ラベル 財務省 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 財務省 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2019年8月4日日曜日

財務省がいまひっそり仕掛ける「10月の消費増税」へのヤバい裏工作―【私の論評】下卑た財務官僚はすでに10%超増税、年金減額、その他大緊縮路線に向けて動いている(゚д゚)!


関係者はほくそ笑んでいる

財務省にとっての参院選

7月21日に行われた参院選の結果にいちばん安堵したのは、財務省だろう。10月の消費増税を確定的なものにしたからだ。

今回の参院選では、山本太郎氏の「れいわ新選組」が消費税廃止を訴えたのをはじめ、野党は増税反対の方向で一致した。

一方、自民党も「当面10%以上に消費税を増税することはない」と明言して選挙を進めていた。


安倍政権という長期政権のうちに消費増税を達成しておかないと、次の政権になったらいつ実現できるかわからない。そして安倍総理が財務省に対して、ある程度の警戒心を抱いていることも知っていたので、様々なルートを駆使して「攻略」することに腐心していた。

まず、安倍総理の「盟友」である麻生太郎財務大臣を徹底して財務省の味方につけた。消費増税は、憲法改正とともに麻生氏の政治的な使命だと、本人に言及させたのだ。

麻生氏を懐柔したことで、増税のみならず、戦後有数の「財務省危機」を乗り切ることに成功した。ここ数年で相次いだ、森友学園への国有地売却に関する決裁文書の書き換え問題や、福田淳一財務事務次官によるセクハラ問題は、下手をすると財務省の解体にまで発展しかねない、未曽有の懸念材料だった。

そのような状況で、麻生氏を軸に、永田町と霞が関の距離をうまく調整することで、財務省の組織解体を免れ、あくまで役人の個人的な問題として処理させたのだ。

おまけに今回の参院選により、財務省悲願の消費増税まで実現間近だ。福田氏の後任事務次官である岡本薫明氏は今年7月末から2期目に突入するが、これらの「偉業」により、省に名を残す次官となるだろう(あくまで省内目線での話だが)。

今回の参院選の大義名分が「増税選挙」であったとはいえないが、結果的に安倍政権は2度の消費増税に耐えたことになる。'89年の消費税創設(竹下内閣)、'97年の5%への増税(橋本内閣)では、それぞれ政権が倒れた。'14年の8%、そして10月の10%への増税でも政権が倒れなかったわけだから、財務省にとっては「希望の政権」に見えるのだろう。

「4選」の噂がないわけではないが、ひとまず'21年9月に安倍総理は任期満了だ。財務省としても、安倍政権での消費増税は「10%」でもう十分だと考えているはずだ。消費税は、30年間で3回増税した。均せば10年に1回で、参院選期間中、「今後10年くらいは消費税率を上げることはないだろう」と総理が発言したことにも符合する。


今後、財務省は消費税「10%超」を狙うための「10ヵ年計画」を仕込んでいくだろう。総理交代で財政方針も転換するかもしれないが、緊縮財政が進んで歳出がカットされるくらいなら、増税でも構わないと国民が納得するのを財務省は待つことになる。

緊縮財政を「ムチ」とすれば、「アメ」は軽減税率だ。実際、新聞は軽減税率の兼ね合いから、消費増税を争点化できなかったと見受けられる。ほかにも、一時的な財政支出が「アメ」として機能する。参院選後、安倍総理は増税後の景気対策で一時的な財政支出に言及している。緊縮路線での「アメ」は、さぞかし甘いことだろう。

『週刊現代』2019年8月3日号より

【私の論評】下卑た財務官僚はすでに10%超増税、年金減額、その他大緊縮路線に向けて動いている(゚д゚)!

上の記事には掲載されていませんが、財務省の人事をみても、財務省の今後の目論見が透けて見えてきます。

財務省はここ数年、異例とも呼べる人事が続いてきました。一般的に官僚組織というのは、人事に関する外部干渉を嫌うものですが、官庁の中の官庁と呼ばれた同省は特にその傾向が強く、終戦の混乱期においても基本的な人事パターンを変えなかったといわれています(当時は大蔵省)。

そんな財務省が、異例の人事を行ってきたのは、何としても消費増税を実現するためです。

同省は「10年に1度」の大物次官と呼ばれた勝栄二郎氏(75年入省)を3期も続投させ、消費税対策に奔走しました。その結果、勝氏の後任だった真砂靖氏(78年)が1年で退任し、その後、木下康司氏、香川俊介氏、田中一穂氏と79年入省の人物が連続して次官に就任するという異常事態が続きました。田中氏の後任として次官に就任した佐藤慎一氏(80年)も、35年ぶりの主税局長からの昇進だったので、やはり異例の人事といってよいでしょう。

官僚組織がひとたび人事のパターンを崩すと、政治の介入を招きやすくなり、組織の弱体化につながります。実際、一連の変則人事には官邸の意向が強く作用したともいわれており、結果的に財務省は、森友学園問題では自殺行為ともいえる文書改ざんに手を染め、立て直しを期待された福田淳一次官は(82年)は何とセクハラ問題で辞任してしまいました。

福田氏の辞任直後から、後任人事をめぐって様々な怪情報が飛び交いましたが、3カ月の空白期間を経て、2018年7月にようやく本命の岡本薫明氏(83年)が次官に就任し、2019年7月の人事では続投が決定しました。岡本氏の就任と続投は、消費増税を実現した財務省が、定常パターンに人事を戻し、次の施策にシフトするための布石と考えられます。ナンバー2、ナンバー3の人事を見ると、その意図はさらに明白になってきます。

岡本薫明氏

岡本氏は入省後、一貫して予算を扱う主計局を歩み、秘書課長、主計局次長、主計局長という重要ポストをすべて歴任しています。財務省的には文句なしのエリートといってよいでしょう。同省の場合、次官候補者はかなり前から絞られていることが多く、今回の人事が定常モードへの回帰だと考えれば、「次」の人物もすでに想定されている可能性が高いです。その人物とは、今回、官房長に就任した茶谷栄治氏(86年)です。

茶谷氏は、岡本氏と同様、秘書課長や主計局次長など、次官になるための主要ポストを歴任していまは。政治的な動きは見せず、典型的な財務官僚タイプと評されており、同省的にはまさに王道といってよいです。

茶谷氏が次官の最有力候補と仮定すると、来年の人事において官房長から主計局長に転じ、2021年に次官に就任する可能性が高いです。岡本氏が3期続投するとは考えにくいので、そうなると、来年の人事では、現在、主計局長の太田充氏(83年)が、1年だけ次官を務めるというシナリオが有力です。

岡本氏と太田氏は同期であり、太田氏は文書課長や秘書課長を経験していません。もし太田氏が次官に就任した場合、これも異例人事のひとつと見なせるかもしれないですが、その後、茶谷氏が次官に昇進すれば、勝氏以来、続いてきた変則的な人事はすべて終了となります。

本来の姿に戻った財務省は、これでようやくポスト消費税の施策に専念できるわけですが、同省の次の狙いが社会保障制度改革、つまり簡単に言ってしまえば、年金の減額であることは明白です。加えて言うと、安定財源を確保するため、10%以上への消費増税についてもすでに検討に入った可能性が高いでしょう。

今回の参院選では、年金2000万円問題という想定外の事態が発生したものの、このブロクでも以前解説したように、元々年金は保険制度であり、これは日本は及ばずどの国でも政治上の争点になりにくい制度です。そのため、今回の選挙でも結局大きな争点とはなりませんでした。

選挙後に記者会見に臨んだ麻生財務大臣は、消費増税について「消費税率の引き上げは最初から申し上げてきた。その意味では信任をいただいたと思う」と、増税しないという選択肢はなかったとも受け取れる発言を行っています。

また、今回の参院選で228万票を獲得した「れいわ新選組」が消費税廃止を訴えたことについては、「福祉は負担と給付のバランスの上に成り立っているが、給付が増えて負担を減らすことが成り立つと思っているのだろうか」と否定的な見解を示しています。

社会保障の財源を消費税とする議論は元々おかしな議論なのですが、その論議はおいておき、実は選挙前にも、財務省が主導する社会保障の財源である消費増税の見通しについて微妙なやり取りがありました。

7月3日に開催された党首討論会では、安倍首相が「(10%への増税を実現できれば)今後10年は消費増税は必要ないと思う」と述べたのですが、翌日には公明党の山口那津男代表が「責任ある発言とは受け取れない」とこれを否定したのです。政府内部の実務レベルでは、10%以上への増税がすでに既定路線となっていることを伺わせる出来事といってよいでしょう。

