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2019年7月23日火曜日

参院選後に直面する経済課題…消費税は「全品目軽減税率」を 対韓政策では“懐柔策”禁物!―【私の論評】大手新聞記事から読み解く、参院選後(゚д゚)!

参院選後に直面する経済課題…消費税は「全品目軽減税率」を 対韓政策では“懐柔策”禁物!

自民党本部の開票センターで、当確者の名前にバラを
付ける安倍首相=21日午後9時47分、東京・永田町

21日投開票された参院選では、与党は改選過半数を確保した。消費増税や外交など、参院選後に直面する課題にどう対処すればいいのか。

 10月からの10%への消費増税は決まりだ。ただし、その時の世界経済情勢を考えると経済政策としてはまずい。

 これは世界のエコノミストたちの共通認識だ。米中貿易戦争による中国経済鈍化、10月末予定の「ブレグジット」(英国のEU離脱)による経済混乱、米国とイランの緊張による偶発的な中東紛争の懸念などリーマン・ショック級の不安材料がめじろ押しだ。

 本来ならわざわざ日本で消費増税することはない。しかも、日本の財政破綻確率は無視できるほど小さい。

 だが、今や小売店でも軽減税率対応のシステムも導入され、消費増税の延期も実務上困難だ。そこで次善の策であるが、消費増税後、全品目を対象とする軽減税率にも備えておくべきだ。教育無償化の財源が不足するとの批判もあるようだが、日本維新の会が参院選で公約していたように、財源捻出は難しくない。

 欧米の金融政策は緩和傾向だろう。日本も負けずに緩和しないと民主党政権時の二の舞いになってしまう。

 中東問題で、米国とイランの仲介役として日本は世界からも期待されているが、米国を中心とする「有志連合」の話も具体的に出ており、参加すれば仲介役は諦めざるを得ないだろう。ただ、日本のタンカーを誰が守るかといえば、日本以外が犠牲を払って守ってくれるはずはない。(1)有志連合への参加(2)単独警護(3)静観の三択のうち、(1)か(2)しかあり得ないと思うが、これは日本の大きな方向性を決定付けるので、しっかりと議論すべき課題だろう。

 中東問題は日本のエネルギー安全保障に直結する。トランプ米大統領はツイッターで日本と中国を名指し、「ホルムズ海峡は自国で守れ」と述べた。早速中国はこれを奇貨として自国でタンカーを守る方向だが、日本も同じ方向で動くべきだ。必要なら法改正も含めて与野党間で議論することが求められる。

 対外関係では、韓国問題もある。韓国は相当焦っている。依存度が高い中国経済の悪影響も受けており、今回の日本の輸出管理強化は効果的だ。これはいわゆる「元徴用工問題」での報復ではなく、安全保障上の貿易管理措置の見直しだ。かつてのココム(対共産圏輸出統制委員会)規制の流れをくむ「ワッセナー・アレンジメント」(通常兵器などの輸出を管理する協約)などの国際諸規制に合致した国が、優遇措置のある「ホワイト国」になれる。

 しかし、韓国はEUからもホワイト国として認定されていない。そうした貿易管理の不備への懸念について、韓国が日本に説明し払拭しなければいけない。ボールは韓国にあるので、日本としては韓国が何をするのかを見定めるべきで、下手に懐柔策を弄するべきではない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】大手新聞記事から読み解く、参院選の結果と、今後(゚д゚)!

公示前日に行われた党首討論での舌戦が各メディアで報じられましたが、大手新聞各紙は今回の参院選の争点・論点をどのように伝えたのでしょうか。以下にそれを振り返ってみます。

1面トップの見出し

《朝日》…「首相 消費増税 10%後は10年不要」
     「野党 家計 消費重視の経済政策に」
《読売》…「首相 消費税『10年上げず』」
《毎日》…「首相『再増税10年不要』」
《東京》…「改憲問う」

