2019年7月26日金曜日

有志連合軍に自衛隊派遣が唯一の選択肢―【私の論評】「有志連合」の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと(゚д゚)!

有志連合軍に自衛隊派遣が唯一の選択肢

香田洋二 (ジャパンマリンユナイテッド顧問 元自衛艦隊司令官)

 ホルムズ海峡付近の航行船舶に対する小規模な攻撃が多発している。その対象は単に民間船に留まらず、当該海域に展開する米海軍部隊も含まれており、頻度・内容もエスカレートする傾向にある。特に、同海域に展開する米海軍空母打撃部隊に対する挑発はドローンや高速小型艇による妨害や挑発に留まらず、去る6月20日のイラン革命防衛隊による米軍無人偵察機撃墜や7月18日の米海軍強襲揚陸艦によるイランのドローン撃墜事案などの小規模な小競り合いなども生起しており、両国の対立は激化傾向にある。

イランに拿捕された英国のタンカー

米国の要請に対して
日本が検討すべき2項目

 7月9日にダンフォード米統合参謀本部議長(以下「統参議長」)はホルムズ海峡の安全確保などを目的とする有志連合軍を結成すべく関係国と調整していると発言した。この発言に関連しては我が国政府も打診はあったことを認めたものの、細部の言及は避けたと報道されている。

 さらに、19日に米国務省と国防総省は、ホルムズ海峡周辺における航行船舶の安全確保に向けた有志連合について、ワシントンで非公開会合を開き、日本を含む各国外交団に構想を説明し参加を要請したと報じられた。本会合に対する各国の対応等を確認するため、7月25日に米中央軍が司令部を置くフロリダ州タンパで2回目の会合が開かれ、参加国の把握や具体的な行動内容などについて協議する予定と報じられている。

 イラン核疑惑に関連する現地情勢、特にホルムズ海峡の航行安全の不安定化は我が国のみならず全世界に対するエネルギー安定供給を大きく阻害する事態に直結する恐れがあることから、米国提案の有志連合に対する我が国の取り組みに関する論議が活発化することは明白である。その際の考慮事項は次の二点に収斂する。

① 我が国船舶の安全確保は我が国の責務

 第一は、我が国船舶の航行安全確保は我が国の責務であり、いかなる外国もその任に当たることはない、という至極当然の大原則と現実である。その前提からすれば、現下のホルムズ海峡における我が国船舶の航行安全確保に対する取り組みは、米統参議長発言により検討に着手するものではなく、我が国が主体的に取り組む問題として自発的に開始されるべきものであることは明白である。

② 湾岸戦争等とは全く異なる有志連合軍の編制・任務及び予想される作戦形態

 第二は、米国が構想する有志連合軍の任務は、ホルムズ海峡の航行安全確保であり、湾岸戦争、9・11後の対テロ戦争及びイラク戦争時に編成された、自衛権(個別あるいは集団)を発動した外国への兵力投入によるクウェート解放、テロリスト根拠地根絶等の作戦目的を達成するための攻勢的な有志連合軍とは性格、作戦目的や任務及び作戦形態が全く異なるものであるということである。一部マスコミの論議において、集団的自衛権の行使と自衛隊の有志連合軍への参加を短絡的に結び付けて反対する論調が観られたが、この観点からすれば、それは全くの的外れである。

 要するに、今回の作戦目的であるホルムズ海峡の航行安全確保は、武力行使や集団的自衛権はおろか個別的自衛権の行使さえ前提としない、同海峡の海上交通の秩序維持のための軍事活動であり、両者を明確に区分する観点に立った我が国の取り組みが論ぜられなければならない。
有志連合編成を打診した
米国の狙いとは

 シェール革命による米国のエネルギー供給における中東依存度は著しく下がっている。米国を仕向け地とするタンカー等の運航隻数が極少になっている現状から、ホルムズ海峡の安全航行の確保そのものは米国の直接の国益ではなくなっているといえる。勿論、米国は海洋の自由使用と航行を国益としていることから、ホルムズ海峡を含むペルシャ湾海域の航行安全は米国の国益となることもまた自明の理である。
 このため、①の観点からは、米軍が中東、特にペルシャ湾海域を航行する各国船舶の航行安全確保に直接関与する正当性と必要性は減少している。それが、今次トランプ発言の原点、すなわち「米国へ向かう船舶がほぼ不在のホルムズ海峡において、米軍が莫大な負担をしてまで他国の船舶を守る義務も根拠もない。各国は自国の船舶は自国で守れ!」ということであろう。
 同時に、米国は、ホルムズ海峡を通峡する個々の船舶ではなく、ペルシャ湾全域を世界の安全保障に大きな影響を与える重要地域として安定させる観点から、当該海域の海上交通の秩序を維持することは依然として重要と位置づけているのである。その観点から、ホルムズ海峡航行船舶への挑発や攻撃のような、イランの軍事的冒険主義の抑止と排除を引き続き重視している。
 ただし、そのための活動の全てを米国が賄うということではなく、「自国の船を守る力のある国は自分でやる」という大原則を改めて明確にしたものが、先般の統参議長の発言であり、それを具現する第一歩が7月19日の非公式会議と言える。
 報道によると、その会議では、米国によるホルムズ海峡の現状認識及び船舶の運航安全確保のための有志連合の必要性が説明されたとのことである。具体的には、自国船舶の航行安全確保は各国の判断とするとともに、米国が各国の自国船舶航行安全確保活動に必要な情報共有メカニズムを構築することを有志連合の活動骨子としたうえで、各国に艦船や航空機の派遣、資金拠出を求めたとされる。
 報道では言及されていないが、自国船の航行安全確保を直接実施する力のない国の民間船舶が事態緊迫時に無防備のままペルシャ湾周辺を航行することは別の不安定要素となることから、有志連合参加国による自国船舶の航行安全確保活動と同期して、この様な国の船舶を運航することより、これら船舶にも警戒の目を配する体制を構築するための調整活動(軍事用語で「船舶運航統制」と呼称)も米国が担任すると考えられる。
これらの総合的な効果により、ホルムズ海峡の航行安全を確保する態勢は格段に改善され、結果的にペルシャ湾地域全体の安定に寄与する、ということが米国の狙いと考えられる。

選択肢は4+α
採るべき解は1つ
まず、現地の事態緊迫時の日本船舶、広義には日本を仕向け地とする他国籍船も含む船舶(以下、両者を包括的に「日本船等」)の航行安全をどのように確保するかという課題への取り組みが問われることとなる。
 その際の基本事項として、①で示した、日本船等の航行安全を確保するのは日本であり、他のいかなる国も、自国の生存に無関係な外国船としての日本等船の航行安全を確保することはあり得ないという大原則から、事態緊迫時の日本船等の航行安全確保のための自衛隊派遣が有力な選択となる。同時に、我が国には自衛隊を海外に出すことに依然として大きな抵抗が存在することも事実である。
 それらの賛否論点も含め総合的に我が国の可能行動を整理すると、以下の選択肢が考えられる。
  • 選択肢-1:有志連合不参加・自衛隊非派遣
  • 選択肢-2:有志連合不参加・自衛隊派遣、有志連合とは別個に自衛隊が日本船等の安全確保
  • 選択肢-3:有志連合参加・自衛隊派遣、有志連合の枠組みの下で自衛隊が日本船等の安全確保
  • 選択肢-4:有志連合参加・自衛隊非派遣、資金・後方支援等、有志連合国を間接的に支援
 各選択肢の要点を整理すると次のようになる。
選択肢-1
 本選択は、国際枠組みを一切無視して、日本船等を自らは守らないということを意味する。要するに、主権国家として日本船等の安全を「運を天にまかせる」または「他国の善意に預ける」ということである。その選択においては、事態緊迫時の日本船等を運航する船員の生命をどう考えるのか、という問題が生ずるとともに、国家活動の基本となるエネルギーの安定供給をいかに担保するかという命題が残る。我が国の一部に根強い、有志連合参加及び自衛隊派遣反対論は、この論議を意図的に避けたとさえ思える観念的な憲法論や平和論のみに立脚したものであり、無責任な論議である。
選択肢-2
 これは独立国として責任のある対応であるが、有志連合不参加に起因する任務遂行上の不都合、特に部隊運用上必須となる情報共有態勢が弱化することから安全運航を確保する作戦が非効率となる恐れが常に内在する公算が大となる。更に、我が国単独の作戦は必然的に国際協調の欠落という面の問題を惹起する。
選択肢-3
 この選択は、我が国憲法と現行法制及び国際協調やと国際貢献の観点から最適と考えられる。今回、米国が提案する有志連合は②で述べた様に、イランへの兵力投入を前提とした攻勢作戦のための母体とは全く異なる、武力行使や集団的自衛権はおろか個別的自衛権の行使さえ前提としない、ホルムズ海峡の航行安全確保のための軍事活動母体である。このため、我が国が有志連合に加わり、自衛隊を派遣して自ら日本船等の航行安全を確保することは現行法制、具体的には平和安保法制の枠内で十分に実施可能な活動である。このことから、我が国政府も自衛隊もイラン、ペルシャ湾そしてホルムズ海峡の現状において集団的自衛権を行使した軍事作戦に加わることは全く考えていないと見積もられる。
選択肢-X
 選択肢-4以前に、「有志連合不参加・自衛隊非派遣=資金・後方支援等、有志連合国を間接支援」という別のオプションが理論上存在する。これは、結果的にせよ世界から全く評価されなかったイラン・イラク戦争及び湾岸戦争時の論議の繰り返しとなることは明白である。仮に、この選択肢を採用するとすれば、1980年以降の我が国の自衛隊による国際貢献への努力の足跡を完全に消去することであり、同時にその選択は、我が国の国際貢献という時計を40年巻き戻すものでもある。この観点から、本オプションは敢えて本検討の選択肢に入れなかった。
選択肢-4
 これは、経済力や後方支援能力の弱い有志連合参加国に対する非軍事面での支援というメリットが存在するが、やはり選択肢-1の最大の問題である、日本船等を我が国が守る、という大原則の無視に直結することから、責任ある国際社会の責任ある一員の選択としては不適切である。
 以上から、我が国の選択としては選択肢-3、すなわち自衛隊を派遣した有志連合の枠組みの下で、自衛隊が日本船等の航行安全確保に任ずることが最適である。
日本船舶等の航行安全確保
自衛隊が活動する法的根拠

