9月8日、ロシアでは、州知事や共和国の首長などを選出する統一地方選挙が実施された。このところ、モスクワでのデモ、地方での環境保護を求める抗議活動といった、プーチンの人気に陰りが出ていることを示す出来事が目に付くようになってきていたため、それなりに注目されたが、結果は、モスクワ市議会選挙などごく一部を除き、プーチンの与党の圧勝であった。モスクワ市議会選挙では共産党が勝利した。
モスクワでは、今回の統一地方選挙に向けて野党系の候補者をプーチン政権側が不当に排除したのではないかということで、真の自由選挙を求めるデモが毎週行われていた。一方、地方では、モスクワその他の都市からのゴミの大きな埋め立て地を田舎に作る計画に対し、多くの抗議活動が行われている。そのほか、不満の源には、インフレ、停滞する生活水準 、定年延長、長距離トラックへの新しい通行料、ソーシャルメディア規制などがある。
モスクワでのデモのインパクトが限定的であるのは、環境悪化や生活コストなどについてのロシア社会の不満を取り込むことに失敗しているためである。真に競争的選挙を呼びかけるというのは価値のあることではあるが、少し理念的に過ぎ、大衆の生々しい不満を反映する幅広いアピールに欠けている。他方、地方での抗議活動は生活に根差した不満の反映ではあるが、そこまで深刻なものではないということであろう。
昨年5月にも大統領就任式を前に各地で大規模な抗議デモが |
ロシアにおける抗議活動はプーチンの人気が下り坂にあることを示しているものの、今回の統一地方選挙の結果からも、プーチンが2024年までの任期を全うすることに問題を投げかけられているような状況にはないと言える。モスクワのデモも、市議会選挙で共産党(選挙から排除された野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイが支持を呼び掛けていた)が勝利したこともあり、次第に収束していくのではないか。
ただ、プーチン流の強権的なシステムが長期的に続くかどうかは、慎重な検討が必要であろう。フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのTony Barberは、8月26日付け同紙に‘After two decades in power, Putin should heed the warning signs’と題する論説を掲載、今後のロシアについて展望を示している。Barberは、以下のような点を指摘している。
・プーチンは2000年から2008年にかけて、エリツィン時代の社会混乱を克服し、石油価格上昇を通じて所得増を実現し、人気のある指導者であった。
・最近では、経済的不満、環境についての懸念、権力濫用への不平が、ロシア国民に対するプーチンの立場を悪くしているが、プーチンの権力掌握は弱くない。彼は反対を打ち砕く圧倒的な力を持っており、取り巻きは富と生き残りのために彼に依存している。
・しかし、時の経過とともに、ポスト共産主義の初期の経済・社会の崩壊を覚えている世代は消え去っており、プーチン以外の指導者を知らない若いロシア人が出てきている。少なくとも彼らの一部は変化を強く望んでいる。
・ロシア史を振り返ると、こうした時代は過去にもあった。ニコライI 世の長く専制的な支配が終わった 1850年代、 1953年のスターリン死後、ブレジネフの「停滞の時代」が終わった 1980年代である。 ピョートル大帝以来、ロシアでは、改革と反動が交代してきた。
・モスクワでのデモや環境についての抗議活動に次の自由化のサイクルを見るのは時期尚早であるが、何事も永遠ということはない。
このBarberの論説は、ロシア史を踏まえて書かれた良い論説である。ロシア史は、スラブ主義者と欧化主義者が交代して指導者になってきた歴史であると考えてよい。Barberは改革と反動の交代と言っているが、そうも言えるだろう。
プーチン後は、欧米諸国との関係を重視する政権がすぐにではないにしても、出てくる必然性が高いように思われる。どれくらいのスピードでそうなるかは分からないが、一旦変化が生じると加速度がついて、行き過ぎたりするようなところがロシア人にはある。
それから、プーチンが任期満了後にすんなりと退任するのかという問題がある。つまり、鄧小平やカザフスタンのナザルバエフのような最高指導者を目指す可能性はないのかということである。これについては、ロシアには「院政」の伝統はないと思われるので、可能性はあまり高くないのではないだろうか。