解説面の見出し

《朝日》…「暮らし・憲法 舌戦」
《読売》…「野党『年金』に集中砲火」
《毎日》…「改憲 自公に温度差」
《東京》…「年金ビジョン 真っ向対立」

選挙の争点・論点 キーワードを掲載します

■「安倍1強」に歯止めを■《朝日》
■さらなる負担増と給付抑制を■《読売》
■与党間にも温度差■《毎日》
■三権分立の危機■《東京》

【朝日】は2面の選挙特集で、党首討論会の内容を網羅的に紹介しています。大見出しは「暮らし・憲法 舌戦」としていて、続く記事の前半には「野党、年金・増税で攻勢」「首相は野党共闘を批判」、後半には「首相、改憲で国民に秋波」「野党、揺さぶりに不快感」としています。

「暮らし」で総括されるのは、「年金」と「消費税」の2点です。

野党側からの追及で説得力があるとみられるのは、1つは国民民主党・玉木代表の議論で、「公的年金だけで収入100%の人が51.1%、生活が苦しい人も半数を超えている」という指摘。たまたま前日に紙面を賑わせたものですが、貧しい「年金生活」のリアリティを突きつけています。「貧困高齢者」という概念化も重要です。

もう1点は共産党・志位委員長の主張。マクロ経済スライドで国民の年金を実質7兆円減らすという安倍政権の政策の変更を求めています。「100年安心」の意味合いを有権者が知る上で重要な一歩です。

ただ、年金問題というか、年金の本質は保険であり、保険に対する対処法(マクロ経済スライド等)は元々定まっており、これはいずれの党が与党になって運営したとしてしても、ほとんど変わりはなく、これを論点・争点とすることにはかなり無理があり、実際他国においてはこれが選挙の争点・論点になったことはありません。

記事は、こうした議論に対して安倍氏は「野党共闘と個別政策との整合性を問う形で逆襲する」として、例えば枝野氏は、マクロ経済スライドを「民主党政権時代もずっと維持してきた」ではないかと反論しました。

改憲についてはほとんど堂々巡りの体で、新しい論点はないですが、参院選の選挙結果如何ではやにわに動き出す可能性があると思われます。安倍氏は「国民民主党の中にも憲法改正に前向きな方々もいる。そういう中で合意を形成していきたい」と発言していて、国民民主党に手を伸ばそうとしています。安倍氏としては、改憲手続きの進行の各段階で抵抗する力を分散、減衰させる作戦でしょう。

《朝日》12面社説のタイトルは「安倍一強に歯止めか、継続か」。政権選択の選挙ではないが、今回の参院選、「その結果には政治の行方を左右する重みがある」として、21年9月までの自民党総裁任期を得た安倍氏による「安倍1強政治」に歯止めをかけて政治に緊張感を取り戻すのか、それとも現状の継続をよしとするのかが問われているとしていました。

勿論、《朝日》は「歯止めを掛けるべきだ」といっていることになります。特に強く批判しているのは、民主党政権時代を引き合いに「混迷の時代に逆戻りしていいのか」と繰り返す、安倍氏の物言いについてです。「現下の重要課題や国の将来を語るのではなく、他党の過去をいつまでもあげつらう姿勢は、良識ある政治指導者のものとは思えない」とまで言っていました。

【読売】は3面の解説記事「スキャナー」。見出しは「野党『年金』に集中砲火」。主に、立憲民主党・枝野代表とのやり取りをピックアップして、細かく紹介しています。

3面には社説もあり、そのタイトルは「中長期の政策課題に向き合え」「持続可能な社会保障論じたい」としています。

《読売》が「中長期の政策課題」と位置づけているのは、少子高齢化と人口減少への対策で、具体的には「社会保障制度の総合的な改革」を指しています。2012年の3党合意に基づく「税と社会保障の一体改革」は団塊世代が後期高齢者となる2025年に備えた施策だったので、その先、高齢化がピークを迎える2040年を見据えて「新たな制度設計を考えることが重要」だと言っています。その中心的な中身は「負担増と給付抑制」ということになり、《読売》がイメージするのは、消費税率のさらなる引き上げということになるらしいです。

