2018年11月4日日曜日

コラム:消費増税は時期尚早、将来世代に回るツケ=嶋津洋樹氏―【私の論評】財政再建は既に終了、増税で税収減るので必要なし!財務省はバカ真似は止めよ(゚д゚)!

コラム:消費増税は時期尚早、将来世代に回るツケ=嶋津洋樹氏

各種報道を見る限り、2019年10月の消費増税はほぼ既定路線になったようだ。財務省を始め財政再建を訴える人たちは、とりあえず胸をなでおろしていることだろう。世論も消費増税を支持しているようで、日本経済新聞とテレビ東京による世論調査(10月26─28日実施)では47%が賛成と、反対の46%を上回った。

10月のロイター企業調査に至っては、「実施すべき」との回答が57%と、「実施しない方がよい」の43%を大幅に上回った。ロイターはその理由として、「財政健全化を先送りすべきではない」というのが「代表的な意見」と報じている。「少子高齢化が進行する中で、『(増税しなければ)社会保障制度が維持できない』」、「これ以上の先送りは、国民の先行き不透明感をあおるだけ」などの意見も取り上げている。

筆者も財政再建を先送りすべきではないと考えているし、その際に消費増税が安定した財源となることにも異論はない。しかし、それが来年10月で良いのかは問われるべきだ。少なくとも最近の経済指標は、国内景気が増税を乗り越えられるほど強い状態でその時期を迎えられない可能性を示している。

2カ月ぶりに減少した9月の鉱工業生産は、小幅な落ち込みにとどまるという市場の予想をあっさり裏切り、前年比1.1%低下した。7─9月期は前期比1.6%減と、3%減少した14年4─6月期以来の大幅な落ち込みを記録した。主因は台風や地震などの自然災害が相次いだことだろう。日銀の黒田東彦総裁が10月31日の記者会見で述べた通り、そうした影響は「基本的には一時的で」、「政府、民間企業も復旧の投資を行い、むしろ成長率を押し上げる」可能性もある。

<経済指標は6月ごろから弱含み>

しかし、8月の本コラムで指摘した通り、経済指標は6月ごろから弱さが目立つ。たとえば、工作機械受注は18年1月(48.8%増)以降、9月まで8カ月連続で伸びが鈍化。とくに中国向けは17年8月に前年の2.8倍増加していたものが、18年3月にはマイナスへ落ち込み、9月は前年比22%減と、7カ月連続で減少した。



日本を訪れる外国人の数も9月は前年比5.3%減と、13年1月に1.9%減って以来のマイナス。季節変動をならしてみると前月比5.7%減となり、6月以降、4カ月連続で前月の水準を下回った。

インバウンドで湧く大阪府のシティホテルの客室利用率(全日本シティホテル連盟)は、同じく季節変動をならしてみると、18年5月の88.9%が直近のピークで、6月は83.2%へ急低下。それ以降、4カ月連続で低下し、9月は73.5%と12年3月以来の低水準となった。

重要なのは、こうした経済指標の悪化が9月のみならず、それ以前から見えるということだ。そうした前提に立つと、景気の代表的な先行指標である新規求人数が9月に前年比6.6%減と16年10月以来の減少に転じたこと、そのマイナス幅が金融危機の影響を引きずる10年1月に13.4%減少して以来であることを、「一時的」と簡単に結論付けるわけにはいかない。国内景気は9月の自然災害で「一時的」に落ち込んだというよりも、それ以前からの弱さが露呈してきた可能性がある。

日本経済を取り巻く環境も、決して良好とは言えない。中国は今春以降、習近平国家主席が掲げるデレバレッジ(債務圧縮)方針への忖度(そんたく)が行き過ぎ、地方を中心に金融危機をほうふつさせるほど信用収縮が進んだ。金融当局などが迅速に対応して大事には至らなかったが、景気に急ブレーキがかかった状態にある。ハードランディングは回避できるとみているが、習主席が方針転換を明示しない限り、中国景気の足取りは重いままだろう。

米国は減税の追い風もあり、景気の回復が続く可能性は高いものの、プラス3─4%だった4月から9月の成長ペースを維持できるとは考えにくい。11月6日の中間選挙で共和党が上下両院とも制し、一段の減税など拡張的な財政政策が選択されるシナリオはゼロではない。しかし、その場合は米連邦準備理事会(FRB)に早期の金融政策正常化を促したり、ドル高がトランプ米大統領が推進する輸出振興を妨げたりするだろう。金利上昇に敏感な住宅市場に減速感があることも気がかりで、堅調な個人消費に水を差しかねない。

こうした状況で無理に消費増税に踏み切れば、日本の景気が失速するのは不可避だろう。安倍晋三政権は負担軽減策を講じ、万全の態勢で臨む姿勢を示すが、前回増税した14年4月を振り返るまでもなく、効果は未知数と言わざるを得ない。増税は一時的ではなく、恒久的に所得を減少させる。本気で影響を最小化しようとするのであれば、その減少分のいくらかを恒久的に補てんする必要があるだろう。

「そんなことを言っていたら、いつまでたっても財政再建などできないだろう」という声が聞こえてきそうだ。繰り返すが、筆者は財政再建の必要性を否定しているのではない。なぜデフレからの完全脱却を待てないのか、と主張しているだけだ。財政再建には、需給ギャップが明らかにプラスへ転じ、物価が2%で安定的に推移するようになってから取り組むべきである。

<若者の人生を左右>

内閣府と日銀の推計値によると、確かに需給ギャップはプラスに転じている。しかし、国際通貨基金(IMF)の試算値では、17年がマイナス0.864%、18年がマイナス0.749%と、明らかなマイナス圏にある。需給ギャップを用いて議論をするに当たっては、相当の幅を見ておく必要があるという常識に従えば、IMFの数値も考慮に入れるのは当然だ。

ロイターによると、IMFのラガルド専務理事は10月4日にインドネシアで麻生太郎財務相と会談した際、日本の消費税率の引き上げに支持を表明した。一方で、5%から8%に引き上げた4年前の増税に言及し、景気への影響には注意を払うよう伝えたという。ラガルド氏の発言を筆者なりに解釈すれば、IMFに理事まで派遣している国が下した判断を尊重しつつも、需給ギャップがマイナスの状態で増税をするのだから影響は大きくなる、くれぐれも慎重に、ということだろう。

そのIMFの分析によれば、日本の政府債務は名目GDP(国内総生産)比で235.6%、いわゆる「GDPの2倍以上」であるが、資産を勘案した純債務では5.8%に過ぎない。IMFが試算した31カ国中、最も大きな純債務を抱えるのはポルトガルで135.4%。125.3%の英国がそれに続く。統計が揃わないイタリアを除いた先進6カ国では、カナダのみが資産超過で、フランス、ドイツ、米国はそれぞれ42%、19.6%、16.7%と、日本よりも純債務が大きい。

日本では財政の話になると、なぜか急に「将来世代にツケを回すな」という声が出て、増税は当然という結論になる。しかし、需給ギャップがマイナスのまま財政再建を急げば、景気に大きな負荷がかかり、デフレに陥るリスクすらある。若者が希望通りの仕事に就けない、それどころか仕事がないという、つい最近まで日本が経験していた縮小均衡の世界である。

今も日本企業の多くは新卒を一括採用し、社会人としてのスキルは就職後に時間をかけて習得させるのが基本だ。つまり最初に正社員として就職できないと、その後の選択肢は大きく制限される社会である。増税先延ばしが将来世代にツケを回すという議論だけでなく、デフレから完全に脱却しないまま来年10月に増税すれば、将来世代の人生を大きく左右しかねないという議論もすべきだろう。

嶋津洋樹氏

嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネジャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。共著に「アベノミクスは進化する」(中央経済社)


【私の論評】財政再建は既に終了、増税で税収減るので必要なし!財務省はバカ真似は止めよ(゚д゚)!

私は典型的なリフレ派であり、すでに財政再建は終わったと考えています。そのため、消費税の10%への増税は全く必要ないと考えています。それについて、このブログで何回も掲載しています。その典型的なもののリンクを以下に掲載します。

1000兆円の国債って実はウソ!? スティグリッツ教授の重大提言―【私の論評】野党とメディアは、安保や経済など二の次で安倍内閣打倒しか眼中にない(゚д゚)!

スティグリッツ氏

政府の連結資産に含められるのは、日銀だけではない。いわゆる「天下り法人」なども含めると、実に600兆円ほどの資産がある。これらも連結してバランスシート上で「相殺」すると、実質的な国債残高はほぼゼロになる。日本の財務状況は、財務省が言うほど悪くないことがわかる。
 
スティグリッツ氏は、ほかにも財政再建のために消費税増税を急ぐなとも言っている。彼の主張は、財務省が描く増税へのシナリオにとって非常に都合の悪いものなのだ。 
彼の発言は重要な指摘であったが、残念ながら、ほとんどメディアで報道されなかった。経済財政諮問会議の事務局である内閣府が彼の主張をよく理解できず、役所の振り付けで動きがちなメディアが報道できなかったのが実際のところだろう。
この記事は、2017年4月2日のものです。広い意味での財政再建はこの時点で終了していたといっても良いです。この状況では、増税などする必要性は全くありませんでした。

これが、いわゆるリフレ派というか、日本ではリフレ派というと異端のようにみられますが、世界標準でごく当たり前の見方です。日本の財務省の官僚などは、日本が本当に増税する必要があり、その明確な根拠があるとすれば、スティグリッツ氏と意見が異なるわけですから、もし財務省の見方が正しければ、ノーベル経済学賞を受賞できる可能性があるはずです。しかし、そのような話は全く聴いたことはあません。これは、日本の財務省の官僚の誤謬です。

日本ではなぜかリフレ派は少なく、日本は財政再建からはまだ遠い状況であるとする人が多いです。ブログ冒頭の記事を書かれた、嶋津洋樹氏もそのような見方をしています。

そうして、嶋津氏が語るように、たとえ日本が財政再建からまだほど遠い状況であるという立場からも、現在は増税などすべきではないです。

本日は、この立場から、データをあげつつ増税をすべきでない理由を以下にあげます。

図1 財務省データより作成

財務省が発表した、2016年度の税収が、7年ぶりに前年度を下回ったことが、話題を呼んでいました。

全体の税収は、前年度より0.8兆円少ない55兆4686億円でした。法人税も5000億円減り、所得税も2000億円減り、消費税も2000億円減っている。各税収項目が、軒並み下がっていました(上図)。 

