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2019年7月21日日曜日

イラン革命防衛隊、英タンカー拿捕の映像公開―【私の論評】イランと英国の対立も制限なきチキンレースになることはなく、いずれ収束する(゚д゚)!

イラン革命防衛隊、英タンカー拿捕の映像公開

イラン革命防衛隊がへりコプターから英タンカーに降下し、拿捕する様子

イラン革命防衛隊は、中東・ホルムズ海峡で、イギリスのタンカーを拿捕した際に撮影したとする映像を公開しました。

ヘリコプターからおろされたロープを伝い、タンカーの甲板に次々と人が下りていきます。ヘリコプター内部から撮影された映像には、覆面姿の兵士が複数映りこみ、腕にはイランの国旗が確認できます。この映像は、イラン革命防衛隊が20日、国営テレビを通じて公開したもので、イギリスのタンカー「ステナ・インペロ」を拿捕した際に撮影されたものとみられます。

国営イラン通信によりますと、イラン側は「イギリスのタンカーはイランの漁船と衝突したうえ、救難信号に応えなかった」と主張。ただ、実際に衝突事故があったのかどうかは明らかになっていません。

また、ロイター通信によりますと、イランの港湾関係者は「タンカーの乗組員23人はイラン側が調査をする間、船内に残ることになる」と説明しているということです。

「ザリフ外相との会話やイランの声明からは、今回の件を、ジブラルタルでのタンカー拿捕の報復とみていることが明白にわかる」(イギリス ハント外相)

こうしたなか、イギリスのハント外相は20日午後、イランのザリフ外相と電話会談をし、「先週は事態を鎮静化させたいと言っていたのに、イランがその真逆の行動に出たのは非常に残念だ」と伝えたということです。ハント外相は、ジブラルタル沖でイランの原油を積んだタンカー「グレース1」を拿捕したのはEUの制裁に違反している疑いがあったからだと改めて強調した上で、“『ステナ・インペロ』はオマーン領海にいたところを強制的にイランに連れていかれた、これは国際法に明らかに違反している”と主張して、タンカーの解放を求めました。

イギリスのテレグラフ紙は、イギリス政府が資産凍結などの対抗措置を検討していると報じています。ハント外相は「イラン核合意は引き続き順守する」としていますが、これまでアメリカとは一線を画した対応してきたイギリス・ドイツ・フランスの核合意当事国が今回の拿捕をきっかけに方針を変化させるかどうかも1つの焦点です。(21日08:51)
【私の論評】イランと英国の対立も制限なきチキンレースになることはなく、いずれ収束する(゚д゚)!


イランがホルムズ海峡で英船籍タンカーを拿捕(だほ)した問題を受け、欧州連合(EU)とドイツ、フランスは20日、それぞれ声明を出し、一斉にイランを非難しました。タンカーと乗組員の速やかな解放を要求し、独仏は英国との連帯姿勢を鮮明にしました。

EUの報道官は声明で、拿捕に「深い懸念」を示し、「緊迫した状況をさらに悪化させる恐れがあり、解決の道を探ろうとする取り組みを台無しにしてしまう」と批判。「船と乗組員の即時解放を要求し、自制を求める」と訴えました。

独外務省はイランを「最大限に非難する」とした上で、「民間海運への正当化できない攻撃だ」と指摘。状況悪化への懸念を示し、「英国と協力し合う」と強調しました。仏外務省も「地域の緊張緩和を妨害する行為を断固として非難する」とし、英国との「完全な連帯」を表明しました。

イランと英国の対立の深まりは、欧州が存続を目指すイラン核合意をめぐる問題にも影響を与える可能性があります。

今日のイラン危機は、ペルシャ湾岸国だけではなく全世界に教訓を示しています。

イラン危機の現状をみて、ロシアや中国といった国は、西側がハイブリッド戦争(軍事力と政治的効果を狙った市民活動など各種手法を組み合わせた戦争)に対する答えを持っていないという自分たちの考えが正しかったと確信するでしょう。

