2022年6月24日金曜日

金融緩和への奇妙な反対論 マスコミではいまだ「日銀理論」の信奉者、デフレの責任回避の背景も―【私の論評】財政・金融政策は意見ではなく、原理原則を実体経済に適用することで実行されるべきもの(゚д゚)!

日本の解き方


 デフレ脱却のための金融緩和政策については、かつて日銀内にも否定する声が強くあった。ここにきて「円安の副作用」を批判する声もあるが、こうした反対論は筋が通っているのか。

 かつて日銀内には、いわゆる「日銀理論」があった。これは、1990年代前半の「岩田・翁論争」で明らかになったものだ。当時学者で後に日銀副総裁になった岩田規久男氏と、当時日銀官僚だった翁邦雄氏の間で行われた。

日銀

 岩田氏はマネーサプライ(通貨の供給量)の管理は可能としたのに対し、翁氏は「できない」と主張した。論争は、経済学者の植田和男氏が「短期では難しいが長期では可能」といい、一応収まった。

 2000年代に入ると、日銀はマネタリーベース(中央銀行が供給する通貨量)の量的緩和政策を採用し、リーマン・ショック以降は世界の中央銀行でも量的緩和政策を導入したので、基本的には岩田氏の主張の通りだった。

 日銀は白川方明(まさあき)総裁体制で量的緩和を否定していたが、黒田東彦(はるひこ)総裁体制になって再び量的緩和政策を実施することとなった。そもそも日銀理論は、金利は操作できるが量は操作できないというが、量と金利は裏腹という経済理論から見れば奇妙奇天烈なものだった。

 しかし、日銀理論は形をかえてしぶとく生き延びた。名目金利はゼロ以下にはならないと言い、それで量的緩和を「実施しても効果がない」と主張した。筆者らは、経済理論では「金利」は名目金利から予想インフレ率を引いた実質金利なのでゼロ制約はないとし、各国のデータから量的緩和で実質金利をマイナスにできると指摘した。

 すると、反対派は今度は急に効果があるとし「ハイパーインフレになる」と言い出した。石は普段は動かないが、動き出すと止まらないといういわゆる「岩石理論」だ。筆者らはこれに対し、ハイパーインフレの数量的な定義を持ちだし、実施されている量的緩和からはハイパーインフレが起こらないと再反論をした。

 量的緩和について、「効果がない」から「ハイパーインフレになる」とは、まったくお粗末だが、マスコミは相変わらず、日銀理論を信じている人が少なくないようだ。かつては日銀自身が日銀理論を唱えていたので、日銀に取材しなければ記事を書けない人たちにとっては、日銀理論を否定することは自己否定になるからだろう。

 日銀理論の背景にあるのが、日銀官僚の責任回避だった。量の管理はできないのだから、デフレも日銀の責任ではないというものだ。効果がないとか、効果が出すぎてハイパーインフレになるというのも責任回避の表れだ。量の管理ができないというのは、金融政策ができないというのに等しいが、そこまでして責任回避したいものかと思った。

 官僚制の欠陥は「無謬性(むびゅうせい=間違いを起こさないという考え方)」と「責任回避」であるが、かつての日銀はその典型だった。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】財政・金融政策は意見ではなく、原理原則を実体経済に適用することで実行されるべきもの(゚д゚)!

上の記事で髙橋氏が語っていることは、意見ではありません。事実というか、原理もしくは原則です。あるいは、そこから導かれた見解です。何やら、日銀官僚等が主張することと違うことをいうと、髙橋氏と日銀官僚の意見が異なり、その時々で金融政策は意見の対立によって決まるのではないかと思ってしまう人もいるかもしれません。