2017年7月7日付日経新聞の朝刊は、税収が減った理由について、「財務省は税収の大幅減は『特殊要因が大きい』と説明する」と報じていました。

法人税が下がった理由として、「年度前半の円高で企業業績に陰り」と説明されていました。「イギリスのEU離脱などの影響で、円高になったので、企業の輸出が減ったせい」という理屈です。しかし、日本の経済規模(GDP)に占める、輸出(純輸出)の比率は1%ほどに過ぎないです。

また所得税が減った理由については、「株価伸び悩みで譲渡所得減る」と書かれていました。「株価が上がらないので、株を売った時などの収入にかかる税金が減った」ということだ。しかし、所得税収における、「株式等の譲渡所得等」の内訳は、5%程度に過ぎないです。

財務省も各新聞も、税収が減った原因を、円高や株価など、経済全体にとっては"些細"なものばかりに求めているように見えました。

一方、様々な経済指標を見てみると、経済規模(GDP)の60%近くを占める消費が、悲惨な状況になっていました。

下の図は、世帯ごとの消費支出の推移です。2014年から、2017年の間に、各世帯の消費は年34万円も減ってしまっています。こはサラリーマンの月収、1カ月分に近いです。
図2 総務省統計を元に編集部作成。「1世代1カ月間の収支(2人以上の世帯)の各年1月の名目消費支出額を、消費者物価指数(2017年1月基準)を用いて実施値とし、年間の消費に調整。

こうした「消費が弱い」「デフレから抜け出せない」という指摘は、GDPが発表されたり、日銀の失敗を語る時には、各新聞とも書いていることです。にもかかわらず、なぜ税収の話になったとたん、「消費」の二文字が消えるのでしょうか。これは、かなり不自然です。

動機はある程度、察しが付きます。財務省には、「2019年秋の消費税10%への引き上げを、再延期させない」という目標があるのでしょう。

内閣が昨年6月に発表する、財政政策の方針のベースとなる「骨太の方針」から、前年まで書かれていた「消費税」についての言及が消えたことが、話題になりました。「消費税がいけなかった」ということを、政治家は知っていたのでしょう。今後、「消費税10%」を巡る、内閣と財務省の水面下の対決は、本格化してくるでしょう。

そうして今年の「骨太の方針」には、「消費税」という言葉が復活しました。今年に入ってから財務省が攻勢を強めたことがうかがえます。

そうした中で、財務省が「消費税のせいで、税収まで腰折れした」という認識を、持たれないようにしているようです。

各メディアも、財務省の公式発表を表立っては否定しません。日本中の経済情報を握っている財務省の機嫌を損ねてしまえば、経済記者は「商売上がったり」なのでしょう。それに、財務省から貰えるはずのスクープ情報も、もらえなくなるのでしょう。さらに財務省らから睨まれると、出世ができなくなるのでしょう。また、10%に上がったときの軽減税率の対象から、新聞を外されては困るという事情もあるのでしょう。

今後、税収減の傾向はさらに続く可能性があります。というのも、今回の税収は2016年度のものでしたが、図2を見ると、2017年の消費はさらに落ち込んでいます。
下のグラフは、1989年、すなわち消費税を導入した年から2017年までの税収の推移です。どの税収も若干上がっています。これは増税はして消費は落ち込んだものの、幸い輸出などが増えたことによるものです。



この推移を見ると景気動向に合わせて上下の変動はありますが、消費税導入以来随分税収が減ってきました。

一方消費税収の推移をみてください。こちらは逆にどんどん増えてきています。今や消費税収は17.5兆円で法人税収(約12兆円)を上回っています。

消費税を上げたダメージは、年々じわじわ積み重なって、3年後くらいから本格化すると言われています。「消費が減る→企業の売り上げが減る→給料が減る→さらに消費が減る」という悪循環が、少しずつ進行していくからです。

消費増税の本当の怖さは、直接消費を減らすこと以上に、その負のスパイラルの引き金を引いてしまうことだと言えます。2017年度は上記にもあげたように、輸出の増大があり、税収は増えていますが、もしそうでなかった場合を想定すると、税収の推移は以下のようになったと考えられます。





1990年に消費税を導入した時も、1997年に消費税率を5%に上げた時も、景気が絶好調の時に増税したので、税収は一瞬だけ上がりました。しかし、それから1~3年の間に徐々に景気が傾き、税収も落ち込み傾向に向かっていきました(下図)。




今回も、税収の推移のグラフが、同じようなカーブを描く可能性が高いです。

本当に、将来的に安定した税収を確保したければ、消費税率を5%に戻すべきです。ましてや、10%に上げることなど言語道断です。

以上は、財政再建などとは全く別にいえることです。税収という点からみても、10%増税などとんでもないということです。

財政再建という観点からはそもそも終了しているので増税の必要がないですし、税収という観点からも10%増税は全く正しくないのです。

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2018年11月3日土曜日

苦境の習氏、トランプ大統領にすり寄りか 米中首脳が電話会談 藤井氏「米国は甘い顔を見せない」―【私の論評】内需を拡大できない中共の宿痾で中国は凡庸なアジアの独裁国家に成り果てる(゚д゚)!

苦境の習氏、トランプ大統領にすり寄りか 米中首脳が電話会談 藤井氏「米国は甘い顔を見せない」

トランプ大統領と習近平主席

 ドナルド・トランプ米大統領は1日、中国の習近平国家主席と電話会談を行った。「米中新冷戦」が顕在化するなか、苦境に陥った中国としては、米国にすり寄った面もある。トランプ氏としても、中間選挙(6日)の直前に、硬軟織り交ぜた外交手腕をアピールする意図もありそうだ。

 《習氏と貿易に重点を置き、長い時間、多くの議題をめぐり協議した。(11月末に)アルゼンチンで開かれるG20(20カ国・地域)首脳会議での会談予定も順調だ》《(北朝鮮情勢についても)良い協議ができた》

 トランプ氏は1日、ツイッターにこう書き込んだ。両首脳の電話会談は、貿易摩擦が深刻化する前の今年5月以来。

 中国の国営中央テレビ(CCTV)などによると、習氏は会談で「世界2大国が、安定的で健全な関係を促進することを望んでいる。過去に経済貿易で立場の違いもあり、両国の産業と世界貿易はマイナスの影響を受けた。今後は、双方で受け入れ可能な案で通商協議を進め、2カ国間貿易での協力を拡大したい」と発言。

 これに対し、トランプ氏は「習氏との良好な関係構築を重視している。両国で頻繁に意思疎通することが重要だ」と語ったという。

 トランプ政権は、中国が、米国のハイテク技術を不当に入手しているなどとして、これまでに、中国からの総額2500億ドル(約28兆円)の輸入品に対し、高額の関税をかけた。

 背景には、米国に挑戦するように、軍事的覇権を強めている共産党一党独裁の中国を牽制(けんせい)する意図がある。米国はこの先、米中協議などが不調に終われば中国に追加制裁を発動する構えだ。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「トランプ氏は、中国が実際に結果を出さなければ、妥協はしない。習氏としても、これ以上、関税をかけられたり、トランプ氏から『G20での首脳会談もないぞ』と言われると困る。米国に泣きつき、今回の電話会談になったのだろう。すべては、マイク・ペンス米副大統領が10月4日、ワシントンで、中国を念頭に『宣戦布告』といえる演説をしたことに始まっている。トランプ氏は、中国にはそう簡単には甘い顔を見せない」と語った。

【私の論評】内需を拡大できない中共の宿痾で中国は凡庸なアジアの独裁国家に成り果てる(゚д゚)!

中国はもうすでに、八方塞がりです。中国がまともな国であれば、たとえ米国から貿易戦争を挑まれても、金融制裁をくらってもやりようがあるどころか、潜在能力としては世界一なのですが、現在の体制ではその能力を十分活かすことができません。

それは何かといえば、内需拡大策です。本来はこれを実行し、それに成功すれば、別に米国と貿易などしなくても、やりようはあります。ただし、先進国並みに内需拡大ができるような体制の国であれば、そもそも中国は米国などと貿易摩擦を起こすこともありませんでした。

記者会見する中国国家発展改革委員会の連維良副主任(右端から2人目)ら=9月25日、北京

中国のマクロ経済政策を統括する国家発展改革委員会の連維良副主任は9月25日の記者会見で、米国による対中制裁関税の影響について「中国経済には強靱性と内需の潜在力がある。リスクは全体として抑制できる」と述べました。消費促進などの内需拡大策を強化し、貿易摩擦の影響を相殺する方針と語りました。

実際、中国政府は内需刺激策を順次打ち出しています。しかし、かつては中国でしばしば景気刺激策の柱となったインフラ投資の拡大については、比較的抑制的な水準にとどめられています。

これは、過去のインフラ投資拡策が生み出した弊害を踏まえたものです。10年前のリーマン・ショック後に中国政府が実施した、インフラ投資中心の4兆元(当時の為替レートで約56兆円)の景気対策やその他のインフラ投資拡大策は、後に企業、地方政府の過剰債務問題をもたらし、金融システムの安定を損ねる事態に発展してしまいました。

また、過剰投資は鉄鋼、セメントなどの過剰生産を生み出し、米中貿易戦争の遠因の一つともなりました。さらに、道路や居住用建築物でも過大で無駄な投資プロジェクトが次々と発覚していくことになりました。

そこで今回の景気対策では、預金準備率引き下げなどの金融緩和策と並んで、減税措置がその中核を担っています。中国政府は2018年10月から、中間層の消費底上げを狙って個人所得減税策を実施しました。

減税規模は年間3,200億元(約5兆1千億円)です。個人所得税の課税最低限を現在の3,500元から5千元に引き上げるのが柱となります。子供の教育費や住宅ローンの利息などを課税所得から差し引ける仕組みも併せて導入されます。2018年10月から実施されたましたが、法改正を踏まえた全面実施は2019年年初からです。

しかし、この所得減税措置の景気刺激効果については、慎重な見方も多いです。そもそも、インフラ投資と比べると、所得減税策は短期的な景気刺激効果は小さくなるのが通例です。減税の相当部分が貯蓄の増加に回されるためです。野村證券は、今回の措置による個人消費の押し上げ効果は0.2%程度、GDPの押し上げ効果は0.1%弱にとどまると試算しています。

こうした点を踏まえて、中国政府が追加的な所得税減税を実施するとの見方も多くなされています。中国人民銀行・金融政策委員会の委員で、清華大学金融発展研究センター主任の馬駿氏は、2019年の減税及び手数料の引き下げ規模がGDPの1%を超える可能性があると指摘しています。GDPの1%規模は8,000億人民元強であることから、2018年の所得減税を相当上回る規模となります。