 ホルムズ海峡の航行安全確保のために編成される有志連合に我が国が参加して、自衛隊が日本船等の航行安全確保のための任務を遂行する(以下「日本船等を自衛隊が守る」)作戦成功の鍵は、航行安全確保の際の船舶の防護方法である。この作戦は海上航行秩序の維持を目的とすることから、武力行使及び自衛権の発動を要しない海上作戦であり、軍事力による海上の警察活動であると位置づけられる。その際、任務遂行に必要な場合、航行秩序を乱す目的で日本船舶等の安全航行を妨げる勢力に対しては武器の使用が必要になる場合も生起することは当然である。
 上述の日本船等を守る作戦において想定される事態への対処は、2015年9月に成立、公布された平和安保法制を基本とすると、自衛隊法第82条に定める海上警備行動を根拠とすることが適当と考えられる。その際の権限は自衛隊法93条により規定されるが、同条で認められた停船のための武器使用は対象船舶が我が国領海内にある場合に限られるが、わが国から遠く離れたソマリア沖の海賊対処の際の当初の政府の措置、すなわち海賊対処法制定までの間の自衛隊を派遣する根拠として海警行動を発動した際の考え方が参考になると考える。その骨子は次の通りである。
(1)保護の対象は日本船籍、日本人及び日本の貨物を運搬する外国船舶など、日本が関与するもの
(2)司法警察活動は護衛艦に同乗する海上保安官が実施
(3)武器の使用は刑法36条1項(正当防衛)及び37条1項前段(緊急避難)に規定する状況下に限定
(4)防衛大臣は部隊派遣に先立ち実施計画を国会に報告
 これを今次ケースに適用すれば、今回の任務はあくまでもホルムズ海峡における航行安全確保であることから、(2)は不要であり、派遣された自衛隊の部隊運用は(1)、(3)及び(4)に準拠することになる。この際、任務遂行上必要となる公海上の武器使用は、抑制的ではあるが航行安全確保という任務遂行を可能とすると考えられる。
 特に、(1)において防護対象を整理して規定したことは、日本を仕向け地とする船舶の多くが日本船籍ではない現状から、日本船等を守る作戦における防護対象船を明確に規定できることから、この考え方の任務遂行上の合目的性は高いといえる。
 その他、海警行動の際に認められる権限には警察官職務執行法第7条(警職法:武器の使用)、及び海上保安庁法第十六条(協力の要請)、海上保安庁法第十七条第一項(書類の提出・船舶の停止と立ち入り検査・必要な質問)並びに海上保安庁法第十八条(必要な場合の措置)が自衛隊員に適用されることから、現場での部隊運用の幅を広げ、柔軟性を確保することが可能となる。
 次のオプションとして海賊対処法がある。これは公海上で我が国の船舶に対し海賊行為等の侵害活動を行う外国船舶を自衛隊の部隊が認知した場合の対処である。この際の自衛官の職務執行に際しては、海警行動と同様、警職法7条に基づく武器の使用が認められるほか、民間船に接近する等の海賊行為(今次任務では日本船等に対する妨害や威嚇、停船要求あるいは乗船捕獲などが該当)を行っている船舶の航行を停止するため、他の手段がない場合には、その事態に応じ合理的に必要な限度における武器の使用が認められることから、日本船等を守る作戦の根拠として海賊対処法の適用を準備することも必要である。
 ここまで、事態緊迫時のホルムズ海峡の航行安全を確保する際の日本船等を「守る」方策を検討した。この際の大原則は、自国の船の安全は自国が守る、言い換えれば他国は守ってくれないということである。更に、米国が提唱する有志連合は武力行使によるイラン侵攻を目的としたものではないことから、我が国の憲法の下で平和安保法制を適切に適用することにより、我が国自体の活動として、自衛権を発動することなく自衛隊が日本船等を守ることは十分に可能である。
 逆に、それを実施しないという選択は、単に国際協調という問題のみならず、独立国の基本としての自国民の生命と財産の保護という、国家として根本的姿勢を問われることとなり、政府の政策としては極めて無責任と言わざるを得ない。
 一方、将来、さらに事態が緊迫化した際の国際的な活動への取り組みについては、ここまで論議したホルムズ海峡の航行安全確保とは別に、改めて我が国の憲法と平和安保法制の枠内で実施可能な行動方針を定め、実施することが求められる。
 仮に、新たな有志連合が自衛権の発動と武力行使を前提としたイラン侵攻を目的とするものになるとすれば、その枠組みへの自衛隊の参加はあり得ないことも明白であるが、その際も、憲法と平和安保法制に基づく、対テロ戦争における後方支援のような活動は可能となる。
 また、その時点でホルムズ海峡の航行安全活動のための有志連合の下で自衛隊が日本船等を守る活動を実施中(選択肢-3)であるとすれば、我が国政府には、その作戦の継続、あるいは事態を勘案した防衛出動の下令とそれに応じた新たな活動への移行、もしくは実施中の作戦を直ちに中止した撤退という選択肢が残ると考えられる。
 最後に、今次の様なケースに際して速やかに行動に移せるのは、平和安保法制が、様々な事態を想定してシームレスな対応を可能とさせることをその目的の一つとしているからである。
【私の論評】「有志連合」の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと(゚д゚)!

6月13日、中東の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡近くでタンカー2隻(内1隻は日本の海運会社が運航)が何者かにより攻撃を受けました。1週間後の20日には、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡付近を飛行する米国の無人偵察機を撃墜しました。


7月19日、今度はイランのものと思われる無人機がホルムズ海峡で米海軍によって撃墜されました。米国によると米海軍艦艇に900メートルまで接近したためといわれています。同日、ホルムズ海峡周辺海域でイランが英国タンカーを拿捕したことを公表しました。中東情勢は日に日に緊張が高まっています。

今回の「有志連合」は、ブログ冒頭の記事にもあるように、航行の自由、安全を確保する努力は、米国だけが行うのではなく、各国が「応分の負担」をすべきというトランプ大統領の意向を踏まえたものでしょう。

日本国内では「有志連合」の言葉に「戦争」を想起したためでしょうか、内容確認もそこそこ条件反射的に「米国の戦争に巻き込まれる」「自衛隊を参加させるべきではない」とメディアは主張しました。岩屋毅防衛相も米国務省の説明会に参加する前から、「現時点でホルムズ海峡付近に部隊を派遣することは考えていない」と部隊派遣を否定していました。

ホルムズ海峡とバベルマンデブ海峡は、いずれも中東の原油輸送の大動脈です。これら大動脈の航行の安全を、これまで米海軍の第5艦隊と第7艦隊が守ってきたのは事実です。特に日本は中東への原油依存度が87%で、日本に原油を運ぶ船舶が年間1800隻もホルムズ海峡を通過しています。大動脈の航行安全の恩恵を日本が大きく受けてきたのは否定できないです。

他方、米国はトランプ大統領が演説で度々述べているように、米国だけが負担を被るこれまでの状況は不公正と考え、各国に負担を求めつつあります。7月18日、米国防総省高官はロイター通信に対し、有志連合構想の説明にあたって、ホルムズ海峡周辺でのタンカー護衛について「米軍は他国の船舶を護衛しない」と述べました。

米国は有志連合参加について、今のところ「他国の軍が自国の船舶を護衛するかは各国の判断に委ねる」とし、船舶の護衛を強制しない考えを示しています。しかし、米海軍が「海峡の安全確保」に手が回らなくなった時、あるいはトランプ大統領が正式に「米軍は他国の船舶を護衛しない」方針を打ち出した時、それでも日本は有志連合に「自衛隊を派遣しない」と言えるでしょうか。

日本で混乱しているのは、米国が主張している有志連合構想は、ブログ冒頭の記事にもあるように、平時の「海峡の安全確保」のための「有志連合」であり、「対イラン武力行使」への「有志連合」ではないことです。メディアの論調をみていると意図的に混同しているようにも見えます。

米国防総省も各国の懸念を払拭すべく、「イランに対する軍事連合を結成するのが目的ではない」と明言し「対イラン軍事連合ではない」ことを強調しました。「最大の目的は警戒監視を強化し、船舶への攻撃を抑止する懐中電灯のような役割を果たすことだ」と述べて各国に理解を求めています。

有志連合の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと

また有志連合における米国の役割については「参加国で共有される枠組み的な情報を提供し、自国の船舶を護衛したい国々を支援する」と述べています。「有志連合」は趣旨に賛同する国が、「この指とまれ」と集まってくる集合体です。

今回、米国が主導するというのは、集まってくる各国海軍を効率よく警備や護衛任務に就けるよう、米国が情報を提供し、全般を統制しようとするものです。武力行使のための作戦統制ではありません。

であれば、日本が「参加しない」という選択肢は最初からあり得ないです。「参加しない」は、「日本政府は日本の船舶を守りません」ということか、「引き続き米国が、日本の船舶を守ってください」と言うに等しいです。

米国が「米軍は他国の船舶を護衛しない」と表明している時、「引き続き米国が守れ」等とは言えないでしょうし、日本政府は「もはや日本の船舶を守りません」などということは主権国家としてあり得ないです。

船員組合が乗船をボイコットすれば、原油の搬入は断たれ、日本は存亡の危機に立たされます。平時の「海峡の安全確保の活動」とはいっても、近い将来、米国がイランを攻撃する可能性もあり「米国の戦争に巻き込まれる」と懸念する人もいます。

しかし、既述のように今回の有志連合の趣旨は「船舶への攻撃を抑止する懐中電灯の役割」を果たすことであり、もしそうでなくなれば、その時点で有志連合から離脱すれば良いし、米国側も予めそれを知らせてくることでしょう。

それができるのが有志連合です。繰り返すが有志連合というのは趣旨に賛同する国が集まる組織体であり、趣旨が変わればリセットされるべきものです。

米国主体の有志連合に参加することによってイランを刺激するとの懸念があるのも事実です。しかし、6月に日本企業が運航するタンカーが何者かによって攻撃されたのは事実であり、イラン政府はこれをやっていないと主張しています。

そのため、イランを対象とするものではないですが、今後、再び日本のタンカーが何者かによって攻撃されないように護衛するものです。このことをイラン政府にしっかり説明する必要があります。強調すべきは「イラン攻撃のための有志連合」ではないことです。このことはイランも理解するでしょう。

今回、法的に自衛隊の派遣は可能かという問題もある。それについては、ブログ冒頭の記事に掲載されています。そうして、この記事から判断するところでは、法的に自衛隊の派遣は十分可能です。

であれば、「ホルムズ海峡安全」の恩恵を最も受けている日本が、海峡の安全確保に汗も流さないなどということがあってはならないです。まして自国の船舶さえ守らないなら、国際社会での評判は地に落ちるだけでなく、日本は存続の危機に陥ることにさえなりかねません。まずは、自分の国の船舶さえ守らない日本を米国が何かのときに守るでしょうか。

日本の湾岸戦争負担金 総額 1兆6900億円。米国より多く出していた

湾岸戦争時、日本国内では、すったもんだしたあげく、当時の海部内閣は、汗を流すこともなくカネで解決しようとしました。その結果「小切手外交」「漁夫の利を得るだけの自己勝手な日本」という悪名を被り、日米同盟まで漂流するに至りました。

あの「悪夢」の再来だけは何としてでも避けなければならないです。ましてや、今回の「有志連合」は他国を直接攻撃することではなく、自国のタンカーを守る、それも懐中電灯の役割を期待されているのですから、これには日本として参加しないという選択肢はあり得ないです。

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2019年7月25日木曜日

韓国「WTOの支持取り付け失敗」 ロイター通信報道―【私の論評】韓国への貿易管理強化は、日本版「国家経済会議」設立の前触れか?設立されれば、中露も対象になり得る(゚д゚)!


