中国経済が明らかにおかしい。昨年の新車販売台数が実に28年ぶりに前年割れとなり、昨年12月の輸出も輸入も予想外の減少を記録した。米トランプ政権との貿易戦争による打撃と同時に、景気減速も鮮明になってきた。米中協議で3月1日の期限までに合意がなければ、米国は2000億ドル(約21兆6000億円)分の中国製品に対する関税の税率を10%から25%に引き上げる構えだ。習近平政権は追い込まれた。
中国自動車工業協会が14日発表した昨年の新車販売台数は、前年比2・8%減の2808万600台だった。中国メディアによると、前年割れは28年ぶり。
販売台数は米国を上回り、10年連続で世界一となったが、乗用車が4・1%減と落ち込んだ。
日系自動車大手4社の販売台数は、トヨタ自動車と日産自動車が過去最高を更新した一方、ホンダとマツダはマイナスだった。日系メーカー幹部は「販売台数を維持しようと、大幅な値引きに頼るメーカーも出始めている。市場の状況は見た目の台数以上に厳しい」との見方を示す。
不振は自動車にとどまらない。中国税関総署が14日に発表した貿易統計によると、昨年12月の輸出は前年同月比4・4%減、輸入は7・6%減となり、米中貿易戦争による中国経済への影響が本格化していることを示した。
米国からの輸入にいたっては、35・8%の大幅減となる104億ドルだった。12月初めの米中首脳会談では中国が米国産の農産物やエネルギー資源の輸入を拡大することで合意し、すでに中国側が米国産大豆の購入を再開しているが、減少に歯止めがかかっていない。
税関総署の報道官は記者会見で、2019年の見通しについて「環境は複雑かつ厳しい。一部の国の保護主義によって世界経済は減速する可能性がある」と述べ、米国を暗に批判しつつ困難な状況が続くとの考えを示した。
習政権は急速な景気悪化を懸念し、減税措置など景気刺激策を積極化。今月4日には中国人民銀行(中央銀行)が預金準備率を引き下げる金融緩和措置を発表するなど対応に追われた。ただ、ブルームバーグは「最近の刺激策にも関わらず、(中国)経済が近いうちに底を見つけるという見方はほとんどない」と伝えた。
こうした状況にほくそ笑んでいるのがトランプ大統領だ。14日、ホワイトハウスで記者団に対し、「われわれは中国とうまくやっている。妥結できると思う」と語った。貿易戦争の悪影響が日増しに大きくなるなかで、習政権側が何らかの妥協案を示してくると見越しているようだ。
中国は18年の国内総生産(GDP)の成長率目標を「6・5%前後」としているが、ロイターは、19年の目標を「6~6・5%」へと引き下げることを決め、3月にも公表する見通しだと報じた。
景気の減速に危機感を強める習政権は、近く自動車や家電の購入促進策を打ち出す方針だ。ただ、米アップルのiPhone(アイフォーン)よりも中国メーカーのスマートフォンを購入するよう奨励する動きがあるように、中国メーカーを優先した策となる可能性がある。中国に進出している外資系企業がどこまで恩恵を受けられるかは不透明だ。
中国経済の失速について「米中貿易戦争が直接の契機になったのは事実だ」と話すのは中国情勢に詳しい評論家の宮崎正弘氏。
自動車の販売台数に関しては「中国では自動車の場合、無理して売っていたが、各社の生産台数も落ち込んでいる。自動運転と電気自動車も伸びているように見えたが『本当にうまくいくのか』と懐疑の念が起こってきたのだろう。いままで取り繕ってきた嘘が全部バレつつあるという状況ではないか」と分析する。
中国リスクは高まる一方だ。
【私の論評】すでに冷戦に敗北濃厚!中国家計債務が急拡大、金融危機前の米国水準に(゚д゚)!