参院選に先立つ党首討論会でも、首相は今後10年は消費税増税は必要ないと明言した

では、今後、財務省主導で実施されようとししている社会保障改革とは、どのようなものになるのでしょうか。

来年、国会への提出が検討されている社会保障制度改革法案の内容は明らかにされていないのですが、マクロ経済スライドの強化が盛り込まれる可能性が高いです。現在のマクロ経済スライドは、物価上昇時にそれを打ち消す形で年金を減額する仕組みだが、政府内部では物価の上下にかかわらず、年金給付額を削減するプランが検討されています。

もう一つは、70歳からが上限となっている年金支給年齢の引き上げです。

現在、標準的な年金の支給開始年齢は65歳ですが、本人が希望すれば、年金を増額した上で70歳まで支給を遅らせることができます。これを75歳以上まで引き上げることで、稼ぎのある高齢者への支給を抑制したい意向です。

あくまで本人の希望ということですが、この施策の最終的な狙いは、標準的な年金支給開始年齢についても70歳まで引き上げることです。近い将来、年金は70歳からしかもらえなくなる可能性が高いです。

政府は参院選への影響を配慮したのか、本来、選挙前に出るはずだった「年金財政検証」の結果公表を遅らせています。今回の財政検証でどの程度までの減額が明記されるのか要注目です。従来よりも踏み込んだ数字が記載された場合、給付削減と消費再増税の確度は高まったと判断してよいでしょう。

財務省はすでに10%超増税、年金減額に向けて動いているのです。そうして、彼らの頭の中には、日本経済を伸ばして税収を増やすという考えはなく、とにかく緊縮で日本がデフレになってもおかまいなしで、財務省の配賦権益をできるだけ強化し、その結果として高級官僚の天下り先を確保し、老後のハーピーライフをより豊かで確かなものにしようと日々努力しています。それが彼らにとっての省益なのです。

省益にしたとしても、なんとスケールの小さいものなのかと言わざるを得ないです。国民の幸福と引き換えにするには、あまりに小市民的で下卑たものであると言わざるを得ません。こうしたことが見透かされているからこそ、最近は東大生もこの卑しい省を目指さなくなったのでしょう。

【関連記事】

参院選後に直面する経済課題…消費税は「全品目軽減税率」を 対韓政策では“懐柔策”禁物!―【私の論評】大手新聞記事から読み解く、参院選後(゚д゚)!


2019年6月30日日曜日

財務省がぶち上げた「希望的観測」が、世界中からバカにされる理由―【私の論評】企業の目的は「顧客の創造」であり、財務官僚に便宜を図ることではない(゚д゚)!

財務省がぶち上げた「希望的観測」が、世界中からバカにされる理由
消費税10%が悲願なのはわかるけど…

表と裏

日本初開催となったG20財務大臣・中央銀行総裁会議。6月8日の討議で、麻生太郎財務相は10月1日に消費税率を10%へと引き上げる方針を説明した。


福岡で開かれた本会議では、世界経済の先行きについて「様々な下方リスクを抱えながらも年後半から来年にかけ、堅調さを回復する」との認識を共有した。海外の経済首脳たちは、日本の消費増税をどのように評価しているのか。

一般的にいえば、国際会議の場において、会期中に議長国を批判することはまずない。したがって表向きでは日本政府の消費増税路線について異を唱える国は存在しない。そもそも国家にとっての税(に関する取り決め)は、各国が持つ主権そのものであり、他国が四の五の言うことはまずない。

では、世界のエコノミストたちはどのように考えているのだろうか。

2016年、官邸で世界経済について有識者と意見交換する「国際金融経済分析会合」があった。それに出席したノーベル経済学賞の受賞者であるジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授は、「世界経済は難局にあり、'16年はより弱くなるだろう」との見解を示した。そのうえで、「現在のタイミングでは消費税を引き上げる時期ではない」と述べ、'17年4月の消費税率10%への引き上げを見送るよう提言した。

ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授

この意見を'19年の現状に照らし合わせると、'20年の世界経済は米中貿易戦争の影響が予想され、'16年より深刻な状況にあるとみてよい。今スティグリッツ教授に意見を求めても、同じ答えが返ってくるだろう。

財務省の大きな勘違い

'17年に来日したクリストファー・シムズ米プリンストン大教授も、「消費増税は財政再建のために必要であっても、2%の物価目標達成後に実施するのが望ましい」と主張した。ちなみにポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大学教授も、今年に入り消費増税は見送るべきだと発言している。これら経済学の権威の回答が、消費増税に対する海外の本音と見るべきだ。


このところグローバル経済は軟調だ。次の消費増税のタイミングと、経済の下り坂に入る瞬間が重なったらどうなるか。前回消費増税時に起きた景気失速が繰り返されるかもしれない。

今後の世界経済の減速は、IMF(国際通貨基金)も警告し、中国などは減税措置の経済対策を打ち出そうとしている。その時に消費増税とは、各国の経済首脳も耳を疑ったに違いない。ところが財務省は、開催国には批判が及ばないことを見越して、財務大臣に消費増税を言わせた。これで世界各国の「お墨付き」を受けたとするわけだ。

会議で発した「年後半から来年にかけ、堅調さを回復する」という言葉は、あまりにも希望的観測すぎる。経済政策は最悪の場合を常に想定するのがセオリーだが、政府は大きな勘違いをしている。

先のクルーグマン教授も、世界経済の見通しはかなり不透明で、その要因の一つが米中貿易戦争であると指摘している。アメリカではトランプ大統領が関税率を設定する完全な自由裁量を持ち、その先行き不安がリーマン・ショック級の事態を引き起こす可能性を控えている。財務省の希望的観測を信じていたら、日本経済は深刻なダメージを受けるだろう。

『週刊現代』2019年6月22・29日号より

【私の論評】企業の目的は「顧客の創造」であり、財務官僚に便宜を図ることではない(゚д゚)!

これまで、ブログでは現状の消費税増税は、以下に政策として握手中の握手7日、さらに消費税がいかに欠陥だらけの税制なのかをご説明してきました。

総務省の「家計調査」によると2002年には一世帯あたりの家計消費は320万円をこえていたが、現在は290万円ちょっとしかありません。先進国で家計消費が減っている国というのは、日本くらいしかないのです。これでは景気が低迷するのは当たり前です。

この細り続けている個人消費にさらに税金をかけたらどうなるでしょうか。景気がさらに悪化し、国民生活が大きなダメージを受けることは火を見るより明らかです。実際に、消費税が上がるたびに景気が悪くなり、消費が細っていくという悪循環を、日本は平成の間ずっとたどってきました。


日本では、個人消費がGDPの6割以上を占めているで、これではGDPが伸びないのは当然のことです。

だから、上の記事にあるように、海外のノーベル賞級の経済学者が消費税増税をすべきではないというのは当然であり、誰が考えても消費税増税は日本の経済にとって良くないのは、明白です。

この欠陥だらけの消費税を一体だれが推進してきたのでしょうか。その最大の推進者が財務省なのです。政治家が消費税を推進してきたように思っている方が多いかもしれないが、それは勘違いです。

政治家は、税金の詳細についてはわかりません。だから、財務省の言いなりになって、消費税を推奨してきただけです。むしろ、政治家特に与党の政治家は、消費税の導入や税率アップには、何度も躊躇してきました。増税をすれば支持率が下がるからです。

それを強引にねじ伏せて、消費税を推進させてきたのは、まぎれもなく財務省です。なぜ財務省は、これほど消費税に固執し、推進してきたのでしょうか?