日本の輸出規制強化について記者会見する成允模・韓国産業通商資源相=24日、ソウル

 韓国産業通商資源省は24日、日本政府が安全保障上の友好国として輸出上の手続きを簡素化する「ホワイト国」から韓国を除外する方針を示していることについて、不当な措置であり、即時撤回を求めるとする意見書を日本政府に提出した。

 ジュネーブで24日に開かれた世界貿易機関(WTO)一般理事会では、韓国を支持する動きがなく、ロイター通信は「韓国は支持を取り付けることに失敗した」と報じた。

 24日は「ホワイト国」除外に関して日本政府が実施しているパブリックコメント(意見公募)の締め切り日に当たる。除外措置が実施されれば、半導体材料3品目について4日から行われている輸出管理の厳格化に比べ、自動車産業など広範囲に影響が及ぶと予想され、韓国は強く警戒している。

 成(ソン)允(ユン)模(モ)産業通商資源相は、記者会見で「韓国の輸出統制制度の未熟さや両国間の信頼関係の毀(き)損(そん)など、日本側が挙げる措置理由には全て根拠がない」と批判。日韓の経済協力の「根幹を揺さぶる重大事案」を事前協議なく通告したとして遺憾の意を表明した。「韓国政府は未来志向的な関係発展のため、いつどこでも対話する準備ができている」とも述べ、日本側に協議に応じるよう促した。

 韓国の主要経済5団体も23日に「世界経済に相当なマイナス影響を及ぼす」として措置の撤回を求める意見書を日本側に提出した。

 一方、訪韓したボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は24日、康(カン)京(ギョン)和(ファ)外相と会談し、日韓関係のさらなる悪化を防ぎ、対話を通じた外交的解決を模索する上で、意思疎通を密にすることで一致した。韓国外務省が発表した。

 ボルトン氏は、韓国大統領府の鄭(チョン)義(ウィ)溶(ヨン)国家安保室長や鄭(チョン)景(ギョン)斗(ドゥ)国防相とも会談、北朝鮮核問題などでの日米韓協力の重要性を再確認した。韓国は、深刻化する日韓対立の仲裁を米国に期待しているが、米側は、まずは日韓で解決すべきだとの立場を維持している。

【私の論評】韓国への貿易管理強化は、日本版「国家経済会議」設立の前触れか?設立されれば、中露も対象になり得る(゚д゚)!

韓国を包括輸出対象国(ホワイト国)から除外する日本政府の手続きが完了した場合、年間6200億円を超す半導体製造装置の輸出に大きな影響が出そうです。輸出側の日本企業と輸入側の韓国企業双方の事業に短期的打撃が発生する事は避けられないですが、この問題に詳しい自民党議員からは短期的な損失は予想しており、中長期的なメリットを勘案しながら、最終的な決断を行うとの方針が示されています。

財務省が発表している貿易統計によると、2018年の対韓国向け輸出総額は5兆7925億円で輸出全体の約7%。その中で輸出額が多いのは半導体等製造装置の6297億円、鉄鋼の4551億円、半導体等電子部品の2565億円。

半導体等製造装置の対韓輸出は、全世界向け輸出の2割強を占めます。この分野での日本企業の世界シェアは高く、輸入している韓国企業にとってもメンテナンスなどのアフターサービスが充実し、日本企業らしいきめ細かなサービスが魅力となっているといいます。

このような状況の中で、包括的な輸出許可が出なくなり、個別審査による輸出許可を待つシステムへのシフトは、商品の受注から実際の出荷までの期間が大幅に長期化し、短期的に韓国企業のニーズに応えることが難しくなることが予想されます。

複数の関係者によると、日本メーカー側は売上高、営業利益を短期的に押し下げる可能性があり、韓国企業にとっては稼働率の低下による売上高、営業利益などの下押し要因になります。

業界筋によると、日本から大規模に半導体製造装置を輸入している企業として、サムスン電子、SKハイニックスなどが知られているといいます。

こうした展開が予想される中で、甘利明・自民党選挙対策委員長とともに、「国家経済会議」の創設を提言しているグループに属する同党の中山展宏・衆議院議員は、ホワイト国除外措置の検討について「日本の国益が損なわれる安全保障上の問題を重視しているため」と説明しています。

中山展宏・衆議院議員

そのうえで「短期的に韓国、日本企業に打撃があることは承知している」との見解を示しました。

中山氏が強調するのは、今回の除外措置が実施されれば、長期的にアジアの安全保障の確保を支援し、日本企業がアジアで安全にビジネスを継続することが可能になるとの論点です。

こうした観点から、自民党は短期的な打撃と長期的なメリットがどの程度になるのかシンクタンクに試算を依頼しており、近く公表する方針といいます。中山氏はその試算結果などを踏まえ、企業の理解を得たいと説明しました。

同氏らが創設を働きかけている国家経済会議は、安全保障と経済政策を一体とした政策として捉えることを前提としており、韓国をホワイト国から除外する政策対応は、同会議発足後の対応を先取りしたかたちとも言えます。

ただ、同氏は「ホワイト国除外といっても禁輸措置ではないため、企業に実害の少ない形で対応できる」と言及。韓国側の対応次第では、柔軟に対応する余地があることをうかがわせました。

国家経済会議とは、米国ではすでに設立されている機関であり、上の記事にもあるように、日本でも設立しょうとの動きがあります。

米国の、国家経済会議(英: National Economic Council, NEC)は、安全保障、社会保障なども含めた総合的な立場から経済政策の立案、調整および大統領に助言を行うアメリカ合衆国連邦政府の行政機関のことです。

国家経済会議は1993年にクリントン政権において、「軍事的安全保障」と並んで、「経済的安全保障」という考え方のもと、国家安全保障会議と同じ機能を果たすことを期待されて大統領令によりホワイトハウスに設立されました。

会議の役割は、ホワイトハウスにおいて経済政策の一貫性を維持する為、また、各経済官庁の調整を図って政策立案を行なうことです。

メンバーは、大統領、副大統領、国務長官、財務長官、農務長官、商務長官、労働長官、住宅都市開発長官、運輸長官、エネルギー長官、保健福祉長官です。他にも閣僚級のスタッフや各種大統領補佐官が拡大関係者(Additional Participants)として参加します。大統領が議長を務め、経済政策担当大統領補佐官が事務を統括する委員長を務めます。

オバマ政権では政権発足早々「経済が非常事態のさなかにある」との認識の下、委員長のサマーズが主導して、毎日、大統領に経済情勢の報告をしていく方針を決めました。

さて、この国家経済会議では"Economic Statecraft"に関しても国の政策として検討されることもあります。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」―【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!

中国の軍事予算は毎年増えるばかりで、日本はこれに対して無力と思われ
がちだったが、それは違う。Economic Statescraftという奥の手があった
この記事は、3月7日のものです。この頃から、日本が韓国に対して"Economic Statecraft"の一環として、制裁もしくは、何らかの管理強化をすることは十分可能でした。だからこそ、この記事を掲載したのです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 日本が安全保障上改善する余地のある重要な点が存在します。その最たるものが、経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求する「economic statecraft(経済的な国策)」です。欧米などでは認識され、政策に応用されていますが、現時点では日本にない概念であり、日本語に直訳するのは難しいです。
各国政府、特に中国やロシアなどは、このようなeconomic statecraftを多用し始めています。たとえば、他国が自国の意向に反する政策をとった場合に、見せしめとして輸入に制限をかけます。あるいは、経済的に脆弱な国に対して、ODAや国営企業の投資をテコに一方的な依存関係を作り出すことで援助受入国を「借金漬け」状態にし、自国の意向に沿わない政策を取らせにくくする、といった政策です。 
米国がこうした経済外交をeconomic statecraftと定義し、米国としてもこれに対抗するeconomic statecraft戦略を描くべきである、という議論がオバマ政権末期から安全保障政策専門家の間で高まっていることが、トランプ大統領のニュースに埋もれて日本では認識されてきませんでした。 
economic statecraftの道具と目的は以下の表で示す通りです。
日本語に翻訳すると、貿易制限、金融制裁、投資制限、金銭的制裁です。
年初には安全保障分野で著名な米国シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が、米国は「中国の挑戦」に対抗するにはより洗練されたeconomic statecraftを用いる必要性があると提案したのに加え、ほかのシンクタンクもこのような政策の具体案を構想し始めています。
これらの分析において重要なポイントは、米国がeconomic statecraft戦略を展開するうえで同盟国や友好国との連携の重要性を強調していることで、世界の経済規模で第3位にある日本との連携が極めて重要になることは間違いないです。しかし、日本でeconomic statecraftの観点から米国と連携していかれる十分な構想と体制が整っているとは必ずしも言えません。 
さて、このような"Economic Statecraft"ですが、この記事では日本は韓国をその練習台とすべきことを主張しました。その部分を以下に引用します。
日本としては、韓国に単純に制裁を課すというのでなく、長期的な戦略を持ってeconomic statecraftを発動するのです。韓国は断交したとしても、日本にはあまり悪影響はないので、格好な練習台になります。さらには、米国などの同盟国も、これに対してはあまり反対したり批判したりすることはないでしょう。
無論、単純に断交するだけというのではなく、韓国がある程度変われば、TPPへの加入とか、ODAなども実行することも視野に入れた包括的なものにすべきと思います。変わらなければ、台湾に対して手厚い支援を行うなどのことも視野にいれるべきです。 
こうして、韓国などに実行してみて、失敗したところはきちんとフィードバックして日本独自のeconomic statecraftの実施方法を確立した後に、本格的に北朝鮮、中国、ロシアにも適用していくべきと思います。
日本にはすでに、甘利明・自民党選挙対策委員長とともに、「国家経済会議」の創設を提言しているグループがあることから、自民党内でも"Economic Statecraft(以下ESと略す)"を認識している議員も複数存在するのでしょう。

