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2019年7月26日金曜日

有志連合軍に自衛隊派遣が唯一の選択肢―【私の論評】「有志連合」の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと(゚д゚)!

有志連合軍に自衛隊派遣が唯一の選択肢

香田洋二 (ジャパンマリンユナイテッド顧問 元自衛艦隊司令官)

 ホルムズ海峡付近の航行船舶に対する小規模な攻撃が多発している。その対象は単に民間船に留まらず、当該海域に展開する米海軍部隊も含まれており、頻度・内容もエスカレートする傾向にある。特に、同海域に展開する米海軍空母打撃部隊に対する挑発はドローンや高速小型艇による妨害や挑発に留まらず、去る6月20日のイラン革命防衛隊による米軍無人偵察機撃墜や7月18日の米海軍強襲揚陸艦によるイランのドローン撃墜事案などの小規模な小競り合いなども生起しており、両国の対立は激化傾向にある。

イランに拿捕された英国のタンカー

米国の要請に対して
日本が検討すべき2項目

 7月9日にダンフォード米統合参謀本部議長(以下「統参議長」)はホルムズ海峡の安全確保などを目的とする有志連合軍を結成すべく関係国と調整していると発言した。この発言に関連しては我が国政府も打診はあったことを認めたものの、細部の言及は避けたと報道されている。

 さらに、19日に米国務省と国防総省は、ホルムズ海峡周辺における航行船舶の安全確保に向けた有志連合について、ワシントンで非公開会合を開き、日本を含む各国外交団に構想を説明し参加を要請したと報じられた。本会合に対する各国の対応等を確認するため、7月25日に米中央軍が司令部を置くフロリダ州タンパで2回目の会合が開かれ、参加国の把握や具体的な行動内容などについて協議する予定と報じられている。

 イラン核疑惑に関連する現地情勢、特にホルムズ海峡の航行安全の不安定化は我が国のみならず全世界に対するエネルギー安定供給を大きく阻害する事態に直結する恐れがあることから、米国提案の有志連合に対する我が国の取り組みに関する論議が活発化することは明白である。その際の考慮事項は次の二点に収斂する。

① 我が国船舶の安全確保は我が国の責務

 第一は、我が国船舶の航行安全確保は我が国の責務であり、いかなる外国もその任に当たることはない、という至極当然の大原則と現実である。その前提からすれば、現下のホルムズ海峡における我が国船舶の航行安全確保に対する取り組みは、米統参議長発言により検討に着手するものではなく、我が国が主体的に取り組む問題として自発的に開始されるべきものであることは明白である。

② 湾岸戦争等とは全く異なる有志連合軍の編制・任務及び予想される作戦形態

 第二は、米国が構想する有志連合軍の任務は、ホルムズ海峡の航行安全確保であり、湾岸戦争、9・11後の対テロ戦争及びイラク戦争時に編成された、自衛権(個別あるいは集団)を発動した外国への兵力投入によるクウェート解放、テロリスト根拠地根絶等の作戦目的を達成するための攻勢的な有志連合軍とは性格、作戦目的や任務及び作戦形態が全く異なるものであるということである。一部マスコミの論議において、集団的自衛権の行使と自衛隊の有志連合軍への参加を短絡的に結び付けて反対する論調が観られたが、この観点からすれば、それは全くの的外れである。

 要するに、今回の作戦目的であるホルムズ海峡の航行安全確保は、武力行使や集団的自衛権はおろか個別的自衛権の行使さえ前提としない、同海峡の海上交通の秩序維持のための軍事活動であり、両者を明確に区分する観点に立った我が国の取り組みが論ぜられなければならない。
有志連合編成を打診した
米国の狙いとは