イラン海軍の軍事力は非常に弱く、軍事作戦が展開されれば、バーレーンを拠点とする米海軍第5艦隊に粉砕されることでしょう。

そのためイランは代わりに、ハードパワーがあまり問われないハイブリッド戦争を展開しています。これにより、西側がいかにハイブリッド戦争に対する準備をしていないかが浮き彫りになっています。

ハイブリッド戦争は、在来型・非在来型軍事手段と偽情報、名誉毀損(きそん)、経済、ソーシャルメディアの操作、宗教やその他政府が関連する活動の利用などの手段を組み合わせ、「伝統的」戦争を行うことなく敵を弱体化させることを目的としています。

現在進行しているイラン危機は、ロシアや中国が被害を被ることなく、いかに西側のハードパワーに対抗するかということをみる試金石だともいえそうです。

ハイブリッド戦争の提案者らは西側と「戦わない」ことを選びましたが、これは賢明な判断であり、堅実な軍事戦略です。

イラン、ロシア、そして最近では中国も、伝統的軍事力と深く結びついた自由民主主義が築き上げた構造を破壊することに非常にたけています。英議員ボブ・シーリー氏は「これらの国は以前に比べ、慣習にとらわれない考え方をするようになっている」と警告しています。
ボブ・シーリー氏

英国はイランへの経済制裁について、政治的には欧州連合(EU)を支持する一方、軍事的には米国と緊密な関係を保とうとしている。「英国は戦略的に苦境に陥っている」とシーリー氏は話す。

イランは自分たちの苦境にできる限り外交的関心を集めたいと考えており、それを実現するためには中東の安定性を損なうこともするだろう。米国もしくは英国が軍事行動を起こせば、イランはそれを可能な限り迅速に国際問題化する可能性がある。

イランの政治は唯一の階層的構造があるわけではなく、対抗する勢力が複数存在している。「代理戦争や非対称戦争についてやり取りする時、必ずしもイラン議会と交渉するとは限らない。むしろ政権とは距離を置くイラン革命防衛隊を相手にすることになる」とシーリー氏は説明する。

英国防参謀総長を務めたことがあるデビッド・リチャーズ氏は、これらはすべて、ブレグジット後の大規模戦略を策定する必要があることを示していると指摘する。「英国は種々の危険や危機に見舞われ揺れており、自らが取るべき世界的な戦略や目的を誰も実際には理解していない」

リチャーズ氏はペルシャ湾もしくはそれ以外の地域における問題で「意図されたものかどうかにかかわらず、新首相は今後半年間、試されることになるだろう」と語った。
「大部分(の政治家)が、そのような試練に対する準備をまったくしていないことを懸念している」
イランは結局のところ、米国ではない英国などにテロを仕掛けて様子を見ているるというのが正しい見方だと思います。

米国とイランの対立は果てしないチキンゲームになることはありません。それは、両者とも理解していることでしょう。それについては、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
際限なきチキンゲームに、イラン、相次ぐ核合意破り―【私の論評】チキンゲームの最終段階は米イラン双方とも最初から見えている(゚д゚)!
ウラン濃縮度引き上げを発表 するイラン政府高官
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
このままイランが制裁破りをすれば、米国は武力行使の以前の段階で、種々の金融制裁を実施し、さらに最終的には米国の「ドル使用禁止」という切り札により、イランが崩壊して終わることになります。
これは、中国、北朝鮮とて同じことです。ドル決済ができなければ、お手上げになります。古代ですら、イランは海外との取引をしていたはずです。そのイランが、現代では海外と取引がほとんどできなくなれば、古代以前の石器時代に戻るしかなくなります。勝負は最初から決まっています。