日本の韓国に対する輸出管理も広義のESと言えるでしょう。ただし、ESといっても範囲は広く、輸出に関するものだけでも、輸出管理なし→輸出管理の検討(現在の日韓はこの時点)→輸出管理の強化→輸出禁止→軽い制裁→本格的制裁という順番を経てなされるものです。

ESなどとは関係なく、輸出管理検討や、強化は普通の国々では当たり前に行われていることです。

日本が韓国に対する輸出管理を強める背景には、元徴用工訴訟の判決だけではなく、昨年12月に起こった韓国海軍による海上自衛隊哨戒機に対するレーダー照射問題もあるでしょう。この問題は一歩間違えば、本当の戦争になっていたかもしれません。

韓国への輸出管理の検討により「日韓経済戦争」が開始直前になったといえます。憲法9条では交戦権が否定されていますが、これはあくまで「火を噴く戦争」に限定してのことです。ESは憲法9条の範疇外です。

日本国憲法は設立当初ESなど想定していなかったので、無論それに関する規定はなく、日本は平和憲法に呪縛されることなく、ESを発動できます。そういう意味でも、この輸出管理強化は、日本という国の在り方を問う試金石であり、政策の争点になっても良いものです。

米国でESの司令塔を務めるのが国家経済会議(NEC)です。このNECは、冷戦終結後の安全保障政策は軍事力に頼るだけではなく、経済統制も用いるべきとの発想の下、クリントン政権時代に創設されました。国家安全保障会議(NSC)と兼任しているメンバーもいます。

日本政府に近い関係者が今春、NECを訪れ、経済制裁担当ディイレクターと面談した際には、日本にもNECが創設され、日本による効果的なESの展開に必要な機密情報の共有が可能になることを期待されたといいます。

日本政府は、韓国への輸出管理の効果を見たうえで、日本版NEC創設の検討に入るのではないでしょうか。昨今の世界情勢を見ていれば、日本版NECが必要な時代が来ているのは確かです。

現在、日本が韓国に対する輸出管理の強化検討した時点で、これは日韓関係が悪化するので、習近平はほくそえんでいるなどとする人もいますが、果たしてそうでしょうか。

今までの日本は、何をしても平和憲法の壁があって反撃されることはないと高をくくっていた習近平は現在かなり脅威を感じていると思います。こういう観点からも、米国は日本の対韓国貿易管理強化を静観しているのでしょう。

日本は金融政策や財政政策が失敗続きで、GDPの伸びは、低く一歩間違えばデフレに舞い戻りという体たらくですが、世界一の政府資産大国(世界で一番資産を持っている国)です。また、民間レベルでも金余りであり、対外純金融純資産(外国に貸し付けている金のこと)は世界一です。その日本が、ESを本格的に戦略的に行使することになれば、外貨不足の中国の習近平は日本の金をあてにするどころか、経済的にかなりの打撃を被る可能性があります。

さて、米国のNECは省庁横断的にメンバーが構成されていますが、日本では経産省を嫌う外務省が主導権を握りたがるでしょう。しかし、果たして外務省に、部品や素材レベルでの日本への経済依存度を把握する必要があるESを仕切れるような知識やノウハウはあるのでしょうか。さらには、馬鹿の一つ覚えのように、何かと増税・緊縮ばかりする財務省にも、当然そのようなノウハウがあるはずもありません。議論が本格化すれば、改めて「省益主義」が問われることになるでしょう。

このようなことを防ぐためにも、米国のように日本のNECも省庁横断的にメンバーを構成し、さらに若手で各省の省益ならびにそれに起因する省毒におかされていない人物をメンバーにして、真に国益に寄与するNECを結成していただきたいものです。

私としては、NECには日本の様々な分野から英知を結集したシンクタンクを併設し、誰にも思いつかないような、とてつもないESで、中国・ロシア・北朝鮮などを引っ掻き回していただきたいと思います。その上で、世界に向かって日本が日本の国益を追求できる体制を一日もはやく築いてほしいです。

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2019年7月24日水曜日

揺らぎつつある中国の周縁部掌握―【私の論表】過剰生産を海外でも踏襲する中国は消えたほうが、世界経済のため(゚д゚)!

揺らぎつつある中国の周縁部掌握

岡崎研究所

中国共産党は、自国の周縁部(香港、新疆ウイグル、チベット、台湾)に対し、締め付けを強化している。

中国のありとあらゆる地域に存在する鬼城(ゴーストタウン)

 1989年6月4日に起きた天安門事件から、2019年はちょうど30周年を迎えた。この時、天安門に集まった学生の民主化要求のデモに対し、中国共産党は、武力をもって鎮圧した。装甲車が、群衆が埋め尽くす天安門広場を走る映像と、銃声は、世界に流れた。

 これが分水嶺となり、その後の共産党中国は、国内の民主化要求等に、より神経を尖らすことになって行った。いったんタガを緩めると、共産党体制の維持が難しくなるかもしれないとの警戒心、恐怖心が共産党指導部を支配する。そして、習近平政権下において、このような傾向は一層強まっているように見える。

 他方、周縁部、とくに最近の香港における逃亡犯引き渡し条例をめぐる香港市民の反応を見ると、約束されてきた「一国二制度」なるものが、単なる欺瞞であり、いつ拘束され中国に引き渡されるかわからないという香港市民の恐怖心が見て取れる。

 このように、体制側にも周縁部にも恐怖の相互作用が見られるのが、今日の中国の一党独裁体制をめぐる状況である。

 香港の人達にとって、「一国二制度」が壊され、香港が想像以上の速さで中国化され、表現の自由や香港が享受してきた民主主義を失うことは、香港が香港でなくなることであり、それへの反発が、今回の抗議デモにつながったのだろう。これに対して、香港当局とその背後にいる中国共産党とがいつ、如何なる強硬手段を用いて、これら大規模デモを鎮圧しようとしているのか、よく読めないところがある。これまでのように、せいぜい催涙弾やゴム弾などを用いた警察力で対応することになるのか(その場合には、これからも香港デモは頻発することとなる)、あるいは人民解放軍を投入することになるのか(その場合には、第二の天安門事件に結び付く)、注視されるところである。

 旧植民地帝国、英国が、今日の中国・香港当局の対応ぶりは香港返還協定を決めた「中英共同声明」の規定に反するとして中国を非難しているが、当然のことである。

 新疆ウイグル自治区については、ウルムチ事件から、7月5日で、丁度10周年を迎えた。「職業訓練」と称したウイグル族の「強制収容」については、国際的非難が高まっている。7月5日、米国議会の超党派の委員会、Congressional Executive Commission on China (CECC、委員長はJames P. McGovern 民主党下院議員、共同委員長はMarco Rubio共和党上院議員)は、ウルムチ事件から10周年の声明を発表した。その中で、新疆ウイグル自治区への中国共産党の人権問題は、「長く乱暴な歴史」(a long and brutal history)を有すとして、ウルムチ事件は、「天安門事件以来の犠牲者の多い暴力」(the deadliest violence since the Tiananmen Square )だと述べた。議会の委員会として、この問題に対して、トランプ政権に必要な行動を取ることを促す書簡を2019年4月3日付で送ったが、政権は何もしていないとした。人口の約10%にあたる200万人ものイスラム教徒が宗教を理由に再教育キャンプに収容されている現状については、世界的により強い非難の声が上がるべきだろう。

 習近平主席の強調する「偉大なる中華民族の復興」というスローガンの重要な要素は、「台湾統一」である。今日の台湾の人々にとっては、香港での大規模デモに対し、中国が如何なる対応を取るのか、注視の的となっている。

 香港では、条例案の「完全撤回」を求める声は収まらず、また、林行政長官の辞任を要求する声も収束しそうにない。

 台湾では、中国の対台湾政策(とくに「一国二制度」など)に対し、これまでより以上に、明確かつ強硬に拒絶的姿勢を取りつつある蔡英文への支持率が急上昇するという予想外の現象が見られるようになった。これは、台湾が「台湾」でなくなることへの危機感の一つの表れであろう。

【私の論表】過剰生産を海外でも踏襲する中国は消えたほうが、世界経済のため(゚д゚)!

世界の経済を牽引しているなどの中国幻想が未だまかり通る中国ですが、その実過剰生産により、世界の経済を脅かし続けてきた中国が、崩壊する兆しをみせつつあります。

それを象徴するような記事があります。それは、WEDGE infinityの以下の記事です。
敗色濃厚の中国不動産業、海外巨大事業もピンチ

中国の大手不動産会社がマレーシアで建設を進めている「フォレストシティ」

活下去」――。 
中国の不動産大手万科(Vanke)の2018年秋季社内経営会議で打ち出されたスローガン。中国語で「生き残る」という意味だ。「活下去」の文字が大きく映し出された会場の写真がネット上で流れていた。 
(中略) 
そもそも中国経済を支えていたものは何かというと、「労働力」と「不動産」(=土地や資源の取引)なのだ。この2つに亀裂が入れば、まさに生死にかかわる大問題となる。 
(中略) 
中国人の大量移住によって東南アジア屈指の「中国人街」を作り上げる。その中核プロジェクトとして、マレーシア南部のジョホールバルに中国の大手デベロッパー・碧桂園(Country Garden)が開発を手掛けている「フォレストシティ」(中国語名:森林都市)は、大きなトラブルに見舞われている。 
(中略) 
基幹産業とは、一国の経済発展の基礎をなす重要産業を指す。ドイツは機械・自動車、イギリスは金融、フランスは文化、スイスは精密機械・観光、日本は電機・自動車、台湾は半導体、シンガポールは金融・フィンテック……。中国の基幹産業は不動産だった。バブルになりやすい不動産の脆弱性に気付いた中国は「脱不動産」を図り、IT産業に力を入れ、サプライチェーンの上流を抑えようと乗り出したわけだが、これも今、米国との貿易戦争の最中にある。

まず、位置関係を把握しておきますう。以下にGoogleマップの衛星写真から掲載します。


シンガポールとの国境近くの埋め立て地というのがよくわかります。海峡をはさんで国が違うとはいえ、シンガポール側の開発具合と、マレーシア側との対比は、違いが明白だです。

