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2020年5月13日水曜日

「昭和恐慌」に学ぶコロナ対策 金融緩和と積極財政が有効、リーマンの失敗繰り返すな! ―【私の論評】コロナ禍を奇貨として、日本は「シバキ倒し」社会から「まともな社会」に移行すべき(゚д゚)!

スペイン風蔓延時にマスクをする当時の女子学生たち

 いまから約100年前、スペイン風邪や関東大震災、昭和恐慌に見舞われた日本はどのように抜け出したのか。今回のコロナ・ショックからの脱出を目指すうえでどのような点を参考にすべきだろうのか。

 昭和恐慌は、1930年から31年にかけて起こった戦前日本の最も深刻な恐慌で、第一次世界大戦による戦時バブルの崩壊を契機としている。20年代、世界の主要国は金本位制へ復帰していたが、今ではその結果として20年代末期から世界大恐慌が起こったと分析されている。

 このような状況下、29年7月に成立した立憲民政党の濱口雄幸内閣は、金解禁・緊縮財政と軍縮促進を掲げた。このマクロ経済政策を今の言葉で言えば、金融引き締め政策と緊縮財政政策だ。濱口雄幸内閣の事情は、城山三郎著『男子の本懐』に書かれているので、ご存じの方も多いだろう。

 この本では、濱口首相は東京駅で銃撃され、非業の死を遂げた英雄として描かれている。その大前提として、立派な経済政策を遂行したとの評価があり、その信念を男の美学として「男子の本懐」としている。

 筆者は40年前、当時の大蔵省に入省したが、新人研修でこの本の感想文を書かされた。筆者以外の同僚は、信念に基づき命をかけてまで打ち込むことは素晴らしいというものだった。

 しかし筆者は、金解禁つまり金本位制への復帰をなぜ行ったのかが理解できなかった。そのため、正しいかどうかわからない政策に命をかけるのはいかがなものかという感想文を書いた。当時、金本位制に復帰することは金融引き締めであり、緊縮財政とセットで国民を「シバキ上げ」る政策は、失業を増加させマクロ経済運営で問題だったはずだからだ。

 これがユニークな感想だったため、筆者は同僚の前で大蔵省の先輩教官に面罵された。この教官はその後、事務次官になった。さすが緊縮策の権化の財務省ならでの人事だ。

 史実としては、この金融引き締めと緊縮財政政策は政変によって終わった。31年12月、立憲政友会の犬養毅内閣となったが、高橋是清蔵相はただちに金輸出を再禁止し金本位制から離脱、積極財政に転じた。積極財政では日銀引受を伴い、同時に金融緩和も実施され、民政党政権が行ってきたデフレ政策を180度転換した「リフレ」政策となった。その結果、先進国の中でも、恐慌から比較的早く脱出した。

 昭和恐慌は、世界恐慌とともに需要ショックによって引き起こされた。それは、日銀引受を伴う金融緩和と積極財政が最も有効な処方箋だ。

 コロナ・ショックも、世界的なサプライチェーンの寸断という供給ショックもあるが、人の移動制限の伴うビジネス停止により一気に需要が喪失する需要ショックの面が強く、昭和恐慌と同様の経済対策が必要だ。

 今回のコロナ・ショックは12年前のリーマン・ショックを上回るかもしれない。当時は金融緩和と積極財政が不十分だったが、今度こそ昭和恐慌を模範例とすべきだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】コロナ禍を奇貨として、日本は「シバキ倒し社会」から「まともな社会」に移行すべき(゚д゚)!

