2020年5月18日月曜日

WHOが台湾をどこまでも排除し続ける根本理由 ―【私の論評】結果として、台湾に塩を贈り続ける中国(゚д゚)!

WHOが台湾をどこまでも排除し続ける根本理由
「コロナ対策の優等生」参加を阻む中台関係

劉 彦甫 : 東洋経済 記者 

台湾の蔡英文総統(左)とWHOのテドロス・アダノム事務局長

 「武漢肺炎」――。台湾では新型コロナウイルスをこう呼び続けている。

 世界保健機関(WHO)は差別につながる恐れから、地名や国名を病名に付けることを避けるよう指針を出している。世界各国の報道機関はWHOが定めた正式名称の「COVID-19」や「コロナウイルス」を呼称として用い、差別的言動を助長しないように配慮する方針も示している。

 ただ、台湾がWHOの方針に従っていないことを責められない面もある。台湾はWHOに加盟していない。WHO自身が台湾を排除しているからだ。

WHO総会に参加できない台湾

 5月18日からWHO年次総会の開催が予定されている。新型コロナウイルスが流行している影響で今年の総会はテレビ電話形式で開かれる。新型コロナ対策も重要な議題にのぼるが、開催が迫る5月16日現在でも台湾が総会へオブザーバー参加できる見通しは立っていない。

 台湾は早期に新型コロナウイルスの感染を封じ込めたことで知られる。5月16日時点で累計感染者数は440人、死者数も7人にとどまる。帰国者などを除く国内の感染例は1カ月以上確認されておらず、世界各国から注目が集まる。防疫において国際的な協力が必要とされるなか、台湾を排除することで「地理的な空白が生まれるのはいいことではない」と日本の茂木敏充外相は指摘したうえで、「国際社会やWHOが学ぶべきことは非常に大きい」と訴える。

 アメリカのポンペオ国務長官やニュージーランドの複数の閣僚も台湾の総会への参加を支持。15日にはドイツ外務省が「(総会)参加に国としての地位は必要ない」として、WHOに台湾を招待するよう求める書簡を他の賛同国と送ったと明らかにした。

 しかし、WHOは台湾の参加問題に消極的だ。5月11日の記者会見でWHOのテドロス・アダノム事務局長は台湾の総会参加について「判断する権限はない」と回答を避け、法務責任者のスティーブン・ソロモン氏が「総会に参加する国は参加国のみが決定できる」と述べた。

 台湾は対中関係が良好だった2009~16年にWHOの総会にオブザーバーとして参加していたが、中国が台湾独立派とみなす蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が就任してからは参加が認められていない。WHOは新型コロナ発生後も今年1月に行われた緊急委員会に台湾を招待しなかったほか、4月にはテドロス氏が人種差別的な攻撃を台湾から受けていると名指しで批判するなどぎくしゃくした関係が続く。

台湾の参加を阻む最大の障壁は中国

 台湾の総会参加を阻んでいるのが、中国との関係だ。台湾の大手紙「自由時報」によれば台湾の呉釗燮外交部長(外相)は、5月11日に立法院(国会相当)で中国政府とWHO事務局との間に「秘密のメモ」が存在しており、それが台湾の参加可否に影響していると言及した。

 台湾外交部によれば備忘録には台湾がWHOの活動に参加する場合は5週間前に申請する必要があり、中国の同意も必要と定められているという。中国外務省はメモの存在自体は認めているが、その内容については説明していない。アメリカが「WHOは中国寄りだ」として、資金拠出を停止する意向を示したのに対し、中国が追加で資金拠出をするなどWHOへの中国の影響力は高まっているとみられる。

 5月15日には中国外務省が、「規則の中に主権国家の1地区(台湾のこと)がオブザーバーとして参加する根拠はない」として、台湾の総会への参加に反対すると改めて強調した。

 中国政府が台湾のWHO参加を認めないのは台湾が自国の一部とする「一つの中国」原則を堅持しており、台湾については中国が代表して責任を持つとの立場にあるからだ。だが、直近は新型コロナ対策で脚光を浴び、国際的な存在感を高める台湾との確執が深まってきている。

 台湾は新型コロナウイルス発生直後から検疫体制の強化や感染症対策の緊急指令センターを設置して対策をとったほか、マスクの生産増強や流通管理も徹底した。先手の対応で蔡英文政権は高い評価を獲得し、2年前には2割台に落ち込んでいだ政権支持率が6割以上に回復。対外的にも各国の保健当局に助言しているほか、日米欧にマスクの寄付や輸出を行っており、日本を含む台湾と外交関係がない国から感謝の意が表明された。

 中国は蔡英文政権の一連の動きを「以疫謀独」(防疫対策を利用して、独立を謀っている)と批判する。また民主社会の台湾が積極的な情報公開を行って感染症対策に成功していることも、ロックダウンなどで感染封じ込めを行った中国とは対照的だ。対外的に自国の制度の優越性をアピールするうえで、中国にとって台湾の存在が矛盾を抱える。
波乱含みの中台関係

 5月20日には1月に行われた総統選で再選した蔡英文総統が2期目の任期をスタートさせる。中国はWHOからの台湾排除だけでなく、4月以降は台湾周辺で海上軍事演習や偵察機を台湾の防空識別圏内に侵入させるなど威嚇を続ける。5月14日にはアメリカ太平洋艦隊のミサイル駆逐艦が台湾海峡を通過。米中台の緊張が高まるなか、蔡政権の2期目は中台関係が改善する見込みが少ない状態で始まることになる。
中国軍が東沙諸島の奪取演習計画 南シナ海で、台湾実効支配の要衝

 そもそも蔡英文総統再選の背景にも中台関係がある。2019年初に中国の習近平国家主席が台湾について一国二制度による統一を強調する演説を行ったほか、一国二制度のもとにある香港で2019年半ばから顕著になった抗議デモに対して、香港や中国当局が弾圧を加えた。中国による高圧的な態度は台湾社会での対中警戒心を高めた。

 新型コロナウイルスへの対策に台湾がいち早く動けた背景には高まっていた対中警戒感や情報を隠匿する中国への不信もあった。新型コロナウイルスを「武漢肺炎」と呼び続けているように、圧力を強める中国に対して台湾の対中観はますます悪化するとみられる。逆に中国も台湾に対して強硬的な態度を続けるだろう。台湾をめぐる国際的な緊張が高まり続けるのか、WHO総会後も見通しは明るくない。

【私の論評】結果として、台湾に塩を贈り続ける中国(゚д゚)!

中国は、台湾を叩きつつ逆に結果として敵に塩を送るようなことを繰り返してきました。その最たるものは、中国から台湾への個人旅行を禁止したことでした。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事の、リンクを以下に掲載します。
大陸客の個人旅行禁止から2週間強、それでもあわてぬ台湾―【私の論評】反日の韓国より、台湾に行く日本人が増えている(゚д゚)!
台湾の有名ビーチ「墾丁・白沙灣 (White Sand Bay)」
 
この記事は、2019年8月25日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものといて、以下に一部を引用します。
中国政府が8月1日に中国大陸から台湾への個人旅行を停止してから半月あまりが経過した。台湾メディアによれば、足元では、中国個人客が1日単位で貸し切ることの多い観光タクシーの利用に落ち込みが目立っているとのことだが、ホテルや飲食店などへの影響はなお未知数のようだ。 
今回の中国政府の動きには2020年1月に実施予定の台湾総統選が背景にあると考えられている。「一つの中国」原則を認めない蔡英文政権に圧力をかけることで、彼女の再選を阻止しようとする狙いがあると言われている。また7月に蔡総統がカリブ海諸国への外遊の途中、米ニューヨークに長期滞在したり、米国から武器を購入したりと、米トランプ政権と親密な関係をアピールする動きも、中国の強硬姿勢につながった。 
加えて、多くの台湾メディアが、香港の民主派市民のデモとの関係を報じている。中国大陸から台湾に渡航すると、本土では流れていない香港デモの情報に接する機会が多くなる。情報統制の観点から自由な渡航を制限しようとする意図があるとの見方だ。
昨年の8月時点で、中国は中国人の台湾への個人渡航を禁止していたわけですが、今年の1月24からの春節の時期にも、中国人は台湾を訪れていないでしょう。

もし、中国が中国人の台湾訪問を禁じていなかったとすれば、武漢などからも大勢が台湾を訪ね、台湾でも中国ウイルス禍はもつと深刻になっていた可能性があります。

台湾で中国ウイルスによる被害が少なかったのは、中国からの個人旅行客がいなかったことも大きく寄与していると思います。無論、これに加えて、台湾政府の中国ウイルス対策が優れていたからこそ、5月16日時点で累計感染者数は440人、死者数も7人にとどまっているものと考えられます。

これは、中国側からいえば、台湾に対して塩を送ったような結果になってしまいました。なぜかといえば、今回の中国ウイルス禍で、台湾がウイルスの封じ込めに成功したことは、台湾国内のみではなく、世界に対して大きな貢献になったからです。

もし、台湾が封じ込めに失敗し、中国に助けられるような事態になっていれば、そうして日本も大失敗していれば、何しろ、現状では米国が深刻な感染に悩まされている状況ですから、中国はアジアで大攻勢にでて、中国ウイルス後の新たな世界秩序は大きく中国側に有利なものに傾く可能性がありました。

中国としては、台湾が中国ウイルス封じ込めに失敗していれば、中国がイタリアなどのEU諸国に対して実施している、マスクや医療機器の提供や、医療チームの派遣などで微笑外交を台湾に対しても実行したことでしょう。

これにより、中国は今年1月の台湾総統選での蔡英文氏の再選により、失った台湾での失地回復を行うことができたかもしれません。

そうして、中国ウイルスが終息した後には、甚大な被害を受けた台湾に対して、莫大な経済的援助をすることになったと思います。

そうなると、台湾独立派が台頭した台湾を馬英九政権時代のように、親中派を増やすことができたかもしれません。

考えてみると、中国は昨年11月には、香港区議会議員選挙で親中派が敗北しています。今年1月には、台湾選挙で蔡英文総統が再選されています。いわば連敗続きでした。

中国ウイルスに関しては、韓国は当初は対策に失敗しましたが、最近では収束に向かっています。日本も、感染者が増えつつはありますが、それでも死者は相対的に少なく、米国、EU諸国に比較すれば、中国ウイルス封じ込めには成功しています。