米中貿易戦争は、長期化する可能性が高まっています。それは、この問題が単なる貿易不均衡の問題ではなく、2大大国の経済、先端産業、軍事を巡る覇権争いがその背景にあり、さらに政治・経済体制間の争いにも発展しているためです。両国ともに簡単には譲歩できない事態にまで発展しています。

マイク・ペンス副大統領が2018年10月4日に米国の保守系シンクタンクのハドソン研究所で行った演説は、激しい中国批判に終始し、米中が経済、政治、軍事で全面的な対立の構図に陥った可能性、いわば「米中新冷戦」の始まりを宣言したに等しい内容になっています。

演説をするペンス大統領。2018年10月4日に米国の保守系シンクタンクのハドソン研究所似て。

このように米中貿易戦争が長期化すれば、中国の輸出環境は長期間厳しい状況に置かれる可能性があります。そのもとでも相応の成長率を維持するには、より内需主導型への経済構造を転換していく必要があるでしょう。

しかし、インフラ投資、あるいは一般に公的・民間投資の拡大は、すでに見たような深刻な問題を再び生じさせるおそれがあります。そこで、内需のけん引役としては個人消費が期待されます。すでに見た所得減税策も、こうした考えに基づいて実施された側面もあると考えられます。

しかし、税制改革だけで持続的な個人消費主導の経済に転換していくことは、難しいです。個人消費の増加率を高めるには、個人貯蓄率の継続的な引き下げが必要になりますが、それを阻んでいるのが、社会保障制度の未整備に基づく将来不安です。

そうであれば、大幅な社会保障制度が、消費刺激の観点からも求められます。さらに、労働者の地域間移動の活性化を通じた所得引き上げを促すには、戸籍制度の見直しも必要にです。

中国・上海の古い街並みに座る高齢の男性

こうした点から、長期化が見込まれる米中貿易戦争は、社会制度も含めた中国の構造改革を必然的に促すようになる可能性があります。

この構造改革については、以前からもこのブログに掲載しています。この構造改革は幅も奥行きも広いものとなりますが、その中でも根底にあるのは、民主化、政治と経済の分離、法治国家化です。これなしに、他の構造改革を実行したとしても、すべて積木くずしのように崩れてしまうことでしょう。

これは、先進国でもどの国でも完璧ではないとはいいながら、中国などの発展途上国から比較すれば、かなり進んでいます。中国に限らず、これらが整備されていない国では本来自由貿易などできません。

ただし、中国以外のこれらがあまり整備されていない発展途上国の場合は、人口もさほど大きいわけでもなく、大きな産業もないため、先進国と貿易をしたとしても、そもそも取引量ならびに額が低いのでほとんど問題にはなりません。

しかし、中国はそういうわけにはいきません。社会構造はとてつもなく遅れているにもかかわらず、人口が多く、中国の経済統計は出鱈目なので本当はどうかはわかりませんが、GDPは一応世界第二位といわれています。これが嘘だとしても、他の発展途上国と比較すると、かなり大きいことは確かです。さらに、軍事も経済もこれからまだ伸びる余地があるということで、先進国と同列にみられがちですが、その実社会構造はとてつもなく遅れています。

なぜこんないびつなことになってしまったかといえば、中国の将来性に期待して海外からかなり投資が増えたからです。そのため、中国は遅れた社会構造を維持したまま、インフラを整備し、軍隊を強化して現在に至っています。

この中国が遅れた体制を維持したまま、米国や他の先進国と貿易をしたので、必然的に不公正、不正などが生じたのです。それが今日、米国の対中国冷戦へとつながったのです。

これを是正して、日米をはじめとする先進国とまともな貿易をするには、中国はまずは、ある程度の民主化、経済と政治の分離、法治国家化を進めなければならいですし、内需を拡大するにもこれを実施しなければなりません。

内需を拡大するには、構造改革をして、現在のように極一部の富裕層とその他大勢の貧乏人という状況を崩して、多数の中間層が自由に社会・経済活動を営めるようにして、経済的に豊かにする必要があります。

しかし、中国共産党にとっては、これをすすめると、統治の正当性が失われることになります。なぜそのようなことになるかといえば、まずは民主化を進めるためには、選挙など実施しなければならなくなりますが、それを実施すれば、共産党一党独裁は崩れる可能性があります。

政治と経済の分離をしてしまえば、現在のような人治による経済活動は崩れてしまいます。人脈はあまり大きな意味を持たなくなります。そうなると、中国の人脈に基づいた派閥政治は崩れることになります。

法治国家化を進めれば、当然のことながら、現在のように憲法や人民解放軍が共産党の下に位置づけられるということはなくなり、憲法に縛られ、人民解放軍は他の先進国ではあたりまえの、国民国家の軍隊ということになり、中国共産党の私兵ではなくなります。

そうなると、当然のことながら、共産党の統治の正当性が崩れ、他の勢力にとって変わられることになります。

そのような状況を中国共産党が望むはずもありません。中国の将来は中共が支配し続けるか、内乱によって、構造改革を進めようとする他の勢力が中共にとってかわるかしかないと考えられます。

中共が支配しつづけることになれば、中国は内にこもるしかなくなり、図体が大きいだけの凡庸なアジアの一独裁国家に成り果てることになります。そうして、確率としてはこちらのほうが高いと思います。私としては、中国が何か変わるとすれば、この状態を経て、中共の力が弱まり、最終的にいくつかの国に分裂するときだと思います。

中国がいずれの道を選ぶにしても、そこまで行き着くには短くても、10年、長ければ20年はかかるでしょう。はっきりしているのは、その時がくるまで、米国による対中国冷戦が続くということです。そうして、その時は必ず来ます。

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2018年11月2日金曜日

安倍首相、インド首相との首脳会談風景を公開で「日印関係のさらなる発展を望みます」とエール続々―【私の論評】日印関係を強化することの意義(゚д゚)!

安倍首相、インド首相との首脳会談風景を公開で「日印関係のさらなる発展を望みます」とエール続々



 安倍晋三首相(64)がツイッターを通じてインドのモディ首相との会談風景をまとめた動画を公開した。

 今回で12回目となったモディ首脳との首脳会談。28日には山梨の自身の別荘に招待し夕食会を開いたほか、29日には首相官邸で正式な首脳会談を行っていた。

 モディ首相との首脳会談の様子はツイッターでも逐一報告されていたが、31日に安倍首相はツイッターを更新し、「モディ首相を日本にお招きし、首脳会談に臨みました。その様子を動画にまとめましたので、是非ご覧ください」と改めて会談の様子をまとめた動画を公開。日本とインドの親密な関係性をアピールしていた。


この投稿に対し安倍首相のツイッターには、「インドはIT大国だし、密接な関係になるのは喜ばしいことしかないです!日印関係のさらなる発展を望みます」「今後さらに日印関係は良くなっていくでしょうね。国の発展に尽力されること、今後も宜しくお願いします」「親日国とますます親密になることを期待しています!」というエールの声が続々と寄せられていた。有権者の多くは今後もインドとの関係が深くなることを強く望んでいるようだった。

【私の論評】日印関係を強化することの意義(゚д゚)!

安倍総理のインド関連のツイートになぜこれだけ、エールが寄せられるのでしょうか。無論昔からインドは親日国だったということもありますが、それ以外にもインドがかなり大きな潜在可能性を秘めた国でもあるからです。本日はインドの潜在可能性について掲載したいと思います。

インドのモディ首相の来日に関連して、以下の2つニュースが報道されています。
<円借款>インドに3,000億円 29日首脳会談で伝達
毎日新聞 10/24(水)23:57配信
政府はインドに対し、日本の新幹線方式を導入する鉄道建設などを対象に今年度、3,000億円超の円借款を供与する方針を固めた。安倍晋三首相が29日、東京都内で予定するモディ首相との会談で伝える。
「今年度、3,000億円超の円借款を供与する」そうです。
政府は2015年度以降、年間3,000億円超の円借款を含む政府開発援助(ODA)をインドに供与している。同国に対する円借款の累計額は今年度を含めて約6兆円で、世界で最も多い。政府は「自由で開かれたインド太平洋戦略」の一環として、今年度も高水準を維持することにした。
(同上)
「円借款の累計額は約6兆円」で「世界で最も多い」そうです。実にすばらしいです。なぜすばらしいか、その理由は後述します。

もう1つ。
<安倍首相>印首相を別荘招待 中国とバランス外交
毎日新聞 10/23(火)21:58配信
安倍晋三首相は23日の自民党役員会で、近く訪日するインドのモディ首相を、山梨県鳴沢村の自身の別荘へ招くと明らかにした。モディ氏は28日に別荘を訪れ、正式な首脳会談は29日に東京で行う。
安倍総理はモディ首相を自身の別荘に招待したのです。誰かと「緊密な関係になりたいとき」「緊密であることを示したいとき」こんなことををします。

日本の総理が、外国首脳を別荘に招く。これは、なんと中曽根さんがレーガンさんを招待して以来だそうです。なんとも「特別待遇」です。すばらしい!

安倍氏は28日、インドのモディ首相を山梨県の河口湖の近くの自身の別荘に招き、夕食を共にした。

なぜ安倍総理が、インドのモディ首相を特別待遇することがすばらしいといえるのでしょうか。それは、日本にとってインドは、米国に並ぶ最重要国家だからです。これはなぜでしょうか?

