10月23日、「港珠澳大橋」開通を祝う習近平国家主席 |
習近平が最近よく言う「自力更生」は、決して文革時の毛沢東返りではなく、「中国製造2025」によりコア技術の自給自足達成を指している。「中国製造2025」を見なければ中国も米中関係も日中関係も見えない。
◆「中国製造2025」に対する鮮明なメッセージ_新華網
その証拠に、2018年5月8日の中国政府の通信社「新華社」電子版「新華網」の報道を見てみよう。「“中国製造2025”:困難に遭い、自ら強くなる」というタイトルで「中国製造2025」と「自力更生」の関係が書いてある。文字だけでなく写真に大きく「中国製造2025」とあるので、一目瞭然だろう。なお、中国語では「製造」は「制造」と書く。
小見出しには「2018年は絶対に普通ではない年になる!」とあり、冒頭に、おおむね以下のような趣旨のことが書いてある。
――いまわれわれは国家戦略「中国製造2025」を推進しており、改革開放40周年を迎えようとしている。ある国が、わが国に高関税をかけて、わが国のハイテク製品輸出に徹底的な打撃を与えようとしている。どこまでもつきまとう執拗な封鎖を通して、われわれは「困難から抜け出すには、ただ一つ、自力更生以外にない」ということを知らなければならない!
ここにある「ある国」とは、言うまでもなく「アメリカ」のことである。
アメリカが中国のハイテク製品に高関税をかけ、ハイテク製品製造のためのコア技術であるアメリカ製半導体の対中輸出に規制を掛けていることに対して、それなら「自力更生」以外にないと言っているのである。
この報道一つを見ただけでも、「自力更生」とは「中国製造2025」を達成して、中国のハイテク産業のコア技術に関する自給自足を指していることが歴然としている。
◆東北視察で習近平が「自力更生」を呼びかけた_新華網
2018年9月25日から28日にかけて、習近平国家主席は中国の東北三省を視察した。その模様を新華網が報道した。
それによれば、習近平は国有の重工業製造企業である「中国第一重型機械集団有限公司(略称:一重集団)」を訪問した際に以下のように述べている。
――いま国際社会では一国主義、貿易保護主義の風潮が高まっているが、われわれは必ず自力更生の道を断固として歩まなければならない。中国が本当に発展しようと思うならば、最終的には自分自身に頼るしかない。
◆習近平が広東視察で「自力更生」を呼びかけた_CCTV
2018年10月22日、習近平は広東省珠海の視察を行なった。ここは改革開放の地として、習近平の父親・習仲勲が「経済特区方案」をトウ小平に提起し、そこから改革開放が始まった記念の場所の一つである。だから、2014年12月、国家主席就任後に最初に視察した場所も、ここ広東だった。
10月23日、中央テレビ局CCTVの「時政新聞眼」という番組は、習近平の広東視察を特集し、習近平が述べた以下の言葉で番組を締めくくっている。
――大国から強国になるには、必ず実体経済を発展させなければならず、いかなる時も実態から離れて虚構に走ってはならない。製造業は実体経済の中の一つの重要なキーで、必ず自力更生によって奮闘し、中国自身によるイノベーションを獲得していかなければならない。真に中華民族の偉大なる復興を目指すなら、自らがイノベーションを勝ち取っていく気骨と気概を持たなければならない。
10月23日、中央テレビ局CCTVの「時政新聞眼」という番組は、習近平の広東視察を特集し、習近平が述べた以下の言葉で番組を締めくくっている。
――大国から強国になるには、必ず実体経済を発展させなければならず、いかなる時も実態から離れて虚構に走ってはならない。製造業は実体経済の中の一つの重要なキーで、必ず自力更生によって奮闘し、中国自身によるイノベーションを獲得していかなければならない。真に中華民族の偉大なる復興を目指すなら、自らがイノベーションを勝ち取っていく気骨と気概を持たなければならない。
◆「中国製造2025」発布直前から「自力更生」を提唱_人民網
中国共産党機関紙「人民日報」電子版「人民網」は、2015年2月16日に「習近平:コア技術は周辺に頼るな、自力更生あるのみだ」というタイトルの記事を掲載した。
「中国製造2025」が発布されたのは2015年5月。
しかし、10月23日付けコラム<背景には「中国製造2025」――習近平による人民の対日感情コントロール>に書いたように、2013年に習近平は既に「中国製造2025」に関して「製造強国戦略研究」という重大諮問プロジェクトを立ち上がらせている。2014年には答申を受けているので、2015年2月の時点で「中国製造2025」に関して「自力更生」を強調するのは当然のことだ。
◆「自力更生」の相手国が日本からアメリカに!
