2022年6月15日水曜日

習近平政権のほころびが見える中国経済の損傷―【私の論評】李克強の台頭により、権力闘争の駆け引きは一段と苛烈に(゚д゚)!

習近平政権のほころびが見える中国経済の損傷

岡崎研究所

 エコノミスト誌5月24日号は「習近平はどのように中国経済を損傷しているか、柔軟性を欠く政策が実用主義を圧倒している」との社説を掲げ、習近平の政策を批判している(‘How Xi Jinping is damaging China’s economy’)。


 社説の主な観察点は次の通りである。

(1)毛沢東の死後、中国共産党は国家統制と市場改革を混合した現実的なアプローチをとってきたが、いま中国経済は危険な状況にある。

(2)直近の問題はゼロコロナ政策だ。2億人以上が制限下の生活を強いられ、経済はふらついている。小売り、工業生産、輸出量、いずれも減った。

(3)習近平の一連の経済政策の背後には、党が指導すべしというイデオロギー上の熱意がある。罰金、新しい規制、粛清の嵐は、国内総生産(GDP)の8%を占める活力あるテク産業を停滞させた。GDPの20%を占める不動産セクターの取り締まりで、住宅販売は4月前年比47%も落ちた。

(4)この40年間で初めて、成長に不可欠な民間セクターの自由化改革が行われていない。

(5)多くの企業がサプライチェーンを中国から遠ざけるようになっている。中国の企業が2030年代にはいくつかの産業を支配するかもしれないが、西側は中国産品輸入により用心深くなっている可能性がある。

 この社説は、今の中国の状況を経済面から批判的に描写したものであるが、かなり的を射ていると考えられる。中国経済の今年の成長目標は5.5%前後とされているが、この達成は難しいのではないかと思われる。

 政府の大規模な公共投資で成長率を底上げする可能性はあるが、ゼロコロナ政策、それにともなうロックダウン、それに習近平の民間部門への締め付けと、経済の党による指導強調などは非効率な政府部門の肥大化につながるように思われる。

 そのうえ、社説では触れられていないが、高齢化と少子化の人口構成の変化が与える影響も考えなければならない。

ワンマン支配の禍根を残す可能性

 習近平のワンマン支配の欠点が目立ってきている。鄧小平が集団指導体制を重視し、最高指導者の任期制を導入したのを習近平はひっくり返しているが、将来に大きな禍根を残すように思われる。

 ロシア共産党の歴史を見ると、共産党というものは独裁になる傾向が強い。トロツキーがスターリン体制を批判して、「プロレタリアート独裁のプロレタリアートは前衛である共産党にとって代わられ、共産党はその中央委員会にとって代わられ、中央委員会は書記局にとって代わられ、書記局は書記長にとって代わられる」と述べたが、これはなかなかの卓見であったし、事実そうなった。

 鄧小平が個人崇拝を排し集団指導を言ったのは、共産党のそういう傾向を踏まえた優れた見解であったと思うが、習近平はこの鄧小平の考えを否定してきている。残念なことであると同時に、習近平の中国には適切なブレーキがないことを踏まえ、相当な注意をもって対峙していく事が必要であると思われる。

【私の論評】李克強の台頭により、権力闘争の駆け引きは一段と苛烈に(゚д゚)!

中国では上記のような不安があるからこそ、李克強氏の台頭が取りざたされているのでしょうし。

ゼロコロナかウイズコロナか、それが政治問題となっている中、李克強首相の言動が国内外を騒然とさせました。5月18日、李克強は雲南大学を視察し、多くの人に囲まれたにも関わらず、マスクをつけていなかったのです。

人だかりで密集した中で彼は笑顔で人々と話を交わし、コロナウイルスを気にする様子を全く見せなかったのです。習近平が唱えたゼロコロナの方針に明らかに反する彼の行動は、「やっと習近平に反旗を翻したか」と内外に騒ぎを巻き起こしました。

李克強のマスクなしでの視察姿の映像は、まず雲南大学の微博(中国最大のSNS)で公表されました。たちまち話題を呼び、ツイッターなどでも多くの人々に転送されました。海外の一部中国語メディアはお祭り騒ぎのように取り上げ、李克強による習近平の独裁への「反旗」に期待を込めた論評も見られました。

李克強のマスクなしでの視察姿の映像

(雲南大学での李首相の動画リンク先はhttps://weibo.com/u/2241191945?refer_flag=1005050010_&layerid=4770471331236416

海外での盛り上がりとは異なり、中国の政府系メディアの報道は興味深いです。5月19日の『新華網』に李克強が雲南で経済安定と雇用確保に関する会議を主宰したとの報道はあったのですが、動画も写真もありませんでした。『人民網』と『人民日報』も同様でした。

17日から19日までの李克強の雲南視察についての総合的な報道は、20日になりやっと『人民網』などが掲載するようになりました。その多くも写真もなく文字だけの記事でした。

以上のことで「李克強は異例な行動で態度を表明した」と『ラジオフリーアジア(RFA)』は報じ、彼の視察先でマスクをつける人がなく、ゼロコロナを政治任務とする中国で実に異例だと強調しました。李克強の最近の視察などで本人はもとより同行者もマスクをつけていなかったと指摘しました。

『ラジオフランス』(中国語版)も、これまで弱いと思われてきた李克強の言動は“習降李昇”(習近平の権力が弱まり李克強が勢いを強める)の噂を増幅させたと取り上げました。噂というのは「習近平の内政と外交の連続失敗で、長老達、多くの高級幹部達が、李克強を支持する方に回った」といった話です。確かに4月29日に行われた政治局会議の後に、これらの噂が具体的に流れだしました。

この政治局会議に関する『新華社』の報道は、珍しく「習近平を核心とする」との文言を使わず、またほぼ全てを経済情勢の安定を強調することに費やしました。その後に「習近平のコロナ政策や外交面での国際的孤立、ロシアへの対応などが会議で批判された」との噂が流れました。

また海外にいる消息筋は、中国国家安全部の内部情報として、中国指導部の政策が調整され、「集団指導制」に回帰したとツイッターしました。

『ウォールストリートジャーナル』(中国語版)も5月16日、「李克強は習近平の影から脱した」との長文の記事を掲載し、李克強が勢いを強めているとの見方を更に増幅させました。

確かに習近平が2012年11月15日に共産党総書記と党中央軍事委員会主席に就任して以来、政治局常務委員を9人から7人にするなど、権力掌握に腐心してきました。経済は李克強首相が主宰する国務院(内閣)の責務であるはずですが、習近平はわざわざその上に多くの「小組(中国語で人数の少ないグループの意味)」を作りました。

「中央全面深化改革領導(統帥して指導する)小組」、「中央ネット安全と情報化領導小組」、「中央財経領導小組」といった経済関係の小組の責任者は全て習近平です。李克強は肩書だけで経済政策で決定権のない立場に追いやられ、習近平の指示の執行係に降格されたのだと誰でも分かりました。

習近平は反腐敗キャンペーンなどで権力基盤を固め、個人崇拝も復活させました。共産党中央宣伝部の指示で政府系メディアの報道で習近平の顔が出ない日は珍しくなりましたた。

しかし4月29日の政治局会議の後、李克強や汪洋などの政治局常務委員も、政府系メディアの一面に登場する日が増えています。

李克強が、その言動で習近平との違いを示したのは2年前に遡ります。2020年5月29日、恒例に従い李克強が中国全国人民代表大会(全人代)に際しての記者会見を行った際、中国の6億人の収入はまだ1か月1000人民元(日本円換算で約1万6千円)だと公言しました。それは習近平が一番重視し、誇っていた脱貧困の政策への評価として、相反する発言でした。

2016年に習近平政権は2020年までに中国の貧困人口をゼロにする5か年計画をうちだしました。習氏自身も2013年から9年連続して「新年賀詞(年頭所感)」で脱貧困に言及し、2020年までに中国の農村で貧困人口を無くすとの目標を達成すると繰り返し強調しました。

しかし、習が言っていた脱貧困の基準は一人当たりの平均収入が年4000人民元(日本円換算で約6万4千円)です。だから李の発言は、習が実現したい目標の達成は困難であると言った,あるいは習近平の誇る成果の意義をおとしめたに等しいです。

その後も、李克強による習近平とは異なる言動が続きました。2021年から李克強への国民の好感度は一気に上がり、マスコミへの露出度もわずかながらも増えました。

地方政府幹部との会議に臨む中国の李克強首相=11日、中国江西省

ただ未だにマスコミに冷遇される李克強首相は5月25日、地方幹部ら10万人以上を動員したビデオ・電話会議を開きました。李が演説で話したのは、ほぼ悪い知らせばかりでした。国内経済は著しく悪化し、地方政府予算は縮小し、大規模なロックダウン(都市封鎖)が行われた2020年より状況はある意味深刻だ、と述べました。

対照的に、共産党の機関紙である人民日報は同日、中国経済の見通しの明るさと、習近平(シー・チンピン)国家主席の指導力をことさら書き立てました。

李が経済悪化を直視したことは、さまざまな臆測を呼んでいます。今秋の党大会を前に権力争いで李が優勢になっているのでは、習のゼロコロナ政策で亀裂が深まっているのでは、李が不況の責任を負わされているのでは、などです。

こうした臆測が広がるのは、共産党内の権力闘争の内実が外からは全く見えないためでもあります。唯一誰の目にも明らかなのは、李の言うとおり中国経済が苦境にあるということでした。

5月27日午後、「中南海」(北京の最高幹部の職住地)で、第39回集団学習会が開かれました。この学習会は、その時々のトピックについて、党中央政治局委員(トップ25)が全員集合して、専門家を呼んで話を聞くというもので、不定期に開かれています。

