安倍政権は「危険水域」か?
報道各社の世論調査で、軒並み安倍政権の支持率が低下し、不支持率が上回る数字となっている。この原因は何か。この傾向は今後も続くのか。今回はそれを考察したい。
過去の本コラムでは、その数値が「50」を切ると政権が倒れるという、永田町では有名な、いわゆる「青木の法則」を紹介してきた(2014.10.20「小渕経産相辞任で安倍政権への影響は? 第一次政権「辞任ドミノ」から先行きを分析する」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40822)。
また、青木率(内閣支持率+与党第一党の政党支持率。これが50を切るとその政権は危ない)を使って、選挙のたびに自民党の獲得議席を予想してきた。
(2014.11.11「解散するなら「今でしょ」! 「青木率」から分析する自民党が勝つためのタイミング」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41027
2016.05.23「衆参ダブル選になったら? 驚異の的中率を誇る「青木率」で自民党の獲得議席を予測してみた」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48719
2016.10.03「蓮舫・野田氏が相手なら、次の選挙で「自民党300議席」は堅そうだ」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49851)
青木率をもとにした筆者の選挙結果の予想はかなり当たっているので、安倍政権のトップ級からも「関心を持って読んだ」と直接聞いたこともある。
NHKの「政治意識月例調査」によれば、現在の青木率(内閣支持率+与党第一党の政党支持率)は65ポイントであり、第二次安倍政権誕生以降では最低の水準である。世論調査では各メディアがそれぞれ独特の調査手法で数値を出しているので、あるメディアだけの数値をもって判断するわけにはいかない。
そこで、NHKの調査をひとつの基準とする、NHKの数値を、過去にさかのぼって見てみよう(下図)。
代政権の青木率の推移をみると、ほとんどの場合、発足当初に高かった支持率が時とともに低下し、40~60程度まで下がったところで退陣している。この意味で、NHKの数字を使うと、いわゆる「青木の法則」には確かに説得力がある。
こうしてみると、青木率は60を切ると、その後の回復はまず難しく、じりじりと下げて50以下になって結局退陣に追い込まれるケースが多いことがわかる。ということは、「青木率60」が政権維持の一つの目安だ。
現在の安倍政権の青木率は65であるので、回復がほぼ不可能になる60という危険域に入っているわけではない。ただし、このままでは危険域に突入するというリスクは目に見える。
第二党との差は圧倒的
今回は青木率だけでなく、別の数字も見ておこう。青木率は内閣支持率+政党支持率であるが、もう一つの指標として、首相の人気、を考えてみよう。これは、内閣支持率から政党支持率を引いて算出する。
首相はそのまま党総裁も務めているのだから、一般的には内閣支持率は政党支持率を上回る。しかし、首相の人気が落ちてくると内閣支持率は急落し、退陣を余儀なくされる。
歴代政権の首相人気の推移をみると、政権発足時の「首相の人気」は20~30程度である。ところが、徐々に下がり、これがゼロ近辺になると退陣する(下図)。現在の安倍政権の首相人気(=内閣支持率-政党支持率)は4であり、これもすぐに、ではないが危険域に近づいている。
しかしながら、現時点では野党の民進党も低迷している。NHK調査では、民進党支持率は8%だ。ここで、批判の受け皿となる第二党についても考えてみる。<第一党支持率-第二党支持率>を算出し、その推移をみてみよう(下図)。