財務省が、主張するように「国民の生活をよくするため」「国の将来のため」などでは、まったくありません。それは、国民や政府などは全く関係なく「財務省の省益」を維持するためです。

まず財務省のキャリア官僚にとっては、「消費税は実利がある」ということです。消費税が増税されることによって、彼らは間接的にではありますが、大きな利益を手にするのです。なぜなら、大企業と財務省は、根の部分でつながっているからです。


ただ財務省といっても、財務省の職員すべてのことではありません。財務省の「キャリア官僚」のみの話です。なぜ財務省のキャリア官僚が、消費税の増税で利益を得るのかというと、それは彼らの「天下り先」に利をもたらすからです。天下り先が潤うことで、財務省のキャリア官僚たちは、間接的に実利を得るのです。

財務省のキャリア官僚のほとんどは、退職後、日本の超一流企業に天下りしています。三井、三菱などの旧財閥系企業グループをはじめ、トヨタ、JT(日本たばこ産業)、各種の銀行、金融機関等々の役員におさまっているのです。

しかも、彼らは数社から「非常勤役員」の椅子を用意されるので、ほとんど仕事もせずに濡れ手に粟で大金を手にすることができるのです。まさらに、天下りで、リッチなハッピーライフを送っているのです。

財務省キャリアで、事務次官、国税庁長官経験者らは生涯で8億~10億円を稼げるとも言われています。この辺の事情は、ネットや週刊誌を見ればいくらでも出てくるので、興味のある方は調べてください。

つまり財務キャリアたちは将来、必ず大企業の厄介になる、そのため、大企業に利するということは、自分たちに利するということなのです。

消費税は大企業にとって一見非常に有利にみえます。というのも、消費税の導入や消費税の増税は、法人税の減税とセットとされてきたからです。

消費税が導入された1989年、消費税が3%から5%に引き上げられた1997年、消費税が5%から8%に引き上げられた2014年。そのいずれも、ほぼ同時期に法人税の引き下げが行われています。その結果、法人税の税収は大幅に減っています。

法人税は、消費税導入時の1989年には19兆円ありました。しかし、2018年には12兆円になっているのです。つまり法人税は、実質40%近くも下げられているのです。

「日本の法人税は世界的に見て高いから、下げられてもいいはず」と思っている人もいるかもしれません。が、その考えは、財務省のプロパガンダにまんまとひっかかっているのです。

日本の法人税は、名目上の税率は非常に高くなっていますが、大企業には「試験研究税制」「輸出企業優遇税制」などの様々な抜け道があり、実質的な税率はかなり低いのです。

日本の法人税が実質的に低いことの証左は、日本企業の内部留保金を見ればわかります。日本企業はバブル崩壊以降に内部留保金を倍増させ446兆円にも達しています。

また日本企業は、保有している手持ち資金(現金預金など)も200兆円近くあります。これは、経済規模から見れば断トツの世界一であり、これほど企業がお金を貯め込んでいる国はほかにないのです。

こんなことを言うと米国の手元資金は日本の1.5倍あるという人もいるかもしれませんがが、米国の経済規模は日本の4倍です。経済規模で換算すると、日本は米国の2.5倍の手元資金を持っていることになるのです。世界一の経済大国であるアメリカ企業の2.5倍の預貯金を日本企業は持っているのです。

だから、本来、増税するのであれば、消費税ではなく、法人税であるべきなのです。にもかかわらず、なぜ法人税ではなく消費税を増税するのかというと、先ほども述べたように財務省のエリートたちは、大企業に天下りしていくため、彼らは財界のスポークスマンになってしまっているのです。

官僚の天下りは、昔から問題になっていたことであり、何度も国会等で問題になり改善策が施されたはずです。官僚の天下りはもうなくなったのではないか、と思っている人もいるようです。

確かに、財務官僚以外のキャリア官僚たちの天下りは、大幅に減っています。ところが、財務官僚の天下りだけは、今でもしっかり存在するのです。なぜ財務官僚だけが、今でも堂々と天下りをしていられるのでしょうか。

実は、現在の天下りの規制には、抜け穴が存在するのです。現在の公務員の天下り規制は、「公務員での職務で利害関係があった企業」が対象となっています。が、この「利害関係があった企業」というのが、非常に対象が狭いのです。

たとえば、国土交通省で公共事業の担当だった官僚が、公共事業をしている企業に求職をしてはならない、という感じです。が、少しでも担当が違ったりすれば、「関係ない」ことになるのです。

また、バブル崩壊以降の長い日本経済低迷により、企業たちも天下り官僚を受け入れる枠を減らしてきました。だから、官僚の天下りは相対的には減っています。しかし、財務官僚だけは、ブランド力が圧倒的に強いために、天下りの席はいくらでも用意されるのです。

財務省は、本来政府の一下部組織にすぎません。会社でいえば、本来は部のようなそんざいです。ところが財務省は一般の人が思っているよりはるかに大きな権力を持っています

財政だけではなく、政治や民間経済にまで大きな影響を及ぼしているのです。日本で最強の権力を持っているとさえいえます。そのため、その権力をあてにして、大企業が群がってくるのです。

しかも、企業にとって、財務官僚の天下りを受け入れるということは、税金対策にもなります。財務省は国税庁を事実上の支配下に置いており、徴税権も握っています。そのため各企業は、税金において手心を加えてもらうために、競うようにして財務官僚の天下りを受け入れているのです。

つまりは、大企業が税金対策のために財務官僚を天下りで受け入れていることが、国民全体に大きな損害をもたらしているといえるのです。

もし財務官僚を「上場企業への天下り禁止」などにすれば、国の税制は大きく変わるはずです。少なくとも、今のような大企業優遇、消費税推進などの流れは必ず変更されるはずです。

しかし、これはなかなか難しいことです。もし政府がそのような動きをみせれば、財務省はありとあらゆる手を使って、妨害するからです。何しろ、財務官僚のOBは、マスコミ各社にも存在しており、その他大手企業の天下りしたOBもあわせて、財務省は徹底抗戦するからです。

これには、並みの政治家にはなかなか制御できません。昨日の記事の結論でも述べたように、日本では財務省が政治のネックになっていることは確かです。財務省は、本来会社でいえば、財務部のようなものであり、会社の一部門にすぎません。ところが、これが実質的に金の力で、取締役を支配しているような歪な構造になっています。これはいずれ何とかしなければならない最大の課題です。


そうして、大企業の経営者も良く考えていただきたいです。そもそも、企業の目的とは「顧客の創造」です。それ以外にありません。財務官僚の失策により、景気が悪くなれば、多くの顧客の個人消費が減ります。

そうなると、大企業とて苦しいことになります。わずか数年前には、どの企業も超円高・超デフレで苦しんだばかりではありませんか。日本を代表するような企業が、とんでもないことになっていたではありませんか。

大企業とて、顧客に見放さされれば一夜にして、市場から消えるしかありません。大企業が顧客から見放されても、財務省は救ってはくれません。企業にとって顧客と財務省のいずれが大事かといえば、顧客に決まっています。

顧客が喜んで、企業のサービスや製品や商品を使ってくれるからこそ、企業は成り立つのです。その精神を忘れてしまえば、大企業とて存続できなくなります。そのことを大企業の経営者は再度しっかりと認識すべきです。顧客を軽視していると、いまにとんでもないしっぺ返しを食らうことになります。

【関連記事】


2019年6月29日土曜日

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 参院選の自民議席、数量分析から予測すると...―【私の論評】次内閣改造で麻生氏が財務大臣にならなければ、官邸は財務省に挑戦し始めたとみなせ(゚д゚)!


解散恐怖症で党首討論を無為に費やした野党

    2019年6月26日、国会が会期末を迎えた。これで、7月4日公示、21日投開票が確定した。

    今国会での法案提出は新規57本、そのうち54本が成立した。与野党の対決法案は少なく、今国会はいつでも「解散可能」な状態だった。このため、野党はかなりビビった。19日の党首討論でも、解散せよと迫る野党はほぼなく、党首討論で安倍首相が解散しないと確信すると、形式的に内閣不信任決議案を後出しで出す始末だった。

    はっきりいって、党内事情から解散を迫れない野党は、自民党にとってはこわくない。それは、党首討論において安倍首相が余裕綽々だったことからもわかる。

マスコミが年金問題を「煽る」理由

自民党にとって恐ろしいのは世論である。消費増税を10月と決めたので、選挙では逆風もあるだろう。マスコミは消費増税を賛成し軽減税率をほしいので、年金問題が自民党にとって逆風要因と書くだろう。しかし、年金で老後のすべてを面倒見るとは不可能であることを国民は知っている。「年金」と煽っているのは、消費増税を目立たなくしたいマスコミなのだ。

年金問題を煽るマスコミ

ともあれ、消費増税が決まったので、いくらマスコミが書かなくても、国民には不満がたまってくる。実際、政府が正式に消費増税を決めた6月21日の閣議の少し前から、テレビで軽減税率を見込んだCMが出始めた。これから、10月から消費増税だからと、その前に買ったほうがいいというCMも出るはずだ。

そうなると、国民の怒りがでてくる。実際、21~23日にNHKが実施した世論調査までは、内閣支持率は前回調査より6ポイント減少し42%、自民党支持率は5.1ポイント低下し31.6%になった。

筆者は、数量分析を専門としているので、経済のみならず、外交軍事から感染症流行まで幅広く分析対象としているが、選挙も例外ではない。いわゆる選挙予測である。この分野は、日本では政治評論家が地道に足で調べた結果ばかりである。足で調べたというものの、ごく少ないサンプル調査でしかない。マスコミはそうした人からの「独特の分析」を掲載している。各政党も独自に調査をしているが、はっきりいってコストパフォーマンスはそれほど良くない。筆者はそうした調査を否定する者ではないが、別のアプローチで選挙予測をする。それは、内閣支持率と自民党支持率から統計的に算出するものだ。

「青木方程式」を活用してみる

政界には、「青木方程式」というものがある。自民党の青木幹雄・元参院議員会長の持論で「内閣支持率と政党支持率の合計が50%を切ったら、政権は終わり」というものだ。内閣支持率と政党支持率は、過去の国政選挙の自民党の議席獲得率ともかなり密接な関係があるので、それを活用して、選挙予測に使うのだ。

直近の調査でなく前月の調査結果から、予測される議席数は50台の半ばだったが、今は40台の後半にまで落ち込んでいる。これから、消費増税がさらに露出すると、さらに獲得議席は落ち込む可能性も否定できない。

今週はG20で安倍首相のテレビ露出はかなり大きくなる。ただし、投開票の7月21日まで、消費増税の露出が大きくなる中で、どこまで持ちこたえられるか。補正予算などの追加措置をいうだろうが、となるとなぜ消費増税なのかという不満がさらに増すかもしれない。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「日本の『老後』の正体」(幻冬舎新書)、「安倍政権『徹底査定』」(悟空出版)など。

【私の論評】次内閣改造で麻生氏が財務大臣にならなければ、官邸は財務省に挑戦し始めたとみなせ(゚д゚)!

