2017年12月6日水曜日

麻生氏、AIIB「サラ金発言」の意味 借金国に中国主導で取り立て、属国化や領土分割の懸念残る―【私の論評】中華覇権主義に基づくAIIBはそもそも、国際金融機関ではない(゚д゚)!



 麻生太郎副総理兼財務相が11月29日の参院予算委員会で、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の運営や融資審査について「金を借りた方も、ちゃんと計画を立てて返済しないと、サラ金に取り囲まれちゃうみたいな話になった場合、元も子もない」と発言した。「金を貸した経験のない人が急に貸すという話だ。お手並み拝見だと思って見ている」とも述べている。

 筆者は郵政民営化の際に、民営化法案の作成や政策シミュレーションを行う民営化サイドにいたので、当時総務相だった麻生氏から目の敵にされたが、周囲の人間に対して極めて優しい政治家であるとの評判を聞いている。政治家の話は、官僚と違って味のある答弁が多いが、麻生氏はいつも面白い話をしてくれる。ときたま、それが政治的には失言にもなるのだが、よくいえば人間味でもある。

 麻生氏の表現は具体的にはどのようなことを指すのか、本コラムで推測してみたい。

 AIIBは、途上国などに融資する国際金融機関である。途上国が融資を受けた資金によってインフラ整備を行うが、融資なので返済が必要になる。国際金融機関とはいえ、その融資機能は国内の金融機関やノンバンクと同じである。一般論として融資の返済可能性などについて審査をするわけだ。

 ただ、AIIBは国際金融機関としての経験が乏しい。それを「金を貸した経験のない人が急に貸す」と言っているのだろう。

 金の貸し手は、借り手の生活に大きく関わることもある。金融業者の取り立てが社会問題化したことからもわかる。取り立てでは、担保設定された不動産を差し押さえすることもある。

 AIIBは国際金融機関であるが、借り手が返済しなければ当然取り立てを行う。それはやはり中国主導となるだろう。

 「取り囲まれちゃう」というのは、債務返済がない場合、借り手の途上国が中国の取り立てによって政治的に困窮する状況を示唆しているのだろう。

 取り立ての一環として、借り手が不動産を差し出すのは、融資の世界ではよくあることだが、国際金融の世界でAIIBが同じようなことをした場合、借り手の途上国にとっては、中国への属国化や領土分割を意味することになってしまう。

 従来の西側の国際金融機関であれば、途上国の発展を考えて債務の減免を行うなど、過酷な取り立てはしてこなかった。しかし、中国主導の国際金融ではこうした国際基準があるのかどうか分からない。麻生氏は、そうしたAIIBに対する懸念を表現したかったのだろう。

 筆者としては、この麻生発言にさらに追加したい。最近AIIBが最上位の格付けを取得したと報道されているが、本コラムで指摘したように肝心なのは中国の資金調達レートだ。AIIBの調達レートは格付けに関わらず、中国を上回るだろう。ということは、西側の国際金融機関より高金利になる可能性が高い。この点も、高利貸のイメージである。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】中華覇権主義に基づくAIIBはそもそも、国際金融機関ではない(゚д゚)!

AIIBに対する懸念を示したのは、麻生氏だけではありません。実は、安倍晋三首相は2015年4月20日のBSフジ番組で、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)を「悪い高利貸からお金を借りた企業は、その場しのぎとしても未来を失ってしまう」とけん制しました。組織運営を問題視した形で「参加を表明している主要7カ国(G7)も基本的に同じ懸念を持っている」とも指摘しました。

AIIBに懸念を表明していた安倍首相
参加する英独仏と「AIIBの中、外で協力しながら中国に懸念の答えを求めると一致している」とし、日本の参加は「国民の富を出資するわけだから当然慎重でなければならない」と語りました。

私は、麻生財務大臣の懸念は、もとより安倍総理の懸念も妥当だと思います。

それは、中国のAIIBに関する、台湾と香港の取扱をみていると良く理解できます。2016年4月台湾のAIIBへの加盟交渉は、事実上決裂しました。

アジア太平洋地域には、深刻な投資資金不足からインフラ整備の遅れに悩む国が多いため、AIIBの創設メンバーはアジア太平洋地域だけでも25カ国に及んでいます(現在の全参加国は約70カ国)。

