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2019年10月16日水曜日

対中を意識した日EUのパートナーシップ強化―【私の論表】現在日本が世界の自由貿易をリードしている(゚д゚)!

対中を意識した日EUのパートナーシップ強化

岡崎研究所

 安倍総理大臣は9月27日、ユンケル欧州委員会委員長の招きに応じ、ブリュッセルで開催された「欧州連結性フォーラム」に出席、基調講演を行ったほか、両首脳は『持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ』と題する文書に署名した。まず、同文書の総論に当たる、第2パラグラフと第3パラグラフを以下の通り紹介する。


 日本とEUは,デジタル,運輸,エネルギー及び人的交流を含むあらゆる次元における連結性に,二国間及び多国間で共に取り組む意図を有する。パートナーのニーズと需要を十分に考慮し,かつその財政能力及び債務持続可能性に最大限留意して,日本とEUは,特に西バルカン,東欧,中央アジア,インド太平洋及びアフリカ地域において,第三国パートナーとの連結性及び質の高いインフラに関するそれぞれの協力の相乗効果と補完性を確保し,活動を協調させるよう努める。
 日本とEUは,開放性,透明性,包摂性,連結性に関する投資家及び産業を含む関係者のために対等な競争条件を促進するために共働することを構想する。双方はまた,自由で,開放的で,ルールに基づく,公正で,無差別かつ予測可能な,地域的及び国際的な貿易・投資,透明性のある調達慣行,債務持続可能性と高い水準の経済,財政及び金融,社会及び環境上の持続可能性の確保を促進する意図を有する。この文脈に関連して,日本とEUは,質の高いインフラ投資に関するG20原則の支持を歓迎し,これらの原則を適用し促進する。双方は,2019年4月の首脳宣言で合意されたパリ協定の完全かつ効果的な実施に対するコミットメントを想起する。
出典:外務省HP 安倍総理の「欧州連結性フォーラム」出席
 上記文書は、2018年10月18-19日のアジア欧州会合(ASEM)、2019年4月25日の日EU定期首脳協議、2019年6月28-29日のG20大阪サミットにおける文書を踏まえたもので、日EU間の戦略的パートナーシップ強化の文脈の中に位置付けられる。
 一読して明らかな通り、対中国を念頭に置いたものであることは確実であろう。文書で挙げられている具体的な地名のうち、西バルカン、東欧は、欧州において中国が一帯一路を通じて影響力を強化している地域であり、アフリカでも中国が経済援助により影響力増大を図っており、インド太平洋地域は言うまでもなく対中戦略において最重点の地域である。また、自由、開放的、ルールに基づく、公正、無差別かつ予測可能、透明性、債務持続可能性、といった語は、既存の国際秩序からの中国の逸脱を牽制する常套的キーワードである。
 EUでは、欧州委員会メンバーが11月から新メンバーに代わり、フォン・デア・ライエン前ドイツ国防相がユンケル委員長の後継の新委員長となる。フォン・デア・ライエン氏は、次期欧州委員会を「持続可能な政策にコミットする地政学的な委員会」と位置づけ、自己主張を強める中国との関係を定義することを目指している。彼女が掲げる「地政学的委員会」の旗がどれだけ本物か、注目されるところである。
フォンデアライエン(左)と10月末に退任するユンケル