このとき「周辺に頼らない」としていた相手国は「日本」だった!
<背景には「中国製造2025」――習近平による人民の対日感情コントロール>に書いたように、発端は2012年9月の「反日デモ」で、「メイド・イン・チャイナ」か「メイド・イン・ジャパン」かが問題になったのだ。だからコア技術を「メイド・イン・チャイナ」に持っていくべく立てた国家戦略だった。
ところがアメリカにトランプ大統領が現れて、中国の国家戦略「中国製造2025」が持っている恐るべき狙いを見抜いてしまったものだから、トランプは猛然と「中国製造2025」を完遂させまいと中国への攻撃を始めた。武力攻撃をするわけにはいかないので、「貿易」という手段を使って中国の国家戦略を潰しにかかっているわけだ。
そうしないと、中国がやがて半導体産業というコア技術においても宇宙支配においても、そしてやがては軍事においてもアメリカを凌駕し、地球は中国の天下になると、トランプは警戒しているのである。
アメリカ・ファーストにより「再び偉大なるアメリカを取り戻す」と宣言したトランプは、なんとしても「中国製造2025」を潰したい。
「それならば」とばかりに、習近平は日本に近づいてきた。
◆「自力更生」は文革の再来ではない
習近平の「自力更生」を文革(文化大革命)の再来とか、個人崇拝させるための毛沢東返りなどと批判している一部の中国研究者あるいはメディアは、目を覚まして習近平の正体を見抜かなければならない。そもそも文革は「政府(劉少奇国家主席)を倒すこと」が目的だったので、文革にたとえること自体「習近平が政府(習近平国家主席)を倒そうとしている」ということにつながり、中国の何たるかを全く理解してないとしか言いようがない。それを無視して、習近平の権力闘争とか我欲に目を向けさせたいあまり、習近平の正体が見えないように仕向けている。そのような矮小化が、どれほど大きな損害を日本にもたらすか、気が付いてほしい。
「中国製造2025」を直視しなければ、中国のなんたるかも見えなければ、米中関係も日中関係も、いま「どこにいるのか」が見えないのである。
より多くの日本人が、どうか真実を見る勇気を持ってくれることを、切に望む。
【私の論評】技術の漏洩を防げば「中国製造2025」は最初から頓挫することはわかりきっている(゚д゚)!
これまで中国は「 世界の工場」と呼ばれ、製造業の規模で世界一の地位を占めてきました。しかし、それは、豊富な労働力と低賃金に支えられた労働集約型の製造業でした。
製造プロセスの管理やオペレーションの最適化の面では、ドイツ、米国 、日本などの後塵を拝してきました。
「中国製造2025」は、この状態を大きく変え、2045年に「製造強国のトップ」になることを目指すものです。
そのため、ITやロボット、AIを活用した「技術密集型/知能的集合型」の産業にシフトするといいます。
情報技術と製造技術の融合による製造方法の実現が主軸なので、中国版「インダストリー4.0」と呼ばれることもある。あるいは、「データ駆動型の製造プロセス」と言われることもあります
これに関しては、中国は有利であると思われている点があります。それは、膨大なデータを国家主導でなんの制限もなく取得できるという点です。これは、人権を尊重する先進国ではなかなかできないことです。
最近、フェイスブックが情報流出問題で揺れています。米大統領選挙でトランプ陣営が契約していたデータ分析会社ケンブリッジ・アナリティカ(CA)が、フェイスブック利用者の個人情報を不正収集していたと報道されました。
社会的な批判が高まり、その結果フェイスブックの株価が下落しています。
これは、フェイスブックという一企業の問題ではない。広く社会体制と技術の関係にかかわる問題です。
すでに述べたように、AIの機械学習のためにはできるだけ大量のデータが利用できることが望ましいですが、この点において、日米やヨーロッパ社会が中国と比較して、不利な立場に置かれているのは、否定できない事実です。
この問題をどう解決していくかは、現代技術の最大の問題でしょう。
もちろん、個人の権利の 尊重や多様性の維持は、健全な社会のために絶対に必要なことです。
個人情報の乱用を避けつつ、米国がAIの開発で中国より優位に立つためには、米国社会の持つ多様性を活用する必要があります。