9月5日にウラジオストクで行われた安倍晋三首相とプーチン・ロシア大統領の通算27回目の首脳会談は、平和条約交渉で一切進展がなく、暗礁に乗り上げた形でした。ロシア側は「2島」すら引き渡さない方針を固めており、安倍首相の「独り相撲」(朝日新聞と産経新聞の社説)が鮮明になりました。安倍外交は対露戦略の総括と見直しが急務です。
ただ、プーチン流の強権的なシステムが長期的に続くかどうかは、慎重な検討が必要であろう。フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのTony Barberは、8月26日付け同紙に‘After two decades in power, Putin should heed the warning signs’と題する論説を掲載、今後のロシアについて展望を示している。Barberは、以下のような点を指摘している。
・プーチンは2000年から2008年にかけて、エリツィン時代の社会混乱を克服し、石油価格上昇を通じて所得増を実現し、人気のある指導者であった。
・最近では、経済的不満、環境についての懸念、権力濫用への不平が、ロシア国民に対するプーチンの立場を悪くしているが、プーチンの権力掌握は弱くない。彼は反対を打ち砕く圧倒的な力を持っており、取り巻きは富と生き残りのために彼に依存している。
・しかし、時の経過とともに、ポスト共産主義の初期の経済・社会の崩壊を覚えている世代は消え去っており、プーチン以外の指導者を知らない若いロシア人が出てきている。少なくとも彼らの一部は変化を強く望んでいる。
・ロシア史を振り返ると、こうした時代は過去にもあった。ニコライI 世の長く専制的な支配が終わった 1850年代、 1953年のスターリン死後、ブレジネフの「停滞の時代」が終わった 1980年代である。 ピョートル大帝以来、ロシアでは、改革と反動が交代してきた。
・モスクワでのデモや環境についての抗議活動に次の自由化のサイクルを見るのは時期尚早であるが、何事も永遠ということはない。
このBarberの論説は、ロシア史を踏まえて書かれた良い論説である。ロシア史は、スラブ主義者と欧化主義者が交代して指導者になってきた歴史であると考えてよい。Barberは改革と反動の交代と言っているが、そうも言えるだろう。
プーチン後は、欧米諸国との関係を重視する政権がすぐにではないにしても、出てくる必然性が高いように思われる。どれくらいのスピードでそうなるかは分からないが、一旦変化が生じると加速度がついて、行き過ぎたりするようなところがロシア人にはある。
それから、プーチンが任期満了後にすんなりと退任するのかという問題がある。つまり、鄧小平やカザフスタンのナザルバエフのような最高指導者を目指す可能性はないのかということである。これについては、ロシアには「院政」の伝統はないと思われるので、可能性はあまり高くないのではないだろうか。
【私の論評】日本が本気で北方領土返還を狙うというなら、今は中国弱体化に勤しむべき(゚д゚)!
第27回日露首脳会談 |
日露両国は昨年11月のシンガポールでの首脳会談で、歯舞、色丹2島引き渡しをうたった1956年日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速することで合意し、今年から本格交渉に入ったのですが、ロシア側は一転して高飛車に出ました。国是の「4島返還」から「2島」へ譲歩することで妥結は可能とみなした安倍首相の判断は裏目に出ました。
産経新聞(9月3日)は、ロシアが1月の国家安全保障会議で、「交渉を急がず、日本側のペースで進めない」「第2次大戦の結果、4島がロシア領となったことを日本が認める」などの交渉方針を決めたと報じました。事実なら、対日強硬路線を機関決定したことになり、プーチン大統領やラブロフ外相の一連の強硬発言もこれによって説明がつきます。
その背景として、大統領の支持率低下や民族愛国主義など国内要因が指摘されますが、むしろこの1年の米中露3国関係の構図の変化がロシア外交に与えた衝撃が大きいようです。
米露関係は、米国が対露制裁を強化し、国防予算を拡大して新型兵器開発を進めるに及んで、ロシアにとってはオバマ時代よりも悪化しました。ロシアは中国一辺倒外交に傾斜し、米中貿易戦争の長期化で、中国もロシアの利用価値を重視するようになりました。