軍事同盟国米国が最重要国家であることは、中学生でも理解できます。米国との同盟がなければ、尖閣諸島は、とうに中国の領土になっていたかもしれません。中国は、「日本には、沖縄の領有権はない!」と宣言しているため、沖縄も危険です。

では、インドは、なぜ最重要国といえるのでしょうか。米国は、日本の軍事同盟国であり現在世界で唯一の超大国ですが、その力は相対的に弱くなりつつあります。トランプ大統領のスローガンは、「アメリカを再び偉大に!」でした。

ということは、トランプ大統領は、「アメリカは、昔偉大だったけど、今は昔ほど偉大ではない」と考えているということです。確かに、40~50年代とか90年代等と比較すると、米国は衰えています。

トランプ大統領の前のオバマ大統領はあろうことか「米国は最早世界の警察官じゃない!」と自ら宣言してしまいました。さらに、オバマ大統領は北が非核化の意思を表明しない限り、対話しないという対北政策を「戦略的忍耐」と名付け、8年間、ほぼ沈黙してきました。その結果、北は核開発を進めることができました。

このような状況では、米国の同盟国は「アメリカ同盟頼り」だけだと危険だと考えるのが当然です。トランプ大統領は軍事費も拡張し、再び米国を強くしようとしていますが、8年間のブランクは大きく、すぐに米軍が強くなるわけではありません。

無論、「自主防衛能力」を向上させていくことが最重要ですが、その一方で、他の大国との同盟関係も深めていく必要があります。日本が「同盟国」に選ぶなら、インドが最適なのです。

なぜかというと、多くの国々のライフサイクルを見ると、欧州は成熟期というかはっきりいえば黄昏時です、米国は成熟期、過去には大成長を続けた中国も、今や成長期の最末期となっています。

黄昏時の欧州中央銀行

ロシアは今やGDPはインド以下で現状ではだいたい10位前後です。韓国とより若干小さいくらいの規模です。そうして、韓国と東京都は同じくらいの規模です。そうして、ロシアの人口は1億4千万人で、日本より2千万に程多いくらいの規模です。ロシアが大国といえるのは、今や領土の大きくらいかもしれません。

東京都なみで、これから伸びる可能性もないロシアは、ソ連時代の核兵器や軍事技術ほ継承しているので、大国と見られがちですが、今や大国ではありません。米国と比較の対象にもなりません。軍事的には去勢をはってはいますが、今やNATOと対峙するのも難しいです。


しかし、インドだけは、いまだ成長期の前期にあり、これからもますます成長しつづけていくことが確実です。

インドは1947年、イギリスから独立しました。その後、混乱期が長くつづき、この国が成長期に入ったのは1991年でした。この年、インドは「経済社会主義」を捨てて、「自由化」に踏みきりました。中国は、鄧小平が「資本主義導入」を決めた1978年から成長期に入りました。つまり、インドが成長期に入ったのは、中国より13年遅かったことになります。

そうして、インドのGDPは2016年、2兆2,564億ドルで、世界7位でした。しかし、1人当たりGDPは同年、1,723ドルで、世界144位という低さでした。常識的に考えると、インドはまだまだ「成長期前期」にいることがわかります。

この国の1人当たりGDPが、まだまだ先進国に比較すると低い現在の中国並みの水準まで増加したと仮定します。すると、インドのGDPは、約9兆ドルになり、日本を軽く超えてしまうのです。そして、インドの人口は、日本の約10倍、12億1,000万人ですから、同国のGDPが将来日本を超えることは「必然」といっても良いのです。


そうして、インドが長いあいだイギリス植民地であったということで、中国よりはかなりまともです。そもそも、中国には選挙制度はありませんが、インドにはあります。ただし、女性の地位が未だにかなり低いなど社会構造に未だ大きな問題点はあります。そうはいっても、中国と比較すれば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化は進んでいます。さらに、インドは大東亜戦争中から日本の親日国でもあります。

米国などの先進国は、経済成長すれば中国も先進国並の体制に変わるであろうと期待していましたが、ご存知のようにその期待は見事に裏切られました。しかし、インドの場合は経済成長をすれば、独自の発展をして世界の先進国の良きパートナー、良き隣人になる可能性は中国などよりかなり大きいです。

将来、インドは、経済的に中国に並ぶ大国になるでしょう。そうして、社会構造的には中国よりははるかに先進国に近い体制になることでしょう。そうして、中国と異なり、先進国と共通の価値観をある程度共有できるようになるでしょう。ですから、日本は未来を見据え、インドとの関係を強化していく必要があります。

というわけで、現在の日本にとっては、米国とインドが日本の最重要国家です。安倍総理は、「大戦略観」をもって、インドとの関係強化に取り組んでおられる。実にすばらしいことです。

【私の論評】

安倍首相 インド首相を別荘招待で関係強化へ―【私の論評】今回の会談は自国の都合だけで動く中国に勘違いさせないという意義もある(゚д゚)!



2018年11月1日木曜日

米国で相次ぐ値上げ、消費者の慣れに便乗―【私の論評】デフレを20年放置した日本は、世界で特異中の特異!「井の中の蛙」になるな、世界から学べ(゚д゚)!。

米国で相次ぐ値上げ、消費者の慣れに便乗

航空会社や食品メーカーがコスト増を顧客へ転嫁 ビッグマックやコーラも

 米経済にとっては微妙な時期だ。失業率は過去数十年で最低の水準にあり、経済成長は力強い。インフレ率は米連邦準備制度理事会(FRB)の目標である2%に近いが、労働力不足と関税問題がエスカレートすれば、物価上昇への圧力が加わりかねない。一方で輸入品の価格を下げるドル高など他の要因は、そうした圧力を弱める可能性がある。どこかの段階で、物価高は経済成長の勢いを弱める。投資家はインフレが勢いを増すことでFRBの利上げが加速するのではないかと懸念している。

 クラッカーの「リッツ」などで知られる菓子大手モンデリーズ・インターナショナルは、来年に北米で値上げに踏み切る予定だ。ディルク・バン・デ・プットCEOは29日のインタビューで、北米の消費者と小売業者が以前よりも値上げに寛容だと述べた。

 企業はさまざま形のコスト上昇に直面している。モンデリーズによると、一部のクッキーやクラッカーを値上げするのは、材料と輸送費の上昇を受けた措置だ。航空会社が支払うジェット燃料の価格は1年前から約40%上昇している。9月のトラック輸送コストは前年同月比7%上昇したが、これは業者が人件費の上昇分を転嫁したためだ。労働省が31日発表したところによると、7-9月期の民間部門賃金は前年同期比3.1%上昇し、2008年以来の伸びを示した。

 米メーカーが支払うアルミニウムの価格は1年前から8%上昇、鉄鋼の価格は38%上昇している。トランプ政権が課した関税が反映されているためだ。中国からの輸入品2000億ドル相当に対する10%の関税が9月に導入され、該当品を購入する企業を圧迫している。

 皮革製品メーカーのスティーブマデンは今週、中国から輸入するハンドバッグなどの製品を値上げすると発表し、関税を避けるため他国に生産移転する計画を明らかにした。自社店舗では中国製品の価格が10%上昇するケースもあるという。

 グラント・ソーントンのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は「こうした状況はみな物価の上昇を示している。1-3月期(第1四半期)にはインフレ率が上がるかもしれない」と述べた。



 消費者が値上げに慣れつつあることを感じ取り、利益を増やすために値上げする企業もある。アルミ部品大手アーコニックは、関税で全般に価格が上昇するなか、圧延アルミ製品の営業利益率が値上げによって拡大したと述べた。アップルはこのほど発表した「MacBook Air(マックブック・エア)」と「iPad Pro(アイパッド・プロ)」の新製品の価格をそれぞれ20%、25%引き上げた。

 コカ・コーラや航空大手などの企業は、値上げしても需要に衰えはないと話している。デルタ航空、ジェットブルー航空、アメリカン航空グループはいずれも燃料費上昇をカバーするために運賃などを引き上げている。

 大手以外の一部航空会社は、値上げで顧客が減るリスクは冒せないと話す。格安航空のアレジアント・トラベルは、自社の顧客が大手の顧客よりも値上げに敏感だと述べた。同社はコスト削減のため、オフピークのフライトを減らしている。

 一部の飲食チェーンは、値上げしながらもセットメニューなどで顧客を取り込もうとしている。マクドナルドの7-9月期の米既存店売上高が前年同期比2.4%増加したのは、ハンバーガーの値上げが大きかった。高級ハンバーガーのハビット・レストランは5月下旬に3.9%の値上げをした。7-9月期の売上高は予想を上回ったが、これは値上げによるところが大きい。客足は3.4%減少した。

 食品メーカーは今年、市場シェアにこだわるスーパーやネット食料品店の反対を受けて値上げに苦労していた。利益拡大のために他の手段に乗り出すメーカーもある。

 ハーシーは来年商品の包装を変えて単価を引き上げる計画を発表した。ケロッグはワッフルにチョコレート味を追加し、同様の商品より12%高い価格をつけた。ケヒレーンCEOは「単純に定価を引き上げる時代は終わった。それは消費需要の減退につながる」と述べた。

 ハーシーのミシェル・バックCEOは先週のインタビューで、消費支出と経済成長がなお好調なため、小売業者は以前より値上げに積極的だと述べた。

 シカゴのシェリル・キングさん(50)は、2人の子供のために買うグルテンフリーやオーガニックの商品を中心に、一部の食品が小幅に値上がりしていることに気づいた。だが自身も医師の夫も買う商品は変えていない。「特売やクーポンは利用するが、私たちは大丈夫だ。そこまで節約に気を遣っているわけではない」と話している。

【私の論評】デフレを20年放置した日本は、世界で特異中の特異!「井の中の蛙」になるな、世界から学べ(゚д゚)!。
米国の値上げの状況は上記のような状況です。では日本はどのような状況かといえば、それを端的に示すのが、現在、香港や中国を中心にアジアで話題になっているの沖縄での以下のニュースです。

中国人のみ料金10倍 宮古島・砂山ビーチのレンタル業者 市から注意され看板撤去

世界を旅していると、度々直面するものに「外国人料金」というものがあります。現地の人とは別に、観光客で訪れる外国人向けに設定された料金のことです。

レストランから世界遺産まで、様々な場所で様々な外国人料金が存在しますが、要は「あなた方、外国人は海外旅行が出来るくらいのお金持ちなのだから、たくさんお金を払ってください」というものなのでしょう。

以下に代表的なものをあげます
・タージマハル(インド) 
 外国人 1,000ルピー(約1,100円)
 現地人 40ルピー(約68円)

・ペトラ遺跡 (ヨルダン)
 外国人 50ディナール(約7,800円)
 現地人 1ディナール(約156円) 
・アンコールワット (カンボジア)
 外国人 37ドル(約4,033円)
 現地人 無料
国の豊かさの差異や収入格差で致し方ない面もあるのでしょうが、それにしても数字だけ見ると現地の人との何十倍もの差が生じています。

冒頭の中国人観光客の話に戻りますが、2万円というのは(業者の意図は本来の外国人料金の意味合いとは違うようですが)価格の設定上、途上国が外国人向けに提示する料金と同じなのです。

中国からの旅行客の1人当たりの支出額は、15年のデータで28万3000円と言われています。ビーチパラソルが2万円でも、普通に払う中国人も少なくないのでしょう。無論、ビーチパラソルなどは複数人で使用するものなので、1人当たりのコストはもっと下がるわけです。