Googleマップのストリートビューを使うと、フォレストシティの一部を見ることもできました。


撮影は2018年7月のようです。まだ建設中の建物ばかりで、「WELCOME HOME」の文字が虚しいです。

高層マンションがこれでもかというくらい建設中ですが、これが計画のごく一部だというのに驚きます。やることがいかにも中国らしいのですが、いくらなんでも供給過剰だと思ってしまいます。

中国本土でも似たようなこと国中でやっていて、のきなみ真新しいゴーストタウンそ(中国では鬼城という)が誕生しました。このフォレストシティも、完成を見ることなくゴーストタウンになりそうです。

無茶な計画に、無茶な投資と開発、あげくに途中で投げ出す。中国国内でやってる手法を、海外でもやっているようです。というより、中国は国内でのやり方をそのまま海外でも踏襲しているようです。中国国内よりも、こうした海外のプロジェクトのほゔが、子細に観察できます。このようなやり方をすれば、供給過剰になるのは当然といえば、当然です。中国のプロジェクトは、鉄道建設でもゴタゴタが多いです。

マレー半島およびシンガポールは、地震がきわめて少ない地域です。にもかかわらず、中国が建てるビルに日本のような耐震構造は施されていないそうです。その分、建設コストは安くなるということなのでしょうが、あまりに無責任です。


スマトラ島のインド洋側は地震多発地帯ですが、マレー半島側はプレート境界から離れているため、ほとんど大きな地震は発生していないです。

また、スマトラ島が防波堤のような役割にもなっているので、津波の影響も少ないわようです。

赤道に近いため、台風も襲来しないです。自然災害の少ない地域ともされています。地理的に恵まれた場所ではあります。

中国の強みと弱点は、産業と政府(というか共産党)が、持ちつ持たれつの一心同体な点です。

政府の支配力や影響力が強ければ、産業も強引に突き進めるのですが、政府が行きづまると産業も傾くことになります。

中国の発表する経済指標が粉飾されていることは、いろいろと指摘されていますが、張り子の虎でも虎は虎。共産党が潰れるわけがないという誤った過信もあるようです。

経済の行き詰まりが、共産党の行き詰まりにもなりえます。広い国土と13.86億人の人口を統制していられるのは、一党独裁だからでもあります。その体制が傾くと、中国が分裂する可能性も十分あります。かつてのソ連がそうでした。

中国の民主化運動が成功しなかったのは、巨大な国をまとめるのには独裁しかなかったからかもしれません。民主化すれば、民族間の対立が顕在化するだろうし、都市部と地方の格差が火種になるだろうし、宗教的な対立も出てくるだろうし、軍部の暴走もあるかもしれないです。それらを無理やり抑え込んでいるのが、一党独裁の中国共産党なのです。

中国の歴史は、王朝の歴史でもありました。清が滅んで王朝はなくなったのですが、共産党という衣を着た王朝ができたようなものです。トップに立つ人間に、巨大な権力が集中するのは変わっていないです。つまり、現在は習近平が帝位についているわけです。

最後の王朝の清は296年続きました。それ以前は、明が276年、元が97年、宋が319年。
中華人民共和国の成立は1949年10月1日です。未だ70年の歴史しかありません。

最短の元すら超えていません。明のように続くのでしょうか。時代背景を考えると、変化が激しい現在において、200年以上続くのは難しいでしょう。

中国の民主化を望む声があったりもしますが、民主化は中国の不安定化、分裂化を招く可能性があります。かといって、共産党の支配にも限界があります。ほころびが、破断に至るのは時間の問題というのが、歴史の教訓です。

その時間が、数年後なのか数十年後なのか、それとも百年後なのか。少なくとも、一党独裁が永遠に続くことはないです。

「チャイナショック」という言葉があります。これまで起きたチャイナショックの事例は、比較的小規模なものでした。それでも世界が風邪をひいたくらいの影響を及ぼしました。

大規模なチャイナショックが起きたら、日本政府がよく使う「リーマン級の…」を超える事態になるかもしれないです。そのリスクが、徐々に高まっています。はたして、中国が崩壊する日は、いつ来るのでしょうか。

中国の崩壊で悪いことばかり起こることを考える人もいますが、私はそうは考えません。過剰生産を国内だけではなく、海外でも踏襲する中国です。これか、現在の世界の過剰生産・過剰貯蓄の傾向をもたらしています。

このため現在の世界は供給過剰であり、中国がこれ以上世界て巨大プロジェクトを実行すれば、世界が中国国内のようになります。であれば、現在の中国が崩壊すれば、短期的には悪影響もありますが、長期では世界経済にとって良いことになります。

現在の中国のあとに出来上がる国、もしくは国々が過剰生産を繰り返さないことを期待したいです。そうでなければ、同じことの繰り返しです。

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2019年7月23日火曜日

参院選後に直面する経済課題…消費税は「全品目軽減税率」を 対韓政策では“懐柔策”禁物!―【私の論評】大手新聞記事から読み解く、参院選後(゚д゚)!

参院選後に直面する経済課題…消費税は「全品目軽減税率」を 対韓政策では“懐柔策”禁物!

自民党本部の開票センターで、当確者の名前にバラを
付ける安倍首相=21日午後9時47分、東京・永田町

21日投開票された参院選では、与党は改選過半数を確保した。消費増税や外交など、参院選後に直面する課題にどう対処すればいいのか。

 10月からの10%への消費増税は決まりだ。ただし、その時の世界経済情勢を考えると経済政策としてはまずい。

 これは世界のエコノミストたちの共通認識だ。米中貿易戦争による中国経済鈍化、10月末予定の「ブレグジット」(英国のEU離脱)による経済混乱、米国とイランの緊張による偶発的な中東紛争の懸念などリーマン・ショック級の不安材料がめじろ押しだ。

 本来ならわざわざ日本で消費増税することはない。しかも、日本の財政破綻確率は無視できるほど小さい。

 だが、今や小売店でも軽減税率対応のシステムも導入され、消費増税の延期も実務上困難だ。そこで次善の策であるが、消費増税後、全品目を対象とする軽減税率にも備えておくべきだ。教育無償化の財源が不足するとの批判もあるようだが、日本維新の会が参院選で公約していたように、財源捻出は難しくない。

 欧米の金融政策は緩和傾向だろう。日本も負けずに緩和しないと民主党政権時の二の舞いになってしまう。

 中東問題で、米国とイランの仲介役として日本は世界からも期待されているが、米国を中心とする「有志連合」の話も具体的に出ており、参加すれば仲介役は諦めざるを得ないだろう。ただ、日本のタンカーを誰が守るかといえば、日本以外が犠牲を払って守ってくれるはずはない。(1)有志連合への参加(2)単独警護(3)静観の三択のうち、(1)か(2)しかあり得ないと思うが、これは日本の大きな方向性を決定付けるので、しっかりと議論すべき課題だろう。

 中東問題は日本のエネルギー安全保障に直結する。トランプ米大統領はツイッターで日本と中国を名指し、「ホルムズ海峡は自国で守れ」と述べた。早速中国はこれを奇貨として自国でタンカーを守る方向だが、日本も同じ方向で動くべきだ。必要なら法改正も含めて与野党間で議論することが求められる。

 対外関係では、韓国問題もある。韓国は相当焦っている。依存度が高い中国経済の悪影響も受けており、今回の日本の輸出管理強化は効果的だ。これはいわゆる「元徴用工問題」での報復ではなく、安全保障上の貿易管理措置の見直しだ。かつてのココム(対共産圏輸出統制委員会)規制の流れをくむ「ワッセナー・アレンジメント」(通常兵器などの輸出を管理する協約)などの国際諸規制に合致した国が、優遇措置のある「ホワイト国」になれる。

 しかし、韓国はEUからもホワイト国として認定されていない。そうした貿易管理の不備への懸念について、韓国が日本に説明し払拭しなければいけない。ボールは韓国にあるので、日本としては韓国が何をするのかを見定めるべきで、下手に懐柔策を弄するべきではない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】大手新聞記事から読み解く、参院選の結果と、今後(゚д゚)!

公示前日に行われた党首討論での舌戦が各メディアで報じられましたが、大手新聞各紙は今回の参院選の争点・論点をどのように伝えたのでしょうか。以下にそれを振り返ってみます。

1面トップの見出し

《朝日》…「首相 消費増税 10%後は10年不要」
     「野党 家計 消費重視の経済政策に」
《読売》…「首相 消費税『10年上げず』」
《毎日》…「首相『再増税10年不要』」
《東京》…「改憲問う」

解説面の見出し

《朝日》…「暮らし・憲法 舌戦」
《読売》…「野党『年金』に集中砲火」
《毎日》…「改憲 自公に温度差」
《東京》…「年金ビジョン 真っ向対立」

選挙の争点・論点 キーワードを掲載します

■「安倍1強」に歯止めを■《朝日》
■さらなる負担増と給付抑制を■《読売》
■与党間にも温度差■《毎日》
■三権分立の危機■《東京》

【朝日】は2面の選挙特集で、党首討論会の内容を網羅的に紹介しています。大見出しは「暮らし・憲法 舌戦」としていて、続く記事の前半には「野党、年金・増税で攻勢」「首相は野党共闘を批判」、後半には「首相、改憲で国民に秋波」「野党、揺さぶりに不快感」としています。

「暮らし」で総括されるのは、「年金」と「消費税」の2点です。

野党側からの追及で説得力があるとみられるのは、1つは国民民主党・玉木代表の議論で、「公的年金だけで収入100%の人が51.1%、生活が苦しい人も半数を超えている」という指摘。たまたま前日に紙面を賑わせたものですが、貧しい「年金生活」のリアリティを突きつけています。「貧困高齢者」という概念化も重要です。

もう1点は共産党・志位委員長の主張。マクロ経済スライドで国民の年金を実質7兆円減らすという安倍政権の政策の変更を求めています。「100年安心」の意味合いを有権者が知る上で重要な一歩です。

ただ、年金問題というか、年金の本質は保険であり、保険に対する対処法(マクロ経済スライド等)は元々定まっており、これはいずれの党が与党になって運営したとしてしても、ほとんど変わりはなく、これを論点・争点とすることにはかなり無理があり、実際他国においてはこれが選挙の争点・論点になったことはありません。

記事は、こうした議論に対して安倍氏は「野党共闘と個別政策との整合性を問う形で逆襲する」として、例えば枝野氏は、マクロ経済スライドを「民主党政権時代もずっと維持してきた」ではないかと反論しました。

