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佐々木伸 (星槎大学大学院教授)
シリアに侵攻したトルコ軍戦車、写真は2018年 |
数万人が2週間以内に進撃か
現地からの情報などによると、トルコ軍はすでに数万人がシリアとの国境地帯に集結し、侵攻の準備を整えつつある。「2週間以内に侵攻するだろう」(ベイルート筋)との見方も出るなど緊迫の度合いが高まっている。トルコ軍の作戦には、トルコ配下のシリア反政府アラブ人勢力1万4000人も合流する見通しだ。トルコがシリアに侵攻するのは3回目となる。
これに対して、迎え撃つシリアのクルド人の武装組織「人民防衛部隊」(YPG)4万人は塹壕やトンネルを建設するなど臨戦態勢。トンネルには野戦病院も設置された。米国と連携してきたYPGは過激派組織「イスラム国」(IS)との地上戦の主力を担い、米国が訓練し、武器を供与した。
ベイルートからの情報によると、反政府アラブ人勢力はクルド人がISとの戦いの中で、シリア北東部を実効支配し、アラブ人を締め出したと非難しており、「クルド人対アラブ人」という民族的な対立にもなっている。この対立を「トルコがうまく操っている」(ベイルート筋)というのが今の状況だ。
YPGの女性戦闘員たち(2015.1.30) |
トルコはテロリストと見なすクルド人の勢力拡大が自国の脅威に直結するとして米国にクルド人支援をやめるよう要求。国境のシリア側に「安全保障地帯」を設置し、トルコ軍がその一帯に進駐し、クルド人を国境地域から排除する構想を米側に提案してきた。米国は「安全保障地帯」の設置を認める代わりに、米・トルコ部隊による合同パトロールの実施と、トルコ軍がクルド人を攻撃しないよう保証を求め、この対立が解けていない。
「安全保障地帯」の規模についても、米側は長さ約140キロ、奥行き14キロと主張しているのに対し、トルコは奥行き30キロ以上を要求し、難航している。トルコは現在、国内にシリア難民360万人を抱えているが、これら難民の一部の帰還場所として「安全保障地帯」を活用したい意向を持っており、できるだけ広大な一帯を確保したい考えだ。
IS戦闘員1万人脱走の恐れ
エスパー米国防長官は6日、日本訪問の途中、「トルコの侵攻は受け入れ難い。われわれがやろうとしているのはトルコの一方的な侵攻を食い止めることだ」と強く警告した。だが、両国の交渉がうまくいかない理由の1つはトルコが7月、米国の反対を押し切ってロシア製地対空ミサイルシステムS400を導入したことにある。
米国はトルコのこの決定に対し、最新鋭ステルス戦闘機F35の多国間共同開発計画からトルコを排除、100機の売却も停止するなど、関係悪化が修復する兆しはない。エルドアン大統領が米国からロシア寄りにシフトしたのは対米不信を示すためだ。
その対米不信の大元は、2016年のクーデター未遂の首謀者としてエルドアン大統領が引き渡しを要求する在米のギュレン師の送還を、トランプ政権が拒んでいることにある。エルドアン大統領は国内で5万人を超えるギュレン派を逮捕、約20万人を職場などから追放した。それだけに、ギュレン師引き渡しに応じない米国に対する疑念を強めた。
だが、トルコ軍が侵攻した場合、実はもう1つ深刻な問題がある。それはクルド人が仮設の刑務所に収容している約1万人のIS戦闘員の扱いだ。クルド人は学校を改造した刑務所などにこれら戦闘員を拘留しているが、裁判などの法的手続きは全くなく、その扱いは放置されたままだ。