経済が債務膨張に依存するいわゆる高レバレッジは、2008年のグローバル金融危機発生以来、大きな金融リスクとして広く認識されています。中国でも近年この問題が深刻化しており、高レバレッジ経済からの脱却は主要政策課題の1つに位置付けられています。これまで主として国有企業や地方政府の債務が問題とされてきましたが、ここへ来て、家計部門にも懸念が出始めました。
中国最大のシンクタンクである社会科学院系列の国家金融発展実験室によると、金融を除く実体経済部門(政府、企業、家計)債務の対GDP比(レバレッジ比率)は2008〜16年、年平均12.3%ポイントずつ急上昇し16年239.7%に達した後、17年242.1%、18年上期242.7%となお上昇傾向は続いていますが、落ち着く兆しを見せています。ただ17年〜18年上期、企業のレバレッジ比率が157%から156.4%、政府が36.2%から35.3%へと低下する中で、家計は49%から51%へ上昇しています。同比率は1993年8.3%、08年17.9%で、長期的にも加速的に上昇しています。
実験室の李揚理事長(元社会科学院副院長)は18年4月、海南で開かれたボアオフォーラムで、「17年末、家計の貯蓄性預金伸び率が初めてマイナスに転じた。この傾向が続くと、家計は債務超過になるおそれがある。08年、米国で債務危機が発生した時も、家計の債務が発端だった」「企業・政府部門の赤字を家計部門の黒字で賄うのが一般的な構造だが、グローバル危機発生時の米国がそうであったように、3部門が何れも赤字になると、経済成長は通貨膨張、金融バブルに依存せざるを得なくなり、最終的に金融危機が発生する。中国もそうした状況に陥らないよう高度の注意を払うべき」と警鐘を鳴らしてます。
「債務リスクを誇張すべきでない」との声もあるが
実験室理事長の上記発言はあるが、他方で、実験室の担当部局は以下のような点を指摘し、債務リスクを誇張すべきでないとしています。
①元本返済と利払いを合計した年あたり債務負担額は、仮に金利4〜5%、償還期間15〜20年とすると4兆元強(家計債務42.3兆元×約10%)。これは対可処分所得比(債務負担率)8%で国際平均12%を大きく下回る。
②理財商品(高利回り資産運用商品)など元本保証のないリスク資産を除いても、リスクに対応できるだけの十分な現預金がある。18年6月末銀行預金残高は債務総額を大きく上回る68.7兆元で、現金も含めると債務の約1.8倍。日本よりは低いが、米英等先進諸国に比べはるかに高い。
③家計の貯蓄率は10年ピークで42.1%を記録した後、やや低下傾向にあるが、15年なお37.1%で米国の17年6.9%など、諸外国に比しはるかに高い。
これに対し、リスクの高まりに警戒すべきとの見方は、次のような点に着目して(2018年2月8日付財新網)。
①レバレッジ比率は全国平均50%だが、広東、浙江、上海は60%以上、北京、福建、甘粛が50〜60%と総じて都市部ほど高い。債務負担率も都市部は11.5%と国際平均並み。このように、債務の大半が都市部住民に集中している。
②中国では可処分所得の対GDP比が低い。仮にレバレッジ比率の分母を可処分所得にすると、17年末すでに93.5%と米国の16年末99.4%並み。
③家計負債の対資産比率は13〜15年5〜9%となお低いが、負債が「剛性」、つまり必ず一定額を償還しなければならないのに対し、資産価値は変動するという非対称性がある。また資産の大半は住居で流動性が低く、賃料収入も債務の金利を賄うほどの水準にない。
潜在リスクを「増加傾向」と見るべき理由
以上、どのような指標に着目するかで見方は分かれているが、近年の家計の資産負債構造の変化を踏まえると、方向としては潜在リスクが増加していると見るべきだろう。まず、資産面では銀行預金伸び率が大きく鈍化している(図表1)。
[図表1]家計部門人民元預金残高推移 出処:中国人民銀行 |
18年4月には、家計の預金残高が単月で過去最大となる前月比1.32兆元の減少となり、大きな関心を呼びました。実は例年4月、家計の預金残高が減少する傾向がある(14〜17年の4月は各々前月比1.23兆元、1.05兆元、9296億元、1.22兆元の減少)。この背景には、多くの理財商品の満期が季末に設定され、満期が訪れると、理財商品に運用されていた資金がいったん当座預金に入った後、再び理財商品購入のため預金から流出していくという季節要因があります。
しかし中長期的に預金が伸び悩み傾向にあることも事実です。成長率鈍化が基本的背景にありますが、08〜11年、12〜14年の各期間、成長率の変動幅は小さいにもかかわらず(各々9〜10%、7%台)、預金増加率はこの間も大きく鈍化し(各々26%→13%、17%→9%)、15年以降ようやく下げ止まっています(概ね7〜9%台の伸び)。
預金が趨勢的に伸び悩んでいる大きな要因は、預金金利が低水準で推移する中で、元本保証はないがより高い利回りを提供する各種理財商品や「余額宝(ユーアバオ)」に代表されるMMF(マネー・マーケット・ファンド)に資金が流れたことです。
銀行が提供する理財商品も急増しており(うち元本保証のない商品が17年末22.17兆元と全体の75%以上)、うち個人向けは倍増です(図表2)。
[図表2]銀行理財商品の膨張 |
理財商品を提供する銀行は沿海部を中心とした都市部に集中している(図表3)。また、MMF残高は17年末7兆元強(5月18日付中国基金報)。