 シェール革命による米国のエネルギー供給における中東依存度は著しく下がっている。米国を仕向け地とするタンカー等の運航隻数が極少になっている現状から、ホルムズ海峡の安全航行の確保そのものは米国の直接の国益ではなくなっているといえる。勿論、米国は海洋の自由使用と航行を国益としていることから、ホルムズ海峡を含むペルシャ湾海域の航行安全は米国の国益となることもまた自明の理である。
 このため、①の観点からは、米軍が中東、特にペルシャ湾海域を航行する各国船舶の航行安全確保に直接関与する正当性と必要性は減少している。それが、今次トランプ発言の原点、すなわち「米国へ向かう船舶がほぼ不在のホルムズ海峡において、米軍が莫大な負担をしてまで他国の船舶を守る義務も根拠もない。各国は自国の船舶は自国で守れ!」ということであろう。
 同時に、米国は、ホルムズ海峡を通峡する個々の船舶ではなく、ペルシャ湾全域を世界の安全保障に大きな影響を与える重要地域として安定させる観点から、当該海域の海上交通の秩序を維持することは依然として重要と位置づけているのである。その観点から、ホルムズ海峡航行船舶への挑発や攻撃のような、イランの軍事的冒険主義の抑止と排除を引き続き重視している。
 ただし、そのための活動の全てを米国が賄うということではなく、「自国の船を守る力のある国は自分でやる」という大原則を改めて明確にしたものが、先般の統参議長の発言であり、それを具現する第一歩が7月19日の非公式会議と言える。
 報道によると、その会議では、米国によるホルムズ海峡の現状認識及び船舶の運航安全確保のための有志連合の必要性が説明されたとのことである。具体的には、自国船舶の航行安全確保は各国の判断とするとともに、米国が各国の自国船舶航行安全確保活動に必要な情報共有メカニズムを構築することを有志連合の活動骨子としたうえで、各国に艦船や航空機の派遣、資金拠出を求めたとされる。
 報道では言及されていないが、自国船の航行安全確保を直接実施する力のない国の民間船舶が事態緊迫時に無防備のままペルシャ湾周辺を航行することは別の不安定要素となることから、有志連合参加国による自国船舶の航行安全確保活動と同期して、この様な国の船舶を運航することより、これら船舶にも警戒の目を配する体制を構築するための調整活動(軍事用語で「船舶運航統制」と呼称)も米国が担任すると考えられる。
これらの総合的な効果により、ホルムズ海峡の航行安全を確保する態勢は格段に改善され、結果的にペルシャ湾地域全体の安定に寄与する、ということが米国の狙いと考えられる。

選択肢は4+α
採るべき解は1つ
まず、現地の事態緊迫時の日本船舶、広義には日本を仕向け地とする他国籍船も含む船舶(以下、両者を包括的に「日本船等」)の航行安全をどのように確保するかという課題への取り組みが問われることとなる。
 その際の基本事項として、①で示した、日本船等の航行安全を確保するのは日本であり、他のいかなる国も、自国の生存に無関係な外国船としての日本等船の航行安全を確保することはあり得ないという大原則から、事態緊迫時の日本船等の航行安全確保のための自衛隊派遣が有力な選択となる。同時に、我が国には自衛隊を海外に出すことに依然として大きな抵抗が存在することも事実である。
 それらの賛否論点も含め総合的に我が国の可能行動を整理すると、以下の選択肢が考えられる。
