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2019年10月7日月曜日

台湾問題だけでない中国の南太平洋進出―【私の論評】海洋国家を目指す大陸国家中国は、最初から滅びの道を歩んでいる(゚д゚)!

岡崎研究所

 10月1日の中華人民共和国建国70周年を前に、中国は南太平洋の島嶼国、ソロモン諸島、キリバスの二か国に対し、立て続けに台湾と断交させ、中国との国交を樹立させた。ソロモン諸島と台湾の断交は9月16日、キリバスは9月20日であった。台湾を承認している国は今や世界中で15か国のみとなってしまった。蔡英文政権成立時の22か国から3年半の間に、実に、7か国が減少したことになる。


 台湾との外交関係の切り崩しは、中国の建国70周年に合わせて行われた。その意図は、習近平体制にとっては、米中貿易紛争の出口がはっきりしない上に、香港をめぐる大規模デモの継続に収束のめどが立たない状況下で、何とか自らが「核心的利益」と位置付ける台湾問題に対し、効果的な圧力を加え、台湾を追い詰めていることを、内外に誇示したいというのが本音であろう。

 中国としては、来る1月11日の台湾総統選において民進党・蔡英文に対する圧力をますます強化し、台湾の生存する国際空間をどんどん狭めたいところであろう。蔡英文自身は、ソロモン諸国の決定は中国が1月の総統選挙に介入しようとする新たな証拠であるとして、「ここ数年、中国は金銭や政治的圧力で台湾の国際社会での場を抑圧してきた」と批判した。

 ソロモン諸島が台湾と断交し、中国と国交を樹立した直後、一週間もたたずしてキリバスも台湾と断交した。この時の断交について、蔡英文政権の呉外相は「キリバスは最近、台湾の民用機の購入費用の贈与を要求し、台湾側が提案した商業ローン方式を拒否した。中国は複数の航空機や船舶の贈与を約束したという」と述べた。これは、中国の南太平洋諸国に接近する場合の台湾切り崩し策の典型例であろう。

 台湾の国家安全会議は9月25日、中国が来年1月の総統選挙に影響を与えるべく今後取ると想定される措置・策略について報告書を公表したが、その中で、年末までにさらに1~2カ国との断交に追いやられる恐れがある、としている。今回の台湾と断交しなかった太平洋の島嶼国の中から、総統選の直前のタイミングで外交関係を台湾から中国に切り替える国が出てくるということは、あり得そうな話である。中国による「金銭外交」の形をとった圧力強化が、台湾の総統選挙において、民進党、国民党、その他政党のいずれに有利に働くかは予断を許さないところである。

 なお、南太平洋のバヌアツは中国承認国であるが、最近、ここに中国が軍事拠点を作るのではないかとの噂が絶えない。もしそのような動きが加速されるようになれば、それはオーストラリアの裏庭に当たる場所であり、中国の言う「第2列島線」の中での軍事拠点化になり得るものである。「自由で開かれたインド太平洋」の構想に賛同する米国、豪州、日本などの国々にとって、そのような中国の動きは断じて無視できないものである。中国の太平洋島嶼国への浸透は、台湾外交の問題にとどまるものではなく、はるかに広範な地政学的意味を持っている。

【私の論評】海洋国家を目指す大陸国家中国は、最初から滅びの道を歩んでいる(゚д゚)!

「一帯一路サミット」が4月25~27日に北京で開催されました。今年のサミットは、150カ国以上が参加し、出席する首脳の数も増えました。

興味深いのは王毅国務委員兼外相の発言でした。サミットを前にした19日、記者会見を行い、「一帯一路は、地政学的なツールではなく、参加国に債務危機をもたらすものではない」とわざわざ断ったのです。

敢えてこうした発言をしたのは、「地政学上のツール」でしかなかったということが誰の目にも明らかになってきたからでしょう。

地政学者で海軍戦略家のマハンは「海を制する者は世界を制する」と述べましたが、マハンのシーパワー論に学ぶ中国は、西はジブチ、ギリシアのピレウス港、東はスリランカのハンバントタ港、オーストラリアのダーウィン港など、着々と海洋進出を固めています。