世界恐慌、日本では昭和恐慌がなぜ起こったのかは、謎でした。しかし、1990年代の研究によって今では明らかになっています。その答えとは、デフレです。米国をはじめ、世界中の政府が財政政策では緊縮政策、金融政策では引き締め政策をとったため、デフレに陥ったというのが、真相でした。

日本では、高橋是清による積極財政政策、金融緩和政策により、世界で一番はやく、教皇から脱出しました。米国が恐慌から完全に脱却できたのは、第二次世界大戦に入ってからしばらくしてからでした。

大蔵大臣として有能だった高橋是清だが、なぜか今の日本では高く評価されない

これらは、歴史研究から明々白々なのですが、なぜか日本では、高橋是清の業績が正しく理解されず、未だに不況になれば、緊縮財政をして、金融引締をすべきと思っている官僚や政治家が存在することには驚かされます。

挙げ句の果に、財務省では濱口雄幸氏を英雄視するのですから、さもありなんです。ほんらいであれば、恐慌の歴史研究の内容からすれば、濱口氏は、デフレを深刻化させた、無能宰相として、無能のそしりを受けるのが当然です。

財務省では英雄視させる総理大臣としては無能だった濱口雄幸氏

このような反省が真摯になされていないためか、今でも消費税増税等で、国民を「シバキ上げ」る政策は公然と継承されています。日本では、官僚も政治家も国民「シバキ上げ」が大好きです。

日本人はよほど「シバキ上げ」が大好きなようです。根性論で戦争を押し進め、国民を弱肉強食の戦地に送り込み、前代未聞の損害を与えた「軍官僚の暴走」の過去を反省したほうが良いと思います。

日本は「一億・総シバキ上げ社会」です。まず失われた30年。技術革新による人手余りで、徐々に労働環境が悪化しているのに、財務省は緊縮財政で国民をしばき。日銀はデフレを放置どころか金融引締で国民をしばき、企業は低賃金・長時間ブラック労働で労働者をシバキ倒しました。

仕事が減っているというのに、「所得の低下と失業は自己責任だー、社会(マクロ)に責任を転嫁するなー」と叩きまくる奴らが大量に発生して多くの国民をシバキ倒しました。特に若者に対するシバキは異常ともいえました。

新聞マスコミが総出で「消費税の増税と社会保障の削減をしろ」とシバキ倒し、労働者の政党であるはずの民主党(当時)が消費税の増税法案を強行して、止めを刺しました。

近頃、金融緩和でようやく人手不足になってきたと思ったら、人材派遣会社が賃金をピンはねでシバキ。新聞マスコミは人手不足だと大騒ぎするのですが、企業は消費税の増税が先に見えているから、安易に正社員を増やすより派遣を増やして様子を見るのは当然といえば当然です。

マスコミは、企業の過剰な留保を攻め立てましたが、実際にコロナ禍のようなことが起こってみれば、政府の保証などあてにならず、内部留保をしていた企業は余裕を持ってこれに対処できますが、そうでない企業は倒産し、従業員は露頭に迷うことになっています。

ただし、企業も、もしさらに不況になれば、派遣切りで、労働者を「シバキ倒す」気満々です。同一労働、同一賃金等の施策がとられたとしても、首を切られしまえば、元の木阿弥です。

マスコミ御用学者一体で、そんな茶番を繰り広げる一方で、政府は一億総活躍と称して、老若男女すべてを労働に刈り出すど根性政策にまい進しています。

そんなことより、普通の就労者が普通に仕事をしつつも、普通に生きていける、その中で少しでも努力すれば、その分報われるのが当たり前の社会にするのが本来のあり方のはずです。

まるで、今の政府、その中でもあたかも大きな政治集団のごとく振る舞う財務省は何としても働かなければ、国民に一円も与えないと思っているかのようです。女性が働かなくても子育てできる「所得保障社会」を実現するのではなく、女性を働かせるための政策を推進。女性を労働に駆り立てるために、新聞マスコミがイクメンなどとはやし立てる有様です。


すばらしき、一億・総「シバキ上げ」社会。日本では、何のために科学技術が進歩してるのでしょか、お答えください。

答えは、「シバキ拷問装置」を高度化するためとでもしておきます。

この「シバキ上げ」思想は完璧に間違っています。企業同士が、互いに「シバキ上げ」切磋琢磨して、次々とイノベーションを成し遂げ、社会を発展させていくというのならともかく、本来政府の役割は、企業同士が正々堂々と、不正な手段に訴えることなく互いに「シバキ上げ」競争するためのインフラを築くのが仕事のはずです。

