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2016年3月28日月曜日

【石平のChina Watch】習主席、頓挫した「独裁者」への道 衆人環視の中で目撃された異様な光景 ―【私の論評】刎頚の友で、独裁者になりそこねた習!だが、中共の本質は変わらない(゚д゚)!


習近平国家主席を後ろから手をかけて呼び止め、話しかけた王岐山氏
今月4日に開かれた全国政治協商会議(全国政協)の開幕式で、委員たちは異様ともいうべき光景を目撃した。式典が終わって、最高指導部のメンバーたちが順次、ひな壇から退場するとき、党の規律検査委員会の王岐山主任が前を歩く習近平国家主席を後ろから手をかけて呼び止め、話しかけたのである。

衆人環視の中で、習主席の部下であるはずの王氏が取ったこの「なれなれしい」行動は、主席の権威をないがしろにする「軽薄なる行為」とも映った。その背景には一体何があったのか。

その2週間ほど前の2月19日、習主席は中央テレビ局など3大メディアを視察し、メディアが党への忠誠に徹すべきだとの訓示を行った。それに応じて、3大メディアは一斉に、「メディアは共産党のものだ、党に絶対の忠誠を誓いたい」と宣した。

しかし民間からは早速反発の声が上がってきた。習主席の訓示と3大メディアの姿勢に対し、真っ正面から痛烈な批判を浴びせたのは、中国の不動産王で、政治批判の鋭さで「任大砲」の異名をもつ任志強氏である。

3700万人のフォロワーを持つ自分の「微博」(ミニブログ)で、彼はこう発言した。「メディアはいつから党のものとなったのか。メディアが人民の利益を代表しないなら、人民によって捨てられるのだ」と。

発言はいたって正論だが、問題は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの習主席に盾突くようなことを言ったら一体どうなるのか、だ。

案の定、任氏の微博のアカウントは直ちに閉鎖され、官製メディアによる「任志強批判キャンペーン」が一斉に始まった。任氏が所属する北京市西城区の共産党組織も、党員である任氏に対する処分を検討し始めた。この一部始終を見て、民間では「これは文化大革命の再来ではないか」と危惧する声が上がり、動揺が一気に広がった。

こうした中で、今月1日、中国共産党規律検査委員会の公式サイトに注目の論評が掲載された。

論評は、「千人の唯々諾々より、一人の志士の直言の方がよい」という昔の言葉を引用して、指導者が「直言」に耳を傾けるべきだと諭した。

タイミングからすれば、この論評が諭そうとしている相手は、他ならぬ習主席その人であろう。さらに興味深いことに、論評を掲載した公式サイトの持ち主は党の規律委員会であり、そのトップを務めるのは、習主席唯一の盟友とされる王岐山氏である。

要するに、王岐山氏が習主席を諭したことになるのだ。その2日後、全国政協の壇上で、王氏がおうような態度で習主席を呼び止めた場面を目にして、多くの人々はうなずくことができた。なるほど、共産党の「本当の実力者」は誰であるのか、がこれでよく分かったのではないか。

おそらく王岐山氏も、こういう「視覚的効果」を計算してわざと上述の行動に出たのであろう。彼は、自分の習主席に対する優位性を衆人の前で示すことができた。

習主席の就任から3年、その最大の「政治実績」となったのは腐敗摘発であるが、考えてみればそれは全部、規律検査委員会トップの王氏の手柄であった。そして、摘発権という絶大の武器を手にして党内で権勢を振るった結果、いつの間にか、王氏は習主席をしのぐほどの陰の実力者にのし上がったのである。

実は上述の規律検査委員会サイトの論評掲載を境目に、任志強氏に対する批判キャンペーンがピッタリと止まった。2月25日掲載の本欄が取り上げた、習主席を「核心」として擁立するような動きもそのあたりから息切れとなった。どうやら本当の実力者が浮上してきた中で、「独裁者」への習主席の道が閉ざされたようだ。


石平

【私の論評】刎頚の友で、独裁者になりそこねた習!だが、中共の本質は変わらない(゚д゚)!

習近平国家主席を後ろから手をかけて呼び止め、話しかけた王岐山氏
別の角度から
上のニュースにわかに信じがたいことです。まずは、習近平国家主席と王岐山(おうきざん)との関係について以下に掲載しておきます。

2013年習近平は総書記就任後、自らに近い人間を続々引き上げていました。そうして、王岐山は、習近平とは誓い合いだからで、当然のことながら、このとき引き上げられた習近平閥の1人です。

さて習近平時代になって台頭した人物のトップが王岐山です。現在、中央紀律検査委員会(以下、中紀委)トップの座についています。

党章程(党規約)によると、中紀委の職責は「党規約とその他党内法規の維持」、「党の路線、方針、政策、決定の執行状況を検査」、「党委員会の党風建設協力と反汚職工作における補佐」とのこと。しかし実際には汚職党員摘発が主要な仕事です。 そうして、はっきり言ってしまえば、これは建前で、権力闘争のための道具です。

腐敗党員の場合は、まず中紀委が取り調べをし、容疑が固まった後に司法機関に引き渡されることになります。中紀委は、司法に優先するもう一つの司法というわけです。

中紀委は昔から、政敵を倒す尖兵として使われてきました。江沢民時代には陳希同(政治局委員、北京市委書記)、胡錦濤時代には陳良宇(政治局委員、上海市委書記)、薄熙来(政治局委員、重慶市委書記)が中紀委に失脚させられています。

ところが、中紀委は、実は拘束や取り調べを行う権限には何の根拠もなく超法規的機関とでもいうべき存在です。習近平が主席になった最初の年に、は拷問によって取り調べを受けていた官僚3人が死亡するという事件もありました。ノルマを課された地方の紀律検査部局がやりすぎたためともいわれていますが、紀律検査部局への風あたりは強くなる…かと思われました。


