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2019年9月20日金曜日

ロシア統一地方選の結果をいかに見るべきか―【私の論評】日本が本気で北方領土返還を狙うというなら、今は中国弱体化に勤しむべき(゚д゚)!

岡崎研究所

 9月8日、ロシアでは、州知事や共和国の首長などを選出する統一地方選挙が実施された。このところ、モスクワでのデモ、地方での環境保護を求める抗議活動といった、プーチンの人気に陰りが出ていることを示す出来事が目に付くようになってきていたため、それなりに注目されたが、結果は、モスクワ市議会選挙などごく一部を除き、プーチンの与党の圧勝であった。モスクワ市議会選挙では共産党が勝利した。


 モスクワでは、今回の統一地方選挙に向けて野党系の候補者をプーチン政権側が不当に排除したのではないかということで、真の自由選挙を求めるデモが毎週行われていた。一方、地方では、モスクワその他の都市からのゴミの大きな埋め立て地を田舎に作る計画に対し、多くの抗議活動が行われている。そのほか、不満の源には、インフレ、停滞する生活水準 、定年延長、長距離トラックへの新しい通行料、ソーシャルメディア規制などがある。

 モスクワでのデモのインパクトが限定的であるのは、環境悪化や生活コストなどについてのロシア社会の不満を取り込むことに失敗しているためである。真に競争的選挙を呼びかけるというのは価値のあることではあるが、少し理念的に過ぎ、大衆の生々しい不満を反映する幅広いアピールに欠けている。他方、地方での抗議活動は生活に根差した不満の反映ではあるが、そこまで深刻なものではないということであろう。

昨年5月にも大統領就任式を前に各地で大規模な抗議デモが
 ロシアにおける抗議活動はプーチンの人気が下り坂にあることを示しているものの、今回の統一地方選挙の結果からも、プーチンが2024年までの任期を全うすることに問題を投げかけられているような状況にはないと言える。モスクワのデモも、市議会選挙で共産党(選挙から排除された野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイが支持を呼び掛けていた)が勝利したこともあり、次第に収束していくのではないか。

 ただ、プーチン流の強権的なシステムが長期的に続くかどうかは、慎重な検討が必要であろう。フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのTony Barberは、8月26日付け同紙に‘After two decades in power, Putin should heed the warning signs’と題する論説を掲載、今後のロシアについて展望を示している。Barberは、以下のような点を指摘している。

・プーチンは2000年から2008年にかけて、エリツィン時代の社会混乱を克服し、石油価格上昇を通じて所得増を実現し、人気のある指導者であった。

・最近では、経済的不満、環境についての懸念、権力濫用への不平が、ロシア国民に対するプーチンの立場を悪くしているが、プーチンの権力掌握は弱くない。彼は反対を打ち砕く圧倒的な力を持っており、取り巻きは富と生き残りのために彼に依存している。

・しかし、時の経過とともに、ポスト共産主義の初期の経済・社会の崩壊を覚えている世代は消え去っており、プーチン以外の指導者を知らない若いロシア人が出てきている。少なくとも彼らの一部は変化を強く望んでいる。

・ロシア史を振り返ると、こうした時代は過去にもあった。ニコライI 世の長く専制的な支配が終わった 1850年代、 1953年のスターリン死後、ブレジネフの「停滞の時代」が終わった 1980年代である。 ピョートル大帝以来、ロシアでは、改革と反動が交代してきた。

・モスクワでのデモや環境についての抗議活動に次の自由化のサイクルを見るのは時期尚早であるが、何事も永遠ということはない。

 このBarberの論説は、ロシア史を踏まえて書かれた良い論説である。ロシア史は、スラブ主義者と欧化主義者が交代して指導者になってきた歴史であると考えてよい。Barberは改革と反動の交代と言っているが、そうも言えるだろう。

 プーチン後は、欧米諸国との関係を重視する政権がすぐにではないにしても、出てくる必然性が高いように思われる。どれくらいのスピードでそうなるかは分からないが、一旦変化が生じると加速度がついて、行き過ぎたりするようなところがロシア人にはある。

 それから、プーチンが任期満了後にすんなりと退任するのかという問題がある。つまり、鄧小平やカザフスタンのナザルバエフのような最高指導者を目指す可能性はないのかということである。これについては、ロシアには「院政」の伝統はないと思われるので、可能性はあまり高くないのではないだろうか。

【私の論評】日本が本気で北方領土返還を狙うというなら、今は中国弱体化に勤しむべき(゚д゚)!

9月5日にウラジオストクで行われた安倍晋三首相とプーチン・ロシア大統領の通算27回目の首脳会談は、平和条約交渉で一切進展がなく、暗礁に乗り上げた形でした。ロシア側は「2島」すら引き渡さない方針を固めており、安倍首相の「独り相撲」(朝日新聞と産経新聞の社説)が鮮明になりました。安倍外交は対露戦略の総括と見直しが急務です。

第27回日露首脳会談

日露両国は昨年11月のシンガポールでの首脳会談で、歯舞、色丹2島引き渡しをうたった1956年日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速することで合意し、今年から本格交渉に入ったのですが、ロシア側は一転して高飛車に出ました。国是の「4島返還」から「2島」へ譲歩することで妥結は可能とみなした安倍首相の判断は裏目に出ました。

産経新聞(9月3日)は、ロシアが1月の国家安全保障会議で、「交渉を急がず、日本側のペースで進めない」「第2次大戦の結果、4島がロシア領となったことを日本が認める」などの交渉方針を決めたと報じました。事実なら、対日強硬路線を機関決定したことになり、プーチン大統領やラブロフ外相の一連の強硬発言もこれによって説明がつきます。

その背景として、大統領の支持率低下や民族愛国主義など国内要因が指摘されますが、むしろこの1年の米中露3国関係の構図の変化がロシア外交に与えた衝撃が大きいようです。