  • 選択肢-1:有志連合不参加・自衛隊非派遣
  • 選択肢-2:有志連合不参加・自衛隊派遣、有志連合とは別個に自衛隊が日本船等の安全確保
  • 選択肢-3:有志連合参加・自衛隊派遣、有志連合の枠組みの下で自衛隊が日本船等の安全確保
  • 選択肢-4:有志連合参加・自衛隊非派遣、資金・後方支援等、有志連合国を間接的に支援
 各選択肢の要点を整理すると次のようになる。
選択肢-1
 本選択は、国際枠組みを一切無視して、日本船等を自らは守らないということを意味する。要するに、主権国家として日本船等の安全を「運を天にまかせる」または「他国の善意に預ける」ということである。その選択においては、事態緊迫時の日本船等を運航する船員の生命をどう考えるのか、という問題が生ずるとともに、国家活動の基本となるエネルギーの安定供給をいかに担保するかという命題が残る。我が国の一部に根強い、有志連合参加及び自衛隊派遣反対論は、この論議を意図的に避けたとさえ思える観念的な憲法論や平和論のみに立脚したものであり、無責任な論議である。
選択肢-2
 これは独立国として責任のある対応であるが、有志連合不参加に起因する任務遂行上の不都合、特に部隊運用上必須となる情報共有態勢が弱化することから安全運航を確保する作戦が非効率となる恐れが常に内在する公算が大となる。更に、我が国単独の作戦は必然的に国際協調の欠落という面の問題を惹起する。
選択肢-3
 この選択は、我が国憲法と現行法制及び国際協調やと国際貢献の観点から最適と考えられる。今回、米国が提案する有志連合は②で述べた様に、イランへの兵力投入を前提とした攻勢作戦のための母体とは全く異なる、武力行使や集団的自衛権はおろか個別的自衛権の行使さえ前提としない、ホルムズ海峡の航行安全確保のための軍事活動母体である。このため、我が国が有志連合に加わり、自衛隊を派遣して自ら日本船等の航行安全を確保することは現行法制、具体的には平和安保法制の枠内で十分に実施可能な活動である。このことから、我が国政府も自衛隊もイラン、ペルシャ湾そしてホルムズ海峡の現状において集団的自衛権を行使した軍事作戦に加わることは全く考えていないと見積もられる。
選択肢-X
 選択肢-4以前に、「有志連合不参加・自衛隊非派遣=資金・後方支援等、有志連合国を間接支援」という別のオプションが理論上存在する。これは、結果的にせよ世界から全く評価されなかったイラン・イラク戦争及び湾岸戦争時の論議の繰り返しとなることは明白である。仮に、この選択肢を採用するとすれば、1980年以降の我が国の自衛隊による国際貢献への努力の足跡を完全に消去することであり、同時にその選択は、我が国の国際貢献という時計を40年巻き戻すものでもある。この観点から、本オプションは敢えて本検討の選択肢に入れなかった。
選択肢-4
 これは、経済力や後方支援能力の弱い有志連合参加国に対する非軍事面での支援というメリットが存在するが、やはり選択肢-1の最大の問題である、日本船等を我が国が守る、という大原則の無視に直結することから、責任ある国際社会の責任ある一員の選択としては不適切である。
 以上から、我が国の選択としては選択肢-3、すなわち自衛隊を派遣した有志連合の枠組みの下で、自衛隊が日本船等の航行安全確保に任ずることが最適である。
日本船舶等の航行安全確保
自衛隊が活動する法的根拠