国会は26日に会期末を迎えました。25日に野党側から衆議院に提出された内閣不信任決議案は否決されました。与野党の攻防の舞台は7月の参議院選挙に移りました。

今国会に提出された法案を見ると、5月以降はほとんど法案の審議がない状況でした。そのためいつでも解散できるような状態でしたが、結果的に安倍総理はしませんでした。なぜかということは、安倍総理しかわかりません。

ただし推測すると、これは解散するときに消費増税は延期もしくは凍結という話が出るでことになったでしょうが、麻生財務大臣としては、消費増税を実施したいという強い意向があり、これ優先したのだと思います。

結局、安倍総理は、財務省の文書変更、書き換えがあっても、普通ならば大臣の首は飛ぶところですが、それでも安倍総理は麻生財務大臣を守りました。次官のセクハラがあったときも守りました。

昨年の財務省の不祥事と人事をめぐる動き

徹底的に安倍総理は麻生大臣守ったのです。政権運営のためには、麻生大臣は切れなかったのでしょう。財務省もそれをよく熟知し、そこにつけ込みし消費増税の話を仕込んだのではないでしょうか。そう考えないと筋が通りません。

国会開催中でないと衆議院解散はできませんから。国会が終わったら衆議院は開かれないので、解散ができませんから、衆院解散、衆参同時選挙の芽は完全になくなったとみるべきでしょう。

消費増税の内容は、骨太の方針に先週21日に掲載されました。行政手続き論的には、骨太の方針の6月21日に閣議決定して、消費税増税もう決まりです。

その前にそういう動きになっていて、あとは手順だけでした。今回のこの動きは、財務省の影響力がかなり大きいです。

財政審議会の建議というものがあります。昔は財政審の建議が出て、それが経済運営の基本だったのですが、2001年から「骨太の方針」が出て、建議の意味があまりなくなりました。

「骨太の方針」のだいたい3週間くらい前に建議出すことになっていたのです。前に出さないと意味がないですから。いままで最短でも2週間、多くは1ヵ月というときもありましたが、3週間が普通でした。でも今年(2019年)は何と、建議が6月19日でした。そうして、骨太の方針が閣議決定されたのが、21日でした。

21日、19日、これはほとんど同時です。ということは、完全に財務省の官僚が予算のコントロールできて、それを実行したということです。

従来予算編成は財務官僚が完全握っていた時期がありましたが、それを大枠だけでも政治主導でやって行こうというのが「骨太の方針」の趣旨でした。

財務省の財政審の建議が3週間前に行われていたということが、財務省があまりパワーを持っていなかったことの証左でした。ところが、今回は21日と19日、ほぼ同時です。もう完全に財務官僚が予算編成のパワーを持ったということです。

メディアの報道を見ていると、安倍政権は長期政権となり、官邸主導だから行政が歪められているようなことを報道してますが、むしろ逆行してしまいました。2000年からの財政審の建議の日と骨太を見れば、3週間前という綺麗な関係があるのに、今年に限って2日です。こうなってしまうと、消費増税増税も確実に実施されることになります。

麻生氏は、安倍政権のなかの政権運営のための重要人物ですからから、財務大臣である麻生氏を経由して様々なことを財務省ができたのではないでしょうか。

安倍総理と麻生財務大臣

消費増税をして、経済は当然冷え込むだろうと多く人が指摘しています。少しでも冷え込みを回避するために補正予算を組もうと思っても、それすら財務省が緊縮路線ということになるととんでもないことになる可能性もあります。

補正予算でいちばん簡単なのは、国債費を積み増しして、だいたい2兆円くらい余計に積んでいます。それをそのまま使うことです。国債費をたくさん積んでも金利は低いですから、実は不要だと使わなくなるのが普通です。そうなると後で減額修正しなければならなくなります。

減額修正するのだったら、それを補正で使うのが普通のパターンです。これがいちばん簡単なやり方です。ただし、そもそも2兆円では焼け石水ですし、さらに財務省がそうするかどうかはなはだ疑問ですし、もし財務省がそうしなければ、とんでもないことになります。無論経済は悪化し、デフレに舞い戻るのは必至です。

いずれにしても、現在内閣支持率が落ちているところにきて、与党は増税を前提として、参院選を戦わなければならなくなります。そうなると、冒頭の記事にあるとおり、「前月の調査結果から、予測される議席数は50台の半ばだったが、今は40台の後半にまで落ち込んでいる。これから、消費増税がさらに露出すると、さらに獲得議席は落ち込む可能性も否定できない」ということになりかねないです。

さらに、今後自民党総裁の任期が満了する21年9月末までの間で「解散カード」を切る時期は限られてきます。しかも、これが増税の後に行われることになれば、やはり政権の支持率が落ちかなり不利な情勢になります。

参院選後の10月には消費税率が10%に引き上げられます。党内には「増税前にやらないと難しくなる」(中堅議員)との見方があります。しかし、7月21日投開票の見込みの参院選後には議長をはじめとする参院人事や内閣改造が行われます。

このようなことが予め予想されているのですが、政権運営のためには麻生氏切りで財務省の力を鈍化させることはできないという、ジレンマに安倍総理はさらされているのです。

こうなると、参院選挙後の内閣人事が注目されます。このときに麻生氏が財務大臣にならなければ、安倍政権は何らかの活路を見出して財務省に対して戦いを挑み始めたということです。

何らかのウルトラCで、10月増税を阻止するか、それができなくても、ひよっとして短期間のうちに、10%増税から減税するかもしれません。

仮に、今回の参院選挙後の内閣改造でなくても、その後の内閣改造で、麻生氏が財務大臣にならなければ、その芽はでてきます。そうでないと、経済は悪化の一途をたどり、憲法改正もできず、おそらく安倍内閣はレイムダックになることでしょう。

それと同時に、財務省の実体も最近では一部のメディア様々に報道されるようになってきたため、財務省に対する国民の不満もつのることになるでしょう。最近は、テレビをワイドショーで以前は財務官僚を「リスペクト」すると言っていた、弁護士のコメンテーターが、財務官僚を批判していて、時代の変化を感じました。そのことは、安倍総理が一番知っていることでしょう。なんとかして、安倍総理に活路を見出していただきたいものです。

それにしても、日本では財務省が政治のネックになっていることは確かです。財務省は、本来会社でいえば、財務部のようなものであり、会社の一部門にすぎません。ところが、これが実質的に金の力で、取締役を支配しているような歪な構造になっています。これはいずれ何とかしなければならない最大の課題です。

【関連記事】

2019年6月10日月曜日

「老後に2000万円不足」金融庁レポートと消費増税の不穏な関係―【私の論評】財務省も金融庁も国民のことは二の次で自らの利益のため国政を操っている(゚д゚)!

「老後に2000万円不足」金融庁レポートと消費増税の不穏な関係

財務省が、ほくそ笑んでいる




老後資金「2000万円不足」は本当か?