今後中国の触手が伸びていきそうなのが、南太平洋島嶼諸国です。

ハドソン研究所のシニア・フェローであるジョン・リー氏がこの問題を論じているので、そのレポートの要点を紹介します。



南太平洋島嶼諸国は貧しい国が多く、外部からの商業ベースでの投資を呼び込むのが難しいです。このため海外のODAに依存する国が多いのですが、そのなかでも中国のODAに依存するケースが後を絶たないのです。

たとえばフィジー共和国の人口は85万人。同国に対して2006から2013年の間に提供されたODAのうちの約50%が中国からのものです。

中国は、フィジー共和国、クック諸島、サモア独立国、トンガ王国、バヌアツ共和国等の島で、軍事的にも使用可能なインフラ施設を建設しています。

中国は、日本列島から台湾、フィリピン、南シナ海に至る第一列島線を絶対防衛ラインとし、東シナ海、南シナ海を聖域化し、いずれは伊豆・小笠原諸島からグアム・サイパンなどを結ぶ第二列島線まで進出し、第二列島線の外にアメリカを追いやることを目標としていますが、この列島線上に親西側諸国が並んでいると、第一列島線、第二列島線を突破できません。

このため、第二列島線上に位置する南太平洋島嶼諸国に軍事拠点をつくることで、ここから西側の影響力を排除し、第二列島線を突破することを考えています。

島嶼諸国の中でもバヌアツ共和国のケースは深刻です。中国とバヌアツは、ルーガンビル埠頭に軍事基地を造ることを協議しているといいます。この埠頭は、中国が54万ドル(約6000万円)の政府ローンを組み、2017年の半ばに建設されています。

冒頭の記事にもあるように、中国の島嶼諸国に対する援助によって、台湾との国交を断絶する国も増えました。
昨年11月に行われたAPECで、日米豪の3カ国は、アジア太平洋地域に対して民間資金による投資推進を行う覚書を結びました。こうした民間資金に加えてODAも重要です。

米国は、2017年の国家安全保障戦略、2018年の国防権限法で示された目標を実現するために、ODAを戦略に組み込むべきです。

中国は「先民後軍」の戦略で、ひも付きのインフラ整備を行い、債務の罠に陥れて、その国の港湾などを横取りする作戦を行ってきました。

ペンス副大統領やポンペオ国務長官らが幾度となく「中国の借金に頼るのは危ない」と警告しても、南太平洋島嶼諸国にとって、中国のお金はのどから手が出るほど欲しいものとなっています。島にはこれといった製造業もなく、若者の流出は続いているためです。逆に言えば、最貧国の足元に付け込む戦略を持っているのが中国です。

このまま放置すれば、ジブチのように中国によって軍港が築かれる日も遠くないです。

日本は、外務省と防衛省との縦割り行政で、安全保障の観点からODAを戦略的に運用する発想に欠けています。

フィジーの人口は約85万人で、南太平洋島嶼国で最大の人口を擁していますが、これは東京の世田谷区よりも少ないです。日米豪で戦略的なODAの支援を行えば、南太平洋島嶼国に軍港が築かれるのを防ぐことができるはずです。ODAを戦略的に運用することは、日本が最初に提唱したインド太平洋戦略を推進するものとなりえます。

ODAは人道的な支援に限定されるべきではないです。2018年のアメリカの国防総省の年次報告で、一帯一路は、「グローバルな覇権戦略」と言われています。いま必要なのは「挙国一致」で、中国の覇権戦略を先回りして阻止することです。

ただし、中国の南太平洋進出が吉と出るか、凶と出るかということになれば、凶と言わざるを得ません。

中国の未来を地政学的に見てみると、国家方針たる一帯一路(海陸のシルクロード)はランドパワーとシーパワーの確保があって初めて可能になることに注意しなければならないです。思い出されるのは『海上権力史論』を唱えたアルフレッド・マハンのテーゼです。彼は「大陸国家であることと海洋国家であることは両立しない」と述べ、両生国家の在り方を否定しています。

このテーゼは、他の史家も唱えるところで、大陸国家たるモンゴル帝国の経済的弱点は陸上輸送のコストは海上輸送のそれよりもはるかに大きいことでした。大陸国家は陸続きであるために、必然的に強大な陸軍が求められ、現中国を例にとっても115万もの陸上兵力を有しています。これを日本の14万、アメリカの49万と比較すると膨大な数です。しかもこの数は、近年の兵力削減を済ませた後の数なのです。

