2019年1月25日金曜日

中国が台湾に仕掛ける「ハイブリッド戦」―【私の論評】TPP加入で台湾は大陸中国のような卑劣な手を使わずとも「ハイブリッド戦」に大勝利(゚д゚)!

中国が台湾に仕掛ける「ハイブリッド戦」

岡崎研究所

中国の最近の台湾政策は、非軍事面でのプロパガンダに重点を置く「ハイブリッド戦」(hybrid warfare)に移行しているようである。「ハイブリッド戦」とは、サイバー攻撃を含む各種圧力を意味している。もともと中国の台湾政策の中には「入島、入戸、入脳」というスローガンがある。これは「台湾島に入り、各家々に入り、人々の頭脳に入る」ということである。

台湾

 1月18日付け本欄『習近平が大々的に発表した「包OK括的な台湾政策」』で御紹介した通り、中国の習近平国家主席は年明け早々1月2日に行われた台湾政策に関する包括的な演説の中で、次の5つの柱を明らかにした。すなわち、(1)平和的統一、(2)一国二制度の導入、(3)一つの中国、(4)中台経済の融合、(5)同胞意識の促進、である。中国側は、軍事的・政治的・経済的圧力を掛けつつ、プロパガンダや偽情報で台湾人の人心を攪乱・掌握することを目指す「ハイブリッド戦」により、これらの目標の達成を追求していくことになろう。

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャスは、12月13日付けの同紙コラム‘China’s hybrid warfare against Taiwan’で、中国の台湾に対する「ハイブリッド戦」や台湾人の意識について報告しており、興味深い。同氏は、両岸関係の専門家や台湾当局者の話として、次のような点を紹介している。

ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャス

・台湾人は長年中国の圧倒的な軍事力に直面してきたが、今や『母なる中国』に誘惑する中国側の努力がより洗練されてきていることも懸念しなければならない。それは、政府と市民社会の強い協力を必要とする挑戦だ。

・中国側は、ソーシャルメディア、新聞、テレビを通じてあらゆるビジネス、企業、労働者に「あなたが民進党を支持すれば台湾は罰せられるが、北京を助けるならば利益になる」と巧妙に働きかけている。

・平和的な統一を促進するため、中国は、台湾により親中的な政権ができるよう影響を与えようとするだろう。

・親中工作員が毎日Facebookなどのソーシャルメディアに何千もの偽情報を投稿している。

 11月24日の台湾での統一地方選において、蔡英文民進党政権は大敗を喫したが、その背後で中国が直接・間接に選挙に介入したことは間違いないと思われる。それがどのような形をとったかについては、種々想像される以上のことは明白ではない。それらが、イグネイシャスが指摘する通り、ソーシャルメディア、新聞、テレビなどを通じ「あなたが民進党を支持すれば、台湾に不利に働くが、北京を助けるならば利益になる」という巧妙な脅し方であったことは、十分に想像できる。

 今日の社会では、フェイク・ニュースの類が意外な影響を与えることがある。今日の台湾と中国の関係は、単にビジネスを通じるものばかりではなく、観光客、研究者、学生等種々の面での人的交流が強まっているので、台湾は中国による硬軟両様のハイブリッド戦の対象となりやすい。イグネイシャスは、蔡英文政権の関係者が今回の地方選挙を控え、「親中工作員が毎日、Facebookなどのソーシャルメディアに何千もの偽情報を投稿していた」と述べたとレポートしているが、あながち、誇張とは言えまい。

 他方、上記イグネイシャスの論説は、中台間の軍事的戦闘が両者の間で近く行われると思っている台湾人はほとんどいない、ということも指摘している。

 これまでの中国と台湾の軍事面での対立で代表的なものは、1996年の中国(江沢民政権下)による台湾周辺海域へのミサイル発射であった。(いわゆる「台湾海峡の危機」)。この危機的事態に対抗して、米国(クリントン政権下)は、第7艦隊の空母2隻を台湾海峡に急派し、中国の活動を阻止した。その時、中国は何もすることなく活動を停止したが、これは中国にとっての屈辱となり、その後の中国の軍事力拡大の原因ともなったと言われる。

 今日の中国は軍事的に強大化したとはいえ、公然と台湾に軍事的侵攻をおこなうことは、米国との間の直接的対決になるばかりではなく、国際的に見ても、中国にとって計り知れないほどのリスクを抱え込むこととなる。とはいえ、中国の戦闘機や爆撃機が、演習と称して、台湾海峡やその周辺で軍事演習をおこなう回数が着実に増えていることには引き続き警戒を要しよう。