この日のテーマは、当然ながら、中国経済をどうやってV字回復させていくかということかと思いきや、習近平主席が選んだテーマは、「中華文明の深源な流れと深化」。講師は、中国社会科学院歴史学部の王巍主任でした。

例によって、外部の講師というのは「刺身のツマ」のようなもので、中央に鎮座した習近平主席が、いかに中華民族が歴史的に偉大な民族だったかについて、延々と「重要講話」を述べました。

その様子を、CCTV(中国中央広播電視総台)のニュースで長々と報じていたのですが、中央政治局委員たちは、「重要講話」を聴きながら、熱心にメモを取っています。

ところが、李克強首相と、李首相に出身や考えが近いナンバー4の汪洋政協主席だけが、ふてくされたような表情で聞いていました。

ともあれ、コロナは徐々に収まりつつあり、中国が経済を「超V字回復」させていかないと、それはウクライナ危機と並ぶ、世界にとっての「もう一つの危機」となってしまうでしょう。

いや、ウクライナ危機よりもさらに大きな危機になってしまう可能性もあります。なぜなら、ロシア経済は今や韓国を若干下回る程度ですが、中国は違います。一人あたりのGDPでは中露は10000ドル前後で似たり寄ったりでずが、人口では中国がロシアの10倍の14億人です。

中国は国全体では、世界第二の経済大国です。この国の経済が傾けば、ロシアなどの比ではなく世界経済に大きな影響を与えるのは明らかです。

実際、今年の年初のユーラシアグループの今年の地政学的リスクの予想では、中国のゼロコロナ政策の失敗が筆頭にあげられています。


中国がゼロコロナ政策に大失敗すれば、世界の経済不安はウクライナ戦争の比ではなくなる可能性が大きいです。

李克強が政府系メディアに冷遇されてきた理由は、宣伝部のトップ黄坤明(こう・こんめい、ファン・クンミン)にあります。黄は福建省龍岩市長、浙江省杭州市党委員会書記を務めた後、2013年10月、習近平に抜擢され、宣伝部副部長、2017年10月、政治局委員、中央書記処書記、宣伝部部長に上り詰めました。

まさに“習家軍(習近平派)”ならではのスピード出世です。黄宣伝部長が李克強よりも習近平に忠誠を示すのも当たり前でしょう。これで政府系メディアは全て習近平派に掌握され、李克強は冷遇されています。しかしそれに対抗するかのように、SNSでの李克強の人気は習近平よりはるかに高いです。今回の“習降李昇”騒ぎもその状況を如実に物語っています。

まもなく首相職を2期10年間務めあげることになる李克強は、習近平に対してひたすら我慢する必要もなくなるはずです。その上、ゼロコロナで中国経済が大きなダメージを受けていることで、李克強の腕を発揮すべき時が来ました。もう習近平への遠慮は不要です。

「李克強派は、第20回党大会でより重要なポストを占めるように動くだろう」との内部情報もありまずが、「最近の李克強の大胆な言動も、習近平は黙認せざる得なくなっている」と分析する人もいます。権力闘争の駆け引きの一端が現れているのでしょう。

中国をいわば北朝鮮化させた習近平派に対して、今後も李克強を筆頭する改革開放派は更なる反撃を強めるでしょう。中国での権力闘争の駆け引きは一段と苛烈になるでしょう。ただし、未だ誰が勝利するのかは、はっきりとは見えてきません。

そうして、ウクライナでの戦争、米国の金融引締め、中国の景気減速が東アジア・大洋州地域の回復を阻むリスクであるのは間違いないです。

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2022年6月14日火曜日

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外交部「台湾海峡は国際水域」 中国の主張を非難

外交部(外務省)の欧江安(おうこうあん)報道官

 外交部(外務省)の欧江安(おうこうあん)報道官は14日の定例記者会見で、台湾海峡は国際水域だと強調し、中国の最近の主張は「誤った言論」だと厳正に非難した。

 13日付の米メディア、ブルームバーグは関係者の話として、中国軍当局者がここ数カ月、米当局者との会合で台湾海峡は国際水域ではないと繰り返し主張していると報じた。中国の外交部は同日、台湾海峡水域は両岸(台湾と中国)の海岸から海峡の中心線に向かって伸び、順に内水、領海、接続水域、排他的経済水域になっているとし、中国が台湾海峡の主権と管轄権を有していると主張した。

 欧氏は、台湾海峡は国際水域であり、中華民国台湾の領海範囲外の水域には全て国際法上の「公海自由の原則」が適用されると強調。中国政府は台湾の主張を無視し、国際法の規則を故意にねじ曲げ、台湾海峡を矮小化して中国の排他的経済水域と見なしていると指摘した上で、台湾を併呑しようとする中国の野心は明白だとし、外交部として受け入れられず、非難すると述べた。

【私の論評】日本も台湾のように、中長距離ミサイルを開発・配備することが安全保証上の最大の課題(゚д゚)!

台湾ではこの手の中国に対する発言は頻繁になされています。たとえば台湾の游錫堃(ゆう・しゃくこん)立法院長(国会議長に相当)は12日、台湾メディア主催のオンライン講演会で「われわれには北京を射程圏に収める雲峰ミサイルがある。中国が台湾を侵略する前によく考えてほしい」と発言した。中国が台湾の武力統一に踏み切った場合には北京を攻撃する可能性があることを強く示唆した形です。

台湾の游錫堃(ゆう・しゃくこん)立法院長(国会議長に相当)

游氏は陳水扁総統時代の2002年から05年に行政院長(首相)を務めました。行政院長時代から「雲峰ミサイルで北京をたたけると知っていたが、当時は言えなかった」とし、「今は量産している」と述べました。

台北から北京までの直線距離は約1800キロ。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が18年3月に発表した報告書には「台湾の軍は射程2千キロの雲峰ミサイルを配備している」との内容がありました。当時、台湾でミサイル開発などを担当する中山科学研究院はメディアの取材に対し、「秘密だ」として肯定も否定もしませんでした。

雲峰ミサイルの射程距離を表すチャート

游氏は「台湾人自身に戦う意思がなければ、どんなに良い武器があっても無駄だ」と指摘し、「ウクライナで起きている戦争は台湾人に多くのことを教えてくれた。侵略者と勇敢に戦うウクライナ人を見習いたい」とも話しました。

游氏の発言について、与党・民進党の関係者からは「よく言ってくれた」といった声が上がったが、最大野党・中国国民党のある関係者は「中国を無意味に刺激し軍事的緊張をつくっている」と批判しました。

雲峰ミサイルについては、このブログでもすでに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
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台湾の防空識別圏に飛来したH6K爆撃機の同型機(上)。下は台湾のF-16戦闘機

これは昨年の記事です。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。

台湾は、長年かけて自主開発した中距離巡航ミサイル「雲峰」の量産を2019年から開始しています。アナリストによると、雲峰の飛行距離は2000キロで、台湾南部の高雄から北京を納める距離です。

さらに、台湾は中長距離ミサイルの開発配備も視野に入れています。台湾の国防部(国防省)は25日、4年に1度となる国防計画の見直しを行い、立法院(国会)に報告しました。中国軍機が繰り返し台湾の防空識別圏に侵入するなど、軍事的圧力が強まっていることを踏まえ、長距離ミサイルを配備し、抑止力を強化する内容を盛り込みました。予備役など有事の際の動員強化も掲げました。

台湾当局は25日、1種類の長距離ミサイルの大量生産を開始したことを明らかにしました。これとは別に3種類の長距離ミサイルを開発していることも認めました。
さてこの記事には以下のようなことも記載しました。
台湾はミサイルによる防衛体制や、中近距離ミサイルによる抑止戦略について、あまり多くを語ってこなかったのですが、今回は異例の公表だといえます。しかしながら消息筋によると、現状でも、台湾側は中近距離ミサイルによって、中国本土の三峡ダムを破壊することを含め、抑止体制を十分に整え終わってるとされています。

三峡ダム
これについては、中国の軍事情報サイト「捷訊網」は21日、米国や台湾と戦争の事態になった場合、三峡ダムがミサイル攻撃を受け破壊された場合には、戦争に必要な軍部隊も水に飲まれ、民間人の被害は数億人にのぼると紹介しています。

三峡ダムが決壊すると、中国では大洪水か発生し国土の40%近くが洪水に見舞われるとされています。この雲峰ミサイルは北京にも到達するわけですから、これより近い三峡ダムにも確実に届きます。

もし、三峡ダムが台湾の中長距離ミサイルによって飽和攻撃を受けた場合、中国はこれを防ぐことはできず、三峡ダムは破壊されます。そうなれば、中国もかなりの打撃を被ることになります。

核を使うまでもなく、中国にはこのような脆弱なポイントは他にも多数あります。

日本では、防衛当局の発表と複数の報道によると、北朝鮮と中国からの脅威の高まりを踏まえ、日本防衛省は2022年も引き続き国内防衛産業の基盤強化を加速していく予定です。この基盤強化は防衛装備の国内生産の増加を目的としています。

防衛省が優先している開発中の先進装備には、ステルス戦闘機ジェット、長距離巡航ミサイル、無人戦闘航空機(ドローン)、極超音速兵器が挙げられます。こうした状況の中、今年防衛省の外局に新設される予定の事務所が防衛産業支援などの中核的機能を果たしていくことになります。

岸信夫防衛相は2021年12月28日に開かれた年末の記者会見で、「厳しさを増す安保環境や技術革新の急速な進展などの状況を踏まえれば、日本の防衛を全うするためには防衛産業・技術基盤の維持・強化への重点的な取り組みが必要不可欠である」と述べています。