古代からのイランの輸出品「ペルシャ絨毯」
ただし、米国が一足飛びにイランに対して本格的な金融制裁をしてしまえば、イラン側も必死になり、それこそ破れかぶれで、テロ攻撃、イスラエル攻撃などを実施することも考えられます。だから、米国としてはそれをする前の様子見をしているというところでしょう。イランはイランで、どこまで制裁破りをすれば、米国がどのような挙動に出るのか見極めるために、いろいろ実施しているというところでしょう。 
現状の制裁でも、時間が経てば、イランはかなり疲弊します。そこで、最後の手段として本格的金融制裁をするかしないかを決定するでしょう。これは、中国に対しても全く同じです。チキンゲームの最終段階は米イラン双方とも最初から見えているのです。
「ドル使用禁止」という制裁は、米国ドルが基軸通貨である現在、世間で一般に思われている以上に厳しい制裁です。これが、日本のような国であれば、「ドル使用禁止」になったにしても、GDPの殆どが内需で占められ、貿易依存度が低い国では、確かに相当苦しいですが、何とかはできます。ちなみに日本の貿易依存度は27%です。

しかし、イランのような国ではそのようなわけにはいきません。イランは貿易依存度が41%です。 このような国では、「ドル使用禁止」されると、その制裁の効果は破滅的なものになります。

そのため、イランも対立が長引けば、いずれ「ドル使用禁止」をされて、破滅することは最初から理解していることでしょう。この破滅的な政策にあっては、いくらイランがハイブリット戦争を仕掛けたにしても、太刀打ちできないです。

ただし、そうはいってもどこまで米国がハイブリット戦争や、テロなどを仕掛けられれば、「ドル使用禁止」などで対抗してくるかを探っているとみるべきでしょう。

これは、米国だけではなく、米国の同盟国である英国も同じことです。場合によっては、我が国に仕掛けてくるということも十分に考えられます。

そうして、イランは米国や英国に対しても、ハイブリッド戦争やテロを仕掛けて自らに有利なのはどの程度なのかということを探り、その範囲内でいろいろ仕掛けてみずらにとっても有利なところはどこなのか探りを入れているのでしょう。

これは、かつての中国もそうでした。南シナ海で海洋進出してみたり、その他世界でいろいろなことを仕掛けてみました。その結果オバマはさしたる反撃もしなかったため、調子に乗ってやりすぎたところをトランプに貿易戦争を挑まれました。

米国としては、どこまでイランや中国、そしてロシアのような国々にハイブリット戦争や、テロを挑まれた場合許容できる点と、そうではない点をある程度明確にしているでしょう。

ある地点を超えた場合、何のためらいもなく「ドル使用禁止」「資産の凍結」などを実行することでしょぅ。そうして、その場合は、軍事的報復なども計算に入れているでしょう。

だから、英国も同盟国の米国の戦略まで含めてみれば、英国がハイブリット戦争に対して全く準備していないということはないのです。

シティ・オブ・ロンドン

英国のポンドは基軸通貨ではなくなったものの、ロンドンの金融街であるシティは未だに数々の特権を認められた自治都市を形成しています。これは米国のウォール街がニューヨーク市のいち区画に過ぎないのとは異なります。

英国の中央銀行である、イングランド銀行を筆頭に、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備銀行)の株式の大多数をシティーの金融街が握っており、英国(シティー)が今でも米国対して大きな影響力を持っているのです。

シティーが米国に作ったのがCFR(外交問題評議会)です。金融ばかりでなく米国の政治、経済、軍事も対してもシティが大きな影響力を行使することができるのです。その権力の中央に位置するのがイングランド銀行なのです。

イランがこの実体を知らないまま、英国に対してハイブリット戦争をなどを仕掛け続ければ、米国から痛い目に合わせられる日がくるのは必定です。ただ、米国とてすぐに厳しい措置をとれば、イラン側がどのような行動をするか、確かめながら実行しなけば、かえって被害を被る可能性も否定しきれません。

そのため、イランと英国の対立も制限なきチキンゲームになることはなく、いずれどこかの点で収束することでしょう。

ホルムズ海峡「有志連合」結成へ 問われる日本の決断―【私の論評】イランでも米国でも政治には宗教が大きく影響していることを忘れるべきではない(゚д゚)!



