2019年1月9日水曜日

欧州の混乱とトランプの米国第一主義、世界は混迷の時代へ―【私の論評】TPP11が世界を変える一里塚となる(゚д゚)!

岡崎研究所 

 12月13日付のProject Syndicateのサイトで、米外交問題評議会のリチャード・ハース会長が、欧州の混乱について、米国の助けが当てにできない以上、欧州は自力で対処する他ないと述べているので、以下に紹介する。

ポーランドの画家、ズジスワフ・ベクシンスキー(1929年 - 2005年、享年75歳)の作品 タイトルなし

 欧州が混乱している。パリの一部は炎上し、英国は、Brexit に疲労し分断されている。イタリアは、EUの予算ルールに抵抗する厄介な左派・右派連立政権である。ドイツは政治的再編と格闘している。ハンガリーとポーランドは非自由主義的政権を擁している。

 フランスと欧州中の極右が、第二次大戦後の政治的秩序を脅かすために経済的・文化的ポピュリズムを利用している。イタリアの左右ポピュリスト連立はまさにそれである。英国とEUとの関係は、亀裂が入ったままであろう。一方、プーチンがウクライナ等への攻撃で満足するか、全く定かではない。さらに、不平等、暴力、気候変動が悪化している世界にあって、移民による圧力は増大するだろう。グローバルな競争が強まり、多くの職を奪う新技術が 生まれている世界において、経済的再編は不可避であろう。

 欧州の民主主義、繁栄、平和の将来は、不確実になってきている。こうした展開は、単一の理由では説明できない。フランスのデモは新税を拒否する左派のポピュリズムである。これは、欧州中で極右の台頭を促している要因とは異なる。EUはあまりに官僚的でエリートによる指導が続き過ぎた。一方、ロシアによる新たな侵略は、プーチンが更なる行動で失うものはないと判断したことを反映しているのかもしれない。    

 欧州は、民主国家の最大の集合体である。20世紀、欧州大陸の秩序崩壊のコストが一度ならず示された。欧州の混乱を説明できる理由は一つではないのだから、答えも一つではない。しかし、助けになる政策は存在する。安全保障、人権、経済的競争力とバランスの取れた包括的な移民戦略は、そうした政策の一つである。どれだけのお金が必要かに焦点を当てた防衛政策は、欧州の安全保障を強化する。さらに、NATOとウクライナの防衛強化により、抑止力を高めるべきである。欧州がロシアの天然ガスから離れること、すなわちノルドストリーム2計画を止めることは、意味がある。そして、グローバル化とオートメーション化で職が失われる労働者を再訓練することが必要である。

 これらの政策課題の多くは、米国の関与と支援があれば有益である。米国が EUを敵視しNATOをタダ乗りするものと見るのを止めれば、助けになる。欧州には、ロシアの侵略抑止、グローバルな貿易・投資の枠組みへの西側の利益に沿った形での中国の取り込み、気候変動の軽減、サイ バー空間のルール作り等について米国と協働する用意のある国々がある。しかし、こうしたアプローチは、近い将来トランプからは出てきそうにない。欧州は、自力で混乱と戦うしかない。

出典:Richard N. Haass,‘Europe in Disarray’,(Project Syndicate, December 13, 2018)
https://www.project-syndicate.org/commentary/growing-threats-to-europe-democracy-security-by-richard-n--haass-2018-12

 欧州が混乱しているのは事実である。その要因はいろいろあるが、その中でも移民問題の影響が大きい。EUを指導してきたメルケルの地位を危うくしたのは移民問題であった。Brexitの要因の一つも移民問題であった。欧州諸国での極右の台頭の背景にも反移民の世論があった。

 移民問題が発生したのは、シリアの内戦、リビアの政治的混乱など、主として中東、北アフリカの政治、社会の混乱のためであり、欧州の責任ではないが、それが欧州に混乱をもたらした大きな要因であったことは間違いない。

 ハースは、フランスの最近の混乱をもたらしたのは新税を拒否する左派のポピュリズムであると言っている。イエロー・ベスト運動の暴徒化は、経済的困窮を訴える労働者、市民に一部の過激派が便乗して起こされたものである。マクロンの譲歩で小康状態にあるが、強く要求すれば政府が譲歩するという前例を作ってしまったようなものであり、今後再び運動が活発化する恐れがある。