日本の場合、中露に対抗する措置としては、潜水艦22隻体制を整え、専守防衛的な構えはある程度できているといえます。世界的にみても、かなり高い水準に達しています。このあたりは、岸防衛大臣あたりが、わかりやすく多くの人たちに啓蒙すべきと思います。

日本は、中国と比較するとASW(Anti Submarine Warfare:対潜水艦戦闘力)が格段に優れています。特に対潜哨戒力においては、中国海軍はかなり劣っており、日本のステルス性(静寂性)に優れた潜水艦を探知するのは難しいです。

一方日本は対潜哨戒力に優れており、中国の潜水艦はステルス性に劣るため、日本にとっては中国の潜水艦を探知すことはかなり容易です。

そうなると、仮に中国海軍が日本に侵攻しようとして、兵を送った場合、ほとんどの艦艇は撃沈されてしまうことになります。それでも、仮に中国海軍が日本に上陸部隊を上陸させることができても、日本の潜水艦隊に阻まれ、上陸部隊に対する補給ができなくなり、上陸部隊はお手上げになります。

このように日本は、専守防衛的な防衛では、ある程度は守備を固めたといえます。台湾は自前で潜水艦を建造中ですが、それまでの間は日米が台湾を潜水艦隊で防衛すべきでしょう。なぜなら、それが最も効果的に中国軍に攻撃できて、日米とも被害が少くとすむからです。

そうではなくて、潜水艦抜きで空母打撃群、海兵隊、航空機、水上艦艇だけで現代海戦に対処しようとすれば、中国にわざわざ付け入る隙を与え、日米両軍も甚大な被害を被ることになるからです。現在では、海戦の主役は潜水艦であり、それを否定するような考え方をするのは時代遅れであり、それは習近平などの夢想家だけでたくさんです。

ただ、日本の防衛にも不安な点はあります。それは、日本は台湾のように中長距離ミサイルがないため、中国軍が中長距離ミサイルで攻撃したとしても、中国のミサイル基地を叩いたり報復攻撃ができません。

そうなるとどのようなことが予想されるかといえば、たとえ中国海軍を崩壊させ、中国軍に日本の領土・領海に侵入することを防ぐことができ、日本の独立を保つことができたにしても、日本国土は中国の中長距離ミサイルで破壊放題ということになりかねません。それこそ、日本中がウクライナのマウリポリのようになってしまうかもしれません。

日本としては、敵基地攻撃能力を持つのは当然のこととして、台湾のように中長距離ミサイルを開発すべきです。

そうすることにより、日本を本当に守ることができます。そのための法律的な手だてをすることと、中長距離ミサイルの開発が日本にとっての喫緊の課題だといえます。専守防衛に傾きすぎている日本の安全保障は是正されなければなりません。専守防衛だけでは、国土が蹂躙されることをウクライナ戦争が教えてくれたと思います。

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2022年6月13日月曜日

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クアッドが注力すべき中国の違法漁業と海上民兵

岡崎研究所

 5月の東京における日米豪印4カ国によるクアッド首脳会議では、IPMDA(海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ)が発表された。世上あまり注目されていないようであるが、意義のある重視すべきイニシアティブと考えられる。


 その内容は、ルールに基づく海洋秩序に対する挑戦に対抗するために、違法漁業、瀬取り、密輸など、違法な活動を継続的にモニターすることを目的とするものである。衛星技術によってこの地域の幾つかの既存の監視センターを繋ぎ包括的な追跡システムを作るとしている。

 念頭にあるのは中国の漁船団による収奪的な漁業である。米国の当局者は「この地域における違法漁業の95%は中国によるものだ」と述べている。南シナ海その他海域におけるその活動はつとに報道されているが、2020年夏には300隻近い漁船団がエクアドル領ガラパゴス諸島の周辺海域に出現し、荒っぽい漁業を行い環境破壊の懸念を惹起する事件を起こしている。

 しかし、それだけではない筈である。中国の漁船には偽装漁船もあり、その実態は解明されていないが、海警の船舶と連動して、いわゆる海上民兵として政治目的のために行動する例がある。

 昨年3月からほぼ1カ月の間、中国の海上民兵とおぼしき多数の船舶が南沙諸島のウィットサン礁(フィリピンの排他的経済水域内にある)に集結する奇怪な行動をしたのも、その一つである。クアッドの共同声明には「海上保安機関の船舶及び海上民兵の危険な使用」を含む「威圧的、挑発的又は一方的な行動」に反対するとの文言はあるが、IPMDAと関連付けることは(恐らくは意図的に――反カ国色が強過ぎるとパートナーを募ることに支障が生ずる)避けている。しかし、海上民兵は最も警戒を要する問題の一つであり、これがIPMDAの継続的モニターの対象を外れることはあり得ないだろう。

海洋秩序維持で他国への広がりも

 今後、クアッド諸国はインド・太平洋の諸国と協議してIPMDAによる海洋秩序維持の態勢を整えるようである。どの程度の下工作が行われたものか分からないが、このイニシアティブのパートナーとなることに関心を持つ諸国は少なからず存在するだろう。IPMDAは、これら諸国が自らの能力の足らざるところを補い、「威圧的、挑発的又は一方的な行動」に対処する上での助けになるに違いない。

 IPMDAは安全保障、経済権益の保全、環境保護などインド・太平洋の諸国が関心を有する分野において、これら諸国の需要に応えることを狙いとするものと考えられる。そういう形でクアッドは活動の裾野を広げることも出来る。その着眼点は高い評価に値すると思われる。

【私の論評】違法漁業と海上民兵には飢餓戦略が有効か(゚д゚)!

IPMDAの継続的モニターで中国の違法操業や海上民兵の動きを封殺することはできるでしょぅか。私は、できないと思います。最初は警戒するかもしれませんが、これに対して何もしないということであれは、中国は図に乗って、海上民兵を有効に使い、場合によっては島嶼を手に入れるなどのことを平気でするでしょう。

それも、南シナ海でやったように、サラミ戦術で少しずつ実行支配し、これに対して有効な手を打たなければ、少しずつ支配地域を拡大し、いつの間にか多くの部分や、島嶼などを実行支配すなどのことを行うでしょう。

なぜそのようなことを自信を持って言えるかといえば、米国と中国の真の戦場は、軍事力ではなく、経済とテクノロジーの領域であり地政学的な戦いだからです。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業、海民兵を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえばイギリスがアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからです。

中国が南シナ海の環礁を埋め立てて、実行支配したのも、地政学的戦いの一環です。従来であれば、環礁を領地とするためにでさえ、軍隊を派遣して戦争をして、敵を排除して手に入れたものです。

南シナ海の環礁を埋め立てて作った中国の軍事基地

実際第2次世界大戦中の日米はそうでした。大量の兵器や兵隊を送り込み、真正面から戦争して、敵を排除して、日米は太平洋の島々を自らの支配下に置きました。

しかし、中国は違います、軍隊ではなく、環礁を埋め立てるための道具や、人員を送り込み、環礁を埋め立て、他国が危機感を感じながらも、結局軍事的には何もせず、中国が環礁を埋め立ててそこを実行支配することを許してしまいました。

中国が民兵を場合によっては軍事目的にも使おうとしているのは明らかです。例えば2014年、東シナ海において、横、あるいは縦に並んで航行しながら、タンカーからフリゲート艦に燃料を給油する訓練が行われました。次いで、2019年には、洋上において横に並んで航走しながらコンテナ船から駆逐艦や補給艦にコンテナなどの貨物を移送する試験が行われました。

また2020年に行われた民間企業等を動員した大規模な統合軍事演習では、普段はカーフェリーとして利用されているRo-Ro船が、車両搭載用ランプ(傾斜路)を強襲上陸作戦用に改造されて参加していました。

そもそもタンカーであれ、コンテナ船であれ、Ro-Ro船であれ、商業目的に用いられる船舶は、できる限り大量の物資や車両、燃料などを積載して、仕出し港から仕向け港にできるだけ早く、安全かつ経済的にそれらの荷物を届けることにより利益を上げることを目的とするものです。

本来、そのような目的に合致しない洋上で貨物や燃料を移送する装置などを設置することは、設置に必要な区画や重量の分だけ積載可能な貨物の量が減るばかりか、船自体の重量を増加させ、速力や燃料効率に影響を及ぼすなど経済コストは悪化します。

とくに、Ro-Ro船の車両搭載用ランプの改造については、そのランプを水面下まで下げることにより、水陸両用車両や舟艇を船内から洋上に、あるいは洋上から船内に積み下ろしできるようにしています。一般的なランプとは強度や重量など構造が大きく異なるものです。

このような取り組みは、漁船についても同様です。外洋で操業する漁船が新造される場合には、「海上民兵」として必要な武器庫と弾薬庫を設置することが一部の地方政府の条例により義務づけられていることも明らかにされています。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎(とが)め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

中国は国営企業、民間企業、民兵を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえばイギリスがアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったり、周辺諸国などにお構いなしに、環礁を埋め立てたり、埋め立てた環礁を実行支配したり、世界各地て違法操業したりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからです。

中国漁船による違法漁協や民兵とおぼしき多数の船舶が南沙諸島のウィットサン礁(フィリピンの排他的経済水域内にある)に集結する奇怪な行動をしたのもこれは従来の戦争は異なる、「地政学的戦争」の一環なのです。

そうして、こうした戦争に対して、、IPMDA(海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ)などで監視を強めるだけでは、中国の戦争を止めることはできないでしょう。これは、海軍力では日米などに格段に劣る中国による地政学的戦争なのです。

