「北朝鮮や中国を脅威と感じるか」との質問があれば、最後の質問への答えも変わる可能性があるのですが、それはないのです。今回の東大との共同調査では、学術的な方法が遵守されて、上記のような露骨な誘導はなかったのでしょう。

そうして、最も大きな違いは、春の調査では「変える必要がある」と「変える必要はない」の2択に対し、今回の調査は「どちらとも言えない」を含む5択となっていることです。

この問題に関しては、「変えるか変えないか」の2択で迫られと、取りあえず「変える必要はない」を選ぶ人が多くなるのが普通です。

この「変える必要はない」には、「それほど急がなくても良い」や「よく分からないから反対」なども入っているはずです。それが、「どちらかと言えば反対賛成(反対)」や「どちらとも言えない」に分かれたのでしょう。

このように両方の調査結果を見ることで、憲法に対する国民の姿勢が見えます。はっきりと「賛成」「反対」の人より、その間で揺れ動く人のほうがずっと多いのです。だから、昨年のテレビ・新聞による「戦争法案反対」大キャンペーンに揺り動かさた人も多かったのです。やはり、安倍総理の言うように国民的議論を深めることが重要なのでしょう。

SEALDsによるデモ
もう一つの原因としては、多くの国民はごく最近の頻繁な北朝鮮のミサイルの発射による脅威や、中国が尖閣をいつ軍事基地化するかもしれないという脅威に晒されていることを強く認識するようになったいうことでです。

そうして、現在のままの憲法もしくは憲法解釈によれば、北朝鮮によるミサイル発射や中国が尖閣に上陸したときに、反撃することは難しいです。

朝日・東大谷口研究室共同調査と、朝日新聞による2つの世論調査の大きな違いには上記のように、朝日新聞の情報操作と、昨年より一層厳しさをみせているここ数か月の間の安全保障上の脅威も関係しているのでしょう。

憲法改正への道はまだ長く険しいですが、道筋は少し見え始めてきたのではないでしょうか。それにしても、朝日新聞のアンケート調査能力にはかなり問題がありそうです。朝日新聞などのメディアが全くかかわらない、公正な第三者機関によるさらなる、調査が必要だと思います。

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