金融政策は「意見」ではなく、原理原則を実体経済に適用すべきものである

そのわかりやすい事例が、財政を巡る自民党内の組織です。岸田首相に近い財政健全化推進本部(本部長:額賀福志郎、最高顧問:麻生太郎)と、安倍元首相に近い財政政策検討本部(本部長:西田昌司、最高顧問:安倍晋三)があります。前者は財政再建路線、後者は積極財政路線であり、両者は基本的な方向が異なっています。自民党内で二つの本部があるのはかなり異様です。

このような派閥のバトルで財政が決まるというのですから、財政はその時々で、派閥の力が強いほう、すなわち派閥の意見によって決まると思われても仕方ないです。

本来財政も金融政策も、その時々の意見や、派閥力学の均衡で決めるべきものではありません。もっと簡単で誰にでも理解できる原理原則を実体経済に適用することによって現実的に決められるべきものです。そうして、財政政策検討本部に所属している議員らは、そのことは十分承知なのでしょうが、岸田総理がこのような体制にしてしまったので、現状では財政政策検討本部に属しているのでしょう。

一方、財政健全化推進本部に属している議員らは、自分たちの考えも、財政政策検討本部の議員らの考えも意見であり、自分たちの意見を通したいと考えているのでしょう。

財政政策は元来派閥の争いで決めるべきではない

原理原則とは誰もが単純に理解できるものでなければ、原理原則になり得ません。ただし、原理原則が成立するまでには、科学的検証はもとより、様々な経験や失敗があり、その上に原理原則が成立し、高校や大学の教科書などにも記載されているのです。

そうして、財政政策の原理原則も簡単です。景気が悪ければ、積極財政と金融緩和を、景気が良ければ、緊縮財政と金融引締をするというものです。

そうして、景気の状況を見分ける原理原則も簡単です。一番重要なのは、失業率です。たとえば、景気が悪い時には失業率があがります。そうなれば、積極財政や金融緩和を行います。それで失業率が下がり始めますが、ある時点になれば、積極財政や金融緩和をしても、物価は上がるものの、失業率は下がらなくなります。その時点になったことが、はっきりすれば、積極財政や金融緩和をやめれば良いのです。

反対に景気が過熱してはっきりとしたインフレ状況の場合は、緊縮財政、金融引締を行います。そうすると、物価が下がり始めます、しかしこれも継続していると、やかで物価は下がらず、失業率が上がっていく状況になります。そうなれば、緊縮財政、金融引締をやめます。

基本的には、政府の財政政策と日銀(日本の中央銀行)の金融政策の基本です。さらに、もう一つあげておきます。それはデフレへの対処です。日本人は平成年間のほんどとはデフレであったため、デフレと聴いてもさほど驚かなくなってしまいましたが、デフレは景気・不景気を繰り返す通常の経済循環から逸脱した状況です。デフレが異常であるというのは、疑う余地のない原理原則です。

これを是正するためには、大規模な積極財政、大規模な金融緩和をして一刻もはやくデフレ状況から抜け出すというのが、これまた原理原則です。

これが、財政政策、金融政策の原理・原則です。これ以外の原理・原則はありません。古今東西いずれの国でも、これを原理・原則としない国はありません。最近の日本などがその例外でしょう。

 ただ、EUなどでも、2010年前後には、景気が悪い時には、景気よりも財政再建すべきなどという論文が出され、それに従う国もありましたが、その論文そのものが間違いであることがわかりましたし、それを適用した国で財政政策が失敗したことが明らかになったたため、景気よりも財政再建を重視する国はすぐになくなりました。固執し続けているのは日本だけです。

以上のような原理原則は、高校の「経済社会」の教科書にも掲載されていることですし、マクロ経済のテキストでも原理・原則として扱われていることです。読めば誰にでも理解できます。

安倍総理が提唱した「アベノミックス」は原理原則に基づいたものであり、当たり前のことを言ったものです。これに対してかつてエコノミストの浜矩子氏は「アベノミックスには新しいものは何もない、アホノミックスだ」と述べました。原理原則といわれるものには、新しいものなどありません。すべて検証されつくして、疑う余地のないものだから、原理原則となっているのです。