先週末ごろから、「7月の選挙は衆参ダブル選ではなく、10月の消費増税は予定通りに行われる」という観測記事が出始めた。

7月の参院選における自民党の公約に、「本年10月に消費税率を10%に引き上げる」と書かれていることが判明した、というのがその根拠である。

これまで安倍総理も「消費増税は予定通り」と公言してきたので、既定路線に変更なしということなのだろう。たしかに、7月の参院選公約をそろそろ確定しないと、もろもろの作業が間に合わなくなるころだ。

自民党の参院選公約と同時並行で策定されるのが、政府の「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる「骨太の方針」である。この原案でも、「消費増税は予定通り」となっている。これが政府の正式案として閣議決定されるのは6月中下旬である。

自民党の公約、政府の骨太方針ともに、これから政府与党内プロセスを経て正式決定されるが、報道によれば、現状の案のまま決定される見込みという。

「べき論」からいうと、今の時期に消費増税を実施すべきではないのは、筆者のこれまでの本コラムを読んでもらえばわかるだろう。

筆者は単に(1)景気論から消費増税に反対しているのではなく、(2)財政論(今の日本の財政は健全で、消費増税を行う必然性はない)や、(3)社会保障論(消費税を社会保障目的税とする国はなく、社会保障拡充のためには歳入庁の創設が有効)の見地からも消費増税はおかしいという、日本では珍しい意見の持ち主である。

まず、(1)景気論がひどい。

福岡市で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は9日、共同声明を採択した。世界経済の下振れリスクとして貿易摩擦の激化を挙げ、「G20はこれらのリスクに対処し続けるとともに、さらなる行動をとる用意がある」とした。にもかかわらず麻生財務大臣は、10月の消費増税を各国に説明したというのだから、まるで議長国として発表した共同声明を無視するかのような経済政策である。これでは日本の見識が疑われる。

福岡市で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議にて

(2)の財政論は、先週の本コラムで再三書いたので、繰り返さない。

今回の本題は、(3)の社会保障論だ。

6月3日に金融庁が公表した、資産形成に関する金融審議会報告書が話題である(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf)。報道では、「95歳まで生きるには、夫婦で約2000万円の金融資産の取り崩しが必要になる」とされている。

報告書の中の記述は、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1300万円~2000万円になる」である。

これは、審議会に提出された厚労省資料に基づく見解であるが、オリジナル資料は総務省家計調査(2017年)で、数字は夫65歳以上、妻60歳以上の高齢無職夫婦世帯の平均だ。

実は、同じ総務省の家計調査では、貯蓄額の数字も出ている。60歳以上の二人以上世帯の平均貯蓄額は2366万円である。このため、不足額の2000万円は賄えることになる。

もちろん、高齢者世帯の貯蓄額は人それぞれだ。貯蓄はある意味で人生の結果でもあるので、格差は大きく、その分布はピンからキリまでわかれている。

平均は2366万円であるが、貯蓄額を低い世帯から並べたときにちょうど中央に位置する世帯の貯蓄額は、1500万円程度である。このため、「2000万円の金融資産の取り崩しが必要」というマスコミ報道について、過剰に反応する人が多く出てくるのだろう。

要するに、今でも高齢者世帯では貯蓄の取り崩しが行われているわけで、これを公的年金の不足のせいとみるか、それとも公的年金以上の支出水準を維持するために貯蓄した結果とみるかは、人それぞれであろう。

しかし、報告書で「2000万円の不足」と書かれ、それだけがマスコミ報道で切り取られているから、案の定、「今さら年金をあてにするな、自助努力しろ、と言うのはおかしい」という意見が多く出ている。これは、高齢者世帯の貯蓄額の数字を出さずに「2000万円の不足」と強調し、煽る報道のためである。ネットで過剰反応する人は、高齢者世帯の貯蓄額も調べない人ばかりであろう。

金融庁と財務省の思惑

ここで重要なのは、公的年金について「不足している」、「ひょっとしたら破たんしているかもしれない」と一般の人が考えることは、消費増税を狙う財務省にとって好都合である、ということだ。「年金充実のためにも消費増税」と主張できるのである。

そこで、今回の金融庁による報告書が意味を持ってくる。金融庁のトップは麻生財務大臣である。金融庁はもともと財務省から分離された組織で、今の金融庁幹部は財務省に入省した官僚だから、財務官僚と同じ遺伝子を持っているといってもいい。

マスコミが過剰反応し「年金が不足する」と報じるのを金融庁は見越して、報告書でもその部分を強調したはずだ。それが結果として、「年金充実のための消費増税」をサポートするわけだ。

年金が少ない、あるいは破たんすると煽って金融商品を売りつけるのは、金融機関の営業ではよくある話だ。今回の金融庁の報告書は、まるで金融機関のパンフレットのように金融商品を推奨している。金融庁が金融機関の営業を後押ししている点でも異様なのだ。

年金制度「破綻疑惑」の読み方

では、日本の年金制度は破綻しているのか? 筆者の答えはノーだ。

そもそも年金とは、長生きするリスクに備えて、早逝した人の保険料を長生きした人に渡して補償する保険であるといえる。

65歳を年金の支給開始年齢とすれば、それ以前に亡くなった人にとっては、完全な掛け捨てになる。遺族には遺族年金が入るが、本人には1円も入らない。逆に運よく100歳まで生きられれば、35年間にわたりお金をもらえる。

極端に単純化して言えば、年金とは、平均年齢よりも前に死んだ人にとっては賭け損だが、平均年齢以上生きた人にとっては賭け得になるものだ。このように単純な仕組みなので、人口動態が正しく予測できれば、まず破綻しない。

具体的に言えば年金は、数学や統計学を用いてリスクを評価する数理計算に基づいて、破綻しないように、保険料と保険給付が同じになるように設計されている。確率・統計の手法を駆使して、緻密な計算によって保険料と給付額が決められている。

年金制度を実施する集団について、脱退率、年金受給者が何歳まで生きているのかという死亡率、積立金の運用利回り(予定利率)など、将来の状態の予想値(基礎率)を用いた「年金数理」で算出している。

2004年の年金制度改革で、給付額についてマクロ経済スライドが導入された。端的に言えば、保険料収入の範囲内で給付を維持できるように、数理計算で給付額を算出しようということだ。物価や賃金が上がると、それに連動して給付額は増えるが、現役世代の人口減少や平均寿命の延びを加味して、給付水準を自動的に調整(抑制)する仕組みだ。

年金は掛け捨ての部分が大きくなれば保障額が多くなり、小さければ少なくなる。つまり、現役世代の人口が減って保険料収入が少なくなろうが、平均寿命が延びて給付額が増えようが、社会環境に合わせて保険料と給付額を上下させれば、破綻しない制度ということだ。

経済界も加担している

年金不安の根拠として必ず持ち出されるのが、「65歳以上の高齢者1人を、15~64歳の現役世代X人で支えることになる」という理屈だ。

内閣府の「高齢者白書」によれば、2020年には2人、2040年には1・5人で1人の高齢者を支えることになる。このような人口減少はすでに十分予測されており、年金数理にも織り込まれている。つまり、人口減少は予測通りに起こっているので、社会保障制度での心配は想定内である。

にもかかわらず、一般国民にとっては、「年金は間もなく破たんする」という印象が強い。消費増税を目論む財務省が、社会保障費に対する世間の不安を煽り、マスコミがそれを増幅しているからだ。

「年金は保険」という認識が一般人に浸透すれば、消費増税ではなく保険料アップで対応すればいいという、至極まっとうな指摘が出てくる。しかしそうなると、予算編成と国税の権力を握り「最強官庁」の名をほしいままにしてきた、財務省の屋台骨が揺らいでしまう。

つまり、財務省としては「年金は社会福祉であり、今は原資が不十分な状態」という誤解が広まれば広まるほど、「社会福祉は税金でまかなうものだから、消費増税しかない」という俗論がまかり通るほど、好都合なのだ。

その意味では経済界も、「年金は保険」という認識が世間に浸透すると困る立場にある。「保険料の引き上げ」という本来の解決策がとれないのは、経済界の強硬な反対もある。なぜなら、年金保険料は労使折半だからだ。

企業は従業員の保険料の半分を負担しているため、負担を上げてほしくない。保険料アップで年金がまかなえるとなれば、会社負担が増えるのは明らかだ。だから、広く社会一般に負担を押し付ける消費増税の方がマシだと経営サイドは考えている。

財務省は年金制度の成功例として、社会保障が充実している北欧をしばしば引き合いにするが、それらの国における社会保障の充実が社会保険料負担、それも労働者というより経営サイドの大きな負担でもたらされていることには、決して言及しない。

そんな財務省の意向のもとで消費増税を実行すれば、かえって将来の社会保障制度も危機にさらされてしまうだろう。

【私の論評】財務省も金融庁も国民のことは二の次で自らの利益のため国政を操っている(゚д゚)!

