2019年7月28日日曜日

ジョンソン新英首相、EU離脱は「とてつもない経済好機」―【私の論評】ブレグジットの英国より、日本のほうが経済が落ち込むかもしれない、その理由(゚д゚)!

ジョンソン新英首相、EU離脱は「とてつもない経済好機」

ボリス・ジョンソン氏

ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)英首相は27日、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット、Brexit)について、テリーザ・メイ(Theresa May)前首相の下では「有害な天気事象」として扱われていたが英国にとって「とてつもなく大きな経済好機だ」と主張した。

 ジョンソン氏は中部マンチェスターで行った演説で、「英国民がEU離脱の是非を問う国民投票で反対票を投じた相手はEUだけではない。英国政府にも反対を突き付けたのだ」と述べ、離脱派が勝利した地域に新たな投資を行うと明言。EU離脱後に向けて貿易協定交渉を推し進め、自由貿易港を設置して景気浮揚を図ると確約した。

 さらに、財政難にある100自治体を支援するため、36億ポンド(約4800億円)を投じて基金「タウンズ・ファンド(Towns' Fund)」を設置し、そうした自治体に必要な交通輸送網の改良やブロードバンド接続の向上を実施していくと約束した。

 またジョンソン氏は、EU離脱について「英議会が主権をEUから取り戻すだけではない。われわれの都市や州や町の自治が強化されるということだ」と述べ、「EU離脱は、とてつもなく大きな経済好機だ。英国はこれまで何十年も(EUに)許可されなかったことを実行できるようになる」と強調した。

【私の論評】ブレグジットの英国より、日本のほうが経済が落ち込むかもしれない、その理由(゚д゚)!

英国では、ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)氏が保守党党首選挙を制し、メイ首相に代わって新首相に就任しました。前外相のジョンソン氏が、現外相のジェレミー・ハント氏に勝利しました。10月31日に期限が迫る欧州連合(EU)離脱など、ジョンソン氏には取り組むべき問題が山積しています。

それについては、他のサイトでもかなり詳しく掲載されていますので、そちらを参照していただきたいと思います。

確かにジョンソン新首相の前途は多難です。しかし、明るい材料もあります。

それは、まずは過去の保守党政権が一貫して緊縮的な財政運営を行ってきたのに対し、ジョンソン氏は所得減税、社会保障負担の軽減、教育・治安対策・インフラ関連予算の拡充などを掲げて拡張的な財政運営にかじを切る方針だということです。

ケン・ローチ監督が引退宣言を撤回して作り上げ、カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた
 『わたしは、ダニエル・ブレイク』には、イギリス政府の緊縮財政政策に対する痛烈な批判が
 込められている。

また、ジョンソン氏はEU離脱後もEUと緊密な通商関係を継続するとともに、より多くの国や地域と自由貿易協定を結ぶことを目指しています。ジョンソン氏が財務相に選んだサジド・ジャビド前内相、貿易相に選んだエリザベス・トラス前副財務相は、いずれも自由主義経済の信奉者として知られています

最大の貿易パートナーであるEUとの関係が、これまでほど緊密でなくなる可能性があることや、英国が離脱できずにいる間に、EUが日本や南米南部共同市場(メルコスール)などとの通商協議をまとめた点は英国に分が悪いです。ただしこれまでも、そしてこれからも、英国が世界有数の自由貿易志向国家であることに変わりはないです。

ジョンソン氏も無秩序な形での合意なき離脱を望んでいる訳ではないです。やむなく選択する場合も、国民生活や経済活動への打撃を小さくするため、EUとの間で最低限の取り決めをし、通関業務の簡素化や中小企業への支援強化など、準備作業を加速する方針です。

様々な閣僚ポストで改革を実践してきたマイケル・ゴーブ元環境・食糧・農村相を合意なき離脱の準備を担当する閣僚に任命しました。

EU側は英国への影響緩和を目的とした措置に否定的ですが、EU加盟国である隣国アイルランドへの影響の大きさを考えれば、既存ルールの暫定適用など、緊急避難的な対応には応じる可能性もあります。

企業側の対応も万全とは言えないです。合意なき離脱対応によるコスト負担も発生するでしょう。ただ、今年3月末に合意なき離脱の予行演習が行われており、一通りの準備作業と頭の体操はできています。無論、どんなに準備をしても物流の混乱は避けられないでしょうし、想定外の問題も発生するでしょうが、合意なき離脱の影響を軽減することは可能です。

合意の有無はさておき、離脱確定後は手控えられていた設備投資が再開し、先に述べた通り、財政政策も拡張的となります。EUとの経済・貿易関係に大きな亀裂が入ったり、金融システムに混乱が生じたりしない限り、英国の景気拡大に弾みがつく可能性があります。特にイングランド銀行は、危機に陥ったときはすぐに金融緩和に踏み切るということを過去にも実践してきました。

こうなると、思い出されるのは、2016年に米国でトランプ大統領が誕生した後の株式市場の活況と米国経済の好調ぶりです。トランプ氏の型破りなパーソナリティーや保護主義的な政策を不安視する声も多かったのですが、大規模な減税と財政出動で景気拡大を後押しし、ドル高けん制発言や中央銀行の独立性を度外視した発言のため株高があがり、さらにその後は経済がよくなりました。特に雇用の回復には目を見張るものがありました。