出展:日本政府観光局(JNTO) weblio英会話 For School and Business

日本人の10倍の値段を設定しても、料金を払える中国人観光客がいるという現実があるわけです。私自身は、心のどこかで、日本は少なくともサービス業などの表面的な部分は先進国でおもてなしの国とみなされており、経済が悪化したとはいえ、国民一人あたりGDPは未だ上位の部類で、外国人料金などは無縁の国だと思っていました。

しかし、今回の沖縄のことで、外国人料金を設定せざるを得なくなるかもしれなかった日本の未来を少しだけ垣間見たような気がしました。

初任給40万円のファーウェイ

中国の通信大手・華為技術(ファーウェイ)の日本法人が大卒で月給約40万円、院卒で43万円で新卒募集をかけたのが日本で話題になっています。

ファーウェイの初任給月40万円が話題「普通に就職したい」「優秀な人は流れていっちゃう」

一般的な日本の企業の大卒初任給の平均は19万8000円なので、倍以上の給与額です。

一部のメディアはファーウェイの初任給について「日本の技術の獲得のために、初任給を高く設定している」と非難しています。ただし8月にトランプ米大統領が国防権限法にサインし、ファーウェイとZTE(中興通信)の製品の米政府機関での利用を禁止しました。4月に米国市場から締め出される“死刑宣告”を受けていたZTEに続き、ファーウェイも標的となりました。

それも時間の問題でした。すでに、米中経済安全保障調査委員会(USCC)が技術系コンサルのインテロス・ソリューションズに依頼したレポートでは、「米国の安全保障を脅かす中国ICT企業」として、ファーウェイの存在が指摘されていたからです。

このような状況にあるため、企業自体がどのようになるかもわからないので、この初任給の高さは、危険手当という意味もあるかもしれません。

しかし、日本の外から見れば、こんなことがニュースになること自体、「日本の常識が世界基準から遅れている」と言わざるを得ないところがあるかもしれません。

同じアジアでも香港やシンガポールも、それなりの地元の有名大学に出ていれば、初任給で30万以上を超える企業は多く存在します。日本にはおそらく存在しません。

ファーウェイの給与水準が特段高いのわけではありません。これが世界基準なのです。それに対して日本の大卒初任給は20年以上、変わっていません。ただし、今後は変わってく可能性はあります。ただし、多くの人々の頭の中ではそうはなっていないようです。

もうすでに現状人件費の安い日本人労働者が、とんでもない外国のブラック企業に買い叩かれる時代になっていたのです。

人件費だけではありません。日本の不動産も格安なので、香港や中国では、毎日のように日本の不動産に関するセミナーが開催され人気を集めています。

時々海外にでかけると、いくつかの日本の物価は、香港やシンガポール、上海、北京、ソウルに比べると安いと感じることが良くあります。

ついこの間まで、自分たちより下だと思っていた国に、企業も人材も土地も買われている日本なのです。しかも不幸なのことに、多くの日本人にはそのような認識がまったくないようです。未だにアジアの王様気分でいる日本。

最近変化の兆しは見えつつありますが、未だに多くの人が低賃金、長時間残業を「やりがい」や「精神論」で乗り切ろうとしています。今のままだと、優秀な若い日本人の人材が出稼ぎのごとく、給与の高い海外に流れるのは目に見えています。ただし、日本では安倍政権になってから、金融緩和に転じたので、雇用状況が格段に良くなり、雇用自体はかなり良くなりました。

最近は賃金もあがりつつありますが、まだ本格的ではありません。現状の金融緩和が続けば、賃金もあがっていくことになると思います。ただし、緩やかなデフレでは、1〜2年では数%に過ぎず、20年〜30年で倍になるという感じです。現在の日本人はこの感覚をほとんど忘れています。

何しろ、過去20年もデフレが続いたせいで、現在40歳未満の人はデフレの時代しか知らないし、60歳以上の人はインフレの時代に育ち、自分たちの将来が大体決まる頃もデフレではなかったので、デフレ時代の本当酷さを認識している人は少ないです。

長期間インフレが続き、それが人々の心にどのような影響をもたらすのかを知っているというか、本当に理解している人はさらに少ないです。デフレ状態にあるよりも、こちらのほうがよほど、ハッピーであることを理解する人は本当に少ないです。

そうです、日本では諸外国に比較すると、相対的に緩やかなインフレの時代を知っている人口は少ないのです。



長期にわたって、デフレだった日本は、今や世界的にみて物価の安い国になってしまっていたのです。気づいていないのは本当に日本人だけかもしれません。

それは、特に最近ひしひしと感じています。最近では、消費税増税の悪影響もある中で、日銀が物価目標をなかなか達成できないなどとしながらも、金融緩和策は続けているので、値上げ圧力があるのは間違いないです。

こうした中で、中小企業の閉鎖が目立ってきているのです。今朝は、テレビでマグロ専門店が、仕入れ価格が高くなったので、それを販売価格に転嫁できずに、閉店するという報道がされていました。

これはどうしたことでしょうか。日本だけが、物価が安い国というとを知っていたとしたら、このマグロ専門店の店主も考えを変えたかもしれません。マグロ専門店の店主がこれを知っていれば、値上げして様子をみるくらいのことはしたかもしれません。しかし、あまりに長い間デフレに順応してしまったため、そのような柔軟な考えになれないのです。

今の若い人たちにはできれば、今すぐにでも海外に出て欲しいです。これは、日本の将来が危ういというからではありません。

「世界から日本はどう見られてるのか?」「今の日本の立ち位置は?」「世界のスタンダードは?」そうして、長期のデフレが他国と比較して、どのように日本に悪影響を及ぼしたのか。

そういったものを肌で感じて、学んで、そしてそれを日本に還元しなければ、この国に未来はないかもしれません。

こうした肌感覚は、日本国内にいるだけでは絶対に学べないところがあります。ただし、日本の金融政策と、外国の金融緩和政策の違いについて、頭にいれておかないと、ただ海外に闇雲に出かけて物価を比較したところで、本質は何見えこないと思います。

逆に、海外に出る時間的、金銭的に余裕のない人も、頭を働かせて、日本と他国の金融政策の違いを頭に入れた上で、できれば英文でインターネットの記事を読んで、世界の状況をみれば、日本だけが特異であることがよくわかります。

なお、最近はGoogle翻訳が、格段に良くなったので、Googleで日本語に翻訳すると、かなり良い翻訳になっているので、読みやすいです。とはいっても、やはり英語がある程度わかっていないと、翻訳を通じても良くわからないこともあります。やはり、英語はある程度理解すべきです。そうして、世界ではそれが常識です。

官僚の誤謬と政治家の頭の悪さで、結局20年もデフレを放置しておいた国など、古今東西日本しかありません。

世界から謙虚に学べば、また日本は世界で戦える国になると思います。「井の中の蛙」にはなるべきではありません。世界から学ぶべきです。

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2018年10月31日水曜日

TPP12月30日発効 世界GDPの13%経済圏誕生へ―【私の論評】最終的にはTPPのルールを世界のルールに(゚д゚)!


TPPの年内発効が決まり、記者会見する茂木敏充経済再生担当相=
31日午前、東京外千代田区の中央合同庁舎第8号館

茂木敏充(としみつ)経済再生担当相は31日、東京都内で記者会見し、米国を除く11カ国による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP11)について、日本時間の12月30日午前0時に発効すると発表した。域内の工業製品や農産品の関税は段階的に引き下げられ、投資や知的財産権保護など幅広い分野で高水準のルールを定めた。世界の国内総生産(GDP)の約13%を占め、総人口で約5億人を抱える巨大な自由貿易圏が誕生する。

 茂木氏は会見で「保護主義が強まる中、自由で公正な21世紀型のルールが確立するという強いメッセージの発信になる」と、発効の意義を強調した。

 また、茂木氏は新規加盟を希望する国の手続きなど今後の運営の詳細を協議する閣僚級の「TPP委員会」を来年1月にも日本で開催する方針も明らかにした。参加国の拡大により、保護主義の対抗軸となる経済圏づくりを目指す。



 日本は自動車など工業製品の輸出で追い風となるが、牛肉など安い農産品の流入で国内農業は打撃を受ける可能性もある。

 昨年1月にTPPから離脱した米国の製品は域内で関税引き下げの恩恵を受けられず、不利になる。日本は米国との関税交渉を来年1月中旬以降に開始する見通しで、引き続き米国にTPP復帰を促す考えだ。

 TPP11は6カ国以上の国内手続きが終了してから60日後に発効する。6カ国目となるオーストラリアが手続きを完了したため、年内に発効することになった。

 参加国で手続きを終えたのはオーストラリアのほか、メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダの6カ国。ベトナムも11月半ばに手続きを終える見通しで、残るブルネイ、チリ、ペルー、マレーシアも手続きを進める。

【私の論評】最終的にはTPPのルールを世界のルールに(゚д゚)!

オバマ前政権が推進してきたTPPには、「中国包囲網」という裏の目的がありました。

中国は、日本、韓国、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の締結を主導して進めています。RCEPは「中国版TPP」ともいえる通商協定です。日本政府がTPP協定に固執し続けたのも、RCEPがアジアの通商ルールとして定着することを阻止するためでした。


TPPには、「国有企業の優遇禁止」や「知的財産の保護」などのルールが盛り込まれていますが、これはこのルールを守っていない中国を念頭に置いています。つまり今のままでは中国はTPPに参加できないため、こうしたルールを守るよう、中国に暗に迫っていたということです。

ところが、アメリカがTPPを離脱したことで、「中国包囲網」としてのTPPの有効性は、かなり毀損されました。

トランプ大統領が「TPPは正しい考え方ではなく、我々は貿易でTPP以上の成果を得られる」とTPPを否定する理由は、関税自主権を行使して、中国などとの貿易不均衡を是正したいからです。昨年のアメリカの対中貿易赤字は3470億ドル(約40兆円)。これを関税などによって解消しようというのが、米国の対中貿易戦争です。

「弱いアメリカ」がTPP参加国とともに中国経済に対抗する方針から、「強いアメリカ」として二国間交渉で中国に臨む方針に変わったということのようです。そうして、米国は実際に対中国貿易戦争を開始しました。これは、もうトランプ政権による貿易戦争の次元から、超党派の米国議会による経済冷戦の次元にまで高まっています。

1月23日、トランプ米大統領は選挙公約通り、TPPからの正式離脱に関する大統領令に署名した

おそらく、中国の体制が変わるまで、かなり長い間、米国は対中国制裁をやめないどころか、あらゆる手段を講じて、中国を追い詰めるでしょう。

中国は、アメリカを抜いて世界の覇権を握ることを目指していますが、まだ米国と全面対決できるほどの力はありません。

米国が問題視している国際貿易機関(WTO)で規定されていない、知的財産権や技術移転要求については、日本は米国に協調できます。その手段として考えられるのがTPPの活用です。米国が中国に対して懸念していることのすべてはTPP協定でカバーしています。