さて、今回話題になっている、6月3日に金融庁が公表した、資産形成に関する金融審議会報告書ですが、正式名称は、金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書、「高齢社会における資産形成・管理」です。PDFで56ページに及ぶ提案書です。

オリジナルの文書に関心のある方は、リンクを張っておくので、よろしければご覧になってください。

この文書のキモの部分だけを抜き出すと、以下のようになります。
・定年の退職金が、バブル期のピークからすでに3~4割ほど減少している
・年金だけで暮らすのは厳しく、試算では毎月約5万円ほど貯金等からの持ち出しが必要となる
・つまり100歳近くまで生きるなら、2000万円は必要なので、準備しなさい

SMBCコンシューマーファイナンスは、2019年1月7日~9日の3日間、30歳~49歳の男女を対象に「30代・40代の金銭感覚についての意識調査2019」をインターネットリサーチで実施し、1,000名の有効回答を得ました。

全国の30歳~49歳の男女1,000名(全回答者)に対し、毎月自由に使えるお金はいくらあるか聞いたところ、全体の平均額は30,532円。家族構成別にみると、未婚者は38,674円、子どものいない既婚者は28,565円、子どものいる既婚者は22,096円となりました。

2018年に同社が実施した調査と比較すると、平均額は2018年30,272円→2019年30,532円と微増しています。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、驚いたことに、30、40代では23.1%もの人が貯蓄セロと答えていることです。



このグラフからは、貯蓄が0円~50万円以下という人が、何と47%と、半数近く占めることが分かります。

年代別の報告では、

30代・・2018年198万円→2019年194万円(4万円減)
40代・・2018年316万円→2019年196万円(120万円減)

と、40代では、たった1年で、平均が120万円も減少しています。

平均で出すと分かりにくいですが、これまでの流れから見ると、全体的に額面が落ちたのではなく、おそらく「ゼロに近い人の頭数」が増えたのではないでしょうか。

この人たちが、仮に35歳から60歳までに2000万円貯金するには、月々8万円を貯金しなければならないことになります。衝撃です。

そんなことが出来るくらいなら、現時点の貯蓄が50万円以下であるはずがないです。

しかし、落ち着いて、今一度この金融庁の文書をよく読んでみると、実はこの報告書にはは、国民に対して「貯金しろ」という言葉は出てこないです。

人々がこぞって貯金をするというのは、消費が落ち、内需が縮小することに直結します。この文書をよく見ると、「預金」ではなく、「運用」という言葉が頻繁に出てきます。
そしてご丁寧に、「金融サービスのあり方」と銘打った、銀行に対してのアドバイスの項目も含まれています。

私は、この文書のキモは、国民の老後を考えているものではなくて、長引く金融緩和で疲弊した銀行が、顧客に資産運用商品を売りやすくするためのキャンペーンを、金融庁が張ったのではないかと見ています。無論、上で高橋洋一氏が語ったように、この背景には無論財務省の増税という意図もあるでしょう。

しかし、将来の年金の不安を煽ることで、銀行が個人資産コンサルティングに入り込みやすい顧客の心理状況をつくり、なんとか銀行の業績を底上げしようという意図があるのではないでしょうか。

もはや構造不況業種の銀行業

おそらく銀行界隈では、今後、老後のための個人向け資産を長期運用する類の商品が続出するのではないでしょうか。

若・中年層が老後に突入する頃、麻生大臣はもちろん、財務省のおエラ方も定年を迎え、とっくに現場からいなくなっています。その時、世の中がどうなっていようが、そんなことに彼らは興味がないのでしょう。彼らが心配するのは、常に目先の話なのでしょう。

上の高橋洋一氏の文章のなかにも、「今回の金融庁の報告書は、まるで金融機関のパンフレットのように金融商品を推奨している。金融庁が金融機関の営業を後押ししている点でも異様なのだ」としています。

結局現状の、銀行等の金融機関はそれほど窮地に立たされているということでしょう。

欧米に比較すると、投資に不慣れな日本人は、運用よりも貯蓄に走ってしまう可能性のほうが高いと思います。人々がこぞって貯金をするということは、一見良いようにも見えますが、消費が落ち、内需が縮小することに直結します。そんなことになれば、国内景気が悪くなり、税収が減ります。そうなれば、また財務省は国民などおかまいなしに、増税するのでしょう。

財務省も金融庁も国民のことなどどうでも良いのでしょう。とにかく、天下り等のために有利な状況をつくっておきたい一心で、増税したり金融機関を助けようとして国政を操っているのです。

【関連記事】

消費増税のために財務省が繰り出す「屁理屈」をすべて論破しよう―【私の論評】財務省の既存の手口、新たな手口に惑わされるな(゚д゚)!


2019年6月3日月曜日

消費増税のために財務省が繰り出す「屁理屈」をすべて論破しよう―【私の論評】財務省の既存の手口、新たな手口に惑わされるな(゚д゚)!

消費増税のために財務省が繰り出す「屁理屈」をすべて論破しよう

「大地震発生で財政破綻するから」…?

高橋洋一氏

財政の「正論」に消費税は不要である

これまで、財務省は消費税を増税するために、いろいろな理屈を言ってきた。

今から30年くらい前には、(1)直間比率の是正だった。これは理屈というより、単に消費税を導入したいという願望だ。税金を直接税と間接税に分けても、その比率は国によって様々であるので、最適比率を探そうとしても無駄だからだ。

次には(2)財政破綻だ。財務省は、国の借金残高がこれまで急増していることを理由に、表だって「財政破綻する」とまでは断言しないものの、いろいろな局面で「ポチ」を使って、陰に陽に財政破綻論を国民に吹き込んでいる。

しかし、本コラムで再三述べているように、「借金」だけではなく「資産」を考慮しないと、本当の財政状況は理解できない。

そこで、市場で取引されているCDS(クレジットデフォルトスワップ。日本国債の「保険料」みたいなもの)から、現在の日本の財政破綻確率を推計すると、今後5年間で1%程度と、ほぼ無視できる低さなのだ。このあたりに興味のある方は、昨年10月15日付けの本コラム「IMFが公表した日本の財政『衝撃レポート』の中身を分析する」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57978)等を参照していただきたい。

その次に財務省が消費増税の理由として出してきたのが、(3)社会保障のため、というものだ。しかし、これも本コラムで繰り返し述べてきたように、社会保障の財源には社会保険料をあてるのが筋だ。

なにしろ、消費税を社会保障目的税とする国はない。社会保険料が究極の「社会保障目的税」なのだから。もちろん、すべての人に社会保険料を払わせるのは不適当なので、それが払えない人の分は累進所得税によって賄う。

財政に関する「正論」には、消費税などどこにも出てこない。

例えば社会保障を充実させたいなら、現在放置されている社会保険料の徴収漏れについて対策を打つことがまず先決だ。

その具体策が、世界の多くの国がやっているのに、日本ではやっていない「歳入庁」の創設である。歳入庁を、こちらも海外と比べて遅ればせながら導入された、「マイナンバー制度」による所得の捕捉と組み合わせることが重要だろう。

筆者は、かつて第一次安倍政権において歳入庁を創設しようとして、財務省の猛烈な反対にあった。

その理由は、「国税庁を財務省の配下におけなくなると、財務省からの天下りに支障が出る」という実に情けないもので、愕然とさせられた。彼ら財務官僚は、口では偉そうに国家を語るが、その本音は自己保身でしかないことがわかり、興ざめしたものだ。

「大地震」という新たな理屈

(1)直間比率の是正、(2)財政破綻、(3)社会保障という「消費税増税のための理屈」それぞれの間違いを指摘してきたが、ここに最近、新たに4つ目として「大地震の可能性」も加わったようだ。

もっともこれは、いつものように財務省が前面に出ることはない。財務省は「ポチ」と言われる、自らの言いなりになるマスコミ人や学者を駆使するのだ。

まずはマスコミ人だ。筆者は、5月26日放送のBS朝日の「激論!クロスファイア」において、原真人・朝日新聞編集委員と討論した。

そこで原氏は、近い将来の大地震発生確率の高さに触れて、財政破綻の可能性を主張した。YouTubeなどを探せば、この時の状況がわかる(例えば、https://www.youtube.com/watch?v=n1bPxAVTX6w&list=PLZNNFTj6GlEP_zYOlpNykSJy7gtQaYlGW )。

筆者は、「財政破綻がリスクであると言うなら、確率として表現すべきだ」と指摘したが、原氏は一切説明できなかった。もちろん筆者は、「財政破綻の確率は今後5年以内で1%程度、一方で首都直下地震の確率は今後5年以内に1割強だから、桁がひとつ違う」と数字を挙げて説明した。

やりとりを見てもらえばわかると思うのだが、原氏の論は苦しい。財政破綻のリスクと言い募りながら、具体的なことが言えないのだ。司会者の田原総一郎氏からも「しっかりして」と言われていた。

