2018年9月29日土曜日

中国との対決に備え、米国が空軍も大増強へ―【私の論評】「ぶったるみドイツ」ほど酷くはないが日本の防衛予算にも問題あり(゚д゚)!

中国との対決に備え、米国が空軍も大増強へ

10年で戦力を25%増強する「386個飛行隊」建設構想

米国が現在開発中のB-21爆撃機

 ヘザー・ウィルソン米空軍長官は「米空軍は2025年から2030年の間までには戦力を386個飛行隊に拡張しなければならない」と空軍協会の講演で語った。現在米空軍の戦力は312個飛行隊であるから、これから10年前後で空軍戦力を量的に25%ほど増強しようというのである。

 ウィルソン長官によると、このような空軍戦力の強化は、ジェームス・マティス国防長官が提示したアメリカ国防戦略の大転換、すなわち「テロとの戦い」から「大国間角逐」へという大変針に必要不可欠なものであるという。

386個飛行隊構想と海軍の355隻艦隊建設

ヘザー・ウィルソン米空軍長官 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 米空軍が打ち出した386個飛行隊構想は、トランプ政権によって実行に移されている米海軍の355隻艦隊構想を彷彿とさせる。

 米海軍の戦闘艦艇数を355隻に拡大することは、トランプ陣営にとっては選挙公約の1つであった。当初は350隻ということであったが、中国海軍の戦力拡大の目を見張るスピードやロシア海軍再興の兆しなどを考慮すると400隻でも少ないという海軍側からの声なども若干考慮されて355隻艦隊を構築することが法制化された。

 ただし大統領選挙中、そしてトランプ政権が発足してからしばらくの間は、トランプ政権に中国やロシアと軍事的対決姿勢を固めるという意識はなかった。ただ海軍の常識として、場合によっては強力な敵となるかもしれない中国海軍(ならびにロシア海軍)が軍備増強に邁進しているという現実がある以上、アメリカ海軍もできうる限り増強しておかなければならないという論理に拠っていた(もちろん、対中強硬派の人々は、常に中国との対決を想定していたのであるが)。

 それ以上に、トランプ大統領にとって「大海軍再建」は、選挙期間中からのスローガンである「偉大なるアメリカの再興」を目に見える形で内外に示すために格好の事業であった。なぜならば、シーパワーであるアメリカの「強さ」は軍事的には強力な海軍力と空軍力を中心とした海洋戦力によって誇示されることになるし、その海洋戦力に裏付けされた強力な海運力によって経済力の「強さ」の一角も支えられるからである。同時に、大量の軍艦の製造はアメリカ製造業の活性化につながり、まさにトランプ大統領(そして米海軍、裾野の広い軍艦建造関連企業と労働者たち)にとっては355隻海軍建設は最高の政策ということになる。

「テロとの戦い」から「大国間角逐」へ

 ただし、トランプ政権と中国との蜜月は1年と持たず、なかなか改善しない米中貿易摩擦へのトランプ大統領の不満が募るとともに、トランプ政権の国防戦略は大転換を遂げるに至った。すなわち、2017年12月にホワイトハウスが発表した国家安全保障戦略と、それと連動して2018年1月にペンタゴンが公表した国防戦略概要には、アメリカの防衛戦略は「テロとの戦いを制する」から「大国間角逐に打ち勝つ」ための戦略へと変針することとなったのである。

 大国すなわち軍事大国として具体的に名指ししているのは中国とロシアである。とりわけ中国は、アメリカが打ち勝つべき「大国間角逐」にとっての筆頭仮想敵と定義された。

 このようなトランプ政権の軍事戦略大転換は、355隻海軍建設にとどまらない海洋戦力強化の必要性を前面に押し出すこととなった。これまで17年間にわたってアメリカ軍が戦い続けてきた主敵は武装叛乱集団やゲリラ戦士であった。しかし、そのような陸上戦力が主役であった時代は過ぎ去ろうとしているのだ。「大国間角逐」は、とりわけ中国との直接的軍事衝突や戦争は、主として海洋戦力によって戦われることになるからである。
最大に強化されるのは爆撃機部隊

 ウィルソン長官そして空軍参謀総長デイビット・ゴールドフィン大将によると、米空軍にとって現在のところ最も脅威となりつつあるのは、急速に能力を伸展している中国軍航空戦力(空軍・海軍航空隊)である。

 太平洋方面での中国軍との戦いは、航空戦力を持たない中東方面のテロリストとの戦闘とは完全に様相が異なり、米空軍の徹底した戦力の再構築が必要となる。そのため、空軍では戦力見直しと再構築についての検討作業を半年以上にわたって続けてきた。

