2022年6月28日火曜日

ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる―【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる

岡崎研究所

 6月9日付のワシントン・ポスト紙(WP)に、同紙コラムニストのファリード・ザカリアが、「最善の対中戦略? ロシアを敗北させろ」と題する論説を寄せ、ウクライナ戦争でのロシアの敗北が中国に与える影響を論じている。


 ザカリアは、論説の冒頭で、バイデン大統領の次の言葉を引用した。「もしロシアにその行動に重い対価を払わせないならば、それは他の侵略国に彼らも領土を取得し、他国を従属させられるとのメッセージを送るだろう。それは他の平和的民主国の生き残りを危険にさらす。そしてそれは規則に基づく国際秩序の終りを意味し、世界全体に破局的結果をもたらす侵略行為に扉を開く」。

 その上で、論説の最後の方で、今、最善の対中戦略はロシアをウクライナで敗北させることであるとした。それは、ロシアを強く支持した習近平にとって、同盟国ロシアが敗北することは、自らの痛手ともなるからである。逆に、プーチンが生き残れば、習近平も、西側諸国は規則に基づく国際秩序を十分に守れなくなっていると思い、攻撃に出る危険も増すと述べる。

 ザカリアの論説は、良く考えられた的を射た論説である。

 ロシアのウクライナ戦争を失敗に終わらせること、ロシアがこの戦争で弱い国になってしまうことを確保することは、今後の世界情勢がどういうように発展していくかを決めると思われる。

 中国は、米国を主敵と考え、対米関係で対抗的姿勢をとっており、ロシアのウクライナ戦争を非難していない。経済制裁によるロシアの苦境を和らげるように、欧州が輸入することをやめようとしている石油を買っている。

 中国は、ロシアへの武器供与はしていないようであるが、それ以外には総じてロシアと協力的関係を維持している。習近平が個人的にもプーチンを支持しているからであろう。

 ロシアの侵攻前、2月4日、北京五輪開会式の日に行われた習近平とプーチン会談で、プーチンがウクライナ侵攻計画を習近平に話したかどうかについては、断言できない。在ウクライナ・中国大使館は侵攻まで、首都から退避する措置を何らとらなかったからである。

求められる日本の不退転の姿勢

 今はウクライナでのロシアの敗北は、中国に大きな影響を与える。

 ザカリアがロシアのウクライナでの敗北を確実にすることが対中戦略上も決定的重要性を持つというのはその通りであろう。ロシアは衰退しているが、衰退する大国は危険でもあることを第一次世界大戦のオーストリア・ハンガリー帝国を例に指摘しているのもその通りだろう。

 日本は、南を中国、北はロシアと国境を接している。かつて安倍晋三政権時代、日本は、対中戦略において、ロシアと接近することも必要だとした。

 それは、冷戦時代に米国が対ソビエト戦略において中国と接近したのと似ている。しかし、ウクライナへのロシアの侵攻や北朝鮮のミサイル発射に対する中露の協力的姿勢を目の前にした今日、もはや、そのやり方は通用しないことがわかった。

 日本にとっては、より厳しい国際環境にあるが、自国の国防力を強化するとともに、日米同盟の緊密化、さらに価値観を共有する友好国と共に、より協力して行動することが必要だろう。

【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

ファリード・ザカリアが、「最善の対中戦略? ロシアを敗北させろ」 という主張には、賛成できる面もありますが、賛成できない面もあります。まずは、どの程度の敗北を想定しているのかはっきりしていない点があります。

無論私自信も、ロシアは敗北させるのは当然のこととは思っています。ただ、どこまで敗北させられるかは未知数の部分もあります。そもそも、ロシアはウクライナに攻め込んでいますが、ロシア自体はウクライナに攻め込まれているわけではありません。また、ウクライナが攻め込むつもりもないでしょう。


また、NATO諸国もロシアがNATO諸国のいずれかの国が侵攻されない限り、ロシアを直接攻撃したり、ロシア領に侵攻することはしないでしょう。

そうなると、ロシアが戦争に負けても、最悪ウクライナから引き上げるだけということになるでしょう。ロシアのモスクワを含む一部の地域にでもNATO等が侵攻していれば、それこそ、第一次世界大戦のドイツに対するような過酷な制裁を課することができるかもしれません。

