2022年6月4日土曜日

本格的な賃金上昇が進むのは…GDPのギャップ解消から半年後 30兆円分埋める政策が必要だ!―【私の論評】現在の物価高に見合って賃金を上昇させるにはGDPギャップを埋めるしかないことを共通認識とすべき(゚д゚)!

日本の解き方



 このところの物価上昇をめぐり、「賃金の上昇が追いつかず、実質賃金がマイナスになった」と報じられている。企業の賃上げが本格化するのはいつごろなのか、物価上昇を上回る賃上げは進むのか。

 まず、賃金に関する経済理論を整理しておこう。賃金は、基本的には、労働の供給と需要によって決まる。つまり、基本的に個人の生産能力がベースであるが、労働市場の環境によって大きく左右されることもある。

 その上で、労働者を採用する企業数や規模、労働市場に関する情報が不完全な場合や労使間の賃金交渉の方法の違いなども影響してくる。このうち、はじめの部分、つまりマクロ経済に関する部分のみを考慮してみよう。

 名目的な賃金を上げるうえで、「労働供給」は人口などの要因で決まるので、「労働需要」が重要になってくる。労働需要は派生需要なので、経済活動に由来する。つまり、景気がよければ労働需要が増すが、景気が悪ければその逆だ。ここから、国内総生産(GDP)が増えると、失業率が低下するという「オークンの法則」が出てくる。

 労働需要が満たされる状況は、失業中の人が職を得ることから始まる。その段階では、無職ではなくなるが賃金は低い。このため、名目的な賃金ですら、平均値でみると下がってみえることもある。

 しかし、労働需要が増してくると、人手不足になる業者も増えてくる。となると、名目的な賃金は平均でみても間違いなく上がる。

 アベノミクスは、名目的賃金を上げるまでの貢献はあった。最後の段階で、コロナ・ショックがあったものの、失業率を下げ、名目賃金が上がるまでになった。

 新型コロナ対策として安倍晋三・菅義偉政権は大型補正予算を計上し、失業率の増加を先進国で一番低くした。その際、マクロ経済での有効需要増とともに、雇用調整助成金も使った。後者については失業者の増加を防ぐ効果もあったが、結果として本来失業している人も救ったことで賃金の高止まりも招いた。これは賃金上昇を弱めることにもつながっている。

 本コラムで繰り返しているが、GDPギャップ(総需要と総供給の差)が30兆円程度以上と相当な額になっているので、労働需要を喚起できずに、賃金の上昇圧力もない。

 当面、海外要因による物価上昇の影響が大きく、名目賃金上昇もそれに及ばないという状況だ。

 筆者の見立てでは、GDPギャップが解消しないと、実質賃金の上昇は見込めない。GDPギャップが解消して半年以上の一定期間を経過すると、インフレ率も当面高くなるが、それ以上に名目賃金も伸びるようになるだろう。

 インフレの基調を示すエネルギー・生鮮食品を除くいわゆる「コアコア消費者物価指数」の対前年同月比は4月時点で0・8%上昇に過ぎないが、最近のマスコミ報道はインフレを煽(あお)るものが多い。その中で、GDPギャップを埋める政策がとれるかどうかがポイントだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】現在の物価高に見合って賃金を上昇させるにはGDPギャップを埋めるしかないことを共通認識とすべき(゚д゚)!

過去30年間も、日本人の賃金が上昇しなかった原因は日銀が過去に金融政策を間違え、ほとんどの期間金融引締をしてきたため30年間もマネーストックが伸びなかったことが原因です。

これは、上の記事を書いた髙橋洋一氏も過去に同じことを語っています。それについては、このブログでも取り上げたことがあります。その記事を以下に掲載します。
【日本の解き方】日本の賃金はなぜ上がらない? 原因は「生産性」や「非正規」でなく、ここ30年のマネーの伸び率だ!!―【私の論評】日本人の賃金が低いのはすべて日銀だけのせい、他は関係ない(゚д゚)!


日本における生産性は日々向上しています。それも様々な分野で向上しています。同じ職場で同じ職位でも20年〜30年も勤務していれば、余程の人でない限り、個人の努力や、効率化、IT化などで、生産性はかなり上がるでしょう。おそらく、少なくとも2倍から3倍あがるでしょう。

さらに、日本企業は様々なイノベーションをして、既存の製品やサービスを改善し、さらに新たな製品も作り出します。

現在の世界では、日本も含めた先進国ならば20〜30年もすれば、様々な効率化やIT化やイノベーションが行われ、20〜30年前と比較すれば、効率化はすすみ、さらに従来なかった製品やサービスもうまれ、様々な側面で生産性はあがることでしょう。それこそ、総体的には2倍〜3倍生産性はあがるわけです。