 このほど公表した386個飛行隊構想はあくまで中間報告であって、来年(2019年)3月頃を目途に、より詳細な戦力強化策を完成させるということである。たしかに、今回の386個飛行隊構想では、単に2025~2030年までに増加させる飛行隊の数が示されただけである。それぞれの組織の具体的内容、たとえば航空機の種類や戦力などは来年3月に提示されるものと思われる。

 ただし、空軍内部で検討されている飛行隊を増加させる草案からも、太平洋方面を主たる戦域として中国と戦うための布石が読み取れる。

 2025~2030年までに、米空軍で最大の規模になるのはC2ISR(指揮・統制・諜報・監視・偵察)部門と戦闘機部門であり、それぞれ62個飛行隊となる。現在、55個飛行隊と最大規模の戦闘機部門は7個飛行隊の増加(13%の増強)となる。一方、現在40個飛行隊であるC2ISR部門は22個飛行隊の増加(55%の増強)ということになる。

 C2ISR部門に次いで飛行隊数の増加が望まれているのが空中給油飛行隊だ。現在40個飛行隊のところ14個飛行隊の増加(35%の増強)が考えられており、輸送機部門とならび54個飛行隊となる。

 飛行隊そのものの数はそれらに比べると少ないものの、増強率が56%と最も高いのが爆撃機部隊だ。現在9個飛行隊のところ14個爆撃飛行隊が目指されている。

 このように、爆撃機部門、C2ISR機部門、空中給油機部門をとりわけ重視しているのは、各種長射程ミサイルと並んで空軍の長距離攻撃戦力こそが中国と戦火を交える際には先鋒戦力となり勝敗の趨勢を握ることになると考えられているからである。なぜならば、中国軍は対艦弾道ミサイルをはじめ多種多様の接近阻止領域拒否態勢を固めている。なんらの接近阻止戦力も保有していないテロリスト集団との戦いにおいては無敵の存在であった空母打撃群を、中国軍が手ぐすねを引いて待ち構えている東シナ海や南シナ海の戦域に先鋒戦力として送り込むわけにはいかないというわけだ。

 ウィルソン空軍長官やゴールドフィン空軍参謀総長が述べているように、いまだ空軍は戦力大増強の基礎となる新戦略も具体的な装備や組織案も打ち出してはいない。だが、ホワイトハウスやペンタゴンが打ち出した「大国間角逐」に打ち勝つため、中国を主たる仮想敵とした空軍戦力大増強策を検討中であることだけは確かなようである。
中国攻撃には不安が伴うB-52爆撃機

焦るアメリカ、我関せずの日本


 米国では財政的観点から「空軍の386個飛行隊建設など夢物語にすぎない」と批判するシンクタンク研究者も少なくない。しかしながら海軍の355隻艦隊建設構想に対してもシンクタンクの研究者たちからは同じような批判が加えられていた。ともかくトランプ政権下では、夢物語かどうかは、蓋を開けてみなければわからない状況だ。

 いずれにせよ、日本の“軍事的保護者”であるアメリカ軍が、中国人民解放軍とりわけその海洋戦力の増強に深刻な脅威を感じて国防戦略そのものを大転換させ、海軍力大増強に踏み切り、空軍力の大増強の検討も進めている。それにもかかわらず、中国海洋戦力と直接最前面で対峙することになる日本では、あいかわらず国防政策最大の課題といえば憲法第9条云々といった状態が続いている。

 今こそ日本を取り巻く軍事的脅威を直視する勇気を持たなければ、気がついたときには“軍事的保護者”が変わっていた、という状況になりかねない。
【私の論評】「ぶったるみドイツ」ほど酷くはないが日本の防衛予算にも問題あり(゚д゚)!