この数字がマイナスになると、第二党の支持が第一党を上回ったこととなり、政権交代が起こるわけだが、現時点では、民進党の低迷によってその差は開いている。第二党との支持率差を考慮するなら、いまの自民党は過去と比べても強いことになる。
この点から、民進党が自民党に勝つという政権交代は想定しがたい。一方、政権交代の可能性はないが、自民党内での不満の高まりから、党内抗争が強くなる可能性は否定できない。
さて、最近になって内閣支持率が急落している要因は何だろうか。若者の政権支持率にはあまり変化がないそうだが、もともと安倍政権支持が少なかった高齢者と女性の支持率がさらに下がっているようだ。
2ヶ月ほど前までは、森友学園や加計学園の問題が騒がれても、内閣支持率は大きく落ちなかった。ところが、1ヶ月前にテロ等準備罪での国会運営が一部で問題視されると急落し、さらに都議選の結果を受けて支持率は再び急落した。改めて現状を説明すると、内閣支持率とともに自民党支持率が急落する一方、他政党の支持率は上がらず、支持なし層が増えている、ということだ。
雇用の確保」で見てみれば…
2ヶ月前までの安倍政権の高い支持率は、小泉政権以降の歴代政権の支持率と比べて、いくつかの特徴があった。
年代別でみると、他の政権では、一般的に高齢世代ほど支持率が高い傾向があったが、安倍政権は逆に若い世代ほどの支持率が高かった。男女別でみると、他の政権では男女で支持率の差は少ないが、安倍政権は男の支持率が高かった。
実は、10年前の第一次政権と比べても、世代別政権支持率と男女別政権支持率は異なっている。その要因は、今の安倍政権が高い水準の「雇用の確保」を達成・維持していることと関係している。筆者のような大学関係者には直ぐわかるが、今の若い世代は就職に敏感である。数年前の民主党政権時代には、就職がなかなかできなかった。失業率が高いと、限界的な大卒者の就職率も悪くなる。
ところが、政権交代して、大して大学生の学力も変わっていないのに、今は就職で困ることはほとんどない。これは安倍政権のおかげと実感しているのだろう、若い世代では安倍政権支持率が高い。他方、高齢世代では雇用拡大の恩恵を受けることは少ないから、それが支持率に直結することはない。
なお、正規雇用でも有効求人倍率が1を超えたり、すべての都道府県で有効求人倍率が1をこえるなど、雇用については過去の政権でもほとんどなしえなかった偉業を達成している。これらの雇用の成果は、本コラムで繰り返して主張してきたように、金融緩和のおかげである。
ちなみに、安倍政権は長期政権であるが、平成以降の政権でみると、雇用の確保に成功した政権だけが長期政権になっていることも指摘しておこう(下図)。
平成以降、就業者数を伸ばした政権は、橋本政権、小泉政権、安倍政権しかない。このうち橋本政権は1997年4月からの消費増税を行い、失速した。小泉政権は発足当初から消費増税はやらないと宣言し持ちこたえ、安倍政権は2014年4月からの消費増税で一度失敗したが強力な金融緩和で持ちこたえ、2回目の消費増税という失敗はしていない。
高齢者で支持率が低い理由は、高齢世代では雇用拡大の恩恵を受けることはないことに加えて、社会保障カットが進められていることにあるだろう。民主党政権時代から社会保障改革の名のもとに、社会保障費自然増のカットが継続的に行われ、それが高齢世代にボディブローのように効いている。
そして女性の支持率がさらに下がったのは、強引な国会運営に加えて、豊田真由子議員の暴言、稲田朋美前防衛相の失言が原因だろう。
昭恵夫人の奔放な発言まではよかった。旦那の安倍さんは大変だよね、という同情もあった。しかし、豊田氏の暴言は本当に酷かった。高齢世代の男性の支持も大きく失ったはずだ。筆者もあの発言がテレビで流れるたびに腹が立った。
稲田朋美と豊田真由子 写真はブログ管理人挿入 以下同じ |
回復の手段は…?