しかし、ウクライナ戦争の戦後は、そのようなことはできません。ロシアを敗北させるには、限界があるということです。

であれば、敗北させたり、制裁を課したりするだけではなく、他の手立てを考えるべきだと思います。

それは、人口4400万人のウクライナの一人あたりのGDP(4,828ドル、ロシアは約1万ドル) を引き上げ、人口1億4千万人のロシアよりGDPを遥かに大きくすることです。現在ロシアのGDPは韓国を若干下回る程度です。

韓国の人口は、5178万ですから、一人あたりのGDPで韓国を多少上回ることで、ウクライナのGDPはロシアを上回ることになります。

そうして、その条件は揃いつつあると思います。まずは、戦争が終了した場合、西側諸国の支援のもとに復興がはじまります。ロシアは戦争に負けても、ウクライナに賠償金支払うつもりは全くないでしょうが、西側諸国が凍結したロシアの私産をすべてウクライナ復興にあてることになるでしょう。

あれだけ国土が痛めつけられたわけですから、これを復興するということになれば、それだけで経済活動はかなり盛んになるはずです。日本も第二次世界大戦では甚大な被害を受けましたが、凄まじい速度で復興しました。インフラが破壊されたということは、別の面からみると、効率が良く、費用対効果が高いインフラに取り替えることができるということです。

さらに、ウクライナはITなども進んでいますから、爆発的な成長が期待できます。軍需産業も存在しますから、軍需と民間の両方で経済を牽引することができるでしょう。

ただ、戦後復興が終了した後に、さらに経済を大きくしようとすれば、西欧諸国なみの民主化は避けて通れないでしょう。実際このブログで過去に紹介したように、経済発展と民主化は不可分です。その記事のリンクを以下に掲載します。
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詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
G20の状況をまとめると、高所得国はもともとG7諸国とオーストラリアであった。それに1万ドルの壁を破った韓国、サウジ。残りは中所得国で、1万ドルの壁に跳ね返されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6ヶ国、まだそれに至らないインドとインドネシア。それに1万ドルになったと思われる中国だ。

さらに、世界銀行のデータにより2000年以降20年間の一人当たりGDPの平均を算出し、上の民主主義指数を組み合わせてみると、面白い。中所得国の罠がきちんとデータにでている。
民主主義指数が6程度以下の国・地域は、一人当たりGDPは1万ドルにほとんど達しない。ただし、その例外が10ヶ国ある。その内訳は、カタール、UAEなどの産油国8ヶ国と、シンガポールと香港だ。

ここでシンガポールと香港の民主主義指数はそれぞれ、6.03と5.57だ。民主主義指数6というのは、メキシコなどと同じ程度で、民主主義国としてはギリギリだ。

もっとも、民主主義指数6を超えると、一人当たりGDPは民主主義度に応じて伸びる。一人当たりGDPが1万ドル超の国で、一人当たりGDPと民主主義指数の相関係数は0.71と高い。

さて、中国の一人当たりGDPはようやく1万ドル程度になったので、これからどうなるか。中国の民主主義指数は2.27なので、6にはほど遠く、今の程度のGDPを20年間も維持できる確率はかなり低い。
現状のロシアの一人あたりのGDPは、中国と同程度の1万ドル前後です。中国の人口は14億人で丁度ロシアの人口の十倍なので、国単位では中国のGDPはロシアの十倍になっていますが、両国とも、バルト三国や台湾よりも一人あたりのGDPは低いのです。

どうして民主化が経済発展に結びつくのかに関してはの論考は、ここで述べると長くなってしまうので、下の記事を参考にしてください。
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戦後復興後にウクライナが民主化に取り組み西側諸国のようになれば、 一人あたりのGDPがロシアをはるかに上回るのは、さほど難しいことではないでしょう。

それに、最近ウクライナが本格的に民主化する可能性が高まってきました。それは、ウクライナのEU加盟の可能性です。


ウクライナにとり欧州連合(EU)加盟は念願である一方、EU基準に程遠い制度や体質が改善されず実現は夢のまた夢でした。候補国として一歩を踏み出せた意義は大きいです。ロシアの侵略に対する欧米の「支援疲れ」も叫ばれる中、勇気づけられたことでしょう。