タイ、インドネシア、台湾、英国、コロンビアなどを加入させてTPPが拡大し、また米国がTPPに復帰するなら、TPPは巨大な自由貿易圏を形成することになります。そうなると、中国もTPPに参加せざるを得なくなります。その時、中国に知的財産権や投資についての高度な規定を課すことができます。努力すべきはTPP参加国の拡大です。

ただし、中国はTPPに加入するということになれば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化という構造改革を実施しなければなりません。これを実行しなければ、TPPには加入できません。

この構造改革を実施することになれば、中国共産党は、統治の正当性を失うことになるでしょう。それは中共の崩壊を意味します。

最悪、米国や中国がTPPに参加しない場合でも、1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOに採用するように働き掛けることができます。これには、EUも賛成するでしょう。

TPPのルールを世界のルールにするのです。単なる先進国だけの提案ではなく、アジア太平洋地域の途上国も合意したTPPの協定をWTOに持ち込むことには中国も反対できないでしょう。

この段階まで来ると、中国は中共を解体してもTPP協定を含むWTOに入るか、中共を解体せず新WTOにも入らず、内にこもることになります。内にこもった場合は、中国が待つ将来は、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。その時には他国に対する影響力はほとんどなくなっているでしょう。

いずれにせよ、TPPは加盟国だけではなく世界にとって、有用な協定になる可能性が高まってきたのは事実です。
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2018年10月30日火曜日

原告勝訴で前代未聞の判断 「解決済み」請求権問題蒸し返す【私の論評】韓国が慰安婦・徴用工問題を蒸し返し続けるなら、国交断絶で良い(゚д゚)!

原告勝訴で前代未聞の判断 「解決済み」請求権問題蒸し返す

30日、判決が言い渡される前に韓国最高裁前で集会を開く原告側の支援者ら

 韓国人の元徴用工が新日鉄住金を相手取った訴訟で、韓国最高裁は原告勝訴とし、1965年の日韓請求権協定で「解決済み」である請求権問題を蒸し返した。同協定に基づけば、個人が訴えを起こそうが、請求権は法的には救済されないもので、前代未聞の判断だ。

 労働動員者(徴用工)への補償問題は、日韓国交正常化交渉での主要議題だった。日本側は根拠のある請求権を持つ個人への直接支払いを提案。しかし、韓国側が個人を含むすべての請求権に関わる資金を韓国政府に一括し支払うことを要求。日本側がこれを受け入れ、請求権協定に従い最終的に、無償の3億ドルは韓国政府に支払われた。

 韓国政府も当時、「我々が日本国に要求する請求権に国際法を適用してみれば、領土の分離分割に伴う財政上及び民事上の請求権解決の問題なのだ」(1965年の韓日会談白書)と明言している。民事上の請求は請求権協定で解決したことを韓国側も認めたわけで、韓国は日本政府による個人への補償を拒み、韓国政府が義務を負うことを選んだ。

 それから40年の2005年。盧武鉉(ノムヒョン)大統領(当時)は日韓国交正常化に至る外交文書を公開し、当時の確約を再確認しつつも、日本の「謝罪と賠償」の必要性を訴えた。12年5月、上告審で最高裁は戦時の徴用だけでなく「植民地支配(日本の統治)」の不法性にまで解釈を拡大し「損害賠償請求権が請求権協定で解決されたとみるのは難しい」とし、高裁に差し戻した。

 ただ、韓国政府は「日本は何も償っていない」という協定を無視した世論にも関わらず、国家間の合意上、「請求権問題は解決済み」との立場は守ってきた。だが、ここに来て国際条約(請求権協定)をほごにする司法判断が出た。

 最高裁判決を前に韓国では、朴槿恵(パククネ)前政権の意向をくみ、元徴用工訴訟の判決を先延ばししたとして、最高裁所属機関の幹部が逮捕され、今回の原告勝訴の可能性がさらに高まった。

 慰安婦問題同様、韓国で徴用工問題は国民感情や日本への不満を基に叫ばれている。「日本との歴史問題をめぐる国民感情を重視した判決」と韓国国内の事情を問題視されても仕方がない。韓国最高裁の判決は、国民情緒を理由に国際常識をひっくり返し、法の枠組みを壊そうとする国際常識への挑戦でもある。

【私の論評】韓国が慰安婦・徴用工問題を蒸し返し続けるなら、国交断絶で良い(゚д゚)!

韓国外務省報道官は30日の会見で「今回の判決が韓日関係に否定的な影響を及ぼさぬよう両国の知恵を集める必要性を日本側に伝えている」と指摘。韓国政府の立場について「判決を機にさまざまな検討がなされる予定だ」と述べました。

文大統領は歴史認識と経済を切り離す日本との“ツー・トラック外交”を掲げています。また、小渕恵三首相と金大中大統領(いずれも当時)が発表した「日韓パートナーシップ宣言」から20周年の今年を機に、未来志向の日韓関係を志向しています。

韓国は今後、日本に何らかの歩み寄りをするかもしれないです。しかし、国家間合意を平然と覆す国の主張は、日本にはこれ以上通じないです。未来志向どころか慰安婦問題同様、韓国は徴用工問題での誤解も国際的に拡散することでしょう。

今後、日本企業を相手取った他の訴訟でも同様の判決が相次ぐ恐れがあり、企業側の韓国内の資産が差し押さえられる事態も想定されます。日本からの投資は萎縮することになるでしょう。

元来、政権が変わったら前政権が行った政策は覆しても構わない、という発想が韓国政治の特徴である。ところが国際社会では、前政権の外交上の約束事は次の政権も引き継がなくてはいけないのが鉄則です。

日本も民主党政権時の政策の尻拭いを現政権がしています。米国ではトランプ政権がオバマ政権の尻拭いをしています。それが国際社会における当然の姿勢です。つまり1965年の日韓請求権協定の破棄は外交的にはありえない、恥ずべき行為の極みです。そのことを韓国は知るべきです。

この問題について、安倍晋三首相は本日の衆院本会議で日本維新の会の馬場伸幸幹事長の質問に答えて、「1965年の日韓請求権協定で、完全かつ最終的に解決しており、この判決は国際法に照らしてありえない判断」と述べました。そのうえで「日本政府として毅然として対応する」と語りました。

本日国会で「毅然として対応すると」語った安倍総理

河野外務大臣は「極めて遺憾で、断じて受け入れられない」としたうえで、「国際裁判も含め、あらゆる選択肢を視野に入れ、毅然(きぜん)とした対応を講ずる」とした談話を発表しました。

この中で河野外務大臣は、今回の判決について「日韓請求権協定に明らかに反し、日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであるばかりか、1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものであって、極めて遺憾であり、断じて受け入れることはできない」と強く批判しています。

そして「韓国が直ちに国際法違反の状態を是正することを含め、適切な措置を講ずることを強く求める。直ちに適切な措置が講じられない場合には、日本として、日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも、国際裁判も含め、あらゆる選択肢を視野に入れ、毅然ととした対応を講ずる」としています。

また外務省は、この問題に万全の体制で臨むため、30日付けで、アジア大洋州局に「日韓請求権関連問題対策室」を設置しました。


このまま韓国が、この問題を蒸し返し続ければ、最終的には国交断絶ということになるかもしれません。しかし、そうなっても困るのは韓国であって、日本はまったく国益を損なうことはありません。

そもそも昨年1月9日、韓国・釜山(プサン)の日本総領事館前に慰安婦像が設置されたことへの対抗措置の一環として、長嶺駐韓大使らが日本にしばくら帰国していましたが、政治的に何の支障も生じていませんでした。

経済的には、支障どころか日本には大きな利益があります。例えば、日本が資本財の輸出を制限するだけで、韓国経済は壊滅的な打撃を受けます。

電機業界をはじめ、日本メーカーと韓国メーカーは熾烈な競合関係にありながら、韓国は日本から半導体の原材料や生産設備などの資本財を大量に輸入して製品(消費財)を生産し、世界のマーケットシェアを日本メーカーから奪ってきました。

そこで日本が韓国への資本財の輸出を制限すれば、サムスンやLGをはじめとする韓国メーカーは生産が滞り、窮地に立たされるのは火を見るより明らかです。その反面、日本メーカーが世界市場を奪回することが可能となります。

資本財の輸出制限は本来、世界貿易機関(WTO)協定違反です。ところが、断交という安全保障上の理由であれば可能です。韓国の貿易依存度は40%超(日本の約3倍)です。牽引するサムスンやLGが国際競争力を失えば、韓国全体が大打撃を受けるのは当然です。

そうして、現在はご存知のように米中は貿易戦争を実施しており、これははなから米国が有利であり、中国は苦戦しています。

韓国の主な取引先は中国、米国、日本です。中国への依存度は26%と非常に高いです。そう簡単に縁を切れるような数字ではありません。

中国シフトを継続すれば、間違いなく米国から干されることになります。ところが、韓国にとって米国は安全保障上で欠かせない国です。

近いうちに韓国は米中から「踏み絵」を踏まされることになる。いつもの蝙蝠外交がどこまで通じるかはわからないですが、苦渋の決断を迫られることでしょう。しかし、米中のどちらを取るにしても、韓国経済にとっては良いことはありません。
米中対立は韓国にとっては災いでしかありません。中国経済が失速すれば韓国市場も投げ売りされます。実際 韓国の株価指数が10月に入って世界主要指数のうち最も大きく下落したことが分かっています。韓国経済と株式市場の魅力が落ち、外国人の韓国市場離れ、すなわち「コリアパッシング」現象が発生したからだと指摘されています。 韓国では、米国・中国株式市場が少しでも下がれば急落し、これら株式市場が反騰してもそれほど上昇しません。