また、今回の内閣支持率急落は、一部マスコミの偏向報道がそれに拍車をかけたという意見もある。たしかに、一部マスコミの偏向報道ぶりは凄かった(「加計学園問題は「絶好の教材」 問われるメディア・リテラシー https://www.j-cast.com/2017/07/27304315.html)。
もっとも、一部マスコミの偏向ぶりは最近激しくなったわけではなく、これも「政治」の一環である。過去にも過激な報道があったものの、法的な問題はなく、何のお咎めもなかったという結果はいくらでもある。
実は長期政権であった小泉政権でも、青木率が危険域に近づいたこともあった。2002年のはじめに、田中真紀子外相を更迭し、内閣支持率も自民党支持率も急落した時のことだ。
加計学園問題で、田中真紀子氏が沈黙を破り、安倍晋三 首相に「もう限界」と退陣を迫る発言をしたとされる |
どの政権でも、地道な政策を常に模索・推進しており、それが花開くかどうかは、運次第の一面もある。今回、安倍政権が「雇用の回復」という王道で大きな成果を出したにもかかわらず、結果として支持率が低下しているのは奇妙であるが、それも「運次第」というべきか。
その回復は容易ならざるものがあるが、まだ危険域には達していない。電撃訪朝ではないが、今後数ヶ月で内外の政策で分かりやすい成果を出せるかどうかがカギを握るだろう。
さしあたり、今週にも行われる予定の内閣改造がひとつ注目である。もっともこれは次へのステップのためであり、人事で支持率が急上昇するほど甘くない。その次は9月の補正予算である。それによって、10月10日告示、22日投票という予定の衆議院青森4区・愛媛3区の補欠選挙の結果がどうなるか。
これらの選挙区では自民党が2つとも議席をもっていたが、これらを守れるかどうか。さらに、外交面で目に見えた成果が出てくるかどうか…それらが安倍政権の帰趨を決めるだろう。
なお、この際解散すればいい、という意見もなくはないが、仮にいま総選挙すれば、自民党は220~240議席程度の「惨敗」になる公算が高いだろう。自民党が減った分は、その他の政党が奪い合うことになるだろう。解散が得策ではないことは、それこそ容易に予測できるのだ。
【私の論評】初心に戻れば安倍政権の支持率は必ず回復する(゚д゚)!
ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事には、支持率回復のための次の一手については、直接は触れていません。しかし、それについてはすでにある程度明らかになっています。
安倍首相は24日、支持率急落のきっかけとなった学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題などめぐる閉会中審査に臨み、景気が良くなったと実感してもらえるような経済の好循環によって結果を出し「国民の信頼を回復していきたい」と答弁。その上で、「国民を豊かにしていくことであり、仕事をつくり、賃金を上げていくことだ」と語りました。
賃金アップは家計収入を増やし、安倍首相の政権運営に懐疑心を深める国民からの信頼回復につながります。経済の回復を揺るぎないものにしていくことは、支持率回復に必要であることは論を待たないと考えられます。
24日付の毎日新聞の世論調査によると政権支持率は26%となり、第2次安倍政権発足後で初めて3割を切りました。来年9月に自民党総裁任期が終わることを踏まえて、「代わった方がよい」との回答は62%にのぼり、「総裁を続けた方がよい」の23%を上回りました。
支持率の低下は有権者がアベノミクスに納得しておらず、現状の財政政策や金融政策では不十分だという警告であると受け取るべきです。これは、このブログにも何度か掲載してきたように、8%の消費増税は大失敗であったし、失業率が3%台のまま推移し、本来の2%台半ばにはなかなか到達せず、さらには2%物価目標もなかなか達成できないという状況では、追加の量的緩和が必要なのは、統計数値などから明白であるにもかかわらず、日銀はそれを実行していません。
しかし、政治家、マスコミや識者などが、そのことには触れず、あろうことか増税すべきであるとか、構造改革が不十分とか、金融政策のリスクを強調するため、有権者の多くが、構造改革が不十分であるとか、アベノミクスの金融政策がリスキーであるなどと考えているようです。
それに輪をかけて、マクロ経済に疎い国際通貨基金(IMF)は6月に発表した日本経済に関する審査(対日4条協議)終了後の声明で、アベノミクス第3の矢の構造改革の第一優先課題として「労働市場改革による生産性向上と賃上げ」を挙げました。その上で、公定賃金をインフレ目標と整合的に引き上げると同時に、黒字企業に対し毎年最低3%賃金を引き上げるよう奨励することを求めました。
マクロ経済政策に疎いことで評判のIMF専務理事ラガルト氏 |
IMFは、黒字企業に対して賃金を引き上げるように、奨励することで本当に賃金が上昇すると考えているとすれば、愚かとしか言いようがありません。そのようなことをしても、賃金は上がりません。
