2022年6月9日木曜日

日銀黒田総裁の“値上げ許容”発言 本人は発言撤回したものの庶民の怒りは収まらない!あなたは値上げを許容できていますか?―【私の論評】黒田総裁批判でまた露呈したマクロ的見方ができない人たち(゚д゚)!

日銀黒田総裁の“値上げ許容”発言 本人は発言撤回したものの庶民の怒りは収まらない!あなたは値上げを許容できていますか?


日銀の黒田総裁による“値上げ許容”発言が波紋を広げています。

今日国会の場で発言を撤回しましたが、実際、街の人たちは相次ぐ値上げを許容出来ているのでしょうか。

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■黒田総裁「値上げ許容」発言 撤回も…「分かっていない」
食べ物から洋服、そして家電まで、全199店舗、東京・板橋区の商店街「ハッピーロード大山」。

利用客
「大山は物価が安くて生活しやすい」

ただ、この商店街にも値上げの波が押し寄せていました。

6月7日に発表されたものでは、
「コカ・コーラ」の500ミリリットルが10月1日の出荷分から140円が160円に値上げ。

30代
「これ全身ユニクロなんですよ。基本的にユニクロで買い物させてもらっています」

そのユニクロも、8月から順次販売する秋冬向けの一部商品を値上げし、例えばフリースの一部商品は1990円から2990円に。

こうした中、6月6日、日銀の黒田総裁が、相次ぐ値上げに「許容度も高まっている」などと発言。

批判が相次ぎ、6月8日の国会で…

日銀・黒田総裁
「家計が値上げを受け入れているという表現は全く適切ではなかったということで撤回致します」

誤解を招く表現だったと発言を撤回しました。

本当に「値上げ許容度は高まっている」のでしょうか。商店街の人に、緊急調査を実施。

どの程度、値上げを「許容できる」のか「できない」のかを、数値で示してもらいました。

「値上げ許容度は高まっていない」にシールを貼った、こちらの2人。
どのくらい許容できないのかというと…

その度合いは、2人とも100%を超えました。

許容できない100%超
「一般市民の家庭の気持ちはわかっていないですよね」
「(黒田総裁は)ご自分で買い物されないとおっしゃっていたのであまりわかっていないのかなと」

許容できる30% 
「30%くらい。公共料金とかは値段上がっているなと感じるんですけど、まだそんなに急激に圧迫するような状況ではないので」

許容できない100%超
「本当はもっと振り切ってこっちいきたいくらい。黒田さんの発言?冗談じゃないね。上級国民の発言ですからね。実際に庶民の暮らしをしてみたらいいんですよ」

ではみなさん、この値上げラッシュをどんな工夫で乗り切っているのでしょうか。

20代
「安いときにまとめ買いしてストックしておくってことはしていますね」

30代
「野菜とか値上がっているものは控えたり他のもので補って」

■物価の優等生 バナナも値上げ? 店は?“努力の限界”
「安くておいしい」と人気の“物価の優等生”バナナも値上がりするかもしれません。

ラウレル駐日フィリピン大使
「現状のままを継続するというのはフィリピンのバナナ生産者にとって現実的ではなくフェアでもない」 

6月8日、フィリピン大使館は、全国のスーパーの業界団体に、バナナの小売価格を上げるよう申し入れました。

肥料価格の上昇などが理由で、果物の中で、最も輸入量が多いというバナナは、8割近くがフィリピン産。このニュースに…
   
30代
「バナナはすごく食べますね子どもは。他の値上げされてないフルーツを買うとか」

一方、お店側は、原材料費などが値上がりする中、どう対応をしているのでしょうか。

1936年創業の老舗の「新井精肉店」。揚げ物に使う油やパン粉などの価格が上昇し、6月1日からメンチカツなどの揚げ物のほとんどを10円ほど値上げ。

牛肉などの販売価格は据え置きにしていますが、肥料や輸送費が高騰しているといい…

新井精肉店 新井真之店長
「利幅が少なくなってきているので本当にたいへんですね」

カレーパンが人気商品だという、パン屋さん「マルジュー」。
   
マルジュー 伊東正浩代表取締役
「カレーパンだと揚げ油、中の油脂、上がらないものがないくらいすべて上がっています」

油のほかにも、パンの原料となる小麦や、食材、電気代などが値上がりしていることで今後、商品の価格を上げざるを得ないといいます。

マルジュー 伊東さん
「企業努力で吸収できるという範囲を完全に超えているというのが現状です」

2021年7月にオープンした、テイクアウト専門のドーナツ店「いっ久どーなつ大山茶屋」

いっ久どーなつ大山茶屋 伊藤泰翼オーナー
「テイクアウトで渡す袋だったり、飲み物のカップだったり何から何まで小麦粉とかもそうなんですけど全部上がっているので、正直結構きついです」

今後、値上げに踏み切るか、検討中だといいます。

【私の論評】黒田総裁批判でまた露呈したマクロ的見方ができない人たち(゚д゚)!

