2026年10月1日木曜日

古謝県政が始動 沖縄はようやく「政策を動かすスタート台」に立った


まとめ
  • 2026年9月の沖縄県知事選では、古謝玄太氏が42万3124票の過去最多得票で当選し、12年ぶりの県政交代となった。古謝県政の実績評価はこれからだが、県民が県政の継続ではなく転換を選んだという事実は明確に出発点とすべきである。
  • 古謝県政では、「辺野古新基地建設問題対策課」から「早期返還対策室」へ行政の重点が移る。県政の評価軸も、何に反対したかだけではなく、普天間返還、基地負担軽減、所得、物流、産業などをどこまで具体的に動かしたかへ移ることが期待される。
  • 北海道でもラピダス、GX、AI、宇宙、食料安全保障などの国家政策を受け入れるだけでは地域資産にならない。地域の要求をまとめ、国の制度と投資を供給力、所得、産業基盤へ変える自治体の実装力が問われている。

沖縄県で12年ぶりに県政が交代した。9月13日の沖縄県知事選で、古謝玄太氏は42万3124票を獲得し、過去最多得票で初当選した。投票率は61.57%で前回を3.65ポイント上回り、自民党などが推す保守系知事の誕生は2014年以来12年ぶりとなった。9月30日に知事へ就任し、翌10月1日には新しい県政運営を象徴する組織改編も動き始めた。QABが報じた2026年沖縄県知事選の結果でも、この県政交代と得票結果が確認できる。QAB 琉球朝日放送 | もっとドキドキQAB

この選挙結果を曖昧に扱うべきではない。県民は投票を通じ、12年間続いた県政の継続ではなく、別の県政運営を選んだ。県政交代という明確な政治的選択が示された。古謝氏自身、選挙戦で玉城県政を「停滞」と評価し、国や企業を「悪者」にするだけでは沖縄の暮らしは良くならないと訴えていた。琉球新報の候補者アンケートや告示日のQAB報道からも、今回の選挙が県政運営の方法そのものを争点の一つとしていたことが分かる。琉球新報デジタル

10月1日には「辺野古新基地建設問題対策課」が廃止され、基地対策課内に「早期返還対策室」が設けられた。古謝氏は辺野古移設を容認する一方、普天間飛行場の危険性除去と早期返還、嘉手納以南の米軍施設返還を政府に求める方針を示している。

つまり、基地問題を県政から外したのではない。行政の焦点を「建設を止めるために何をするか」から、「返還という結果をどう取りに行くか」へ移そうとしているのである。

ここに今回の県政交代の大きな意味がある。国との協議、基地返還、沖縄振興、産業政策、所得向上という複数の政策手段を同時に使い、具体的な成果を取りに行く県政を試す条件が生まれた。沖縄は、新しいスタート台に立った。

そして、この問いは沖縄だけのものではない。ラピダス、GX、AI、宇宙、食料安全保障といった国家的政策が集中しつつある北海道にも、「国策を受け入れるだけの自治体で終わるのか、それとも国策を地域資産へ変えるのか」という同じ問題がある。

2️⃣古謝氏の「つなぐ」は、県政を再び交渉主体にできるか

古謝氏が選挙期間中から強調してきた言葉の一つが「つなぐ」である。県と経済界、県と市町村、県と県民が十分につながっていないとの認識を示し、それらを結び付けた上で中央政府と交渉するという構想を語ってきた。重要なのは、「国と仲良くする」という単純な話ではない。県内の市町村、企業、住民が抱える要求を県庁が集約し、それを政府の制度、予算、政策へ接続するという政策形成の経路を描いていることである。