香港の対応も素早いものでこれも封じ込めに成功しています。中国国内で武漢における感染発生がまだ隠され、警鐘を鳴らした医者が警察に処分されていた1月1日前後、一国二制度のおかげで報道の自由がある香港メディアは問題を大きく報道し、市民に注意を呼び掛けました。

もし、台湾、韓国、香港そうして日本が、中国ウイルス封じ込めに失敗していたとしたら、中国は東アジアでマスク外交や、その後の経済支援などで、東アジアで経済的にも軍事的にも、大攻勢に出て、中国ウイルス後のアジアの中国にとって都合の良い新たな秩序を打ち立てることができたかもしれません。

これは、完璧に頓挫しました。今後、上の記事にもあるように、圧力を強める中国に対して台湾の対中観はますます悪化するとみられます。逆に中国も台湾に対して強硬的な態度を続けるでしょう。

しかし、中国の台湾政策は、また今回の中国ウイルスのように、結果として台湾に塩を送ることになるかもしれません。


台湾をWHOに参加させないということで、逆に日米英印欧豪と台湾の絆は深まることになるでしょう。それでもさらに中国がゴリ押しを続けると、日米英欧印豪、台湾等を中心とした国々は、WHOに変わる新たな組織をつくることになるかもしれません。そのような動きはすでにあります。

WHOと中国の結びつきが強い現状では、多くの国が、再度中国ウイルス惨禍に見舞われる可能性は否定できません。そのため、新WHOは実際にあり得るシナリオだと思います。

中国が台湾に対して武力で圧力をかけ続ければ、日米英印欧豪などの国々は、台湾海峡等の台湾の周辺に艦艇を派遣することになるかもしれません。そうなると、中国はうかつに台湾に手をだすことはできなくなります。

このように、中国の台湾政策は結果として、台湾に塩を贈り続けることになるかもしれません。

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2020年5月17日日曜日

衝撃!30万円給付案、実は「安倍政権倒閣」を狙った官僚の罠だった―【私の論評】今後自民党の中の人が、政府の財務方針を作成できる範圍をどんどん広げるべき(゚д゚)!

衝撃!30万円給付案、実は「安倍政権倒閣」を狙った官僚の罠だった

蓋を開けてみれば…

誰が「30万円案」を言い出したのか

4月30日に「一律10万円給付」を盛り込んだ補正予算が成立し、一部の自治体では先駆けて10万円の特別定額給付金を受け取る姿が報道された。

緊急事態宣言の延長にともない、この金額で適切なのかという議論は尽きないが、考えてみれば、当初の「特定の世帯に30万円案」とはいったいなんだったのか。

30万円案は、「世帯主の月間収入(本年2月~6月の任意の月)が新型コロナウイルス感染症発生前に比べて減少し、かつ年間ベースに引き直すと住民税非課税水準となる低所得世帯を対象とする」など、一度読んでも自分が対象なのかさっぱりわからない複雑怪奇な制度だった。政府に批判が集中したが、誰がこんな制度を考えたのか。

はっきり言おう。これは財務省の役人が仕組んだ安倍政権の「倒閣運動」だったのだ。もともと安倍首相は、一律10万円案を支持していたようだ。

しかし、経産省出身の今井尚哉補佐官ら官邸官僚が30万円案を吹き込んだとされている。経済的に困窮している人への支援が大義名分のため、所得制限をかけようとした。



所得制限つき30万円案は、対象を絞るので、予算額は4兆円程度になる。一方、一律10万円案では13兆円程度まで予算が拡大する。官邸官僚は財務省に忖度し、所得制限つき30万円案に傾くのは容易に想像ができる。予算をつけて欲しい官邸官僚は、財務省にからっきし弱い。

官邸を支配しているのは経産省出身者だと言われているが、内実は「経産省に予算をつけるから」と財務省に言われ、その対価として、所得制限つき30万円案を持ち上げたというのが真相だろう。実際、今回の予算配分は、経産省に大盤振る舞いのように見えなくもない。

土壇場でのちゃぶ台返し

財務省は、その一方で、自民党の岸田文雄政調会長も巻き込んだ。岸田氏の姻戚関係は財務省官僚が多く、もともと財務省の言いなりの人だ。

安倍首相は、財務省が官邸官僚、自民党岸田政調会長、麻生財務相も巻き込んで起こした「倒閣運動」に気がついたのだろう。連立パートナーの公明党が一律10万円案を言っていたのを利用して、所得制限つき30万円案を一度は閣議決定しておきながら、土壇場でちゃぶ台返ししたのだ。

30万円案が実施されていたら、今ごろ大変なことになっていた。そもそも事前に所得制限をするのは難しい。所得が行政当局にわかるのは1年先だ。自己申告による減収を当局が客観的に判断するのは難しい。

先に述べたとおり、実施要綱は一度読んでも理解不能なものだった。世帯主ベースの給付でいいのか、任意の月とは2月~6月の5つのうち、好きなものを選ぶという意味でいいのか、年間ベースに引き直すとはどのような作業なのか、など疑問は尽きない。こうなると「不正申請」も多くなるだろうが、誰にもチェックできなかったはずだ。

30万円案を実行していたら、給付が遅れて国民の不満は爆発、政府はその処理でパニックになるのが見えていた。

新聞では、異例とか、安倍首相の面子丸つぶれとか書かれているが、結果として欠陥のある制度をやらなかったのはよかった。簡素でスピーディな「一律10万円」のほうが、非常事態においてはまともだ。

『週刊現代』2020年5月16日号より


【私の論評】今後自民党の中の人が、政府の財務方針を作成できる範圍をどんどん広げるべき(゚д゚)!

貧困世帯を対象に絞った30万円の給付から、一律10万円給付に決まった経緯についてはこのブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
政策スピード不足 官僚の壁 一律給付に財務省反対―【私の論評】中国ウイルスで死者が出る今、政治がまともに機能していれば、起こらないはずの悲劇が起こることだけは真っ平御免(゚д゚)!
麻生財務大臣
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
自民党内で一律給付と消費税減税を求めた100人以上の議員が党内で議論を開いた時に政調会長らは「一律給付の場合は3ヶ月以上かかってかえって時間がかかるから所得制限」という話で押し切っています。 
この件は小野田紀美議員がぶち切れしてツイッターで愚痴っていたのでご存じの方もいらっしゃると思います。 
要するに麻生も岸田も一律給付反対、緊縮財政派なので一律給付に対して財務省サイドは「できない理由」を作ってそれしか方法がないかのように説明をしてきたわけです。 
なので麻生大臣に至っては「一律にしたら金がくばられるのは8月以降になる」とまで言っていました。麻生は良くも悪くも自分の部下の説明は疑わないようにしているので財務官僚にまんまと嘘をすり込まれていたのかもしれません。 
財務官僚はその説明で総理まで騙していた形になります。 
30万円の給付条件は最終的には、次の通りになっていました。
このように、この記事でも、30万円給付は財務省の差し金であることをはっきりと主張しました。というより、様々な動きを総合的に判断すれば、財務省抜きには考えられないのです。

上の記事では、30万円給付案、実は「安倍政権倒閣」を狙った官僚の罠だったとしています。結局財務省が倒閣を狙い、仕掛けてきたものを、安倍総理がちゃぶ台返しをして、10万円給付案をすすめたということです。

これは、首相としては当然といえば、当然です。コロナ禍で大変なことになっているのに、複雑怪奇な30万円給付金など実行することにしては、国民は黙っていないことを誰よりも理解しているのは安倍総理自身だったと思います。

そもそも、有権者がそのようなことは許さないことは、あまりにはっきりしすぎています。なせそうなるかは、明らかですが、30万円給付金の最終的な給付の条件などをふりかえっておきます。

まずは、給付の条件は、世帯主の収入が、新型コロナ感染拡大の影響で、2月~6月の任意の月において

(1)減少し、住民税非課税水準になる場合

(2)半分以上減少し、住民税非課税水準の2倍以下となる場合

 です。

 住民税非課税の基準は住んでいる自治体や世帯人数によって異なる。そのため、総務省は10日、給付条件を全国一律にするため、単身世帯の場合は減収後の月収が10万円以下であれば非課税世帯とみなすとした。扶養家族が1人増えるごとに月収の基準額が5万円ずつ上がります。


この給付条件に該当する世帯は、全国で20%程度と言われ、非常に対象が狭いものでした。その上、住民税非課税水準を確認し、自分の収入と比較するなど、特に経済的に余裕のない人たちにとっては煩雑な作業が求められてしまうものでした。

さらに、次の2点についても問題を指摘できます。

(1)「世帯主の収入」が対象であること

夫婦共働きが当たり前になっている今日では、世帯主の収入だけでは生活できないです。夫婦共働きであれば、夫婦2人の収入を合わせて生活を営んでいるだろう。

そうすると、世帯主の収入が減っていなくても、もう一人の稼ぎ手の収入が大幅に減少した場合、生活に困窮することがありえます。「世帯主」を対象としているのは、「男性が稼ぎ主」と想定しているからでしょう。これでは現実の生計の構造に適していません。

(2)世帯が給付対象であること

また、世帯が給付対象であることに注意が必要です。単純に計算すると、単身世帯であれば1人で30万円を受け取ることができますが、4人世帯であれば1人当たり7.5万円にしかならです。これだけでも不公平感が出てくるでしょう。