米露関係は、米国が対露制裁を強化し、国防予算を拡大して新型兵器開発を進めるに及んで、ロシアにとってはオバマ時代よりも悪化しました。ロシアは中国一辺倒外交に傾斜し、米中貿易戦争の長期化で、中国もロシアの利用価値を重視するようになりました。
こうして「米国対中露」の対立構図が深まり、ロシアは日米同盟を問題視するようになりました。ロシアにとって日本の重要性は以前より低下し、北方領土問題は米中露3国関係の新展開の中に埋没したということでしょう。

今後、プーチン政権と交渉を続けても、領土問題は低調な議論が続くだけでしょう。「私とウラジーミルの手で必ず領土問題に終止符を打つ」という首相得意のフレーズは色あせ、これを信じる国民はもはやいないです。むしろプーチン政権の存在自体が領土交渉の足かせになっているとの認識を持つ必要があります。

交渉が事実上破綻した今、安倍首相はこれまで秘匿してきた大統領との交渉内容を部分的にでも国民に開示し、領土政策を「4島」から「2島」に転換した真意を説明すべきでしょう。

対露支援8項目協力など経済協力を優先し、国家主権意識や安全保障観の希薄な経済産業省主導外交が通用しなかったことも、この際総括する必要があります。

大都市の若者が毎週末に行う反プーチン・デモが示すように、ロシアの若い世代には長期政権への閉塞感や国際的孤立への不満が強い。ポスト・プーチン時代を見越した長期的な対露戦略の再構築を図るべきです。

さらには、このブログでも過去に主張してきたように、現在の米中冷戦は、これからも長く続くことになること、中国が弱体化したときに、かつての中ソ対立が激化したときのように、中露対立が激化することも計算入れ、対露戦略を考えていく必要があります。

中露対決が激化したとき、ロシアは最大の危機を迎えます。現在のロシアのGDPは東京都や韓国なみです。日本の1/3規模です。そのロシアがクリミア占領や、中東に軍隊を派遣したりしているのです。

現状では、かつてのソ連のように、米国と制裁合戦をする余力もなく、米国から一方的に制裁をされるだけの状態です。かつてのソ連なら、米国から制裁をされたら、何らかの方法でそれに対して必ず報復したものです。やはり、経済が日本の1/3の国にできることは限られています。現状では米国抜きのNATOに対してもまともに対峙することは不可能です。

無論ロシアは、旧ソ連の核兵器や軍事技術を引き継いでいますから、軍事的には侮ることはできませんが、経済的には日本と比較すれば、小国と言っても良いくらい規模です。世の中には、未だロシアを超大国とみなし、北方領土の返還など、ありえないとする人もいますが、そんなことはありません。

やりかたを間違えなければ、帰ってくる可能性は、十分にあります。

ポストプーチンでロシア国内の求心力が弱まり、中露対立がかなり高まったときこそが、日本にとっての最大のチャンスです。

現状では、中露の経済力の差はとてもなく大きく、さらにロシアの人口が1億4千万であるのに比して、中国は13億人以上です。

これでは、現在のロシアは、どうみても中国に対抗できるわけもありません。しかし、米国による対中国冷戦で中国経済は弱体化しつつあります。更に弱れば、ロシアは積年の恨みつらみから、ロシアの中国に対する不満はいずれ大爆発します。

その時には、中露対立が顕になり、国境紛争も再度勃発することになるでしょう。現状の、中露の協調関係など、上辺だけのものに過ぎません。これは、元々はいつ破綻してもおかしくない関係なのです。

1969年3月2日中ソ国境紛争

その時こそ、日本の北方領土返還交渉のやり時なのです。安倍総理は、完璧に時期を間違えたと思います。

4島返還を本気で狙うなら、今から戦略を立てるべきです。当面は、ロシアには目もくれず、とにかく中国弱体化に勤しむべきなのです。

本来は、そのような時にいくら麻生氏が政権運用に不可欠とはいいながら、財務省の馬鹿共の策略にひっかりり増税などしている場合ではないのです。

国力を増す北方領土交渉を有利にするためにも、今は経済を良くするため、デフレからの完全脱却のために、増税などすべきではないのです。

安倍総理は、今のままだと、憲法改正はできず、北方領土交渉にも緒すらつけられず、政治生命を終えることになりかねません。

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2018年11月16日金曜日

米国が本気で進める、米中新冷戦「新マーシャル・プラン」の全貌―【私の論評】日本は中国封じ込めと、北方領土返還の二兎を追い成功すべき(゚д゚)!

米国が本気で進める、米中新冷戦「新マーシャル・プラン」の全貌

北方領土問題とも無関係ではない
ジャーナリスト
長谷川 幸洋

マーシャル・プランを発表するジョージ・C・マーシャル氏 写真はブログ管理人挿入 以下同じ


米ソ冷戦下の「援助計画」に酷似

米国の「中国包囲網」作りが急ピッチで進んでいる。トランプ政権はインド太平洋諸国の社会基盤(インフラ)整備に、最大600億ドル(約6兆8000億円)の支援を決めた。米ソ冷戦下の欧州復興計画(マーシャル・プラン)を思い起こさせる。

支援計画は、来日したペンス副大統領と安倍晋三首相との会談後の記者会見で発表された。会談では、日本が100億ドルを上乗せすることで合意し、支援総額は最大700億ドル(約7兆9000億円)になる。各国の発電所や道路、橋、港湾、トンネルなどの整備に低利融資する。

これはもちろん、中国の経済圏構想「一帯一路」を念頭に置いている。中国は各国のインフラ整備に巨額融資する一方、相手国の返済が苦しくなると、借金のかたに事実上、取り上げてしまうような政策を展開してきた。スリランカのハンバントタ港が典型だ。

