2018年10月23日火曜日

一帯一路で急接近、日本人が知るべき中国の思惑―【私の論評】日本は対中国ODA終了とともに、対中関与政策をやめ攻勢を強めていくことになる(゚д゚)!

一帯一路で急接近、日本人が知るべき中国の思惑

日中平和友好条約発効40周年の今年、中国の日本に対する柔軟姿勢が目立つ。今月25日には安倍首相が北京を公式訪問し、翌日、習近平・国家主席らと会談する予定だ。中国に向き合っていく上で、欠かすことのできない視点は何か。元海上自衛隊司令官で、安全保障問題が専門の香田洋二さんが解説する。

◆失速する巨大経済圏構想

中国海南省で開かれたボーアオ・アジアフォーラムで演説する習近平国家主席。
「一帯一路」などによる中国主導の新国際秩序作りの推進へ意欲を示した(今年4月)

 中国の巨大経済圏構想「一帯一路」における多数の途上国のインフラ整備計画のいくつかが挫折し、一部の参加国は中国に疑念を持ち始めるとともに、対中債務に起因する自国社会・経済の崩壊が現実のものとなってきた。一帯一路構想は、中国主導の国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)とセットで中国の国家威信をかけて推進されてきたが、この5年の経緯を振り返れば、参加国、周辺国そして国際社会に不安と混乱をもたらした面が強い。

 ジャーナリストの福島香織氏が論評しているように、中国にとって本構想は、(1)先進諸国からの新植民地主義との非難、(2)途上国からの悪徳金融業者に例えられる遺恨、そして、(3)中国の銀行や企業の利益回収の見込みがない投資の継続と債務不履行の恐怖、という三重苦の提供元、本音は「厄介者」になりつつあると推察される。

カンボジア南西部の空港建設予定地に立てられた巨大
な看板。「一帯一路」の漢字表記もある(今年8月)

 中国指導層も「現下の好ましくない事案の連鎖反応」は承知していると考えられるが、昨年秋に一帯一路構想を党規約にまで盛り込んだ中国共産党と習近平国家主席(党総書記)が、自らの威信を犠牲にしてまで、現在の路線を変更する公算は皆無と言える。その上、現在の米国との厳しい経済と貿易の対立は解決策さえ見いだせないことも影響し、中国経済の将来に暗雲が漂い始めたことは明白である。オウンゴールとも言える一帯一路構想の失速と、米中の厳しい経済対立がもたらす中国経済へのストレスは、中国を抜き差しならない窮地に陥れさせ始めている。最悪の場合、トランプ米政権は、中国経済を再起不能になるまで追い詰める公算さえ否定できない現状である。
◆米国を孤立させ、覇権狙う

東方経済フォーラムの全体会合で握手を交わす安倍首相(左)
と習近平国家主席(今年9月、ロシア・ウラジオストックで)

 一帯一路構想が行き詰まり、米中貿易摩擦に苦しみ、その影響で人民元が急落する中で中国が起死回生の望みをかけた国が、日本である。それを裏付けるかのように、昨今の日中関係の改善は目覚ましく、両国とも具体的な協力策を模索している。その線上で安倍首相は「今年5月の李克強首相の来日により、日中関係は完全に正常な軌道に戻った」とまで述べている。今月の安倍首相の訪中とあわせ、経済界から大型代表団も訪中するとのことであり、その一部からは我が国企業の一帯一路構想への参画とビジネスチャンス獲得への期待が早くも漏れ聞こえてくる。

 仮に、我が国政府が一帯一路構想への参画を決定するとすれば、それは、瀕死とは言わないまでも、三重苦に苦しみ急速に症状の悪化が進んでいる中国自身及び一帯一路双方の窮状を救うカンフル剤になることは確実である。更に「清廉潔白」な我が国の一帯一路構想への参画が、急速に広がった同構想に対する国際社会の不信感の緩和に大きく貢献する公算は大きい。

 そのような現状の下で我々が認識すべきは、中国が中華思想の下で「中華民族の偉大な復興」を実現するための手段が一帯一路構想であるという現実であり、その結果、生ずる関係国の債務超過による従属国家化などは意に介さないことも明白である。さらに、開発途上国に対する債務によるコントロールに加え、世界規模の一大経済圏を構築することにより、米国と張り合える経済力を獲得して米国と欧州の分断を図り、米国を孤立させて中国が世界の覇者となる有力な手段が一帯一路構想であることも忘れてはならない。
◆「急場しのぎに日本を利用」が本音か

中国漁船を追跡する海上保安庁の巡視船(2013年2月、沖縄県宮古島沖で)=海上保安庁提供

 中国の一帯一路とは全く異なる、自由と民主主義を共通の価値観とする米国、豪州、インドに代表される国々と手を携え、アジア諸国と共に「自由で開かれたインド太平洋」の構築を目指す我が国は、近視眼的な経済上の利益にのみ目を奪われ、国家の本質と目的が水と油以上に異なる中国、特にその一帯一路構想に肩入れすることは,国家百年の計において取り返しのつかない禍根を残すこととなる。同様に米国は、一連の貿易問題を通して明らかになった中国固有の異質性を強く認識したからこそ、先日のペンス副大統領の演説に代表される、妥協のない新たな対中政策を発表したものと考えられる。