県・市町村・経済界をつなぎ、政策実現を目指す沖縄県政の協議イメージ AI生成画像
この発想を具体化する一つの場が、古謝氏が再開を求める沖縄政策協議会である。同協議会は1996年9月17日の閣議決定で設置され、米軍施設・区域の集中が県民生活や地域振興へ及ぼす影響を踏まえ、地域経済の自立、雇用確保、県民生活の向上など、沖縄に関連する基本施策を協議する仕組みである。主宰するのは沖縄及び北方対策担当相で、内閣官房長官、関係閣僚、沖縄県知事などが構成員となる。内閣府「沖縄政策協議会の設置について」を見ると、県が政策を単独決定する機関でも、国と県があらゆる事項を共同決定する場でもないことが分かる。県知事が政府の関係閣僚に政策要求を提示し、調整する制度的な協議の場である。内閣府ホームページ

これは小さな違いではない。行政は主張を発信するだけでは住民生活を変えられない。基地問題なら返還時期、跡地利用、道路や交通網、住宅、産業立地まで具体化する必要がある。経済政策なら、物価高、物流コスト、中小企業の生産性、県民所得、観光消費などを実際に動かさなければならない。そのためには県庁だけでなく、市町村、経済界、中央省庁を動かす必要がある。

過去12年間には、辺野古移設をめぐる行政手続きや司法上の争いが県政の大きな比重を占めた。沖縄県は、公有水面埋立承認の撤回、設計変更申請の不承認、国地方係争処理委員会への申出、複数の訴訟などを続け、その経緯を沖縄県「辺野古移設に係る争訟記録」で公開している。しかし、その過程で最高裁判断や国土交通相による代執行に至り、県の法的対応だけでは工事を止められなかった案件も残った。

今回の選挙で県民が選んだのは、その県政の継続ではなかった。

この事実は正面から受け止める必要がある。古謝氏の「つなぐ」が意味を持つかどうかは、県内の意見をまとめ、政府との交渉を具体的な制度変更、予算、基地返還、所得向上へつなげられるかによって決まる。

古謝県政は、成果を約束されたスタート台に立ったのではない。

成果を取りに行き、その結果で評価されるスタート台に立ったのである。

2️⃣沖縄県民が選んだ「転換」を結果へ変えられるか

今回の県政交代を「辺野古反対から辺野古容認へ」とだけ説明すると、その意味を狭くしてしまう。変わる可能性があるのは政策上の立場だけではなく、県庁が限られた人員、時間、政治的資源を何に投入するかである。

過去の県政では、辺野古をめぐる行政・司法上の対応が重要な政策手段だった。しかし今回の知事選では、その路線を継続する候補ではなく、異なる県政運営を掲げた古謝氏が42万3124票という過去最多得票で当選した。行政・司法上の対応に一定の制度的意味があったことと、県民がその県政路線の継続を選ばなかったことは、同時に成り立つ。QAB 琉球朝日放送 | もっとドキドキQAB

その意味で、「辺野古新基地建設問題対策課」から「早期返還対策室」への変更は象徴的である。名称を変えれば基地が返還されるわけではない。普天間飛行場の返還には日本政府と米国政府の合意や作業が必要であり、沖縄県知事が単独で決定できる問題ではない。しかし県庁の行政組織に、何を政策目標として追わせるかという意味はある。古謝県政では、少なくとも「移設阻止」を主要な行政目的とする体制から、「返還を具体的に進める」ことを掲げる体制へ重点を移した。

住宅地に隣接する米軍基地。危険性除去と早期返還が問われる AI生成画像
ここは明るく、前向きに捉えてよい。

古謝氏の政策が正しいと先に結論づけるからではない。県政の評価軸を「誰と対立したか」から、「何を実現したか」へ移しやすくなったからである。国との関係が良好でも普天間返還が進まず、県民所得も伸びなければ、その県政は成果を出したとは言えない。一方、政府と厳しく交渉して基地負担の軽減や産業政策を引き出したなら、それは明確な成果である。

自治体の役割は、対立することでも協調することでもない。必要な時には異議を唱え、必要な時には協議し、使える制度を使い、最後に住民生活を改善することである。普天間飛行場の危険性をどう除去するのか。返還された土地を住宅、交通、企業立地などの地域資産へどう変えるのか。物流コストをどう下げ、企業の付加価値と賃金をどう引き上げるのか。沖縄の若者が県内で働き、家庭を持ち、将来を描ける環境をどうつくるのか。

