2012年5月25日金曜日

太陽光発電は全体の3%!? 「脱原発」維持に向けて現実的な方策を模索し始めたドイツの厳しいエネルギー事情―【私の論評】「原子力の取捨云々」以前に、まず、現実的判断に基づくエネルギー論議をすべき!!

太陽光発電は全体の3%!? 「脱原発」維持に向けて現実的な方策を模索し始めたドイツの厳しいエネルギー事情


ドイツの環境大臣が交代した。。独自のエネルギー政策を模索中の日本は、過激で遠大なエネルギー転換に向かって突き進んでいるドイツを、絶対に視野から外せない。ただ、ドイツも暗中模索、いかにスムーズに再生可能エネルギーを伸ばしていくかという方策については、実際は、傍が思っているほど一枚岩ではない。そのジレンマが、環境大臣交代の1つの要因となったことは確かだ。

さてドイツは、脱原発を決めたは良いけれど、再生可能エネルギー計画は激しく滞っている。たとえば、ネックの1つは送電線設置の遅れ。風の吹く北ドイツにいくら風車を作っても、それを電力消費地区である中・南部へ運ぶ高圧送電線網がない。建設計画は山ほどあるが、そのほとんどは、まだ着手されていないどころか、建設許可さえ下りていない。したがって、今ある風車でさえ、風の強い日は容量オーバーになるので、部分的に止めている状態だ。

太陽光電気の買取り価格は、当然のことながら市場価格よりも高い。そうでないと、誰もパネルを付けようという気にならない。太陽光電力を市場価格より高く買い取ってくれるのは、国ではなく、電力会社だ(国にはそんな予算はないので、電力会社に押し付けた)。では、電力会社がどうやってその差額をひねり出すのかというと、いたって簡単、電気代に上乗せするだけ。つまり、私が電気を売って得る収入を、国民全員が負担してくれることになる。つまり、パネルがさらに増えれば、電気代はますます高くなっていく。


ドイツの電気がどれだけ高いかというと、家庭用も大型消費用も、すでにフランスのほぼ2倍近い。家庭なら節電して我慢するという方法があるが、企業のほうはそうもいかない。電気代が高騰すれば、倒産するか、国外に出るしかない。現在、日本が抱えている問題とまるで同じだ。

これだけ問題が山積みなのに、この1年、メディアはそれらを遠慮がちにしか報道しなかった。前環境大臣のロットゲン氏も、CDUであるにもかかわらず、緑の党と見まがうばかりの過激さで、2050年にはドイツの電力の80%を再生可能エネルギーにする、と主張してきた。過去、ドイツのエネルギー問題は、常に環境省と経済技術省の綱引きだったから、経済技術省には、ロットゲンの"頑張り過ぎ"に眉をしかめていた人も多かったに違いない。


しかし、去年の脱原発の決定は、竜巻のように全国民を巻き込み、ものすごい勢いで進んだので、空気は完全に環境省に味方した。メディアも、もろ手を挙げて脱原発を応援したという経緯があるので、未練がましいことは報道しにくかったのかもしれない。

だからこそ、これから"伝家の宝刀"アルトマイヤー氏が、バラ色でない部分を啓蒙するという困難な役回りを背負うのだろうと思っていたら、さっそく23日の夜のニュースで、エネルギー転換の厳しい現状が報道され始めた。すでに潮目は変わっている。

これからは、電力会社や産業界も意見を発信しやすくなるはずだ。環境省と経済技術省も、なるべく一丸となって、現実的、かつ具体的なエネルギー政策を模索していくだろう。今までのように、常に全会一致のような論議は、非現実的で、かえって不健康だった。賛否両論があってこそ、地に足の着いた、よい妥協点が見つけられるに違いない。

ドイツでも日本でも、エネルギー政策は危急の問題だ。国民の生活、産業の発展、そして環境に、直接的に関わってくる。だからこそ、ドイツの新しい環境大臣の舵切りがどのようなものになるのか、とても興味深い。私たちが参考にできることもあるだろう。というわけで、せいぜいドイツのエネルギー・ウォッチに精を出して、今後も耳よりな情報をお届けしたいと思っている。



【私の論評】「原子力の取捨云々」以前に、まず、現実的判断に基づくエネルギー論議をすべき!!