では、ジョンソン氏は公約通り拡張的な財政運営を行うことが可能なのでしょうか。英国は欧州債務危機でEU諸国が導入した財政協定への署名を拒否したのですが、EUの一員として財政規律を順守する必要があります。ところが、離脱後はその財政規律の束縛からも解放されることになります。

野放図な財政拡張は調達金利の上昇を招く可能性もありますが、世界的な低金利環境下で、ある程度は許容されるはずです。英中央銀行のイングランド銀行(BOE)も、離脱後は財政ファイナンスを禁じられたEU条約の対象から外れます。財政政策との協調も視野に入れた柔軟な金融政策運営が可能になります。

折しも、離脱協議の長期化で延長されたマーク・カーニーBOE総裁の任期は来年1月に迫っており、現在、後任の人選が進められています。総裁の任命権は財務相にあり、次は新政権の意向に沿った人物となりそうです。

後継候補として、ジョンソン氏がロンドン市長時代に経済アドバイザーを務めたジェラルド・ライオンズ氏、元BOE副総裁のアンドリュー・ベイリー氏、元インド準備銀行(中銀)総裁のラグラム・ラジャン氏などの名前が挙がっています。

マスコミではトランプ氏とジョンソン氏は様々な共通点が報道されていますが、それらの大部分は些細なことに過ぎません。最大の共通点は、経済活性化を重視した拡張的な財政運営に関する考え方です。ジョンソン氏の金融政策に対する姿勢は未知数ですが、積極的に介入する素地は整うことになります。

強硬離脱派首相の誕生に不安が先行しますが、トランプ氏がまともな経済政策を実行して、経済を良くし、特に雇用をかなり良くしたように、ジョンソン氏も積極財政、金融緩和策などの、まともな経済対策で、ブレグジットをソフトソフトランディングさせ、それだけにとどまらず英国経済をさらに発展させることに期待したいです。

さて、日本を振り返ると、10月より消費税が10%になります。デフレから抜けきっていない、この時期に緊縮財政をするとは経済政策としては悪手中の悪手です。

この状況は、実はロンドンオリンピック直前の英国と似ています。英国は、ロンドンオリンピックの直前に付加価値税(日本の消費税に相当)を大幅にあげ、大失敗しています。

それについては、このブログでも何度か掲載しています。そのうちの一つの記事のリンクを以下に掲載します。
景気後退…消費増税「回避」待ったなし!? 専門家「4月に判断しないと間に合わない」―【私の論評】ロンドンオリンピック直前に消費税増税した英国の大失敗に学べ(゚д゚)!
ロンドンオリンピックのビーチバレーの試合
詳細は、この記事をご覧いただくもとして、この記事の結論部分をいかに引用します。 
英国は量的緩和政策で景気が回復基調に入ったにもかかわらず、「付加価値税」の引き上げで消費が落ち込み、再び景気を停滞させてしまいました。 
その後、リーマン・ショック時の3.7倍の量的緩和を行っても、英国経済が浮上しなかった教訓を日本も学ぶべきです。

このようなことを主張すると、英国の財政は日本よりも良い状況だったからなどという人もいるかもしれませんが、日本の財政は負債のみでなく、資産にも注目すれば、さほどではないどころか、英国よりもはるかに良い状況にあります。

それについては、昨年のIMFのレポートでも裏付けられています。このレポートの内容を掲載した記事を以下の【関連記事】の一番最初に掲載しておきます。

これを知れば、増税など絶対にすべきでないことは明らかです。
さて、ボリス・ジョンソン氏はこれまでの保守党とはうってかわって、EUの軛(くびき)から離れて、積極財政を実行しようとしています。イングランド銀行も、EUの軛から離れれば、かなり自由に金融緩和ができます。

そうなると、経済的にはブレグジットは意外とソフトランディングできるかもしれません。短期的には、いろいろ紆余曲折があるものの、中長期的には英国経済は良くなる可能性も大です。

これに対して、日本は10月から現在の英国とは真逆に、緊縮財政の一環である、増税をします。さらには、日銀は緩和は継続しているものの、イールドカーブ・コントロールにより、引き締め傾向です。

こうなると、英国はブレグジットをソフト・ランディングさせ、中長期的には経済がよくなるものの、日本は増税で個人消費が落ち込み、再びデフレに舞い戻り、経済が悪化するでしょう。 まさに、ブレグジットした英国よりも、増税で日本の景気のほうがおちこむかもしれません。

それこそ、緊縮財政で『わたしは、ダニエル・ブレイク』で描かれた当時の英国社会のようになってしまうかもしれません。

安倍総理は、任期中には10%以上に増税することはないと明言しました。これ以上の増税は今後はないでしょうが、それにしても10%の増税は国内経済に甚大な悪影響を及ぼすことは、確実です。

そうなった場合、安倍総理は、増税見送りや凍結ではなく、まずは減税による積極財政を実行すべきです。次の選挙で是非公約に掲げて実行していただきたいです。

【関連記事】

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