古謝県政の真価は、これからそこに現れる。

ただし、その結果を競うためには、まずスタート台に立たなければならない。12年ぶりの県政交代は、そのための機会を沖縄にもたらした。県政とは、主張だけではない。最後は実装である。理念だけで実装が伴わなければ、無価値であり、無意味である。

今回の県政交代を前向きに見る理由は、まさにそこにある。

3️⃣北海道も国家政策の「開催地」から抜け出せ

そして、この問題は北海道にもそのまま当てはまる。沖縄と北海道では歴史も安全保障環境も全く異なる。しかし双方とも、自治体だけでは完結しない国家的な政策体系の中に位置している。

北海道では、北海道開発法に基づく北海道総合開発計画がある。これは北海道庁が決定する計画ではなく、国土審議会での議論などを経て内閣が閣議決定する国の計画である。2024年3月12日に閣議決定された第9期北海道総合開発計画は、2024年度からおおむね10年間を対象とし、「我が国の豊かな暮らしを支える北海道」を目標に掲げ、食料安全保障、観光、ゼロカーボン、デジタル技術、交通ネットワークなどを総合的に進めるとしている。国土交通省

北海道には巨大な機会がある。しかし、国家政策が北海道へ来ることと、北海道が豊かになることは同じではない。

先端産業と交通・電力インフラが集まる北海道の成長拠点イメージ AI生成画像
千歳のラピダスは、その最も分かりやすい例である。本ブログでも2024年、「ラピダスに5900億円 半導体で追加支援」で、ラピダスを単なる工場誘致ではなく、我が国の半導体供給力と経済安全保障を再建する国家的プロジェクトとして取り上げた。しかし最先端半導体の工場だけが北海道に置かれても、それだけでは十分ではない。電力、水、道路、鉄道、住宅、人材、大学、装置・材料企業などを北海道に集積させ、巨大な投資を地域の所得と産業基盤へ変えて初めて、国家プロジェクトが北海道の資産になる。

GXも同じである。本ブログでは「GX投資、北海道に」で、北海道のGXを単なる再生可能エネルギー拡大ではなく、安定した電源と高度産業を結び付ける問題として論じた。現在、北海道・札幌は「GX/AI金融・資産運用特区」の対象地域であり、北海道全域は別制度として国家戦略特区にも指定されている。北海道の公式資料によれば、前者はそれ自体に独立した法的な規制改革制度を持つものではなく、規制改革では国家戦略特区制度を利用する。北海道「GX/AI金融・資産運用特区」と北海道「国家戦略特区について」を見れば、この制度上の違いが分かる。北海道庁

さらに北海道は、国家戦略特区を通じ、宇宙産業、AI農業、GX関連施設、ヒグマ対策などについて地域側から規制改革を提案している。北海道国家戦略特別区域会議では、宇宙産業の規制・制度改革や十勝AI農業特区、ヒグマ対策に関する提案まで具体化している。つまり自治体は、国策を受け取るだけの存在である必要はない。地域側から制度を変える提案を出すこともできるのである。北海道庁

本ブログで取り上げた上士幌町の地方創生も、同じ問題を示している。「人口減少の北海道を救うもの」では、AI、自動運転、エネルギー、子育て、地域文化を組み合わせ、人口が減っても生活機能と供給力を維持する地域経営について考えた。これも補助金の金額ではなく、制度や技術を住民生活へ変える実装の問題である。

ラピダス、GX、AI、宇宙、食料、エネルギー。北海道には材料がある。

しかし、材料があることと、料理ができることは違う。

北海道は国家プロジェクトの「開催地」で終わるのか。それとも国家プロジェクトを北海道の資産へ変えるのか。

今こそ、この問いを突き付けるべきである。

沖縄では、県民が選挙によって県政の転換を選んだ。古謝県政がその期待に応えられるかはこれからだが、少なくとも別の政策手段を試すスタート台には立った。北海道でも、国家政策の到来を歓迎するだけではなく、道庁、市町村、経済界、大学、一次産業をつなぎ、「北海道として何を国から引き出し、何を北海道に残すのか」を明確にする必要がある。