ペンス氏はこれを「借金漬け外交」と呼んで、批判してきた。今回の支援計画には、そんな中国による囲い込みをけん制する狙いがある。「自由で開かれたインド太平洋」というキャッチフレーズは、まさにインド太平洋が「中国の縄張り」になるのを防ぐためだ。

この計画を米国がいかに重視しているかは、なにより金額に示されている。ポンペオ国務長官は7月、インド太平洋諸国に総額1億1300万ドルの支援を表明していた(https://jp.reuters.com/article/usa-trade-indian-ocean-china-idJPKBN1KK1W4)。それが、なんと一挙に530倍に膨れ上がった。こう言っては失礼だが、ケチなトランプ政権としては「異例の大盤振る舞い」だ。

支援の枠組みも一新した。 この話をいち早く特ダネとして報じた読売新聞(11月10日付朝刊)によれば、それまで米国の海外支援は国際開発庁(USAID)と海外民間投資公社(OPIC)の二本立てだった。ところが、10月に海外支援を強化するビルド法(BUILD)を成立させ、国際開発金融公社(USIFDC)に一本化した。そのうえで、新公社に600億ドルの支援枠を設けた、という。

10月といえば、ペンス副大統領が中国との対決姿勢を鮮明にする演説をしたのが10月4日である(10月12日公開コラム、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57929)。その後、ペンス氏の来日に合わせて、日本の協力もとりつけたうえで計画を発表した。

ペンス演説から1ヵ月という動きの速さに注目すべきだ。本当の順番は逆で、トランプ政権は水面下で支援の枠組み作りを先行させ、メドが立ったのを確認したうえで、ペンス演説を世界に発信したのかもしれない。それほど、手際の良さが際立っている。

そうとでも考えなければ、わずかな期間で支援額を530倍にするような芸当は難しい。

支援額と発表のタイミングから、私は米ソ冷戦下の欧州復興計画(マーシャル・プラン)を思い出した。1947年6月、当時のマーシャル米国務長官が戦争で荒廃した欧州の復興を目的に発表した大規模援助計画である。

「冷戦のセオリー」通りの展開

米国は1951年6月までに、ドイツやフランス、オランダ、イタリアなど西欧諸国を対象に、総額102億ドルに上る食料や肥料、機械、輸送機器など物資と資金を提供した。マーシャル・プランなくして、西欧の復興はなかったと言っていい。

マーシャル・プランは単なる経済援助ではなかった。チャーチル英首相の「鉄のカーテン演説」(46年)から始まりつつあった「ソ連との冷戦」を戦う仕掛けの一つだった。自由な西欧を早く復興させ、米国とともに東側の共産勢力と対峙するためだ。

クリントン元大統領が1997年のマーシャル・プラン50周年記念式典で明らかにした数字によれば、102億ドルの援助額は現在価値にすると、880億ドルと見積もられている。偶然かもしれないが、今回の700億ドルは当時の援助額にほぼ匹敵する数字である。

チャーチル演説から1年後のマーシャル・プランと、ペンス演説から1カ月後のインド太平洋支援計画というタイミングも、まさに「歴史は繰り返す」実例を目の当たりにしているようだ(チャーチル演説など米ソ冷戦との比較は10月26日公開コラム参照、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58138)。

トランプ政権はあたかも、かつて米国がソ連相手に展開した「冷戦のセオリー」にしたがって、政策を打ち出しているかのように見える。そうだとすれば、これから何が起きるか。

経済援助から始まったマーシャル・プランは、次第にソ連を封じ込める軍事援助の色彩を強めていった。同じように、先の読売記事によれば、今回のインド太平洋支援計画も支援対象を「外交・安全保障政策上の理由から戦略的に選べるしくみとなった」という。

トランプ政権は当分、認めないだろうが、支援計画は次第に「中国封じ込め」の色彩を濃くしていく可能性がある。

ペンス演説は中国との対決姿勢を鮮明に示していたが、トランプ政権は公式には「中国との冷戦」や「封じ込め」の意図を否定している。たとえば、ポンペオ国務長官は11月9日、ワシントンで開いた米中外交・安全保障対話終了後の会見で「米国は中国に対する冷戦や封じ込め政策を求めていない」と語った。

だが、それを額面通りに受け止めるのはナイーブすぎる。私はむしろ、国務長官の口から「冷戦」「封じ込め」という言葉が飛び出したことに驚いた。言葉の上では否定しながら、それが世界の共通理解になりつつあることを暗に認めたも同然だ。

安全保障の世界では、国家の意図を指導者の言葉ではなく、実際の行動で理解するのは常識である。トランプ政権の意図は国務長官の言葉ではなく、中国の「一帯一路」に対抗するインド太平洋諸国への大規模支援計画という行動に示されている。

南シナ海は「中国の縄張り」に

一方、中国はますます強硬になっている。

米国は米中外交・安保対話で南シナ海の人工島に設置したミサイルの撤去を求めたが、中国は応じなかった。2015年9月の米中首脳会談で、習近平国家主席が「軍事化の意図はない」とオバマ大統領に言明した約束を守るようにも求めたが、中国側は「外部からの脅威に対抗する施設も必要だ」と開き直った。

それだけではない。 11月14日付読売新聞によれば、中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に対して、南シナ海で外国と軍事演習するときは、事前に中国の承認を求めている。要求は中国とASEANが検討中の南シナ海における行動規範の草案に盛り込まれた、という。

草案が採択されたら、南シナ海で米国や日本とASEAN加盟国の軍事演習は事実上、難しくなる。南シナ海が中国の縄張りになったも同然だ。

米ソ冷戦下では、マーシャル・プランの後、1950年1月から対共産圏輸出統制委員会(COCOM)が活動を始め、東側諸国への軍事技術や戦略物資の輸出が禁止された。

米国は8月、情報漏えいの恐れから国防権限法に基づいて、米政府及び政府と取引のある企業・団体に対して、中国政府と関係が深い通信大手、HuaweiやZTE製品の使用を禁止した。この延長線上で、中国への輸出を規制する「中国版COCOM」の策定も時間の問題ではないか。