簡単にはやめないですし、監視するくらいでは、絶対にやめません。

ただ、これらに対する有効な手立てはあります。それは、こうした海域や島嶼付近に日米およびEUなどの潜水艦隊を派遣することです。

海上民兵が上陸した島嶼や、違法漁業をする海域で、これらを潜水艦で取り囲み、行動できなくしてしまうのです。そうして、船舶や航空機による補給を絶ってしまうのです。

こうしたことを実施されると、ASW(対戦戦闘力)が劣る中国は何もできなくなります。そうして、日米EUの潜水艦隊は中国軍に対して警告し、海上民兵に対して補給をしようとする船舶、航空機は撃沈すると、警告し、実際中国軍が艦艇などで補給しようとした場合、それを撃沈すれば良いのです。無論このようなことは、最終段階であり、いくつかの段階を踏み、途中で警告などをしながら、最後の段階でこれを実行するということになります。

水も、食糧も、弾薬も補給させないようにします。そうなれは、海上民兵は島嶼か海上で餓死することになります。そうなる前に降伏するでしょう。こうしたことにより、中国の地政学的戦いを封じることができます。こういうことをすると、警告しただけでも相当効き目があると思います。

それでも、実行しようとした場合は、補給する艦艇や航空機を攻撃し、無力化すれば良いのです。ASWその中でも、対潜哨戒能力に劣る中国は、これに対抗する術はなく、このようなことを米国等が実行したとしても、ほとんど被害を被ることはないでしょう。このくらいのことをしないと、中国の海上民兵による地政学的戦争はこれからも続き、世界が不安定化するだけになります。日米EU諸国もこれを覚悟して、いずれ踏み切るべきでしょう。

鳥取飢え殺し

そうして、これは昔からある戦法です。はやい話が兵糧攻めです。織田信長の家臣であった羽柴秀吉は,播磨三木城や鳥取城を,兵糧攻めにより落城させたと伝えられています。ご存知のとおり、兵糧攻めとは、城を包囲し城内へ食料を持ち込ませないことで、城内にいる兵士や馬などを飢えさせる戦法で,直接武器を使うわけではないですが、残酷な方法です。

大東亜戦争末期の日本に対して米軍は「飢餓作戦」を実施しています。米軍が行った日本周辺の機雷封鎖作戦作戦名です。この作戦米海軍が立案し、主に米陸軍航空軍航空機によって実行されました。日本の内海航路朝鮮半島航路に壊滅的打撃を与え、戦後海上自衛隊戦術思想や日本の海運に影響を残しました。

飢餓作戦のためB-29爆撃機から投下されたパラシュート付きのMk26機雷

中国の海上民兵はプロの軍人ではありませんし、日米EUなどがこのような試みをすることを警告しただけでも、無謀な振る舞いをやめる可能性も高いです。鳥取城に立て籠った人たちやかつての皇軍のように、飢えてもなお最後の最後まで低抵抗戦する者はいないでしょう。

ただ、これは中国による地政学的戦いの一環なのですから、海上民兵の中に人民解放軍が紛れている可能性もあります。その場合は万難を廃して、使命を遂行しようとするかもしれません。そうなった場合は、餓死するまで包囲を続けるしかないでしょう。ただ、人民解放軍でもそこまでする人間はいない可能性のほうが高いです。

降伏すれば、手厚く保護してあげれば良いのです。

通常の戦闘のほかにも、海上民兵による地政学的戦闘に備えるためにも、AUKUSが結成されたのでしょう。

上で述べた「飢餓戦略」など、物騒に思われるかもしれませんが、「地政学的戦争」の観点からすれば、こうしたことも考えておくべきです。そうして、これに近いことがすでに、世界の海のいずれかで行われているかもしれません。

ただ、潜水艦の行動に関しては、従来からいずれの国も公にしないのが普通であり、米国では軍のトップですら、米国の戦略原潜の所在を知らないくらいですから、何か大きな事件でも起こらない限り表には出てこないだけかもしれません。

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2022年6月12日日曜日

中国からも米国からも逃げ出す中国人。富豪と研究者が向かった意外な国―【私の論評】米国のロシアへの経済制裁の真の目的は地政学的戦いで中国が米国に対抗できなくすること(゚д゚)!

中国からも米国からも逃げ出す中国人。富豪と研究者が向かった意外な国


5月23日、日米首脳会談を終えたバイデン大統領が、有事には台湾防衛のため軍事的に関与すると発言し、米中双方を慌てさせる事態となりました。台湾に関連して度々起こるバイデン大統領の失言騒ぎの意図を紐解くのは、メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』著者で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さん。こうした米中の緊張関係を嫌って米国から中国系研究者が流出していること、一方中国からはゼロコロナの窮屈さを嫌い富豪が離れ始めていることを伝え、共通の逃避先として選ばれている国を挙げています。

中国から逃げる富豪とアメリカから逃げる中国の知識 漁夫の利を得る意外な国とは

中国発の国際ニュースを読んでいて気付くことがある。それは今年に入り、台湾を扱う頻度が増していることだ。なぜ、国際ニュースかといえば、言うまでもなくアメリカが台湾問題に触れることに反応しているのだ。

直近の大ニュースは5月23日、バイデン大統領の失言だ。日米首脳会談後に行われた記者会見の場で記者から「有事には台湾の防衛に軍事的に関与する意思があるか」と問われ「イエス」と答えた。「われわれが約束した責務だ」と付け加えることも忘れなかった。

ホワイトハウスは直ちに火消しに回り、オースティン国防長官も米国の立場に変更はないと続いた。そして最後はバイデン氏自らが「あいまい政策(武力介入の有無を明確にしない)は変わったのか」と問われたのに対し「変化していない」と答え、「『一つの中国』政策にも変化がない」と修復に努めた。

台湾の蔡英文政権からすれば、期待の次に落胆が続いたような感覚だろう。だが、一方の中国も「これで一安心」というわけにはいかないのだ。バイデン発言はアメリカの隠れた意図を徐々に鮮明しただけと受け止めているからである。

というのも同様の発言は昨年にも二度発せられていて、中国側の抗議で発言が修正されているものの、すぐにまた約束と反する言動で中国側が揺さぶられるからだ。

バイデン政権の意図は明確で、言うまでもなくアメリカが台湾問題に口を出すことの「常態化」だ。そして本来はハードルの高い台湾への兵器の売却や相互訪問のレベルを上げてゆくことだ。その先にあるのは事実上の中台切り離しだ。

守る中国は少しずつ陣地を奪われるようにレッドラインを後退させられてしまう。アメリカの元国務長官・ヘンリー・キッシンジャー氏の言葉を借りれば「by a gradual process develop something of a ‘two-China’ solution」だ。

キッシンジャー氏は5月23日、バイデン発言を受けて米CNBCのインタビューに応じている。記事のタイトルは「台湾を米中外交の交渉の核にしてはならない」だ。つまり、現在のアメリカの対中外交が危険水域に入り始めていると警告しているのだ。

こうした状況をみれば米中対立が簡単には収まらないとの予測が定着するのは不思議ではない。ネガティブな空気はアメリカに住む中国人の社会を直撃している。なかでも影響を受けているのが学術界だ。

中国の国際紙『環球時報』のウェブ版は6月1日、米誌『ネイチャー』の記事を受けて米中の共同研究の数がここ3年間で激減したと報じている。顕著なのは米中それぞれの研究機関に所属する研究者が、共同で執筆した論文の発表数だ。記事で紹介されたデータによれば、3年間で20%も下がったという。まさに激減だが原因は政治由来だ。

周知のようにアメリカは知的財産の保護や安全保障上の理由を挙げて中国系の研究者に対する取り締まりを強化してきた。いわゆるチャイナ・イニシアチブ(イニシアチブ)だが、これは開始から3年で大きな曲がり角を迎え、今年初めにはプログラムを終了させた。

イニシアチブの失敗を先陣切って報じたマサチューセッツ工科大学の『MITテクノロジーレビュー』(1月18日)は「混乱する米国の対中強硬策、チャイナ・イニシアチブのお粗末な実態」と報じた。要するにスパイ疑惑で3年間大騒ぎしたが、ほとんど成果はなかったという意味で、冤罪の犠牲となった人々には大きな傷が残ったのだ。具体的な後遺症となったのが中国系研究者のアメリカ離れと学術界における米中協力の減少の進行だった。

ここに追い討ちをかけたのがヘイトクライムである。アジア人が狙われるケースが増えて安全が脅かされたのだ。カリフォルニア州立大の憎悪・過激主義研究センターが暫定値として主要都市での憎悪犯罪を集計した対アジア人のヘイトクライムの統計によれば、2021年は15都市で計2106件。20年に比べて5割増え、地域別ではニューヨーク市でほぼ倍増の538件。西部カリフォルニア州ロサンゼルス市でも7割増の615件だったと、『日本経済新聞』は伝えている。アジア系にとっての生活環境悪化は顕著だ。

こうした変化を嫌ってアメリカを離れようとする研究者は多い。だが複雑なのは彼らがそのまま中国に戻るわけではない──もちろん戻る人も多いが──ということだ。裏側でイギリスやカナダ、オーストラリアが食指を伸ばし、スカウトしているからだ。

一方、上海のロックダウン解除から少しずつ日常を取り戻しつつある中国では、いま1本の記事が人々の注目を集めている。『時代読財』が発信した〈1万5000人の富豪が資産とともに移民となる 中国は資産の持ち出しを厳格に管理〉という記事だ。

これはロックダウンに代表される中国の厳格過ぎる感染対策を嫌って、大都市の金持ちたちの間で「中国逃避」の流れが起きているという現象を報じたものだ。いわゆる古くて新しいキャピタルフライトの問題だが、いま大きな流れとなれば問題は深刻だ。

受け皿はアメリカと思われそうだが、実はそうではない。興味深いのは、彼らが逃避先として選ぶのは、やはりカナダやオーストラリア、そして東南アジアなのだということだ。

米中それぞれの問題で逃げ出す富豪や研究者たち。その避難先が東南アジアやカナダ、オーストラリアであれば、米中対立の漁夫の利は彼らが得ることになるのだろう。

【私の論評】米国のロシアへの経済制裁の真の目的は地政学的戦いで中国が米国に対抗できなくすること(゚д゚)!