米紙ワシントン・ポストによると、戦闘員の内訳は約8000人がシリア人とイラク人で、残りの2000人は他の国からISに参加した若者らだ。ISには世界80カ国から戦闘員が集まった。だが、こうした拘束されたIS戦闘員については、各国とも引き取りを拒否、その扱いは宙に浮いたままだ。
同紙によると、クルド人の政治家の1人は「トルコと戦うか、ISの囚人を警護するかの2つに1つだ。われわれは両方に対応することはできない。トルコが攻撃してきたのを彼らが目撃すれば、刑務所を破壊して逃亡するだろう」と指摘し、“ISカード”をちらつかせてけん制している。
確かに、1万人のIS戦闘員が脱走すれば、トルコにとっても、また米国にとっても大きな厄介事を抱えることになる。米国防総省の監察官は8月6日、「シリアでISが復活しつつあり、イラクでは実際にテロなどを引き起こしている」との報告書を発表した。トルコの侵攻はISとのテロとの戦いにも深刻な問題を提起することになるだろう。
エスパー米国防長官は6日、日本訪問の途中、「トルコの侵攻は受け入れ難い。われわれがやろうとしているのはトルコの一方的な侵攻を食い止めることだ」と強く警告した。だが、両国の交渉がうまくいかない理由の1つはトルコが7月、米国の反対を押し切ってロシア製地対空ミサイルシステムS400を導入したことにある。
米国はトルコのこの決定に対し、最新鋭ステルス戦闘機F35の多国間共同開発計画からトルコを排除、100機の売却も停止するなど、関係悪化が修復する兆しはない。エルドアン大統領が米国からロシア寄りにシフトしたのは対米不信を示すためだ。
その対米不信の大元は、2016年のクーデター未遂の首謀者としてエルドアン大統領が引き渡しを要求する在米のギュレン師の送還を、トランプ政権が拒んでいることにある。エルドアン大統領は国内で5万人を超えるギュレン派を逮捕、約20万人を職場などから追放した。それだけに、ギュレン師引き渡しに応じない米国に対する疑念を強めた。
だが、トルコ軍が侵攻した場合、実はもう1つ深刻な問題がある。それはクルド人が仮設の刑務所に収容している約1万人のIS戦闘員の扱いだ。クルド人は学校を改造した刑務所などにこれら戦闘員を拘留しているが、裁判などの法的手続きは全くなく、その扱いは放置されたままだ。
米紙ワシントン・ポストによると、戦闘員の内訳は約8000人がシリア人とイラク人で、残りの2000人は他の国からISに参加した若者らだ。ISには世界80カ国から戦闘員が集まった。だが、こうした拘束されたIS戦闘員については、各国とも引き取りを拒否、その扱いは宙に浮いたままだ。
同紙によると、クルド人の政治家の1人は「トルコと戦うか、ISの囚人を警護するかの2つに1つだ。われわれは両方に対応することはできない。トルコが攻撃してきたのを彼らが目撃すれば、刑務所を破壊して逃亡するだろう」と指摘し、“ISカード”をちらつかせてけん制している。
確かに、1万人のIS戦闘員が脱走すれば、トルコにとっても、また米国にとっても大きな厄介事を抱えることになる。米国防総省の監察官は8月6日、「シリアでISが復活しつつあり、イラクでは実際にテロなどを引き起こしている」との報告書を発表した。トルコの侵攻はISとのテロとの戦いにも深刻な問題を提起することになるだろう。
【私の論評】トルコ軍のシリア侵攻はもはや、確定的なったとみるべき(゚д゚)!