本当に賃金をあげる方策は、失業率が3.0%台からなかなか下がらない現状では、本来日本の構造的失業率の2%台半ばまで、失業率を下げるように追加の量的金融緩和を実行することです。
ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ博士は、IMFが1980年代以降市場原理主義者たちの牙城となり、誤った経済政策を追求することになった結果、1990年代以降、世界経済に破壊的な作用を及ぼしたと、強く批判しています。
そんな中でもIMFの罪が最も大きいのは、東アジア危機を発生するきっかけを作ったことと、それを大災害へと発展させたことだといいます。私自身は、IMFは例外もありますが、全体としてマクロ経済政策には疎いと思います。これについては、ここで述べていると長くなってしまいますので、また機会を改めて掲載します。
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とはいいながら、より高い賃金の実現へ向け機は熟しています。企業は大量の現金を抱えており、法人企業統計によると2016年10ー12月期の企業収益は過去最大を記録しました。5月の失業率は3.1%とG7諸国の中では最も低く、有効求人倍率は1.49倍と43年ぶりの高水準となりました。
しかし、厚生労働省によると実質賃金の前年比は12年から15年にかけて低下傾向にあり、16年はわずか0.7%増にとどまっています。
政府の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2017では、具体策として「同一労働同一賃金」と最低賃金の「1000円」への引き上げを掲げている。しかし、現状で、追加の量的緩和を実行しなければ、賃金だけあがって、雇用は減少するだけです。
厚労省の5月の毎月勤労統計調査によると現金給与総額は前年比0.6%増となりました。これは、不十分といいながらも、長期間量的金融緩和を続けてきた成果です。
しかし、厚生労働省によると実質賃金の前年比は12年から15年にかけて低下傾向にあり、16年はわずか0.7%増にとどまっています。
政府の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2017では、具体策として「同一労働同一賃金」と最低賃金の「1000円」への引き上げを掲げている。しかし、現状で、追加の量的緩和を実行しなければ、賃金だけあがって、雇用は減少するだけです。
骨太の方針の表紙 |
民主党政権時代には、最低賃金1000円という目標があったのは事実ですが、まともな金融政策をしていませんでした。その結果、傾向的に就業者数は30万人程度減少しましたた。それに比べて安倍晋三政権では金融政策はしっかりしているので、就業者数は100万人以上増加しています。それは下のグラフをご覧いただければ、良くご理解いただけるものと思います。
このような実績があるからこそ、雇用弱者ともいわれる、若者はブログ冒頭の記事にもあるように、安倍政権を支持するのは当然です。
それと、今年の骨太の方針からは、「増税」という文字が完璧に消えていることが、特徴的です。安倍総理は、支持率がどうのこうのと言う前に「増税」などあり得ないというのが、本音です。しかし、これには増税派の財務省はかなり神経を尖らせていて、また増税に向けて動き出しています。
厚労省の5月の毎月勤労統計調査によると現金給与総額は前年比0.6%増となりました。これは、不十分といいながらも、長期間量的金融緩和を続けてきた成果です。
ただ、日銀の物価目標2%の達成には不十分で、家計支出も低調です。16年8月に内閣府が実施した「国民生活に関する世論調査(16年度)」によると、49.6%が現在の収入に「不満」と答えています。このような状況では、一日もはやく追加の量的緩和を実施すべきなのは明らかです。
そうして、消費税増税後から、個人消費が伸びず、GDPの伸びがいまいちで、今のままだとデフレに舞い戻ったとしてもおかしくはないこともこのブログに掲載してきました。
消費税増税は大失敗だったことは今や統計数値などから明々白々であり、疑問の余地はありません。であれば、消費税は5%に戻すべきです。私などは、時限的に数年間、消費税をなくしても良いのではないかと思います。とにかく増税をして、大規模な経済対策をするというのは、全くの矛盾です。
増税すると経済に悪影響があるから、大規模な対策するというのなら、最初から増税しなのが一番です。もうこの手の愚かな、マクロ経済的な観点からすれば、悪手中の悪手は実行しないことです。
失業率が2%半ばまで下がり、それ以上下がらなくなるまで、そうして物価目標が2%になるまで、量的追加金融緩和を実施すること、消費税を5%に戻すこと、これを実行すれば、安倍政権の支持率はすぐに回復します。そうして、長期政権になるのは間違いないです。
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