ヘザー・ウィルソン米空軍長官の「米空軍は2025年から2030年の間までには戦力を386個飛行隊に拡張しなければならない」という話はかなり信憑性が高いと思われます。彼女の発言は理想論ではなく、本気でしょう。

なぜなら、この発言は今月7日のことですが、それに呼応するかのように以下の報道がありました。
米、最新鋭戦闘機F35調達費が最安値に
昨年沖縄米軍嘉手納基地に配備されF35A
  米国防総省は28日、最新鋭ステルス戦闘機F35、141機を計115億ドル(約1兆3千億円)で調達することで、製造元のロッキード・マーチンと合意したと発表した。これまでの調達で最安値となり、空軍仕様で航空自衛隊も導入したF35Aは1機当たり約8920万ドル(約101億円)となり、初めて9千万ドルを切った。 
 ロッキードの担当者は28日、2020年までにF35Aの調達費を1機当たり8千万ドルまで値下げする意向を示した。 
 米政府監査院(GAO)は昨年、F35の維持費が60年間で1兆ドル以上になるとの試算を発表。トランプ大統領は調達計画を「制御不能」と批判し、米軍は価格を抑制しなければ、調達機数を減らす必要があるとしてロッキードに値下げを迫っていた。 
 F35Aは前回調達時と比較して5・4%減。海兵隊仕様のF35B、海軍仕様のF35Cも、それぞれ5・7%、11・1%減となった。値下げを受けて日本が調達を拡大する可能性もある。
この記事の元記事では、 「最大に強化されるのは爆撃機部隊」とありますが、記事をよく読めばそれはあくまで率であり、軍事機密でもあるので詳しくは記されていませんが、類推するに、おそらく統合打撃戦闘であるB35が機数や調達金額では最大であると考えられます。

製造機数が多くなれば、一機あたりの製造コストも当然のことながら、下がります。製造元のロッキード・マーチンとしては、製造機数が多くなることを前提として、トランプ政権の要望に応えて、値下げしたのでしょう。

現在米国は中国に貿易戦争をしかけています、さらに南シナ海でもB52爆撃機を飛行させたり、航行の自由作戦を敢行して、中国に対して揺さぶりをかけています。

ということは、トランプ政権としては、貿易戦争は徹底して継続しさらに金融制裁も実行して、実質的な経済冷戦となり、軍事的にも中国に対峙し、抑止力を強化し、さらにこちらからは仕掛けることはないにしても、中国が仕掛けてきた場合には反撃するつもりなのでしょう。以上のことからも、トランプ政権の本気度がうかがわれます。

冒頭の記事では、米国が空軍も大増強することを表明しても日本は、我関せずの日本などと批判していますが、そうでもありません。ただし、今のところはですが・・・・・・

そもそも、日本は元々米国からB35をある程度の機数を購入することを約束していますし、値下げを受けて調達を拡大する可能性はかなり高いです。

軍事的に我関せずになのは、日本よりむしろドイツです。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
なぜ日本は米国から国防費増額を強要されないのか F-35を買わないドイツと、気前よく買う日本の違い―【私の論評】国防を蔑ろにする「ぶったるみドイツ」に活を入れているトランプ大統領(゚д゚)!
メルケルと李克強

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ドイツは緊縮財政で主力戦闘機であるユーロファイターが4機しか稼働しない状態にあり、さらに中国とは貿易を推進しようとしてまいます。

以下にこの記事の結論部分だけを引用します。
いくら中国から地理的に離れているとはいえ、ドイツも含まれる戦後秩序を崩し世界の半分を支配しようとする中国に経済的に接近するとともに、緊縮財政で戦闘機の運用もままならないという、独立国家の根幹の安全保障を蔑ろにするドイツは、まさにぶったるみ状態にあります。ドイツの長い歴史の中でも、これほど国防が蔑ろにされた時期はなかったでしょう。
このような状況のドイツにトランプ大統領は活をいれているのです。ドイツにはこのぶったるみ状態からはやく目覚めてほしいものです。そうでないと、中国に良いように利用されるだけです。 
そうして、ドイツを含めたEUも、保護主義中国に対して結束すべき時であることを強く認識すべきです。
しかも、これはあまりにタイミングが悪すぎます、トランプ政権の米国が中国に対して貿易戦争を開始したときとほぼ同時にメルケルは李克強と会談し、貿易を推進させることを公表しているのです。

この状況はトランプ大統領からみれば、まさにドイツは「ぶったるみ」状態にあると写ったことでしょう。だから先日のNATO総会でも「NATO諸国が国防費の目標最低値として設定しているGDP比2%はアメリカの半分であり、アメリカ並みに4%に引き上げるべきである」とトランプ大統領は主張したのです。

この記事には掲載はしませんでしたが、さらに驚くべきこともあります。昨年10月15日、ドイツ潜水艦U-35がノルウェー沖で潜航しようとしたところ、x字形の潜航舵が岩礁とぶつかり、損傷が甚大で単独帰港できなくなったのです。