このブログでは過去に何回か掲載したことがありますが、まずは2020年の世界の人口について振り返っておきます。中国とインドが14億人でアメリカ3.3億人であるのに対し,ロシアは1.65億人と全世界の1.9%である。因みに日本の人口は1.25億人です。

つぎに、新型コロナ発生前の2019年の名目GDPのシェアを見ておきます(IMF)。ロシアのGDPは,世界第11位の170百億ドルであり、韓国の164百億ドルとほぼ同じです。これに対し、米国は2,143百億ドルで12.6倍の規模です。日本が507百億ドルで約3倍です。

新型コロナ発生後の2021年の名目GDPの状況もほぼ変わらないです。ロシアのGDPは177百億ドルで世界第11位です。米国は2,299百億ドルでロシアの13倍。この時点で韓国は,179百億ドルとロシアを上回りました。

そうして注目すべきは中国が、1,745百億ドルとアメリアの4分の3にまで迫ってきてはいますが、一人たりGDPでは、1万ドルをわずかに超えた程度であり、これはロシアとあまり変わりありません。

中国の人口は、ロシアの人口の10倍であり、GDPも約10倍です。中露の一人あたりのGDPは、台湾、韓国などはもとより、バルト三国のうちの一つであるリトアニアよりも小さいのです。このリトア二アの人口は約280万人であり、空軍には輸送機はありますが、戦闘機や爆撃機はありません。

リトアニアのシャウレイ空軍基地では7日、NATO加盟国など17カ国から約3000人の兵士、50の航空機が参加した大規模な演習が行われていました。しかし、リトアニアは戦闘機を持っておらず、駐留するのはスペインとチェコの空軍です。

もともとバルト3国は、ソ連崩壊後の混乱で、航空戦力を自分たちで賄うことができませんでした。「空軍基地」ではあるものの、リトアニアが持っているのは、輸送機など攻撃能力を持たないものです。

https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000257415.html

リトアニア空軍、スロビカス指揮官は、「『もっと機体を』と常に思っています。戦闘機とパイロットは軍の予算には高すぎます。今の情勢下では我々の戦力は不十分なので、NATOの支援は重要です」と語っています。

このようなリトアニアよりも、中露の一人あたりのGDPは低いのです。これを考えると、いかに両国が国民を犠牲にして大きな軍事力を持ち、それを維持しているのかが実感できます。

そうして、ロシア経済は原油価格に大部分を依存します。その原油価格の指標となるのは,アメリカのWTI(West Texas Intermediate)原油の先物市場です。この価格が2020年4月20日に1バーレル当たり―37.63ドルをつけました。この時期にはロシアのウクライナ侵攻は難しかったのです。

この価格が、わずか2年後、ロシアのウクライナ侵攻後の2022年3月7日には130.50ドルとなりました。1次産品である原油の先物市場価格の乱高下は通常でですが5月26日時点でも111ドルです。

ただ、ロシアの原油埋蔵量は世界6位に過ぎない上に、さらに枯渇が取りざたされています。石油のような1次産品が需給ひっ迫すると,価格が急騰します。次に、「代替生産」が起こり,価格は急落します。また、歴史的に、時間をかけると「技術進歩」が1次産品問題を克服します。1次産品問題はイノベーションにより克服され、今日があります。したがって、ロシア抜きの世界経済は存立可能です。



そのことがわかっているし、現状のロシアのGDPは韓国以下であり、とても米国やEUと地政学的な戦い(経済安全保障など)をして勝つことはできないプーチンは今が最後のチャンスと考えウクライナに侵攻したのかもしれません。

以上の経済状況を踏まえて世界のロシアへの経済制裁の効果を評価する際に、ロシアのウクライナ侵攻の根底にあるのは米中覇権争いであることを認識すべきです。

ロシアへの経済制裁の効果は、短期的には石油など禁輸する国があっても追加的に輸入する国もあり、弱められる。中長期には、高価格が維持されれば、石油はロシアからアメリカなど代替が進む可能性があり、小さなロシア経済が更に弱体化します。つまり、中長期に経済制裁は有効です。

ただし、ロシアがよく言われる北朝鮮化するとしても経済制裁によりプーチン大統領を排除できるかといえば難しいです。また仮に死亡したり、失脚したとしても、強権国家が管理を強化しても北朝鮮、中国でさえ政権を変えるまでには進まないでしょう。ロシアも同じでしょう。プーチンが消えても、次のプーチンが大統領になるだけです。

こうした状況下で、米国は、中国を意識したロシアへの制裁を継続することは理解できます。中国の最大の損失は、現状の戦争犯罪者であるプーチン氏と習近平氏の同盟が続けば、中国がロシアと同じ強権国家として世界中の国々がブランド化されることになります。現在の第4次産業革命下では、「世界全体からの多様性のあるイノベーション人材」の招致が不可欠です。

クリックすると拡大します

上の記事では「米中それぞれの問題で逃げ出す富豪や研究者たち。その避難先が東南アジアやカナダ、オーストラリアであれば、米中対立の漁夫の利は彼らが得ることになるのだろう」としていますが、そもそも米国にいようが中国にいようがはたまたそれ以外のEUなどの国にいようが、中国籍の中国人でノーベル賞を獲得した学者は存在しません。

それと、日米やEUなどと比較して、東南アジアやカナダ、オーストラリアなどの国が全く及ばないことがあります。それは、日米EUあたりだと、弱点などはあったにしても、ほぼすべての産業基盤があります。

日米EU以外は、多くの産業の基盤がなかったりします。たとえばオーストラリアには最近AUKUSに入り原子力潜水艦の技術を得ることを決めたことからもわかるように、オーストラリアには原子力産業も潜水艦を建造できる造船技術も育っていません。

様々な科学技術的な研究をするにしても、多くの産業基盤が揃っている国でないと、なかなか本格的な研究はできないです。いずれの分野でも本格的な研究をしたいなら、日米やEUにとどまるしかありません。特に現在のような地政学的な戦いにより、いつ制裁などを受けるかわからないような時代はそうです。

ロシアのように、先端技術を生み出そうとしても、満足に半導体や精度の高いベアリングすら手に入らないようでは話にならないです。最新型の戦車や戦闘機を作ろうとしても、制裁で半導体が使えなくても、すぐに代替品が使えるようでないと話にならないのです。

本当の意味での、先端技術を生み出すためには、おおよそすべての他の先端技術を素早く容易に取り込むことができなければ、不可能です。

中国人研究者は、そのほとんどは一流ではないし、一流で志の高い研究者はやはり米国などにとどまるでしょう。これからは、特にそうです。そんなことよりも、中国が人材を得ることができるかどうかが、今後の米中の地政学的戦い(経済とテクノロジーの戦い)の趨勢を決めるのです。中国人研究者がどこに行くかなどは些細な問題にすぎません。

ロシア制裁の継続は、中国強権国家ブランドを確定し、中国への世界からの人材招致を難しくすることになります。「人口減少時代」に入る中国が、米中経済覇権争いで米国に対抗できなくなります。これこそが、中長期のロシア経済制裁の最大の効果となるでしょう。

米中の地政学的戦いは、ロシアが呼び水となり、中国が本格的に人材を得ることができなくなり、技術的にも経済的にも米国に勝つことができず、それで米国の勝利で終わることになるでしょう。


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2022年6月11日土曜日

都の太陽光発電義務化で「ジェノサイド」の加担に 素材の半分以上がウイグル産、米ではすでに輸入禁止―【私の論評】義務化反対都民は、都へのパブリックコメントはもとより、義務化賛成派の議員に陳情しよう(゚д゚)!

エネルギー大問題


小池都知事は、太陽光パネル設置義務化を打ち出した

 東京都が提案している「太陽光パネル義務付け」は、東京に広い家を買えるお金持ちは元が取れるが、一般国民は電気料金の負担が増えるだけだ、と前回書いた。

 だが、家を買える人がみな元を取れるわけでもない。東京に家を買うという場合、大抵はギリギリの敷地に、建ぺい率や容積率などを考慮してパズルのように家を建てる。屋根の向きも思うに任せない。

 太陽光発電のためには南向きに程よい傾斜になった広い屋根が望ましいが、そんな家を建てる余裕がある人はどれだけいるのか。85%の住宅に義務付けるというが、思ったほど発電できなければ、建築主も損をする。結局のところ、庶民は、家を買っても買わなくても損をするのではないか。

 そもそも、そこまでして太陽光パネルを導入すべきか。

 米非営利団体「共産主義犠牲者記念財団」(VOC)は5月24日、中国共産党によるウイグル人迫害の新たな証拠として「新疆公安文書」を公表した。

 ホームページを見ると、新疆公安当局のシステムへのハッキングで流出した機密文書や膨大なデータのほか、3000人近くの収容者の写真がある。文書には収容所から逃亡しようとする者に対する射殺命令、殺人許可なども含まれる。

 このジェノサイド(民族大量虐殺)が、政府首脳部の指示によるものであることも明らかになった。英国とドイツの外相は中国を非難し、王毅国務委員兼外相に調査を要請した。

 いま、世界における太陽光発電用の多結晶シリコンの80%は中国製だ。そして、その半分以上が新疆ウイグルにおける生産であり、世界に占める新疆ウイグルの生産量シェアは、実に45%に達する。

 いま太陽光発電を義務付けることは、ジェノサイドへの加担になりかねない。米国はすでに法律によってウイグル製品をすべて輸入禁止にしている。

 さて、この住宅への太陽光パネル義務化の話は、もともと国土交通省で検討していたところ、「無理がある」として見送られたものだ。小池百合子都知事は国がやらないとなると、ますます張り切るということだろうか。

だが、それよりも、国ができなかった新疆ウイグル自治区におけるジェノサイドの非難決議をしたうえで、新疆ウイグル産の製品の輸入禁止を国に訴えてはどうか。

■杉山大志(すぎやま・たいし) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員などのメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『中露の環境問題工作に騙されるな!』(かや書房)、『SDGsの不都合な真実』(宝島社)など。

【私の論評】義務化反対都民は、都へのパブリックコメントはもとより、義務化賛成派の議員に陳情しよう(゚д゚)!