 中国の対日接近は、長年の日中対立案件の基本まで立ち返った中国の我が国に対する厳しい立場、つまり、歴史認識や尖閣諸島領有に関わる一方的な主張を根本から変更するものではないことは明白である。それは、中国が陥っている現下の政治と経済の窮状から抜け出るために最も効果的な切り札としての日本を、便宜的かつ一時的に使うことを狙ったもの以外の何物でもない。

 最後に、最近筆者が参加した国際会議における経験を紹介すると、ある中国人パネリストは、「中国は一帯一路構想において何ら困っていない。但(ただ)し、日本が構想に参画を希望するのであれば一切拒まない。それは『アベノミクス』の失敗で低迷し、苦しむ日本経済を救済するビジネスチャンスを日本に与える中国の親心と思いやりである」という趣旨の発言をした。「何をかいわんや」であるが、ここに中国の本音が垣間見えるとともに、これが極めて正直な中国の思惑の表れであろう。

香田洋二氏

元海上自衛隊自衛艦隊司令官 香田洋二

【私の論評】日本は対中国ODA終了とともに、対中関与政策をやめ攻勢を強めていくことになる(゚д゚)!

冒頭の記事の香田洋二氏の記事は、的を射たものと思います。このようなことは、なぜ米国が中国に対して経済冷戦を挑んでいるのか、考えればすぐに理解できると思います。

米国では、歴代政権が保ってきた中国への関与政策が失敗だと認識され、中国に対する警戒心が高まり、トランプ大統領が開始した中国への貿易戦争は、今や超党派による議会レベルの経済冷戦にまでたかまり、これはトランプ政権がどうのこうのという次元を超えて、かなり長期にわたり継続されることになるでしょう。

米国では、米中国交樹立以来40年近く、歴代政権が保ってきた関与政策が失敗だったという判断が超党派で下されたのです。

関与(Engagement)とは、中国が米国とは基本的に価値観を異にする共産主義体制でも、米国が協力を進め、中国をより豊かに、より強くすることを支援し、既成の国際秩序に招き入れれば、中国自体が民主主義の方向へ歩み、国際社会の責任ある一員になる-という政策指針でした。

このブログでも過去に掲載してきたのですが、中国が豊かになれば、先進国並みに民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされると米国はみていたのです。

ところが習近平政権下の中国は米側の関与での期待とは正反対に進んだことが決定的となりました。その象徴が国家主席の任期の撤廃でした。習氏は終身の独裁支配者になることになったのです。

実質的に中国の皇帝となった習近平

近年の中国はそれでなくても侵略的な対外膨張、脅威的な軍事増強、国際規範の無視、経済面での不公正慣行、そして国内での人権弾圧の強化と、米国の関与の誘いを踏みにじる措置ばかりを取ってきました。こうした展開が米側でこれまでの対中関与政策の失敗を宣言させるようになったのです。トランプ政権も昨年12月に発表した「国家安全保障戦略」で対中関与政策の排除を鮮明にしました。
ここ数十年の米国の対中政策は中国の台頭と既成の国際秩序への参加を支援すれば、中国を自由化できるという考え方に基礎をおいてきた。だが中国は米国の期待とは正反対に他の諸国の主権を力で侵害し、自国側の汚職や独裁の要素を国際的に拡散している。
トランプ大統領も2月下旬、保守系政治団体の総会で演説して、米国が中国を世界貿易機関(WTO)に招き入れたことが間違いだったと強調しました。中国のWTO加盟こそ、米側の対中関与政策の核心だったのです。だからトランプ氏は関与政策を非難したわけです。

さらに注視されるのは野党の民主党側でも関与政策の破綻を宣言する声が強いことです。オバマ政権の東アジア太平洋担当の国務次官補として対中政策の要にあったカート・キャンベル氏は大手外交誌の最新号の「中国はいかに米国の期待を無視したか」という題の論文で述べていました。
米国歴代政権は中国との絆を深めれば、中国の国内発展も対外言動も改善できるという期待を政策の基本としてきた。だがそうはならないことが明らかになった。新しい対処ではまずこれまでの対中政策がどれほどその目標の達成に失敗したかを率直に認めることが重要である。
反トランプ政権のニューヨーク・タイムズも2月末の社説で主張しました。
米国は中国を米国主導の政経システムに融合させようと努めてきた。中国の発展は政治的な自由化につながると期待したのだ。だが習近平氏の動きは米国のこの政策の失敗を証明した。習氏は民主主義的な秩序への挑戦を新たにしたのだ。
米国の歴代政権の対中政策は失敗だったと、明言しているのです。

