日本がトランプの仕掛ける貿易戦争や、中国の尖閣諸島攻撃に遭っても国益を失わず上手く対抗できる策はあるのでしょうか。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、主要国の波乱含みの内政について分析するとともに、日本がいかに長期安定統治されている国かを紹介。焦らず周辺諸国と良好関係を構築する戦略をとれば、内政が不安定な国が先に自滅するだろうと論じています。
日本、戦略の要は【時間かせぎ】
今まで100万回書いていますが、日本の敵ナンバーワンは中国です。これ、別に私が、反中だとかそういう理由でいっているのではありません。中国が、アメリカ、ロシア、韓国を巻き込んで「反日統一共同戦線」をつくろうとしているので、そういうのです。完全証拠は、こちら。
ところが日本には、「アメリカが主敵だ!」という意見も多く、その手の本もよく売れています。なぜ、そういう話になるのでしょうか? 日本はアメリカ幕府の天領だからです。そして、「ロシアは、北方領土を返さないから敵だ!」という意見は、とても多い。さらに、「世界中で慰安婦像設置運動をつづけている韓国は敵だ!」という人も多いです。私も、憤りを共有していますし、理解できます。これらの意見は、どれも一理あります。つまり、「日本の敵は、アメリカ、中国、ロシア、韓国だ!」というのです。
しかし、こういう考えは、「まさに中国の思惑どおり」ですね。100万回読んだかもしれませんが、原文を熟読してください。戦略の骨子は、以下のようになっています。
- 中国、ロシア、韓国で【反日統一共同戦線】をつくろう!
- 中ロ韓で、日本の領土要求を断念させよう!
- 日本に断念させるべき領土とは、北方4島、竹島、尖閣、【 沖縄 】である!
- 日本に【 沖縄の領有権は 】ない!!!!!!
- 【 アメリカ 】も反日統一共同戦線に引き入れよう!
そして、今の日本人の意識の状態は、
- アメリカは敵
- ロシアも敵
- 韓国も敵
これって、「まさに中国の思惑どおり」なのではないですか????
もちろん、日本人がアメリカ、ロシア、韓国を嫌う客観的な理由はあります。しかし、もし私たちが、「日本を守りたい」「戦前の失敗を繰り返したくない」と思うなら、「感情的」ではなく、「戦略的」に考える必要がある。
戦略は明らかです。中国は、日米分断、日ロ分断、日韓分断を狙っているので、日本は逆に、日米、日ロ、日韓関係を強固にしていく。たとえば、トランプさんから安倍さんに、貿易関係で厳しい要求がきそうです。私は、
- シェールガス、シェールオイルを買う
- 攻撃型の武器をどんどん買う
ことで、対米貿易黒字削減に取り組めばいいと思います。なんやかんやいっても日米関係が強固であれば、中国は(少なくとも現時点では)尖閣を侵略できません。
2010年の尖閣中国漁船衝突事件。あれは、なぜ起こったのでしょうか? まず、リーマンショックから、アメリカは沈みまくっていた。そして、09年に誕生した鳩山政権が、遠慮なく日米関係を破壊した。この二つの要因で中国は、「アメリカは日本を助けないだろう」と予想した。だから、ああいうことになったのです。
アメリカも弱体化が著しいですが、それでも日米関係が強固であれば、中国はまだ手出しできません。
日本の強さは、安定性
日本の戦略は、アメリカ、ロシア、韓国と友好関係を築くこと。「目に見える中国包囲網」を日本が主導する必要はありません。要は、日米関係、日ロ関係、日韓関係が良好であれば、それでいい。
そして、日本は、ひたすら時間を稼ぎます。なぜ? 日本は、【世界一安定している国】だからです。これからの世界を見るに、「安泰だ!」といえる国は多くありません。アメリカは、1945年がピークだった国。冷戦終結後に2度目のピークを迎えた。その後は、衰退しつづけています(それでも世界最強ですが)。
中国の成長期は2020年まで。その後、経済は伸びず、日本以上の少子化が襲い、体制維持が難しくなっていくことでしょう。ロシアは、現在でも、制裁でかなり疲弊しています。石油、ガス依存がひどく、「成長戦略」が描けないでいる。欧州は、イスラム移民が増えすぎて、後50年もすると「キリスト教文明」ではなくなり、「イスラム圏」に飲み込まれてしまうことでしょう。
日本は、どうでしょうか? 皆さんご存知のように、日本は「現存する最古の国」です。政治家はコロコロ変わりますが、不変の皇室があり、異常に安定している。そして、民主主義が根付いているので、革命は起こりにくい。
日本の政治制度も、非常にすぐれていると思います。たとえば自民党がダメになれば、ちゃんと政権交代が起こる。政権をとった民主党がダメなら、総理は、一年で首になる。民主党に3人総理をやらせて、ダメなら、また自民党に政権が戻る。国益にだいたい沿った政治をする安倍内閣は、長期になる。
というわけで、日本の政治制度はすばらしいです。これがアメリカみたく、「4年、二期までです」となったらどうですか? 皆さん、鳩山内閣が4年続いたことを想像してみてください。まさに悪夢でしょう???