しかし、いつの間にか日本では、政府や日銀が、国民や労働者を直接「シバキ倒す」のが仕事になってしまったようです。だからこそ、平成年間のほとんどの期間、日本はデフレでした。

令和年間はそのようなことにすべきではありません。コロナ禍は、多くの人命を失い大変なのですが、大きく社会を変える契機にもなり得るはずです。これを奇貨として、日本は「シバキ倒し社会」から「まともな社会」に移行できるようにすべきです。そのためには、直近では消費税減税は、必要不可欠です。

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2020年5月10日日曜日

中国はWHOにコロナウイルス隠蔽の協力を求めた、と独情報機関が結論―【私の論評】コロナ禍を奇貨に日本は、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直せ(゚д゚)!

中国はWHOにコロナウイルス隠蔽の協力を求めた、と独情報機関が結論

<引用元:デイリー・コーラー 2020.5.9

中国の習近平主席は自ら、コロナウイルス発生に関する重大情報の公開を遅らせるようWHOに求めた、とドイツ情報機関は結論付けた。

独シュピーゲル誌によると、習はWHOのテドロス事務局長と1月21日に面談し、ヒト・ヒト感染に関する情報を伏せ、世界的パンデミックの宣言を遅らせるよう求めた。中国はパンデミックに経済的な責任を負うべき、という意見が高まる中でのニュースだ。

1月21日に面談したWHOのテドロス事務局長(左)と、習近平

「BND(ドイツ連邦情報局)が下した裁決は厳しいものだ。ウイルスとの戦いにおける北京の情報政策において、6週間とまではいかなくても少なくとも4週間が失われたとしている」とシュピーゲルは報じた。

独情報機関による進展は、同様に中国のコロナウイルス対応を調査する米国政治家の注目を集めた。

「我々はまだこの報道の確認作業中だ。だがもし事実であると分かれば、テドロス事務局長が中国共産党の隠蔽で彼らと共謀したことを示す一層の証拠となり、WHOのトップには不適格ということになる」と、テキサス州の共和党下院議員で、下院中国タスクフォース委員長を務めるマイケル・マコールは本紙に語った。

BNDは連邦情報局を意味するドイツ語の頭文字だ。3月初めに発表されたある研究によると、4週間から6週間の追加準備期間があれば、世界的なパンデミックを完全に回避できた可能性がある。サウサンプトン大学の研究者は、中国がわずか3週間だけ早く行動を起こして情報を公表していれば、感染拡大を95パーセントは縮小できていたことを発見した。

米情報機関は同様に、中国が武漢や他の場所でのコロナウイルス発生において感染者数と死者数の両方を改ざんしたという結論を3月中旬までに出した。

中国政府の公式集計では、武漢での死者数をおよそ3,500人としているが、本当の数字は4万人であることを示す証拠がある

ドナルド・トランプ大統領の政権は、中国のパンデミック対応を痛烈に批判しており、「認識しながら」コロナウイルス拡大の一因となっていたことが分れば、処罰を受けるべきだとしている。

ホワイトハウスは本紙からのコメントの要求に直ちに回答しなかった。

【私の論評】コロナ禍を奇貨に日本は、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直せ(゚д゚)!

1月21日の習近平とテドロスの面談については、当初から「習近平がコロナウイルス発生に関する重大情報の公開を遅らせるようWHOに求めた」のではないかという疑惑がありました。

今回は、BNDが実際そうであったと、結論付けたわけです。今後もこのような調査は、米国をはじめあらゆる世界の国々の情報機関が調査を継続し、同じような結論達すると考えられます。

そうなるとどうなるかといえば、WHOのような国際機関を中国が意のままに動かせることが明らかになったのですから、世界はグローバリズム一辺倒というか、グローバリズム=善という単純な考えは、間違いであり、ナショナリズム的な考え方が、強くなっていくことが予想できます。