それだけでなく、世帯単位で支給すると、世帯構成員全員にきちんと行き渡らない可能性があります。なぜなら、世帯構成員それぞれが対等ではないからです。

特に、コロナの影響で在宅勤務や自宅待機が広がる中、DVや虐待が深刻化している状況においては、DVや虐待の被害者にお金が行き渡るはずもないでしょう。

これに対して、コロナ対策で同じく現金給付を行なっている米国では、年収7万5千ドル(約825万円)以下の大人1人につき現金1200ドル(約13万円)、子ども1人につき500ドル(約5万5千円)と、個人単位で支給します。こうすれば、上述の問題は起こりにくいです。

こうした給付の方法にも、「現実の家族の状況」に対する理解の不足がみられました。

さらに、今回の現金給付においては、感染リスクを高めるという問題も指摘できます。上述の通り、給付条件がわかりにくく、自分が対象なのかわからないということもあり、窓口に人が殺到することが予想されます。

収入要件がある分、証明する書類などを窓口に持参する必要もあります。そうすれば、人が密集することで感染リスクが高まってしまうでしょう。

感染リスクを抑えるため、会社を休業し自宅待機してもらう上で必要な補償であるはずが、むしろ逆効果となってしまいます。これでは本末転倒です。

この世帯を絞った給付金制度を実行しようとしたら、対象要件を満たしているかどうかを確認するだけでも大変です。そもそも、上の記事にもあるように、所得が行政当局にわかるのは1年先です。このような給付金制度は、最初から不可能だったと言わざるを得ません。

自己申告による減収を当局が客観的に判断するのは難しいです。給付までには、かなり時間がかかったでしょうし、それに上でも示したような不公平感から、国民の不満は一挙高まったことは必定です。

そうして、国民から安倍内閣に対する不信の声が上がり、それこそ、野党はもとより、与党内からも倒閣運動につながり、安倍内閣は実際に崩潰したことでしょう。

安倍総理はギリギリのところで踏みとどまったのです。そうして、昨日もこのブログで示したように、今回の2次補正予算は、これを機として、官邸官僚や財務省の手を離れて、自民党の中の人が主導権をとったのです。

財務省岡本次官

今回、財務省は第2次補正予算の主導権を奪われたということは、当然といえば、当然です。日本に限らず民主国家においては、選挙で選ばれた与党政治家が実質的に政府の財政方針を決め、財務官僚などは本来専門的家的な立場から、それを実行する手段を選ぶことができるだけです。ただし、専門家的な立場から、財政方針を提案することはできますが、決めるのは、あくまでも政府です。

財務の方針を財務省が定めるべきではないのです。財務省がすべきは、政府の定めた財務の目標をなるべく迅速に実行することです。しかし、過去においては、実際には、財務省が決めてきたようなものです。

今回、財務省でもなく、官邸官僚でもなく、自民党の中の人が、10万円給付の方針定め、2次補正の主導権も握ったようです。

であれば、今後も政府の財務方針を作成できる範圍の幅をどんどん広げるようにすべきです。

補正予算なとは、比較的簡単ですが、本予算まで踏み込むのはなかなか難しいです。そうなれば、欧米のように日本でも、政策提言のできる本格的なシンクタンクを複数設立して、政策提言をさせ、その政策提言を比較検討して、政府が国の方針を定めるようにすべきです。

ただし、政治家、その中でも特に政権与党の政治家は、きちんと勉強して、政策提言を選択できる、センスや知恵を身につけるべきです。このような素養を身に着けられない政治家を有権者は選挙で落とせば良いのです。

そうなれば、財務省の弊害など徐々に薄れていくはずです。薄れなければ、昨日も示したような強硬手段をとるべきです。

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2020年5月16日土曜日

【日本の解き方】コロナ諮問委員会に緊縮経済学者…政権内の力学が変わったのか? 再自粛時の休業補償に反対も―【私の論評】自民党の中の人たちは、小人閑居して不善をなす財務省に徹底的に負荷をかけよ(゚д゚)!

【日本の解き方】コロナ諮問委員会に緊縮経済学者…政権内の力学が変わったのか? 再自粛時の休業補償に反対も

コロナ対策諮問委員会

政府は新型コロナウイルス対策を具申する諮問委員会に経済学者4人を加えると発表した。 委員会は発足当初は医療関係者だけで構成されていたが、自粛の経済への悪影響が懸念されるので、経済学者を入れたというのが、公式の説明だろう。

 自粛による経済への悪影響を分析するなら、経済学者よりシンクタンクのエコノミストのほうが適任だ。新たに加入する経済学者は、そうした試算を行うというより「ストーリーテラー」のようだ。そもそも試算なら、官庁エコノミストでもできるのに、何のために経済学者を加えたのだろうか。

 いずれにせよ、自粛の経済への悪影響を試算した後の政策対応が重要な課題だ。そこには2つの対応パターンがある。

 1つは、自粛は経済に悪影響があるので、自粛を解除し経済活動を再開するというものだ。その場合、再び感染者が増えて公衆衛生上はまずいので、感染症対策を優先するか経済を優先するかという二者択一になる。

 ここでの政府は、公衆衛生政策は行うが景気悪化に対応する政策は行わないという前提だ。景気悪化に対応する政策を行わないのは、財政負担を避けるためには当然という立場だ。これを「財政緊縮派」と呼ぼう。

 もう1つは、休業補償などで政府が所得補填(ほてん)をして悪影響を最小限にとどめることで自粛を継続するというものだ。

 この場合、政府は公衆衛生政策のみならず、経済への悪影響のコストも負担する。そこでは当然、財政負担が生じるが、感染症は戦時状態と同じなのでやむを得ないと考える。

 もっとも、経済の悪化は需要の蒸発による需要ショックなので、デフレ圧力がある。そうしたなかでカネを刷る政策は実質的に財政負担は生じないともいえる。これを「財政積極派」と呼ぶ。

 今回、諮問委員会に加わった経済学者は、ほぼ緊縮派であるので、前記の2つのパターンのうち、財政緊縮派のパターンが提言されると予想できる。

 この時期にこうした人選が行われることについて、筆者は政権内の政策決定力学の変更が背景にあると感じている。

 今国会での2次補正予算編成は必至である。経済苦境はリーマン・ショックを上回り、戦前の大恐慌並みなので、1次補正の真水約25兆円では足りないのは明らかだ。

 ということで、自民党を中心として補正予算の議論がなされている。一方、官邸側は、当初は官邸官僚が主導権を握っていたが、「30万円給付」でミソをつけ、党主導になった。そこで、諮問委員会に、緊縮派の経済学者を送り込んだと筆者は見ている。

 今本当に求められているのは財政積極派の経済学者であるが、その期待に沿うことはなく、官僚側の緊縮財政を代弁するだけに終わりそうだ。

 自粛解除後に流行第2波が来て「再自粛」となった際には休業補償が必要となるが、今回の学者たちは、それに反対するのではないか。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】自民党の中の人たちは、小人閑居して不善をなす財務省に徹底的に負荷をかけよ(゚д゚)!

自民・公明の与党両党が12日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた追加対策を盛り込む第2次補正予算案について、野党側とも協議を進め、今国会での成立を図る方針を確認しました。会期末は6月17日です。

緊急経済対策の第2弾については、いろいろな観測報道が飛び交っていて、総理が数兆円規模での編成を指示したとか、国会は6月17日で閉じて延長はしないと委員長が言ったというような報道などがあります。

ただ、総理が数兆円規模と言ったという報道は、誰かがその思惑からリークしたものをそのまま報じたというというか、元々世論等を操ろうとする観測気球とはそのようなものです。

その思惑とは、誰が補正予算を仕切るかということです。普通であれば、予算なので財務省が仕切るのが通例なのですが、現在は自民党のなかの人の方が世間の状況をより反映できます。

自民党の中の人?

自民党の人は政治家として、現在の状況を肌感覚として、中小の経営者をはじめとする国民の声や、支持者らの大変だという世間の実態を把握しています。そういう人から見て、従来の財務省のパターンでは予算が、足りないのです。

一方で財務省の人は、今回の話だと補正予算にはあまり関わらないので、観測気球をあげ、それをマスコミがそのまま流したというのが真相なのでしょう。

いままでであれば、どちらかというと官邸の方が政策の主導権を握って、党は追認ではないかと一部で批判されているところもありました。しかし、今回のコロナウイルス対策では、そこがひっくり返っているところがあるようです。

官邸主導でコロナ対策をで考えていた時、30万円の給付金話がありました。30万円のときは所得制限をするので、予算規模は4兆円くらいにしかなりません。それがあまりに少ないということで、ひっくり返されてしまいました。

このブログにも以前掲載したように、あれをひっくり返したのは公明党となっていますが、安倍総理個人が「これではまずい」と思ってやったと私は見ています。逆に言うと、官邸でうまく仕切れていないのです。いまは自民党と公明党が中心となって補正予算を考えている状況のようです。

もともと30万円を発案したのは岸田政調会長で、安倍総理が岸田氏に一任すしたところ、全然まとめられないので、下駄を二階さんに預けたと言われています。

実際、あのまま貧困層に絞った30万円の給付金ということになれば、真水も少ない状況で、安倍政権はかなりの批判を浴びることになったでしょう。あそこでひっくり返すことによって、真水をかろうじて増やしました。今回の2次補正は1次補正と同じくらいやらないと経済が持ちません。

1次補正は10万円一律給付を含めたところで、国債の発行額が23兆円くらいになり、だいたいGDPの5%くらいの規模になりました。今回のコロナ禍による経済への打撃は、大恐慌並みなので、本来はGDPの10%以上真水を出さないと話になりません。

まともな経済政策ができないと、1年後くらいに失業者は300万人以上増えるレベルです。失業者が300万人以上増えると、自殺者は1万人ぐらいに増えるので、コロナウイルスの死よりもはるかに多い死者が出ることになります。

昨年は自殺者数は2万人を切ったが、今年はコロナ禍で増える懸念が・・・・

このようなことをどのように防ぐかが、マクロ経済政策のいちばんの基本です。そのようなときは従来型のケインズ型と言われる、真水を投入して有効需要を増やす方法しかありません。それをやるかどうかにポイントが絞られています。大恐慌並みに落ちるとなると、数兆円の補正では間に合うはずはありません。