討論会で安倍氏は、今後10年間は10%以上への引き揚げは不要と述べましたが、《読売》はこれが気に入らないようです。「消費税率を上げるから財政再建ができない」と考える経済学者もある中、まもなく税率10%への引き上げが強行されます。《読売》の背後には、消費税の税率をさらに上げて、財政再建を果たそうとする財務省の影が見え隠れしています。

【毎日】は3面の解説記事「クローズアップ」で、党首討論会について伝えている。見出しには「改憲 自公に温度差」とありました。

候補を一本化しながら野党はばらばらではないかと安倍氏が批判するのに対して、《毎日》は「与党も食い違いがありますよ」と言っているわけで、野党側から逆ねじを食わせている形になっています。

与党間の「温度差」は憲法改正に関するもの。討論会で公明党・山口代表は「憲法(改正)が直接今の政権の行いに必要なわけではない」と語り、《毎日》は「温度差をにじませた」と言っています。

因みに山口代表のこの発言に注目したのは《毎日》だけのようです。さらに山口氏が「与野党を超えて議論を深め、国民の認識を広めることが大事だ。まだまだ議論が十分ではない」と述べたことについては「『合意形成』にさえ触れなかった」というふうに発言の意味を捉えています。

5面の社説タイトルは「欠けていた未来への視点」となっていました。「深刻な人口減少問題を正面から取り上げる党首がいなかつたことをはじめ、多くの国民が抱いている将来への不安の解消につながる論戦が展開されたようには思えない」としていました。

ただし、人口減と経済の低下とは直接の関係はありません。事実、世界中の先進国が人口減に見舞われていますが、日本ほど経済が低下している国はありません。世界の他の先進国と、日本で違うのは、日本は平成年間においては、実体経済とは関係なく、金融引き締めと、緊縮財政をしてきました。



他先進国でも、金融政策や財政政策に失敗した国もありますが、日本ほど長期間にわたり、結局平成年間のほとんどの期間にわたって、金融引き締め、緊縮財政をした国はありません。

【東京】は2面の解説記事「核心」で討論会について解説、見出しには、まず大見出しが「年金ビジョン 真っ向対立」となっていて、続いて「与党 将来のため給付抑制」「野党 今苦しい高齢者優先」と与野党が対比されています。

この見出しの焦点は「マクロ経済スライド」の是非ということになるでしょうが、これは保険制度の基本であり、これを無視するといずれ保険制度にほころびがでてしまいます。いずれの政党にしても、政権与党になったとしたら、保険制度の基本中の基本中の基本である、マクロ経済スライドを実行しないということはあり得ません。だからこそ、民主党政権時代にもこれを実行していたのです。

安倍氏はこの仕組みがなければ「40歳の人がもらう段階になって、年金積立金は枯渇してしまう」としたのに対して、共産党・志位委員長は「国民の暮らしが滅んだのでは何にもならない」としてマクロスライドの廃止を要求。立憲民主党・枝野代表も「共産党の提案を含め、広範な議論が必要」と言っていました。

ただし、これは経済を良くすれば、おのずと改善されるものであり、野党はここで経済を具体的に良くする政策を強く打ち出せば良かったのでしょうが、そうではなかったので説得力の欠けるものになりました。特に、立憲民主党の枝野氏の経済理論は、金融緩和などはせずに、最低賃金をあげるというもので、これは昨年韓国で文在寅大統領が実施し、雇用が激減して大失敗した政策です。

5面の社説はタイトルですが「三権分立の不全を問う」となっています。他紙とは明らかにニュアンスを異にしているようですが、官邸に過度に権力を集中させてきた「アベ政治」をこのまま続けさせて良いのかという論点になっています。その意味では《朝日》の社説に通ずるものがある。

そうして、各新聞に共通するのが、時の権力に反対すること正義とい価値観です。そうして、この正義は今回の選挙により国民にノーを突きつけられたようです。

そうして、上にも掲載したように、特に【読売】にみられるように、日銀もあわせた統合政府ベース(民間企業でいえば連結決算)はすでに終了したはず財政再建を財務省はまだ終了していないと強弁して増税を正当化しようとしています。