まったく新しい発想のために社会の多様性が必要であることは、例えば、ライト兄弟による動力飛行機の開発が示しています。当時、エンジンを積んだ物体が飛行するのは、不可能と言われていました。ライト兄弟が初飛行に成功した後でさえ、そのような考えが、専門家の間では支配的でした。
このような「異端の」発明は、全体主義国家や大企業からは出てきません。多くの独創的なアイディア発明は 、社会の大勢とは異質の部分から出てくるのです。
PCも、インターネットも、AIも、米国社会の多様性の中から生み出されたものです。共産党独裁政権に支配されている中国社会で生まれたものではありません。
中国は、生み出された技術を進歩させることには優れているかもしれません。しかし、まったく新しいことを生み出す力はありません。
情報技術の場合には、創造性がとりわけ重要な意味を持ちます。したがって多様性は本質的に重要であるはずです。
これは、1980年代に日本と米国の間で生じた問題と似ている。日本は産業技術を改良し、生産工程を改善して能率を上げ、米国製品を市場から駆逐しました。
しかし、長期的に見れば、は新しい産業を発達させることによって成長しました。
いま、それと同じことが米国と中国の間で起ころうとしているのかもしれないです。それも、さらに大きくて深い次元でそれが起きようとしているかもしれません。
社会的な批判が高まり、その結果フェイスブックの株価が下落しています。
これは、フェイスブックという一企業の問題ではない。広く社会体制と技術の関係にかかわる問題です。
すでに述べたように、AIの機械学習のためにはできるだけ大量のデータが利用できることが望ましいですが、この点において、日米やヨーロッパ社会が中国と比較して、不利な立場に置かれているのは、否定できない事実です。
この問題をどう解決していくかは、現代技術の最大の問題でしょう。
もちろん、個人の権利の 尊重や多様性の維持は、健全な社会のために絶対に必要なことです。
個人情報の乱用を避けつつ、米国がAIの開発で中国より優位に立つためには、米国社会の持つ多様性を活用する必要があります。
まったく新しい発想のために社会の多様性が必要であることは、例えば、ライト兄弟による動力飛行機の開発が示しています。当時、エンジンを積んだ物体が飛行するのは、不可能と言われていました。ライト兄弟が初飛行に成功した後でさえ、そのような考えが、専門家の間では支配的でした。
このような「異端の」発明は、全体主義国家や大企業からは出てきません。多くの独創的なアイディア発明は 、社会の大勢とは異質の部分から出てくるのです。
PCも、インターネットも、AIも、米国社会の多様性の中から生み出されたものです。共産党独裁政権に支配されている中国社会で生まれたものではありません。
中国は、生み出された技術を進歩させることには優れているかもしれません。しかし、まったく新しいことを生み出す力はありません。
情報技術の場合には、創造性がとりわけ重要な意味を持ちます。したがって多様性は本質的に重要であるはずです。
これは、1980年代に日本と米国の間で生じた問題と似ている。日本は産業技術を改良し、生産工程を改善して能率を上げ、米国製品を市場から駆逐しました。
しかし、長期的に見れば、は新しい産業を発達させることによって成長しました。
いま、それと同じことが米国と中国の間で起ころうとしているのかもしれないです。それも、さらに大きくて深い次元でそれが起きようとしているかもしれません。
ただし、当時の日本と現在の中国とは全く異質です。現在の中国は未だに、民主化も、政治と経済の分離も、法治国家化もなされていません。しかし、1980年代の日本はすでになされていたどころではなく、実施されてからかなり時間がたっていました。
第二次世界大戦前から、現在の中国よりははるかに実施され、戦後さらに実行され、当時の日本では民主化、政治と経済の分離、法治国家化は、わざわざ言うまでもなく、当然のことになっていました。
ここが、日米を含む世界の先進国と、中国の大きな違いです。これらが前提となる社会でなけば、とても多様性が保たれる社会とはなりません。まさに、中国はそのような暑苦しい社会であり、建国以来毎年2万件も暴動があり、2010年あたりからは10万件を超えたといわれています。
この暴動を現在の中国は、社会変革などをつうじて改善・改革するなどということはせず、城管、警察、人民警察を用いて徹底的に弾圧してきました。このような社会で「製造2025」が成功するとはとても思えません。