フランスのデモ

 英国はBrexitで動きが取れないが、Brexitがどのような結果に終わろうと、英国の混乱は続くだろう。 ハンガリーやポーランドは、かつてソ連圏にあったこともあり、民主主義の定着には時間がかかるであろう。

 ハースは欧州の混乱の事態は好転すると考えるべきではないと言っているが、その通りだろう。 欧州の混乱とトランプのアメリカ第一主義が同時に起きていることが問題である。 民主主義、自由貿易体制、法の秩序といった戦後世界秩序を担ってきたのは、米国と欧州であった。米国はトランプの下、最早そのような担い手の責任を負い続けることに関心が無いようであり、欧州は混乱が続き、責任の一端を担うことが困難になっている。

 これまで世界は覇権国が秩序を保ってきた。第一次大戦までは英国の主導するパックス・ブリタニカであり、第二次大戦以降は米国の主導するパックス・アメリカーナであった。トランプは米国が世界を主導することを止め、欧州が米国を補完出来なくなった。

 世界は混迷の時代に入ったと見なければならないかもしれない。 このような状況の下で、日本は何をなすべきかを真剣に考えなければならない。取りあえず経済面で、TPP の実施、日欧経済連携の強化、ASEANなどとの協力強化等を図るなど、戦後日本が裨益してきた世界秩序を少しでも支えるようリーダーシップを発揮すべきだろう。

【私の論評】TPP11が世界を変える一里塚となる(゚д゚)!

私は、現行の世界経済秩序は、国際金融が主導する弱肉強食型の原始資本主義であると考えており、こうした考え方の基盤には更に、“覇権主義=Hegemonyがあり、力の有る者が人間界の標準を作り、波及させ、その下で世の中を安定させていくほうが世の中は相対的に安定化するという意識があり、現行の世界はこうした意識の下で動いていると見ています。

つまり、力のある人=強者が弱者をリードするというような世界の構築を選好しているものと思われ、そしてその中で、強者になりたいという欲を持つ人の間で対立が出てくると、その過渡期では世界は大混乱する可能性が高まる、そして現在の世界は正にそうした時期へと突入していこうとしていると考えています

そして、このような「国際金融が主導する弱肉強食型の原始資本主義」を生む背景として覇権主義では、普通、強者となるリーダーたちは,「人々が生きていく為に必要なものをコントロールしようとします。つまり、水、食糧、原材料、エネルギー資源のコントロール権拡大に走るのです。

そうして、貨幣経済の下、これらを経済的に支配する通貨によって、更に強く支配するのです。ここに国際金融の大きな役割があり、現在、その力が強大化してきていると考えます。

そうしてまた、こうした意識の下で、強者が,このような世界を守るために作った法と制度・仕組みの下では、平和裏には強者の立場は決して揺るがないのです。

即ち、これに逆らおうとする者が、強者の作った法や制度、仕組みによって「違法」や「不法」などと判断されれば、法令遵守の違反ともなるのです。現行のビジネス社会がComplianceを殊更に強調するのもこうしたことが背景にあると私は見ます。

しかし、弱者の中に本能がふつふつと芽生え、強者に対して反発してこようとすると、究極は自らが強者となるしかないと、究極の力である武力を以って立ち上がるのです。

これをまた、既存の強者は、武力を以って押さえようとするのです。

従って、既存の強者は、自らが強者であるうちに、万一の際に備えて、“軍事力”を強化、その結果として、上述したような国際金融によって束ねられた、水、食糧、原材料、エネルギーの世界を、軍によってコントロールされる軍事力によって、護衛できれば世界は安定するとの意識の中で現行の世界を運営していこうとするのです。

しかしまた現行の世界では、それに対する反発の動きもまた、顕在化してきています。私達は今、そうした世界の中で生きてきているのではないかというと私は考えます。

そして、こうした世界情勢を最近になり、更に深めている背景には、2017年、アメリカ合衆国にトランプ大統領率いるトランプ政権が登場したことから、昨年は米中の対立が本格化、顕在化しました。
昨年暮イラクを電撃訪問したトランプ大統領