 ホルムズ海峡の航行安全確保のために編成される有志連合に我が国が参加して、自衛隊が日本船等の航行安全確保のための任務を遂行する(以下「日本船等を自衛隊が守る」)作戦成功の鍵は、航行安全確保の際の船舶の防護方法である。この作戦は海上航行秩序の維持を目的とすることから、武力行使及び自衛権の発動を要しない海上作戦であり、軍事力による海上の警察活動であると位置づけられる。その際、任務遂行に必要な場合、航行秩序を乱す目的で日本船舶等の安全航行を妨げる勢力に対しては武器の使用が必要になる場合も生起することは当然である。
 上述の日本船等を守る作戦において想定される事態への対処は、2015年9月に成立、公布された平和安保法制を基本とすると、自衛隊法第82条に定める海上警備行動を根拠とすることが適当と考えられる。その際の権限は自衛隊法93条により規定されるが、同条で認められた停船のための武器使用は対象船舶が我が国領海内にある場合に限られるが、わが国から遠く離れたソマリア沖の海賊対処の際の当初の政府の措置、すなわち海賊対処法制定までの間の自衛隊を派遣する根拠として海警行動を発動した際の考え方が参考になると考える。その骨子は次の通りである。
(1)保護の対象は日本船籍、日本人及び日本の貨物を運搬する外国船舶など、日本が関与するもの
(2)司法警察活動は護衛艦に同乗する海上保安官が実施
(3)武器の使用は刑法36条1項(正当防衛)及び37条1項前段(緊急避難)に規定する状況下に限定
(4)防衛大臣は部隊派遣に先立ち実施計画を国会に報告
 これを今次ケースに適用すれば、今回の任務はあくまでもホルムズ海峡における航行安全確保であることから、(2)は不要であり、派遣された自衛隊の部隊運用は(1)、(3)及び(4)に準拠することになる。この際、任務遂行上必要となる公海上の武器使用は、抑制的ではあるが航行安全確保という任務遂行を可能とすると考えられる。
 特に、(1)において防護対象を整理して規定したことは、日本を仕向け地とする船舶の多くが日本船籍ではない現状から、日本船等を守る作戦における防護対象船を明確に規定できることから、この考え方の任務遂行上の合目的性は高いといえる。
 その他、海警行動の際に認められる権限には警察官職務執行法第7条(警職法:武器の使用)、及び海上保安庁法第十六条(協力の要請)、海上保安庁法第十七条第一項(書類の提出・船舶の停止と立ち入り検査・必要な質問)並びに海上保安庁法第十八条(必要な場合の措置)が自衛隊員に適用されることから、現場での部隊運用の幅を広げ、柔軟性を確保することが可能となる。
 次のオプションとして海賊対処法がある。これは公海上で我が国の船舶に対し海賊行為等の侵害活動を行う外国船舶を自衛隊の部隊が認知した場合の対処である。この際の自衛官の職務執行に際しては、海警行動と同様、警職法7条に基づく武器の使用が認められるほか、民間船に接近する等の海賊行為(今次任務では日本船等に対する妨害や威嚇、停船要求あるいは乗船捕獲などが該当)を行っている船舶の航行を停止するため、他の手段がない場合には、その事態に応じ合理的に必要な限度における武器の使用が認められることから、日本船等を守る作戦の根拠として海賊対処法の適用を準備することも必要である。
 ここまで、事態緊迫時のホルムズ海峡の航行安全を確保する際の日本船等を「守る」方策を検討した。この際の大原則は、自国の船の安全は自国が守る、言い換えれば他国は守ってくれないということである。更に、米国が提唱する有志連合は武力行使によるイラン侵攻を目的としたものではないことから、我が国の憲法の下で平和安保法制を適切に適用することにより、我が国自体の活動として、自衛権を発動することなく自衛隊が日本船等を守ることは十分に可能である。
 逆に、それを実施しないという選択は、単に国際協調という問題のみならず、独立国の基本としての自国民の生命と財産の保護という、国家として根本的姿勢を問われることとなり、政府の政策としては極めて無責任と言わざるを得ない。
 一方、将来、さらに事態が緊迫化した際の国際的な活動への取り組みについては、ここまで論議したホルムズ海峡の航行安全確保とは別に、改めて我が国の憲法と平和安保法制の枠内で実施可能な行動方針を定め、実施することが求められる。
 仮に、新たな有志連合が自衛権の発動と武力行使を前提としたイラン侵攻を目的とするものになるとすれば、その枠組みへの自衛隊の参加はあり得ないことも明白であるが、その際も、憲法と平和安保法制に基づく、対テロ戦争における後方支援のような活動は可能となる。
 また、その時点でホルムズ海峡の航行安全活動のための有志連合の下で自衛隊が日本船等を守る活動を実施中(選択肢-3)であるとすれば、我が国政府には、その作戦の継続、あるいは事態を勘案した防衛出動の下令とそれに応じた新たな活動への移行、もしくは実施中の作戦を直ちに中止した撤退という選択肢が残ると考えられる。
 最後に、今次の様なケースに際して速やかに行動に移せるのは、平和安保法制が、様々な事態を想定してシームレスな対応を可能とさせることをその目的の一つとしているからである。
【私の論評】「有志連合」の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと(゚д゚)!