コロナ感染の防止と経済との兼ね合いを考えると、緊急事態宣言の延ばす期間、自粛を呼びかける際の対象をどうするかという事が重要になってきます。

そこでコロナの諮問委員会のなかに、経済の専門家とされる人が入ることになりました。そのメンバーが12日に報道されました。大阪大学大学院の大竹文雄教授、慶応大学の井深洋子教授、東京財団政策研究所研究主幹の小林慶一郎氏、慶応大学の竹森俊平教授の4人です。

ところが、この4人の経済の専門家は、マクロ経済立場からすると緊縮派ばかりです。補正予算の拡大を抑制しようという側に立つ人が選んだ人事といえます。

この人事の思惑は、予算が膨らむのを防ぎたいということでしょう。しかし、はっきり言うと、諮問委員会も最近休業続きですし、あまり関係ないともいえるでしょう。

もう補正予算は出てしまうでしょう。補正予算が出てしまった場合、経済のことを諮問委員会で議論してもほとんど意味がありません。

今回の第2次補正予算案は、緊縮という省是に拘る財務省などは、抜きにして自民党内ですすめて、財源が足りなければ、マイナス金利の国債を発行させるように財務省にせまり、さらに消費増税もせまり、なんでコロナ禍の時にそんなことまでやるの、というようなことまで実行して、様々な難題を財務省に押し付け、事務・法律事務手続きなどに忙殺させ、財務省の余力を奪う戦術に出るべきと思います。

財務省の岡本薫明事務次官

そもそも、財務省は本質から外れた省益など拘泥するために、忙しがっているだけであり、国民生活の安寧などは無視し、まさにに小人閑居して不善をなすの格言を地で行っているような組織ですから、余計なことを考えられないくらいに徹底的に負荷をかけるくらいが相応しいのです。

そうすれば、自民党の中の人は、今回のコロナ禍による苦しんでいる国民のために、大鉈を振るえるようになります。はっきりいいます。国民の側からすれば、緊縮頭の財務省など、コロナ対策にはいらないのです。

そうして、あわよくば、財務省が負荷に耐えきれなくなって弱音をはけば、財務省を解体して、各省庁の下部組織として編入して、財務省が省益と盲目的に信じている緊縮というDNAを粉砕すれば良いのです。

このようなことが実行できれば、政治主導も夢ではないです。そのときには、日本も本格的に政策提言ができる、シンクタンクを複数設置すると良いと思います。

そうなれば、日本でも官僚が政治に介入するという思い上がりを断ち切り、まともになれるかもしれません。元々官僚とは、マックス・ウェーバーも言うように、決まったことを迅速に実行できるようにするのが本質であり、政治に関与するものではないのです。今回のコロナ禍をきっかけに、官僚は官僚の本分に戻るようにすべきです。

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2020年5月15日金曜日

トランプ大統領、中国との“断交示唆”か!? 軍事的緊張も高まるなか習主席との対話を拒否… 識者「中国を外して大経済圏を作るのでは」 ―【私の論評】トランプ大統領の行動は、民意を反映したもの(゚д゚)!


中国発のコロナ禍に業を煮やしたトランプ米大統領は、習主席に鉄槌を下すのか

 中国発の新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)をめぐり、ドナルド・トランプ米大統領の怒りが、日に日に高まっている。中国の初動対応に不満を示し、習近平国家主席との対話を拒否したのだ。「中国との断交示唆」と報じたメディアもある。「死のウイルス」による世界全体での死者は30万人を超え、米国では最悪の約8万5000人もの犠牲者が出た(=米ジョンズ・ホプキンズ大学、14日集計)。米中の軍事的緊張も高まっているなか、トランプ氏は「対中貿易停止」といった過激策までチラつかせた。


 「今は(習氏と)話したいとは思わない」「中国には非常に失望している。そう断言できる」

 トランプ氏は14日放送の米FOXビジネステレビのインタビューで、こう言い切った。中国の初期対応の遅れが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大につながったとする「対中批判」を一段と強めた。

 これまでも、トランプ氏は「中国に不満だ」「発生源で止めることができた」「これは世界が受けた損害だ」「(損害金請求も)検討している」などと記者会見で語ってきたが、この日はさらに踏み込んだ。

 「感染拡大の報復」として、トランプ氏は「多くの措置を講じることができる」と胸を張ったうえで、「中国との関係を完全に途絶えさせることもできる」と強調した。関係を遮断すれば「5000億ドル(約53兆6000億円)を節約できる」とまで指摘したのだ。

 米中両国は今年1月、「第1段階」の貿易協定に署名した。中国が数値目標をもとに米国から農産物などの輸入を大幅に拡大。米国は通商対立が激化した昨年夏以降、初めて対中制裁関税を一部軽減するものだ。


 だが、中国発の新型コロナウイルスで、米中関係は一変した。

 米政権は現在、「対中制裁関税の強化」などを検討しているとみられるが、トランプ氏は「貿易停止」までチラつかせた。

 これを受け、海外メディアは「トランプ氏、中国のコロナ対応に『心底失望』 断交の可能性も示唆」(ロイター)、「トランプ氏、中国との断交示唆」(AFP)などと報じた。

 11月の大統領選を控え、トランプ氏としては、中国の責任を追及し続けることで、「対応の遅れ」や「景気失速」への批判をかわそうとする思惑もありそうだ。

 ただ、米国民の「対中意識」も悪化している。

 米大手世論調査機関「ハリス・ポール」が4月に行った世論調査で、「新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)について、中国政府に責任があると思いますか」と聞いたところ、「ある」は77%で、「ない」(23%)を大きく上回った。

 中国の軍事的挑発も、トランプ政権をイラつかせているようだ。

 中国海軍の空母「遼寧」を中心とする艦隊は4月11日と28日に初めて、沖縄本島と宮古島間を通過した。中国軍のミサイル駆逐艦や早期警戒機なども3月以降、沖縄や台湾周辺で挑発的行動を見せている。

遼寧

 さらに、中国軍が8月、同国南部・海南島沖の南シナ海で、台湾が実効支配する東沙諸島の奪取を想定した大規模な上陸演習を計画していると、共同通信がスクープした。台湾の蔡英文総統の2期目の就任式を来週20日に控え、中国がさらに挑発行動に出る危険性もある。

 米第7艦隊は13日、米海軍のミサイル駆逐艦「マッキャンベル」が同日、台湾と中国を隔てる台湾海峡を通過したと発表した。米海軍の駆逐艦は先月も2回にわたり台湾海峡を通過している。

 米海軍主催で2年に1回、米ハワイで行われる世界最大規模の多国間海上演習「リムパック(環太平洋合同演習)」は、新型コロナ禍で中止も検討されたが、日本政府の強い働きかけで、8月に実施される。

 貿易停止までチラつかせた、トランプ氏の怒りをどう見るか。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「中国が昨年12月時点で、医師から新型コロナウイルスの報告を受けながら、初動対応を誤り、情報を隠蔽し、国外への移動を制限しなかったことは事実だ。今年1月までに中国から40万人以上が米国に移動したという。明らかにウイルスを移された形で、怒らないほうがおかしい」と語った。

 緊張する米中関係は今後、どうなりそうか。

 藤井氏は「中国では『台湾への武力侵攻』を唱える声もあり、米国も抑止行動を求められるなど軍事的な緊張もある。米中は今年1月、第1段階の貿易協定に署名したが、中国はこれを守らないかもしれない。そうなると、米国も貿易上の相互依存を解き、中国をサプライチェーンから外して、先進国を集めた大きな経済グループをつくるのではないか。一方の中国は、一帯一路構想を中心とした比較的小さな経済グループづくりを迫られる」と分析した。

 新型コロナで、世界の枠組みが、大きく変わることになるのか。

【私の論評】トランプ大統領の行動は、民意を反映したもの(゚д゚)!

中国共産党は、世界に謝罪しない限り、米国等の怒りを買い、石器時代に戻ることになるかもしれないと、このブログに掲載したことがあります。

これについては、「そんなことはあり得ない」などと考えた人もいるかもしれませんが、以上の記事をご覧いただければ、あながち誇張ともいえないことがおわかりいただけたと思います。

ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、米国内の死者は11日に8万人を超えました。10年以上にわたった戦闘で、約6万人の米兵が亡くなったベトナム戦争の死者を大きく超え、世界的にも突出しています。もうすでに米中は順戦争状態に入ったと認識しても良いと思います。

米国民の中国に対する反発はかなり強まっています。ある米調査会社の調査結果では、新型コロナの感染拡大に対し中国に責任があると考える米国人が約8割に達したというものもあります。新型コロナの流行拡大には中国の隠蔽体質があるとする見方は米国では強いのです。

現状の米国は新型コロナの感染拡大に歯止めをかけるのに注力している段階ですが、仮に収束に向かえば中国に対して強硬姿勢を求める世論は一段と高まるでしょう。

コロナ禍以前から、米中両国は新時代の覇権を争う「新冷戦」の最中にありました。制裁関税をかけるなどトランプ政権の対中強硬姿勢については国内でも批判がありましたが、新型コロナ感染拡大に伴う反中世論の高まりは、こうした政策を正当化することになります。

中国に対して何らかの「償い」をさせようとする世論の高まりに応じて、収束が見えてくるであろう6月ごろからトランプ大統領も本格的な反中キャンペーンを張るようになるでしょう。現状のトランプ氏の上記の記事でみられる、言動などは、まさにそれを予感させるものです。

それは「新型コロナを『武漢ウイルス』と呼ぶな」と発言し、「中国寄り」というイメージを国民に与えた民主党の大統領候補バイデン氏にとっては打撃となることは目に見えています。