原氏のツイッターには、「先の日曜深夜に放映されたBS朝日『激論クロスファイア』で、リフレ派の中心、高橋洋一氏と初めて討論した。都合のいいデータと数字、解釈だけ持ち出して議論してくるのにはうんざり。」と書いてある。

筆者の論拠が「都合のいいデータと数字、解釈」であるなら反論も簡単なはずだが、原氏はそれができなかった。当該ツイートのコメント欄を見ても、原氏に対して辛辣なものばかりだ(https://twitter.com/makotoha/status/1133562158011129856)。


なお原氏は、番組の中で資料を使っていたが、その内容は財務省の資料そのものであった。筆者は番組収録中にすでに気がついていたが、財務省の資料そのものを、出典も明記せずに使うのは、マスコミ人としても問題だろう。



その資料の内容についても指摘しておきたい。

原氏は「戦争による財政破綻と今の状況が似ている」と言いたかったようだが、まったく違う。まず、(1)財務省資料には政府資産の額が書かれていない。戦争期には実質的に政府資産がなかったが、現在は資産がたっぷりあるという点で、事情が異なっている。

また、(2)社会の生産力も大きく異なる。戦争期の日本は生産手段を破壊され、生産力がほぼ皆無という状況に追い込まれているが、今は技術に支えられた生産力があり、これまたまったく事情が異なる。そもそも、戦時中〜戦後に酷いインフレになるのは日本に限らず、どこの国でも見られる現象だ。

なお、(1)直間比率の是正、(2)財政破綻、(3)社会保障それぞれについての筆者の詳しい見解は、政策カフェ「高橋洋一教授出演!「消費増税 賛否両論」(優子の部屋 特別版)」(https://www.youtube.com/watch?v=vBHJp4QKBXs)でまとめているのでご覧いただきたい。

東日本大震災の教訓

次に、学者にも、大震災を理由に消費増税を主張する人が出てきた。

吉川洋・立正大学長は、「首都直下、南海トラフなどの大地震も財政破綻の引き金になり得るとみて、これに備えるためにも地道な財政再建が必要であり、原則消費増税を実施すべきだ」と主張する(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-05-30/PS9RQK6TTDS301)。

大震災対応の一般論について考えてみよう。

仮に、大震災が500年に1度発生するとしよう。事前の対策としては建物などの減震・免震が考えられるが、これはインフラ整備のため、長期国債発行で賄われる。事後対応としてもやはり国債発行により復興対策が行われるが、大震災発生の確率から考えれば500年債、500年償還とするのが適切だ。

いずれにしても、増税は悪手だ。というのも、増税が大震災の経済ショックを増幅するダブルパンチになるからである。

こうした話は、経済学の大学院レベルの課税平準化理論の簡単な応用問題だ。しかし、実際に東日本大震災が発生した際、民主党政権下では財務省の主導により、復興対策費用は復興増税で賄われ、長期国債は発行されず課税平準化理論は無視された。

もちろん筆者は、2011年3月14日付本コラム(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/2254)や4月18日付本コラム(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/2463)などで復興増税を批判した。

しかし、日本の主流派経済学者は、ほとんど全員が東日本大震災後の復興増税に賛同した。その賛同者リストは、今でも見ることができる(http://www3.grips.ac.jp/~t-ito/j_fukkou2011_list.htm)。この愚策のために、いまや日本の大学の経済学の講義では、まともな理論を教えられなくなってしまった。

吉川氏の意見は、東日本大震災後の愚かな政策を再び実行しようと唱えているわけで、筆者にとっては信じがたい。
なお吉川氏は、2014年の消費増税前、その影響について「軽微だ」と述べ、予想を外している。実際には増税後に景気動向指数が低下し、誰の目にも景気悪化は明らかだった。
ところが、景気の「山」や「谷」を判断する、内閣府の景気動向指数研究会も「消費増税による景気悪化はなかった」としている。この景気動向指数研究会の座長は、実は吉川氏だった。さもありなんという話だ。

消費増税の理由に、(4)大地震の可能性を持ち出すのは筋悪だ。上に書いたように、そもそも震災対応は増税によるべきでない。さらに、大地震は今後30年間で7割の確率、今後5年以内では1割強の確率で発生するといわれ、そのリスクは財政破綻の確率1%程度に比べて桁違いに大きい。これは、大地震でも財政破綻など起こらないことを意味する。

もし本当に、この「財政破綻の確率は1%」が間違いだと思うなら、市場でCDS(クレジットデフォルトスワップ)を購入すれば、確実に儲けられる。大地震論法を採用している人はCDSを買っているのだろうか。そうした行動をせずに、財政破綻だけ主張することを、一般的には「煽り」という。
財務省に「直接対決」を申し込むと…

筆者は、これまで上記のような「消費増税のための理屈」がいかにバカバカしいかについて、様々な場で書いたり、話したりしてきた。

ただし、こうした手法はまどろっこしいので、「増税の理屈の『発信元』と思われる財務省に直接言えばいいのではないか」と思うに至った。幸いなことに、政策NPO「万年野党」が運営協力している政策カフェで、財務省による「訪問講座」(https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/houmon.php)を使った企画が出てきた(https://twitter.com/seisaku_cafe/status/1133953980457934848)。
【どうなる消費増税?】7/1 19時~,『財務省出張講座』を依頼中です。
政策カフェチャンネルでは前回,不要論の高橋洋一先生@YoichiTakahashiのお話を伺いました。次回は財務省のご担当者からお話を伺ってみたいと思っています。動画配信他,会場参加の申込も受付ける予定です。
(準備が整い次第受付開始)

財務省による「訪問講座」とは、「税の仕組みや税を取り巻く状況等の説明、意見交換を目的として、皆さんの集まりや勉強会、職場研修、ゼミ、中学・高校の授業等に(財務省)職員が訪問して話す」というものである。そこに筆者が参加すれば、財務官僚とじかに「意見交換」ができる。

しかし財務省は、「YouTube等の不特定多数が視聴される媒体等への出席はご遠慮させて頂いております」とし、拒否してきた(https://twitter.com/seisaku_cafe/status/1134468192892416000)。


なお、高橋洋一先生をお招きした会の動画は、こちらからご覧頂けます。https://youtu.be/vBHJp4QKBXs 
【調整報告1-1】財務省さんから残念ながら「Youtube等の不特定多数が視聴される媒体等への出席はご遠慮させて頂いております」とのご回答を頂きました。
(続く)
税に関する議論は広く国民に共有されるべきはずなのに、財務省自ら、不特定多数が視聴する「もっともオープンな場」を避けるとは実に情けない。

【私の論評】財務省の既存の手口、新たな手口に惑わされるな(゚д゚)!

上の記事でも、クロスファイア 「高橋洋一 ✕ 原真人」のリンクが貼ってありましたが、同じクロスファイアの番組でも、小沢一郎が出演している「選挙」関連のものにリンクされていたので、以下に正しいリンクを貼っておきます。


この動画、勝ち負けで判断したくはないですしそれ以前の話ではあるのですが、高橋教授の完封勝利です。 高橋教授は確率に基づく数字を提示しているのですが、原氏は何らの数字的な根拠を示されていないです。 反対の意思表示を示すのであるならばそれなりに数字で表して説明しないと議論以前の問題です。

上の高橋洋一の記事と、この動画をご覧いただければ、現在の日本経済の諸問題が明らかになると思います。

この記事に改めて、何かを新たに付け加えることもありませんが、しいて付け加えるとすれば、上の記事の中にある課税平準化理論という言葉の意味をさらに詳細に理解しやす形で付け加えようと思います。

これは、高橋洋一氏はあまりも当然のことなので、詳しく説明する必要もないと判断したのでしょう。私自信も、当然のことだとは思うのですが、周りの人に聞いてみると地震の復興を税金で行うべきか、国債をもちいるべきなのか、あやふやな人が結構いたので。今回はこれについて説明しようと思います。

結論からいうと、これは高橋洋一氏も語るように、国債を用いるべきなのですが、その正解をいえるためには、課税平準化理論の意味を知っていることが前提となります。

大震災が起こったときに、その復興などに増税で賄うような国はないです。日本の復興税だけが、世界の例外です。古今東西にこれだけが、唯一の例外です。ただし、古代はどうだったのか、あるいは聞いたことがない国に地域まで絶対なかったとはいえませんので、誰かご存知の方がいらっしゃいましたら是非教えていただきたいです。無論その結果も含めて教えていただきたいです。

しかし、ネットで調べた限りではそのような国は古今東西ありませんでした。繰り返しいいますが、日本だけが例外です。このようなときには、長期国債を使うのがマクロ経済学上のセオリーです。「課税の標準化(タックス・スムージング)」という理論があるように、課税のインパクトは薄く伸ばして緩和させるのが基本です。