 蔡英文自身の基本的立場については、「現状維持」を中心軸に据えながら、中国との関係を平和的で健全なものにすることに変わりはなく、台湾人の大多数がこの「現状維持」を支持している。1月14日、昨年の統一地方選挙での大敗の責任を取り頼清徳内閣は総辞職し、蘇貞昌が後継の行政院長となった。蘇貞昌は陳水扁政権下でも行政院長を務めたベテランであり、今回の再登板に際し、国民とのコミュニケーションを強化しながら円滑な政策推進をしていく、といった慎重な姿勢を表明している。

【私の論評】TPP加入で台湾は大陸中国のような卑劣な手を使わずとも「ハイブリッド戦」に大勝利(゚д゚)!

台湾は、中国からの浸透をなんとか防ごうとしているようですが、これを台湾だけが行うことは難しいです。やはり、他国の助けが必要です。そうして、その動きはすでにあります。

蔡英文総統は2日、中国の「台湾同胞に告げる書」発表40年式典で習近平国家主席が発表した談話に関し、断固として「一国二制度」を受け入れないとする台湾の立場を表明しました。欧州連合(EU)、英議会、欧州議会、ベルギー議会などが最近、蔡総統の談話内容を支持する発言を行っています。

断固として「一国二制度」を受け入れないとする台湾の立場を表明した蔡英文総統

2日の蔡総統の談話を受け、欧州連合の関係者は直ちに、台湾メディアの取材に対して、「欧州連合は台湾海峡両岸を含むアジア地域の安全、平和、安定を重視している。また、台湾海峡両岸関係の建設的な発展が、アジア太平洋地域の平和と発展のために重要な一環となると考える。過去2年間、台湾海峡両岸の関係は停滞しているが、欧州連合は現状維持と対話の再開、相互自制が極めて重要だと考える。欧州連合はいかなる対話、協力、信頼確立のための提唱にも賛成する。今後も台湾との関係を発展させるために尽力し、台湾と欧州連合が共有する価値観の拠りどころとなっているガバナンス・システムを支持する」などと発言しました。

これに続き、台湾との関係強化を目指す英国の超党派国会議員連盟「台英国会小組(The British-Taiwanese All-Party Parliamentary Group)」の共同代表を務めるナイジェル・エヴァンス(Nigel Evans)下院議員やデニス・ローガン上院副議長は今月10日、蔡総統を支持し、中国の指導者が掲げる「一国二制度」に反対する旨の共同声明を発表しました。共同声明は、台湾海峡に対するいかなる脅威や威嚇も無責任な行為であり、圧倒的多数の台湾人は「一国二制度」に強く反対していると強調するものでした。

ナイジェル・エヴァンス氏

この声明はまた、「台湾の民主主義は成熟しており、イギリスを含む各国と同様に、自由、人権の尊重、法治など普遍的価値観を共有している。台湾に住む2,300万人の住民の自由と民主主義に対するこだわりは尊重されるべきである。東アジアの繁栄と安定は国際社会と密接に関わっており、台湾海峡両岸がWHO(世界保健機関)やICAO(国際民間航空機関)でいずれも意見を表明できるようになることを望む」と指摘。さらに、台湾海峡両岸双方が話し合いと交渉によって、この地域の平和と安定を確保して欲しいと呼び掛けました。

ベルギー議会の親台湾派グループの共同代表者であるPeter LUYKX議員、Georges DALLEMAGNE議員、Vincent VAN QUICKENBORNE議員は今月10日、ベルギーのディディエ・レンデルス外務・欧州問題大臣宛てに、欧州議会の親台湾派グループのWerner LANGEN議員、Andrey KOVATCHEV議員、Hans van BAALEN議員、Laima ANDRIKIENE議員は今月14日、欧州連合外務・安全保障政策のフェデリカ・モゲリーニ上級代表宛てに、それぞれ連名で蔡総統の台湾海峡両岸関係に関する談話を支持する内容の書簡を送りました。いずれも、大多数の台湾人が「一国二制度」を拒否していることを強調。ベルギーあるいは欧州連合は台湾との関係を発展させるべきだと訴えるものでした。