6月13日、中東の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡近くでタンカー2隻(内1隻は日本の海運会社が運航)が何者かにより攻撃を受けました。1週間後の20日には、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡付近を飛行する米国の無人偵察機を撃墜しました。


7月19日、今度はイランのものと思われる無人機がホルムズ海峡で米海軍によって撃墜されました。米国によると米海軍艦艇に900メートルまで接近したためといわれています。同日、ホルムズ海峡周辺海域でイランが英国タンカーを拿捕したことを公表しました。中東情勢は日に日に緊張が高まっています。

今回の「有志連合」は、ブログ冒頭の記事にもあるように、航行の自由、安全を確保する努力は、米国だけが行うのではなく、各国が「応分の負担」をすべきというトランプ大統領の意向を踏まえたものでしょう。

日本国内では「有志連合」の言葉に「戦争」を想起したためでしょうか、内容確認もそこそこ条件反射的に「米国の戦争に巻き込まれる」「自衛隊を参加させるべきではない」とメディアは主張しました。岩屋毅防衛相も米国務省の説明会に参加する前から、「現時点でホルムズ海峡付近に部隊を派遣することは考えていない」と部隊派遣を否定していました。

ホルムズ海峡とバベルマンデブ海峡は、いずれも中東の原油輸送の大動脈です。これら大動脈の航行の安全を、これまで米海軍の第5艦隊と第7艦隊が守ってきたのは事実です。特に日本は中東への原油依存度が87%で、日本に原油を運ぶ船舶が年間1800隻もホルムズ海峡を通過しています。大動脈の航行安全の恩恵を日本が大きく受けてきたのは否定できないです。

他方、米国はトランプ大統領が演説で度々述べているように、米国だけが負担を被るこれまでの状況は不公正と考え、各国に負担を求めつつあります。7月18日、米国防総省高官はロイター通信に対し、有志連合構想の説明にあたって、ホルムズ海峡周辺でのタンカー護衛について「米軍は他国の船舶を護衛しない」と述べました。

米国は有志連合参加について、今のところ「他国の軍が自国の船舶を護衛するかは各国の判断に委ねる」とし、船舶の護衛を強制しない考えを示しています。しかし、米海軍が「海峡の安全確保」に手が回らなくなった時、あるいはトランプ大統領が正式に「米軍は他国の船舶を護衛しない」方針を打ち出した時、それでも日本は有志連合に「自衛隊を派遣しない」と言えるでしょうか。

日本で混乱しているのは、米国が主張している有志連合構想は、ブログ冒頭の記事にもあるように、平時の「海峡の安全確保」のための「有志連合」であり、「対イラン武力行使」への「有志連合」ではないことです。メディアの論調をみていると意図的に混同しているようにも見えます。

米国防総省も各国の懸念を払拭すべく、「イランに対する軍事連合を結成するのが目的ではない」と明言し「対イラン軍事連合ではない」ことを強調しました。「最大の目的は警戒監視を強化し、船舶への攻撃を抑止する懐中電灯のような役割を果たすことだ」と述べて各国に理解を求めています。

有志連合の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと

また有志連合における米国の役割については「参加国で共有される枠組み的な情報を提供し、自国の船舶を護衛したい国々を支援する」と述べています。「有志連合」は趣旨に賛同する国が、「この指とまれ」と集まってくる集合体です。

今回、米国が主導するというのは、集まってくる各国海軍を効率よく警備や護衛任務に就けるよう、米国が情報を提供し、全般を統制しようとするものです。武力行使のための作戦統制ではありません。

であれば、日本が「参加しない」という選択肢は最初からあり得ないです。「参加しない」は、「日本政府は日本の船舶を守りません」ということか、「引き続き米国が、日本の船舶を守ってください」と言うに等しいです。

米国が「米軍は他国の船舶を護衛しない」と表明している時、「引き続き米国が守れ」等とは言えないでしょうし、日本政府は「もはや日本の船舶を守りません」などということは主権国家としてあり得ないです。

船員組合が乗船をボイコットすれば、原油の搬入は断たれ、日本は存亡の危機に立たされます。平時の「海峡の安全確保の活動」とはいっても、近い将来、米国がイランを攻撃する可能性もあり「米国の戦争に巻き込まれる」と懸念する人もいます。

しかし、既述のように今回の有志連合の趣旨は「船舶への攻撃を抑止する懐中電灯の役割」を果たすことであり、もしそうでなくなれば、その時点で有志連合から離脱すれば良いし、米国側も予めそれを知らせてくることでしょう。

それができるのが有志連合です。繰り返すが有志連合というのは趣旨に賛同する国が集まる組織体であり、趣旨が変わればリセットされるべきものです。

米国主体の有志連合に参加することによってイランを刺激するとの懸念があるのも事実です。しかし、6月に日本企業が運航するタンカーが何者かによって攻撃されたのは事実であり、イラン政府はこれをやっていないと主張しています。

そのため、イランを対象とするものではないですが、今後、再び日本のタンカーが何者かによって攻撃されないように護衛するものです。このことをイラン政府にしっかり説明する必要があります。強調すべきは「イラン攻撃のための有志連合」ではないことです。このことはイランも理解するでしょう。

今回、法的に自衛隊の派遣は可能かという問題もある。それについては、ブログ冒頭の記事に掲載されています。そうして、この記事から判断するところでは、法的に自衛隊の派遣は十分可能です。