 日本と欧州のインド太平洋における戦略的協力は日EUの枠組みだけでなく、二国間や様々な多国間の取り組みがあり得る。その例として、EUの最主要国の一つであるフランスとの「日仏包括的海洋対話」を紹介しておきたい。9月20日に同対話の第1回会合が仏領ニューカレドニアで開催された。外務省の発表によれば、本年6月の日仏首脳会談の際に作成された『日仏ロードマップ(2019~2023)』に基づき、インド太平洋地域における日仏パートナーシップ及び(1)航行の自由・海洋安全保障、(2)気候変動・環境・生物多様性、(3)質の高いインフラの3つの柱に係る協力を進める、という。海上保安庁と仏海洋総局間での海洋情報の共有・交換、日仏の艦船が共同活動を行う際の協力、日仏を含む共同演習(本年5月には日仏米豪共同訓練「ラ・ペルーズ」が行われるなどしている)の機会の追求、インド太平洋地域沿岸国における能力構築に係る日仏協力の検討、などが具体的課題として挙がっている由である。なお、ニューカレドニアは南太平洋にあるフランスの海外領土である。開催時期は、偶然とはいえ、ソロモン諸島とキリバスが国交を台湾から中国に切り替え、中国の太平洋島嶼国への浸透を見せつけたタイミングに一致する。日仏協力の必要性をより強く想起させたことと推測される。
【私の論表】現在日本が世界の自由貿易をリードしている(゚д゚)!
「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」について、以下にプレスリリースされた内容を掲載します。

日EUパートナーシップの文書に調印する安倍総理大臣(左)とユンケル欧州委員会委員長(右)