以上のような米中のつばぜり合いを目の当たりにしても、日本では、いまだ米中新冷戦を否定し「貿易戦争は妥協の決着が可能」といった楽観論が一部に残っている。おめでたさを通り越して、ピンぼけというほかない。

現実を真正面から見ようとせず、願望混じりの現状認識が日本を誤った方向に導くのだ。

米中新冷戦とロシアの思惑

さて、ここまで書いたところで、北方領土問題についてニュースが飛び込んできた。安倍晋三首相が11月14日、シンガポールでロシアのプーチン大統領と会談し、1956年の「日ソ共同宣言」を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意した、という。

日ソ共同宣言には、平和条約を締結した後、歯舞、色丹の2島を日本に引き渡すと明記されている。したがって、平和条約が結ばれれば、北方4島のうち、少なくとも歯舞、色丹は日本に戻ってくることになる。

ここに来て、日ロ交渉が前進しているのはなぜか。

私は、最大の理由はここでも「米中新冷戦」にある、とみる。11月2日公開コラム(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58279)で指摘したように、ロシアは中国を潜在的なライバルとみている。中国が米国とガチンコ対決に入るなら、ロシアは逆に米国に接近する可能性があるのだ(この点は月刊『WiLL』12月号の連載コラムでも「米中冷戦で何が動くのか」と題して指摘した)。

その延長線上で、ロシア側には日本とも関係改善を図る動機があった。それが、今回の平和条約交渉加速につながっているのではないか。

9月14日公開コラム(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57520)に書いたように、北方領土問題の最大のハードルは「返還された領土に米国が米軍基地を置くかどうか」である。つまり、米国が問題解決の大きな鍵を握っている。

だが、その米国が中国を最大の脅威とみて「戦う資源」を中国に集中させていくなら、北方領土に米軍基地を新設して、わざわざロシアとの新たな火種を作る必要はない。安倍首相もプーチン氏も、そんな安全保障環境の新展開を受けて、交渉加速を合意した可能性が高い。

東アジアはまさに大激動の局面を迎えている。

【私の論評】日本は中国封じ込めと、北方領土返還の二兎を追い成功すべき(゚д゚)!

マーシャル・プランというと、中国の「一帯一路」を中国版「マーシャル・プラン」であるとする識者もいます。

これについては、英誌"The Economist"に"Will China’s Belt and Road Initiative outdo the Marshall Plan?"(中国の一帯一路構想は、マーシャル・プランに勝るか?)という記事が参考になります。以下に要約和訳して引用します。
マーシャル・プランと言えば、大規模な資金援助であったかのように思われがちですが、実際には、驚くほど少なかったということを歴史学者は指摘しているようです。資金援助を受けた国(16ヶ国)のGDPの2.5%に満たない額というのですから、確かに、資金援助としては「小さい」としか言い様がないですね。

これに対して、一帯一路構想は、既に締結された契約投資額で既にマーシャル・プランを上回っていて、2017年5月の中国政府主催の会議では、今後5年間の投資額は1500億ドルに達し、中国当局は1兆ドルでも問題ないというスタンスのようであり、金額については、一帯一路構想の圧勝です。

「量」で勝てなかったら、「質」ではどうだ!?という感じで、定性的な比較が始まります。 
金額だけでは一帯一路構想の過大評価につながるのと同時に、マーシャル・プランの貢献度を過小評価することにもなるとして、マーシャルプランの意義を援助金の額ではなく、市場適合的な政策を促進した点にあるとしています。すなわち、米国からの援助金を受け取る条件として、欧州各国の政府は金融の安定性を回復させ、貿易障壁を取り除いたり、また、マーシャルプランによる援助額と同額の自国通貨を積み立てることが義務付けられ、この積立金は米国の承認を得た場合にのみ使用が許されるなど、マクロ経済の安定化や貿易自由化、資本蓄積の推奨など市場経済の導入を促進したわけです。 
これに対して、中国の一帯一路構想が、資金援助国の市場経済化に貢献することはないと言い切ります。というのは、マーシャル・プランの成功要因は、資金配分の役割を市場に任せたところにあり、国家資本主義の中国政府は、国内の経済でさえ市場に任せず、国家統制しているから、同構想の資金を市場に任せないが故に失敗すると結論づけています。
以上のことから、中国の「一帯一路」は、マーシャル・プランとはそもそも異なることがわかります。中国は元々、民主化、政治と経済の分離、法治国家化ができていないわけですから、マーシャル・プランが目指した、マクロ経済の安定化や貿易自由化、資本蓄積の推奨など市場経済の導入の促進などてできないということです。

一方米国の経済支援は、どの程度の範囲でこの資金を提供するかは今のところ、わからないものの、金額自体はマーシャル・プランと同規模のようです。そうして、米国としては支援対象国に対して、マクロ経済の安定化や貿易自由化、資本蓄積の推奨など市場経済の導入の促進をはかるでしょうから、やはりマーシャル・プランとかなり似た性格のものになるでしょう。

エコノミクス誌は、マーシャル・プランの成功要因は、資金配分の役割を市場に任せたところにあるとしています。一方、「一帯一路」は、資金を国家統制し市場に任せないので失敗するとしています。

このブログでは、以前から対外ブロジェクトは、自国よりもかなり大きく経済成長で実行(例えば成長率数%の成熟国が、成長率10%以上の成長国に投資)すると、見返りが大きいのですが、そうでない場合は見返りが小さいということで、現在の中国は経済成長が停滞しているもののある程度の伸びは達成しているのですが、「一帯一路」の当該国はさほど経済成長しているところはないので、「一帯一路」は、失敗するとしてきました。