さらに、徴用工問題は、今後日韓通貨スワップの再開の最大の障害となる可能性があります。

韓国銀行の李柱烈(イ・ジュヨル)総裁は22日、「まだ条件がそろっていない」としつつも「日本との通貨スワップ協定はいくらでも再開の可能性がある」と述べていました。

韓国銀行の李柱烈(イ・ジュヨル)総裁

しかし、安倍政権が続く限りは日韓通貨スワップ再開の可能性は限りなくゼロに近いと思います。いや、むしろ、「日本が日韓通貨スワップ協定を再開するための障壁」があまりにも多すぎ、パッと思いつく限りでも、10個や20個は列挙できる程です。以下に列挙してみます。
  • 2015年12月の「日韓慰安婦合意」を誠実に履行しようとしないこと。
  • 2016年12月に釜山の総領事館前に新たな慰安婦像設置を許したこと。
  • 慰安婦問題を蒸し返そうとしていること。
  • 韓国が国を挙げて、全世界で慰安婦像の設置を強行していること。
  • 高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の運用を妨げていること。
  • 竹島を不法占拠していること。
  • 北朝鮮に対する「最大限の圧力」という国際的な協調を乱したこと。
  • 仏像を日本から盗み出して返そうとしないこと。
  • 「徴用工問題」というありもしない問題を捏造して日本を糾弾していること。
  • 日本海という呼称を「東海」という名称に勝手に書き換えようとしていること。
  • 旭日旗を「戦犯旗」などと呼んで侮辱していること。
ここにきて、今回の判決です。これでどうして日本が日韓通貨スワップに応じることができるというのでしょうか。

この通貨スワップは、通貨危機(為替レートの暴落)に陥った緊急時に通貨を融通し合う協定ですが、韓国経済の破綻より先に日本が韓国ウォンとの両替を必要とするような日は絶対に訪れないでしょう。しかし、国交断絶すれば、韓国側に一方的に利がある協定に日本は付き合わなくて済みます。

このブログでも掲載してきたように、韓国国内では若年層(15~24歳)の失業率が2ケタを超えるまでに悪化するなど、若者の就職難が続いています。最近日本では留学生と称した労働者の流入が増加し、日本人の雇用を脅かしています。断交となれば、韓国からのそれら移民まがいの労働者の流入もカットできる。日本にとってはまさにいいことずくめです。

韓国が、いつまでたっても、慰安婦問題、徴用工問題を蒸し返し続けるなら、日本は国交断絶をすれば、それで良いのです。これによって、日本は沈みゆく泥舟による被害を最小限にとどめることがてきます。

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2018年10月29日月曜日

メルケル独首相、与党党首再選を断念 首相は継続…後継選び議論加速―【私の論評】「ぶったるみドイツ」の原因をつくったメルケルの敗退は当然(゚д゚)!


ドイツのメルケル首相=29日、ベルリン

ドイツのメルケル首相は29日、自身が率いる保守系政党、キリスト教民主同盟(CDU)の党首再選を断念する意向を固めた。首相職は続ける考え。独メディアが一斉に報じた。2005年以降、首相として13年間にわたってドイツのかじを取り、欧州政治に大きな影響を与えてきたメルケル氏の後継者選びをめぐる議論が加速する。

 CDUは12月上旬に党大会を開き、2年に1度の党首選挙を行う予定で、メルケル氏の態度が注目されていた。DPA通信などによると、メルケル氏は29日の党内の会合で党首選には出馬せず、後継に道を譲る用意があると伝えた。

 メルケル氏は00年以降、18年間、党首を務めてきた。首相任期は21年秋まで。独メディアはこれまで今期が最後になるとの見方を伝えてきた。

 ドイツでは28日、西部ヘッセン州の州議会選挙が行われ、CDUは第1党の座を維持したが、得票率は27%で13年の前回選挙から約11ポイント減り、過去約半世紀で最低水準に低迷した。メルケル氏はこれを受け、党首選不出馬の決断を下したもようだ。

 4期目のメルケル氏は昨秋の総選挙後、半年間の難交渉の末に中道左派の社会民主党との連立政権樹立にこぎつけたが、政権内は移民・難民政策などをめぐる内輪もめが絶えず、今月14日の南部バイエルン州の州議会選でも連立与党2党が大敗。メルケル氏の求心力低下が鮮明になっていた。

【私の論評】「ぶったるみドイツ」の原因をつくったメルケルの敗退は当然(゚д゚)!

このブログでは最近ドイツのことはを「ぶったるみドイツ」として批判してきました。その記事のリンクを掲載します。
なぜ日本は米国から国防費増額を強要されないのか F-35を買わないドイツと、気前よく買う日本の違い―【私の論評】国防を蔑ろにする「ぶったるみドイツ」に活を入れているトランプ大統領(゚д゚)!
中国は入れない日欧EPA 中国に“取り込まれる”ドイツを牽制した安倍外交 ―【私の論評】「ぶったるみドイツ」に二連発パンチを喰らわした日米(゚д゚)!
中国との対決に備え、米国が空軍も大増強へ―【私の論評】「ぶったるみドイツ」ほど酷くはないが日本の防衛予算にも問題あり(゚д゚)!

詳細は、これらの記事をご覧いただくものとして、ドイツの緊縮ぶり等に触れている部分をこれらの記事から引用します。
ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に“深刻な問題”が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっています。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも。原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したが、その有効性は疑問視されるばかりです。 
ドイツは“緊縮予算”を続けており、その煽りを受けてドイツの防衛費不足は切迫しています。空軍だけではなくドイツ陸軍においても244輌あるレオパルト2戦車のうち、戦闘行動可能なのは95輌などといった実態も報告されています。 
こうした状況に追い込まれた原因の一つとして、ドイツを含む欧州連合(EU)には、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする「マーストリヒト基準」があり、財政健全化を重視しすぎるとの声が経済専門家の間にはあります。
ドイツの主力戦車「レオパルド2」
昨年10月15日、ドイツ潜水艦U-35がノルウェー沖で潜航しようとしたところ、x字形の潜航舵が岩礁とぶつかり、損傷が甚大で単独帰港できなくなったのです。 
ドイツ国防軍広報官ヨハネス・ドゥムレセ大佐 Capt. Johannes Dumrese はドイツ国内誌でU-35事故で異例の結果が生まれたと語っています。
ドイツ海軍の通常動力型潜水艦212型。ドイツが設計 建造しドイツの優れた造艦技術と
最先端科学の集大成であり、世界で初めて燃料電池を採用したAIP搭載潜水艦である。
紙の上ではドイツ海軍に高性能大気非依存型推進式212A型潜水艦6隻が在籍し、各艦は二週間以上超静粛潜航を継続できることになっています。ところがドイツ海軍には、この事故で作戦投入可能な潜水艦が一隻もなくなってしまったというのです。 
Uボートの大量投入による潜水艦作戦を初めて実用化したのがドイツ海軍で、連合国を二回の大戦で苦しめました。今日のUボート部隊はバルト海の防衛任務が主で規模的にもに小さいです。 
212A型は水素燃料電池で二週間潜航でき、ディーゼル艦の数日間から飛躍的に伸びました。理論上はドイツ潜水艦はステルス短距離制海任務や情報収集に最適な装備で、コストは米原子力潜水艦の四分の一程度です。 
ただし、同型初号艦U-31は2014年から稼働不能のままで修理は2017年12月に完了予定ですかが再配備に公試数か月が必要だとされています。
そうして、このような緊縮をしているドイツが、中国と自由貿易を促進しようと企てていました。
ドイツのメルケル首相と同国を訪問した中国の李克強首相が9日(7月)、会談を開き、200億ユーロ(235億1000万ドル)規模の取引で合意しました。両首脳は米国との貿易戦争が本格化する中、多国間の貿易秩序に関与していく姿勢を強調しました。 
これは、11日のブリュッセルでのNATO首脳会談の直前のことです。米国が、対中国貿易戦争をはじめたばかりのこの時期に、ドイツがこのようなことをしたわけですから、トランプ大統領としては、ドイツに対して恨み節の一つも言いたくなるのは、当然といえば当然です。 
メルケルと李克強

現在のドイツ軍は創設以来最悪の状況なのではないかと思います。 そうして、EUでも中国に対する警戒心が高まっている最中にこの有様です。

そのEUが現在おかれている課題を簡単に以下にまとめておきます。
ユーロ圏は全体として、少なくとも趨勢的停滞の初期の段階にあります。ユーロ圏の現状のインフレ率は、低すぎでありECB目標の半分しかなく、これに対処するには財政刺激策が必要です。 
欧州内での相対的な物価・賃金が適正ではありません。以下に2015年 EU諸国の手取り平均月収の表をあげておきます。
平均賃金表
2015年 EU諸国の手取り平均月収(米ドル、ユーロ)

南欧ではさらに引き下げが必要ですが、そうするよりは、ドイツが好景気になりインフレが高進する方が実現しやすいでしょう。そうして、銀行システムは公的資金注入が必要です。
こうした欧州の状況に、ドイツの緊縮はどう作用するのでしょうか。これも下に簡単にまとめておきます。

ドイツの緊縮が欧州全体の需要を弱め、低金利にもかかわらず、他国にも緊縮を押し付けてしまうことになっています。ドイツが好景気・高インフレになれば、それが南欧での高インフレにもなるのですが、ドイツが緊縮してしまうので、それも起こらないのです。ドイツが銀行救済でベイル・インを求めており、問題が長期化しかねない状況です。
このような状況です。ドイツの緊縮は国内では、安全保障に大きなしわ寄せをもたらすだけではなく、他国にも悪影響を及ぼしているのです。

ドイツの緊縮は異常です。他国とはまるで違った世界にでも住んでいるようです。この状況を改善するには、メルケルが首相のままでは駄目だという声が大きくなり、与党CDUは最近の選挙で過去約半世紀で最低水準に低迷したのでしょう。

この他にも、メルケルには移民問題での不手際もありましたが、やはり緊縮財政に対する批判が最も大きく根の深いものでした。

この「ぶったるみドイツ」問題は、日本とも無縁ではありません。なぜなら、来年の10月から日本が予定通り10%増税をしてしまえば、ドイツと同じように緊縮財政に大きく一歩踏み出すことになるからです。

緊縮財政とは、政府支出の削減や増税といった手段で政府の財政を均衡させる試みのことです。

緊縮財政においては公的支出が縮小され、具体的には公務員の人員削減や給与カット、インフラストラクチャー投資への予算削減などが行われます。消費税などの間接税や法人税も増税される可能性があります。富裕層に対する富裕税も検討されます。

研究や教育への政府支出の削減の結果として、研究プロジェクトの規模縮小や学費の値上げが起こる可能性もありますが、教育費には配慮して値上げされない場合もあります。

実体経済に与える影響が大きいため、不況下ではなく緊縮財政の施行は世論の反発を受けるでしょうが好景気下でするのが理想です。しかし数年後の経済成長率を悪化させ逆効果となる可能性もあります。

緊縮財政政策の推進者らは政府の負債を家計のクレジットカードの請求書に喩えたがります。彼らの意図は、政府の財政拡張が利払いの増加を促すために国が破綻するのだとするシナリオを人々に植えつけることです。

 政府財政を家計と混同して議論することは無意味です。なぜなら政府は徴税だけでなく、債券の発行、紙幣増刷、さらには経済成長(による増収)によって資金調達できるからです。政府が借金を拡大させて投資をすれば、経済成長が起こりGDPが拡大して公的債務対GDPは減少します。

自国通貨建ての債務で政府が債務不履行になることはありえないです。例えばFRBの議長を務めたアラン・グリーンスパンも述べるように米国政府は通貨発行権限を有し、債務不履行に陥る確率はゼロです。セントルイス連邦準備銀行も同様のことに言及しています。

来年10月から、本当に日本もさらに緊縮財政にのめり込めば、安倍総理にもメルケル首相と同じ運命が待ち受けることになるかもしれません。

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2018年10月28日日曜日

安倍首相 インド首相を別荘招待で関係強化へ―【私の論評】今回の会談は自国の都合だけで動く中国に勘違いさせないという意義もある(゚д゚)!

