トランプ大統領(右端)をはじめ各国首脳が繰り広げる外交は駆け引きで成り立っている |
米朝首脳会談をめぐって、国内では一喜一憂したような報道が繰り返されている。いまだに実現されていない会談の結果を、あたかも知っているかのように論じる人たちもいるが、まことに滑稽である。
先日の南北首脳会談で、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が終始笑顔であったこと、その他の映像を見て、正恩氏が人格者で人情味のある指導者であるかのように論じる人がいる。一方で、安倍晋三首相率いる日本外交は「蚊帳の外」に置かれていると警鐘を乱打する人まで、多種多様だった。
冷静に考えれば、親族まで平然と殺戮(さつりく)する人物が、人格者であるはずがない。ドナルド・トランプ米大統領と太いパイプを持つ安倍首相が、「蚊帳の外」に置かれているはずがない。
しかしながら、冷静になって考え直すべきなのは、この会談の本質である。これは、「米朝友好」や、「東アジアの平和」「正恩体制の維持」などをめぐる各国間の駆け引きであり、その結果は誰にも分からない。話し合いをすれば必然的に友好が訪れるといった類の話では決してない。
私が最も情けなく感じたのは、トランプ氏が5月24日、正恩氏に「米朝首脳会談を中止する」との書簡を送ったときだ。トランプ氏を不甲斐なく思ったのではない。「これで米朝首脳会談がなくなってしまった」と素直に信じ込む人々が日本ではあまりに多かった。
米朝首脳会談中止を伝えたテレビ報道 |
私は注意を喚起すべく、25日のツイッターで次のように指摘した。
《米朝首脳会議が開催されるといえば、はしゃぎ、中止されるといえば、周章狼狽(ろうばい)する。これでは話にならない。開催すると言ったときに中止の可能性を考え、中止といったときに開催の可能性を考えておくのが政治だろう。日本の朝鮮問題の専門家とやらは、全く見識がないことが白日の下に曝された》
率直に言えば、私はこの報道に接した際、「これで米朝首脳会談は実現に近づくのではないか」と感じた。両者の真剣さを確認するためのブラフではないかと直感したためだ。
今回の会談は、平和な時代における紳士と紳士の和やかな話し合いではない。米国大統領史上、相当型破りなトランプ氏と、現代における冷酷な僭主、正恩氏の駆け引きなのだ。首脳会談を開催する、しないをめぐって駆け引きが存在しないはずがない。
日本にとって重要なのは、この米朝首脳会談に過度な期待をすることでも、過度な失望をすることでもない。日本の同盟国として米国は何をなし、そして何をなすことができないのかを、冷静に見極めることだ。
すべてを米国に依存するのではなく、戦略的に米国と友好関係を維持するために、日本自身が何をなすべきなのかを、焦ることなく冷静に考え始めることが肝要だ。
■岩田温(いわた・あつし) 1983年、静岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院修士課程修了。拓殖大学客員研究員等を経て、現在、大和大学政治経済学部政治行政学科専任講師。専攻は政治哲学。著書に『平和の敵 偽りの立憲主義』(並木書房)、『人種差別から読み解く大東亜戦争』(彩図社)、『「リベラル」という病』(同)など。
【私の論評】ドラゴンスレイヤー達の夢は実現するか?中朝首脳会談がすぐ開催されるか否かが今後の鍵(゚д゚)!
おそらく、交渉の本当の行方は、今後開催されるであろうポンペオ氏やボルトン氏等が関わる米朝実務者協議で決まることでしょう。
ポンペオ米国務長官 |
首脳会談で最大の焦点となる北朝鮮の非核化を巡り、前進があった可能性があります。
ポンペオ氏は「米国の立場は明確で不変だ」と述べ、12日の首脳会談で北朝鮮に、「完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄(CVID)」を求める方針を示しました。「大統領と米国のチームはあす(12日)の会談を楽しみにしている」と期待感も示しました。
今後もこのような実務者協議を何度か重ね、具体的な核放棄の方法や検証の方法などを話し合うことになると考えられます。この段階で決裂するということは十分あり得ます。
今後の実務者協議の決め手になるのは、昨日もこのブログで掲載したように、米国の対中国戦略において金正恩が使い勝手の良い駒になるかどうかです。ポンペオやボルトンなどのドラゴンスレイヤー(対中国強硬派)たちは当然そのような見方をするはずです。
核兵器を確実に廃棄し、対中国の駒になる覚悟があれば、トランプ大統領は金正恩が米国の駒である限り、北の現体制の存続を認め、核兵器廃棄の後には実質的に米国の核の傘の下に入ることも認めるでしょう。
さらに、日米が北朝鮮に対して経済援助をすることも認めるかもしれません。その時が日本の拉致問題の解決の時です。拉致問題解決なくして、日米の援助なしという形をとることができれば、日本にとってはベストでしょう。
米国はすでにこれに関して、金正恩に踏み絵を用意している可能性があります。それは、今後金正恩が、米朝会談の直後(半年以内)に習近平を訪問して、中朝首脳会談を開催するか否かです。私は、トランプ大統領はこのことに関して、首脳会談中に金正恩に因果を含めたと思います。
中朝首脳会談がすぐ開催されれば北は米国から見放される |
中朝首脳会談をすぐにでも実施すれば、米国は北の存続を認めない方向に大きく舵を切るでしょう。無論経済援助などしません。一方、すぐに開催しなければ、北の存続を認めるほうに大きく傾き、経済援助もする方向で検討に入ることでしょう。
半年以内に実際に、米朝首脳会談が開催されなければ、上で述べたことはかなりの確度をもって正しいことといえると思います。
そうして、核廃棄が終了した後には、北朝鮮が米国の対中国の最前線基地となり、将来的には米軍が駐留することもあり得るかもしれません。
米国のドラゴンスレイヤーたちはそのような日が来るのを夢見ているのかもしれません。
これは、私の想像ですが、ドラゴンスレイヤー達は、台湾と朝鮮半島の両方を中国に対抗するための最前線にすることを狙っているに違いないと思います。
米朝首脳会議が開催されるかされないかで一喜一憂するような人々は、このようなことは考えもつかないのだと思います。
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