ところがどうして、2013年の三中全会では、中紀委が省庁など党中央直属機関、地方政府の紀律検査部局トップの任命権を獲得し、さらに勢力を拡大させることになりました。従来は省庁トップや地方自治体トップが紀律検査部局の人事を決めるというお手盛り人事ができたわけですが、このときから独立した巨大監視機関へと生まれ変わることになりました。

加えて、中国共産党の上位25人、政治局委員をも監視対象とすることが決定するなど、その強大化はとどまることを知りません。現在では、おそらく、トップ中のトップ、常務委員まで監視できる程にまで権力を拡大してのではないかと思います。

王岐山の前職は序列末席の副首相でしたが、経済に強い実務派官僚と評価が高く、当時は李克強ではなく王岐山が首相になるウルトラC人事があるのではとまでうわさされました。

それがなぜか経済関連の仕事ではなく、中紀委トップというポストを得ることになっていました。副首相の前は北京市長だったのですが、さらにその前は長く銀行畑にいました。そのため、私自身は、そのあたりの業界についてよく知る王に、汚職官僚摘発を任せたのかと思っていたのですが、彼の活躍ぶりはそんなレベルにとどまっていません。

習近平発足後、中紀委関連のニュースが毎日のように紙面を飾る活躍っぷりでした。なんと当初の1年間で16人もの省部級(閣僚級)が失脚しているという、驚くような数字も発表されていました。

王岐山の妻は元副首相・姚依林の娘です。なので王岐山も一応太子党ということになっています。婚姻によって太子党になっただけに「マスオさん的太子党」とでも言うべきかもしれません。

ところがそれだけではなく、習近平とは古くからつながりがありました。

2013年8月27日付南方人物週刊の記事「時代の先駆者」によると、文化大革命当時、王岐山と習近平の下放先は近く、知り合いだったとのことだそうです。北京に出た習近平が下放先に戻る時、王岐山の村で一泊。同じ布団で寝たという、エピソードまでありました。

経歴だけでは分からない、年の差を越えた友情が両者の間にはあったということです。紅衛兵世代は場所こそまちまちですが、苦しい時期を共に過ごしたので温かいつながりがあるのではとは思っていたのですが、こうして直接面識があるのなら習近平が常務委員を一期しか務められない王岐山を常務副総理ではなく、中紀委トップに据えたというのも合点がいきます。

そうして、この友情がアダとなったのかもしれません。王岐山、中央紀律検査委員会のトップです。

これは、ナチスドイツでいえば、ある意味当初の突撃隊のようなものです。

突撃隊はナチス党集会の会場警備隊が改組されて創設されました。初期の頃は突撃隊長エルンスト・レームの斡旋により義勇軍から流れてきた者を多く受け入れたため、党から半独立的な準軍事組織でした。

エルンスト・レーム
突撃隊は、1923年11月のミュンヘン一揆に参加しましたが、一揆の失敗で一時期禁止された。1925年にナチスと共に再建され、党に従属する組織として再出発しました。党集会の警備、パレード行進、ドイツ社会民主党(SPD)の国旗団ドイツ共産党(KPD)の赤色戦線戦士同盟との街頭闘争を行いました。

ナチスの政権掌握直後の1933年には補助警察となり、政敵の弾圧にあたりました。しかし突撃隊は下層民も多い大衆組織であったため、社会主義的な思想を持つ隊員が多く、国防軍などの保守勢力との連携を深めるアドルフ・ヒトラーにとって厄介な存在となり、1934年6月末から7月初旬にかけてレームをはじめとする突撃隊幹部が親衛隊(SS)によって粛清されました(長いナイフの夜)。粛清後は勢力を失ってSSの配下となり、以降は国防軍入隊予定者の訓練を主任務とするようになりました。

親衛隊長 ヒムラー
本来、習近平も長いナイフの夜のように、王岐山の権力が大きくなる前に粛清すべきだったのかもしれません。しかし、王岐山率いる中央紀律検査委員会は、法的には何も根拠のない集団であり、これに強力な権限を与えてしまったため、この組織は突撃隊のようでもあり、ナチスドイツのときのゲシュタポのようでもあり、短期間でとてつもない怪物にまで成長してしまったのだと思います。
ゲシュタポ長官 ラインハルト・ハイドリヒ

王岐山は、習近平をはじめとして、党幹部のアキレス腱を握っているのだと思います。それを駆使すれば、習近平をはじめとする、ありとあらゆる幹部を失脚させることができるようにまでなったに違いありません。

こうした権力を掌握した、王岐山は、共産党の「本当の実力者」の地位を築いたのでしょう。

ただし、これもどうなるかわかりません。習近平からの反撃があるかもしれません。それこそ、ヒトラーが突撃隊長のエルンスト・レームを粛清したように、王岐山氏やその一派を粛清し、親衛隊(SS)に匹敵するような組織を築けたら、独裁者の王道を歩むことになるかもしれません。

独裁者というものは、とにかく人を信じてはいけないのです。独裁者にとって、刎頚の友などありえないです。人に心を許していてはいけないのです。

習近平はヒトラーにはなれない?
それにしても、王岐山が権力を握る中国はどうなるのでしょうか。残念ながら、中共の本質は変わらないでしょう。あいかわらず、九段線や、第一列島線や、第二列島線の妄想からのがれらず、いずれルトワックが予言するように自滅することでしょう。

この出来事はの中国の人民からすれば、建前の実力者と、本当の実力者が存在することとなり、ますます中共の統治の正当性を疑われることとなり、自滅の速度を早めるだけになることでしょう。

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