改憲についてはほとんど堂々巡りの体で、新しい論点はないですが、参院選の選挙結果如何ではやにわに動き出す可能性があると思われます。安倍氏は「国民民主党の中にも憲法改正に前向きな方々もいる。そういう中で合意を形成していきたい」と発言していて、国民民主党に手を伸ばそうとしています。安倍氏としては、改憲手続きの進行の各段階で抵抗する力を分散、減衰させる作戦でしょう。

《朝日》12面社説のタイトルは「安倍一強に歯止めか、継続か」。政権選択の選挙ではないが、今回の参院選、「その結果には政治の行方を左右する重みがある」として、21年9月までの自民党総裁任期を得た安倍氏による「安倍1強政治」に歯止めをかけて政治に緊張感を取り戻すのか、それとも現状の継続をよしとするのかが問われているとしていました。

勿論、《朝日》は「歯止めを掛けるべきだ」といっていることになります。特に強く批判しているのは、民主党政権時代を引き合いに「混迷の時代に逆戻りしていいのか」と繰り返す、安倍氏の物言いについてです。「現下の重要課題や国の将来を語るのではなく、他党の過去をいつまでもあげつらう姿勢は、良識ある政治指導者のものとは思えない」とまで言っていました。

【読売】は3面の解説記事「スキャナー」。見出しは「野党『年金』に集中砲火」。主に、立憲民主党・枝野代表とのやり取りをピックアップして、細かく紹介しています。

3面には社説もあり、そのタイトルは「中長期の政策課題に向き合え」「持続可能な社会保障論じたい」としています。

《読売》が「中長期の政策課題」と位置づけているのは、少子高齢化と人口減少への対策で、具体的には「社会保障制度の総合的な改革」を指しています。2012年の3党合意に基づく「税と社会保障の一体改革」は団塊世代が後期高齢者となる2025年に備えた施策だったので、その先、高齢化がピークを迎える2040年を見据えて「新たな制度設計を考えることが重要」だと言っています。その中心的な中身は「負担増と給付抑制」ということになり、《読売》がイメージするのは、消費税率のさらなる引き上げということになるらしいです。

討論会で安倍氏は、今後10年間は10%以上への引き揚げは不要と述べましたが、《読売》はこれが気に入らないようです。「消費税率を上げるから財政再建ができない」と考える経済学者もある中、まもなく税率10%への引き上げが強行されます。《読売》の背後には、消費税の税率をさらに上げて、財政再建を果たそうとする財務省の影が見え隠れしています。

【毎日】は3面の解説記事「クローズアップ」で、党首討論会について伝えている。見出しには「改憲 自公に温度差」とありました。

候補を一本化しながら野党はばらばらではないかと安倍氏が批判するのに対して、《毎日》は「与党も食い違いがありますよ」と言っているわけで、野党側から逆ねじを食わせている形になっています。

与党間の「温度差」は憲法改正に関するもの。討論会で公明党・山口代表は「憲法(改正)が直接今の政権の行いに必要なわけではない」と語り、《毎日》は「温度差をにじませた」と言っています。

因みに山口代表のこの発言に注目したのは《毎日》だけのようです。さらに山口氏が「与野党を超えて議論を深め、国民の認識を広めることが大事だ。まだまだ議論が十分ではない」と述べたことについては「『合意形成』にさえ触れなかった」というふうに発言の意味を捉えています。

5面の社説タイトルは「欠けていた未来への視点」となっていました。「深刻な人口減少問題を正面から取り上げる党首がいなかつたことをはじめ、多くの国民が抱いている将来への不安の解消につながる論戦が展開されたようには思えない」としていました。

ただし、人口減と経済の低下とは直接の関係はありません。事実、世界中の先進国が人口減に見舞われていますが、日本ほど経済が低下している国はありません。世界の他の先進国と、日本で違うのは、日本は平成年間においては、実体経済とは関係なく、金融引き締めと、緊縮財政をしてきました。



他先進国でも、金融政策や財政政策に失敗した国もありますが、日本ほど長期間にわたり、結局平成年間のほとんどの期間にわたって、金融引き締め、緊縮財政をした国はありません。

【東京】は2面の解説記事「核心」で討論会について解説、見出しには、まず大見出しが「年金ビジョン 真っ向対立」となっていて、続いて「与党 将来のため給付抑制」「野党 今苦しい高齢者優先」と与野党が対比されています。

この見出しの焦点は「マクロ経済スライド」の是非ということになるでしょうが、これは保険制度の基本であり、これを無視するといずれ保険制度にほころびがでてしまいます。いずれの政党にしても、政権与党になったとしたら、保険制度の基本中の基本中の基本である、マクロ経済スライドを実行しないということはあり得ません。だからこそ、民主党政権時代にもこれを実行していたのです。

安倍氏はこの仕組みがなければ「40歳の人がもらう段階になって、年金積立金は枯渇してしまう」としたのに対して、共産党・志位委員長は「国民の暮らしが滅んだのでは何にもならない」としてマクロスライドの廃止を要求。立憲民主党・枝野代表も「共産党の提案を含め、広範な議論が必要」と言っていました。

ただし、これは経済を良くすれば、おのずと改善されるものであり、野党はここで経済を具体的に良くする政策を強く打ち出せば良かったのでしょうが、そうではなかったので説得力の欠けるものになりました。特に、立憲民主党の枝野氏の経済理論は、金融緩和などはせずに、最低賃金をあげるというもので、これは昨年韓国で文在寅大統領が実施し、雇用が激減して大失敗した政策です。

5面の社説はタイトルですが「三権分立の不全を問う」となっています。他紙とは明らかにニュアンスを異にしているようですが、官邸に過度に権力を集中させてきた「アベ政治」をこのまま続けさせて良いのかという論点になっています。その意味では《朝日》の社説に通ずるものがある。

そうして、各新聞に共通するのが、時の権力に反対すること正義とい価値観です。そうして、この正義は今回の選挙により国民にノーを突きつけられたようです。

そうして、上にも掲載したように、特に【読売】にみられるように、日銀もあわせた統合政府ベース(民間企業でいえば連結決算)はすでに終了したはず財政再建を財務省はまだ終了していないと強弁して増税を正当化しようとしています。

さらに、政府単独でみても、資産と負債の両方を勘定ににいれれば、米国や英国よりも少ないはずの政府の借金を大げさに言い立て、それを根拠として増税しようとする財務省の魂胆なのですが、今回は安倍政権が増税することにしたため、これはあまり重要な論点とはなりませんでした。

大手新聞の購読料は軽減税率の適用となり増税後も値上げされない

本来ならば、もっと大きな論点になっても良かったはずなのですが、野党側も反政府ということで増税に反対しているだけで、経済の内容は良く理解していなかったので大きな論点にできなかったのでしょう。新聞も軽減税率の対象になるため、産経新聞など一部を覗いては増税に反対はできなかったのでしょう。

現在、米国、中国、英国、EU など多くの国々で減税しようとしているときに、日本だけがデフレから抜けきってもいないのに増税しようとする異常事態ですから、本来であれば、もっと大きな論点にできたはずです。

この財務省の動向はやはり変わらないようです。安倍晋三首相(自民党総裁)は9月中旬に内閣改造・党役員人事を行う考えです。内閣の要である菅義偉官房長官と麻生太郎副総理兼財務相は留任の方向で調整しているそうです。

麻生太郎副総理兼財務相(左)と菅義偉官房長官(右)

このブログでも以前述べたように、この内閣改造で麻生太郎氏が財務大臣に留任しなかったとしたら、官邸は財務省に対して何らかの対抗処置をしようとしているとみても良いですが、今回の内閣改造ではそうはならなかったようです。

やはり、強大な財務省の圧力を軽減し、政権運営を円滑にするために今回は、麻生氏を財務大臣に据え置くしかないようです。

だからこそ、高橋洋一氏が上の記事でも主張しているように、全品目を対象とする軽減税率を適用すべきです。全品といかなくても、消費に大きな影響を与える物品に関しては、軽減税率を適用して、増税の悪影響を取り除くべきです。

ただし、いずれの時点の内閣改造においても、麻生氏が財務大臣にならないという事態が生じた場合は、官邸の財務省に対する反撃の狼煙があがったものと受け取るべきでしょう。

そうして、財務省は本来政府の一下部組織にすぎないものが、金の配賦や、国税局の徴税権をかさに着て、あたかも一台政治グループのように振る舞う財務省の存在こそが、日本の政治を駄目にしていることをもっと多くの人々が理解すべきでしょう。

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2019年7月22日月曜日

ロシアからの武器購入で自らの立場を複雑にするトルコ―【私の論評】日本はトルコと米を仲介する絶好の位置にいる(゚д゚)!

岡崎研究所

 米国の外交・軍当局はまたもやトランプ大統領に梯子を外されたらしい。

トルコ国旗柄のビキニ

 6月29日、G20サミットに参加するために大阪を訪れていたトルコのエルドアン大統領は、米国のトランプ大統領と会談した。その会談の前、および同日の記者会見でトランプ大統領が述べたことを要約すれば、次の通りとなる。すなわち、「状況は複雑である。エルドアン大統領はパトリオット・ミサイルを買おうとした。ところがオバマ政権は売ろうとしなかった。そこで彼はS-400を買った。多額のカネを払った。買った後になって米国はパトリオットはどうだと言い出した。手遅れである。彼には最早どうしようもない。商売はそういう風には進まない。その間、エルドアン大統領は100機以上のF-35を買った。とてつもない額のカネを払った。ところが、S-400とは両立し得ないと言われている。しかし、エルドアンは不公正に扱われて来たのだ。状況は大混乱である(It’s a mess)。しかし、エルドアン大統領のせいではない。問題であることは確かだが、(制裁を発動するのかと問われて)別の解決策を模索している(We’re looking at different solutions)。エルドアン大統領はタフな男だが、自分は巧くやっている」。

 大阪G20サミットより前の6月26日、ブラッセルでNATO国防相会議が開催された。米国防長官代行に就任したばかりのマーク・エスパーは、その機会に、S-400とF-35は両立し得ず、トルコが双方を持つことは認め得ないとトルコの国防相に警告したばかりであった。

 エルドアン大統領は、S-400の購入について米国が制裁を課すことはないとの保証をトランプ大統領から得たと主張している。トランプ大統領の発言振りに照らせば、エルドアン大統領がそう主張しても不思議ではない。これではS-400の配備は止められない。トランプは別の解決策と言うが、何を考えているのかは分からない。トランプ大統領は問題の責任はオバマ政権にあるとしているが、その辺りの事情は詳らかにしていない。