トランプ氏自身、北朝鮮への対処にからみ習近平氏への親しみを口にしたことはありますが、中国への対決の基本姿勢は既に明確にしました。米国のこの動きは総額6兆円以上の公的資金を供与して中国を豊かに、強くすることに貢献してきた日本の対中関与政策にも、決算の好機を与えました。

日本の対中ODAは1979年から開始されましたが、これまで円借款(有償資金協力)は約3兆2079億円、無償援助1472億円、技術協力が1505億円にのぼりました。一部には対中ODAはすでに終了したとの誤解がありますが、終わったのは円借款(08年度で終了)だけで、残りの無償援助と技術協力は今も続いています。

実はここまでは外務省のホームページを見ればわかるのですが、さらにその先には隠れODAとも言うべき対中援助があります。それが、ODAと同時に財務省が始めた低金利・長期間融資の「資源開発ローン」です。こちらもすでに廃止されたとはいえ、3兆円弱になりました。

日本の対中ODAは3兆円と公表されているのですが、それは外務省の関与する公的な援助だけであり、後者の資源開発ローンをカウントしていない数字であります。事実上は日本の対中公的援助は6兆円を軽く突破しているのです。

このODAの終了は、今月26日に行われる安倍総理大臣と李克強首相との首脳会談で合意する見通しです。このODA終了は、もう日中は対等の立場であるとの日本側からの中国側への表明でもあると思います。



私自身は、これは、安倍政権による対中関与政策の終焉を意味するものだと思います。私は、安倍総理は米国に次いで、中国に対して今後は日本も関与政策はやめると伝えるのではないかと思っています。

そもそも、私自身は日本はもっとはやく中国への関与政策をやめるべきでした。本当は、2012年の段階でそうすべきだったのです。2012年といえば、中国による対日本宣戦布告とも受け取れる発表があった年です。これについては、昨日の記事にも掲載しました。

以下に一部昨日の記事から引用します。

日中関係が改善されるのは、良いことのようにもみえますが、決して油断することはできないです。中国は6年前、尖閣、沖縄を奪取するための戦略を策定しました。「広義」での「日中戦争」は、もう始まっているのです。
"
私自身「日中戦争が始まった」という事実に大きな衝撃を受けたのは2012年11月15日のことでした。
私はこの日、「ロシアの声」(現「スプートニク」)に掲載された「反日統一共同戦線を呼びかける中国」という記事を読みました(現在リンク切れ状態になっています)。この記事には衝撃的な内容が記されていました。
・中国は、ロシア、韓国に「反日統一共同戦線」の創設を提案した。 
・「反日統一共同戦線」の目的は、日本の領土要求を断念させることである。 
・日本に断念させるべき領土とは、北方4島、竹島、尖閣および沖縄である。 
・日本に沖縄の領有権はない。 
・「反日統一共同戦線」には、米国も引き入れなければならない。
これを読み、私は「日中戦争が始まった」ことを確信しました。そうして、中国は米国を「反日統一共同戦線」に米国を引き入れようとしましたが、米国はそれに応じなかっために、米中もまもなく戦争状態に入りました。これは、はっきりしませんが、おそらく2016年か2017年頃だと考えられます。
"
「反日統一戦線」に関しては、今日米国がこれに加わらなかったことによって、中国は大きな誤算をしたと思います。

2012年当時の中国は、米国のあらゆる組織や個人に対して工作をして、いずれ米国は間違いなく「反日統一戦線」に加わると確信していたと思います。

しかし、米国はこれには結局加わらず、中国は米国との対立も余儀なくされることになりました。ロシアも韓国もこれに加わるとの発表は未だにしていません。

確かに、当時は米国内では、中国側に籠絡された個人や、組織などもありましたが、それは決して多数ではなかっのです。保守層は無論のこと、リベラル派の中にも中国の挙動に疑問を持つ人は大勢いました。

それが、2016年の米国大統領選挙により、さらに中国に対する疑問は大きくなり、中国をあからさまに非難するトランプ氏が米国大統領となり、昨年12月にトランプ政権が発表した「国家安全保障戦略」で対中関与政策の排除を鮮明にしました。そうして、それが今日の米国による対中国経済冷戦となり具体的に実行されています。

こうした一連の流れをみていると、やはり日本はODA終了とともに、対中国関与政策をやめ、中国に対して攻勢を強めていくことになると考えるのが、妥当であると考えます。今回、安倍総理の中国訪問時にそれを公にするか否かは別にして、日本はそのような方向に進むだろうし、進まざるをえないと思います。

【関連記事】

0 件のコメント:

経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき―【私の論評】エネルギー政策は確実性のある技術を基にし、過去の成功事例を参考にしながら進めるべき

高橋洋一「日本の解き方」 ■ 経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき まとめ 経済産業省はエネルギー基本計画の素案を公表し、再生可能エネルギーを4割から5割、原子力を2割程度に設定している。 20...