バイデン氏

YouGovの最新世論調査によると、米国人の3分の2以上が、中国政府に少なくとも部分的にパンデミックの責任があるとしています。

世論調査は、共産主義の犠牲者記念財団(The Victims of Communism Memorial Foundation:VOC)が委託したもので、米国人の69パーセントが、中国政府はコロナウイルス拡大に「ある程度」または「とても」責任があるという意見に賛成だということがわかりました。さらに回答者の51パーセントが、中国はウイルスの影響を受けた国に賠償すべきだと回答しており、そのような賠償に反対したのはわずか17パーセントでした。

また米国人は、コロナウイルスのパンデミックを踏まえると、中国に関して歴史的に否定的な意見も示しており、67パーセントは中国を競争相手か敵のどちらかとみなしています。

VOCのマリオン・スミス事務局長は、米国人が、冷戦時代にソビエト連邦に対して抱いていたのと全く同様に中国に対して好ましくない印象を持っていることを示す数字だと述べました。

「米国人は(中国に関する)この新しい現実に気づきつつある。我々は冷戦から教訓を得たはずだ。特に共産党の性質について」とスミス氏はワシントン・フリービーコン紙とのインタビューで語りました。

調査結果は、中国がパンデミックに対する対応に責任を取るべきだという意見に、米国人がますます賛成していることを示しています。ギャラップでは、1978年から中国に関する米国の態度を評価していますが、現在米国人は中国にこれまでで最も否定的な見方をしていることがわかりました。3月にピュー研究所が実施した別の世論調査でも、民主党・共和党両方の大多数で現在、中国に対する評価が最低となっていることがわかっています。

反中国政府で意見が一致する新たな状況から、政策立案者はさらに勢いを増して権威主義国家に対する攻撃的な姿勢を取っています。連邦議員は中国政府に対抗するため、ここ数カ月のうちに一連の法案を発表しており、その中でもトム・コットン上院議員(共和党、アーカンソー州)は、太平洋での米国と同盟国の軍事能力を強化する430億ドルの計画を推進しています。

YouGovの最新世論調査世論調査は5月6日から7日の間に1,382人の成人米国人に対して実施されました。調査はインターネットで行われました。

また調査によると、10人のうち7人の米国人は中国が「罰を受ける」べきだという考えに同意しています。米国人は厳しい罰に賛成ではないですが、およそ10人に4人は「国際的な制裁」を支持しており、33パーセントは中国製品に対する追加関税を支持しています。

また調査では、コロナウイルスが中国政権の否定的評価に大きく貢献したことも判明しており、44パーセントの米国人が、中国政府に対する自分たちの意見はパンデミックの結果としてさらに否定的になったとしています。

スミス氏は、コロナウイルスは永久に効果を持つ―米国の中国に対する意見はパンデミック終了後も回復しないと述べました。

スミス氏は、「米国人は、世界で起きていることが全てわかっていない場合もある。だが、これほど明白なことが我々の生活に全面的な影響を与えたことが判明した時、米国人は実際決然とした態度を取り得る。ある種の(中国との)分断が起こることになり、それは多くの人が起こり得ると考えるよりもっと全面的なものとなるだろう」としています。

世論調査からすると、トランプ氏の行動は、選挙対策もあるでしょうが、そんなことより、民意を重視した行動ということができると思います。

民意を重視しない大統領候補者は、当選が難しくなるのは当然です。トランプ大統領も、バイデン氏もこの民意をくみとり、どのような政策を打ち出すかが、最大のポイントとなってきたのは間違いないようです。

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2020年5月14日木曜日

「コロナ増税」へ不穏な動き… 復興増税の“愚策”繰り返せば日本経済の致命傷に ―【私の論評】消費税減税とともに、復興所得税も廃止して日本の「シバキ倒し文化」を終わらせよ(゚д゚)!

「コロナ増税」へ不穏な動き… 復興増税の“愚策”繰り返せば日本経済の致命傷に 

高橋洋一 日本の解き方


2011年の東日本大震災の際に、復興増税が導入された。そして今回の新型コロナウイルス感染問題でも、財政規律を強調したり、緊急経済対策での国債増発に伴う将来の増税が必要との声があちこちで上がり始めているのが気がかりだ。

 復興増税は復興特別所得税、復興特別法人税、復興特別住民税と3種類ある。所得税は税率2・1%で13年1月から37年12月まで25年間課されている。法人税は税率10%で、12年4月から15年3月まで3年間の予定だったが、1年前倒しで14年3月に廃止された。住民税は府県民税・市町村民税合わせて1000円を14年4月から24年3月までの10年間課されている。

 所得税の税率2・1%は、仮に消費性向90%で消費税に換算すれば2・3%程度なので、消費に与える影響は大きい。具体的にいえば、実質所得が4・6兆円程度減少し、その結果、消費も4兆円程度減少する。

 本コラムで何度も指摘しているが、大災害時の増税はありえない。大災害が100年に一度なら、復興費用は「100年国債」で調達するのが原則である。大災害時の増税は経済学の課税平準化理論にも反するもので、古今東西行われたことがない愚策だ。

 「供給ショック」より、需要の喪失による「需要ショック」が大きい場合、デフレ圧力が高まるので、インフレ目標に達するまで、中央銀行による国債買い入れが可能になる。この状況では、長期国債発行による総需要創出と日銀の買い入れが最善手だ。この場合、政府の実質的な子会社である日銀が国債を保有するので、利払い費や償還負担は事実上発生しない。その結果、財政状況を悪化させることもないので、将来の増税を心配することはない。

 日本大震災の時には、こうしたセオリーが無視され、需要ショックであったにも関わらず、日銀による国債買い入れもなく、本来は不必要であったはずの復興増税が行われた。100年国債も発行されず、事実上25年償還となり、前述のように毎年の負担は大きい。

 財務省は、当時の民主党政権が政権運営に不慣れだったことに乗じて復興増税を盛り込んだ。これをホップとして、ステップで消費税を5%から8%に増税、ジャンプとして10%への税率引き上げを画策し、実際に安倍晋三政権で実行された。

 財務省としては、二匹目のドジョウを狙っているのだろう。コロナ対策で多額の財政支出を強いられるので、財政悪化を理由としてコロナ増税を主張する。その勢いで、消費税率も12%、さらには15%へと、再びホップ・ステップ・ジャンプをもくろんでいるのではないか。

 世界の先進国では、中央銀行による国債の無制限買い入れや、減税、給付金など積極財政政策で一致している。そして、大災害での増税は行われない。

 コロナ・ショックでは需要が蒸発しデフレ圧力が高まっている。そうした時に増税が行われたら、落ち込んだ経済への致命的なダブルパンチとなるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】消費税減税とともに、復興所得税も廃止して日本の「シバキ倒し文化」を終わらせよ(゚д゚)!

皆さんが今でも復興所得税は徴収されています。ただし、所得税と復興所得税は、まとめて所得税とされいるのでわかりにくいところがあります。

以下に、代表取締役Aの所得税を例示します。事例では、所得税だけ引かれていない事前確定届出給与を示しています。

(事前確定届出給与)
1,000,000円
(所得税及び復興特別所得税)
1,000,000円×20.42%=204,200円
(代表取締役Aの口座へ振り込む額)
1,000,000円-204,200円=795,800円

この事例でみるとおわかりになるように、日本の所得税はかなりのものです。

復興財源にはこのように、復興法人税以外にも「復興所得税」などが存在します。所得税については、サラリーマンであれば2013年1月1日から25年間、税額の2.1%分が源泉徴収により天引きされています。

消費税が上がってしまい、コロナ禍に見舞われている現在、消費税減税は叫ばれているものの、何故か家計の負担となる復興所得税に関しては、廃止の声が聞こえて来ません。ところが、復興特別法人税に関しては、1年前倒し廃止 平成25年12月12日に公表された平成26年度税制改正大綱にて、この復興特別法人税は1年前倒しで廃止されました。

法人税は廃止されたのに、所得税はなせ廃止されないのでしょうか。それは、経団連を消費増税の味方につけるために、法人税減税をちらつかせてきたからです。

海外では、法人税減税と消費増税は、関係ありません。各国で法人税減税が行われていますが、そのロジックは、個人の段階で税を捕捉することをきちっとやるため、法人税は二重課税になるため取らないというものです。そのために必要なのが歳入庁や、番号制です。消費税と法人税の引き下げをセットで考える国はありません。

なお、米倉弘昌氏が経団連の会長のとき「消費税を上げて法人税を下げるのは企業優遇との批判にも「企業業績が高まれば雇用も上がり賃金水準も上がってくる」と話していました。

私自身は、コロナ禍に対応するために、消費税を減税すべきという声は、聞こえてくるものの、復興所得税を廃止せよという声が聞こえてこないのは本当に奇異だと思います。

本来ならば、復興所得税は廃止した上で、消費税も0%にすべきです。これは、実務的には税率変更時の手続きと同様であり、すでに事業者、税理士、税務署職員共に全て経験済みで大きな負担は発生せず、かつ、その効果は全ての国民が享受することができるものです。

何より逆進性の強い消費税は、経済的に弱い立場にある人には大きなインパクトがあります。復興所得税廃止もさらにインパクトがあります。

現在のコロナウイルスでのさらなる景気の落ち込みを踏みとどめるためには、復興所得税は0に、消費税率もゼロにする以外に道はないです。財源は、国債で賄えば良いです。

国債が将来世代のつけになるというのは、このブログでも述べてきたように、ラーナーの法則でも明らかなように、ここ日本では全くのフェイクです。

アバ・ラーナー

やはり、昨日このブログにも掲載したように、日本は財務省を頂点に、政府も企業も「シバキ倒し文化」が根付いてしまい、国民はどこまでも「シバキ倒す」のが正しいと信じて疑わなくなってしまったのでしょうか。

高橋洋一氏は、上の記事で、「大災害時の増税は経済学の課税平準化理論にも反するもの」としていますが、それはどういうことかといえば、大災害時の復興などを増税で賄うなどということは、大災害を被った世代だけが、大災害時の復興などのへの負担を被るということであり、それはあまりに不公平だということです。