こうして「米国対中露」の対立構図が深まり、ロシアは日米同盟を問題視するようになりました。ロシアにとって日本の重要性は以前より低下し、北方領土問題は米中露3国関係の新展開の中に埋没したということでしょう。
今後、プーチン政権と交渉を続けても、領土問題は低調な議論が続くだけでしょう。「私とウラジーミルの手で必ず領土問題に終止符を打つ」という首相得意のフレーズは色あせ、これを信じる国民はもはやいないです。むしろプーチン政権の存在自体が領土交渉の足かせになっているとの認識を持つ必要があります。
今後、プーチン政権と交渉を続けても、領土問題は低調な議論が続くだけでしょう。「私とウラジーミルの手で必ず領土問題に終止符を打つ」という首相得意のフレーズは色あせ、これを信じる国民はもはやいないです。むしろプーチン政権の存在自体が領土交渉の足かせになっているとの認識を持つ必要があります。
交渉が事実上破綻した今、安倍首相はこれまで秘匿してきた大統領との交渉内容を部分的にでも国民に開示し、領土政策を「4島」から「2島」に転換した真意を説明すべきでしょう。
対露支援8項目協力など経済協力を優先し、国家主権意識や安全保障観の希薄な経済産業省主導外交が通用しなかったことも、この際総括する必要があります。
大都市の若者が毎週末に行う反プーチン・デモが示すように、ロシアの若い世代には長期政権への閉塞感や国際的孤立への不満が強い。ポスト・プーチン時代を見越した長期的な対露戦略の再構築を図るべきです。
さらには、このブログでも過去に主張してきたように、現在の米中冷戦は、これからも長く続くことになること、中国が弱体化したときに、かつての中ソ対立が激化したときのように、中露対立が激化することも計算入れ、対露戦略を考えていく必要があります。
中露対決が激化したとき、ロシアは最大の危機を迎えます。現在のロシアのGDPは東京都や韓国なみです。日本の1/3規模です。そのロシアがクリミア占領や、中東に軍隊を派遣したりしているのです。
現状では、かつてのソ連のように、米国と制裁合戦をする余力もなく、米国から一方的に制裁をされるだけの状態です。かつてのソ連なら、米国から制裁をされたら、何らかの方法でそれに対して必ず報復したものです。やはり、経済が日本の1/3の国にできることは限られています。現状では米国抜きのNATOに対してもまともに対峙することは不可能です。
無論ロシアは、旧ソ連の核兵器や軍事技術を引き継いでいますから、軍事的には侮ることはできませんが、経済的には日本と比較すれば、小国と言っても良いくらい規模です。世の中には、未だロシアを超大国とみなし、北方領土の返還など、ありえないとする人もいますが、そんなことはありません。
やりかたを間違えなければ、帰ってくる可能性は、十分にあります。
ポストプーチンでロシア国内の求心力が弱まり、中露対立がかなり高まったときこそが、日本にとっての最大のチャンスです。
現状では、中露の経済力の差はとてもなく大きく、さらにロシアの人口が1億4千万であるのに比して、中国は13億人以上です。
これでは、現在のロシアは、どうみても中国に対抗できるわけもありません。しかし、米国による対中国冷戦で中国経済は弱体化しつつあります。更に弱れば、ロシアは積年の恨みつらみから、ロシアの中国に対する不満はいずれ大爆発します。
その時には、中露対立が顕になり、国境紛争も再度勃発することになるでしょう。現状の、中露の協調関係など、上辺だけのものに過ぎません。これは、元々はいつ破綻してもおかしくない関係なのです。
1969年3月2日中ソ国境紛争 |
その時こそ、日本の北方領土返還交渉のやり時なのです。安倍総理は、完璧に時期を間違えたと思います。
4島返還を本気で狙うなら、今から戦略を立てるべきです。当面は、ロシアには目もくれず、とにかく中国弱体化に勤しむべきなのです。
本来は、そのような時にいくら麻生氏が政権運用に不可欠とはいいながら、財務省の馬鹿共の策略にひっかりり増税などしている場合ではないのです。
国力を増す北方領土交渉を有利にするためにも、今は経済を良くするため、デフレからの完全脱却のために、増税などすべきではないのです。
安倍総理は、今のままだと、憲法改正はできず、北方領土交渉にも緒すらつけられず、政治生命を終えることになりかねません。
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