[図表3]理財商品提供銀行分布 |
もう一つの要因は、住宅市場が過熱するたびに各地で導入された住宅購入抑制策で、住宅購入の際に必要となる頭金の比率が上昇し、預金を積む余裕がなくなったことも影響している。15年以降預金伸び鈍化に歯止めがかかっているが、これにはいわゆる個人向け仕組預金の増加が寄与している(人民銀行統計で18年11月末残高前年同期比は大型銀行57%、中小銀行53%の大幅増)。
金融監督が強化される中で、銀行がオフバランスシートの理財商品を圧縮するための代替商品として、あるいはMMFに対抗するため、積極的に商品開発・販売したためと思われるが、伝統的な預金に比べると一定のリスクがあり、将来的に家計の債務返済能力に影響を及ぼす可能性がある。
家計債務に占める住宅関連債務は6〜7割
次に、負債面では住宅関連債務の増加が著しい。金融機関の家計向け住宅融資残高は18年上期末23.84兆元、前年同期比18.6%増(人民銀行統計)。その他、国や企業等の住宅公積(積立)金制度から受ける融資残高が17年末4.5兆元(前年同期比11.1%増)あり(全国住房公積金2017年年度報告)、これを含めると、家計債務に占める住宅関連債務は6〜7割。16年以降、銀行の新規融資の過半が家計向けで、融資残高に占める家計向けの割合は15年末28.9%から18年11月末35.2%へと上昇している(図表4)。
[図表4]人民元融資残高推移(注)総融資は国内向け融資の数値。(出所)中国人民銀行統計 |
このうち中長期融資が7割以上を占めており、その大半が住宅ローンです。消費者ローンや少額ローンの一部も住宅購入に充てられている可能性があり、そうすると、住宅関連債務はさらに高いことになります。2018年10月に発表された上海財経大学高等研究院調査は、17年以降、中長期債務増加率が鈍化する一方、短期債務の増加率が加速する傾向が出ていますが、個人消費はそれほど伸びておらず、短期融資が住宅購入の頭金や住宅ローンの代替として使われている可能性を指摘しています(2018年10月30日付第一財経)。
さらに11月、中国人民大学が発表した「中国宏観経済報告(2018-2019)」は、「去庫存」、すなわち過剰住宅在庫を解消する政策が採られる過程で、農民工の住宅購入が奨励された結果、住宅債務の罠(套牢)に陥る中所得層が増加、これが消費に悪影響を及ぼすことを懸念しています(11月26日付新浪財経)。
このように、家計の資産負債がいずれも住宅市場の動向や政府の住宅政策に大きく左右される構造になっています。
中国家計債務が急拡大、金融危機前の米国水準に
上海財経大学高等研究院が今月7日に公表した研究調査によると、2017年までの中国家計債務の対可処分所得比率は107.2%に達しました。米国の現在の水準を上回ったうえ、08年世界金融危機が起きた前の米家計債務水準に近い状況だといいます。
また、中国人民大学の研究チームが6月にまとめた調査報告では、中国家計債務の6割以上が住宅ローンだと指摘されました。一部の市民が、頭金の調達は自己資金からではなく、頭金ローンや消費者金融などを利用しているため、金融リスクを拡大させているといいます。
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の経済学者、兪偉雄氏は、中国経済の減速による失業率の上昇と所得減少で、今後住宅ローンの返済が困難な人が急増する恐れがあると指摘しました。「これによって、金融リスクは住宅市場から金融市場全体まで広がる可能性が高い」と、兪氏は米中国語メディア「新唐人テレビ」に対して述べました。
一方、中国の蘇寧金融研究院は、家計債務の増加ペースが非常に速いとの見解を示しました。過去10年間において、部門別債務比率をみると、家計等の債務比率は20%から50%以上に膨張しました。一方、米国では、同20%から50%に拡大するまで40年かかりました。
兪氏は、家計債務の急拡大は、近年中国当局が経済成長を維持するために次々と打ち上げた景気刺激策と大きく関係するとしました。「当局は、いわゆるマクロ経済調整を実施して、経済の変動・衰退を先送りしてきた」
上海財経大学高等研究院は同研究報告を通じて、公にされていない民間の貸し借りを加えると、中国の家計債務規模はすでに「危険水準に達した」と警告しました。
家計債務の急増は個人消費に影響を及ぼしています。中国の個人消費の動向を示す社会消費品小売総額の伸び率は7年間連続で落ちています。2011年の社会消費品小売総額は前年比で20%増でしたがが、昨年1~6月までは、前年同期比で1桁の9.4%増に低迷しました。
個人消費の不振は企業収益の減少、銀行の不良債権の増加につながります。
兪偉雄氏は、今後中国経済がハードランディングする可能性が高いと推測しました。
「中国経済に多くの難題が山積みしている。中国当局が今まで、不合理な政策をたくさん実施してきたことが最大の原因だ」
米国から経済冷戦を挑まれている中国、もう八方塞がりの状況です。今のままでは、可処分所得が減るのは当たり前で、そもそも個人消費がかなり低迷することになるのは必定です。もう、中国は冷戦に負けたも同じです。
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