結論 県民が選んだ転換を、成果へ変えられるか

2026年9月13日、沖縄県民は選挙によって県政交代を選んだ。古謝玄太氏は42万3124票という過去最多得票で初当選し、12年ぶりに保守系県政が誕生した。これは、今回の記事の出発点として曖昧にすべきではない事実である。QAB 琉球朝日放送 | もっとドキドキQAB

古謝県政の評価はこれからだ。新知事になっただけで普天間飛行場が返還されるわけではないし、県民所得が自動的に上がるわけでもない。しかし、評価がこれからだからとしても県政転換そのものの意義は大きい。

過去12年間とは異なる政策手段を使い、国との協議を基地返還、産業政策、所得向上へつなげようとする県政が始まった。県民は、その新しい道を選んだのである。

結果はこれから競えばよい。

重要なのは、その競争が始められるスタート台に立ったことである。

北海道にも同じことが言える。ラピダスが来た。GXがある。AIがある。宇宙産業がある。食料がある。エネルギーがある。しかし、それだけでは北海道の未来は保証されない。北海道が何を実現したいのかを自ら定め、地域内の主体をつなぎ、国へ制度と予算を要求し、投資を産業と所得へ変えて初めて、本当の成果になる。

中央政府に反対したか。中央政府と協調したか。その二択だけで自治体を測る時代ではない。

地域の要求を国家政策へつなぎ、国家政策を地域の資産へ変えられたか。

沖縄は今、新たなスタート台に立った。その評価はこれからだが、スタート台に立てたこと自体は明るく、前向きに受け止めてよい。

そして北海道もまた、国家的重要政策が集中する今こそ、自ら新しいスタート台を築くべき時なのである。

【関連記事】

人口減少の北海道を救うもの――上士幌が示すAI・エネルギー・神社という地方創生 2026年9月20日
人口減少を単なる衰退として受け入れず、AI、自動運転、エネルギー、地域文化を結び付けて供給力を高める道を考察。自治体が地域の資源を政策へ変える「実装力」という点で、今回の記事と直結する。

古謝玄太氏が沖縄県知事選で圧勝――「オール沖縄」を越え、沖縄は未来へ動き出した 2026年9月14日
古謝氏の勝利を、単なる保革対決ではなく「反対する政治」から所得、産業、生活を動かす政治への転換として分析。今回の記事の直接の前編に当たる一本である。

ヒグマ判決が暴いた国家の倒錯――現場を切る国は有事に国民を守れない 2026年3月28日
制度が存在するだけでは住民を守れない。国、北海道、市町村、警察、現場の担い手をどうつなぎ、実際に動ける体制をつくるのかを問う。地方自治の「実装力」を別角度から考える記事。

GX投資、北海道に/政府が特区指定、「金融センター」高まる期待―【私の論評】北海道は原子力活用で世界のエネルギー先進地を目指せ 2024年6月6日
北海道へのGX投資を、単なる脱炭素政策ではなく、安定電源、高度産業、地域の供給力を一体で考えるべきだと論じた。国策を北海道の資産へ変えるという今回の記事の問題意識につながる。

ラピダスに5900億円 半導体で追加支援―経産省―【私の論評】日本の半導体産業と経済安全保障:ラピダス社と情報管理の危機 2024年4月2日
千歳のラピダスを単なる工場誘致ではなく、我が国の半導体供給力と経済安全保障の再建として捉えた記事。国家投資を地域の産業基盤と国家資産へ変えられるかという今回の北海道論を補強する。

古謝県政が始動 沖縄はようやく「政策を動かすスタート台」に立った

まとめ 2026年9月の沖縄県知事選では、古謝玄太氏が42万3124票の過去最多得票で当選し、12年ぶりの県政交代となった。古謝県政の実績評価はこれからだが、県民が県政の継続ではなく転換を選んだという事実は明確に出発点とすべきである。 古謝県政では、「辺野古新基地建設問題対策課」...