ロシアとの関係を断ち切りたいウクライナにとって、EU加盟で域内諸国との人、物、金の移動が自由になればメリットは大きいです。各国との通商がより活発になり、企業誘致やEUからの助成金も見込めます。外交上もロシアに対抗する後ろ盾ができ、国力の底上げにつながります。

ただ、今回の動きがロシアの侵略で大勢の命が失われた結果であることも忘れてはならないです。EU加盟には法の支配や人権など多くの項目でEU基準をクリアする必要があります。ウクライナは加盟に向けて国内法や規制を変更してきたが、それでも候補国になれていなかったのが実情です。

新興財閥(オリガルヒ)が政権と癒着する、裁判官や検察官の試験に賄賂で合格する、大学教授が授業の単位を金で売るなど、ウクライナは有数の汚職国家といわれてきました。

親露派政権が倒れてクリミア半島が占領された2014年以降、国家汚職対策局を設置するなど汚職排除に努めたましたが、いまだになくならないです。基準があいまいな汚職対策をEUがどう評価するかが、加盟に向けたポイントになります。

EU加盟は社会が変わるということです。汚職や腐敗体質が浸透しているウクライナは、急激な変化が生む負の側面も想定しておかなくてはならないです。

通常、加盟手続きには10年前後かかります。EUも1カ国を特別扱いするわけにいかず、他の候補国よりも先に加盟することはないです。道のりは長いですが、西側諸国の全面的支援もあります。焦らずに課題を着実に解決すれば加盟が早まる可能性もゼロではないです。

そうして、ウクライナがEU諸国並に民主化できれば、さらに経済発展する可能性が高いです。過去の汚職や腐敗にまみれてきた、ウクライナが社会を変えることは難しいかもしれませんが、それでも、民主化してロシアのGDPをはるかに凌駕することを目指すべきです。

そうして、日本のかつての池田内閣の「所得倍増計画」のように、「ウクライナGDPロシア凌駕計画」などと公言したうえで、実際にそれを達成すれば、より効果的でしょう。

また、ウクライナならそれも可能です。すでに一人あたりのGDPがロシアのそれを上回っているバルト三国の人口は、三国合わせても619万人です。これでは、バルト三国全体をあわせても、ロシアのGDPを上回るのは至難の技です。

台湾も一人あたりのGDPでは、中国を上回っていますが、台湾の人口は、2357万人であり、バルト三国などよりは大きいですが、台湾が中国のGDPを上回るのは到底不可能です。

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。

その頃には、ロシアの経済は疲弊して、ウクライナのほうが存在感を増すことになるでしょう。そうして、ロシアのウクライナに対する影響力はほとんどなくなるでしょうしょう。実際、日本でも1960年代の高度経済成長の頃から、当時のソ連の影響は日本国内ではほとんどなくなりました。これを見る中国は、武力侵攻は割に合わないどころか、経済的にも軍事的にも疲弊しとんでもないことになることを思い知るでしょう。

それどころか、ロシアの国民は繁栄する一方のウクライナに比較して没落する一方のロシアの現状に不満を抱くようになるでしょう。ロシア人以外の民族で構成さているロシア連邦国内の共和国などでは独立運動が再燃するかもしれません。

実際、ウクライナが大国になれば、多くの国がウクライナと交易してともに従来より栄えるようになるでしょう。ロシアの経済の停滞を補う以上のことが期待できます。ウクライナがNATO入る入らないは別にして、安全保証ではロシアの前にウクライナが控えているという事実が安心感を与えることになるでしょう。

また、ウクライナ戦争中に西欧諸国から支援を受けたウクライナは、その期待に答えようとするでしょう。

もし大国になったウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアはパニック状態になるでしょう。それは、中国も驚愕させることになるでしょう。

日本としては、戦災・震災の復興の経験を生かし、ウクライナに対して資金援助だけではなく、様々なノウハウを提供すべきでしょう。さらには、ロシアに侵攻される直前のウクライナは日本にも似た状況にあったことから、復興し経済成長したウクライナのあり方は、日本にとっても非常に参考になります。

日本は、自らも学ぶという姿勢でウクライナに支援すべきでしょう。

ただし、先程も述べたように、ウクライナが西洋諸国なみの民主化を実現しなければ、これは絵に描いた餅で終わることになります。

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