2015年2月1日日曜日

【イスラム国殺害脅迫】後藤さん殺害か 「イスラム国」がネットに映像公開―【私の論評】宗教を信奉しつつも、その根底には霊性を重んじる精神があり、その精神界においてはどのような宗教の人々とも理解し合える、そんな世界を目指せ!!

【イスラム国殺害脅迫】後藤さん殺害か 「イスラム国」がネットに映像公開



【産経新聞号外】「後藤さん殺害」映像 安倍首相「非道卑劣」[PDF]

イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に拘束されていた後藤健二さん(47)を殺害したとされる映像が1日、インターネット上に公開された。日本政府は確認作業を進めるとともに、引き続き情報収集・分析を急ぐ。

イスラム国の日本人殺害脅迫事件をめぐっては、湯川遥菜(はるな)さん(42)と後藤さんの殺害を警告するビデオ声明を1月20日にネット上で確認。その後、湯川さんが殺害されたと読み上げる後藤さんとみられる男性の映像も確認された。

さらに、1月29日朝に後藤さんとみられる男性の音声付き画像が公開された。その中でイスラム国側は、後藤さんとヨルダンで収監中のサジダ・リシャウィ死刑囚の人質交換を要求。応じなければ拘束中のヨルダン人パイロットを殺害すると警告していた。

ただ、イスラム国側が期限とした29日深夜を過ぎても事態の進展はみられず、ヨルダン政府が水面下でイスラム国側と交渉を続けていたとされる。パイロットの安否は1日の時点で確認されていない。

安倍晋三首相は1月20日以降、繰り返しイスラム国を非難するとともに、関係国との連携強化など「人命第一」と「テロとの戦い」の取り組みを続けてきた。特に対イスラム国の最前線となっているヨルダン政府には、後藤さんの解放に向けた協力を要請してきた。ただ、ヨルダン政府は、後藤さんよりパイロットの解放を求める国内世論が強まるなど、厳しい判断を迫られていた。

【私の論評】宗教を信奉しつつも、その根底には霊性を重んじる精神があり、その精神界においてはどのような宗教の人々とも理解し合える、そんな世界を目指せ!!

後藤さんは、亡くなったものと判断されますので、まずは後藤さんのご冥福をお祈りいたします。

さて、国際的にも、ここ日本においても、今回の「いわゆるイスラーム国」による、人質事件に関して現代の宗教的世界観による精神世界の限界を示すものであるとの論調などほとんどありません。

このような精神世界の限界が、世界で様々な対立を生み出しているという論調はないし、ましてや、霊性を重んじる日本文化がこうした対立をなくすためのヒントにもなり得ることなど、全く報道されないのが非常に残念なことです。

これについては、このブログで掲載したことがあります。その記事のURLを以下に掲載します。
【本の話WEB】日本人人質事件に寄せて――「日本人の心の内」こそ、彼らの標的だ―【私の論評】日本にこそ、世界に新秩序を確立するためのヒントがある!日本人の心の内にある霊性を重んじる精神、これこそが世界の宗教的混乱を救う一里塚なると心得よ(゚д゚)!
式年遷宮「遷御の儀」で現正殿から新正殿に向かう渡御行列。
伊勢神宮は日本人と心のふるさと、未来への道しるべだ
=平成25年10月2日夜、三重県伊勢市の伊勢神宮

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事では、21世紀は、「霊性の世界」になることを、フランスの作家マルローや、ドイツの心理学者ユングが予言していることを掲載しました。

そうして、宗教的世界観だけではなく「霊性の精神」を未だに維持発展させている日本について解説し、結論としては以下のようなことを述べました。
日本人の精神世界は、宗教だけではなく、その根本に霊性を重んじるという観念が今でも根付いて、息づいています。これは、多くの人々が、意識するしないにかかわらず、日本人の生活習慣や考え方に自然と組み込まれていて、多くの人にとってはごく自然てあり、空気のような存在になっています。しかし、霊性が失われて、宗教が精神世界の大きな部分を占めるようになった他国ではこのようなことはないのです。