そのうちベルギー議会の親台湾派グループの書簡は、ベルギー国会が2015年に採択した決議に言及。中国による台湾への武力行使は、台湾海峡及びアジア太平洋地域の平和と安定に損害を与えるものであり、これに強く反対すると主張しました。また、欧州連合や米ホワイトハウスも最近、台湾海峡両岸の平和と発展を支持する旨の発言を行い、台湾と中国の双方が速やかに話し合いを再開するよう呼びかけていると指摘しています。

また、欧州議会の親台湾派グループが欧州連合外務・安全保障政策のフェデリカ・モゲリーニ上級代表に宛てた書簡は、台湾海峡両岸の最近の動向が地域の平和と安定に与える影響について関心を寄せるよう呼びかけると共に、中国の習近平国家主席が掲げる「一国両制度」は香港で失敗しており、蔡総統及び大多数の台湾人がこれに明確に反対していると指摘する内容でした。いずれの書簡も、台湾に住む2,300万人の住民が自由と民主主義の価値観を守ろうとしていることについて、これを支持すると表明しています。

外交部(日本の外務省に相当)は、欧州連合など台湾と近い理念を持つ国々との関係を引き続き強化し、自由、民主主義、人権という価値観を共同で守っていきたいとの立場を改めて強調すると共に、各国からの声援を歓迎し、感謝すると述べています。

米国連邦議会下院は23日(米東部時間22日)、台湾が世界保健機関(WHO)にオブザーバーの身分で復帰できるよう支持する決議を採択しました。これに対して総統府は23日、米下院に感謝するニュースリリースを発表しました。内容は以下の通りです。
中国による台湾への圧力が続き、台湾は国際社会で苦境に立たされている。しかし、米国など理念の近い国々は台湾を支持し、協力する立場を表明し、台湾に住む2,300万人の人々の権益や福祉に関心を寄せている。全国民はこれに心より感謝している。国際社会の一員として、台湾は今後も米国の行政及び司法部門と緊密な協力関係を築き、より強力なパートナーシップを育み、国際社会の平和と安定や幸福のために貢献したいと考えている。
そうして、日本もこの動きに呼応して台湾を支援しています。

蔡英文総統は2017年6月、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加意欲を示した台湾に対して、日本の菅義偉官房長官が「歓迎したい」と台湾を支持する発言をしたことについて、自身のツイッターで大きな自信を得たとともに日本の支援を感謝すると投稿しました。

蔡総統のツイッターによると、米国を除く11カ国でのTPPへの参加意欲を示したことを受け菅官房長官は、記者会見で台湾の参加を支持する発言をしました。そこで、蔡総統はツイッターに、この発言で台湾はTPP参加への更に大きな自信を得ることができたことのほか、日本の支援に対し謝意を投稿した。

蔡総統のツイッターには日本経済新聞が報道した関連記事も掲載されていました。

日本経済新聞は同年6月26日、日本政府報道官、菅官房長官が記者会見で、TPPへの参加意欲を示した台湾に対して「歓迎したい」、「台湾やそのほか関心のある地域・国に対して、必要な情報を提供する」と発言したことを報道しました。

林全行政院長(首相)は、同年同月23日に日本経済新聞から受けたインタビューで、TPP11への参加意欲を表明していました。

このブログにも過去に掲載したように、TPPは中国に対する包囲網になるばかりではなく、米国が保護主義に走ることも牽制します。

そうして、中国はTPPには加入できません。なぜなら、TPPに入るために整っていなければならない諸制度などが中国では整っていませんし、それを整えようとすれば、中国は根本的な構造改革を迫られます。

しかし、台湾は他の先進国並に社会構造的にはTPPに入りうる体制になっているので、あとは足りない諸制度などを整えれば、十分入ることは可能です。

中国には入れないTPPに台湾が入ったとすれば、これは大きな意義があります。TPPにはなから入れない遅れた社会体制の中国が、TPPに入ることができる中国よりははるかに進んだ社会体制の台湾を取り込むことなど、全く矛盾しています。

本来ならば、台湾のような社会体制を大陸中国こそが取り込むべきなのです。それを長年中国共産党が阻止して、中国の遅れた社会構造は建国以来ほとんど変わっていません。これこそ、本当に異様で異常であるにもかかわらず、海外からの天文学的な投資があったからこそ、経済的に発展できたというのが真の中国の姿です。

各国の様々な支援とともに、台湾がTPPに入れば、台湾は中国のように卑劣な手を使わずとも「ハイブリッド戦」(hybrid warfare)に大勝利を収めることができます。

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