一戸建て住宅を含む新築建築物に太陽光発電のパネルの設置を義務付ける条例改正案の制定を都が検討していることについて、七日、八日の都議会本会議では、議員から「多くの反対の声が寄せられている」などとして、慎重に都民の意見を聞くように求める声が相次ぎました。

都が検討する案によると、一戸建てなど中小規模の建物では、建築主ではなく、中小規模の建物の供給量が都内で年間二万平方メートル以上の住宅メーカーに義務が課されます。

写真はイメージ

ただ一般住宅で太陽光パネルを設置するには百万円程度が必要。公明の谷村孝彦氏は「都民からは住宅価格に設置費用が上乗せされてしまえば、都民への義務化と変わらないとの指摘が出ている」とし、「最終的に都民に(パネル設置の)選択の余地を残すなど、納得と理解を得るべきだ」と求めました。

これに対し、小池百合子知事は「個人が設置の有無を選択できる弾力的な仕組みを前提に、さらに具体的な検討を進める」と答弁。新築住宅を建てる人の一部がパネル設置をしないケースでも住宅メーカーが義務を達成できるような制度を検討するとしました。

また都民ファーストの会の荒木千陽氏が義務化に伴い、都民や事業者への支援を求めたのに対し、知事は「専門家の意見をうかがい必要な支援につなげていく」と新たな支援策を検討する考えを示しました。

都民ファーストの会の荒木千陽氏

自民の柴崎幹男氏は「SNSなどで非常に多くの反対の声が寄せられている。(六月二十四日まで実施する)パブリックコメントの結果を踏まえ、義務化には慎重な議論をさらに重ねるべきだ」と指摘。栗岡祥一環境局長は「都民や事業者から出ているさまざまな課題に丁寧に答え、理解と共感を得られる制度と支援策を検討する」と述べました。

上の記事を書いた杉山大志は、他の記事で以下の様なことも述べています。
 150万円の太陽光パネルを購入すると、建築主は15年で元が取れることになっているが、実は発電される電気の価値はわずか50万円しかない。残りの100万円は再生可能エネルギー賦課金や、電気料金のかたちで一般国民の負担になる。

 「東京に日当たりも良く広い家を買って、理想的な日照条件で太陽光発電パネルを設置できるお金持ちな人が、一般国民から100万円以上を受け取って太陽光発電を付け、元を取る」というのが、「太陽光発電義務化」の正体だ。
東京都の「太陽光発電義務化」は太陽光を設置できる金持ちな人が、一般国民から100万円以上を受け取って太陽光発電を付け、元をとった上に、一般国民に強制的にジェノサイドに加担させる仕組みともいえます。

これは、絶対に反対すべきと思います。パブリックコメントは以下からできます。都民の皆さんで、この問題についてコメントしたいかたはぜひしていただきたいと思います。


それと、都民の方は、SNSなどで都議などに陳情すべきと思います。陳情というと、すぐに上田令子氏などへの陳情を思い浮かべるかもしれませんが、上田氏はすでに小池百合子氏には反対の立場ですから、陳情自体は上田氏などにしてもあまり意味がありません。

6月7日、東京都議会は最終日の議会で小池百合子都知事に対し一人会派「自由を守る会」の上田令子議員により「不信任決議」がが提出されましたが、3分の2の賛成を得られず、否決されました。

以前にもこのブログで述べたように、国会議員であろうと、自治体の議員であろうと、陳情するなら、自分の考えに賛成の議員ではなく、反対派の議員にすべきなのです。それもできれは、多数派の議員にすべきなのです。

仮に上田氏に対して、太陽発電義務化に反対の陳情をしても、上田氏はそもそもこれに反対であるし、残念ながら一人会派なのでほとんど効果が期待できないからです。

上田令子議員都議会議員

そうではなく、多数派で、太陽発電義務化に賛成の都議に陳情することのほうがはるかに有意義です。多くの人がこのような陳情をすれば、多数派の議員を太陽光発電義務化に反対の立場に転向させることになれば、陳情は大成功ということになります。

もちろん、上田氏に対して応援のメッセージを送ることはやぶさかではありませんが、それと陳情は別ものです。私は応援するなとといっているわけではありません。応援と陳情は全く別物ということを言いたいだけです。

上の記事でも、自民の柴崎幹男氏は「SNSなどで非常に多くの反対の声が寄せられている」としています。賛成派の議員に多数の陳情がいけば、それは太陽光義務化に反対する議員も出てくるかもしれません。

そうして、何よりも都議会議員に対する陳情は、国会議員に対する陳情の練習にもなります。国のことよりは、都のような地方自治のほうが身近で理解しやすいです。地方で練習して、いずれ国会議員に対する陳情をすれば、やりやすいです。

最近は陳情もSNSでできるようになり、従来と比較すれば、かなり敷居が低くなりました。これを利用しない手はありません。

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2022年6月10日金曜日

台湾問題で米中激突!国防相が初の対面会談  バイデン政権、新たな武器売却で強い姿勢も…「習氏の“3期目”見据え問題起こしたくない」中国―【私の論評】地経学的臨戦態勢にある米中で実は、軍事トップ同士の会談は大きな意味はない(゚д゚)!

台湾問題で米中激突!国防相が初の対面会談  バイデン政権、新たな武器売却で強い姿勢も…「習氏の“3期目”見据え問題起こしたくない」中国

ロイド・オースティン米国防長官

 ロイド・オースティン米国防長官と、中国の魏鳳和国務委員兼国防相が、シンガポールで開幕するアジア安全保障会議(10~12日)に合わせて、初めての対面会談を行う。世界の安全保障環境が複雑さを増すなか、最大の焦点は「台湾問題」とみられる。軍事的覇権拡大を進める中国に対し、ジョー・バイデン政権は会談直前、台湾に新たな武器売却を通知して強い姿勢を見せた。

 「遠くない将来に会うことを楽しみにしている」

 オースティン氏は5月の議会証言で、魏氏との会談にこう意欲を見せていた。会談では、米中対立や台湾問題、南シナ海の緊張、ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮による核・ミサイル開発など、多くの論点で応酬が激化しそうだ。

魏鳳和国務委員兼国防相

 米政府高官は「われわれの立場からすれば、会談は地域的、世界的な問題における競争の管理に焦点が当てられると見込んでいる」と述べた。ロイター通信が報じた。

 台湾問題では、バイデン大統領は5月の来日時、台湾への軍事的関与について記者に聞かれて、「イエス(当然だ)」「それが、われわれのコミットメント(約束)だ」と語っている。米国の「あいまい戦略」の転換とも受け止められた。

 さらに、台湾外交部(外務省)は9日、米政府が海軍艦船の付属部品と関連する技術支援など、総額1億2000万ドル(約160億円)相当分を売却すると台湾政府側に通知したと発表した。バイデン政権下での武器売却は4度目となる。

 今回の米中国防相会談をどう見るか。

 中国事情に詳しい評論家の石平氏は「中国はこれまで通り、強い言葉で米国を牽制(けんせい)するだろうが、実際は何もできない。(ロシアのウクライナ侵攻を受けて)中国の台湾統一(台湾侵攻)に国際社会の同意が得られるはずがない。自由主義陣営は着々と連携を強めている。中国の習近平国家主席も『3期目政権』を見据えて、秋の党大会まで問題を起こしたくないというのが本音だろう」と指摘した。

【私の論評】地経学的臨戦態勢にある米中で実は、軍事トップ同士の会談は大きな意味はない(゚д゚)!

上の記事にもある通り、台湾国防部(国防省)は9日、米政府が台湾に対し海軍艦艇の部品などの売却を決めたと報道資料で明らかにしました。売却額は1億2000万米ドル(約160億6600万円)。中国軍の航空機や艦艇が台湾周辺での活動を活発化させていることから、米国が売却に同意したといいます。

同部によると、売却計画は米議会に通知され、1カ月後に発効する見通しです。

総統府の張惇涵(ちょうじゅんかん)報道官は9日、報道資料で心からの謝意を表明。バイデン米政権発足以来4度目で、今年に入ってからは3度目の武器売却の発表となったことに言及し、米政府の台湾の国防における需要に対する重視の表れである上、台米間の強い協力関係を示し、台湾の自衛力向上に寄与すると歓迎しました。

国防部(国防省)は9日、米政府が台湾に対し海軍艦艇の部品などの売却を決めたと報道資料で明らかにした。売却額は1億2000万米ドル(約160億6600万円)。中国軍の航空機や艦艇が台湾周辺での活動を活発化させていることから、米国が売却に同意したといいます。

同部によると、売却計画は米議会に通知され、1カ月後に発効する見通しです。

総統府の張惇涵(ちょうじゅんかん)報道官は9日、報道資料で心からの謝意を表明。バイデン米政権発足以来4度目で、今年に入ってからは3度目の武器売却の発表となったことに言及し、米政府の台湾の国防における需要に対する重視の表れである上、台米間の強い協力関係を示し、台湾の自衛力向上に寄与すると歓迎しました。