AIIB当初参加国

いずれにしても、「一帯一路」は失敗するのは最初から、確定と言って良いものと思います。1980年代のソ連のように、中国の労働力がもたらした長期的な繁栄は尽きようとしており、投資によって成長神話を維持しようとしています。「一帯一路」の失敗と米国による対中国「冷戦Ⅱ」により、中国はかつてのソ連のように滅亡へと向かう力の前に倒れてしまうことになるでしょう。

一方、「新マーシャル・プラン」は、マーシャル・プランと同じように、マクロ経済の安定化や貿易自由化、資本蓄積の推奨など市場経済の導入の促進という目的にすれば、成功する確率は高いでしょう。

さらに、日本が100億ドルを上乗せすることで合意し、支援総額は最大700億ドル(約7兆9000億円)になったことも有意義であったと考えます。そもそも、中国の「一帯一路」などの対象地域になる国々は米国に対する反発心が強いです。米国が単独で投資ということになれば、かなり難しいです。

しかし、これに日本が関与し、日本がこれらの国々と米国を橋渡しすれば、かなりやりやすくなるのは間違いないです。

上の記事では、長谷川氏は、
ここに来て、日ロ交渉が前進しているのはなぜか。

私は、最大の理由はここでも「米中新冷戦」にある、とみる。ロシアは中国を潜在的なライバルとみている。中国が米国とガチンコ対決に入るなら、ロシアは逆に米国に接近する可能性があるのだ。その延長線上で、ロシア側には日本とも関係改善を図る動機があった。
としています。

米国の戦略家である、ルトワック氏は従来から、中ロ接近は見せかけにすぎないことを指摘していました。それについては、ブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【西村幸祐氏FB】ルトワックはウクライナ危機でシナとロシアの接近は氷の微笑だと分析する。―【私の論評】東・南シナ海が騒がしくなったのは、ソ連が崩壊したから! 安全保障は統合的な問題であり、能天気な平和主義は支那に一方的に利用されるだけ(゚д゚)!
ルトワック氏
この記事は、2014年5月のものですが、この時点でルトワック氏は簡単にまとめると中ロに関しては、以下のうよな予想をしています。
ロシアは、中国とは仲良くならない。シベリアなどに侵食してくる中国を脅威だとみているからだ。むしろ、ロシアは中国をにらみ、本当は日米と協力を広げたいはずだ。
実際、ロシアは以前からそう考えていたのでしょう。安倍総理も従来から、ロシアを対中国封じ込めの一角に据えたいと考えていたようです。

ここにきて、ペンス副大統領の言う「冷戦Ⅱ」が本格的に始まったわけですから、ロシアとしては日米に急接近したいと考えるのは当然でしょう。米国による制裁の停止や、日本の経済援助など喉から手が出るほど欲しがっていることでしょう。

ロシアは軍事力は未だに強力であり、そのために大国とみられていますが、一方では経済ではいまや韓国よりもわずかに下です。その韓国の経済の規模は東京都と同程度です。これを考えると、最早ロシアは大国ではありません。



北方領土交渉も、日ロの関係だけではなく、中国や米国も考慮しなければならない事項となってきたともいえます。ただし、このような状況になったからこそ、返還交渉が急加速する可能性もでてきたということです。

安倍総理としては、この機会を逃さず、さらなる中国封じ込めと、北方領土返還の両方に成功して頂きたいものです。そうして、これはやりようによっては、成功する見込みは十分にあると思います。

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2018年9月21日金曜日

北方領土問題は今度こそ動くのか 「2島返還論」のタブーを解禁するとき―【私の論評】GDPが東京都より若干小さい小国ロシアを文字通り小国にすれば、北方領土はすぐ返還される(゚д゚)!

「2島返還論」のタブーを解禁するとき

北方領土の国後島を訪問したロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領
(当時、2010年11月1日撮影、資料写真)

 自民党総裁選挙で、安倍首相が3選された。3期目に積み残した課題は多いが、その1つは北方領土問題だ。9月12日にウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムで、ロシアのプーチン大統領は、突然「前提条件なしで年末までに平和条約を結ぼう」と提案したが、安倍首相はその場では答えなかった。

 これについて総裁選挙では、石破茂氏が「領土交渉が振り出しに戻った」と批判したのに対して、安倍首相は「ロシアはいろんな変化球を投げてくるが、ただ恐れていてはだめだ」と否定的ではなかった。1956年の日ソ共同宣言から動かなかった北方領土問題は、今度は動くのだろうか。

北方領土は「日本固有の領土」か

 多くの日本人は「歯舞・色丹・国後・択捉の北方4島は日本固有の領土だ」という政府見解を信じているだろうが、問題はそれほど自明ではない。歴史的には、この4島に日本人が住んでいたことは事実だが、国境線は動いた。

 外務省ホームページによると、1855年、日魯通好条約で、択捉島とウルップ島の間の国境が確認された。1875年の樺太千島交換条約では、千島列島をロシアから譲り受ける代わりに樺太全島を放棄したが、1905年のポーツマス条約では日本が南樺太を譲り受けた。

 1945年2月のヤルタ会談で南樺太と千島列島をソ連の領土にするという密約が結ばれたが、これには法的根拠がない。1945年7月のポツダム宣言では、日本の主権が「本州、北海道、九州及び四国並びに連合国の決定する諸島」に限定されると規定したが、この宣言にソ連は署名していない。

 日ソ中立条約に違反して1945年8月に参戦したソ連は、北方4島を武力で占領したが、その後も日本とは平和条約を結んでいない。1951年のサンフランシスコ平和条約で日本は「千島列島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄」したが、この条約にソ連は参加していない。