「ナショナリズム」というものを定義することは、われわれの想像以上になかなか難しいことのようです。アーネスト・ゲルナーはナショナリズムを「実際のところ近代世界でしか優勢とならない特定の社会条件の下でのみ普及し支配的となる愛国主義」と述べています(『民族とナショナリズム』岩波書店)。エリ・ケドゥーリーは「ナショナリズムは19世紀初頭にヨーロッパで作り出された教義である」と述べました(『ナショナリズム』学文社)。

ナショナリズムとは何かということについては、「自分たち国民、民族を重視する考え」ということの他は、多くの議論があり、なかなかその本質をつかまえることはできないようです。

ナショナリズムは、自給自足が基本の農耕社会から、現代のような産業社会へと移行するうえで必然的に産まれたもの、と考えているのがゲルナーという人です。産業社会の進展は市場を広げ、閉鎖的な「むら」からできていた「くに」を、国民による1つの「国民国家」に変えていきました。

国家の産業を発展させるためには、文化、特に言語の統一が必要です。話し言葉がばらばらでは効率性はあがりませんからね。なかにはイギリスのようにわりと自然に統一されていった国もありましたが、日本のように「富国強兵」「殖産産業」をスローガンに、国家をあげて中央集権的な教育を行い、文化・言語の統一を行っていった国も少なくありませんでした。

こういうなかでナショナリズムが育まれていったというのがゲルナーの基本的な考えです。実際、ナショナリズムによって国民の団結、教育の発達が生まれ、産業化が進んだ例は、日本をはじめ多くの国であることでした。

『五箇条の御誓文』(明治元年3月14日に明治天皇が天地神明に誓約する形式で、公卿や諸侯などに
 示した明治政府の基本方針には、天皇を中心とする国民国家を目指すことが示されている

50年間で2度の世界大戦を経験した欧米諸国を中心に、現代世界の軸足はナショナリズムから、脱ナショナリズム、すなわち「トランス・ナショナリズム」へと移行しつつあるといわれました。

その象徴がEU(欧州連合)です。13の国で共通の通貨・ユーロが流通していますが、近代国家にとって通貨はネーションを象徴するものの1つだったはずです。そういった意味でEUはネーションを越えたトランス・ナショナリズム、あるいは「スープラ・ナショナリズム(超国家主義)」を体現しています。
しかし、この状況は変わりつつありました。イギリスのEU脱退や、米国でトランプ氏による「米国第一主義」の標榜などでした。そうして、現状では、コロナ感染がさらに、ナショナリズムに拍車をかけつつあります。

ここで、最近の興味深い記事を掲載させていただきます。その記事では、米国の戦略家、ルトワック氏が、新型コロナはいわば「真実を暴くウイルス」であり、EUが機能しないこと、イタリアの無秩序ぶり、中国は虚言の国であることも暴き白日の下にさらしたとしています。

ルトワック氏は、コロナ危機が「世界の真実」を暴いたとし、国際秩序は多国間枠組みの機能不全を受け、「国民国家の責任」が増す時代に回帰すると予言しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