これがどのように進展していくかを現時点で正確に見通すことは難しいですが、多様性を許容しない中国社会が、どこかで本質的な限界に直面するのは確実です。
そもそも、先進国が豊かになったのにはわけがあります。それは、民主化と、政治と経済の分離、法治国家化を当然のこととしたため、多くの中間層を輩出し、それらが自由に経済・社会活動を行ったため、の結果です。
先進国でも、過去には中国共産党のように、まともな国の体裁をなしおらず、人民を弾圧して意のままにするという傾向がありましたが、国民国家が誕生するにおよび、国家を強くするため、富ませるために、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を進めていったので、国民国家として強くなり豊かになったのです。
中国は豊かになったのは、このようなプロセスを経たわけではありません。多くの人口をかかえ、無尽蔵の市場が存在すると考えた米国などが中国の将来を期待して天文学的な投資をしたからです。そうして、米国などは中国が豊かになれば、先進国と同じような体制に変わることを期待しましたが、その期待はいまのところ完全に裏切られてしまいました。
中国は豊かになったのは、このようなプロセスを経たわけではありません。多くの人口をかかえ、無尽蔵の市場が存在すると考えた米国などが中国の将来を期待して天文学的な投資をしたからです。そうして、米国などは中国が豊かになれば、先進国と同じような体制に変わることを期待しましたが、その期待はいまのところ完全に裏切られてしまいました。
中国には、国民国家の軍隊すら存在しません。国民国家の軍隊の主な任務は、国民の財産、生命を守ることですが、人民解放軍は、軍隊ではなく共産党の私兵であり、しかも、このブログでも過去に掲載したように、その実体は様々な事業を営む武装した商社でもあります。ただし、最近は習近平が人民解放軍が事業をすることを禁止しています。
人民解放軍は軍隊もどき |
このような異常で異様な社会で、新たなライフスタイルが生まれ、それに適したものが製造されたりすることなど想像できません。人民を弾圧するための全く新しいイノベーションはできても、新たな価値を創造して、富をもたらすことなどできません。できるのは、せいぜい、効率を良くすることです。
現在主流である、スマホはAppleが最初に市場に出し、大成功しました。実は、フィンランドのノキアは、IPhoneと同じようなスマホのプロトタイプをAppleより先に、開発していましたが、市場に出す時期を誤り、大失敗しました。
当時の中国では、たとえ経済が現在と同じくらいの水準にあったとしても、スマホなど開発などできなかったでしょう。ただし、すでに出来上がった技術をもとに様々な改善や付加をするということには長けているようですが、自ら新しいものを開発することはできないようです。
米国は、社会の多様性を維持し、さらに発展させ、それが産業社会の新しい発展のために不可欠であることを、実績で示していくべきです。ただし、先進国は中国が技術を盗んだり、タダ乗りすることは、当然のことながら、排除すべきでしょう。
このあたりさえしっかりしておけば、私は「中国製造2025」は失敗すると思います。せいぜい現在私達の頭の中にある様々な新技術をさらに改造して発展させることはできても、それ以上のことは何もできません。
考え見てください。古代にAIがあったとして、大量の奴隷のデーターを集めて、分析したとして、それで何が生まれるというのでしょうか。せいぜい、奴隷が仕事をサボっているかいなかが詳細にわかるだけで、それでは何の富も生み出すことはありません。
しかし、奴隷が市民となり、生活の糧を得て、ある程度以上の余裕を持ち自ら何かを作り出したり、社会に役立つことを考えて、実行したりし、そこにAIが加われば、大きな富を生み出す機会はかなり増えることになります。
中国にはこのような考えはないようです。国家主導で、金をつかってAIを導入し、まともな社会構造も形成せずに、国家主導で人民を鼓舞すれば、何かが変わると信じているようですが、そんなことはありません。
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