日本では、昨年の原発事故以来、次々と、原発が稼動を停止し、とうとう今月の泊原発で、日本の原発は全部稼動を停止しました。これをもって、脱原発派は、勢いづいています。しかし、今後の電力需給を考えたり、あるいは、現状のデフレ状況を回復するためには、さらなる電力需要の増大が見込まれます。にもかかわらず、政府は明確な方針を示そうとしません。


脱原発にするせよ、原発推進をするにしても、もっと、広範で、奥行きの深い調査と、情報開示と、将来のエネルギー政策をはっきりさせていくことが、重要な課題です。反原発派のように、単純にすべての原子炉を廃炉にせよなどという極端な論議は避けるべきです。


日本で、これを推進していく上で、ドイツの例はかなり参考になります。私は、ドイツ政府の掲げる脱原子力政策は、それが緑の党による急進的なものでなく、社会民主党主導のいくぶん穏やかなものであるとしても、やはり、非常に実現困難なものであるように思われます。


社会民主党サイドの主張するところの「再生可能エネルギーの導入」に異論を唱えるものではありませんが、それと「原子力からの撤退」は表裏一体をなさないと思います。再生可能エネルギーの開発はどの国でも積極的に行っています。日本においても、原子力開発を進めるあまり再生可能エネルギーの開発を阻害するというようなことはなく、各電力会社とメーカーにおいて、地域事情を考慮しながら、再生可能エネルギーの開発とコストダウンに努めています。


原子力の選択肢を捨て去らなくても再生可能エネルギーの開発は可能ですし、その逆もまた可です。結局のところ,ドイツの連立与党が本当に望むところはやはり「原子力利用からの撤退」そのものなのでしょう。しかしこの政策が国民が懸念するところの失業の増大、エネルギー安全保障不安、電力料金の上昇につながり、さらに温室効果ガスの排出規制が今後喫緊の課題となって各国政府に突きつけられてきたとき、やはりドイツといえども原子力の選択肢を捨て去ることはできないのではないかと私は考えます。そうして、上の記事では、原発推進は、否定しているものの、明らかに潮目が変わっていると評しています。


加えて、ドイツの原子力産業は、これまで世界の原子力平和利用の一翼を担い、さまざまな形で原子力平和利用技術とその成果物を供給してきています。今後も各国のユーザーサポーターとして、それらの技術改良、成果物の品質保証を行っていく必要があります。そもそもドイツはユーラトムの一員であり、ドイツ政府が好むと好まざるとに関わらず、現在の世界の原子力平和利用体制の中で重要な役割を負っています。与党内においても、将来の研究開発まで放棄してしまうか否かについては見解が分かれているようですが、世界の原子力平和利用技術の安全性、境適応性向上のために、ドイツには今後も原子力に関する研究開発を継続し、選択肢としての原子力を維持すべきです。


日本人の見るドイツ人像として,「環境(保護)意識が高い」という点が真っ先に挙げられると思います。今回の脱原子力政策もその延長線上に位置づけられ、報道されているようです。これらのドイツの状況に対し、多くは「理想的な社会への憧憬・羨望」を感じ、一部では「非現実的な理想論」と受け止められていることでしよう。しかしながら、実際のドイツ国民の行動は、単なる根拠のないユートピア願望によるものではない極めて冷徹かつ現実的な現状認識と打算の基に選択され、実践されていることに気づくべきです。緑の党主導の拙速な脱原子力政策が支持されていないことがその表れです。この思考・行動様式こそドイツからわれわれ日本人が学ぶべきことだと思います。日本においても是非「原子力の取捨云々」以前に、まず、現実的判断に基づくエネルギー論議をすべきであると思います。


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