私たち日本人は、このような国日本に誇りを持ち、自信を持ち、世界に日本の素晴らしさを伝えてていくべきです。日本のやり方が、世界伝わりそれが理解されれば、世界は変わります。

霊性を重んじるという精神を捨てて、宗教一色に染まった世界は、ますます混迷を深めていくばかりです。

さて、この記事の元記事を書かれた、上田和男(こうだ・かずお)氏は、元記事ので以下のように結論を述べています。 
考えるに、人類文化の危機は「画一化」にあり、文明が衝突するのではなく、文明に対する無知が紛争の根源となるのだと思います。思考のプロセスを自省し、他にかぶれたり迎合させられたり、徒に自虐的になることから一歩距離を置いて、確信されてきたものを再吟味し、忘れ去っていた古き良きものへ思いをきたし、一方で他民族との交流においては、異質なもの・新たなものを受容し合う-。こうしたことが、文明間の対話で重要だと思います。 
国家的文化戦略は、長期構想として構築し、粘り強く世界へ向けて発信してゆくことが最重要です。世界的有識者の言説を待つまでもなく、21世紀が霊性の時代へと向かうならば、日本人としても1300年間継承されてきた伝統精神を矜恃し、発信・交流してゆくことが、自らの背骨を正すとともに、世界平和への貢献に資することにもなると確信いたします。
まさに、この通りです。今まで通り、多くの人々が信奉してきた宗教を捨て去り、霊性の世界に戻る必要などありません。それは、日本がすでに具現化しています。日本には、様々な宗教が混在しつつ、その精神世界の根底には、霊性を重んじる習慣が根付いています。日本では、年配の人が、「ご先祖様に申し訳がたたない」という言葉を発することがありますが、これこそ、霊性の発露でもあります。 
世界の人々が、宗教以前に、その根底には霊性の世界があることに目覚め、それを重要視するようになれば、世界から宗教戦争は消えます。そうして、今回のような人質事件のようなこともなくなると思います。 
そのために、霊性の世界を維持・発展させてきた私たち、日本人ができることがあるはずです。無論、今回の人質事件をすぐに解決するということはできないかもしれません。宗教で凝り固まった人々の精神を解きほぐすには、かなり長い時間を要するかもしれません。 
しかし、私は日本人の心の内にある霊性を重んじる精神、この精神を土台としつつどの宗教でも受け入れてしまう寛容さ、これが世界の宗教的混乱を救うための、一里塚になると思います。 
私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?
日本の巫女

さて、この記事においては、日本人の「霊性を重んじる精神」自体については、あまり説明しませんでした。私は、この精神は、いわゆる古神道にその原点があると思います。そうして、古神道によって培われてきた日本人の精神は、今に至るも日本人の文化として現在に至るまで継承され、今日に至っています。

古神道とは、仏教や儒教などの影響を受ける以前のわが国固有の神道です。日本の伝統的信仰で、祭祀(サイシ)を重んずる多神教の宗教。その神には自然神と人間神とがありますが、一般には人間神、すなわち皇室や国民の祖先である天照大神をはじめとする神々が多く祭られ、祖先崇拝が中心となっている。かんながらの道。神道(シンドウ)。

私自身は、我が国の古神道は言葉の厳密な意味において、宗教ではないと思っています。宗教なるもの以前の日本人の精神にあったより根源的なものであると思っています。欧米の知識人等の中には、日本の神道を宗教の原点と捉える人々もいます。

欧米の知識人等が東洋の伝統文化に驚き、その極致ともいうべき仏教文化に感動しているあいだは、まだ日本文化の表面をなでているにすぎません。日本文化を本当に理解しようとする人びとは、その根底にある神道と出逢ってしまうのです。