さらに、政府単独でみても、資産と負債の両方を勘定ににいれれば、米国や英国よりも少ないはずの政府の借金を大げさに言い立て、それを根拠として増税しようとする財務省の魂胆なのですが、今回は安倍政権が増税することにしたため、これはあまり重要な論点とはなりませんでした。

大手新聞の購読料は軽減税率の適用となり増税後も値上げされない

本来ならば、もっと大きな論点になっても良かったはずなのですが、野党側も反政府ということで増税に反対しているだけで、経済の内容は良く理解していなかったので大きな論点にできなかったのでしょう。新聞も軽減税率の対象になるため、産経新聞など一部を覗いては増税に反対はできなかったのでしょう。

現在、米国、中国、英国、EU など多くの国々で減税しようとしているときに、日本だけがデフレから抜けきってもいないのに増税しようとする異常事態ですから、本来であれば、もっと大きな論点にできたはずです。

この財務省の動向はやはり変わらないようです。安倍晋三首相(自民党総裁)は9月中旬に内閣改造・党役員人事を行う考えです。内閣の要である菅義偉官房長官と麻生太郎副総理兼財務相は留任の方向で調整しているそうです。

麻生太郎副総理兼財務相(左)と菅義偉官房長官(右)

このブログでも以前述べたように、この内閣改造で麻生太郎氏が財務大臣に留任しなかったとしたら、官邸は財務省に対して何らかの対抗処置をしようとしているとみても良いですが、今回の内閣改造ではそうはならなかったようです。

やはり、強大な財務省の圧力を軽減し、政権運営を円滑にするために今回は、麻生氏を財務大臣に据え置くしかないようです。

だからこそ、高橋洋一氏が上の記事でも主張しているように、全品目を対象とする軽減税率を適用すべきです。全品といかなくても、消費に大きな影響を与える物品に関しては、軽減税率を適用して、増税の悪影響を取り除くべきです。

ただし、いずれの時点の内閣改造においても、麻生氏が財務大臣にならないという事態が生じた場合は、官邸の財務省に対する反撃の狼煙があがったものと受け取るべきでしょう。

そうして、財務省は本来政府の一下部組織にすぎないものが、金の配賦や、国税局の徴税権をかさに着て、あたかも一台政治グループのように振る舞う財務省の存在こそが、日本の政治を駄目にしていることをもっと多くの人々が理解すべきでしょう。

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2019年5月12日日曜日

誤算?無策?習政権、トランプ氏“逆鱗”読み切れず… 中国「報復」示唆も米側は切り札投入―【私の論評】「大幅な譲歩」か「強行路線」か?いずれに転んでも、習近平は過酷な状況に直面せざるを得ない(゚д゚)!


ワシントンで言葉を交わすライトハイザー米通商代表(右)と、
              中国の劉鶴副首相(左)=10日

ドナルド・トランプ米政権は、中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)分に課している追加関税率を10%から25%に引き上げた。習近平政権も報復を示唆するが、米国側は「全輸入品への追加関税」という切り札を出してきた。貿易戦争が長期化すれば深い傷を負うのは中国側であることは明確で、習政権の「誤算と無策」がハッキリしてきた。

 米通商代表部(USTR)は10日、中国からの輸入品約3000億ドル(約33兆円)分に25%の追加関税を課す手続きに入ると発表した。実施すれば中国からの全輸入品が25%の対象となる。

 トランプ大統領は10日、ツイッターで、追加関税について「交渉次第で撤回するかもしれないし、しないかもしれない」と中国に譲歩を迫った。一方で「交渉は良い雰囲気で続けており、急ぐ必要はない」と記すなど、脅したりすかしたりの老獪(ろうかい)さをみせた。

 10日の閣僚級協議も合意に至らず、次回協議について、スティーブン・ムニューシン財務長官は米CNBCテレビに「予定されたものはない」と語った。一方、中国の劉鶴副首相は、米国との貿易協議を早期に北京で開催することで合意したと強調するなど、決裂ではないことを強調するのに懸命の様子だった。