エドワード・ルトワック

【コロナ 知は語る】多国間協調が機能不全 国民国家の責任増す-エドワード・ルトワック氏 - 産経ニュース

2020.5.9
 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は第二次世界大戦以来の危機と形容される。世界はどこへ向かうのか。戦略論研究の世界的権威として知られる米歴史学者のエドワード・ルトワック氏は危機が「世界の真実」を暴いたとし、国際秩序は多国間枠組みの機能不全を受け、「国民国家の責任」が増す時代に回帰すると予言した。 
 --新型コロナが世界に与えた地政学上の影響は 
 「第一は、欧州における(政治的な流れの)断絶だ。欧州連合(EU)は欧州諸国間の戦争を予防するために設立されたが、EUが直面した初の戦争並みの不慮の事態である新型コロナへの対応に失敗した。共有された医療情報や共通の医療戦略は存在せず、被害の少ない国が被害の多い国を助けるなどの相互支援もあまりなかった」 
 「EUの連携した外交政策も皆無だった。例えばイタリアは中国からの支援を喜んで受け入れた。他方、ドイツやスウェーデン、オランダなど他の欧州諸国は中国の支援を拒絶した。融合を目指したEUは役割を見失った。今後は英国に続き、多くの加盟国が静かに脱退していくはずだ」 
 「米中関係は悪化の一途をたどり続けるという意味で一貫している。わずか十数年前、米国は『パンダ・ハガー』(媚中派)に席巻されていた。違っていたのは国防総省だけだ。風潮は変わりつつあるが、新型コロナが人々の対中意識の変化を加速させるだろう。誰もがウイルスが中国由来であり、中国当局が対応を誤ったことを知っているからだ」 
 --米中による「大国間競争」はどうなる 
 「トランプ米政権に有利に働くだろう。これは、米国の(自由民主主義的な)政治制度と中国を統治する(共産党独裁)体制とのせめぎ合いだが、中国の同盟国はパキスタンとイランの2カ国だけ。イタリアも中国に征服された。イタリアは歴史上、間違った側について、後から態度を変えることで有名だ」
 「一方、他の国々は中国に背を向け、米国に付いている。ラーブ英外相が4月16日、『対中関係を全面的に見直すべきだ』と語っているのが良い例だ。中国の習近平国家主席は、ウイルスなど全ての事態への対処には独裁制が適していると主張して強権手法を正当化する。さらには世界を率いる指導者になる用意があるとの立場を示すが、世界各地で拒絶されている」 
 --製造業のサプライチェーン(調達・供給網)への影響は 
 「日本政府は企業が中国の拠点を国内に回帰させるか、第三国に移転させるのを後押しする費用として総額2435憶円を緊急経済対策に盛り込んだ。他国の企業も、自国政府の支援の有無とは無関係に、中国との縁を完全に切りたい思惑から脱出を進めている。中国の実業界も同様だ。彼らは資産をニューヨークに移そうと血眼になっている」 
 --国際機関や多国間枠組みの役割はどうなる 
 新型コロナはいわば「真実を暴くウイルス」だ。EUが機能しないことを暴き、多数の死者を出したイタリアの無秩序ぶりを暴いた。中国は虚言の国であることも白日の下にさらした。日本については『日本は中国とは違うから安全』といった意識が間違っていたことを思い知らせた」 
 「新型コロナ危機を受けて起きているのは、グローバル化の揺り戻しとしての『脱グローバル化』だ。グローバル化は国際機関の台頭と連動してきた。EUや世界保健機関(WHO)などの機能不全が明白となったことで、世界はグローバル化や多国間枠組みから後退し、国民国家が責任をもって自国民を守る方向に回帰するだろう」 
<中略>

 「グローバル化が独裁制と親和性が高いのは、国際機関が非民主的だからでもある。EUとは選挙で選ばれた各国政府の権限を欧州委員会に移管するものだ。欧州中央銀行(ECB)の運営も非民主的だ。欧州諸国の民主体制が弱体化したのも、各国の権力が(EUという)非民主的な体制に移されたせいだ。グローバル化が民主主義に何ら寄与しなかった以上、脱グローバル化によって民主主義が損なわれることはない」(聞き手 ワシントン=黒瀬悦成)
中国の習近平国家主席は、ウイルスなど全ての事態への対処には独裁制が適していると主張して強権手法を正当化しました。さらには世界を率いる指導者になる用意があるとの立場を示したのですが、世界各地で拒絶されています。

日本でもマスクや医療用品、自動車部品、トイレなどの住宅建築用品などの中国への依存度の高さが露呈し、安全への危惧が高まり、脱中国・チャイナプラスワン、国内回帰が検討され始め政府の支援策も出されています。

いずれにせよ、これらの動きは、脱グローバル化、ナショナリズムへの回帰への前兆です。国民国家の安全保障は、国家存亡に関わる産業を支えるための最低限の製造供給能力を推し量って非常時への備えをすることから始まります。