小泉八雲

ギリシア・リュカディア島生まれのイギリス人、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲もそうでしたし、イギリスの歴史学者アーノルド・J・トインビーもそうでした。ちなみにトインビー博士は昭和42年の秋、伊勢神宮(内宮)を参詣したとき、その参拝記念帳に次のように書きしるしました。

「この神聖なる庭に立つと、わたしはここがすべての宗教の原点であることを感じる」

アーノルド・J・トインビー
いうなれば彼らにとって日本の神道は、宗教の源泉なのです。たとえば、ローマ・カソリックが日本の禅と神道を霊性開発の手段として半ば公認しているのは、キリスト教自体に霊性開発の能力が失われているからほかならないのですが、もうひとつの理由としては、彼らが日本の神道を宗教の源泉と考えているからです。

日本の神道はしばしば多神教であるといわれ、実際、八百万の神々の存在を認めますから、多神教のなかでも際立ったものです。すなわち、自然界の万物に神性を見、自然界に起きた諸々の現象を神々からの通信として感じるのです。いうなれば、古神道のいわゆる<神ながら>とは、自然に偏在する神々のすべてと一体化する、ということです。

このように、神道がいま世界的に注目され始めています。それは神道が人びとの霊性を刺激し、人間と神々との交流を活発にさせるからです。その点で神道が"宗教の源泉"と呼ばれること自体には、大いに意義があることと思います。

自然にも霊が宿るとした日本人

ここで、日本人の宗教に対する考え方や接し方をとりあげてみます。日本人に「あなたの宗教は何ですか?」と質問してみると、すぐには答えがかえってこないのです。そのために「日本人は無宗教だ」といわれることも多いのですが、それは、日本ではあらゆる宗教が共存しているからです。

神道は古代から現代につづいている日本の民族信仰ですが、その間に、西暦3世紀から4世紀頃には儒教や道教が伝来して日本人の生活になじみはじめました。続いてて6世紀には仏教が伝わって来て、それらと日本固有の伝統信仰と区別するために神道(シントウ)という言葉が生まれました。16世紀にはキリスト教が日本に上陸しました。

キリスト教の宣教師たちは、日本人が神社にもお寺にもおまいりするのを見て、驚きました。ある宣教師は祖国に、次のような報告をしています。

「日本には宗教が二つある。神道と仏教というもので、長い年月を経て、お互いに影響しあって、日本人の生活に溶け込んでいる。日本人はホトケという偶像を拝み、カミという見えない存在に畏敬の念を抱いている。仏教のお寺にも行き、神道の社にも行くことに何の不思議も感じない」。

一神教であるキリスト教徒にすれば、神も仏も同一に感じ、礼拝しているのは、理解できないことだったのです。

フランシスコ・ザビエル

また、このような精神世界を持つ、日本にもバチカンはキリスト教を広めようとしため、あのフランシスコ・ザビエルが、日本で布教活動をしたのですが、出会った日本人が彼に決まって尋ねた事があります。

それは、「そんなにありがたい教えが、なぜ今まで日本にこなかったのか」ということでした。 そして、「そのありがたい教えを聞かなかったわれわれの祖先は、今、どこでどうしているのか」ということてした。

つまり、自分たちは洗礼を受けて救われるかもしれないけれども、洗礼を受けず死んでしまったご先祖はどうなるのか、やっぱり地獄に落ちているのかという疑念です。

元来、キリスト教においては、洗礼を受けてない人は皆地獄ですから、ザビエルもそう答えました。すると日本人が追求するわけです。 

「あなたの信じている神様というのは、ずいぶん無慈悲だし、無能ではないのか。全能の神というのであれば、私のご先祖様ぐらい救ってくれてもいいではないか」

ザビエルは困ってしまいまして、本国への手紙に次のように書きました。 

「日本人は文化水準が高く、よほど立派な宣教師でないと、日本の布教は苦労するであろう」と。当時の中国にも、韓国にも、インドシナにもこうしたキリスト教の急所(?)を突くような人間はいなかったわけです。