というわけで、他の大国と比べて、日本は安定している。日米、日ロ、日韓関係を良好にたもつ。日印、日欧、日・東南アジア、日豪関係を良好にたもつ。そのまま10~20年経てば、中国は体制が維持できず自滅することでしょう。
【私の論評】中国の自滅を待つにしても、日本するべきことはしなければならない(゚д゚)!
ブログ冒頭の記事、大局的にはこのような行き方が正しいものとは思います。しかし、中国が自滅するまでには、少なくとも10年ながければ20年はかかるとみると、これだけでは足りなくなものと思います。
特に日米関係に関しては、長い間には様々な紆余曲折があると思います。
ただし、これは誤りであることは、このブログで指摘しました。以下に該当記事のリンクを掲載しておきます。
「真珠湾攻撃忘れないぞ」トランプ米大統領、安倍首相に圧力―【私の論評】日本のメディアは米国保守派の歴史観の変貌に無知(゚д゚)!
会談で握手する安倍首相(左)とトランプ米大統領=6月、ワシントンのホワイトハウス |
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では米国では保守派の間では過去の歴史が見直されていて、単純な「日本悪玉観」は否定されており、いわゆる「リメンバー・パールハーバー」の意味も旧来の意味とは異なっていることを掲載しました。
トランプ大統領も保守派ですから、当然トランプ氏の発言の中にでてきた「リメンバー・パールハーバー」の意味も旧来の意味とはことなるわけです。
もう1つは、7月に日本と北朝鮮の情報当局がベトナムで極秘接触していたことです。日米両国は同盟国として対北問題で緊密に連絡し合うと約束したにもかかわらず、日朝の接触は伝えられていませんでした。
これについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米も知らなかった…日朝極秘接触 7月にベトナムで拉致問題全面解決に向け協議 日米連携に影落とす危険性も ―【私の論評】ワシントン・ポストでは相変わらずパンダハガーが勢いを維持している(゚д゚)!
北朝鮮交換と接触したとされる北村滋内閣情報官 |
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分を以下に掲載します。
これは、同時に中国の現状の大変さを物語っているとも受け取れます。日米が協同して、中国を叩くということになれば、中国には太刀打ちできません。
中国としては何とかして、日本を味方に引き入れ、日本を親中派政権にして米国の経済冷戦をかわしたいと考えているのかもしれません。だからこそ、ワシントン・ポストを利用して、日米が離反するように仕向けている可能性があります。しかし、次の総裁選では安倍総理が圧倒的に有利ですから、そのような目論見は成就することはないでしょう。
これは、しばらく趨勢をみてみないことには、まだなんとも言えませんが、ワシントン・ポストの報道にはこういう背景があるということを知った上で、報道を吟味すべきと思います。特にワシントン・ポストを鵜呑みにする日本の報道には、留意すべきです。
日米間の隙間風を伝えるこの2つのニュースはどちらも政策当局からのリークとの見方があります。「真珠湾発言」は安倍政権の官邸外交に反発する日本の霞が関が流したもので、「日朝接触」の出どころは中国だというものです。
ところで、非核化交渉は6月12日の米朝首脳会談以降、うまくいっていません。北朝鮮が朝鮮戦争の終戦宣言を求めるのに対し、米側は非核化の具体的行動を要求し、折り合いがつきません。
いら立ちを募らせるトランプは、非核化交渉が不調に陥った背後に中国の存在がある、と批判しています。北朝鮮を対米外交の駒として使っている、というのです。そこで中国は日朝秘密交渉をリークして、トランプの怒りの矛先を日本に向けさせようとしたというのが、この出来事の真相かもしれません。
しかし、この2つの出来事が、日米関係をわずかでも毀損させたという事実は全くありません。
いら立ちを募らせるトランプは、非核化交渉が不調に陥った背後に中国の存在がある、と批判しています。北朝鮮を対米外交の駒として使っている、というのです。そこで中国は日朝秘密交渉をリークして、トランプの怒りの矛先を日本に向けさせようとしたというのが、この出来事の真相かもしれません。
しかし、この2つの出来事が、日米関係をわずかでも毀損させたという事実は全くありません。
とはいいながら、日米を離反させようと考える勢力は、中国は無論のこと、日本の中にも、米国の中にさえ存在します。今後日本が中国の自滅を待つにしても、それまではまだ時間があります。