仮に百年に一度の震災だとすれば、震災の経済に与えるショックを百年にわたって広く薄く負担し、軽減させるため、百年債を発行して100分の1ずつ償還します。それが世界中の財政の常識です。これを否定する人は世界中に誰もいません。いるとすれば、日本の財務省の官僚か、財務省の走狗に成り果てたエコノミストや識者だけでしょう。

なぜそのようなことをするかといえば、世代間の不公平を是正するためです。百年に一度の地震に関して復興税で復興してしまえば、地震が発生した世代にだけ負担が重くのしかかります。

復興では、様々なインフラを整備します。その多くは、地震が起こった時の世代だけではなくその後の世代も使い続けます。だからこそ、百年債を発行して、毎年広く世代間で平準化し、地震に遭遇した時代の世代や他世代の負担を減らすのです。国債は、次世代につけをまわすなどのことは全くの詭弁以外の何者でもありません。そうではなく、せだいか復興税など、全くこの「課税標準化理論」からすれば、矛盾にみちみちています。

結局のところ、財務省は増税できるなら、何で良いようです。経済理論などを捻じ曲げても、国民生活が悪くなろうが、とにかく増税さえできれば、自分たちの勝ちと考えているようです。

さて、このようなことを考えているうちに、最近の財務省増税に向けての動きがもう一つあったことを思い出しました。

それは、GWも明け直後からいきなり朝日新聞を利用した財務省のMMT派への攻撃が始まったことです。朝日新聞が5月7日以下のような記事を掲載しました。一部を引用します。
「MMT」に気をつけろ! 財務省が異端理論に警戒警報
 財政の破綻(はたん)など起きっこないから、政府はもっと借金してもっとお金を使え――米国で注目を集める「MMT」(Modern Monetary Theory=現代金融理論)と呼ばれる経済理論が、日本の政治家の間にも広まり始めている。政府が膨大な借金を抱えても問題はない、と説くこの理論は米国で主流派経済学者から「異端」視され、論争を巻き起こしている。これまで消費増税を2度延期し、財政再建目標の達成時期も先送りしてきた日本では、一見心地よく聞こえそうなMMTはどう受け止められていくのだろうか。 
 4月22日午後、東京・永田町の衆院議員会館の会議室に、10人あまりの国会議員が集まった。自民党の若手議員らが日本の財政問題などを考えるために立ち上げた「日本の未来を考える勉強会」の会合。テーマは「MMT」だ。 
 この会でMMTが取り上げられるのは、一昨年以降、これで3回目という。最近、MMTの提唱者のニューヨーク州立大教授、ステファニー・ケルトン氏のインタビューが報じられるなど、日本のメディアでもMMTが取り上げられ始め、勉強会の参加者の一人は「世界が、我々に追いついてきたね」と誇らしげだ。(後略)』
後略部で、「評論家」の中野剛志氏について、わざわざ「現役の経産官僚でありながら」と書いている時点で、悪意というか「攻撃の意思」むき出しです。

ちなみに、財務官僚はMMTについて、「(MMTは)要するに、いっぱいお金を使いたい人が言っているだけ。論評に値しない。(経済政策の)手詰まり感の現れだろう」(ある財務省幹部)と、予想通り「論評に値しない」と切り捨てています。

論評に値しないならば、無視すればいいのに、そうすることもできないようです。

議論になったら負けるので、MMT派(というか反・緊縮財政派)に対する個人攻撃、誹謗中傷や、ストローマン・プロパガンダ、権威・プロパガンダ等々で貶め、潰そうとしてきているわけです。

私自身は、MMTに関しては、もしある国が有する生産性能力を超えてまで、過剰に貨幣を増やせば、当然過剰なインフレになるのは明らかなので、この点一点をもっても、かなり懐疑的です。政府の借金についても、このブログにも述べているように、無論現状の日本はそのような状況ではないではないので、心配する必要もないですが、際限なく借金しても問題がないという考え方には賛同はできません。

やはり、一昨日にも掲載した、「現在の日本の環境では、プライマリーバランス赤字を継続し、おそらくはプライマリーバランス赤字を拡大し、国債の増加を受け入れることが求められています。プライマリーバランス赤字は、需要と産出を支え、金融政策への負担を和らげ、将来の経済成長を促進するものです。要するに、プライマリーバランス赤字によるコストは小さく、高水準の国債によるリスクは低いのです」という考え方には、多いに賛成です。

そうして、この考えは、何もMMTなる理論でなくても、既存のマクロ経済学で十分に説明できます。だから、なせMMTなる理論を持ち出すのかその意味がわかりません。さらに、困ったこととには、MMT派の人々は、その理論を数式用いて説明していません。

MMTにはモデルがなく滋賀って数式もないです。そのためか、主張する人によって中身が変わります。これでは議論のしようがないです。これについては、以下の動画をご覧いただくとご理解いただけるものと思います。



以上のようなことから、欧米でもまともな経済学者はMMTに関してはほとんど相手にしていないというのが実情です。

それにしても、この財務省の動きは気になります。今後も、MMT派に対する様々な攻撃(特に、スキャンダル系)が続くものと思います。

この動きは、財務省による増税キャンペーンにも関係あるのではないかと思います。結局のところ、MMTを批判することによって、既存のマクロ経済の理論まで否定して、増税のための根拠に仕立てる魂胆ではないかと思うのです。

興味深いことに、朝日新聞は菅官房長官が顧問の「政府紙幣及び無利子国債の発行を検討する議員連盟」についても取り上げています。(自民党の20人超の有志議員で構成)

政府の負債(国の借金ではない)、具体的には国債・財投債の内、すでに46%が日銀保有しています。

【2018年末時点 日本国債・財投債所有者別内訳(総計は1013兆円)】


日銀が保有する国債について、政府は返済負担や利払い負担がありません(子会社ですから)。

日本銀行の株式の55%は、日本政府が所有しています。日本銀行は歴とした日本政府の子会社です。日本銀行のホームページには、
本銀行は、特別の法律(日本銀行法)により設立され、設立に関し行政庁の認可が必要な「認可法人」と位置付けられています。日本銀行は株式会社ではなく、また株主総会もありません。
と、書かれていますが、何しろ日本銀行は「株式」を東証JASDAQに上場しているのです。現時点で、日本銀行の株価は一株36,000円程度で、単位株式数が100株なので、誰でも360万円ほどで日銀の株主になれます。ただし、日銀は日本政府の純然たる子会社であるため、株主になってもあまり意味はありません。

株式市場に株式を上場しておきながら、「株式会社ではない」など通るはずがありません(ならば、上場するな、という話)。少なくとも、会計上、日銀は疑いようもなく政府の子会社なのです。

この手の「事実」やMMTの考え方などは全く別にして、既存のマクロ経済学で十分に説明がつきます。そうして、これは早急に国民が共有しなければなりません。

ちなみに、「政府紙幣及び無利子国債の発行を検討する議員連盟」の「無利子国債」は、無期限無利子国債だと思いますが、確かに日銀保有の国債を新規の「無期限無利子国債」と交換してしまえば、政府の負債は実質はもちろん、名目でも消滅します。

もっとも、そんな面倒なことをしなくても、単に「日銀保有国債について、政府の債務不履行はあり得ない(当たり前)」という認識を国民や政治家が持てば住む話です(別に、無期限無利子国債の発行に反対しているわけではないですが)。黒田総裁が国会で発言すれば、財務省も反論できません。

自国通貨建て国債のデフォルトはあり得ない」(ただし先進国などのまともな経済)という、当たり前の真実を国民が早急に共有し、日本の財政破綻の可能性はゼロであることを前提に財政拡大に転じるべきです。

そうして、財務省のMMT批判については、その動向も今後も見守っていこうと思います。

【関連記事】

【日本の解き方】著名エコノミストが主張する日本の「基礎的財政赤字拡大論」 財政より経済を優先すべきだ ―【私の論評】増税で自ら手足を縛り荒波に飛び込もうとする現世代に、令和年間を担う将来世代を巻き込むのだけは避けよ(゚д゚)!

財政破綻論が、降水確率0%で「外出を控えろ」と言う理由―【私の論評】確率論でなくても、日本国を家族にたとえれば、財政破綻するはずがないことがわかるが・・・(゚д゚)!

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚”―【私の論評】第二次世界大戦中の経済成長でも示された、 大規模な戦争でGDPが伸びるからくり

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚” まとめ ロシアの今年1月から3月までのGDP伸び率が去年の同期比で5.4%と発表された。 これは4期連続のプラス成長で、経済好調の兆しとされる。 専門家は、軍事費の増加が経済を一時的に押し上げていると分析。 I...