これを100年債などで賄えば、大災害字の復興などの負担を大災害を被った世代だけではなく、将来世代も応分に被るということで平等になるのです。これを、財務省等は将来世代へのつけなどとしていますが、そんなことはありません。なぜなら、復興などで新たに設置するインフラなどは、当然のことながら、現在世代だけではなく将来世代も恩恵にあずかることができるからです。

そうして、何よりも、大災害などで大損害を受けた世代が、さらにその損害を全部被るということになれば、それこそ、経済が破綻してしまいかねません。そうなれば、将来世代もその破綻の悪影響を被るわけで、とんでもないことになってしまいます。


復興税を廃止するのは、造作もないことです。消費税を0%にすることも実務的には税率変更時の手続きと同様であり、すでに事業者、税理士、税務署職員共に全て経験済みで大きな負担は発生せず、かつ、その効果は全ての国民が享受することができるものです。

政府特に財務省にとっては、大変かもしれませんが、そのようなことは財務省が努力すれば良いだけの話です。財務省などシバキまくって、法的事務的手続きを無理ややらせて、根をあげたら、そこで財務省を廃止して、複数に分割して他の省の下部組織に組み入れてしまえば良いです。


長年国民を「シバキ倒してきた」のですから、今度は自分たちが「シバキ倒される」のは当然のことです。政治家、国民などで寄ってたかって「シバいてシバいてシバキ倒す」べきです。そうしないと、本当は頭が悪いのにエリート意識だけ高い彼らは「シバキ倒し」の本当の苦しさを理解することはできないです。

なぜそんなに減税に拘るかといえば、何より逆進性の強い消費税は、経済的に弱い立場にある人には大きなインパクトがあるからです。

私は、現在のコロナウイルスでのさらなる景気の落ち込みを回避するためには、消費税率をゼロにするか、大幅減税する以外に道はないと考えています。財源は、このブログでも掲載してきたように、国債で十分まかなえるどころか、ゼロやマイナス金利の現状では、その分政府が儲けることができます。復興所得税を廃止しても、復興は国債で十分まかなえます。

というか、財務官僚がもっと頭が良ければ、国債のマイナス金利を利用して、金を儲けて、儲けたことをわからないようにして、特別会計に組み込むなどの芸当など簡単にできるはずですが、そんなこともできないほどに、省益というか、いずれ省益を損ねることになるのは明々白々な増税に凝り固まり、本当に頭が悪くなつてしまったようです。

現在、財務省は鉄壁のようにみえます。しかし、かつての中国がそうみえましたが、現在では長年の綻びが露呈しているように、財務省も鉄壁ではないはずです。まともな政治家や、国民が結集して、財務省の綻びをえぐり出し、徹底的に「シバキ倒して」できれば、崩潰させるべきです。そうでないと、日本の「シバキ倒し文化」はいつまでも続くことになります。

当面世界的には、中国との対峙、国内的には財務省との対峙が日本にとって最重要課題になると思います。

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2020年5月13日水曜日

「昭和恐慌」に学ぶコロナ対策 金融緩和と積極財政が有効、リーマンの失敗繰り返すな! ―【私の論評】コロナ禍を奇貨として、日本は「シバキ倒し」社会から「まともな社会」に移行すべき(゚д゚)!

スペイン風蔓延時にマスクをする当時の女子学生たち

 いまから約100年前、スペイン風邪や関東大震災、昭和恐慌に見舞われた日本はどのように抜け出したのか。今回のコロナ・ショックからの脱出を目指すうえでどのような点を参考にすべきだろうのか。

 昭和恐慌は、1930年から31年にかけて起こった戦前日本の最も深刻な恐慌で、第一次世界大戦による戦時バブルの崩壊を契機としている。20年代、世界の主要国は金本位制へ復帰していたが、今ではその結果として20年代末期から世界大恐慌が起こったと分析されている。

 このような状況下、29年7月に成立した立憲民政党の濱口雄幸内閣は、金解禁・緊縮財政と軍縮促進を掲げた。このマクロ経済政策を今の言葉で言えば、金融引き締め政策と緊縮財政政策だ。濱口雄幸内閣の事情は、城山三郎著『男子の本懐』に書かれているので、ご存じの方も多いだろう。

 この本では、濱口首相は東京駅で銃撃され、非業の死を遂げた英雄として描かれている。その大前提として、立派な経済政策を遂行したとの評価があり、その信念を男の美学として「男子の本懐」としている。

 筆者は40年前、当時の大蔵省に入省したが、新人研修でこの本の感想文を書かされた。筆者以外の同僚は、信念に基づき命をかけてまで打ち込むことは素晴らしいというものだった。

 しかし筆者は、金解禁つまり金本位制への復帰をなぜ行ったのかが理解できなかった。そのため、正しいかどうかわからない政策に命をかけるのはいかがなものかという感想文を書いた。当時、金本位制に復帰することは金融引き締めであり、緊縮財政とセットで国民を「シバキ上げ」る政策は、失業を増加させマクロ経済運営で問題だったはずだからだ。

 これがユニークな感想だったため、筆者は同僚の前で大蔵省の先輩教官に面罵された。この教官はその後、事務次官になった。さすが緊縮策の権化の財務省ならでの人事だ。

 史実としては、この金融引き締めと緊縮財政政策は政変によって終わった。31年12月、立憲政友会の犬養毅内閣となったが、高橋是清蔵相はただちに金輸出を再禁止し金本位制から離脱、積極財政に転じた。積極財政では日銀引受を伴い、同時に金融緩和も実施され、民政党政権が行ってきたデフレ政策を180度転換した「リフレ」政策となった。その結果、先進国の中でも、恐慌から比較的早く脱出した。

 昭和恐慌は、世界恐慌とともに需要ショックによって引き起こされた。それは、日銀引受を伴う金融緩和と積極財政が最も有効な処方箋だ。

 コロナ・ショックも、世界的なサプライチェーンの寸断という供給ショックもあるが、人の移動制限の伴うビジネス停止により一気に需要が喪失する需要ショックの面が強く、昭和恐慌と同様の経済対策が必要だ。

 今回のコロナ・ショックは12年前のリーマン・ショックを上回るかもしれない。当時は金融緩和と積極財政が不十分だったが、今度こそ昭和恐慌を模範例とすべきだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】コロナ禍を奇貨として、日本は「シバキ倒し社会」から「まともな社会」に移行すべき(゚д゚)!

世界恐慌、日本では昭和恐慌がなぜ起こったのかは、謎でした。しかし、1990年代の研究によって今では明らかになっています。その答えとは、デフレです。米国をはじめ、世界中の政府が財政政策では緊縮政策、金融政策では引き締め政策をとったため、デフレに陥ったというのが、真相でした。

日本では、高橋是清による積極財政政策、金融緩和政策により、世界で一番はやく、教皇から脱出しました。米国が恐慌から完全に脱却できたのは、第二次世界大戦に入ってからしばらくしてからでした。

大蔵大臣として有能だった高橋是清だが、なぜか今の日本では高く評価されない

これらは、歴史研究から明々白々なのですが、なぜか日本では、高橋是清の業績が正しく理解されず、未だに不況になれば、緊縮財政をして、金融引締をすべきと思っている官僚や政治家が存在することには驚かされます。

挙げ句の果に、財務省では濱口雄幸氏を英雄視するのですから、さもありなんです。ほんらいであれば、恐慌の歴史研究の内容からすれば、濱口氏は、デフレを深刻化させた、無能宰相として、無能のそしりを受けるのが当然です。

財務省では英雄視させる総理大臣としては無能だった濱口雄幸氏

このような反省が真摯になされていないためか、今でも消費税増税等で、国民を「シバキ上げ」る政策は公然と継承されています。日本では、官僚も政治家も国民「シバキ上げ」が大好きです。

日本人はよほど「シバキ上げ」が大好きなようです。根性論で戦争を押し進め、国民を弱肉強食の戦地に送り込み、前代未聞の損害を与えた「軍官僚の暴走」の過去を反省したほうが良いと思います。

日本は「一億・総シバキ上げ社会」です。まず失われた30年。技術革新による人手余りで、徐々に労働環境が悪化しているのに、財務省は緊縮財政で国民をしばき。日銀はデフレを放置どころか金融引締で国民をしばき、企業は低賃金・長時間ブラック労働で労働者をシバキ倒しました。

仕事が減っているというのに、「所得の低下と失業は自己責任だー、社会(マクロ)に責任を転嫁するなー」と叩きまくる奴らが大量に発生して多くの国民をシバキ倒しました。特に若者に対するシバキは異常ともいえました。

新聞マスコミが総出で「消費税の増税と社会保障の削減をしろ」とシバキ倒し、労働者の政党であるはずの民主党(当時)が消費税の増税法案を強行して、止めを刺しました。

近頃、金融緩和でようやく人手不足になってきたと思ったら、人材派遣会社が賃金をピンはねでシバキ。新聞マスコミは人手不足だと大騒ぎするのですが、企業は消費税の増税が先に見えているから、安易に正社員を増やすより派遣を増やして様子を見るのは当然といえば当然です。

マスコミは、企業の過剰な留保を攻め立てましたが、実際にコロナ禍のようなことが起こってみれば、政府の保証などあてにならず、内部留保をしていた企業は余裕を持ってこれに対処できますが、そうでない企業は倒産し、従業員は露頭に迷うことになっています。

ただし、企業も、もしさらに不況になれば、派遣切りで、労働者を「シバキ倒す」気満々です。同一労働、同一賃金等の施策がとられたとしても、首を切られしまえば、元の木阿弥です。

マスコミ御用学者一体で、そんな茶番を繰り広げる一方で、政府は一億総活躍と称して、老若男女すべてを労働に刈り出すど根性政策にまい進しています。

そんなことより、普通の就労者が普通に仕事をしつつも、普通に生きていける、その中で少しでも努力すれば、その分報われるのが当たり前の社会にするのが本来のあり方のはずです。