 いずれにせよ、問題は三つある。一つは、トルコに S-400が配備された状況で米国はどう対応するかの問題である。そういう状況でF-35の引渡しを米国議会が認めるとは思われない。議会が制裁発動に動くことも十分あり得ることであろう。

 二つ目は、NATOとしてどう対応するかの問題である。加盟国にロシア製の兵器が導入されるという異常事態に対し、米国だけの措置で事足りるということにはなり得ないであろう。行き過ぎの措置に走って、ロシアのプーチン大統領を喜ばせるだけに終わるのはよろしくないが、同盟の原則に沿って筋を通す必要がある。仮に、トランプ大統領が、その流儀によって責任をオバマ政権に押し付け、問題を糊塗しようとするのであれば、欧州の同盟国の胆力が試されることとなろう。

 最後三つ目の問題は、トルコ自身の立ち位置の問題である。そもそも、この複雑なトルコの立ち位置には、シリア問題とクルド問題、さらにはISISが絡んでいる。もともとトルコは、シリアの反アサド政権ということでは、米国やフランス等NATO諸国と同じ側にある。その意味では、アサド政権を支持、支援しているロシアやイランとは立場を異にする。しかし、ISISに対する掃討作戦で、米国がクルド勢力を支援しているのに対し、エルドアン政権はクルドに対して厳しい態度を取っている。エルドアンがクルドを攻撃する際には、シリアやロシアの協力も必要となる。7月13日、トルコのアカル国防相は、米国のエスパー国防長官代行と電話で協議し、S-400やシリア問題を話し合ったが、トルコのS-400導入の意思は固かったようだ。アジアと欧州の間に位置するトルコは、東西の懸け橋とも言われるが、不安定なシリア、イラク、イランとも国境を接し、それら諸国にまたがって住むクルド民族問題も抱え、地政学的に複雑である。トランプ政権が、いかに交渉して、NATOの同盟国らしくトルコに振舞ってもらうかは、至難の業となりそうである。

【私の論評】日本はトルコと米を仲介する絶好の位置にいる(゚д゚)!

米国は先に、トルコがS400の導入を開始したのを受け、最新鋭ステルス戦闘機F35の多国間共同開発計画からトルコを排除すると発表しました。F35計画からのトルコの排除は、2020年3月末までに完了します。


チャブシオール外相はテレビ局TGRTの番組で「米国が制裁を科した場合、我々は必要な報復措置を取る。インジルリク空軍基地に関する措置が講じられるかもしれない。これは脅迫やおどしではない。こうした状況では自然なものだ」と述べました。

また外相は「トルコは独自の武器製造に真剣に取り組んでいる。我々は独自の戦闘機の製造を望んでいる。だがF35は新技術であるため、同計画のパートナーとなり、14億ドルを支払った。しかし、すべてが悪いシナリオに従って進んでおり、我々にF35は与えられない。つまりトルコの最も自然な権利は、我々が行ったように、S400を購入して不足を補うことだ。我々は自分たちの利益のためにもっぱら行動し、他の代わりを探す」と述べた。

先にトルコのアカル国防相は、米国の戦闘機F35の多国間共同開発計画からトルコを排除することで、NATO(北大西洋条約機構)の南部方面は弱体化するとの見方を表しました。

今月18日、ホワイトハウスは、F35開発計画からトルコを排除すると発表しました。 

トルコのNATO加盟は1952年。東西冷戦が激しさを増す中で南下政策を志向するソ連を封じ込める米欧諸国の狙いが背景にありました。ソ連崩壊で冷戦は終結しましたが、後継国ロシアのプーチン政権は米欧との関係が冷え込む中、トルコを切り崩す手を打ってきました。

2015年に起きたトルコ軍によるロシア戦闘機撃墜事件の後、プーチン氏は1年とたたぬうちにトルコとの関係を修復。ロシアは18年、トルコ南部アックユで同国初の原発建設に着手したほか、両国を結ぶ天然ガスパイプラインの黒海海底部への敷設も完了しました。

ロシアが資源に乏しいトルコに取り入る狙いは鮮明で、S400の供与と重ね合わると、「兵器とエネルギー」をセットで売り込み自陣に招き寄せるロシアの典型的な手法といえます。

他方、NATOにとりトルコは中東を見渡す前線基地の役割を果たしてきました。南部のインジルリク空軍基地には米軍が駐留し、シリア内戦でイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に空爆を行う拠点となりました。アフガニスタン駐留米軍の後方支援拠点としても使われています。

トルコはトランプ政権が軍事、経済面から圧力を加えるイスラム教シーア派大国のイランに加え、シーア派人口が国内最大のイラク、内戦が続くシリアと国境を接しており、地政学的にも重要な位置にあります。近年は関係がぎくしゃくしているとはいえ、欧州からみれば「安定の防波堤」ともいうべき存在です。

エルドアン政権はイスラム色の濃い政策を打ち出していますが、もともとは世俗主義がトルコ建国以来の国是で欧米の価値観に一定の理解を示してきました。トルコの「NATO離れ」は計り知れぬ激震となる恐れがあります。

トルコと米国とロシアの関係、きな臭さがでてきました。こういうときにこそ、トルコは親日国ということから、日本のできることがあるのではないかと思います。

トルコと日本の間では歴史の中で様々な関わりがありましたが、今回はその中から特に有名な出来事を4つピックアップしてトルコと日本が絆を深めた理由をご紹介したいと思います。

①親日の始まり「エルトゥールル号遭難事件」

1890年日本からの帰途、強風にあおられたエルトゥールル号は紀伊大島の樫野崎に連なる岩礁に激突し、機関部が浸水してしまい水蒸気爆発を起こします。そのとき600名もの人が海に投げ出されたそうです。

エルトゥール号

生存者は数十メートルの断崖を這い上り灯台守に遭難を知らせ助けを求めました。通報を受けた大島村(現在の串本町)の住民は総出で救助と介抱に当ります。台風で大島村の住民も漁に出られずに蓄えが僅かだったのにもかかわらず、非常食や衣類を提供し献身的に救護を務めました。

この事件は死亡・行方不明者587名という大惨事でしたが、大島村の住民たちのおかげで69名の方が生還することができました。

②日露戦争の日本海海戦の勝利

大国ロシアに、当時開国をして50年ほどしか経っていないアジアの小さな新進国の日本が勝てるわけがないというのが世界各国の見方でした。しかし、その予想を覆し東郷平八郎率いる連合艦隊がロシア・バルチック艦隊を撃沈し、海戦史上最も圧倒的とされる一方的な勝利を掴みとります。これに歓喜したのは日本だけでなくトルコもそうでした。

ロシアに近いトルコは常にロシアからの脅威に曝されていましたが、強国に敵うわけもなく八方ふさがりのような状態でした。
そこに舞い込んできたのが日本の勝利の報、トルコは政治的な面はもちろん、アジアの国が大国に打ち勝つという快挙に感銘を受けました。

また、この戦いにおいて捕虜になったロシア兵たちを手厚く介抱し、更には自国での軍法会議を恐れたロシア士官を日本に留まらせる自由を与えるなど、戦時国際法を徹底した日本の姿勢は世界から賞賛を受けました。

③トルコ共和国は明治維新に倣って改革を行った

日本が大国ロシアに勝利した最たるきっかけとなったのが明治維新です。日本海海戦後、アジア諸国には「アジア人も西洋の模倣をすれば世界と戦える」という考えを浸透させました。

トルコも明治維新に倣って改革を行います。トルコ共和国・建国の父、初代大統領ケマル・アタテュルクは、明治天皇をこよなく崇拝し、陛下の写真を自分の机に飾っていたという逸話もあります。
④イラン・イラク戦争時のトルコからの恩返し

イラン・イラク戦争中の1985年3月、大統領サダム・フセインは「今から40時間後をタイムリミットとしてこれ以降終戦までの間イラン上空を飛ぶ航空機は軍用機であろうと民間航空機であろうといかなる国の機体であろうとすべて撃墜する」という布告をしました。

世界各国は自国民を救出するために救援機を出し自国へと退避させましたが、日本政府だけ素早い決定ができなかったた為に216名の日本人が空港に取り残されてしまいました。
イラン大使館の大使は日頃から親交のあったトルコ大使館の大使に窮状を訴えます。トルコは即座にトルコ航空をイランに派遣し、タイムリミット僅かの1時間15分前にトルコ領空へ216名の日本人全てを退避させました。

この良好な両国の関係は今もかわりません。東京オリンピック誘致が決まる直前、安倍総理は次のようにトルコによびかけています。

「もしトルコが五輪を射止めることに成功すれば、私は世界で一番最初にお祝いを申し上げたい。しかし、もし日本が五輪を射止めることに成功したら、どうかエルドアン首相、世界で一番最初に祝っていただきたい」。

安倍総理の呼びかけに応え、いち早く
 祝福してくれたトルコのエルドアン首相 

ロシアについては以前このブログで掲載したように、今やGDPは韓国並みにすぎません、日本で言えば東京都と同レベルです。とはいいながら、ロシアは旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承していることから、決して侮れるような相手ではありません。

ただ一ついえるのは、経済的に脆弱なロシアにできることは限られています。それを考慮するとトルコは米国の同盟国であったほうがより良いことだと思います。

東南アジア、インドなどには現在でも米国に敵対的な勢力は多く、米国インド太平洋戦略を実現するにおいて、安倍首相は米国とインド太平洋地域の仲介者として大きな働きをしました。

私は、トルコに対しても、このような仲介ができるのではないかと期待しています。というより、現在日本はトルコと米を仲介する絶好の位置にいると言っても過言ではないと思います。

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2019年7月21日日曜日

イラン革命防衛隊、英タンカー拿捕の映像公開―【私の論評】イランと英国の対立も制限なきチキンレースになることはなく、いずれ収束する(゚д゚)!