 中国商務省は10日、「必要な対抗措置を取らざるを得ない」との報道官談話を発表したが、関税競争は中国に分が悪い。2018年の対米輸出額が4784億ドル(約52兆5900億円)だが、輸入額は1550億ドル(約17兆400億円)にとどまり、報復関税にも限界がある。

 関税が引き上げられた対米輸出品についても、中国側が価格を引き下げて対応しているのが実情で、トランプ氏は「米国製品のコストへの影響はごくわずかで、ほとんど中国が負担している」と勝ち誇っている。

中国全人代の閉幕式に臨む習近平国家主席=3月5日、北京の人民大会堂

 中国は論点も見誤った。

 米国側は、外国企業からの強制的な技術移転や産業補助金などを最重要課題としているが、中国側は貿易赤字の問題にすぎないと軽視していた節もある。

 習政権はメンツにこだわり、米国と対等であるかのように交渉に臨んだ。閣僚級協議でも、習国家主席がトランプ氏に書簡を送ったが、効果はなかった。習氏とトランプ氏との電話協議など直接交渉で打開を図るが、展望は見いだせない。

【私の論評】「大幅な譲歩」か「強行路線」か?いずれに転んでも、習近平は過酷な状況に直面せざるを得ない(゚д゚)!

ロイター通信8日付は、米政府関係者らの話として、中国当局は今までの交渉で知的財産権保護や技術の強制移転、為替などの事項に関して、国内法の改正を約束したにもかかわらず、今月3日に米政府に送った合意文書案で約束を撤回したそうです。

中国当局が突如態度を変えた理由について憶測が飛び交っています。

今年に入ってから、中国経済がやや回復の兆しが表れていました。中国税関総省が発表した3月の貿易統計では、同月ドル建て輸出は、市場予想を大幅に上回り、前年同月比14.2%増加しました。5カ月ぶりの高水準といいます。中国当局によるテコ入れ策で、3月の新規人民元建て融資や社会融資総量が予想外に急増し、投資の拡大が示されました。中国当局は、景気が上向きになったことで、強気に出た可能性があります。

今年4月までは、株価も回復していたが・・・・・・

しかし、中国経済の好調が、約束を反故した主因ではないようです。中国当局の最高指導部が「政治的な賭けに出た」という見方が、最も説明がつきます。

国際社会は、中国共産党政権が真に構造改革を行うと信じていません。構造改革を行い、市場を開放してインターネット封鎖を解除し、情報の自由を認めるためには、単に掛け声をかけて投資をすれば成就するという簡単なものではありません。

それを実行したとしても、現実には何も変わらないです。それを実行して根付かせるためには、一定以上の民主化、政治と経済の分離、法治国家化をする必要があります。

それを本当に実行すれば、中国共産党政権は統治の正当性を失い、崩壊することになります。

さらに、ここまで米の要求を受け入れると、党内から「弱腰外交」と習氏への批判が沸き立つことでしょう。

中国共産党の本質を見極め、強硬姿勢を示すトランプ政権は、貿易戦を通じて、中国当局に2つの究極の選択肢を突きつけました。中国共産党一党独裁を捨てても中国経済を守るのか、それとも中国共産党政権を維持するのかです。

約束の撤回は、中国当局からの返事だと見てもよいです。「一強体制」を築いたように見える習近平国家主席は、政権維持に拘れば、難しい政権運営を強いられることになります。

江沢民(左)と曽慶紅(右)

4月下旬、江沢民派の主要人物である曽慶紅氏が久しぶりに公の場に姿を見せました。習近平氏は近年、反腐敗キャンペーンで江派の高官を次々と失脚させ、江沢民派の勢力は衰退しました。その一方で、江沢民氏、曽慶紅氏2人の摘発を放置しました。専門家は、習近平氏は中国共産党体制の崩壊を避けるために、江沢民氏らに譲歩したとみてきました。