安倍首相 インド首相を別荘招待で関係強化へ



安倍総理大臣は、28日、日本を訪れているインドのモディ首相を、外国の要人としては初めて山梨県にあるみずからの別荘に招き、夕食をともにしたうえで、29日には、東京で首脳会談に臨み、安全保障や経済分野での関係強化を確認することにしています。

インドのモディ首相は、27日夜、特別機で羽田空港に到着し29日までの日程で日本に滞在する予定で、28日は、富士山が見える山梨県のホテルで、安倍総理大臣と非公式の昼食会を行うことにしています。

そして、産業用ロボットメーカーの工場を視察したあと、山梨県鳴沢村にある安倍総理大臣の別荘で、夕食をともにします。安倍総理大臣がみずからの別荘に、外国の要人を招くのは初めてで、個人的な信頼関係をさらに深めるとともに、高い経済成長を続けるインドを重視する姿勢をアピールしたい考えです。

両首脳は、29日、12回目となる首脳会談に臨み、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた安全保障分野での協力や、日本企業の進出の促進など、政治、経済両面で連携を強化していくことで合意する見通しです。

さらに、RCEP=東アジア地域包括的経済連携を年内に実質的な合意へと導くため、国内の産業界を中心に慎重な意見が出ているインドからも協力を取り付けたい考えです。

インド側の狙いは

経済発展の加速を政権の最優先事項に掲げるモディ首相は日本をパートナーとして重視する姿勢を示し、日本企業の積極的な投資を呼びかけてきました。今回の安倍総理大臣との首脳会談でもインフラの整備や製造業の育成、それにAI=人工知能の技術を使った開発を進めるために日本側の協力を求めるものとみられます。

また、モディ政権はミャンマーと国境を接する北東部をインドと東南アジアを結ぶ戦略的に重要な地域と位置づけて開発を進めています。この地域のインフラ整備などにおいても日本からのさらなる支援を取り付けたい考えです。

インド西部のムンバイとアーメダバードを結ぶ新しい高速鉄道は日本の新幹線技術を導入する予定で2023年の操業開始に向けて今後の具体的な計画を話し合う見込みです。

首脳会談では安全保障も重要なテーマになる見通しです。インド洋とその沿岸地域では中国が巨大経済圏構想「一帯一路」を推進するため港湾や道路などのインフラ整備を進めているほか、海軍の艦船を展開させて急速に影響力を強めていてインドはこうした動きを警戒しています。

インドはインド洋で日本・アメリカと3か国合同の軍事演習を定期的に行っているほか11月には陸上自衛隊と初めての合同訓練を行うなど日米との連携を深めています。中国の海洋進出の動きを念頭に、安全保障の分野でも日本との関係を強化したい考えです。

【私の論評】今回の会談は自国の都合だけで動く中国に勘違いさせないという意義もある(゚д゚)!


インドのモディ首相が2014年の就任以来、安倍晋三首相と毎年、互いの国を訪問し合うシャトル外交を続けています。これは、南アジアへの浸透を図る中国を念頭に、日本との関係を強化するのが狙いです。

インドは今年に入り、中国とも関係改善を進めていますが、一方で自国周辺に影響力を及ぼしている中国への警戒は緩めていません。

モディ氏は今年4月、中国・武漢で中国の習近平国家主席と会談。昨年、2カ月以上にわたり係争地ドクラム(中国名・洞朗)高地で中印両軍がにらみ合った局面からの関係改善で一致しました。6月には中国主導の国際金融機関アジアインフラ投資銀行(AIIB)から融資を引き出しました。

一方、中国がインド周辺に海洋拠点を築く「真珠の首飾り」戦略に対し、インドは警戒感を隠していません。外務省高官は「中国との関係改善は地域の安定に資する。ただ、中国には(周辺国との)調和が必要だ」と指摘しました。

日印両国は、米国、オーストラリアと共に、中国の海洋進出をけん制する「自由で開かれたインド太平洋」戦略を共有するパートナーです。インド外務省当局者によると、インドの隣国スリランカでは、日印が協力して液化天然ガス施設整備を進めており、今回の日印首脳会談でも同様の協調支援推進について協議する見通しだ。

ただ、スリランカでは26日、親インドのウィクラマシンハ首相が解任され、親中国のラジャパクサ前大統領が首相に就任、政権が親中路線に進む可能性が指摘されています。中国の進出へのインドの懸念が消えない中で「5年間の蓄積」(外務省高官)がある日本との関係強化は欠かせません。

スリランカのジャパクサ新首相

安倍総理は先日中国訪問し、首脳会談を行ったばかりです。これに関しては、保守派の人々の中にも、「安倍首相の訪中は中国に良いこと尽くしの展開となった。中国を助ける通貨交換協定は再開され、「第三国市場での協力」の名目で日本は事実上一帯一路に参加。おまけに、安倍首相自身は習近平との会談では一帯一路を評価する発言をした。そこまで中国に迎合して関係改善する必要性は日本にあるのか??」(石平氏ツイート)等の批判があります。

しかし、これは早計な判断だと思います。そもそも、日中首脳会談を実施した直後に日印首脳会談を実施するということにもそれなりに安倍総理の意図があったと思います。

どの国のどのリーダーにも固有の立場と、思惑があります。中国と対立しているモディ首相も上で述べたように、今年の4 月に習近平と会談しています。敵対する国の首脳と会談をするのは、相手の腹を探るという意味合いがあります。安倍総理も今回の会談では、無論習近平の腹を探ったに違いありません。

私としては、今回の安倍総理の訪中は、自民党の大物議員であり親中派でもある二階氏を配慮したものと思います。何しろ、二階氏は自民党総裁選で、安倍総理に味方し大きな力となっています。

二階氏(左)と習近平(右)

今回の訪中には、当然のことながら二階氏の尽力があったからこそ実現したものでしょう。これに応えなければ、人の道に反します。さらには、今後の政権運営に支障をきたす可能性もあります。

ただし、安倍総理は日中首脳会談後の記者会見では、一帯一路とは一言も言わずに、新たな第三国インフラ整備で強力すると語っています。しかもこれは、民間企業が自己責任で行うことを意味しています。つまり日本の民間企業が、中国に利するようことをして、米国の制裁対象になったにしても、それは自己責任であり、泣き言を言うなということです。

そうして、安倍総理は中国で事業を展開する日本の民間企業やこれからそうしようとする日本企業に対して何もしないで冷たく突き放しているというわけではありません。

日中通貨スワップ協定により、中国で事業を営む日本企業等で人民元が不足した際に、日銀は円を人民銀行に渡して人民元を受け取り、中国に進出している日系金融機関に人民元を供給できるようにしました。対中投資を増加する企業のため、人民元の流通を確保して日系企業がビジネスをしやすい環境を整えるようにしています。

これだけ、面倒を見るのだから、後は自己責任でやってくれということでしょう。これで、二階氏を含めた親中派の議員に対しては十分に義理を果たしたというわけです。

私としては、現段階で、日中友好でぬか喜びをして、本気で中国でビジネスをしようなんて経営者はどこかいかれているし、それを許容する会社もどこかタガが緩んでいるとしか考えられないです。このような認識しか持てないような企業は、中国との問題は抜きにしても、たとえ現在や過去が有名・優良企業だとしても、将来性はないでしょう。私は、たとえばトヨタなどかなり危ないと思います。あまり中国にのめり込むと、米国の制裁対象になるかもしれません。

さて、安倍総理がこのようなことをしたとしても、元々ビジネスマンのトランプ大統領や自ら中国で中印首脳会談をしたモディ首相にしても、よもや安倍総理が本気で中国と接近するとは考えないでしょうが、それでも、安倍総理はその懸念を完全払拭するためと、それと自国の都合だけで動くことが多い中国に勘違いさせないために、恒例となっているインド首相訪日の日程を意図に今のタイミングにした私は思います。

防衛省は19日、陸上自衛隊とインド陸軍の初めての共同訓練を27日~11月18日に実施すると発表しました。インド東部のミゾラム州で、テロ対策を想定して突入訓練や射撃訓練をします。訓練名は「ダルマ・ガーディアン18」。陸自隊員約30人、インド陸軍からも約30人参加します。今後の定例化も検討しています。この日程も、まるで図ったかのようです。

「陸軍記念日」で更新するインド陸軍

その上で、安倍総理はモディ首相とと具体的に対中対策について話し合い、全世界にアピールしていくのでしょう。安倍総理はこの会談と、その後の行動で対中国囲い込み戦略をさらに鮮明にしていくでしょう。

今回の会談は、日印間でのやりとりも重要なのですが、中国を含む他国に勘違いさせないという大きな意義あるものと思います。

中国という国は、他国の都合などお構いなしに、勝手に自国の都合で動き、過去の歴史まで平気で自分の都合良いように修正する国柄です、安倍総理がたとえ日中会談で「一対一路」という言葉を一切使わなかったにしてもそのまま放置しておけば、「日本は一対一路」に協力するなどといいかねません。さらに、他国にまで「日本は一対一路」に協力するからなどといいふらし、都合の良いように日本を利用する可能性もあります。

安倍総理としては、今回日印会談において、そんなことはあり得ないことを明確にし、さらに対中国囲い込み戦略を鮮明にし、中国に利用されるようなことは完璧に封じるでしょう。

そうして、そのクライマックスは習近平の訪日の時になるでしょう。これには、二階氏がまた尽力することになるでしょう。この前後にもやはり何かがあるでしょう。ひよっとすると、来れないかもしれません。あるいは他の人間がくることになるかもしれません。色々な意味で・・・・・・・・。

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