このような勢力の存在の暗躍は、ハーバード大学の政治学者サミュエル・ハンチントン教授が96年に書いた論考『文明の衝突』(邦訳・集英社)そのもののようです。同書によると、ヒューマニズムを基盤とする西洋文明の代表者アメリカは早晩、儒教の代表者である中国と世界秩序をめぐって激突することになるとしています。
「精神的なぬくもりを感じさせない」冷酷な宗教である儒教は個人よりも集団に重きを置き、権威と階級などを重視します。これは、独裁体制を支えてきたイデオロギーでもあるので、中国も北朝鮮も儒教を放棄しません。中国が考える国際秩序は国内秩序の延長線上にあり、国力の増大に伴い西洋中心の秩序に挑戦してくるとしています。
「精神的なぬくもりを感じさせない」冷酷な宗教である儒教は個人よりも集団に重きを置き、権威と階級などを重視します。これは、独裁体制を支えてきたイデオロギーでもあるので、中国も北朝鮮も儒教を放棄しません。中国が考える国際秩序は国内秩序の延長線上にあり、国力の増大に伴い西洋中心の秩序に挑戦してくるとしています。
『文明の衝突』の中でハンティントンは、中国や朝鮮、その他いわゆる東アジアのことも記載されています。そうして、これらのことを東アジア文化圏としています。では、日本は、その中に含まれているかといえば、そうではありません。
日本は、日本文化圏としています。ハンティントンも、最初は、日本も中国に影響を受けた国なので、東アジア圏の中に含めようと考えたようですが、結局それでは実体を表しておらず、日本は、あまりにユニークで、どうしても、東アジア文化圏に含むことはできず、結局は、日本文化圏としたと、著書の中にも掲載されています。
ハンティントンは「アジアにおけるアメリカの影響力が小さくなると、日本は<再びアジア化>すべきだとする考えが日本国内で勢いを増し、東アジアの舞台で中国が改めて強い影響力を持つのは避けられないと考えだすだろう」とも書いています。
文明の衝突の表紙 |
既にそうした前例がありました。89 年に中国が天安門広場で民主化を求める市民と学生を弾圧した後、自由主義陣営が対中制裁を科しました。ところが92年、冷戦崩壊の隙を突くかのように日本は天皇の訪中決め、欧米の結束を崩壊させたのです。
日本の中には明らかに「日本は再びアジア化」すべきだという考えを持つ集団がいます。それは、野党は無論のこと与党の自民党の中にさえ存在します。
ただし、これらの勢力は中国が尖閣諸島沖で、中国の漁船が日本の海上保安庁の艦艇に体当たりしたり、南シナ海で環礁を埋め立て軍事基地化するなどの他にも立て続けに傍若無人な振る舞いを繰り返したため、日本の対中世論は急激に悪化し、今では影を潜めています。
しかし、これらがいつ息を吹き返すかは予想がつきません。日本はこうした勢力を封じ込めつつ中国の自滅を待つ必要があります。
さらに、国際情勢がこれだけ急激に変化してしまったのですから、従来通り日本の防衛を米国に頼るのではなく、少なくとも、自国民の生命財産を守るためには、自衛戦争をできるようにしておく必要があります。
今後米国は日米の同盟関係を崩すことないとは思いますが、日本が日本の領土を守るために何もしないということであれば、今すぐではなくても、今後10年、20年たてば、日米関係にヒビが入る可能性も十分にあります。
ブログ冒頭の記事にもあるとおり、日本の中には米国も、韓国も、ロシアも敵などと考える勢力は確かに存在します。その中で、韓国やロシアはたとえ敵に回っても、GDPでみると両国とも東京都なみですから、さほど悪影響はないかもしれません。無論できたら、敵に回さずに、味方に引き入れておいたほうが良いことは良いには違いはありません。
しかし、米国を本当に敵に回してしまえば、おそらく日本としては、中国と手を組むしかなくななります、これこそ中国の思惑通りということになります。
そんなことになれば、先日のこのブログに掲載したシーパワー国の同盟でもある日米英同盟が破綻しています。
そんなことになれば、中国の崩壊どころか、中国としては日本の経済力を最大限に利用して、米国と対峙することになります。その挙句の果に、中国と共倒れということになりかねません。
そのようなことだけは絶対に避けるべきです。そのためにも、日本は少なくとも自国領土を守れるように、体制を整えておくべきです。
以上まとめると、日本は、国内で「日本は再びアジア化」すべきだという勢力を封じ込めつつ、少なくとも自国領土を防衛できる体制を整えつ、多くの国々を味方につけ、中国の自滅を待つという外交戦略が最上であると考えます。
今後10年、20年と時がすぎれば、日本は他国を味方に引き入れただけでは、中国の自滅を待てない状況になるのは明らかだと思います。
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