総統府の張惇涵(ちょうじゅんかん)報道官

オースティン米国防長官は10日、アジア安全保障会議(シャングリラ対話)出席のため訪れたシンガポールで、中国の魏鳳和(ぎ・ほうわ)国務委員兼国防相と会談しました。台湾問題やロシアのウクライナ侵攻などについて協議。ロイター通信によると、オースティン氏は台湾を不安定化させる行動を控え、ロシアを支援しないよう魏氏に要求しました。

中国メディアによると、魏氏は「『一つの中国』原則は中国と米国の関係の政治的な基礎」と強調。米国が進めている台湾への武器売却が「中国の主権と安全の利益を深刻に損なう」と非難しました。

両者の対面での会談は、昨年1月のバイデン米政権発足以来初めてです。米側によると、中国が会談を申し入れたもようです。

米国は中国を「国際秩序を作り替える意思を持つ」(ブリンケン国務長官)と警戒する一方、対話も重視。中国は米主導で「対中包囲網」構築が進んでいることにいらだちを見せますが、緊張が高まることも望んでいません。会談では偶発的衝突を回避する方策も議論された可能性があります。

3年ぶり開催のアジア安保会議では、オースティン氏が11日、魏氏が12日に演説する予定。会期中に開かれる日米韓3カ国の防衛相会談では、7回目の核実験に踏み切る可能性が指摘される北朝鮮情勢について協議される見通しです。

実は米国と中国の真の戦場は、軍事力ではなく、経済とテクノロジーの領域にあります。なぜなら、軍事的には中国はいまだ米国に対抗できる力がなく、外交戦略においては、中国に対峙しているのは、米国一国ではなく、すでにより広範な反中国同盟だからです。

軍事的には、米軍が攻撃型原潜を3隻程度台湾海峡に常駐させれば、中国は台湾に侵攻できません。なぜなら強力な米攻撃型原潜によって、台湾海峡の中国の艦艇をすべて撃沈できるからです。それは、米攻撃型原潜が桁違いに攻撃力が強いこと、さらに米軍はASW(Anti Submarine Warefare :対潜水艦戦闘)において、中国海軍に対して比較にならないほど強いからです。

メンテナンス中のシーウルフ級攻撃型原潜巨大さがよくわかる

米海大などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはないです。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的(予算獲得など)を潰してしまうことになるからです。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、米国が圧倒的であることは疑いがないです。

このような事実を言ってしまえば、中国は台湾に軍事侵攻できないのは明白です。また、米海軍も予算を獲得しにくくなります。それに米国では未だ、空母打撃群信奉者が多いです。米海軍は正しく情報を開示しつつも、オバマ時代の緊縮で、航空母艦等の稼働率が劇的に低下するという危機的状況に陥りつつあるということを主張すべきでしょう。

稼働率の低下の最大の原因は、海軍工廠(こうしょう)と民間造船所を含んだアメリカ国内における造艦・メンテナンス能力の不足にあり、これはすぐに改善されるものではありません。これこそ米海軍の深刻な問題です。

ただこうした地味な内容よりも、原潜抜きで米中が戦うことを想定すれば、中国にもかなり勝てる見込みがでてきて、白いので耳目を惹きつけることができ、なんと言っても予算獲得のためには、効果的です。

ただし原潜が闘うことを前提とすれば、中国軍が台湾に多数の人民解放軍を上陸させることができたにしても、米国が台湾を攻撃型原潜で包囲すれば、人民解放軍はこの包囲を解くことができず、上陸した部隊は補給が途切れてお手上げ状態になります。

それに現在では海中の巨大武器庫と化した、米攻撃型原潜は、魚雷はもとより巡航・対艦・対空ミサイルを多数搭載し、ありとあらゆる強力な攻撃が可能です。ある意味では、水中の空母のようものです。

そんなことは、米中双方ともわかっていることですが、米国としては最近ではプーチンが常軌を逸して、最初から不可能に近いウクライナ侵攻に踏み切ったということもあり、牽制のために台湾に武器を供与したりしているわけですが、海軍力で米軍が中国軍よりも圧倒的に強いという事実は変わりません。

プーチンとしては、GDPが中国の1/10であり、今や韓国を若干下回るような規模では、中国のように米国やEUに対して「地政学的戦い」を挑むことはできないので、無謀な軍事的侵攻をせざるを得なかったかもしれません。それにしても、あまりに無鉄砲でした。

それに中国側からみれば、米軍が偶発的にでも中国を攻撃すれば、通常兵器では中国軍には太刀打ちできないことは最初からわきりきっていますし、それを挽回するには中国は核兵器に頼らざるを得なくなることが予め予想され、それこそ核戦争にエスカレートしかねないので、それは避けたいのです。

だからこそ、米国と中国の真の戦場は、軍事力ではなく、経済とテクノロジーの領域であり地政学的な戦いになるのです。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえばイギリスがアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎(とが)め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

トランプは2018年3月に鉄鋼25%、アルミニウム10%、さらに中国からの輸入品600億ドル分にも追加関税をかけると発表した。そして7月から9月にかけて2500億ドル分の中国製品に追加関税をかけたのです。

これらの措置は中国経済に大きなダメージを与えました。この関税戦争は、2020年1月に、トランプ大統領と中国の劉鶴(りゅうかく)副首相が合意書を交わすことで一応の収束をみたのですが、地経学的臨戦態勢は続いています。バイデン政権になっても、トランプ時代におこなった中国への追加関税は維持されたままなのです。

そうして、今回の米中の軍トップの会談は、米中の地政学的戦争にはあまり関係はありません。せいぜい、米国も中国も勘違いして、偶発的衝突を回避するための話し合いということではは意味があったとは思いますか。

米中軍事トップの会談など、地政学的戦いには大きな意味はもちません。

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2022年6月9日木曜日

日銀黒田総裁の“値上げ許容”発言 本人は発言撤回したものの庶民の怒りは収まらない!あなたは値上げを許容できていますか?―【私の論評】黒田総裁批判でまた露呈したマクロ的見方ができない人たち(゚д゚)!

日銀黒田総裁の“値上げ許容”発言 本人は発言撤回したものの庶民の怒りは収まらない!あなたは値上げを許容できていますか?


日銀の黒田総裁による“値上げ許容”発言が波紋を広げています。

今日国会の場で発言を撤回しましたが、実際、街の人たちは相次ぐ値上げを許容出来ているのでしょうか。

【写真を見る】日銀黒田総裁の“値上げ許容”発言 本人は発言撤回したものの庶民の怒りは収まらない!あなたは値上げを許容できていますか?

■黒田総裁「値上げ許容」発言 撤回も…「分かっていない」
食べ物から洋服、そして家電まで、全199店舗、東京・板橋区の商店街「ハッピーロード大山」。

利用客
「大山は物価が安くて生活しやすい」

ただ、この商店街にも値上げの波が押し寄せていました。

6月7日に発表されたものでは、
「コカ・コーラ」の500ミリリットルが10月1日の出荷分から140円が160円に値上げ。

30代
「これ全身ユニクロなんですよ。基本的にユニクロで買い物させてもらっています」

そのユニクロも、8月から順次販売する秋冬向けの一部商品を値上げし、例えばフリースの一部商品は1990円から2990円に。

こうした中、6月6日、日銀の黒田総裁が、相次ぐ値上げに「許容度も高まっている」などと発言。

批判が相次ぎ、6月8日の国会で…

日銀・黒田総裁
「家計が値上げを受け入れているという表現は全く適切ではなかったということで撤回致します」

誤解を招く表現だったと発言を撤回しました。

本当に「値上げ許容度は高まっている」のでしょうか。商店街の人に、緊急調査を実施。

どの程度、値上げを「許容できる」のか「できない」のかを、数値で示してもらいました。

「値上げ許容度は高まっていない」にシールを貼った、こちらの2人。
どのくらい許容できないのかというと…

その度合いは、2人とも100%を超えました。

許容できない100%超
「一般市民の家庭の気持ちはわかっていないですよね」
「(黒田総裁は)ご自分で買い物されないとおっしゃっていたのであまりわかっていないのかなと」

許容できる30% 
「30%くらい。公共料金とかは値段上がっているなと感じるんですけど、まだそんなに急激に圧迫するような状況ではないので」

許容できない100%超
「本当はもっと振り切ってこっちいきたいくらい。黒田さんの発言?冗談じゃないね。上級国民の発言ですからね。実際に庶民の暮らしをしてみたらいいんですよ」

ではみなさん、この値上げラッシュをどんな工夫で乗り切っているのでしょうか。

20代
「安いときにまとめ買いしてストックしておくってことはしていますね」

30代
「野菜とか値上がっているものは控えたり他のもので補って」

■物価の優等生 バナナも値上げ? 店は?“努力の限界”
「安くておいしい」と人気の“物価の優等生”バナナも値上がりするかもしれません。

ラウレル駐日フィリピン大使
「現状のままを継続するというのはフィリピンのバナナ生産者にとって現実的ではなくフェアでもない」 

6月8日、フィリピン大使館は、全国のスーパーの業界団体に、バナナの小売価格を上げるよう申し入れました。

肥料価格の上昇などが理由で、果物の中で、最も輸入量が多いというバナナは、8割近くがフィリピン産。このニュースに…
   
30代
「バナナはすごく食べますね子どもは。他の値上げされてないフルーツを買うとか」

一方、お店側は、原材料費などが値上がりする中、どう対応をしているのでしょうか。

1936年創業の老舗の「新井精肉店」。揚げ物に使う油やパン粉などの価格が上昇し、6月1日からメンチカツなどの揚げ物のほとんどを10円ほど値上げ。

牛肉などの販売価格は据え置きにしていますが、肥料や輸送費が高騰しているといい…

新井精肉店 新井真之店長
「利幅が少なくなってきているので本当にたいへんですね」

カレーパンが人気商品だという、パン屋さん「マルジュー」。
   
マルジュー 伊東正浩代表取締役
「カレーパンだと揚げ油、中の油脂、上がらないものがないくらいすべて上がっています」

油のほかにも、パンの原料となる小麦や、食材、電気代などが値上がりしていることで今後、商品の価格を上げざるを得ないといいます。

マルジュー 伊東さん
「企業努力で吸収できるという範囲を完全に超えているというのが現状です」

2021年7月にオープンした、テイクアウト専門のドーナツ店「いっ久どーなつ大山茶屋」

いっ久どーなつ大山茶屋 伊藤泰翼オーナー
「テイクアウトで渡す袋だったり、飲み物のカップだったり何から何まで小麦粉とかもそうなんですけど全部上がっているので、正直結構きついです」

今後、値上げに踏み切るか、検討中だといいます。

【私の論評】黒田総裁批判でまた露呈したマクロ的見方ができない人たち(゚д゚)!