であれば、「ホルムズ海峡安全」の恩恵を最も受けている日本が、海峡の安全確保に汗も流さないなどということがあってはならないです。まして自国の船舶さえ守らないなら、国際社会での評判は地に落ちるだけでなく、日本は存続の危機に陥ることにさえなりかねません。まずは、自分の国の船舶さえ守らない日本を米国が何かのときに守るでしょうか。

日本の湾岸戦争負担金 総額 1兆6900億円。米国より多く出していた

湾岸戦争時、日本国内では、すったもんだしたあげく、当時の海部内閣は、汗を流すこともなくカネで解決しようとしました。その結果「小切手外交」「漁夫の利を得るだけの自己勝手な日本」という悪名を被り、日米同盟まで漂流するに至りました。

あの「悪夢」の再来だけは何としてでも避けなければならないです。ましてや、今回の「有志連合」は他国を直接攻撃することではなく、自国のタンカーを守る、それも懐中電灯の役割を期待されているのですから、これには日本として参加しないという選択肢はあり得ないです。

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2019年7月11日木曜日

ホルムズ海峡「有志連合」結成へ 問われる日本の決断―【私の論評】イランでも米国でも政治には宗教が大きく影響していることを忘れるべきではない(゚д゚)!


トランプ大統領

参院選が盛り上がらない。消費増税という与野党の対立点があるにもかかわらず、マスコミは年金で煽っているが、いまいちだ。

 消費増税が盛り上がらないのは、新聞が軽減税率を受けるために、新聞が消費増税の中身を報じられないからだ。

明確な争点設定ができていない選挙

 軽減税率の対象が、「コメ、ミソ、ショウユ」まではわかるが、「新聞」がそれに付け加わるのはおかしいだろう。

 また、年金の支給額などを政争の具にしてはいけない。年金は複雑な仕組みのようだが、2019年6月13日付け本コラムで示したように、保険でありシンプルな数学問題だ。年金で老後の生活のすべてがみられるはずはないのは、一般国民ならみんな分かっている。あえて保険で説明すると、すべてのドライバーが加入しなければいけない自賠責では不十分で、一部の人は任意保険に加入するのと同じだ。つまり強制加入の年金は、保険料を上げられないので、ミニマムの保障しかできないので、それ以上の生活を望む人は別に貯蓄せざるを得ないのだ。年金だけの生活では満足できない人もおり、その人たちの貯蓄は2000万円というわけだ。また、自営で定年がなければ、長く働くことは可能であり、その場合には貯蓄もほとんど不要である。

 こうした内政問題では、マスコミでは明確な争点設定ができていないが、格好の外交・安全保障上の問題が降ってきた。米軍の統合参謀本部議長が、ホルムズ海峡などで船舶の安全を確保する有志連合を結成する考えを示し、日本政府にも協力を打診したと報じられている。

 筆者は、安倍首相が先日イランに訪問し、最高主導者との会談中に起こった日本関連タンカーへの襲撃事件は、日本への警告という認識だった。アメリカはイランの仕業と言うが、少なくともアメリカ軍は、日本関連のタンカーが襲撃される光景を上空から見ていたわけで、もし米国関連船なら、警告をしていたはずだ。この意味で、アメリカ軍も見過ごしていたので、イランの仕業としてもアメリカも傍観していたという意味で、日本への警告とみられる。

 ホルムズ海峡は、日本のエネルギーの生命線である。トランプ大統領は、日本も自国でシーレーンを守ったらどうかという。今回のアメリカの打診も、その延長線だろう。

法改正か、特措法か

 これが国際政治のリアルな社会だ。2015年9月に成立した安保法制では、ホルムズ海峡での機雷掃海が、集団的自衛権の例として出ていた。その審議では、そのための要件はかなり厳格であり、今のような事態では要件を満たしていないといわれるだろう。

 であれば、法改正をすべきかどうか。現行法では、自衛隊法による海上警備行動もありえる。しかし、これでは、日本に関係のある船舶は守れるが、外国の船は守れない。海賊対処法では、外国船舶も護衛できるが、海上警備行動と同様な行動制約がある。こうした現行法制上の問題を考えると、特別措置法でも対応というのもありえる。

 とかく、日本は良くも悪くも面倒臭い国なのだ。ただし、米イランの問題は深刻だ。イランの状態をあえていえば、1990年代なかごろの北朝鮮の核問題に似ている。米朝で開戦一歩手前までいったが、結果として米朝枠組み合意ができた。しかし、その後の歴史をみれば、北朝鮮が抜け駆けして、今では北朝鮮は事実上核保有国になった。