まるで、今の政府、その中でもあたかも大きな政治集団のごとく振る舞う財務省は何としても働かなければ、国民に一円も与えないと思っているかのようです。女性が働かなくても子育てできる「所得保障社会」を実現するのではなく、女性を働かせるための政策を推進。女性を労働に駆り立てるために、新聞マスコミがイクメンなどとはやし立てる有様です。


すばらしき、一億・総「シバキ上げ」社会。日本では、何のために科学技術が進歩してるのでしょか、お答えください。

答えは、「シバキ拷問装置」を高度化するためとでもしておきます。

この「シバキ上げ」思想は完璧に間違っています。企業同士が、互いに「シバキ上げ」切磋琢磨して、次々とイノベーションを成し遂げ、社会を発展させていくというのならともかく、本来政府の役割は、企業同士が正々堂々と、不正な手段に訴えることなく互いに「シバキ上げ」競争するためのインフラを築くのが仕事のはずです。

しかし、いつの間にか日本では、政府や日銀が、国民や労働者を直接「シバキ倒す」のが仕事になってしまったようです。だからこそ、平成年間のほとんどの期間、日本はデフレでした。

令和年間はそのようなことにすべきではありません。コロナ禍は、多くの人命を失い大変なのですが、大きく社会を変える契機にもなり得るはずです。これを奇貨として、日本は「シバキ倒し社会」から「まともな社会」に移行できるようにすべきです。そのためには、直近では消費税減税は、必要不可欠です。

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2020年5月12日火曜日

コロナ禍に動く中国の“軍事謀略” 米中対立激化、台湾排除…国内で権力闘争も 河添恵子氏が緊急寄稿 ―【私の論評】尖閣問題は、単なる領土問題ではなく、コロナ後の世界新秩序における日本の地位を決める(゚д゚)!


米中貿易戦争

 新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)が続くなか、世界保健機関(WHO)の年次総会が18日、開催される。ドナルド・トランプ米政権は、世界全体で28万人以上もの死者(米ジョンズ・ホプキンズ大学、10日集計)が出ている「死のウイルス」をめぐり、習近平国家主席率いる中国とWHOの責任を厳しく追及する構えだ。加えて、日本と米国、欧州は「世界の人々の命と健康を守るため」にも、感染拡大を封じ込めた台湾(中華民国)のオブザーバー参加を支持するが、中国は強硬に反対している。激化する「米中の対立」と「中国の軍事的挑発」「中国国内の権力闘争」とは。ノンフィクション作家の河添恵子氏が緊急寄稿第13弾で迫った。


 「WHO総会や国連関係の会議に、台湾のオブザーバー参加を支援するよう、すべての国に訴える。WHOのテドロス・アダノム事務局長に対し、台湾を年次総会に招待するよう要請した」

 マイク・ポンペオ米国務長官は6日、記者会見でこう語った。

 台湾は「中華台北」の名義で、2009~16年にWHO総会に招かれたが、蔡英文総統が就任した翌年(17年)からは、中国の反対で参加できていない。寄付の申し出すら拒絶されている。

マイク・ポンペオ長官

 香港出身のマーガレット・チャン氏が事務局長時代の11年5月には、WHOが内部文書で台湾を「中国台湾省」と表記したため、台湾はWHOに正式抗議した(=AFPなどが報道)。

 新型コロナ禍のなか、WHO総会は18日、テレビ会議方式で開催される。ポンペオ氏は、この会議に「世界一の防疫先進国」である台湾の参加を支持するよう、世界各国に呼び掛けるとともに、「中国ベッタリ」と揶揄(やゆ)されるテドロス氏を牽制(けんせい)したのだ。

 これに対し、中国で台湾政策を担う国務院(政府)台湾事務弁公室の馬暁光報道官は7日、「最近、民進党と台湾独立を企てる分離主義勢力は、新型コロナウイルスの流行に便乗して、WHOの問題への台湾の関与を誇大宣伝し、『1つの中国』の原則に挑戦している」と反発した。

 だが、米国側は一歩も引かない。

 米国の上下両院外交委員会の幹部らは8日、日本を含む55カ国の政府に書簡を送った。書簡には、「われわれは貴国政府に対し、米国とその他の国のように、台湾を排除する中国の『国際組織外での行為』を終わらせるよう要請する」という一文が含まれていた。

 台湾外交部の欧江安報道官は9日、米国への深い謝意を示したが、「国際組織外での行為」とは、一体何を示すのか?

 最近では、欧州・チェコの有力政治家の身に起きた悲劇が、世界に報じられたばかりだ。

 台湾訪問を2月に予定していたヤロスラフ・クベラ上院議長が1月20日、心臓発作で急逝した。クベラ氏の未亡人と娘は、国営テレビの番組に出演し、「夫は中国政府に脅迫されていて、そのストレスが急死の引き金になった」と衝撃的な告白をした。

 クベラ氏急死と中国の関係については、ロイター(日本語版)も2月19日、「中国がチェコ企業への報復示唆、高官の台湾訪問巡り」とのタイトルで報じている。

 在チェコ中国大使館が1月10日付で、チェコ大統領府に送った書簡には、「中国に経済的利益を持つチェコ企業はクベラ議長の台湾訪問の代償を払わなければならなくなるだろう」と記されていたという。ロイターが書簡を確認したというが、公然とした脅迫というしかない。

 世界各国が、新型コロナウイルスのパンデミックで危機的状況にあるななか、中国人民解放軍は“戦闘モード”にあるといえる。

 同軍東部戦区は、国家安全教育日の4月15日、公式アカウント「人民前線」に、「幻想を捨て、戦闘を準備せよ」とのメッセージを掲載した。東部戦区の任務は「台湾有事」「日本有事」に備えることとされる。

 この直前の4月10日から11日にかけて、中国海軍の空母「遼寧」を中心とする艦隊が東シナ海を航行した後、沖縄本島と宮古島間を通過した。3月以降、中国軍のミサイル駆逐艦や早期警戒機などが、沖縄や台湾周辺で挑発的行動を見せている。空母「遼寧」の艦隊は4月28日、沖縄本島と宮古島間を通過して東シナ海に向かった。

 ■中国は“内戦外戦”状態

 習主席はこれまでも、「(台湾)統一のために、武力行使も放棄しない」と公言してきた。

 中国軍の不穏な動きを受けてか、米太平洋空軍は4月29日、台湾を含む19カ国の空軍参謀総長や指揮官とテレビ会談を行った。

 台湾の蔡総統は今年1月15日、英BBCのインタビューを受け、「中国の圧力」と「戦争リスク」について、次のように語っている。

 「戦争がいつ起きるか、その可能性は排除できない。だから臨戦態勢で有事に備えなければならない」「軍事的な準備に加え、より重要なことは国際的な支援を得る必要がある」「台湾政府としては、北京を挑発して事態を悪化させたり、北京に攻撃の口実をつくらせないよう、挑発しない態度を貫いている」

 新型コロナウイルスをめぐり、世界から「台湾は防疫模範国」と称賛されたことで、中国を刺激したとすれば、皮肉だ。

 ただ、習氏は共産党内部の“戦闘”にも明け暮れている。

 4月の孫力軍公安部副部長の逮捕に続き、3日には孟建柱元公安部長と、北京・上海の公安部幹部数十人の逮捕が報じられた。孫氏と孟氏は、習氏と対立する江沢民一派の超大物だった。

 中国は、内憂外患どころか“内戦外戦”状態とも言えそうだ。

 ■河添恵子(かわそえ・けいこ) ノンフィクション作家。1963年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学卒業後、86年より北京外国語学院、遼寧師範大学へ留学。著書・共著に『米中新冷戦の正体-脱中国で日本再生』(ワニブックス)、『世界はこれほど日本が好き』(祥伝社黄金文庫)、『覇権・監視国家-世界は「習近平中国」の崩壊を望んでいる』(ワック)など。

【私の論評】尖閣問題は、単なる領土問題ではなく、コロナ後の世界新秩序における日本の地位を決める(゚д゚)!

習近平は、なぜここまで、台湾に執着するのでしょうか。それには、それなりの理由があります。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米軍コロナ禍、その隙に台湾を恫喝する中国の卑劣さ―【私の論評】東アジアで失敗続きの中国は、今後軍事的挑発をエスカレートし、台湾武力奪取の可能性大(゚д゚)!
台湾海峡を通過中の米海軍イージス駆逐艦「バリー」(写真:米海軍)
以下に、この記事から一部を引用します。
中国としては、台湾が中国ウイルス封じ込めに失敗していれば、中国がイタリアなどのEU諸国に対して実施している、マスクや医療機器の提供や、医療チームの派遣などで微笑外交を台湾に対しても実行したことでしょう。 

これにより、中国は今年1月の台湾総統選での蔡英文氏の再選により、失った台湾での失地回復を行うことができたかもしれません。 
そうして、中国ウイルスが終息した後には、甚大な被害を受けた台湾に対して、莫大な経済的援助をすることになったと思います。 
そうなると、台湾独立派が台頭した台湾を馬英九政権時代のように、親中派を増やすことができたかもしれません。
考えてみると、中国は昨年11月には、香港区議会議員選挙で親中派が敗北しています。今年1月には、台湾選挙で蔡英文総統が再選されています。いわば連敗続きでした。 
中国ウイルスに関しては、韓国は当初は対策に失敗しましたが、最近では収束に向かっています。日本も、感染者が増えつつはありますが、それでも死者は相対的に少なく、中国や米国、EU諸国に比較すれば、中国ウイルス封じ込めには成功しています。 
香港の対応も素早いものでこれも封じ込めに成功しています。中国国内で武漢における感染発生がまだ隠され、警鐘を鳴らした医者が警察に処分されていた1月1日前後、一国二制度のおかげで報道の自由がある香港メディアは問題を大きく報道し、市民に注意を呼び掛けました。 
中国官僚のごまかしをよく知っている香港人が、2003 年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の教訓をしっかりと心に刻み、徹底的な対策をしたことも効果的でした。 
中国は、中国ウイルスで、台湾、香港、日本がかなり痛めつけられていれば、得意の微笑外交で、台湾、香港、日本に対して存在感を高めることができたかもしれません。 
しかし、台湾は世界的にみても、最高水準で中国ウイルスの封じ込めに独力で成功し、独立国としての意地をみせました。 
今の中国が、台湾統一のためにできることといえば、軍事的な脅威をみせつけて、存在感を強調することです。
 ・・・・・・・一部略・・・・・・・・・ 
本年2020年は、中国の二つの100年計画の一つ「小康社会の全面的実現」目標の期限である建党100周年の2021年より一年前であり、もしこの時点で台湾統一が実現できれば、習近平政権にとっては長期独裁を全党および人民に納得させるだけの効果を持つ歴史的偉業となるからです。