Brussels, 27/09/2019 - 09:50, UNIQUE ID: 190927_2
Press releases

<日本外務省仮訳>
1. 2018年10月18-19日のアジア欧州会合(ASEM)、2019年4月25日の日 EU 定期首脳協議及び2019年6月28-29日のG20 大阪サミットにおける文書を想起し、日本とEUとは、共有する価値としての持続可能性、質の高いインフラ及び対等な競争条件がもたらす利益に対する確信に基づく連結性パートナーシップを確立するとのコミットメントを確認する。 
2. 日本とEUは、デジタル、運輸、エネルギー及び人的交流を含むあらゆる次元における連結性に、二国間及び多国間で共に取り組む意図を有する。パートナーのニーズと需要を十分に考慮し、かつその財政能力及び債務持続可能性に最大限留意して、日本とEUは、特に西バルカン、東欧、中央アジア、インド太平洋及びアフリカ(注)地域において、第三国パートナーとの連結性及び質の高いインフラに関するそれぞれの協力の相乗効果と補完性を確保し、活動を協調させるよう努める。 
3. 日本とEUは、開放性、透明性、包摂性、連結性に関する投資家及び産業を含む関係者のために対等な競争条件を促進するために共働することを構想する。双方はまた、自由で、開放的で、ルールに基づく、公正で、無差別かつ予測可能な、地域的及び国際的な貿易・投資、透明性のある調達慣行、債務持続可能性と高い水準の経済、財政及び金融、社会及び環境上の持続可能性の確保を促進する意図を有する。この文脈に関連して、日本とEUは、質の高いインフラ投資に関するG20 原則の支持を歓迎し、これらの原則を適用し促進する。双方は、2019年4月の首脳宣言で合意されたパリ協定の完全かつ効果的な実施に対するコミットメントを想起する。 
4. ルールに基づく連結性を世界的に促進するとのコミットメントに鑑み、双方は、G7、G20、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、欧州復興開発銀行、アジア開発銀行(ADB)といった国際的な場を含む国際及び地域機関と協力する意図を有する。双方はまた、21 世紀における自由で、開かれた、ルールに基づく公正な貿易及び投資のための高い水準のルールのモデルである日・EU 経済連携協定の達成の観点から、規制に関する協力を、また、革新的な技術を高めるための政策協調を推進する。双方は、持続可能な開発のための2030アジェンダの実施に対する持続可能な連結性の積極的な貢献を強調し、投資を刺激する環境作りのためにパートナー国を支援する用意があることを想起する。 
5. 日本とEUは、民間投資を活発化させるために手段やツールを動員する重要性を認識し、あり得べき共同事業等を通じて、民間部門の関与も得て、持続可能な連結性のための資金供給を促進するために協力する意図を有する。この関連で、双方は、国際協力機構(JICA)と欧州投資銀行(EIB)との了解覚書を歓迎する。同覚書は、両機関間の緊密な協力を強化し、開発途上国における民間部門資金の需要に応える投資を促進することが期待される。双方は、この目的のために、国際協力銀行(JBIC)とEIBとの間、日本貿易保険(NEXI)とEIB との間を含む既存の協力取決め及び覚書の下での協力を促進していく意図を有する。適当な場合には日欧産業協力センターが関与する。 
6. 日本とEUは、開発途上国において、デジタル及びデータ・インフラ、政策及び規制枠組み等を通じて、包摂的な成長及び持続可能な開発の力強い実現手段として、デジタル連結性の強化に協力する。日本とEUは、デジタル経済の発展は、開かれ、自由で、安定した、利用しやすい、相互運用性のある、信頼性の高い、安全なサイバー空間と、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT:大阪でG20首脳が宣言したもの)に依拠することを強調する。2019年1月に採択された双方の十分性認定といったこれまでの協力に支えられ、日本とEUは、互いの規制枠組みを尊重しつつ、データ・セキュリティ及びプライバシーに関する信頼を強化する目的を含め、DFFTの概念を更に精査し、促進し、運用化するために共に取り組む意図を有する。日本とEUはまた、「大阪トラック」の下、デジタル経済に関する大阪宣言に定められたとおり、国際的な政策討議、特に電子商取引の貿易関連の側面に関するWTOにおける国際的なルール作りを進めるために共に取り組む意図を有する。日本とEUは、人工知能(AI)、クラウド、量子コンピュータ及びブロックチェーンを含むイノベーションを加速する政策を引き続き促進する意図を再確認する。 
7. 日本とEUは、規制枠組み同士のより深化した協力及び相乗効果、運輸回廊の相互接続及び運輸の安全性とセキュリティの強化を通じて、持続可能な運輸の連結性を強化するために引き続き共に取り組む。既存の日・EU運輸ハイレベル協議は、あらゆる輸送手段及び横断的な課題に関与し協力する枠組みを提供する。 
8. 双方は、水素及び燃料電池、電力市場の規制並びに液化天然ガスの世界市場といった分野において引き続き協力し、既存の日・EUエネルギー対話に基づく持続可能なエネルギー連結性を引き続き支持する。双方は、低炭素エネルギーシステムへの転換を促進するため、地域的及びグローバルなエネルギー市場及びエネルギー・イノベーションを強化する観点から、持続可能なエネルギー・インフラへの投資について議論する意図を有する。 
9. 日本とEUは、高等教育及び研究分野における機関間の国際的な人的交流を拡大するため共に取り組む。この文脈で、双方は、第 1 回日 EU 教育・文化・スポーツ政策対話での共同声明に基づく日・EU共同修士課程プログラムの立ち上げ及び科学技術協力合同委員会を通じた取組を歓迎する。 
10. 連結性パートナーシップの枠組みにおける協力は、可能な場合には、既存の対話及び協力枠組みを通じて、とりわけ日・EU間の戦略的パートナーシップ協定及び経済連携協定の文脈において行われる。定期的に行う進捗状況のレビューは、日・EU戦略的パートナーシップ協定の下に設置された合同委員会によって行われる。さらに、日・EUハイレベル産業・貿易・経済対話は、連結性パートナーシップの下での戦略的議論の場として機能し得る。連結性パートナーシップは、日・EUのいずれに対しても国際法又は国内法上の法的拘束力のある権利又は義務を創設すること意図するものではない。 
(注:TICAD 並びに持続可能な投資及び雇用に関するアフリカ

同文書は、EUが締結する初めての連結性(コネクティビティ)に関する文書となります。それは、二者間だけでなく第三国や多国間の場において、連結性の全ての分野で実務的な協力を推進するという意思の政治的な表明です。

重点テーマは、デジタル、輸送、エネルギー、人的交流で、また両者が恩恵を享受できるように優先的に展開する地域(西バルカン、東欧、中央アジア、アジア太平洋、アフリカ)のバランスにも配慮しています。

日本とEUは持続可能な連結性と質の高いインフラへのコミットメントとして、投資家と企業のために連携して、公開性、透明性、公平な競争環境を担保します。双方は債務の持続可能性や経済・財政・金融・社会・環境の持続可能性を担保するために協力します。 また、パリ協定の全面的かつ実効的な実施に向けて取り組みます(2019年4月の首脳会合の合意事項)。