イラン革命防衛隊、英タンカー拿捕の映像公開

イラン革命防衛隊がへりコプターから英タンカーに降下し、拿捕する様子

イラン革命防衛隊は、中東・ホルムズ海峡で、イギリスのタンカーを拿捕した際に撮影したとする映像を公開しました。

ヘリコプターからおろされたロープを伝い、タンカーの甲板に次々と人が下りていきます。ヘリコプター内部から撮影された映像には、覆面姿の兵士が複数映りこみ、腕にはイランの国旗が確認できます。この映像は、イラン革命防衛隊が20日、国営テレビを通じて公開したもので、イギリスのタンカー「ステナ・インペロ」を拿捕した際に撮影されたものとみられます。

国営イラン通信によりますと、イラン側は「イギリスのタンカーはイランの漁船と衝突したうえ、救難信号に応えなかった」と主張。ただ、実際に衝突事故があったのかどうかは明らかになっていません。

また、ロイター通信によりますと、イランの港湾関係者は「タンカーの乗組員23人はイラン側が調査をする間、船内に残ることになる」と説明しているということです。

「ザリフ外相との会話やイランの声明からは、今回の件を、ジブラルタルでのタンカー拿捕の報復とみていることが明白にわかる」(イギリス ハント外相)

こうしたなか、イギリスのハント外相は20日午後、イランのザリフ外相と電話会談をし、「先週は事態を鎮静化させたいと言っていたのに、イランがその真逆の行動に出たのは非常に残念だ」と伝えたということです。ハント外相は、ジブラルタル沖でイランの原油を積んだタンカー「グレース1」を拿捕したのはEUの制裁に違反している疑いがあったからだと改めて強調した上で、“『ステナ・インペロ』はオマーン領海にいたところを強制的にイランに連れていかれた、これは国際法に明らかに違反している”と主張して、タンカーの解放を求めました。

イギリスのテレグラフ紙は、イギリス政府が資産凍結などの対抗措置を検討していると報じています。ハント外相は「イラン核合意は引き続き順守する」としていますが、これまでアメリカとは一線を画した対応してきたイギリス・ドイツ・フランスの核合意当事国が今回の拿捕をきっかけに方針を変化させるかどうかも1つの焦点です。(21日08:51)
【私の論評】イランと英国の対立も制限なきチキンレースになることはなく、いずれ収束する(゚д゚)!


イランがホルムズ海峡で英船籍タンカーを拿捕(だほ)した問題を受け、欧州連合(EU)とドイツ、フランスは20日、それぞれ声明を出し、一斉にイランを非難しました。タンカーと乗組員の速やかな解放を要求し、独仏は英国との連帯姿勢を鮮明にしました。

EUの報道官は声明で、拿捕に「深い懸念」を示し、「緊迫した状況をさらに悪化させる恐れがあり、解決の道を探ろうとする取り組みを台無しにしてしまう」と批判。「船と乗組員の即時解放を要求し、自制を求める」と訴えました。

独外務省はイランを「最大限に非難する」とした上で、「民間海運への正当化できない攻撃だ」と指摘。状況悪化への懸念を示し、「英国と協力し合う」と強調しました。仏外務省も「地域の緊張緩和を妨害する行為を断固として非難する」とし、英国との「完全な連帯」を表明しました。

イランと英国の対立の深まりは、欧州が存続を目指すイラン核合意をめぐる問題にも影響を与える可能性があります。

今日のイラン危機は、ペルシャ湾岸国だけではなく全世界に教訓を示しています。

イラン危機の現状をみて、ロシアや中国といった国は、西側がハイブリッド戦争(軍事力と政治的効果を狙った市民活動など各種手法を組み合わせた戦争)に対する答えを持っていないという自分たちの考えが正しかったと確信するでしょう。

イラン海軍の軍事力は非常に弱く、軍事作戦が展開されれば、バーレーンを拠点とする米海軍第5艦隊に粉砕されることでしょう。

そのためイランは代わりに、ハードパワーがあまり問われないハイブリッド戦争を展開しています。これにより、西側がいかにハイブリッド戦争に対する準備をしていないかが浮き彫りになっています。

ハイブリッド戦争は、在来型・非在来型軍事手段と偽情報、名誉毀損(きそん)、経済、ソーシャルメディアの操作、宗教やその他政府が関連する活動の利用などの手段を組み合わせ、「伝統的」戦争を行うことなく敵を弱体化させることを目的としています。

現在進行しているイラン危機は、ロシアや中国が被害を被ることなく、いかに西側のハードパワーに対抗するかということをみる試金石だともいえそうです。

ハイブリッド戦争の提案者らは西側と「戦わない」ことを選びましたが、これは賢明な判断であり、堅実な軍事戦略です。

イラン、ロシア、そして最近では中国も、伝統的軍事力と深く結びついた自由民主主義が築き上げた構造を破壊することに非常にたけています。英議員ボブ・シーリー氏は「これらの国は以前に比べ、慣習にとらわれない考え方をするようになっている」と警告しています。
ボブ・シーリー氏

英国はイランへの経済制裁について、政治的には欧州連合(EU)を支持する一方、軍事的には米国と緊密な関係を保とうとしている。「英国は戦略的に苦境に陥っている」とシーリー氏は話す。

イランは自分たちの苦境にできる限り外交的関心を集めたいと考えており、それを実現するためには中東の安定性を損なうこともするだろう。米国もしくは英国が軍事行動を起こせば、イランはそれを可能な限り迅速に国際問題化する可能性がある。

イランの政治は唯一の階層的構造があるわけではなく、対抗する勢力が複数存在している。「代理戦争や非対称戦争についてやり取りする時、必ずしもイラン議会と交渉するとは限らない。むしろ政権とは距離を置くイラン革命防衛隊を相手にすることになる」とシーリー氏は説明する。

英国防参謀総長を務めたことがあるデビッド・リチャーズ氏は、これらはすべて、ブレグジット後の大規模戦略を策定する必要があることを示していると指摘する。「英国は種々の危険や危機に見舞われ揺れており、自らが取るべき世界的な戦略や目的を誰も実際には理解していない」

リチャーズ氏はペルシャ湾もしくはそれ以外の地域における問題で「意図されたものかどうかにかかわらず、新首相は今後半年間、試されることになるだろう」と語った。
「大部分(の政治家)が、そのような試練に対する準備をまったくしていないことを懸念している」
イランは結局のところ、米国ではない英国などにテロを仕掛けて様子を見ているるというのが正しい見方だと思います。

米国とイランの対立は果てしないチキンゲームになることはありません。それは、両者とも理解していることでしょう。それについては、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
際限なきチキンゲームに、イラン、相次ぐ核合意破り―【私の論評】チキンゲームの最終段階は米イラン双方とも最初から見えている(゚д゚)!
ウラン濃縮度引き上げを発表 するイラン政府高官
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
このままイランが制裁破りをすれば、米国は武力行使の以前の段階で、種々の金融制裁を実施し、さらに最終的には米国の「ドル使用禁止」という切り札により、イランが崩壊して終わることになります。
これは、中国、北朝鮮とて同じことです。ドル決済ができなければ、お手上げになります。古代ですら、イランは海外との取引をしていたはずです。そのイランが、現代では海外と取引がほとんどできなくなれば、古代以前の石器時代に戻るしかなくなります。勝負は最初から決まっています。

古代からのイランの輸出品「ペルシャ絨毯」
ただし、米国が一足飛びにイランに対して本格的な金融制裁をしてしまえば、イラン側も必死になり、それこそ破れかぶれで、テロ攻撃、イスラエル攻撃などを実施することも考えられます。だから、米国としてはそれをする前の様子見をしているというところでしょう。イランはイランで、どこまで制裁破りをすれば、米国がどのような挙動に出るのか見極めるために、いろいろ実施しているというところでしょう。 
現状の制裁でも、時間が経てば、イランはかなり疲弊します。そこで、最後の手段として本格的金融制裁をするかしないかを決定するでしょう。これは、中国に対しても全く同じです。チキンゲームの最終段階は米イラン双方とも最初から見えているのです。
「ドル使用禁止」という制裁は、米国ドルが基軸通貨である現在、世間で一般に思われている以上に厳しい制裁です。これが、日本のような国であれば、「ドル使用禁止」になったにしても、GDPの殆どが内需で占められ、貿易依存度が低い国では、確かに相当苦しいですが、何とかはできます。ちなみに日本の貿易依存度は27%です。

しかし、イランのような国ではそのようなわけにはいきません。イランは貿易依存度が41%です。 このような国では、「ドル使用禁止」されると、その制裁の効果は破滅的なものになります。

そのため、イランも対立が長引けば、いずれ「ドル使用禁止」をされて、破滅することは最初から理解していることでしょう。この破滅的な政策にあっては、いくらイランがハイブリット戦争を仕掛けたにしても、太刀打ちできないです。

ただし、そうはいってもどこまで米国がハイブリット戦争や、テロなどを仕掛けられれば、「ドル使用禁止」などで対抗してくるかを探っているとみるべきでしょう。

これは、米国だけではなく、米国の同盟国である英国も同じことです。場合によっては、我が国に仕掛けてくるということも十分に考えられます。

そうして、イランは米国や英国に対しても、ハイブリッド戦争やテロを仕掛けて自らに有利なのはどの程度なのかということを探り、その範囲内でいろいろ仕掛けてみずらにとっても有利なところはどこなのか探りを入れているのでしょう。

これは、かつての中国もそうでした。南シナ海で海洋進出してみたり、その他世界でいろいろなことを仕掛けてみました。その結果オバマはさしたる反撃もしなかったため、調子に乗ってやりすぎたところをトランプに貿易戦争を挑まれました。

米国としては、どこまでイランや中国、そしてロシアのような国々にハイブリット戦争や、テロを挑まれた場合許容できる点と、そうではない点をある程度明確にしているでしょう。

ある地点を超えた場合、何のためらいもなく「ドル使用禁止」「資産の凍結」などを実行することでしょぅ。そうして、その場合は、軍事的報復なども計算に入れているでしょう。

だから、英国も同盟国の米国の戦略まで含めてみれば、英国がハイブリット戦争に対して全く準備していないということはないのです。

シティ・オブ・ロンドン

英国のポンドは基軸通貨ではなくなったものの、ロンドンの金融街であるシティは未だに数々の特権を認められた自治都市を形成しています。これは米国のウォール街がニューヨーク市のいち区画に過ぎないのとは異なります。

英国の中央銀行である、イングランド銀行を筆頭に、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備銀行)の株式の大多数をシティーの金融街が握っており、英国(シティー)が今でも米国対して大きな影響力を持っているのです。

シティーが米国に作ったのがCFR(外交問題評議会)です。金融ばかりでなく米国の政治、経済、軍事も対してもシティが大きな影響力を行使することができるのです。その権力の中央に位置するのがイングランド銀行なのです。

イランがこの実体を知らないまま、英国に対してハイブリット戦争をなどを仕掛け続ければ、米国から痛い目に合わせられる日がくるのは必定です。ただ、米国とてすぐに厳しい措置をとれば、イラン側がどのような行動をするか、確かめながら実行しなけば、かえって被害を被る可能性も否定しきれません。

そのため、イランと英国の対立も制限なきチキンゲームになることはなく、いずれどこかの点で収束することでしょう。

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