2025年2月16日日曜日

「ハーバード卒より配管工のほうが賢い」米国保守派の「若きカリスマ」の演説にインテリが熱狂するワケ―【私の論評】日本から学ぶべき、米国が創造すべき新たな霊性の精神文化

「ハーバード卒より配管工のほうが賢い」米国保守派の「若きカリスマ」の演説にインテリが熱狂するワケ

まとめ
  • 「ターニング・ポイント・USA」は、既得権益を享受する「勝ち組」、特に名門大学出身者を批判の対象としている。
  • 創設者カークは、学歴より実際の賢明さを重視し、ハーバードやイェール卒よりも配管工の方が優れていると主張。
  • 若者たちは保守派集会に参加し、アメリカの分岐点での革命的変化やリーダーとなる使命感からカークの演説に熱狂。
  • 保守勢力は人種の境界が曖昧になりつつあり、白人以外の参加者も増えている。カークは人格重視を説く。
  • 価値観(コア・バリュー)が思想の強靱性を与え、相互理解を促進。保守派は全人格で判断する価値観を重視。
若手保守派団体「ターニング・ポイント・USA」の創始者チャーリー・カーク氏

 トランプ大統領が再選を果たした大統領選では、特に若者の動向が注目された。筆者は、若手保守派団体「ターニング・ポイント・USA」の3000人規模の集会に潜入し、その熱気をリポートした。この内容は、及川順の著書『引き裂かれるアメリカ トランプをめぐるZ世代の闘争』からの抜粋である。

 「ターニング・ポイント・USA」は保守的価値観から「勝ち組」や名門校出身者を批判する傾向がある。この団体の創設者であるチャーリー・カークは、彼の演説の中で、ハーバードやイェール大学の卒業生よりも、配管工の方が賢明であると主張した。この発言は、学歴よりも実際の価値観や能力を重視する彼のスタンスを反映している。カーク自身は大学に入学したが卒業しておらず、自身の成功が学歴に依存しないことを示す例として挙げられる。これはトランプ大統領が高校卒の労働者層を扇動する手法に似ており、既存の社会秩序や教育の価値に対する疑問を投げかけている。

 一方で、将来有望な若者たちが「ターニング・ポイント・USA」の集会に集まる理由は興味深い。これらの学生は社会に対する高い意識を持ち、政治や思想に深く関心がある。彼らはカークの高学歴否定の演説に熱狂するのは、アメリカが分岐点にあると考え、革命的な変化を求めているからかもしれない。また、自分たちが社会を牽引するリーダーになるという使命感も大きい。彼らが目指す革命の目標は、アメリカが本来持つ保守的な価値観を取り戻し、再び偉大な国になることである。こうしたエネルギーや情熱は、急進的な変化を希求する彼らの使命感と結びついている。

 保守勢力は伝統的に白人中心の集団と見なされてきたが、2016年の大統領選挙やそれ以前の「ティーパーティ」運動から、その人種間の境界が徐々に曖昧になってきた。保守派の集会では、白人以外にもヒスパニック、アジア系、黒人などが一定数参加するようになっている。「ターニング・ポイント・USA」もこの流れに沿い、カークは演説で人種ではなく人格で判断するべきだと訴えている。彼は、アメリカの建国の父や偉大な大統領を称えることで、保守思想の普遍性を強調し、人種の壁を越えようとしている。

 「コア・バリュー」という概念は、このような保守派の思想を理解する上で鍵となる。価値観は個人の根本を形成し、思想の強靱性を与える。取材では、参加者に対して自身のコア・バリューについて質問することで、相互理解を深めることができる。カークやその追随者は、全人格をもって判断すべきだと主張し、それが特に若者たちに強く響いている。彼らは日本からの視聴者に対しても、自分の価値観を簡潔に説明しようと努め、異文化間のコミュニケーションを促進する。こうした交流を通じて、保守派の理念や価値観がより広く理解され、共感を得る機会が増えている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本から学ぶべき、米国が創造すべき新たな霊性の精神文化