 1956年の日ソ交渉では、領土問題について日ソ間で意見が一致する見通しが立たないため、戦争状態の終了と外交関係の回復を定めた日ソ共同宣言を締結した。このとき「歯舞群島及び色丹島は平和条約の締結後、日本に引き渡す」と明記されたが、国後・択捉については何も決まっていない。いつまでも日ロ関係を混乱させている北方領土問題とは、この2島の問題に過ぎないのだ。

2島返還論という「変化球」

 プーチン大統領の提案は「平和条約を結んでから領土問題を話し合おう」というものだが、2島を「平和条約の締結後、日本に引き渡す」という約束を実行するなら検討に値する。彼は「いま思いついた」と言ったが、このように重要な問題について思いつきで発言するとは考えにくい。おそらく日ロの事務レベルでは合意できなかったので、彼の独断で提案したのだろう。

 その真意は分からないが、最近のロシア経済の苦境から推定すると、平和条約を結んで経済を回復しようということかもしれない。ロシアはずっと「クリル諸島(千島列島)はすべてロシアの領土だ」と主張しており、クリル諸島には北方4島がすべて含まれているので、歯舞・色丹を返還するだけでも彼らにとっては譲歩だ。

 だが日本政府の定義では、4島は千島列島に含まれないので、2島だけ返還すると「固有の領土」である国後・択捉を放棄することになる。2島返還論は外務省がずっと否定してきたもので、自民党も反対してきた。ところが今回、自民党でも右派と見られていた安倍首相が、これに前向きともとれる態度を取ったのは意外だ。

 日本政府が4島返還の原則を変えない限り平和条約は締結できないが、国後・択捉を返還されても日本人が移住することは困難で、経済的メリットはほとんどない。割り切って考えると、安全保障と2島の領有権のどっちが重要かというバランスの問題だろう。

「4島か2島か」より大事な問題

 2島返還論は、この62年間タブーだった。「それは戦後のドサクサにまぎれてソ連が不法占拠した主権侵害を事後承認するものだ」という主張は、筋論としては正しいが、それが日本政府の一貫した方針だったわけではない。

 サンフランシスコ条約で「千島列島」の領有権を放棄したとき、国会で吉田茂首相は南千島(国後・択捉)は千島列島に含まれると答弁した。日本も一時は、2島返還で平和条約を結ぼうとしたという説もある。

 2016年の日ロ首脳会談のときプーチン大統領は、1956年の日ソ交渉のとき、アメリカのダレス国務長官が重光外相に「もし日本がアメリカの利益を損なうようなこと(2島返還)をすれば、沖縄は完全にアメリカの一部となる」と述べたと記者会見で語った。つまりアメリカは2島返還で平和条約を結ばないよう、日本に圧力をかけたというのだ。

 これが「ダレスの恫喝」といわれる話で、プーチン大統領がそれを引き合いに出したのは、「日本も本当は2島返還を考えていた」と言いたいのだろうが、そういうアメリカ政府の方針は外交文書で確認できない。そういう経緯があったとしても、2島返還を正当化する根拠にはならない。

 それより大事な問題は、もし歯舞・色丹が返還されたら、そこに自衛隊や米軍の基地を設置するのかということだ。これはロシアにとっては脅威になるが、日本にとっては2島返還でも基地を置くことができれば重要な意味がある。領土問題は国家主権の問題であるとともに、日米同盟の問題である。

 原則論としては、4島返還が正しい。ここで日本が妥協すると、今後ロシアとの外交交渉でなめられるという懸念もあるだろう。だが日本とロシアのような大国間で平和条約が締結されていない状況は異常であり、安全保障の上で問題がある。

 平和条約では領土を確定するので、そこに2島返還を書けばいい。かつて日ソ中立条約を破って参戦したロシア人だから約束を守らないかもしれないという不信感もあるが、そういうことを言い出したら外交交渉はできない。このへんは外交テクニックの問題だろう。むしろ障害は、これまで固く2島返還を拒否してきた外務省にある。

 北方領土は、プーチン大統領と信頼関係を築いた長期政権の安倍首相にしか解決できない厄介な問題だ。そろそろタブーは解禁し、2島返還論を議論してもいいのではないか。

【私の論評】GDPが東京都より若干小さい小国ロシアを文字通り小国にすれば、北方領土はすぐ返還される(゚д゚)!

上の記事を書かいた方、なぜロシアがあそこまで北方領土の返還を渋るのかその理由がわかっていないようです。それがわかり、それに対象する方法を実行すれば、意外と北方四島はすんなりと返ってくるかもしれません。

ロシアがかたくなに北方領土返還を拒む理由筆頭は、軍事的理由を挙げることができます。

ロシアの核戦略上、北方領土が接するオホーツク海が極めて重要な位置を占めているのだ。これが、北方領土返還を嫌がる隠された理由です。

オホーツク海に潜むロシア太平洋艦隊所属の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)は、米本土を核攻撃できます。ロシアにしてみれば、北方領土、とりわけ、オホーツク海に面する択捉島、国後島の2島を日本に返還することは、ロシアの戦略原潜の安全にとってマイナスになってしまうのです。これが北方領土問題をややこしくしているのです。
 
この問題は冷戦時代に遡ることらができます。SSBNは、潜水艦の特性から海面下に潜むことができ、核戦争の最後まで生き残りを図ることができます。

そのため、冷戦時には、米ソ戦の決をつけるべく両国は相手国が最終的な核攻撃を行うか、この残存を梃子に戦争終結交渉に持ち込むかするだろうとみていました。まさに、最終的な核攻撃の前に、SSBNは、最後の切り札の役割を担うと考えられていたのです。
 