2019年は、この「米中対立の行方」に加えて、BREXITをはじめとする、ドイツやフランス、イタリアの不安に見られる欧州情勢の先行き、イランやシリア問題を背景とする中東情勢の不安定などが既に懸念され、国際金融市場も昨年末より不穏なスタートとなっています。

さて日本としては、こうした混迷の世界の中で、北朝鮮の核・ミサイル・拉致問題は、包括的解決を進めなければならない課題です。拉致問題だけに脚光を当てるのは、かえって拉致問題の解決も難しくしてしまうでしょう。拉致問題と併せ北朝鮮の非核化に向けて役割を果たしていくべきですが、しかし、そのような動きはまだ見えないです。
ロシアとの関係についても危うさが存在します。
安倍首相とプーチン大統領との会談で、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約を締結する方針が確認されました。
ところが、ロシア側は、北方領土は戦争によって合法的に取得されたことを日本は認めるべきだとか、同宣言では主権の引き渡しとは言っておらず引き渡しの条件は交渉事項だとか、どんどん交渉のハードルを上げる発言をしています。
政府は4島の帰属の問題を解決して平和条約を結ぶという従来の方針に変わりはないと説明しますが、2島を対象として交渉を進める結果になれば、日本国内の強い反発が出ると予想されます。
中国との関係については、ここ1年、雰囲気は改善し、安倍首相の訪中により大きく前進したようにもみえます。
米中関係が対立の度を深める結果、習近平国家主席は日本との関係改善にかじを切ったようですが、日本は米中関係の推移に流されないような明確なビジョンを持って中国との関係を考える必要があります。
中国が将来も、対日関係改善の姿勢を維持するのかどうか、不透明な面があるなかでは、抑止力として日米同盟関係は今後とも極めて重要です。
対中関与を弱めつつ、中国を変えていく努力は必要ですが、過去の経緯と、中国国内の体制が根本的に何かわっておらす、これでは中国は変われないし、変わるつもりもないのは、はっきりしています。
日本としては、「TPP11」の拡大をはかり、この地域における自由貿易の拡大やルールの尊重に日本が旗を振っていくことが、米中との関係でも望ましいです。そうして、いずれは、トランプ大統領もしくは次の大統領のときに米国にもTPPに復帰してもらうのです。
これは、覇権主義によらない最初の貿易協定になるかもしれません。なぜなら、当初言い出したのは米国ですが、その後米国は抜け出し、その後日本が旗振り役となり、TPP11の発効にまでこぎつけました。
TPP11の署名式に集まった11カ国の首脳や閣僚(3月8日、サンティアゴ)

これに米国が加入し、独裁国家である中国、ロシア、北朝鮮そうして韓国が入らない状態で運用し、域内を繁栄させるのです。
そうして、この繁栄をみてこれらの独裁国家がTPPに加入したいと考えるようになったときが、チャンス到来です。
これらの独裁国家が、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をするように迫るのです。どうしてもできないというのなら、まずは自由貿易ができる程度にはこれらをすすめてもらうのです。
それができれば、いずれこれらの国々も構造転換をして、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめるようになると考えらます。なぜなら、それ以外に、国を本当に富ませる手段はないからです。日本をはじめとする先進国が歩んできた道です。中国は例外であるようにみえましたが、そうではないことが、米中冷戦で明らかになりつつあります。
そうして、いずれTPPを世界共通の貿易協定にまで高めるのです。そのためには、覇権主義によるルールづくりではなく、あくまで世界中の国々が自由な取引をするためのルールづくりとするのです。そうなれば、世界は変わるでしょう。
むろん、貿易だけで世界が変わるわけではないです、しかし、それを一里塚として、いずれは、他の分野にまで覇権主義に基づくルールづくりに変わるものを構築していくのです。

そのときはじめて国際金融が主導する弱肉強食型の原始資本主義が終焉し覇権主義も終焉するのです。

私は現在のように世界が混沌とするときは、世界が次のシステムや規範を求めているときなのだと思います。人々はもう古い社会や政治システムには何の期待もしていないし、希望も持っていません。にもかかわらず、新しい世界の次のシステムや規範が示されないから、世界は混沌とするのです。
こうした時こそ、我々は、真理を求めて考え、すべきことを粛々としていかなければならないのです。

本年もよろしくお願い申し上げます。

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