まとめ
  • 日本のコアバリューは「霊性」霊性は万物に霊が宿る考え方を含み、自己探求や自然への敬意、超越的なつながりなどを通じて表現される。
  • 霊性を忘れることの危険性霊性を忘れると、形式的な宗教観念等に固執し、個々の精神性や創造性が抑圧される可能性がある。
  • 伊勢神社の式年遷宮日本の霊性を象徴する儀式で、自然と人間の調和、時間の流れへの敬意を示す。
  • 霊性の歴史的背景天皇を中心とした文化的連続性が、日本の霊性の根源であり、その重要性はマルローやユングにより指摘されている。
  • 現代の霊性再評価日本では霊性が文化に深く根ざし、左翼活動家でもその影響から逃れられない。米国では霊性の再評価が必要で、イーロン・マスクの日本文化への関心がそのヒントとなる。

日本文化 AI生成画像

上の記事の元記事において、この記事の筆者である及川氏は"一方で「日本のコア・バリューとはどういうものですか」などと逆質問を受けた時には、結構答えるのに苦労したが、お互いのコア・バリューについて話をすることで、コミュニケーションはスムーズに進んだと思う"としている。

及川氏が「日本のコアバリュー」について何を話したかまでは、記載されていないが、私が「日本のコアバリューは何か」と問われたら、真っ先に言うのは「霊性」というキーワードだろう。

霊性は万物に霊がやどるという考え方を含み、それだけではなく、物質的な世界を超えた心や魂の領域に関するものであり、自己探求、超越的なつながり、倫理、美学を通じて表現される。それは特定の宗教に限定されず、個々の体験や感覚、哲学、自然への敬意、超越的なものとのつながりなどを通じて探求される。霊性は、存在の意味や目的、生命の価値、そして死後の世界や来世についての問いを追求するものである。

しかし、霊性を忘れると、宗教的観念だけに凝り固まる危険性がある。これは、個々の内面的な探求を軽視し、信仰が形式化され、硬直した教義や儀式に依存する傾向を生み出す。このような状況では、個々の精神性や創造性が抑圧され、社会的な変化や個人の多様性への適応が難しくなる可能性がある。また、他者の信仰や異なる文化理解の尊重が不足し、対話や共存のチャンスが失われる危険性も伴う。

日本の霊性を示す代表格として、伊勢神社の式年遷宮がある。式年遷宮は、伊勢神宮の主要な神殿を20年ごとに新たに建て替える伝統的な儀式で、自然と人間の関係、そして時間の流れに対する敬意を体現している。この儀式は、神聖な存在の更新と自然の循環を祝福し、人間の生活と自然界の調和を象徴する。式年遷宮は、古来から続く日本の霊性の象徴であり、その中で神聖視される木材や自然素材の使用、厳格な作法を通じて、自然と神聖性が一体となる瞬間を人々に提供する。

日本の霊性は、宗教的な枠組みを超えて、自然との共存、芸術の美学、個々の内面探求を通じて表現されてきた。宗教的な信仰を超え、自然崇拝、芸術、季節感、日常の儀式や習慣を通じて体現され、現代でもその価値が失われることはない。マルローとユングの見解から考えると、この霊性は、現代の日本で特に重要性を増しており、人々が物質的な世界を超えて、自己の意味や存在の価値を見つけ出す道具ともなっている。

アンドレ・マルロー

日本の霊性の根源に万世一系の天皇がある。フランスの作家で、ドゴール政権の文化相を長く務めたアンドレ・マルローは、自著でこう述べている。「21世紀は霊性の時代となろう。霊性の根源には神話があり、それは歴史の一面を物語っている。神話が現代なお生きているのが日本であり、日本とは、それ自体、そのものの国で、他国の影響を吸収し切って、連綿たる一個の超越性を帯びている。霊性の根源に万世一系の天皇がある。これは歴代天皇の連続性であるのみならず、日本文化の継続性の保証でもあるのに、戦後日本はそのことを忘却してしまった。しかし、霊性の時代が、今や忘却の渕から日本の真髄を取り戻すことを要請している。また文化は水平的に見るのではなく、垂直的に見るべきだ」。

確かに、中国や朝鮮文化の影響を過大に語る一部日本の文化人には大きな誤解があるように思う。知る限り、英仏独の文化人、史家には、後生大事にギリシャ・ローマを奉る人など皆無であり、米国の識者がイギリスをむやみにもてはやす事例を耳目にしたこともない。日本文化・文明と日本人は、中華文明や長年にわたりその属国であり続けた朝鮮文明とは全く異質であり、むしろアジアの中でも、もっとも遠い存在であるといえる。日本人の氏神、天照大御神に思いを馳せるのべきだろう。