ウイルスの封じ込めと、台湾統一に成功すれば、これは、習近平が成し遂げた大偉業ということになります。今まで、際立った業績のが一切なかった習近平にとって大きな手柄となり、習近平体制が定着することになります。
この記事では、中国の台湾武力奪取について掲載しましたが、いきなり台湾ということになれば、国際社会はこれを絶対に許さないと思います。しかし、その前段階として、中国による 東シナ海実効支配というシナリオは十分にあり得るものになったと考えます。

東シナ海は、太平洋西部にある縁海であり、北は対馬海峡を通じ日本海と接し、東は南西諸島を挟んで太平洋(フィリピン海)に接します。南南西に台湾海峡を通じ、南シナ海と結ばれているほか、北西は黄海に接している。大規模河川として長江が流入しています。


海域の中央部には島嶼は無いですが、北辺から東を経て南辺にかけて周囲に島弧があります。主な島嶼として、北から済州島、九州、南西諸島、台湾となっています。ユーラシア大陸縁辺部には舟山群島などの小島嶼があります。

海底はほとんどがユーラシア大陸から続く大陸棚で、深度200mより浅いですが、東部は沖縄トラフであり深度約2,000mと深くなっています。海流としては黒潮およびその分流の対馬海流が流れています。

日本と中国の間では尖閣諸島問題のほか東シナ海ガス田問題に絡んで経済水域の設定に争いがあります。また、韓国と中国の間でも蘇岩礁にからみ争いがあります。

この地域の海域のほとんどを中国は実効支配した後に、尖閣諸島や台湾付近の海域を徐々に封鎖するなどの実効支配し、最終的には両方とも奪取するつもりであるとみておくべきでしょう。

東シナ海も日本のニュースでは殆ど報じられなくなってしまいましたが、中国は着実に東シナ海を狙っています。ここでの接続水域への中国公船の侵入が頻繁になっています。侵入という言い方は接続水域への場合はちょっと微妙ですが。

それから領海内への侵入、これも向こうからの言い方で敢えて言うと着実に繰り返し、頻度を少しずつ上げ、かつ船の数を増やして来ています。この問題を私たちは、南シナ海から東シナ海に連なる中国の海洋進出として厳しく捉え直すべきです。

尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海に侵入した中国海警局の船が日本漁船を追尾した問題で、中国外務省の趙立堅報道官は11日、海上保安庁の巡視船が現場で漁船の安全を確保したことについて「違法な妨害を行った」と非難し、「日本は釣魚島(尖閣諸島の中国側名称)の問題において新たな騒ぎを起こさないよう希望する」と述べて責任を日本側に転嫁しました。

中国外務省の趙立堅報道官

趙氏は、外交ルートを通じて日本側に「厳正な申し入れ」を行ったことを明らかにした上で「中日両国は力を集中して(新型コロナウイルスの)感染症と戦うべきだ」と発言しました。

趙氏は「中国の領海で違法操業」している日本漁船を発見した中国海警局の船が「法に基づいて追尾・監視」したと主張。「釣魚島の海域を巡航することは中国側の固有の権利だ」と強調しました。

これについて菅官房長官は閣議のあとの記者会見で「全く受け入れることはできない」としたうえで、「現場海域で警告を繰り返し行うとともに、外交ルートでも厳重に抗議し、日本漁船への接近と追尾を直ちにやめて、速やかにわが国の領海から退去するよう強く求めるなど、冷静にきぜんと対応した」と述べました。

そして「政府としては、わが国の領土、領海、領空は、断固として守り抜く方針のもとで、引き続き緊張感を持って情報収集に努めつつ、尖閣諸島周辺の警戒監視に万全を期していきたい」と強調しました。

衛藤沖縄・北方担当大臣は、閣議のあとの記者会見で「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も明らかにわが国固有の領土であり、国内外でわが国の立場に正確な理解が浸透するよう発信強化に努めたい。中国の態度は大変遺憾であり、日本ももっとはっきりと対処を行わなければならない時がきていると認識している」と述べました。

南シナ海においては、中国は新型コロナウイルスの混乱に乗じて軍事要塞化の動きを加速しており、米軍はこれを牽制するため「航行の自由作戦(度を超した海洋権益を主張していると判断した国の海域を対象に米軍の艦船等を派遣する作戦)」を展開しています。さらに米軍は中国側の神経を逆なでするかのように台湾との軍事面の連携を強化しており、一触触発の状態にあると言っても過言ではありません。

米国は、新型コロナウイルスによるパンデミックを通じて、中国に対する政策を根本的に変えざるを得ないと確信したのは間違いないところです。

トランプ大統領の中国攻撃は、日々エスカレートしています。また、マーク・エスパー国防長官は、コロナ危機発生後の2020年2月の下院軍事委員会公聴会で、「米国にとって中国こそが軍事面、防衛面で最大の挑戦者として対峙する相手だ」と断言しました。

そのエスパー国防長官の下で現在、中国を睨んだ米軍の再編・態勢見直しが急ピッチで進められています。

その内容はまだ公表されていないが、エルブリッジ・コルビー元米国防次官補代理とA・ウェス・ミッチェル元米国務次官補は共同で、ウォールストリート・ジャーナル(2020年5月8日付)に「中国封じ込めに向けた困難な道」のタイトルで、その方向性を示唆する次のような記事を寄稿しています。
 ロシアの脅威には、欧州の同盟国、すなわち北大西洋条約機構(NATO)が自らの防衛をいま以上に自分たちの力で担う形で安全を確保させ、中東では、「より軽く、より小さく、より低コストの米軍事プレゼンスを特徴とするような経済的戦力を保持する戦略」へと移行する。そのうえで、インド太平洋地域において、より強力な米軍事力を展開し中国を抑止する。(要約)
すなわち、パンデミック後の米国の大戦略は、中国がもたらす脅威の中心部分への対応を優先するべきとし、そのため、他の地域では関与の度合いを弱めたり、デタント(緊張緩和)の機会を求めて調整したりする必要があることを意味しています。

そして、米戦略の焦点であるインド太平洋地域では、日本、オーストラリア、台湾、インド、ベトナムのような国々が持っている対中防衛能力を基盤とした国防戦略(2018NDS)で説明されているような信頼できる前方防衛が必要であり、米国とその同盟国は、中国と対峙せずして自国の利益を守ることはできないと強調しています。

いうなれば、「中国封じ込め」です。

欧米諸国は、中国を封じ込めるためにはいま代償を払うか、それとも後から払わされるかのどちらかしかないことを認識せねばならないと問いかけ、いま代償を払うなら、より負担が軽く済む可能性が高いと指摘しています。

同時に米国は、自国の重要な産業、人工知能(AI)や国防の供給網に蓄積された脆弱性に対処することで、経済面で中国に依存する度合いを減らさなくてはならないとし、経済的切り離しの強化を求めています。

また、中国が国際ルールの適用を回避する形で、自国市場参入の条件を他国に押しつけることを可能にしてきたことに対し、歴史的な対抗勢力連合を再形成し、中国の強大な力を制御、抑制する必要性を指摘しています。

今後の最大のテーマは、対中安全保障です。。

コロナ危機以降、米中関係の悪化は決定的となり、米国は中国を主敵としたインド太平洋重視戦略に大きく舵を切ります。

この際、米国とその同盟国は、中国と対峙せずして自国の安全や利益を守ることはできないのであり、わが国は、中国との経済関係が深いことを理由に、米国と中国の間を渡り歩くコウモリ的振る舞いや鵺(ぬえ)的態度は許されません。

日本には、米国との同盟を堅持する一貫性した姿勢が求められ、その難しい課題を克服する努力を始めなければならない。

日本としては、この米国の動きに歩調を合わせるしかありません。中国と運命共同体になることはできません。選択の余地などありません。習近平の日本への国賓待遇での招待など、早々に反故にすべきです。

また、憲法改正と法律の改正も行い、尖閣水域から中国の艦艇を海自を使って排除できるうにすべきです。コロナ危機を単なる伝染病の流行などとみるべきではありません。中国や米国の動きをみていれば、これは過去の世界大戦と同レベルで、コロナ後の世界秩序を変えていくのは間違いありません。

中国は、中国独自のコロナ後世界秩序をつくるべく、躍起になっています。米国も、そうさせじと、コロナ後の世界秩序をつくるべく躍起になっています。日本もそのことを忘れるべきではありません。

忘れてしまえば、今回の新たなコロナ後の世界秩序の作成に乗り遅れ、第二次世界大戦後の世界秩序づくりに参加できず、第二次世界大戦後から今日までのように、独立国でありながら、独立国でないような地位に甘んずることになりかねません。

今や尖閣は、単なる領土問題ではなく、今後のコロナ後の世界の新秩序に向けての、日本にとっての大きな分水嶺の一つになるのです。尖閣一つ自力で解決できないようでは、世界の新秩序における地位は低下するだけです。米国も、これを日本の試金石とみているでしょう。

逆に、日本が尖閣問題を自力で解決できるようになれば、コロナ後の世界で米国とともに、リーダー的な地位を獲得することも可能になります。そのほうが、米国にとっても世界の新たな秩序を安定維持しやすくなります。

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