 このままでいけば、イランも同じ道をたどるかもしれない。北朝鮮の時には、アメリカは具体的な北朝鮮攻撃も考えていたが、今のイランにも同じようにアメリカは考えている可能性もある。となると、そのための一歩が、今回の有志連合への打診という形であるとすれば、これは国政選挙にもっともふさわしいリトマス紙になる。各政党の見解を聞きたいモノだ。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「安倍政権『徹底査定』」(悟空出版)、「『バカ』を一撃で倒すニッポンの大正解」(ビジネス社)など。

【私の論評】イランでも米国でも政治には宗教が大きく影響していることを忘れるべきではない(゚д゚)!

冒頭の記事にあるとおり、消費増税という与野党の対立点があるにもかかわらず、参院選が盛り上がっていません。これは、無論新聞が軽減税率を受けるために、新聞が消費増税の中身を報じられないからという側面が大きいです。

しかし、野党が増税に反対するものの、なぜ増税が日本経済にとって良くないのか、説明できないということもあると思います。彼らの戦術では、とにかく政権与党を不利にするために、反対しているというだけで、マクロ経済に疎く、なぜ増税が日本経済にとって良くないのかを説明できないため、全く迫力に欠けるのです。さらに付け加えれば、財務省と正面切って闘う、覚悟もないようです。だから、まともな争点にもならないのです。

とにかく、普段から「権力に対抗すること」を第一義とし、倒閣ばかり考えて行動しているため、まともな政策論ができないどころか、経済も安全保障に関しても幼稚な次元にとどまっているようです。

そういう観点からすると、今回の「ホルムズ海峡などで船舶の安全を確保する有志連合を結成」での米国の日本への協力依頼は、高橋洋一氏の言うように、格好のリトマス試験紙となるかもしれません。

ここでまた、日本の安全保証に関して、彼らが単に倒閣のための道具として用いるようだと、国民の信頼を失い、ポロ負けすることになるでしょう。

冒頭の記事にもあるとおり、ペルシャ湾の出入り口、ホルムズと紅海の出入り口であるバベルマンデブ両海峡の航行の安全を守るためトランプ政権が練ってきた「有志連合護衛艦隊」(センチネル作戦)が遂に結成されることになりました。

2、3週間以内にも始動する見通しですが、輸入原油の8割以上を同湾に依存する日本が参加するよう求められるのは必至です。

「有志連合護衛艦隊」の結成は7月9日、米軍の制服組のトップであるジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長がエスパー次期国防長官、ポンペオ国務長官と会談した後、明らかにしました。同議長によると、この構想は数日以内に最終決定され、2、3週間以内に有志連合艦隊への参加国がはっきりするとしています。

米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長
議長は現在、同盟国に参加を打診している最中だとし、参加国が当初は少なくても、順次増やしていけばいいとの考えを示しました。参加同盟国として見込まれているのは、英仏などの欧州各国と、同湾のエネルギー資源に大きく依存している日本です。

軍事面での公平分担が持論のトランプ大統領はペルシャ湾でタンカー攻撃が起きたこともあり、「自国の船舶は自分で守るべきだ。なぜ米国が他国のために無償でシーレーンを守らなければいけないのか」と不満をぶちまけてきました。

米国防総省はこうした大統領の意向を受け、同盟国による民間船舶の護衛を中心とした「センチネル作戦」の立案を進めてきました。ダンフォード議長によると、艦隊の指揮は米軍が取り、各国の護衛艦に監視活動で入手した情報を伝達、それぞれの艦船がタンカーなど自国の船舶を守りながら護衛航行する仕組みです。

輸入原油の80%をペルシャ湾に依存している中国は米国と経済戦争で衝突していますし、ロシアも対米関係は最悪な状態です。協力を得られる見通しは全くないです。日本やドイツなどの同盟国も「イランがやったという、より明確な証拠が必要」と消極的です。

菅官房長官はイランの関与について「予断を持って答えるのは控える」と慎重です。米国のイラン犯人説を支持しているのは、サウジアラビアやイスラエル、そして英国ぐらいのものです。