こうして、生産性が上がったにも関わらず、それに応じて中央銀行がマネーストックを増やさなければ、何がおこるかといえば、デフレです。それは当然のことです。効率が良くなり、様々なイノベーションて従来にはなかった製品やサービスができあがっても、それに見合って貨幣か増えることなく従来のままであれば、それらを購入するには貨幣が足りなくなりますから、デフレになるのです。

政府が音頭をとって、たとえばAIで大イノベーションを起こそうとしたとします。当然声をかけるだけではなく、大規模な投資もするとします。それに民間企業も応じて、AIで大イノベーションがおこり生産性が飛躍的にあがったり、新たな製品やサービスが登場したとします。

それでも、日銀がマネーストックを増やさず、従来のままにしておけば、どうなりますか。無論デフレです。それに、いくらイノベーションをしたとしても、日本人の賃金は上がらないことになります。

企業がどんなに努力して、イノベーションを起こしたとしても、日銀がそれに応じてマネーストックを増やさなければ、デフレになり、賃金も上がらず、何も良いことはないのです。

それだけ、中央銀行のマネーストックの管理は重要なことなのです。ただし、中央銀行のマネーストックの管理はさほど難しいことではありません。イノベーションや生産性の向上を前提とした上で、毎年2%内外マネーストックを増やすだけで良いです。

そうして、それを実行しつつ、物価は上がっても、失業率が上がるような状態が続けば、金融引締策をすれば良いだけです。金融引締を続けて、物価が下がるようであれば、また金融緩和をすればよいだけです。これを交互に繰り返して20年〜30年もたてば、マネーストックは2倍から3倍増え、賃金も2倍〜3倍になります。

このようなことを過去30年世界の日本以外の中央銀行が行ってきましたが、日本の中央銀行である日本銀行だけが、過去30年間のほとんどの期間を金融引締政策ばかりしていたので、日本人の賃金は上がらなかったのです。

まずは、日銀が金融緩和策を継続しつづけるという前提がなければ、日本人の賃金が上がることはないのです。ただし、現在の日本銀行は金融緩和を継続しています。上の髙橋洋一の話はそれを前提として、当面の物価上昇に見合うだけの賃金にするためには、何をすればよいのかという趣旨でまずは、GDPギャップを埋めるべきであると提唱しているのです。

そうして、GDPギャップを埋めて、物価上昇に見合うだけの賃金上昇があったにしても、その後も日銀が金融緩和策を取らなければ、日本人の賃金は上がりません。

そうして、確かに日銀が金融緩和の姿勢を崩さなければ、いずれ日本人の賃金もあがってはくるでしょうが、それにはかなりの時間を要するでしょう。当面の物価上昇に対応できる賃金上昇は期待できません。GDPギャップを埋めなければ、直近で物価上昇を上回る賃金上昇は期待できないでしょう。

GDPギャップが解消して半年以上の一定期間を経過すると、インフレ率も当面高くなりますが、それ以上に名目賃金も伸びるようになります。そうして、その前提として日銀が金融緩和策を継続が必須です。

以上のようなことは鳥頭のマスコミには理解できないようです。物価高という一つの出来事があれば、それで頭がいっぱいになり他のことは考えられなくなるのです。

現状では、国民経済のことを考えれば、積極財政が重要なのです。現在今年の「骨太の方針」に、2025年までのプライマリーバランス(PB)黒字化目標を入れるかどうか、大論争になっています。

財政の持続可能性は、債務残高対GDP比の経路で見ていくのが普通の考え方で、PB黒字化は、それが収束・安定する事と何の関係もありません。本質的に重要なのは持続的な経済成長です。

しかも、現在は先にも述べたように、GDPギャップを埋めるのが最優先です。そうして、現在はそれを巡って駆け引きが行われている真っ最中です。骨太原案で、PB目標年次の基準がなくなったから、財務省完敗という人もいますが、他のところで「これまで通り」等と書いてあるものもあります。

当初、安倍さんと麻生さんは、財政政策検討本部でした。そこで、財務省は麻生さんを財政健全化本部に引き抜き画策、これを岸田首相が了解。その後は、対立を装っただけで、手打ちは終わっていたので。これが“ワル”の財務省やり方です。マスコミはこれを報じていません。これが読めないで、暴発したのが、逮捕された財務省の高官です。

このあたりの顛末は以下の動画をご覧いただければ、よくご理解いただけるものと思います。 



 現在やるべきことは、積極財政と金融緩和の両方です。積極財政で、エネルギー・原材料価格を抑える政策をすれば、なお良いです。

最近のマスコミ報道はインフレを煽るものが多いです。その中で、GDPギャップを埋めるべきことは共通認識として多くの人が共有すべきです。

あとは、最終的に「骨太の方針」に、2025年までのプライマリーバランス(PB)黒字化目標を入れないことを祈るばかりです。

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