そのAIIBには申請者が主権国家でない場合、「その国際関係に責任を負う加盟国」が同意するか、申請手続きを代行する必要があるという規定があります。

これに基づいてAIIB総裁、金立群(ジン・リーチュン)氏が、「台湾の主権は中国にある」としたうえで、台湾はAIIBに直接申請するのではなく、「中国財政省を通じた申請が必要だ」と明言しました。

「台湾に主権はない」「台湾は中国の一部である」。そう言われたのも同然の出来事に、「台湾の尊厳を損ねる」と台湾財政部は猛反発し、交渉は決裂しました。

「台湾の主権は中国にある」と発言した
AIIB総裁、金立群(ジン・リーチュン)氏
そもそも台湾と中国の問題は、1949年、共産党と国民党の内戦が終わり、国民党が台湾に敗走したことから始まります。

台湾に渡ってきた国民党(外省人)は、独裁政権を敷き、台湾人(本省人)を迫害しました(白色テロ)。

台湾は国民党独裁政権下にありましたが、1991年に元台湾総統の李登輝氏が「動員戡乱時期臨時条款」を廃止したことにより、憲政が回復し、その後に民主化します。

こうしてやっと民主化に成功した台湾が、今さら中国共産党一党独裁体制の下に入ることなど容認できるはずがありません。

「台湾の主権は中国にある」という中国側のスタンスに反発するのはもっともなことです。

そもそも、AIIBは国際金融機関とはいえ、その融資機能は国内の金融機関やノンバンクと同じです。その金融機関の総裁が、「台湾の主権は中国にある」と述べるのは、問題外です。

そうしてAIIBは融資基準が不明確なうえに、中国が30.34%の融資比率(議決権の26.06%)を有することを考えると中国共産党政権の利益のための融資が行われる危険性が高いです。

それどころか、AIIBを中国はまず何よりも自国の経済強化のために活用し、それによって共産党の求心力を維持しようとしているとみるべきです。

中国によるAIIBの恣意的運営は、台湾と香港の扱いからも覗えます。AIIBは主権国家としての台湾の正式加盟は認めず、香港の正式加盟は、非主権国としての申請なら問題ないとして承認する方向です。そうして、今年香港はAIIBに加入しました。

中国は、台湾を、香港と同様に中華人民共和国の中の一地域とみなしているのです。

台湾は独立国家である
しかし、アメリカが台湾関係法において台湾を国家に準ずる扱いをしていることや、台湾がWTO(世界貿易機関)、ADB(アジア開発銀行)に正式加盟をしていることなどを見ても、台湾には明らかに独立国家としての実体があります。

一行政特区であるかのように台湾を扱い、主権国家としての台湾のAIIB加盟を退けたのは、中国の政治的思惑が背景にあるためです。

中国は、近い将来台湾を併合しようと考えており、AIIBを利用してその布石を打とうと画策しているのです。

国際金融機関であるはずのAIIBが、そうした中国の覇権主義に基づいた運営をするのであれば、信頼性は大きく失われます。

台湾をこのように扱うAIIBは、その時々で恣意的に他国に対しても、中国の覇権主義に基づいた運営をするに違いありません。

軍事拡張だけでなく、経済的にも覇権を握ろうとする中国を、何としても食い止めなくてはなりません。


AIIBは、投資資金額の大きさと比較的簡単に融資が行われることを強調しています。

日本は、日米主導のADB(アジア開発銀行)の融資条件を緩和するなど、AIIBを通じた中国の経済的な覇権主義の拡張を抑えるべきです。また、軍事面での覇権拡大阻止も重要です。

そのためには、地政学的に重要な位置にある台湾との協力を強化する必要があります。

日本は台湾を主権国家として認めなければなりません。

その道筋をつけるために、台湾にTPP加盟をすすめたり、日台の経済関係を強化したりするなど、協力関係を強化していくことが大切です。

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