上の記事は、マクロ経済の話を個々人の物語で語るという間違いをしています。物語とは、主に人や事件などの一部始終について散文あるいは韻文で語られたものや書かれたものです。そもそも、国全体について語っていませんし、それにもともと国全体を物語で語るようなことはできません。

逆にマクロ的な分析に基づき、代表的、あるいは対照的な人、あるいは両方の人に関して物語を書くことはできますが、その逆は不可能に近いです。物語は、理念や理想や個人や組織などの実態に迫ることはできますが、国全体に迫るには無理があります。そのようなことを、与党、野党を問わず多くの政治家や、多くのマスコミが繰り返してきました、今回のことでも何も変わっていないことが露呈したと思います。


日銀の黒田総裁が6月6日、「家計の値上げの許容度も高まってきている」と発言しました。これは共同通信の「きさらぎ会」という講演で述べたものですが、7日の参院財政金融委員会のなかで「適切ではなかった」として陳謝しました。

ただ、スピーチ原稿などを見ると、きちんとデータも揃えて出しています。 これは、通常の物価予想調査です。データもあるし、謝る必要もなかったと思います。 そのデータを以下に掲載します。


マクロ経済の話なので、マクロ経済についての反論があるならいいのですが、マスコミ等はそうではなく、「自分にはそういう余裕がない」という一部の一方的な意見を書くだけなのです。

それに、アンケート調査にも、余裕がないという人が半分くらいいるのです。黒田総裁の話しいは、「許容できる人の割合が増えた」という、それだけの話なのです。

割合が少し増えたというだけなので、相変わらず「許容できない」という人はかなりいます。それはそれで「割合が増えた」ということは正しいのだけれども、こういうときに、マスコミの人はストーリーとして一部の例だけを言うわけです。全体の話をしていないから、議論にならないのです。

黒田さんは全体論として、徐々に許容している人が増えていると指摘していますし、それに「自分は許容していない」という人も、データにも入っています。 昨年(2021年)の8月は57%が許容しなかったのですが、今年の4月には44%になったと指摘しているのです。逆に言うと、許容する人としない人は、五分五分と言えば五分五分なのです。 

そういう意味では、許容しない人の意見があるのは間違いありません。そういうことではなく、全体の数字の変化を言っているだけなのですが、マスコミにはこの話は難しいようです。

ただし、大きな問題点はここにあるのではなく、現在の日本の大きな問題点は、GDPギャップ(需要と供給の乖離)があることです。内閣府の推計で現在の日本のGDPギャップ約20兆円あるととされています。この推計は低めであると考えられます。過去にも、GDPギャップがプラスになっても完全雇用を達成しなかった場合もります。

10兆円くらいは少なめに見積もっているようですから、本当は現状では30兆円くらいあるのです。 そうして、このギャップをどうやって埋めるのかということが問題の本質です。

内閣府の

黒田総裁は、コロナ禍で消費が抑えられ、どこにも使えなかったもの貯蓄になっている状態にあり、この強制貯蓄が爆発すると主張しているのです。しかし、大きなGDPギャップがあった場合には呼び水が必要です。これは誘い水政策ともいいます。不況期において財政支出を呼び水として、民間需要を喚起し景気を回復させようとする政策です

呼び水がないと、消費は爆発はしません。 強制貯蓄があったにしても、将来が不安ですから貯蓄を取り崩すことはないのです。呼び水があって、初めて消費があり、景気がよくなり出すのです。最初にだれが消費爆発のきっかけをつくるのかといえば、それは政府なのです。

黒田総裁ははそうではなく、強制貯蓄があるから政府は何も対策をしなくとも良いという主張をしているわけです。この論法は、財務省がよくやる論法です。私はそちらの方が問題だと思うし、これはマクロ経済の話なのです。マクロ経済のGDPギャップを誰が最初に埋めるか、どのように埋めるか。埋めなければ失業が増えるだけなので、どうやって埋めるかということです。今回の黒田氏批判は、その政策議論まで到達すればいいと思ったのだけれども、どうもそうはなりそうもありません。

今回の黒田総裁のスピーチ原稿は、日銀のホームページに載っています。確かに、「強制貯蓄が」と言う言葉がでてきます。 財務省いつもそれを言っています。「強制貯蓄が~」という人は、財政出動したくない立場の人なのです。