浜矩子氏が何を言いたかったのか、理解に苦しみますが、「アベノミックスには新しいものは何もない」という発言自体は正しいです。「アベノミックス」を持ち出すまでもなく、日本では財政政策の原理原則が無視されていることが問題なのです。

無論原理原則だけでは、実際の財政政策、金融緩和政策を行うのは難しいです。財政政策というと、一昔前の政治家、ひょっとすると今でも「公共工事」をすることだと考える政治家も多かったようですが、そのような単純なものではありません。その他にも、減税や給付金制度などもあります。

本来財政政策の目標など政府が定めて、その目標を達成するために財務省が専門家的立場から手段や期間などを選び、実行するというのが、財政政策の原理・原則ですが、日本ではなぜか財務省の財務官僚が政治組織のようにふるまい、財政政策の目標設定も関与し、とにかく隙きあらば緊縮財政、増税をしようとするのですから、異常です。

日銀も同じことです。日本国の金融政策の目標は政府が定めて、その目標を実現するために、日銀が自由にその方法選んで実行するのが、国際標準の中央銀行の独立性というものです。日本ではこの中央銀行の独立性が間違って認識されているようで、白川総裁までは、上の記事にもあるように、奇妙奇天烈、摩訶不思議な理論で、とくにかく金融引締ばかりを繰り返しました。

財務官僚と、日銀官僚の誤謬によって、日本は平成年間のほとんどの期間が深刻なデフレに見舞われました。

世の中で原理・原則といわれるものを無視すれば、とんでもないことになります。実際日本は、財政・金融政策の原理原則が無視されて、30年以上もデフレが続き、賃金も上がらないというとんでもない状況に見舞われました。


経営学の大家ドラッカー氏は、マネジメントに関する原理原則を語り、それに関する著作を多く残しました。

マネジメントを一言で言い表すならば「人と社会のお役に立つこと」です。ドラッカーはマネジメントの原理原則は「成果を中心に置くということ」としました。マネジメントの原理原則とは、人に指示命令することでもなく、人を支配することでもなく、人を操作することでもなく、「責任が中心に据える」ものなのです。

ドラッカー氏はこれ以外にも様々なマネジメント上の原理・原則を語っています。企業などで、日々起こる事柄のほとんどはこの原理原則を適用できます。適用できないもはごくわずかです。

私は、この原理原則を知って以来、会社のことであまり悩むことはなくなりました。そのようなことよりも、この原理原則をどのように現実問題に適用するかに集中するようになりました。

テレビや新聞などで様々な問題などが日々報道されますが、この原理原則を知っているのとそうでないのとでは随分違うと思います。無論原理原則は、ノウハウなどではないので、すぐに実践できるということはありませんが、ほぼすべての問題に考える緒を与えてくれます。

ドラッカーの人生の原理・原則

この原理原則を知らずに、長時間悩んだりしている人をみると非常に気の毒に感じます。ただ、残念なことに、米国の経営学会ではドラッカーはほとんど忘れられているそうです。現在の経営学の主流は因果関係に力点を置くものがほとんどであり、それが原因で忘れ去られたようです。

しかし、ドラッカーのマネジメント上の原理原則は、原理原則であるがゆえに今でも十分に役立つと思います。考え方や意見などは変わるものですが、原理原則はよほどのことがないと変わりようがないからです。そうして、米国の社会の分断はドラッカー流の見方が忘れ去られことも大きな原因の一つではないかと思います。

多くの人が原理原則に基づいたドラッカー流の見方ができれば、米国ではあのような深刻な根深い分断は起こらないと思います。

日本でも、特に財政・金融政策には原理原則に立ち返り、まともな政策ができるようにすべきです。

そのためには、原理原則をわきまえた有力な人に議員になってもらわなければなりません。参院選では個人を選ぶこともできます。これを活用して、原理原則をわきまえた人に一票を投じるべきと思います。

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