ソ連の海軍戦略は、このSSBNの安全確保を最重要の柱として組み立てられました。この作戦構想は、その区域には何ものも入れない、いわゆる『聖域化(たとえばオホーツク海の聖域化)』であり、専門用語では『海洋要塞戦略』と呼ばれました。

極東においても『海洋要塞戦略』の登場により、オホーツク海およびその周辺海域が、核戦略上の中核地域となるに至ったのです。

地上戦に敗れるようなことがあっても、SSBNの安全が確保されるかぎり、第二次大戦のドイツや日本のように無条件降伏を押し付けられることはない。そのような要求には『相互自殺』の脅しをもって応えることができるからです。

ソ連のアメリカに対する核戦略上の「最後の切り札」が、オホーツク海に潜む戦略原潜(SSBN)だったのです。そして、ソ連が崩壊してロシアになった今でも、この構図は基本的に変わりません。だからこそ、ロシアは今でも北方領土を返還することを渋るのです。

このあたりを認識した上で、産経新聞の論説副委員長・榊原智が四島返還の決め手について現実的な提案をしています。その記事のリンクを以下に掲載します。
【風を読む】四島返還の決め手はこれだ 論説副委員長・榊原智
北海道・根室半島の納沙布岬(左下)沖に浮かぶ
北方領土の歯舞群島=2016年12月、北海道根室市

この記事比較的短いので全文以下に引用します。
 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が22回目の会談をしたが、北方領土問題の進展はなかった。それどころかプーチン氏は、領土問題棚上げの平和条約締結という身勝手な提案をする始末である。 
 中立条約を破って侵攻し、不法占拠を続ける旧ソ連・ロシアが悪いに決まっているが、憤っているだけでは始まらない。そこで北方四島返還につながる秘策の一端を披露してみたい。 
 戦後日本の対露交渉上の問題点を、安倍政権も抱え込んでいる。ロシアにとっての北方領土の軍事的価値を十分に意識せず、その価値を突き崩す努力をしてこなかったという点だ。 
 ロシア人は日本人の想像以上に軍事を重視する。北方四島の広さの93%を占める択捉、国後両島はオホーツク海に面しており、この海にはロシアの核ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN、戦略原潜)が潜んでいる。北欧のバレンツ海に配備された戦略原潜と並ぶ、対米核攻撃用の虎の子だ。 
 米国がロシアに先制核攻撃をしても戦略原潜は生き残って米本土に報復核攻撃を行う。この死活的に重要な戦略原潜があればこそ、ロシアは米国の核攻撃を抑止でき、最悪でも無条件降伏を免れると考え、自国を米中両国と並ぶ「大国」と見なすこともできる。 
 択捉、国後両島の返還が実現すれば自衛隊や米軍がオホーツク海で潜水艦狩りをしやすくなる。日本がそれはしない、北方領土に基地も置かないという約束を持ちかけても、自国の国防の根幹と世界的地位に関わるためロシアは決して同意することはないだろう。 
 では、日本はどうすべきか。防衛省自衛隊の知見を対露外交に取り込むべきだ。知恵を絞って先端の科学技術で自衛隊の能力を高め、有事には北方領土を利用せずともオホーツク海に潜むロシアの戦略原潜とそこから発射される核ミサイルを迅速に無力化できる態勢を黙って整えればいい。これは専守防衛に反しない。共同経済活動よりも有効な返還促進策であり、対露交渉が進むこと請け合いだ。
これは、かなり現実的です。 確かに、有事には北方領土を利用せずともオホーツク海に潜むロシアの戦略原潜とそこから発射される核ミサイルを迅速に無力化できる態勢を整えれば、ロシアが北方領土にこだわる理由はないし、これと北欧のバレンツ海に配備された戦略原潜も無効化できようになれば、ロシアは名実ともに小国になり果てるからです。

ロシアが小国というと、怪訝に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、現在のロシアは経済的にみても、科学技術や国の体制や人口をみてもとても大国とはいえません。小国と呼ぶのがふさわしいです。

なぜなら、まずはGDPは日本の東京都よりも若干小さいです。韓国と東京都はだいたい同じくらいのGDPです。現在のロシアのGDPはなんと韓国よりも若干小さなくらいの規模なのです。

そうして、産業構造は過渡に石油や天然ガスに頼る状況であり、その他は軍事技術は別にして、さしたる技術などありません。その意味ではまさしく発展途上国と言っても良いくらいです。

さらに、人口は1億4千万人であり、日本の1億2千万人より若干多いくらいです。あの広大な領土にこの人口です。これは、中国には遠く及ばないですし、インドにも及びませんし、米国にも及びません。

これでは、とてもロシアを大国などとよぶわけにはいきませんが、ただし上の記事にもあように、米国がロシアに先制核攻撃をしても戦略原潜は生き残って米本土に報復核攻撃を行います。この死活的に重要な戦略原潜があればこそ、ロシアは米国の核攻撃を抑止でき、最悪でも無条件降伏を免れると考え、自国を米中両国と並ぶ「大国」と見なすことができているのです。

このことだけが、かろうじて現在にのロシアが「大国」扱いされるわけですが、それを除けば、ロシアの実体は小国と呼ぶにふさわしいです。

ロシアの戦略原潜

そうして、ロシアの原潜の潜むバレンツ海とオホーツク海の聖域を完璧に無効化してしまえば、ロシアは名実ともに小国になるわけです。そうなれば、経済大国日本が交渉すれば、ロシアは4島返還にも応ずることでしょう。

そのような状況になれば、なんといっても一番の脅威は中国です。ロシアは世界でもっとも長く中国と国境を接している国でもあります。中国もロシアのように一人あたりのGDPでは米国はおろか日本にも及ばないですが、それでも人口が13億79百万人と桁違いに多いです。