インターネット上に投稿された動画によると、4月20日、曽慶紅は江西省トップの劉奇氏とともに、故郷の同省吉安市を視察しました。劉奇氏は、習近平氏が浙江省トップを務めた際の部下で、習氏の側近です。曽と劉の両氏の組み合わせは、習派と江派が「仲良くやっている」というメッセージを送り、党内の団結をアピールしているように見えます。しかし、習近平氏が政権維持に拘り、江沢民派に譲歩しても、団結は長く続きません。

トランプ大統領が5日のツイッターで対中追加関税の引き上げを発表したのを受け、香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは6日、情報筋の話を引用し、貿易交渉で中国側が約束した内容の一部に対して習近平氏が認めず、交渉が失敗すれば「自分がすべての責任を負う」と述べたと報じました。

サウスチャイナ・モーニング・ポストは、2015年にアリババグループに買収され、親江沢民派メディアとして認識されています。

劉鶴副首相は、9日と10日の米中通商協議に予定通り参加しました。渡米前、劉氏は「圧力下での渡米」とメディアに語りました。習近平氏の政敵は、今回の交渉を「米国の圧力に屈した侮辱的な交渉」と捉え、習氏への批判を強めるでしょう。この交渉でどんな結果が生じても、敵対勢力に攻撃の口実を与えることになります。

劉副首相の訪米は、米国の圧力に屈したというよりも、親江沢民派メディアの報道への対応と言えます。

実にトランプ米大統領の5日のツイッター投稿を受けて、中国人民銀行(中央銀行)は6日株式市場の取引開始前に、中小銀行を対象に預金準備率の引き下げを発表しました。これによって、市場に2800億元(約4兆5174億円)の資金を供給するといいます。中国当局が、トランプ大統領の発言で、中国経済や株式市場が受ける影響を予測したことが読み取れます。

しかし、中国当局はサウスチャイナ・モーニング・ポストの報道を予測できませんでした。

今後の見通しとして2通りの展開があります。一つは中国側が大幅に譲歩し、米側と合意するというものです。しかし、こうなった場合、江沢民派が必ず、「主権を失い国を辱めた」として、習近平氏に反撃するでしょう。党内闘争が一段と激しくなり、政権の不安定さが高まることになります。

もう一つは、中国当局が引き続き意図的に貿易交渉を先延ばし、米中両国が物別れに終わることです。これが起きれば、中国経済が壊滅的な打撃を受けることになります。

輸出、投資、個人消費の低迷が深刻化するほか、中国当局が最も不安視する債務危機もぼっ発する可能性が高いです。これに伴う企業の倒産、労働者の失業が急増し、中国当局への社会不満が一気に爆発することになります。

中国当局は、この最も恐れる状況に、どう対処するのでしょうか。習近平氏が政治手腕を発揮し、反対派の攻撃を圧制することができたとしても、経済崩壊を迎えた中国共産党政権は末路をたどるしかありません。

米中貿易戦、中国国内および共産党の現情勢を分析すれば、米中貿易交渉で勝負に出た中国当局は、初めから失敗に向かっていることが分かります。米中通商協議の結果がどうであれ、中国共産党体制の崩壊が加速化します。

10日、2日間の米中閣僚級協議を終え、トランプ大統領は同日、今後も交渉を続ける方針を表明しました。ロイター通信は10日、情報筋の話として、劉副首相は国内法の改正を拒む立場を変えておらず、国務院令や行政命令で対応すると提案したと報じました。米側はこれに拒否したといいます。

前国家経済会議(NEC)副委員長のクリート・ウィレムス(Clete Willems)氏は米メディアに対して、トランプ氏は交渉チームに「満足できる内容でなければ、いつもで立ち去れ」と告げた、と話しました。

「強国路線」を掲げてきた習氏にとって、米側への大幅な譲歩は国内の求心力を失いかねないですが、強硬姿勢を貫いて貿易摩擦がエスカレートすれば、経済成長の減速に拍車がかかるというジレンマに陥っているのです。

どちらに転んでも、習近平は過酷な状況に直面せざるを得ないのです。

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