ところが、日本では多くの財務官僚等のエリートや企業経営者の頭の中身が、この未曾有の惨禍でも未だに平時の思考のままです。コロナ禍で判ったことは、真の非常時には自国のみで生き抜いていくリソースと能力=技術力を平時から備える計画立案であることです。

産業界においては欧米風の「MBA」を崇めてその言説に囚われ、日経ビジネス電子版の「逆・タイムマシン経営論」で指摘されているような「トラップ」が我国の優位性をことごとく踏み潰してきました。

米国MBA卒のエリートらが80年代から盛んに主張し、必ず推奨したアウトソーシング戦略は、多くの大企業経営者が無思考的に採用してしまいました。エンロン問題で破綻したアーサー・アンダーセン(AA)は、自社生産は止めて外注への転換一点張りでした。自社の内製技術ノウハウ、サプライチェーン保全など、無視されました。

AAのにとっては、商品は中身の優劣ではなくマーケティングでしかありませんでした。BCP(事業継続計画=Business Continuity Plan)は生産を複数・多国にして凌げば良いという論理でした。

今回のコロナ禍で中国が露骨に示した西側諸国に対する「潰し戦略」はかなり前から行われていました。その一例としてマグネシウム産業をあげます。

マグネシウムは精錬に高度な技術を要するのですが軽量かつ他の金属の改質に重要な元素なので、航空宇宙を始めとした国防先端産業用部品から日常生活にわたり重要です。

日本マグネシウム協会(2017)まとめでは、マグネシウムインゴット生産の85%が中国、以下、米国6%、ロシア5%、イスラエル2%です。



1980年以前は日本を含めた西側諸国とソ連で生産されていたのですが、中国はコピペ工場で市場価格より30%安い価格、実質ダンピングで市場供給を開始しました。

当然、西側諸国メーカーは赤字になり淘汰されました。米露イスラエルは市場価格に見合わないにもかかわらず、国防上の理由から各1社ずつ保有しています。

我国ではマグネシウム合金を大量に製造しているのですが、インゴット95%と大量の合金を中国から輸入しています。この輸入品が無いと自動車も作れません。

更に、肥料に添加するマグネシウム塩類、食品加工用(例えばニガリ)、薬品、難燃剤など、マグネシウムは生活の隅々まで入り込んでいる元素です。

つまり、中国と対峙しようとすると、武器弾薬から豆腐カニカマに至るまで製造できなくなるのです。「マスクが足らない」どころの騒ぎでは済まないのです。戦う前から負けなのです。

コロナ禍以前から鳩山元総理大臣の様に中国と東アジア経済共同体を目指す人々が多数います。友好善隣は絶え間ない努力が必要であることは自明です。

しかし、首に縄をかけられた状態で対等の外交などありえないです。だから、彼らは矛盾しています。中国共産党との友好的関係を保ちたいなら、まず、国家の安全保障の足枷となる材料と技術のサプライチェーンの再構築を検討すべきなのです。

日経新聞を始めとする経済関係論議ではコロナ禍後の世界経済について種々意見が喧しくなってきました。多くは株価を議論しますが、平時の感覚でコロナ禍以前の世界秩序に戻ることを考えているようです。

しかし、株価ではなく本当の国家の足腰強さは重要物資を自前で供給できることに依存します。コロナ禍後に向けて小手先のBCP(事業継続計画)を体裁よく作るのではなく、前例踏襲を止めて、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直すことが必要です。

以上はマグネシュウム産業についてですが、日本は自力でできるものまで、価格が安い等の理由だけで、中国に安易に依存している産業が他にも多くあります。これらについては、自国で生産するのか、あるいは信頼できる同盟国から輸入するかを検討すべきです。

現在の世界は、ナショナリズムが強まっていますが、一度グローバリズムの良さを知った世界は、完璧にナショナリズムにもどる ことはないと思います。同じルールで貿易ができる国々同士では、これからも自由貿易を続けていくでしょう。

ただし、先進国は従来のように安易にルールを守れそうもない体制の国々まで、同じルールで貿易をしようとする従来のグローバリズムに戻ることはないでしょう。

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