他方で、海上国家は防衛にかけるコストが少ないです。また、膨張する場合でも、大陸国家に見られるような他国領をすべて治める必要はなく、シーレーンのチョーク・ポイント(要衝)のみを押さえておけばそれで済みます。とりわけ、地政学的な要衝と物資の集まる集積地を押さえれば、相手の死命を制することが可能となります。大英帝国はこのようにして7つの海を支配しました。現在の中国はまさに、これを狙っているのです。

では、大陸国家と海洋国家が衝突すれば、どうなるのでしょうか。 両国家がきわめて相性が悪いことは、ハルフォード・マッキンダーの次の言葉からもよく分かります。「人類史は、ランドパワーとシーパワーの衝突の歴史である」 と。

このテーゼは、両者(海洋国家と大陸国家)の性格傾向から見て正鵠(せいこく)を射ているように思われます。そのテーゼをさらに深めたのが、ニコラス・スパイクマンのリムランド論です。「リムランドを支配するものがユーラシアを制し、ユーラシアを支配するものが世界の運命を制する」とした上で、スパイクマンはこう述べています。


「自分たち(米国)の安全を守るためにはヨーロッパとアジアの政治に積極的に協力しなければならない」(『平和の地政学』)と。海洋国家は、リムランド制圧に動く大陸国家の動向を見過ごすことはできないのです。日米が中国の海洋進出に対抗して「開かれたインド太平洋自由構想」をぶつけている現状は、まさにそのことを示しているのです。

そもそも、中国にはこれといった同盟国がいません。とりわけ、大国は皆無です。ロシアが唯一それに当たりますが、そのロシアは軍事的には侮れないとはいいながら、現状のGDP は韓国なみであり、とても大国とはいえません。

そのロシアを離反させれば、ほぼ同盟国は皆無となります。EUは中国と経済的利害をもってつながっていましたが、2012年あたりから関係が冷え込み始めました。

中国の弱点は、他国に輸出できるソフトパワーを持っていないことです。人民中国が思想的に唯一輸出できたものは毛沢東思想であったのですが、その毛思想は中国の伝統をことごとく壊してしまい、かつその毛思想も自ら放棄したため、今や文化的に誇れるものは皆無です。かつてのローマ帝国と比較すれば、さらに実態が明らかになります。

「ローマは3度世界を征服した。1度は武力で、1度はキリスト教で、1度は法で」(ドイツの法学者イェーリングの言葉)。では、現中国はどうでしょうか。上の言葉で言えば、武力しか持っていません。キリスト教(宗教・思想)や法(普遍的法体系)に当たるものがまるでないのです。これは、他国を真に魅了するものがまったくなく、経済と軍事のみで自己アピールしなければならないことを意味しています。

ここが、過去の中華帝国とまったく違います。かつての中華帝国も周辺国への恫喝と侵攻を繰り返したのですが、その高度な文明の故をもって尊敬も勝ち得ていました。それが現中国にはないのです。これは、世界帝国として台頭するには致命的な欠陥となるでしょう。

現在の中国は鄧小平が劉華清(中国海軍の父)を登用し、海洋進出を目指した時から両生国家の道を歩み始めました。そして今、それは習近平に引き継がれ、陸海併せ持つ一帯一路戦略として提示されるに至っています。しかしこれは、マハンの「両生国家は成り立たない」とするテーゼに抵触し、失敗に終わるでしょう。

劉華清(中国海軍の父)

事実、両生国家が成功裏に終わった例はありません。海洋国家たる大日本帝国は、大陸に侵攻し両生国家になったため滅亡しました。大陸国家たるドイツも海洋進出を目指したため2度にわたる世界大戦で滅亡しました(ドイツ第2、第3帝国の崩壊)。ソビエト帝国の場合も同じです。よもや、中国のみがそれを免れることはないでしょう。一帯一路を進めれば進めるほど、地政学的ジレンマに陥り、崩壊への道を早めてゆくことになります。

とはいいながら、先にも述べたように、日米はやはり南太平洋の国々に対して、OADなどで支援をするべきでしょう。日米がこれを実行すれば、中国はさらにこれらの国々への支援を増やさなければならないことになります。それは、中国の崩壊への道を早めることになります。

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