□
金融政策の本質を理解していない鈴木財務大臣の発言 |
こうした論調には、経済全体をとらえるマクロ経済の視点がないものが多い。家計の負担が大きい、中小企業が大変というが、その一方、史上最高の収益を得ている大企業も多い。
米国は利上げしているので、円安是正のため日本も利上げすべきだというのも、マクロ経済の基本ができていない議論だ。金融政策にはインフレ目標がある。それはインフレ率(と表裏一体の失業率)のコントロールを目標とするもので、為替水準を目標とするものではない。
米国においてインフレ率が高くなっているのは、バイデン政権発足直後の大型財政出動によりGDPギャップ(総需要と総供給の差)が解消されたことによるものだ。
しかし、日本では依然大きなGDPギャップ(デフレギャップ)が残っている。そのため、エネルギー価格などは上昇しているが、物価の基調を示すエネルギー・生鮮食品を除く消費者物価指数は4月時点で対前年同月比0・8%上昇に過ぎない。ほとんどのマスコミの報道で、このGDPギャップについて言及されない。
また、日本の報道はエネルギー価格の上昇と円安を混同しているものばかりだ。米国はドル高なのに高いインフレで、日本は円安なのにそれほどインフレでない。エネルギー価格は国際要因なので共通だが、為替は国内物価への影響が少ないのだ。実際、消費者物価指数で、円安が押し上げ効果を持つとされる輸入競合品のウエートは25%程度しかない。
「円安メリットは限定的」との意見にも根拠がない。円高時に海外拠点に移行したからというが、輸出は減っても海外投資収益が増えているはずだ。円安で国内総生産(GDP)が減少するといった議論もあるというが、内閣府などの国内機関や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関の経済モデルと真逆な結論だ。
自国通貨安は、自国経済にはプラスだが隣国はマイナスという意味で、古今東西「近隣窮乏化」として知られている。通貨安は輸出主導の国内エクセレントカンパニーに有利で、輸入主導の平均的な企業には不利だが全体としてプラスになるので、どんな国でも自国通貨安はGDPのプラス要因になる。
もし国際経済常識を覆すなら世紀の大発見だ。いずれにしても、最近まで「通貨安戦争」とあおっていたマスコミが手のひら返しするのは滑稽だ。日本にとって、エネルギー価格の上昇はGDPのマイナス要因だが、円安はプラス要因だ。両者を峻別することが必要だ。
国際通貨基金(IMF)などの国際機関で、世界経済見通しが発表されているが、日本経済の落ち込みは軽微だ。それは円安になっているからだ。円安を不幸中の幸いとして、円安是正よりGDPプラスの効果を生かすべきだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】自民党内最大派閥の領袖安倍氏に表立って反抗できない大企業のサラリーマン社長のような岸田総理は、積極財政に舵を切る(゚д゚)!
「円安が進んで輸入品等が高騰をしている。そうした原材料を価格に十分転嫁できないとか、買う方でも、賃金が伸びを大きく上回るような、それを補うような所に伸びていないという環境。そういうことについては、悪い円安ということが言えるのではないかと思っております」
財務大臣ですらこのような発言をするのですから、マスコミや野党が誤った発言をするのも無理はないのかもしれません。
ただ、心配なのは政治がどう動いていくかということです。
野党第1党の立憲民主党は、物価上昇を奇貨として岸田文雄政権批判を強め、日銀にインフレ対策(金融引き締め)を要求しています。他方、物価高対応という面では岸田政権の財政出動(財政拡大)は不十分だとしています。まさに「金融引き締め」と「財政拡大」を同時に求めるという、相矛盾した支離滅裂な批判です。
党首討論会に臨む(左から)立憲民主党の泉健太代表、自民党総裁の岸田文雄首相、公明党の山口那津男代表=21日午後、東京都千代田区 |
しかし、米国同様にインフレ対策が参院選の争点化するなか、日銀が利上げなどの金融引締に走れば、景気は腰折れし、株価は暴落することになるでしょう。
ただ、岸田政権としては、財政対応が不十分であるという野党の批判によって、政府・自民党はさらなる財政支出の「大義」を得たことになるともいえます。
参院選後に積極財政・金融緩和の両方を実施できるという環境が整ったともいえます。これを岸田氏がどうとらえるかはわかりませんが、いずれにせよ岸田首相が再度の財政刺激策にかじを切る可能性が高まってきました。
岸田政権にはそのようなことはできないし、できるとすれば増税だと思う人も多いようです。しかし、総理が全ての政策を決めると思っている人が多いようですが、確かに安倍総理時代には、安倍氏が自民党内の3分の2を押さえており強い総理であり、官邸主導の政治を行うことができましたが、岸田さんは第五派閥で、大企業に例えるといわばサラリーマン社長のような存在です。安倍政権と岸田政権においては、同じ自民党政権とはいっても全く体制が違うのです。
安倍元総理は、今や自民党内最大派閥の領袖ですし、麻生、安倍、茂木の主要三派が手を組んでいるので、岸田さんは逆らえないです。逆に党が政策を決定しており、総理時代よりも安倍氏は自由に動けます。
そのことを考えると、今後岸田総理が何を言おうと、基本的には政府日銀連合軍方式で、政府が国債を大量発行し、日銀がそれを買い取るという形で、大型の景気対策を実施したり、防衛費を増大したりすることでしょう。
16日仙台市内で講演する安倍総理 |
安倍氏は昨今の物価高について、ウクライナ情勢などに起因するとの認識を示し、「日本が本来目指す物価高とは違う。景気が良くなって、需要が増え、モノの値段が上がって、給料が上がる中で、値段が上がっていく状況ではない」と説明。その上で「(秋に予定される)臨時国会を迎えた時には思い切った財政政策、金融政策をやっていくべき。金利が低い状況では、財政政策は基本的に大きな効果を上げていく」と語りました。
自民が参院選公約で国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に防衛費を増やす方針を明記したことについては「国家意志を示している」と強調。中国がこの30年で軍事費を約40倍に増強したことに言及し、「軍事バランスを、よりバランスの取れた状況に変えていくことが大切だ。ウクライナはロシアと軍事バランスがとれていなかった」と指摘しました。
自衛隊の厳しい運用状況を巡り「機関銃の弾からミサイル防衛のミサイルまで圧倒的に足りない。飛行機の部品を確保するために、なんとか使える飛行機をバラバラにして、他の戦闘機の部品にしていく、いわゆる『共食い』をやっています。こんなことは止めないといけない」と内実を明かしながら、防衛予算を増額すべき理由を説明しました。
防衛費をGDP比で考える理由については「それぞれの国の経済力、実力に見合った防衛努力をしていこうということだ。攻められたとき、努力していない国のため、手を差し伸べる国は世界中どこにもない」と述べました。
これだけ、自民党内最大派閥の領袖安倍氏が語っているわけですから、大企業のサラリーマン社長のような岸田総理が、これまた大企業の財務部長のような財務省のいうことだけを聴いて安倍氏に逆らうようなことはとてもできないでしょう。
そうなれば、安倍派等からそっぽを向かれて、まともな国会運営もできなくなってしまうでしょう。これは、財務省からそっぽを向かれるよりも大変なことです。
秋に予定される臨時国会において、岸田総理は財務省の必死の抵抗にあってもなお、大型補正予算案を出さざるを得なくなるでしょう。
【関連記事】
0 件のコメント:
コメントを投稿