しかし、タンカー攻撃が再発すれば、米国の求めをむげに拒否することはできないでしょう。なんといっても、中国同様、日本の輸入原油の約85%がホルムズ海峡を通って入ってきており、トランプ大統領が出てきて「一番恩恵を受けているのは日本だ」と迫る場合も想定しておかなければならないです。湾岸戦争の際、貢献が小さいとして世界からバッシングにあった悪夢を繰り返すわけにはいかないです。賢い対応が必要です。

有志連合艦隊が結成されるというが・・・・・

こうした中、イランは強硬策を打ち出しました。イラン原子力庁は17日、核合意が守られていないことを理由に、低濃縮ウランの貯蔵量が合意で定められた上限を10日後の27日に超過すると発表した上、7月上旬以降、濃縮度を核兵器のウラン製造が容易になる20%まで高める選択肢もあると警告しました。イランが、この路線を進めば、理論的には1年弱で核爆弾を保有することができるようになります。

なんとか支持拡大を図りたいトランプ政権は25、26の両日、ペルシャ湾のバーレーンで開催される「パレスチナ経済支援サミット」会議の場で、反イラン包囲網を固めることを計画しています。

同会議は元々、トランプ氏が「世紀の取引」と売り込む中東和平提案の経済分野を公表し、パレスチナへの経済援助を引き出すために開催されるものです。ところが、イラン危機が激化した今、より緊急な課題は対イラン包囲網の構築です。会議に先立ち、米国はイラン対応のため、1000人の兵力をペルシャ湾に増派しました。

米国の対イラン強硬方針により、欧州には、大量破壊兵器保有の確固たる証拠のないままイラクに侵攻した「イラク戦争の前夜に似てきた」(アナリスト)との見方が強まっています。ホルムズ海峡の安全航行と、イランの核保有阻止という2つの問題にトランプ大統領がどう決断を下すのでしょうか。

ポンペオ国務長官やボルトン大統領補佐官らの対イラン主戦論者の勢いが増しているかのようですが、防波堤として大きく立ちはだかっているのは実はトランプ大統領です。戦争になれば、最優先課題の再選が危うくなりかねないからです。皮肉にも米国の戦争を押しとどめているのは、イラン核合意から脱退したトランプ氏自身なのです。

にもかかわらず、トランプ大統領がなぜイランに対して強硬策を繰り返すのかといえば、その目的は、米国のキリスト教福音派の支持を固めることにあります。2016年の大統領選挙では福音派の80%程度がトランプ氏を支持したといわれ、トランプ氏にとって重要な支持基盤です。

           ドナルド・トランプ大統領と共に祈った米国の福音派指導者ら=2017年11月11日
           ホワイトハウスの大統領執務室で
福音派の人々には、親イスラエル政策は宗教上の義務との考えが強いです。トランプ氏にとって中東地域での覇権をめぐってイスラエルと敵対するイランへの圧力を強め、屈服させようとすることは福音派からの支持をさらに強め、自らの支持を盤石とするために欠かせないのです。トランプ大統領の対イスラエル支援策は、時間の経過とともに強化されていくことでしょう。

トランプ大統領としても、福音派の支持基盤を固めるためには、イランに対して強硬手段を取らなければならない側面がありつつ、戦争になってしまえば、再戦が危うくなりかねないというジレンマに陥っているのです。

ただ、一昨日もこのブログで掲載したように、米国には武力行使に至る前の「金融制裁」があります。同じく金融制裁とはいっても、資産凍結、取引停止、最終的には一番厳しい「ドル使用禁止」など様々な段階があります。

「ドル使用禁止」が以下に厳しい措置であるかは、一昨日このブログで述べました。米国は武力行使に至る前に、何段階かの金融制裁という手があります。まずは、金融制裁のうち比較的軽いところから、新たな制裁をくりた出していくことでしょう。そうみるのが、現時点では妥当と思われます。

ただし、米国の制裁が厳しくなればなるほど、イランによるテロは過激になり、ホルムズ海峡の危機は高まることになります。ここで、日本の胆力が試されることになります。

日本ではついつい忘れがちですが、イランでも米国でも政治には根底では宗教が大きく影響していることを忘れるべきではありません。それを忘れると、国際情勢が見えなくなります。このことを忘れた、マスコミや政治家が、珍妙な論議を繰り返すであろうことが、今から目に見えるようです。

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