さらに、最近では経済力を伸ばし軍事力も伸ばしています。現在のロシアにとって、最大の軍事的な脅威は、中国です。

今のところは、ロシアは「大国」扱いで、中国がロシアの領土等に対して野心を抱いたにしても、かなり簡単に屈服させることができます。しかし、将来はどうなるかはわかりません。現状でも、ロシアと中国の国境があいまいになり、多数の中国人がロシア領に越境して、様々な活動や事業を実施しています。この状況は国境溶解として、このブログでも以前紹介したことがあります。

日日中国の脅威が増しつつあるロシアでは、いずれ中ロ関係を大事にするより、日米英同盟に接近することも十分考えらます。

さて、ロシアのオホーツク海の戦略原潜の聖域無効化する方法ですが、これについては榊原智氏も明らかにはしていません。

まず最初に考えられるのが、潜水艦です。南シナ化では、すでに日米の潜水艦がチョークポイントに潜み、中国の原潜等の監視にあたるほか、訓練なども行い、中国の喉元にあいくちを突きつけたような状況にあることこのブロクでも解説しました。

このように、日米がオホーツク海に多数の潜水艦艦を配置するというやり方もあると思います。ただし、中国は未だに南シナ海を中国の戦略原潜の聖域には未だしていません、というか出来ない状態にあります。

未だ中国が聖域化していない海域に、日米が潜水艦を配置したとしても、軍事的な対立は起こりにくいですが、すでにロシアが聖域化しているところに日米が潜水艦隊を常駐させるようなことをすれば、軍事的な緊張が極度に高まることになります。ただし、ロシアの対潜哨戒能力は日米と比較してかなり低いですし、ロシアの経済規模からすれば、これに対応することは限られています。実際に潜水艦を配置されてしまうと、ロシアは太刀打ちできなく亡くなるのは事実です。

これに変わる方法はないかと考えてみましたが、あります。それについては、以前もこのブログで紹介したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
潜水艦の時代は終わる? 英国議会報告書が警告―【私の論評】水中ドローンが海戦を根底から覆す(゚д゚)!
海上自衛隊の潜水艦「そうりゅう」

 これまでの「対潜水艦戦」(以下、ASW)は、少数の艦艇および有人機によって実行されていた。これらの仕事は、広大な荒野で逃亡者を探す少人数の警察のようなものだった。最も可能性の高い逃走ルートや隠れ家に戦力を集中させて、幸運を祈るだけであった。
 
 しかし、安価な無人機の登場によって、逃亡者の逃走は不可能になる。一人ひとりの探知能力は低いものの何千人もの応援が警察の側につき、隅から隅まで全域を探索するようになるからだ。 
 小型偵察ドローンが米軍を中心に増加している。精密攻撃が可能な小型無人機もイスラエルなどで登場してきている。
 しかも最近の米国防総省は、大量の小型ドローンを「群れ」として使う研究を進めている。例えば、米海軍は「コヨーテ小型偵察無人機」というASW対応の小型無人機を開発した。コヨーテ小型偵察無人機は哨戒機から投下されるや飛行形態に変形し、熱センサーで水温を測定し、風速・圧力などの様々なデータを収集可能する。 
 そもそも偵察機を飛ばす必要はなくなるかもしれない。米海軍が開発した小型水上無人機「フリマ―」は、今までASWの主力であったソノブイ(対潜水艦用音響捜索機器)の代替になる可能性がある。
 また、やはり米海軍が開発した「セイル・ア・プレーン」は、飛行機であると同時に偵察時は水上で帆を使って帆走し、太陽発電と波力発電で充電できる偵察機である。
 水中グライダー式の小型無人機もある(水中グライダーは推進機を持たず、浮力を調整することで水中を上下しながら移動する)。大阪大学の有馬正和教授が開発した「ALEX」は低コストの水中グライダーである。有馬教授は、1000ものALEXのような無人機の群れで構成される巨大な共同ネットワークで海洋研究調査を行うことを提唱している。
このような空中、海上、水中のドローンを開発して、 自衛隊の能力を高め、有事には北方領土を利用せずともオホーツク海に潜むロシアの戦略原潜とそこから発射される核ミサイルを迅速に無力化できる態勢を整えるのです。

分解したシーグライダー(水中ドローンの一種) ワシントン大学応用物理研究室が、
地球温暖化による氷河の変化を観察するため開発したもの  軍事転用もすすみつつある

無論最初は潜水艦等とドローンの混成であっても良いと思います。聖域から比較的離れたところに日米潜水艦隊が潜み、多数のドローンが隠密裏に聖域を常時監視し、何かあればすぐにドローンが潜水艦に連絡し、潜水艦や艦艇、航空機がすぐに攻撃をするという方式でも良いと思います。

ただし、将来は監視から攻撃までドローンがすべて行うという方式が望ましいと思います。これによって、ロシアの潜水艦は誰から攻撃されているかも、いつ攻撃されたのかもわからないうちに、海の藻屑と消えているような方式が望ましいと思います。

監視型、攻撃型のドローンを数百から数千もオホーツク海のロシアの戦略原潜の聖域に常時設置して、普段から哨戒任務にあたらせ、もしものことがあればすぐに原潜とミサイルを攻撃して無力化できるようにするのです。

そうして、実際にオホーツク海で多数のドローンを用いた演習をして、ロシア側にみせつけるのです。

これは、「はやぶさ」で惑星探査ができる技術力を持つ日本ならば、短期間のうちにできるはずです。

これにより、ロシアを文字通り小国化することができます。小国化したロシアは、日米と対立するよりは、日米に接近し、中国の脅威を払拭したいと考えるに違いありません。そのときに、日本がロシアと北方領土交渉すれば、かなり有利に交渉できるのは間違いありませんし、おそらく北方四島は日本に返還されるでしょう。

しかし、こうしたことをしないで、返還交渉をしたとしても、二島返還ですら相当難しいと思います。今こそ、発想の転換が必要です。

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