強制貯蓄がどうせ爆発するから、民間は絶対に出るので財政出動は要らないという立場なのです。 しかし、マクロ経済的には強制貯蓄を引き出すためにも、最初に財政出動が必要なのです。順番を間違えるととんでもないことになります。そこをポイントとして政策議論してもらうと面白いのですが、野党の質問を聞いていると、全く無理なようです。「黒田さんは買い物をしたことがあるのですか?」という話ばかりですから話になりません。

そういう意味では、私は黒田総裁の考えには、大反対です。ただ、マスコミが黒田批判をしているのとは全く違う次元で反対です。

そもそも、会社などで、長期戦略などを考えるときに、何も考えずにただ街にでていろいろな人にインタビューして、個々の人のストーリを集めてきて、それに基づき戦略を立てれば、馬鹿といわれるだけだと思います。

様々な数字から仮説を立て、既存の数字で足りない場合は、自ら調査をして仮説を練り直し、その上で仮説に基づき、多くの人に直接話しを聴いたりした上で、長期戦略を立案することになります。ただ、それでも仮説に過ぎません。

では、どうするかといえば、3年毎に見直すなどのことをします。うまく行けば、それで良いですし、うまくいかない部分は練り直します。無論取締役以上は直接戦略を立案したり、それを実行することはないですが、戦略以前の理念、理想、方向づけ、さらに問題を浮かびあがらせること、選択を提示し、エネルギーの結集をしなければなりません。それには、論理的思考水平的思考は無論のこと統合的思考が重要です。

統合的思考とは、相克するアイデアや問題事項の対立点を解消することにより、より高次の第三の解答を見つけ出す思考法のことです。理論的思考や、水平敵思考によって、いろいろなアイディアが浮かんできます。ただし、アイディアがたくさんあるだけでは、実行に移すことはできません。

それどころか、混乱するだけです。ここで、数多くのアイデアを取捨選択、統合するとともに、実施すべき順番を考える必要があります。また、数多くのアイデアを束ねるだけではなく、一言で言い表したりして、誰にも理解できるようにして、さらに高次元にする必要があります。それが、統合的思考です。経営者クラスはこれができなければなりません。

マクロ経済政策においては、このような考え方ができないと、その本質を理解し、何を実行すべきかを認識することはできません。

マスコミにもかつては、幹部などではこのようなことができる人もいたのでしょうが、今ではそうではないようです。官僚でも、政治家でもそのような人は少ないようです。

ただ、民間企業にはそのような人も存在します。結局民間企業は、幹部や経営者クラスにでもなれば、様々な戦略などの方向づけなどを行いますが、それがまともだったのか、まともでなかったかは、数年後にすぐに明らかになります。どんなに優れているように見えても、理想的であって、正しく見えても、目標である経済的利益が得られなかった場合は、それは失敗であったことがはっきりするからです。

ただ民間企業とはいっても、たとえグルーパル企業のような巨大企業であったにしても、やはり国全体と比較すれば、小さいです。特に、日米などではそうです。人口数百万くらいの国であれば、大企業にあてはまる考えを国や政府に当てはめてもさほどの齟齬は生じないかもしれませんが、人口が数千万人〜1億人を超えるような国では、それはできません。

大企業で養った、統合的思考が国でも同じようにすべて適用できるかといえばそうではありません。そのため、大企業にあてはまる考えを国や政府に当てはめて奇妙奇天烈、摩訶不思議な主張をする大企業の経営者もいます。

ただ、安倍元総理のように少数ながらも、統合的思考ができる人もいるわけですから、まったく無理ということはないのでしょうが、それにしても今の日本の現状は心もとないです。安倍元総理のことを評して「細かいこと、チマチマしたことが嫌いな人」と評するメディアもありましたが、彼らは安倍元総理が統合的な思考をしているということに思いが至らないのでしょう。

統合的思考によらず、論理的・水平的思考でのみ国の状況や政府の政策を考えると、家計や大企業で通じる考え方を国や政府の政策にあてはめて論議をしがちであり、それは無意味であるどころか、良くて徒労、はなはだしくは有害になったりします。

ただ、一筋の希望もあります。それは、多方面から情報を集める能力持ち、それらを分析し、統合できる若い世代が育っていることです。こういう人たちが増え、テレビのワイドショーだけが情報源であるような人たちが減っていけば、日本でもマクロ的な見方ができるようになるでしょう。

多くの政治家や官僚、メディアの人たちもなぜ自分たちの考えが若者から支持されなくなってきたのか、あるいは自分たちが尊敬されなくなったのか良く考えてみるべきです。

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