トルコのエルドアン大統領の求心力の低下が囁かれています。最大の理由は、6月23日に再投票された最大都市イスタンブールの市長選で、世俗派の最大野党・共和人民党(CHP)のエクレム・イマームオール候補者が、得票率で約9ポイント、得票数で約80万票もの大差で与党候補のユルドゥルム元首相に勝利したことです。
エルドアン大統領 |
3月31日に行われた市長選では、イマームオール候補者が得票率にして0.2%強、得票数にして1.3万票の僅差ながら勝利していました。
ところが、その後、エルドアン大統領が党首を務める公正発展党(AKP)の主導する与党陣営が、明らかな組織的不正があったとして投票のやり直しを求めた結果、最高選挙管理委員会(YSK)が同投票を無効と宣告しての今回の再投票でした。それだけに、再投票での大差での敗北は大統領にとり痛手となりました。
エルドアン大統領の党内の掌握力が弱まりつつあることを示す今一つの動きが、AKP創設メンバーのババカン元首相とギュル元大統領による新党結成の動きです。既にババカン元首相筋は、今秋を目途に新党結成の可能性の高いことを明らかにしています。
エルドアン大統領は外交面でも難問に直面しています。最大の課題は、ロシア製ミサイル防衛システム「S400」の導入を巡り悪化した米国との関係をいかに修復するかです。
トランプ米大統領とエルドアン大統領は6月29日、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の開催された大阪で会談し、ロシア製ミサイルの購入に関して意見交換しています。
トランプ大統領は、同会談冒頭でトルコがロシア製ミサイル・システムを導入した場合に制裁を発動するかを記者団に問われ、検討していると答えるに留めました。その上で会談後の記者会見において、トルコが同ミサイル・システム購入を決定したことに懸念を表明し、トルコに対して、北大西洋条約機構(NATO)の同盟強化につながる対米防衛協力の推進を要請していました。
他方、トルコ大統領府は同会談後、トランプ大統領は両国関係を害することなく問題の解決を図りたいとの願いを口にしていたと発表していました。
今のところ、ロシア製ミサイル・システムのトルコ導入が始まっていないこともあり、米国の制裁も発動されていません。
ただし、米国は既に6月中旬時点で、ロシア製ミサイル・システムの購入を撤回しない限り、米国の最新鋭ステルス戦闘機「F35」をトルコに納入しないと表明しています。また、仮に導入となった場合に備えて3種類の制裁が検討されていることも明らかにされていまか。
求心力が低下するなか、内憂外患に陥ったエルドアン大統領が、次の手がトルコ軍のシリア侵攻のようです。
シリア北部でアメリカと連携して構築される予定の「安全地帯」に向けて、アメリカ軍当局と行われた会談により、トルコで合同作戦局が直近で設立されることで合意がなされています。
トルコ国防省から出された声明によると、シリア北部で米国と連携して構築される予定の安全地帯に向けて、8月5-7日にトルコ国防省でアメリカ軍当局との間で行われた会談が終了しました。
会談で、トルコの安全保障への懸念を解消するための最初の段階の措置を一刻も早く講じること、その枠組みで安全地帯の構築がアメリカと連携して行われること、その管理のためにトルコで合同作戦局が直近で設立されることで合意がなされました。
トルコ軍とアメリカ軍当局は、安全地帯を「平和回廊」とすること、住む場所を追われたシリア人の帰国のためにあらゆる追加の措置を講じることでも合意に至りました。
シリア北部への「安全地帯(secure zoneあるいはbuffer zone)」設定という案は、以前からシリアの反政府勢力から要求されており、トルコも繰り返し提案してきました。
2012年10月ごろに報じられた、その当時トルコが意図した安全地帯はこの地図のようなものだったとされています。一部の報道では現在の問題を議論する際にもこの地図が流用されていますが、トルコと関係諸国との議論で同じ領域が念頭に置かれているかどうかは定かではありません。
この砲撃に先立って、トルコ軍戦闘機2機が、タッル・リフアト市一帯地域(いわゆるシャフバー地区)に飛来、上空を旋回しました。
一方、アフリーン解放軍団が声明を出し、6日にタッル・リフアト市近郊のシャワーリガ村、マーリキーヤ村に侵攻を試みたトルコ軍と反体制武装集団を迎撃し、戦闘員(シャーム戦線、北の嵐旅団)7人を殲滅したと発表しました。
トルコ軍のシリア侵攻はもはや、確定的なったとみるべきでしょう。
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