スイスの心理学者グスタフ・ユングも「キリスト教中心の西洋文明の終末は20世紀末から21世紀初頭にかけて到来する。そして次の文明は、一神教や独裁専制ではなく、霊性の支配する時代となるであろう」と期せずしてマルローと同じ予言をしている。要するに、カネ・モノに執着する物質依存世界から、人間の理性と精神世界を重視する義と捉えるならば、超大国アメリカや金と軍事力で餓鬼道に陥った中国を痛烈に批判・否定しているように思える。それに比して、多神教日本は、古来、山や川に霊性を感じ、自然を畏れ、神を尊ぶ心を抱いてきたわけで、その代表が伊勢の森だったといえる。

霊性に関しては、宗教が台頭する以前には、いずれの世界にもアニミズム、シャーマニズムなどの形で存在していた。これらの霊性は、自然や動植物、現象に生命や魂が宿ると信じる信仰であった。しかし、宗教の台頭によって、これらの原始的な霊性は徐々に排除され、制度化された信仰体系に取って代わられた。宗教は社会の秩序や道徳の基準を提供する一方で、自然や個人的な霊性体験を抑圧する効果ももたらした。

日本は他国とは異なり、宗教の台頭によっても、霊性を失わなかった稀有の国である。神道と仏教が共存し、自然と神聖性が融合する形で、この土地の霊性が保持され、深化してきた。日本が霊性を失わなかった背景として、天皇を頂点とする朝廷の存在がある。天皇は神聖な存在として国民に敬われ、その存在が日本人の精神性や文化的な連続性を保証する役割を果たしてきた。

確かに、戦後この意識は薄れてきたとはいえ、日本の霊性は、伊勢神宮の式年遷宮や花見、紅葉狩りなどの季節行事を通じて生活に溶け込んでいる。この儀式や行事は自然との一体感や時間の流れへの敬意を示す。神道の信仰では、自然や場所に神々が宿るとされ、山や川への敬意が日常生活に反映されている。茶道、華道、能楽といった伝統芸術も霊性を表現し、内面的な静けさや美しさを追求する。

歴史的には、神仏習合により宗教的な霊性が日常に取り入れられ、武士道精神では死後の信仰や自己犠牲の価値が強調された。明治維新では国家神道が推進され、天皇を中心とする国家の霊性が国民の精神性を高めた。戦後、国家神道から離れたものの、自然回帰やスピリチュアリティへの関心高まりが見られ、日本の文化や生活に深く埋め込まれた霊性が再評価されつつある。

ただし、日本の霊性は深く文化や生活習慣に根ざしており、個人の意識の表層を超えたところで影響を及ぼし続けている。そのため、左翼活動家であってすらも、自らのそうして他者の潜在意識に埋め込まれた霊性を完全に打ち砕くことは非常に困難であるといえる。ただし、現在の国際情勢を考えると、これすらも破壊しようという勢力が強まりつつあり、今後日本では、これを顕在化する努力が求められるだろう。

一方、霊性があまり顧みられない米国では、個々の利害や物質的な成功に焦点が当たりすぎ、共通の価値観や目的意識が薄れてきた。これは、政治的な分裂を超えた、社会的・文化的な分断を引き起こしている。政権が変わっても、政府の主張が変わるだけで根本的な解決には至らない可能性がある。米国流の霊性の精神文化を創造し、育んでいくべきだろう。無論これは、米国独自のものである。日本のそれは、参考にはなるかもしれないが、米国の霊性の精神文化とはなり得ない。

日本文化を愛するイーロン・マスク AI生成画像

ただし、イーロン・マスクの日本文化への関心は、米国での霊性再評価にヒントを提供するだろう。マスクが強調する「禅とテクノロジー」では、禅の静寂が技術革新の創造性を高め、「自然への敬意」では自然との調和が持続可能性と精神的充足感を促す。「伝統とイノベーションのバランス」は古来の価値観の再評価を教え、「文化交流」は霊性や哲学の共有を促進する。これらの要素が、米国での広範な社会変革を促すかもしれない。

以上のことを考えると、チャーリー・カーク氏は、「コア・バリュー」で満足することなく、今後米国流の霊性の精神文化を創造し、育んでいくことに邁進すべきだろう。日本は、日本のそれを顕在化する努力を惜しんではならない。両者ともに互いに学びあうべきところがあるだろう。

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