ドイツ国防軍広報官ヨハネス・ドゥムレセ大佐 Capt. Johannes Dumrese はドイツ国内誌でU-35事故で異例の結果が生まれたと語っています。

ドイツ海軍の通常動力型潜水艦212型。ドイツが設計 建造しドイツの優れた造艦技術と
最先端科学の集大成であり、世界で初めて燃料電池を採用したAIP搭載潜水艦である。

紙の上ではドイツ海軍に高性能大気非依存型推進式212A型潜水艦6隻が在籍し、各艦は二週間以上超静粛潜航を継続できることになっています。ところがドイツ海軍には、この事故で作戦投入可能な潜水艦が一隻もなくなってしまったというのです。

Uボートの大量投入による潜水艦作戦を初めて実用化したのがドイツ海軍で、連合国を二回の大戦で苦しめました。今日のUボート部隊はバルト海の防衛任務が主で規模的にもに小さいです。

212A型は水素燃料電池で二週間潜航でき、ディーゼル艦の数日間から飛躍的に伸びました。理論上はドイツ潜水艦はステルス短距離制海任務や情報収集に最適な装備で、コストは米原子力潜水艦の四分の一程度です。

ただし、同型初号艦U-31は2014年から稼働不能のままで修理は2017年12月に完了予定ですかが再配備に公試数か月が必要だとされています。

この現況は緊縮財政による、経費節減のためとされていますが、これも酷い話しです。

貿易で中国と接近しようとしつつ、国防力も緊縮財政で最悪の状態にあるドイツはまさに「ぶったるみ」状態です。

日本は、ドイツのように「ぶったるみ」状態にはありませんが、それにしても防衛予算は低すぎです。陸上自衛隊の隊員の訓練度合いは、なんと米軍の軍楽隊並であるとか、自衛隊の官舎などにいけばわかりますが、低予算のために涙ぐましい努力をしています。

それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
【憲法施行70年】安倍晋三首相がビデオメッセージで憲法改正に強い意欲 「9条に自衛隊書き込む」「2020年に新憲法を施行」―【私の論評】憲法典を変えればすべてが変わるというファンタジーは捨てよ(゚д゚)!

 

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみ掲載します。
憲法改正ももちろん大事でしょうが、我々はもっと地道な努力をすべきです。ブログ冒頭の、安倍総理のビデオメッセージは確かに、立派です。しかし、安倍総理が憲法を改正するにしても、その前にできることをしなければ、無意味になってしまいます。

憲法典が改正されたとしても、自衛隊のトイレットペーパーの個人負担や、ファーストエイドキットがまともになったり、射撃訓練がまともにできるようならなければ、何も変わらないのです。

安倍総理には、これらの地道な努力を重ねていった上で、最終的に憲法を改正するという道を歩んでいただきたいです。
防衛予算など、憲法を変えなくてもできると思います。実際、現在でも憲法で軍隊についての定めのあるドイツよりも防衛予算は多いです。

この事実が雄弁に物語っています。憲法に軍隊の定めがあっても、ドイツのように 緊縮財政で主力戦闘機であるユーロファイターが4機しか稼働しない状態になったり、Uボートが無稼働の状態になるのです。

では、防衛費は憲法がどうのこうのというよりも、緊縮財政をする主体、日本でいえば、財務省に問題があるに違いありません。

財務省は、まるで大きな政治集団のように振る舞い、政治にも大きな影響力を及ぼします。その良い例が、消費税増税です。

その財務省が防衛予算も何かといえば削減する傾向があるため、日本の安全保証が危険にさらされています。ただし、安倍政権になってから防衛費は毎年若干ながらも増えています。だからこそ、「ぶったるみドイツ」のようにはならないですんでいるのでしょう。


ただし、日本の安全保証環境は、従来から比較すれば、かなり不安定化し厳しさも増しててきています。このような状況であれば、微増ではまったく話になりません。現在のGDP比1%5兆円ではなく、せめて先進国の軍事費のスタンダードであるGDP比2%程度の10兆円規模がないとお話にもならないのです。

現状の予算であれば、これからF35を新たな購入したり、イージスアショアを購入すれば、この程度の予算増では、様々なところにしわ寄せがいくことになる可能性は否定できません。今のところ、自衛隊員の自助努力で何とかなっていますが、いずれドイツのようになる可能性は否定できません。

憲法が改正されても、安全保障面で「ぶったるみドイツ」のようになって、世界から信用を失い、米国からも信用を失えば、とんでもないことになりかねません。

そのようなことにならないように、安倍政権としては、日本国内の安全保障上の敵である財務省に対峙していただき、消費税の10%増税阻止と、防衛予算のさらなる向上を目指していただきたいです。

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