この他にも、『もし神様が天地万物を造ったというなら、なぜ神様は悪も一緒に造ったのか?(神様がつくった世界に悪があるのは変じゃないのか?)』などと質問され答えに窮していたようです。

ザビエルは、1549年に日本に来て、2年後の1551年に帰国しますが、日本を去った後、イエズス会の同僚との往復書簡の中で「もう精根尽き果てた。自分の限界を試された」と正直に告白しています。

霊性の世界を信じ、集団原理の中で生きてきた日本人にとって、魂の救済という答えは個人課題ではなく先祖から子孫に繋がっていくみんなの課題であったはずです。

「信じるものは救われる」=「信じない者は地獄行き」 

といった、答えを個人の観念のみに帰結させてしまうキリスト教の教義の矛盾に、当時の日本人は本能的に気づき、ザビエルが答えに窮するような質問をぶつけたのではないでしょうか。

そうして、当事のバチカンは、日本で布教するにおいては、他国で布教する際には認められなかった、日本ルールともいえる例外をいくつか認めました。

日本神話に登場するアメノウズメ

このように日本独特の宗教共存を可能にしたのは、八百万の神々を崇拝する神道が基盤になったからです。神道には、もともと包容性があり、客人(まれびと)を大切にして、異文化との接触による文化変容を可能にする素地がありました。

日本では「文化庁」という役所が宗教団体を取り扱っていて、毎年、「宗教年鑑」という日本の宗教に関する統計を発表しています。ここで、細かな統計は、文化庁のサイトに譲ることにして、文化庁に登録された宗教団体に属する信者総数は少し古い資料ですが、平成10年では2億1千5百万人程度となっています。

つまり宗教人口が実際の日本人口の2倍近くになっているのです。どうしてこんな現象が起きているのでしょうか。そのわけは、一人の日本人が複数の宗教団体に登録されているからなのです。



神社の氏子であり、お寺の檀家であり、新宗教の会員でもあるということが何の不思議もなく行われているのです。さすがにキリスト教系の団体では、そんなダブルブッキングは許されていないようですが、神社やお寺は二重、三重に所属していてもとやかく言うことはありません。

ですから、先に述べたように日本人は「あなたの宗教は何ですか?」という質問にすぐに「私の宗教はこれです」と答えがでないのは、そのような事情があるからです。

このような霊性を重んじる精神を維持発展させてきた日本は、世界の中でも特異な位置を占めると思います。以前にも、もともと、世界にはどの地域においても、アニミズムやシャーマニズムという形で霊を重んじる精神がありましたが、しかし、宗教が世界に敷衍してからは、この精神はほとんど失われました。しかし、日本だけが、上に述べたように、その精神を現在に至るまで継承し発展させてきました。

米国の新聞が伝える人質虐殺

世界から、宗教的な対立をなくすためには、今一度人類は、霊性を取戻す必要があります。そうならければ、これからますます、宗教的対立が世界を覆い、収拾がつかなくなり、人々は閉塞感にさいなまされ、自分たちの未来を信じることができなくなります。だからこそ、マルローや、ユングは今世紀は、霊性の時代になると予言したのだと思います。

こういうことを考えると、私は、今回の「いわゆるイスラーム国」による人質殺害事件は、宗教のみによる世界観では限界があることを象徴しているように思えます。そうして、霊性の精神世界を忘れた世界への警鐘であると思えてなりません。

そうして、世界がもう一度霊性を取戻すことにより、今回の人質事件を含む、宗教的な対立はこの世から消えいくのではないかと思います。

日本のように、宗教を信仰しつつも、その根底には霊性を重んじる精神があり、そのことにより多くの宗教を鷹揚に受け入れ、対立することもない世界。その精神界においてはどのような宗教の人とも理解し合える。そんな世界になることを願います。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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