上の記事は、マクロ経済の話を個々人の物語で語るという間違いをしています。物語とは、主に人や事件などの一部始終について散文あるいは韻文で語られたものや書かれたものです。そもそも、国全体について語っていませんし、それにもともと国全体を物語で語るようなことはできません。

逆にマクロ的な分析に基づき、代表的、あるいは対照的な人、あるいは両方の人に関して物語を書くことはできますが、その逆は不可能に近いです。物語は、理念や理想や個人や組織などの実態に迫ることはできますが、国全体に迫るには無理があります。そのようなことを、与党、野党を問わず多くの政治家や、多くのマスコミが繰り返してきました、今回のことでも何も変わっていないことが露呈したと思います。


日銀の黒田総裁が6月6日、「家計の値上げの許容度も高まってきている」と発言しました。これは共同通信の「きさらぎ会」という講演で述べたものですが、7日の参院財政金融委員会のなかで「適切ではなかった」として陳謝しました。

ただ、スピーチ原稿などを見ると、きちんとデータも揃えて出しています。 これは、通常の物価予想調査です。データもあるし、謝る必要もなかったと思います。 そのデータを以下に掲載します。


マクロ経済の話なので、マクロ経済についての反論があるならいいのですが、マスコミ等はそうではなく、「自分にはそういう余裕がない」という一部の一方的な意見を書くだけなのです。

それに、アンケート調査にも、余裕がないという人が半分くらいいるのです。黒田総裁の話しいは、「許容できる人の割合が増えた」という、それだけの話なのです。

割合が少し増えたというだけなので、相変わらず「許容できない」という人はかなりいます。それはそれで「割合が増えた」ということは正しいのだけれども、こういうときに、マスコミの人はストーリーとして一部の例だけを言うわけです。全体の話をしていないから、議論にならないのです。

黒田さんは全体論として、徐々に許容している人が増えていると指摘していますし、それに「自分は許容していない」という人も、データにも入っています。 昨年(2021年)の8月は57%が許容しなかったのですが、今年の4月には44%になったと指摘しているのです。逆に言うと、許容する人としない人は、五分五分と言えば五分五分なのです。 

そういう意味では、許容しない人の意見があるのは間違いありません。そういうことではなく、全体の数字の変化を言っているだけなのですが、マスコミにはこの話は難しいようです。

ただし、大きな問題点はここにあるのではなく、現在の日本の大きな問題点は、GDPギャップ(需要と供給の乖離)があることです。内閣府の推計で現在の日本のGDPギャップ約20兆円あるととされています。この推計は低めであると考えられます。過去にも、GDPギャップがプラスになっても完全雇用を達成しなかった場合もります。

10兆円くらいは少なめに見積もっているようですから、本当は現状では30兆円くらいあるのです。 そうして、このギャップをどうやって埋めるのかということが問題の本質です。

内閣府の

黒田総裁は、コロナ禍で消費が抑えられ、どこにも使えなかったもの貯蓄になっている状態にあり、この強制貯蓄が爆発すると主張しているのです。しかし、大きなGDPギャップがあった場合には呼び水が必要です。これは誘い水政策ともいいます。不況期において財政支出を呼び水として、民間需要を喚起し景気を回復させようとする政策です

呼び水がないと、消費は爆発はしません。 強制貯蓄があったにしても、将来が不安ですから貯蓄を取り崩すことはないのです。呼び水があって、初めて消費があり、景気がよくなり出すのです。最初にだれが消費爆発のきっかけをつくるのかといえば、それは政府なのです。

黒田総裁ははそうではなく、強制貯蓄があるから政府は何も対策をしなくとも良いという主張をしているわけです。この論法は、財務省がよくやる論法です。私はそちらの方が問題だと思うし、これはマクロ経済の話なのです。マクロ経済のGDPギャップを誰が最初に埋めるか、どのように埋めるか。埋めなければ失業が増えるだけなので、どうやって埋めるかということです。今回の黒田氏批判は、その政策議論まで到達すればいいと思ったのだけれども、どうもそうはなりそうもありません。

今回の黒田総裁のスピーチ原稿は、日銀のホームページに載っています。確かに、「強制貯蓄が」と言う言葉がでてきます。 財務省いつもそれを言っています。「強制貯蓄が~」という人は、財政出動したくない立場の人なのです。

強制貯蓄がどうせ爆発するから、民間は絶対に出るので財政出動は要らないという立場なのです。 しかし、マクロ経済的には強制貯蓄を引き出すためにも、最初に財政出動が必要なのです。順番を間違えるととんでもないことになります。そこをポイントとして政策議論してもらうと面白いのですが、野党の質問を聞いていると、全く無理なようです。「黒田さんは買い物をしたことがあるのですか?」という話ばかりですから話になりません。

そういう意味では、私は黒田総裁の考えには、大反対です。ただ、マスコミが黒田批判をしているのとは全く違う次元で反対です。

そもそも、会社などで、長期戦略などを考えるときに、何も考えずにただ街にでていろいろな人にインタビューして、個々の人のストーリを集めてきて、それに基づき戦略を立てれば、馬鹿といわれるだけだと思います。

様々な数字から仮説を立て、既存の数字で足りない場合は、自ら調査をして仮説を練り直し、その上で仮説に基づき、多くの人に直接話しを聴いたりした上で、長期戦略を立案することになります。ただ、それでも仮説に過ぎません。

では、どうするかといえば、3年毎に見直すなどのことをします。うまく行けば、それで良いですし、うまくいかない部分は練り直します。無論取締役以上は直接戦略を立案したり、それを実行することはないですが、戦略以前の理念、理想、方向づけ、さらに問題を浮かびあがらせること、選択を提示し、エネルギーの結集をしなければなりません。それには、論理的思考水平的思考は無論のこと統合的思考が重要です。

統合的思考とは、相克するアイデアや問題事項の対立点を解消することにより、より高次の第三の解答を見つけ出す思考法のことです。理論的思考や、水平敵思考によって、いろいろなアイディアが浮かんできます。ただし、アイディアがたくさんあるだけでは、実行に移すことはできません。

それどころか、混乱するだけです。ここで、数多くのアイデアを取捨選択、統合するとともに、実施すべき順番を考える必要があります。また、数多くのアイデアを束ねるだけではなく、一言で言い表したりして、誰にも理解できるようにして、さらに高次元にする必要があります。それが、統合的思考です。経営者クラスはこれができなければなりません。

マクロ経済政策においては、このような考え方ができないと、その本質を理解し、何を実行すべきかを認識することはできません。

マスコミにもかつては、幹部などではこのようなことができる人もいたのでしょうが、今ではそうではないようです。官僚でも、政治家でもそのような人は少ないようです。

ただ、民間企業にはそのような人も存在します。結局民間企業は、幹部や経営者クラスにでもなれば、様々な戦略などの方向づけなどを行いますが、それがまともだったのか、まともでなかったかは、数年後にすぐに明らかになります。どんなに優れているように見えても、理想的であって、正しく見えても、目標である経済的利益が得られなかった場合は、それは失敗であったことがはっきりするからです。

ただ民間企業とはいっても、たとえグルーパル企業のような巨大企業であったにしても、やはり国全体と比較すれば、小さいです。特に、日米などではそうです。人口数百万くらいの国であれば、大企業にあてはまる考えを国や政府に当てはめてもさほどの齟齬は生じないかもしれませんが、人口が数千万人〜1億人を超えるような国では、それはできません。

大企業で養った、統合的思考が国でも同じようにすべて適用できるかといえばそうではありません。そのため、大企業にあてはまる考えを国や政府に当てはめて奇妙奇天烈、摩訶不思議な主張をする大企業の経営者もいます。

ただ、安倍元総理のように少数ながらも、統合的思考ができる人もいるわけですから、まったく無理ということはないのでしょうが、それにしても今の日本の現状は心もとないです。安倍元総理のことを評して「細かいこと、チマチマしたことが嫌いな人」と評するメディアもありましたが、彼らは安倍元総理が統合的な思考をしているということに思いが至らないのでしょう。

統合的思考によらず、論理的・水平的思考でのみ国の状況や政府の政策を考えると、家計や大企業で通じる考え方を国や政府の政策にあてはめて論議をしがちであり、それは無意味であるどころか、良くて徒労、はなはだしくは有害になったりします。

ただ、一筋の希望もあります。それは、多方面から情報を集める能力持ち、それらを分析し、統合できる若い世代が育っていることです。こういう人たちが増え、テレビのワイドショーだけが情報源であるような人たちが減っていけば、日本でもマクロ的な見方ができるようになるでしょう。

多くの政治家や官僚、メディアの人たちもなぜ自分たちの考えが若者から支持されなくなってきたのか、あるいは自分たちが尊敬されなくなったのか良く考えてみるべきです。

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