今回の、日欧パートナーシップの基礎となったのは、やはり今年2月1日に発効した日欧EPAです

これは、日本とEUヨーロッパ連合による経済連携協定のことです。これにより世界の貿易のおよそ4割、人口では6億人を超える巨大な自由貿易圏が誕生しました。工業製品からチーズ、ワインといった食品まで、大半の貿易品目の関税が撤廃。例えば毛皮にかかっている最大20%の関税も最終的に0%になり、安く輸入できるようになる。

わずか5年ぐらい前までは、日欧EPAは締結は不可能と考えられていました。世界の自由貿易の歴史を振り返ると1996年にWTPO(世界貿易機関)ができました。これは、加盟国により、自由貿易に関するルールを皆で作りましょうという趣旨で設置されました。

ところが、2000年に入ってから中国をWTPO入れてしまったのが間違いの元でした。ほとんどの場合中国が悪いのですが、中国には中国のロジックがあり、そうすると加盟国全体で自由貿易のコンセンサスできなくなってしまったのです。これには、さらにロシアが2012年に加入し追い打ちをかけました。

本来自由貿易は、参加国の全員一致、満場一致をしてルールを決めるべきものです。米国に都合の良いルール、中国に都合の良いルール、ロシアに都合の良いルールなどがあってはなりません。

世界の常識からかけ離れた、ロジックで動く、中国とロシアがWTPOに加入したため、世界共通のルールが簡単にはできなくなってしまったのです。

そうなると自由貿易を旨とする国々は、中国やロシアを覗いて個別国同士ののEPAを作るしかなくなってしまったのです。そのなかでいちばん大きな協定の一つが、日EUのEPAだったわけです。

ところがEU側は、以前はあまりその気がはなかったのです。ところが、最近、これが急速に動き出したのです。

もともとヨーロッパは日欧EPAの他にも、優先順位の高いものががあったのですが、米国のトランプ大統領が「アメリカファースト」等と主張し、自由貿易のことを重視しなくなったように見えたため、米国とEUの単独のEPA協定だけでは、危機を感じるようになったのです。無論、その根底には、ルールを守らない中国やロシアの問題があったのも事実です。

トランプ米大統領

EUと日本の大きな関心事は、農業です。この農業の問題がネックになってなかなか日欧EPA議論は困難だったのですが、背に腹は代えらなくなったのです。トランプ大統領が存在する以上、米欧EPAの他に、日欧でもEPA協定を結び、それで自由貿易のシステムを維持しなくてはならないと考えるようになったのです。

日本もEUも、国内の農業を保護していかないと、将来、不測の事態が起こったときに大きなダメージになることがありえます。日本は守るべきところは守っています。

そのため、日欧EPAでは、米についてはまだ対象には入っていません。麦や乳製品については、セーフガードを確保していますから、完全に自由化しているわけではありません。ソフト系のチーズは関税割り当てにしているし、数量はある程度国内と両立するような形にしています。いろいろ工夫はしているわけです。

EUとしては本来は、全面開放を狙っていたのですが、EUにとっては米国とのEPAだけでは不安なため、まずは日本とEPA締結すること方が優先したということです。そのため、この交渉がうまくまとまったのです。

このように、日本とヨーロッパの思惑がやっと一致して、協定に向かって動くことができたのです。これが2017年です。そうして、今年の2月に発効したのです。

日本は自由貿易で最も伸びる国のひとつですから、こういう形で貿易のルール作りの主導権を握っていくということは大事です。

そうして、こうした日欧の貿易協定の脅威ともなり得る、中国に対して日欧は貿易以外でもパートナーシップ強化して、対抗していこうとしているのです。

さらに、日本は米国が抜けたTPPも、発効にこぎつけました。現在日本が世界の自由貿易をリードしていると言っても良い状況になりました。この面で日本はこれからも引き続き努力していくべきです。

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